オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第十四章 ホグズミード

「どうするんだ?」

「そうね。外に出たって証拠が欲しいじゃない? ゾンコは大人の格好でいくとバレるからハニーデュークスに行きましょうよ。ママの格好でお菓子を買おうと思うの」

「ハニーデュークスか。行ったことないな」

 

 ハニーデュークス。沢山のお菓子を売っている場所だ。もちろん、オスカーも行った事は無い。そもそも買い物なんてダイアゴン横丁とホグワーツ特急でしかしたことが無いのだ。

 

「三年生からしか出来ないことが出来るってやっぱりいいわよね」

「ホグズミードは三年生からしかこれないんだもんな」

 

 二人はその後、ハニーデュークスで半ガリオン分、つまり両手で持ちきれるギリギリの量だけお菓子を買い。ついでに叫びの屋敷というグレートブリテンで一番恐ろしいゴーストがいるという屋敷を見てから帰ることにした。

 

「叫びの屋敷ってなんかつまんなかったわね。もっと目からレーザーを出すゴーストとかいると思ってたのに」

「レーザーってなんだ?」

「レーザーはレーザーでしょ? こうフォースを使いながら振り回して……」

「こっちだトンクス」

 

 叫びの屋敷の帰り、目の前にあったコテージからいきなりマクゴナガル先生が出てきたのでオスカーはトンクスを引っ張ってコテージの陰に隠れた。トンクスはハニーデュークスを出たあたりで気が抜けていて、叫びの屋敷を見終わったころには姿こそ大人だったが、髪色は完全にショッキングピンクだったからだ。

 

「もう一度言うけれどエルフィン、ハロウィーンの夜はごめんなさい。また埋め合わせをしますから」

「大丈夫だミネルバ。昔は年を取ると気が長くなると思っていたがむしろ気が短くなるものだ。クリスマス休暇になればまた時間はある」

「ありがとう。じゃあ毒触手草には気を付けて」

「ああ、愛してるよミネルバ」

「ええ。また夜に会いましょう」

 

 オスカーとトンクスは完全に顔を見合わせた。マクゴナガル先生が誰かと愛してるとか言っているし、謝っている。二人はあっけにとられてホグワーツの方へ戻っていくマクゴナガル先生の後ろ姿を見ていた。

 

「ちょっとオスカー聞いた?」

「聞いた…… マクゴナガル先生ってホグワーツに住んでると思ってたんだけど…… じゃあマクゴナガルって苗字は……」

「え? でもうちのパパがマクゴナガル先生は独身スーパー魔女だって言ってたんだけど。モテない女子にマクゴナガルになるぞって言ったハッフルパフ生が七十五点減点されたって言ってたわ。多分パパのことだと思うけど」

「どうなってるんだ……」

 

 呆然とした後、トンクスは七変化でもう一度変装し、オスカーはめくらまし呪文をかけなおした。二人はあんまり目につかないように表通りでは無く、裏通りの家の陰を歩いて秘密通路まで戻ることにした。あんな風にマクゴナガル先生が現れたのだ、スネイプあたりがひょっこり顔を出してもまったく不思議ではない。

 

「今日はすっごいいろいろ喋ることができたわ…… これでハッフルパフ寮は私とオスカーとマクゴナガル先生の噂でもちきりに…… おまけに誰かその辺を歩いてたりしないかしら? 面白い話はいくらあっても……」

「今度はラブグッド先生だ」

「よーし、ゼロゼロオスカー、盗聴開始よ。私にもめくらまし術かけて」

「何も変な話してないと思うけどな……」

「まあそうね。ラブグッド先生って日ごろからおかしいから変な話しかしないものね」

 

 ラブグッド先生だってトンクスにおかしいやつとは言われたくないんじゃないかとオスカーは思ったが、よく考えるとラブグッド先生は生徒におかしい人間扱いされて気にするような人間ではなかった。

 なぜか裏通りの家と家の間の路地でラブグッド先生と誰かが話している。黒いローブの人間だ。体格と声からして男性だろうか? 顔は見えない。

 

