大広間のハロウィーンの飾りつけはオスカーでも素晴らしいと思えるモノだ。幾千匹のこうもりが壁や天井に張り付いていて、一定の周期で生徒たちがひしめき合うテーブルに飛んでくる。飛んでくるたびにかぼちゃのランタンの火が揺らめくのだ。
でもそんな事はオスカーには関係が無い。オスカーにとって大事なのは三人のちっぽけなプライドをズタズタにすることにあった。あいつらにとって大事な物を狙う必要があるのだ。人の傷というのは、目に見えるモノだけではないのだ。そして傷つける方法もそうだ。
「ドロホフもう食べないんですか? お金持ちの舌には合わないんですか?」
「食欲ないんだ。先に寮に戻ってる」
「なんかおかしいですね……」
「クラーナ、何がおかしいんだい?」
オスカーは行う前に何をすればいいのか考えた。つまり、オスカーが正しい側じゃ無いといけないという事だ。ムカついたからボコボコにした、それだけでは足りない。
一、三対一の決闘じゃないといけない。二、相手が先に手を出さないといけない。三、誰かがそれを見ていないといけない。
オスカーは分かりやすく、三人に聞こえるようにムーディと喋った。最近、ムーディは授業以外も喋りかけてきて鬱陶しいが、今のオスカーは何かを狙う動物に近い生き物だった。つまり、罠を張って待ち伏せするのだ。ムーディはそのための罠の一部だった。
「だって今日はなんか言い返してこないんですよ」
「うーん…… ドラゴンは狩りの前は火を吹かなくなるんだけど」
「チャーリーに聞いたのが間違いかもしれませんね…… 狩りの前ですか……」
案の定、オスカーが他の人より先に出ると、三人はオスカーを追いかけて来た。三人がオスカーを見失わないように、オスカーは寮に戻る速さと道を調整して太った婦人の前まで戻って来た。思った通り、太った婦人もハロウィーンでどこかに行ってしまっているので、事前に差し込んでおいた棒で開けて談話室に入る。
閉まりそうになる肖像画を慌てて開ける三人の姿がオスカーには見えた。ほとんど完璧だ。あいつらに先に手を出させないといけないのだ。
オスカーは談話室であからさまに杖をテーブルに置いて、中級変身術の教科書を取り出して読んでいるふりをした。このためにオスカーは五年生の授業がある間だけ、いつも使っていない談話室を使うふりをここ一週間ほどしていた。それも毎回同じスタイルで、五年生が来るとちょうど寮に戻るふりをしてだ。
「ようドロホフ。最近顔を見せてくれないな」
「良く先生にチクらねーな」
「ドーナッツ、またくれるだろ?」
テーブルに置いた杖をファッジが持ち、勝ち誇った顔でオスカーを見てくる。オスカーは出来るだけ驚いた顔をした。大人になるとは狡猾になるという事だ。あの裁判で見たマルフォイの顔をオスカーは忘れていなかった。
「杖をテーブルに置くのは不用心だよなー? それとも死喰い人の子供は杖なし魔法で俺らなんて十分か?」
「何の用なんだ? またテーブルにくっつきたいのか? そんなにテーブルが好きなら今度はテーブルそのものに変えてやろうか?」
「言うねぇ…… 一年生が人間を変身させられるわけない」
「シャックルボルト君のドーナッツまた食べたいなあ。ふくろうのソテーつきがいいけど」
こうなれば後は時間が重要だ。こいつらがこんな態度を取っているのは他に誰もいないからだ。マクゴナガル先生の前や、こいつらを止められるような、六年生や七年生がいる前ではこいつらはこういう態度を取らないのだ。じゃあ何故今は続けようとしているのか? 今はハロウィーンのディナーの最中でみんなあっちにまだいると思っているのだ。つまり、オスカーに手を出すだけの時間がある。
けれどオスカーの目標はこいつらがみんなの目の前でオスカーを攻撃することだ。前と同じように、誰も見ていない前でこいつらを手痛い目に合わせても何の意味も無い。
「怖いんだろ? どうして欲しい? とりあえず髪を全部剃るか? パンツを脱がしてひっくり返してやろうか? どうだ?」
「パンツはグヴィンとムーディどっちに送って欲しい?」
「シャックルボルトのパンツはシルクだろうから喜ぶかもな」
いくら何でも聞いていられないとオスカーは思った。それに人のいない前でこいつらと言い合うのは無駄でしか無かった。オスカーはポケットに隠していたもう一本の杖で机の下から杖を振った。天井に仕掛けておいた忘れ薬が引き寄せられ、机に当たって割れて中身がばら撒かれる。オスカーは吸わないようにあらかじめ魔法で口を守っていたが、油断してオスカーの前のソファーに座り込んでいる三人はそうでは無い。目がぽやっとしている。
「コンファンダス 錯乱せよ」
一瞬力が抜けた三人にオスカーは錯乱の呪文をかけた。テーブルに置いた杖はシャックルボルト邸で練習に使っていた杖だ。忘れ薬は一年生の授業でも作る簡単な魔法薬で、直前の事をしばらく忘れてしまう。錯乱の呪文は相手を錯乱させることが出来る。オスカーの魔法力では大した混乱は引き起こせないが、混乱というのは自分の欲望に近い事であればより大きくなるのだという。二つ組み合わせればどうにかなるとオスカーは踏んでいた。
「みんながいる前で僕に力の差を見せつけろ。僕は一年生で使える魔法なんてしれている。それに僕の杖はお前達が持っている。三対一で杖も持っていない一年生なら簡単にねじ伏せられる」
そこからぼんやりした目の三人と一緒にオスカーは誰かが来るのを待った。全くもって驚きだったが、オスカーはやめる気がさらさら湧かなかった。計画通りに全部成功させてやるつもりだった。やっと生徒のざわざわした声と太った婦人の声が聞こえる。
「おい、七光りファッジ。それで僕になんの用なんだ?」
「思い知らせてやるって事だ、クソガキ。寮生の前でひっくり返して汚いパンツを脱がして、泣いて謝らせてやる。泣きみそシャックルボルト」
「バカだな。謝りゃ良かったんだ」
「五年生に勝てるわけねーだろ。五倍勉強してるんだぞ」
相手が立ち上がったのでオスカーも椅子から立った。どんどんグリフィンドール生達が寮に戻って来る。ギャラリーは十分だし、ファッジ達三人はまだ錯乱の呪文が効いているのか、それとも頭に血が上っているのか全くやめる気は無いようだ。
「インカーセラス 縛れ!!」
「インペディメンタ 妨害せよ!!」
「フリペンド!!」
目の前にあったテーブルを盾にしてオスカーは三人の呪文を防いだ。インカーセラスの縄は間抜けにテーブルをぐるぐる巻きにし、二つの呪文は当たって消えた。オスカーが魔法を使ったので、ファッジは自分のポケットに入れていたオスカーのものらしき杖を二度見している。
「一体何をしてるんだ? ハロウィーンだからって騒ぎすぎじゃないか? 罰則じゃすまないぞ?」
「何ですかこれ。ドロホフを怒らせたんですか?」
ギャラリーがなんか言っているのだがオスカーには関係が無かった。この状態を作るために色々やったのだ。この場所ではっきり立場を示してやる必要がある。どうしてローガンはドロホフ邸の庭を自由に飛べるのか? ローガンが一番強いからだ。
「偽物か、クソ。おい、謝るなら今の内だ。泣いてごめんなさいしてやれば許してやる」
「三対一でどうにかなると思ってるんか?」
「ルーファスも俺らも防衛術はいい成績だぞ。一年の魔法でどうにかなるわけねーぞ」
「バカで弱いからつるんでるんだろ。杖が一本だと誰が言ったんだ? 口を開けば馬鹿が分かるんだから粘着呪文を解かなきゃ良かったんだ」
「ステューピファイ!! 麻痺せよ!!」
「エクスペリアームス!! 武器よ去れ!!」
「ペトリフィカストタルス!! 石になれ!!」