「ゼノフィリウス。もう少し真面目に授業をしないのか? その…… なんだ。しわしわ角の……」

「しわしわ角スノーカックだ。あの生き物はとても恥ずかしがりやで……」

「私はいくつかの国を旅してきたがどの国でもそのような生き物は聞いたことがない。君が教室に置いている角は明らかにエルンペントの角だ。生徒や君が危険だから早く外すべきだ。それに私が協力した授業計画だが君はどうも横道にそれやすい。これでは生徒はまともな学習ができない。杖の話の前に……」

「トンクス、すごいまともなこと言われてるぞ。帰ろう」

「そうね。人って見かけによらないわよね。オスカー、マクゴナガル先生、あの黒ローブの人、それで私よね」

 

 

 二人はいい加減にホグワーツに戻った。夕方までいると秘密の通路の入り口が分からなくなる気がしたのだ。

 帰りの秘密通路の中で杖明かりを頼りに歩きながら喋る。オスカーは十分にホグズミードは楽しかった。フィルチを追いかけるのも、バレないようにホグズミードを歩くのも、こんなことをオスカーはしたことがなかった。

 けれどやっぱりマクゴナガル先生のことだけがなんとなく心のどこかに引っかかっている気がした。さっき見たマクゴナガル先生はミリベスに叱られている母親やキングズリーとちょっと重なって見えたのだ。

 

「けどオスカーってほんとにお金持ちなのね。ハニーデュークスで金貨をじゃらじゃら出した時はどうしようかと思っちゃった」

「ああ、そういえばお菓子ってこれだけで良かったのか? トランク持っていけばもっと買えたんだけど」

「これでも多いわよ。あとほんとあのトランクはうらやましいわ。あれ? ていうかいくらお金持ちでも一年生はホグズミードにいかないのに一年でそんなに使わなくない?」

「え? これ一か月分って貰ったんだ。ダイアゴン横丁でも使いきれなかったし…… だから…… 十二月だからほんとは五袋分くらい使ってないとダメなんだけど」

「は……? 五袋? それって五百ガリ…… 痛ったぁあ!!」

 

 トンクスはやっぱりドジだった。どうも何かに意識を引かれると体へ注意がいかなくなるらしい。今回は暗い通路に突き出していた木材に額を思いっきりぶつけたようだ。

 

「もう!! なんでこんなとこに木が突き出てるのよ!! インセンディオ!! 燃えよ!!」

「エピスキー 癒えよ。アグアメンティ 水よ。トンクス、あんまりここに誰か通った後を残すとフィルチにマークされる」

「ありがとう。ちょっとましに…… って、ていうかそうよ。それ一袋、百ガリオンくらいあるじゃない。オスカー、千ガリオンくらいおこづかい貰ってるわけ?」

 

 オスカーはあんまりお金持ち扱いされるのが好きでは無かった。何故ならお金とは大人の力だからだ。でも、トンクスにちょっと金持ち扱いされるくらいなら別にいいと思えた。オスカーにはムーディが言ってくるのとは何が違うのかが分からなかった。

 

「そうだよ。使わないけど。使いみちもないしな」

「うらやましいわ。ママなんて私が余計なことに使うからって最低限しか持たしてくれなかったの。オスカーってお母さんたちに信用されてるのね」

「信用? なんか違う気がするけど……」

「じゃあすごいオスカーの事を甘やかしてるってこと?」

「いや…… キングズリーの言い方だと母さんたちはこれが普通だと思ってるんだ」

 

 オスカーはトンクスの方がずっと羨ましかった。彼女の家にはお父さんとお母さんが二人ともいて、トンクスの話だと父親がちょっと抜けているのでいつもお母さんが怒り気味とのことだが、凄く仲が良いとしか思えなかった。戦争が終わった後は、三人でウェールズやアイルランドの方にも旅行したという。オスカーは使い道の無いお金よりずっとその方がいいと思っていた。

 