今度は肖像画とキャビネットを飛ばしてオスカーは呪文を防いだ。ファッジ達の光線が当たって肖像画に穴が開いたり、流れ弾みたいな光線が天井のシャンデリアを吹き飛ばす。ギャラリーになっている二、三年生の女子生徒から悲鳴が上がって結構な人が寮や入り口の方へと逃げて行った。
「三対一は卑怯でしょう!! 私が……」
「入って来るな!! 僕の決闘だ!! 邪魔するな!!」
「何言って……」
「お喋りなんていい度胸だな。エクスペリアームス!! 武器よ去れ!!」
「行くぞ!! ステューピファイ!! 麻痺せよ!!」
「ステューピファイ!! 麻痺せよ!!」 ムーディが入ってきそうになったのでオスカーは手と声で静止した。こいつはいっつも邪魔しかしないのだ。なんでいつもいつも悪口しか言わないくせにいまさら入ってくるのか? 後ろにギャラリーがいるせいでこれだと避けられなくなってしまう。
「プロテゴ!! 守れ!! もう終わりだ」
キングズリーに教わった通り、複数の呪文が飛んで来たから盾の呪文で跳ね返し、跳弾にビビっている三人の内、ファッジ以外の二人を全身金縛り呪文で動けなくした。無言呪文がこいつらは使えないようだし、呪文を言うスピードも振りも狙いもタイミングも遅かった。盾の呪文の練習をするとき、オスカーの相手をしていたのは手加減しているだろうキングズリーだったのだ。それと比べるとこの三人は三人もいるのにキングズリーよりずっと遅くて、呪文のレパートリーも少なかった。
「ドロホフ、ファッジ、もう先生が来るからやめるんだ」
「そうですよ。もうどう見ても勝負はついてますよ」
「黙れ。僕の決闘だ。他の連中はこれまでずっと黙ってたんだから口を出すな。ファッジ、杖を構えろ。お前が喧嘩を売って来たんだ。僕は買った。だから決着をつけるまでやる」
「ステューピファイ!! 麻痺せよ!! ステューピファイ!! 麻痺せよ!! エクスペリアームス!! 武器よ去れ!! エクスペリアームス!! 武器よ去れ!! インカーセラス!! 縛れ!! インセンディオ!! 燃えよ!! クソっ!! おかしいだろ!!」
全部弾いて避けてオスカーはファッジとの距離を詰めた。オスカーは盾の呪文が得意だった。初めて無言で使えたのもこの呪文だ。計画通りだ。こいつのプライドを壊すのだ。いい加減にオスカーはうんざりだった。どいつもこいつもオスカーからは何でも取っていいと思っている。オスカーのモノは何でも傷つけていいと思っている。どうしてか? そんなのは簡単だ。みんなオスカーの事を弱いと思っているのだ。いつまでも黙っていると思っている。
「エクスペリアームス 武器よ去れ」
紅色の光線でオスカーはファッジの杖を奪い取った。ファッジはまだ何が起こっているのか認識できないという顔だった。オスカーはファッジの隣にあった三人の誰かの呪文で壊れた椅子をインセンディオで燃やして、再度、ファッジに杖を向けた。やっとファッジの顔にはこれまでと違う色が浮かんだ。恐怖の色だ。
「お前、僕の羽ペンを盗んだな。僕のふくろうから手紙を奪ったな。僕の名前で偽の手紙を何枚も出したな。僕のせいにして学校の備品を壊したな。僕の友達のふくろうに怪我をさせただろ。何で返してくれるんだ? お前の骨か? さっき言ってたみたいにお前の髪を貰えばいいのか? ふくろうみたいに骨を折ってやろうか? ふくろうはしばらく飛べなくなった。だからお前もしばらく歩けなくなるべきだ」
「ドロホフ、勝負はついたんだからいい加減にしたらどうですか」
「うるさい。これは僕とこいつらの決闘なんだ。黙ってろ」
オスカーがムーディに気を取られてそっちを見た瞬間、ファッジが逃げようと動いたのでオスカーはまた杖を向けた。すると入り口の方から光線が飛んできて、オスカーは反射的に盾の呪文で弾き飛ばした。