「へええ、お金持ちってやっぱり常識から違うのね。さっきのハニーデュークスのお菓子だってそれだけあれば店ごと買えちゃいそうだもの。お小遣いでそれだからオスカーのお家のクリスマスプレゼントって凄そうね」

「クリスマス…… そうだ。トンクスはクリスマスプレゼントって何が欲しいんだ?」

「え? 何? もしかしてくれるの? そうよね。家族からしか貰ったことないけど。今年からは誰かに渡せるし、貰えるのね。そうだ。オスカーはグヴィンに何かあげるの? 選ぶの手伝ってあげようか?」

 

 秘密の通路が暗くてオスカーは助かったと思った。トンクスが欲しいものが聞きたかったのだ。オスカーはあんまりこういう話を明るい場所でするのは得意では無かった。

 

「実はシラに次のクリスマスと誕生日プレゼントは贈っちゃだめだって言われたんだ」

「えー!? 何? 喧嘩してるの? オスカーあの子の事大好きじゃない?」

「そういうわけじゃなくて。シラは白いふくろうを持ってるんだけど……」

「あ、知ってるわ。オスカーのところに時々来てる白くて綺麗なふくろうよね。ダイアゴン横丁のショーウィンドウにいたのと似てる子。目立つし可愛くて綺麗でいいわよね。グヴィンの髪色と似てるし、あ~ 私もピンクとか紫のふくろうがいたら欲しくなってたわね」

 

 トンクスはシラの話をオスカーがするとすぐこれだった。彼女はオスカーと女の子の話を全て恋愛の話にしたいらしい。けれどオスカーが聞きたいのはトンクスが何が欲しいのかだ。変身術でトンクスの髪色と同じ色のふくろうを用意はできるかもしれなかったがそれではトンクスはあんまり喜ばないだろう。

 

「トンクスが言ってるのはイーロップのふくろう百貨店の白ふくろうだろ? そのふくろうがシラのふくろうだよ。前に誕生日プレゼントを渡せて無かったから、夏休みにダイアゴン横丁に行ったときにシラにあげたんだ」

「ワォ!! いいじゃない。いいなあ。オスカーもやるもんね。あ、もしかしてグヴィンはそれのお返しできないから渡しちゃダメって言ってるのね。お金持ちの幼馴染がいたら大変ね」

 

 大変なのだろうか? オスカーにはいまいちそういうのが分からなかった。そしてトンクスはオスカーの最初の質問を忘れているようだ。トンクスなら何が欲しいのだろうか? ゾンコの悪戯グッズだとかでいいのだろうか? この女の子の趣味は普通の女の子のそれと違うような気がする。もちろん、オスカーは普通の女の子というのがどんなものなのかも知らなかった。

 

「あれは僕が考えたんじゃないんだけどな」

「そうなの?」

「母さんがキングズリーにそういう風にしたらどうかって僕に聞くように言ったらしいんだ。お金だって家のお金だし」

「でも、買って渡したのはオスカーじゃない。私がグヴィンなら嬉しいけど。あー でもオスカーが言ってることは分かるかも。私もできれば自分が作ったのを渡したりしてみたいわ。逆もそうかもね。パパとかママと一緒に作ったとか言って渡すと喜ぶのよね。ちょっとお菓子を溶かしたとか混ぜたくらいしかやってなくてもそうなのよ」

 

 オスカーはなんともトンクスらしいと思った。この女の子は自分でなんでもやってみたい人なのだ。だから静かすぎると思えば自分でうるさくする。面白くなければ面白くしようとする。誰か困っていればとりあえず助けようとする。オスカーはトンクスのそういうところをちょっと分けて欲しかった。

 

「そろそろ出るから。めくらまし呪文かけよう」

「お願いするわ。あと、臭い玉を出しとかないと。ミセス・ノリスは変身してても匂いでわかるみたいなのよね」

 

 この通路はフィルチが知っているので通る時には見つからないようにする必要があった。一年生がハニーデュークスのお菓子を持ってここから出てきたらフィルチは一発で先生にご注進しようとするだろう。

 

「これでホグズミードもクリアしたし、結構色んな場所に行けるように……」

「とっとと来い!! ウィーズリー、一年生は箒を持つことは禁止だ。いいか、罰則だ」

 

 まだ透明のまま箒の訓練場の方まで出てお菓子を食べようとした二人の前を耳を引っ張られているウィーズリーが通り過ぎていった。フィルチの手には箒が握られている。思わず黒コショウキャンディを食べて火を吹こうとしていたオスカーの手が止まった。

 

「今年の一年はどいつもこいつもふざけた生徒ばかりだ。ピンク髪ともう一人は一向に捕まらん。あいつらは例の四人組以来の問題児だ…… グリフィンドール寮から逃げだす…… どこにでも入り込む…… ミセス・ノリスにあんなことを…… しかもホグワーツから抜け出している…… この上箒で暴走……」

「そんなの僕がやったんじゃない!!」

「黙れ!! 一年生は箒を持ってはいかん。退学にしてやるぞ…… こんどこそ天井から吊るしてやる……」

 

 チャーリー・ウィーズリーだ。相変わらず燃えるような赤毛だが顔はかなり不安そうだ。フィルチの方はやっと捕まえたとばかりの顔をしている。そしてどうもフィルチはオスカーとトンクスが捕まらない事を認識しているようだ。ウィーズリーはフィルチに引きずられるようにフィルチの事務室の方へ消えて行った。

 

「さて? オスカー?」

「何だよ」

「チャンスじゃない?」

「何の?」

 

 オスカーはめくらまし術を解いた。トンクスの顔が分かるようになる。悪戯する前のニヤッとした顔だ。オスカーはバレそうなときや本当に不味い時以外、トンクスを止められなかった。

 

「ウィーズリーも嫌いなんでしょ?」

「お互いに無視してるだけだ」

「ならムーディと違って嫌いじゃないってことね。じゃあ借りを作りに行きましょうよ。私がオスカーにしたのと一緒じゃない?」

「分かったよ。トンクスがそう言うなら」

「ふふっ。分かって来たじゃない」

 

 また言いくるめられてしまったとオスカーは思った。オスカーは多分、無視している事以上にウィーズリーは嫌いだった。何故ならどう考えてもあいつはシラの事を意識している気がしていたからだ。オスカーはそれだけでもう嫌いだった。

 

「じゃあオスカー考えてよ。フィルチの注意を引いて……」

「フィルチの注意を引いてから…… あとは…… トンクスがマクゴナガル先生の姿になればなんとかなるだろ。そうだな…… 前にピーブズが暴れてたトイレに行こう。フィルチは覚えてるだろうし、ちょっと配管を壊せばいいだろ」

「流石、知能犯ね。悪い事は授業より得意じゃない?」

「得意じゃないさ。どっちも人よりできるだけだよ」

 

 もちろん、トンクスに会う前のオスカーだったらこんなことは考えもつかなかったろう。けれどオスカーだっていつまでも前のオスカーでは無かった。キングズリーや先生が教えてくれないことくらいできるのだ。

 

 嘆きのマートル。ホグワーツのゴーストの一人で女子生徒のゴーストだ。特徴は簡単でいつもは二階のトイレにいてトイレの中で大暴れして水をよく溢れさせている。残念ながら溢れさせている理由についてはオスカーの知るところではない。

 

「私も初めてきたけどなんかボロボロね」

「フィルチもここは直してないのか。みんな使わないから」

 

 このマートルの出現率が高いせいでこのトイレを女子生徒は使わないらしい。そして割れた鏡、ぶら下がった扉、バキバキに割れた床のタイル、水が漏れているパイプ、これらはここがオスカーの思っている通りの場所だとオスカーに教えてくれていた。つまり人に迷惑をかけないという意味でこのトイレはおあつらえ向きだった。

 

「女子トイレに入るなんてオスカー初めてじゃないの?」

「そうだよ。ホグワーツに入ったその年で女子トイレに入るなんて思ってなかった。マートル? はいなさそうだけど?」

「いないんじゃない? あのゴーストって監督生のバスルームとか男子のシャワールームに覗きに行くらしいからそれで忙しいとか?」

 