「おやめなさい!! 何の騒ぎですか。ドロホフ、杖を降ろしなさい。全く、いつまでハロウィーンのつもりなんですか? 監督生はどこですか?」
マクゴナガルの言う事など無視してオスカーは杖を降ろさずファッジに向け続けていた。はっきり言えば、今のオスカーはファッジと同じくらいマクゴナガルにも怒りを向けていた。ユーリアが傷ついたのも、オスカーと関係の無い人に被害があるのも、止められない先生が悪いのだ。大人のくせに義務を果たしていない。どこか騎士道で正義なのか。
「ドロホフ、杖を降ろしなさいと私は言いました」
「僕は杖を降ろさない。こいつらが負けを認めるまで杖を降ろさない」
「グリフィンドールは五十点減点です。ドロホフ、校内での決闘は認められません。杖を降ろしなさい」
「僕はこいつらが負けを認めるまで杖を降ろさない」
減点してもオスカーには全くもって効果が無いとマクゴナガルには分かったに違いない。もしマクゴナガルが本気で止める気ならオスカーなんて一分も持たないだろう。この先生はキングズリーと同じくらいには凄まじい使い手だ。オスカーにでもそれくらいの事は分かっていた。でもそれと言う通りにすることは違うことだ。
「どちらが先に仕掛けたのですか?」
「あっちの三人です。マクゴナガル先生。私は三対一は卑怯だから助太刀に……」
「そんな事どうでもいい。僕はこいつらが負けを認めるまでやめない」
「なぜ喧嘩になったのですか?」
「ずっとドロホフにあの三人は嫌がらせしていたんですよ。私は知ってますよ。マクゴナガル先生は知らないんですか?」
ムーディが余計な事ばかり言ってオスカーはイラついて来た。そんな事はどうでも良かった。計画通りに行ったはずなのに、オスカーは全く怒りが収まっていなかった。決闘したせいでもっと頭にも体にも血が回って、いつもなら我慢できる事も我慢できなくなりそうだった。
「そうですか。ですが決闘をして良い理由にはなりません。愚かな事です」
「じゃあ先生は何をしてたんだ」
「先生は何をされていたんですか? です。ドロホフ」
「何もしていないから答えられない。グリフィンドールは正義とか騎士道とか言うくせに、寮生も先生も誰もそんな事気にしていない。だから知らない。どっちが愚かなんだ」
「ドロホフ、マクゴナガル先生にまで喧嘩を売ってどうするつもりなんですか?」
義務を果たさない大人。嘘を言う大人。行動しない大人。見て見ぬふりをする大人。矛盾している大人。はっきり言って全部オスカーは大嫌いだった。ムーディの一万倍は嫌いだった。大人は子供を馬鹿にしているのだ。考えや言動の矛盾など分からないと思っている。言動の裏にある甘ったれた考えや諦めが透けて見えないと思っている。全くもってオスカーはそういう事が許せなかった。大人はサボって諦めてやるべき事をやらないのだ。
「ドロホフ、頭を冷やしなさい。良いですか、どのような理由であれ、校内で決闘をして良い理由にはなりません。杖で人を傷つけてはなりません。ましてや杖の無い相手に杖を向ける事はありえません」
「僕の頭は冷えている。だって三対一で杖を向けられてどうしろっていうんだ? 先生に助けて欲しいって言えばいいのか? 答えられないだろ。それは先生の頭が熱くなっているからだ。それに僕は嫌だ。大人にみじめに助けを求めるなんて、それこそグリフィンドールじゃない。先生は自分が学生ならみじめに助けを求めるのか? 求めないだろ? ここが本当にそんな寮なら僕はいたくない」
「いいからドロホフ、もう喧嘩しても何にもなりませんよ。あなたの勝ちじゃ無いですか」