 ゴーストが覗きというのは良く分からなかったがマートルがいないのはオスカーにとって幸運だった。目撃者がいない方がやりたいことをやれるからだ。

 オスカーは目で水道のパイプを追いかけた。水が出てくるための大元のパイプがあるはずなのだ。天井傍に大きなバルブが見えその下から蛇口やトイレに配管されているように見える。オスカーはこれだと思った。

 

「トンクス。フィルチの部屋ってどっちの方向だったっけ?」

「えーっと。広間からでて右だからあっちじゃない? 正確にはあっちの下側?」

「あのバルブに何個かおもりを付ければいいか…… 水浸しにしたあとはトンクスに頼むよ」

「いいわねえ。オスカーって真面目だから、悪だくみしたら他の奴よりずっと悪いやつよね」

「トンクスが教えたんだろ」

 

 元栓のバルブを呼び寄せ呪文で閉められることを確認してから二人は蛇口を全てひねり。全ての便器の水を流しっぱなしにしてから排水溝をグレイシアスという氷の呪文で凍らせてマートルのトイレから出た。あのままなら小一時間もあればトイレから水があふれ出すだろう。それに放っておいてもいずれ氷は解けるから最悪の事態までは至らない。

 あとはトンクスがマクゴナガル先生に変身すれば準備は万端だった。

 

 トンクスはすでに何回かフィルチに捕まっているらしかったので入ったことがあるようだったがオスカーは初めてだった。フィルチの事務室は動かすとがたがたいいそうな古い扉の向こう側にある。その扉と周りの壁にこれでもかというくらいホグワーツの規則が張り付けられている。中からフィルチがウィーズリーに怒鳴っている声が聞こえる。

 

「チャールズ・ウィーズリー、罪状…… 一年生にも関わらず箒を所持して校庭・教室・廊下で暴走した……」

「校庭でしか飛んでないよ」

「うるさい。反抗的…… その他の問題児との関わりも考えられる……」

「フィルチ、マクゴナガルです」

「マクゴナガル先生?」

 

 マクゴナガル先生の格好をしたトンクスが扉をノックすると中からガタッという音がしてあっという間にフィルチが出てくる。相変わらず髪も髭も整えておらず、ちょっと匂いそうなベストを着ている。これでは生徒に人気になるなど天地がひっくり返っても無理だろう。

 

「マクゴナガル先生? なにか御用でしょうか? いまちょうどマクゴナガル先生のところの……」

「フィルチ、二階のお手洗いからとんでもない勢いで水が漏れています。またピーブズが暴れたのでしょう。高笑いがお手洗いから聞こえましたからピーブズはまだ現場に……」

「またピーブズの仕業だ!! とっ捕まえてやる!!」

 

 マクゴナガル先生から聞くなりフィルチは部屋に戻って箒を取り出しミセス・ノリスと一緒に飛び出そうとしたがトンクスが声をかけた。

 

「フィルチ、お待ちなさい。箒を持ったウィーズリーを捕まえましたね? 私に引き渡して貰えますか?」

「ええ。もちろん。ちょうどマクゴナガル先生の所へ行こうと思っていたところでして……」

「では私の方でウィーズリーは処罰しておきます。当然、一年にも関わらず箒で飛んでいたのですから厳罰に処します。ではお手洗いをお願いします」

「ありがとうございます!!」

 

 フィルチは厳罰に処すというのが気に入ったのかこれほど楽しいことは無いとばかりの顔をして、そのまま二階にすっ飛んで行った。二人はフィルチとミセス・ノリスが見えなくなったのを確認してから事務室に入った。

 事務室は鎖と手錠が天井からぶら下がっているし、何やら魚のような生臭い匂いが漂っていた。壁には大量のファイルが並べられていて、それぞれ生徒の名前らしきものが書かれている。擦り切れてよく読めなかったが、ジェーム……なんとかと、……ウスなんとかという生徒は恐るべき量のファイルで棚を占領していた。