もう完全にファッジの事などオスカーはどうでも良くなってマクゴナガルを睨みつけていた。こんな事、ムーディの言う通りまったく賢くない。頭が熱くなっている。冷ますべきなのだ。でも嫌だった。いきなりシャックルボルト邸に連れていかれてから嫌な事ばかりだ。大人は嫌な事ばかりする。綺麗なお題目を言うのに、誰もそれのために努力なんてしていない。嘘ばかりつく。
「良いですか。なりません。杖を降ろしなさい」
「僕が聞きたいのは命令じゃない。解決策だ。どうすれば良かったんですか? マクゴナガル先生? ファッジの嫌がらせを止めるにはどうしたら良かったんですか? 僕やこいつら以外に被害が出る前にどうやって止めるんですか? 僕がみじめに先生に泣きつけばいいんですか? それ以外に答えられないだろ。僕はそんな事絶対に選ばないぞ」
「ドロホフ、やめて下さい。意地を張らないで下さい。マクゴナガル先生もドロホフを落ち着かせて下さい」
ムーディが手を引っ張ってまで止めようとしてきてオスカーはうざったくて仕方なかった。初めからこういうのも考えておくべきだった。どうせ大人は謝らない。間違いを認めない。本当に間違っていることを突かれた時は認めないのだ。
「グリフィンドールがそこまで嫌なのですか?」
「嫌だ。先生も寮生も嫌いだ。嘘、見て見ぬふり、噂ばかり信じる、いい加減にしろよ。考えもしないのに、説教、ただの命令、減点。そんなもの効果が無い。それで寮や生徒が良くなるわけ無い。だから僕は怖くない。こんな赤と金、見るのも嫌だ。嘘の色だ」
「そうですか、では一度、出て行ってはどうですか? 私も貴方の啖呵には……」
「マクゴナガル先生!! 何を言ってるんですか!? ちょっとドロホフ!!」
オスカーは出て行っていいと言われたと思った。ムーディが泣きそうな顔で何か言っていたが無視して、談話室の自分の荷物を回収し、そのまま寮に向かった。ギャラリーの寮生はオスカーがそっちに行くと勝手に道を開けた。
ベッドルームには誰もいなかったので、魔法のトランクに何もかも全部詰め込んだ。まったく賢くない、愚かで衝動的で大人じゃない行動だとオスカーには分かっていた。でもそれと自分が止められるかは全く違う話なのだ。とにかくオスカーはグリフィンドールが嫌になっていた。何より大人の鼻を明かしたくて仕方なかった。何でもかんでも出来ないと大人は勝手に思っている。グリフィンドールから出るなんて出来ないと。ふざけている、思い知らせてやる。オスカーはそう思っていた。
「ドロホフ、お待ちなさい。グリフィンドール寮から……」
「僕は寮を出て行く。先生が言ったんだ。出て行ったらどうかって。裁判と一緒だ。一度言った事は引っ込められない。大人がきちんと考えずに喋っているのを見破れないと思うな」
「ですからそのような口を叩くのをおやめなさい。だいたいどこから出て行くと言うの……」
「だからマクゴナガル先生!! ドロホフを挑発しないで下さい!! ああ!? ちょ、ちょっと!! 何してるんですか!?」
ベッドルームの窓を杖で開けて、オスカーは窓のフレームを掴んで桟の上に立った。こっちをマクゴナガル先生とムーディと何人かの寮生が目をぎょっとさせて見ている。どいつもこいつもオスカーには寮から出ることすらできないと思っているのだ。
「僕は言った。寮から出て行くって。やると言ったらやる。僕はお前らと違う」
「ちょっと!! 待って…… 本当に飛んだ!! マクゴナガル先生のせいですよ!! ドロホフが死んでしまいますよ!!」
「なんてことを……」
きっとローガンがいつも見ている景色はこんな感じなのだろう。夜の空は暗くて城の灯りと月だけが光っている。落ちる時のお腹の中身がひっくり返るような感覚があり、地面が近づく中、オスカーは落ち着いて呪文を唱えた。
「モリアーレ 緩め」
地面の直前でゆっくりと減速して着地し、オスカーは後ろのグリフィンドール塔に目もくれず、夜のホグワーツ城を歩き出した。