 

「ミスター・ウィーズリー、箒は一年生は持ってはいけないとホグワーツ入学の際の手紙にしっかりと明記したはずです。その箒は自宅から持ってきたのですか?」

「マクゴナガル先生…… 僕、荷物をまとめます……」

「ウィーズリー、どういうつもりですか?」

「だって、先生、僕を退校処分になさるんでしょう? さっき、フィルチさんに厳罰にするって……」

「そうですね。ウィーズリー、ではあなたをグリフィンドール寮から退寮処分にしましょう。そうすればドロホフと仲良くできるでしょうから」

 

 え? という顔をしたウィーズリーの前で、またトンクスはダンブルドアに変身していた時のように一回転して元の姿に戻ろうとし、またまたローブのすそを踏んづけて転びかけた。オスカーは透明のままトンクスがこけないように支えた。

 

「おっと…… うまくいかないわね。まあウィーズリーが面白すぎるからいけないのよ。オスカーありがとうね」

「扉を閉めてから茶番はしてくれよ」

 

 オスカーはそう言って事務室の扉をコロポータスでくっつけ、自分の姿を見えるようにした。ウィーズリーは口を開けて二人を見ている。

 

「ちょっとウィーズリー、助けたんだからお礼くらい言ったらどうなのよ? オスカーといいグリフィンドール生はもっとレディファーストを徹底した方がいいわ」

「え……? あっと…… ありがとう?」

「これは燃やしといたほうがいいだろうな」

 

 ウィーズリーの名前が書きかけの書類をオスカーは魔法で燃やした。後からフィルチは思い出してマクゴナガル先生に何か聞くかもしれないのだ。証拠は全部潰した方がいいだろう。

 

 

「やっぱオスカーの方が悪いやつよねぇ。今回のもオスカーがほとんどしてくれたみたいなものだし」

「トンクスが助けようって言ったんだろ。僕は言われて手伝っただけだ」

「二人は僕を助けてくれた?」

「そうね。少なくとも退学にはならないし、その箒も没収されないわね。私たちが没収してもいいけど」

 

 まだウィーズリーは困惑しているようだ。いくらウィーズリーでもこれは無理もないとオスカーは思った。オスカーがウィーズリーの立場なら困惑するしかないだろうからだ。

 

「ねえ。ウィーズリーってオスカーのこと無視してるんでしょ? なんでそんなことしてるわけ? まあ結構悪いやつだけど。箒を持ってきてるウィーズリーも同じくらいじゃない?」

「無視? えっと…… うーん。そのあんまり僕はそういうつもりじゃなかったんだけど」

 

 無視してただろとオスカーは言いたかった。でもオスカーが話しては話が進まない気がした。それにそんなこと言ってはトンクスの思うままな気がしたし、何より前と一緒でただの子供みたいではないか。

 

「そういうつもりって?」

「その。最初はママからあんまりそういう子と付き合っちゃいけないって言われてたんだ。まあ一応叔父さんの仇の息子だし…… でもグリフィンドールでルームメイトだからそれもどうかなって思ったんだけど。クラーナがあんな感じだったし…… ドロホフも何か構うなみたいな感じだったからとりあえず関わらない方がいいかなってわけなんだ」

「まあそれはそうよね。オスカーって何か僕に構ってくれるなみたいな感じだもの」

 

 やっぱり親からそんなことを言われるのだとオスカーは思った。シラが魔法族の出身だったらどうだったろうか? 今と同じような関係だったろうか? そして構ってくれるなとはなんなのだろうか? オスカーには全然分からなかった。

 

「でも悪いやつじゃないってちょっと経つと分ってたんだけど。毎晩ふくろうに話かけてるし、レイブンクローのグヴィンさんとは喋るし、クラーナは他の人と喋るとドロホフの話しかしないしさ。でも……」

「でも何よ?」

「同じ部屋のベンがドロホフの事を怖がっててさ。ちょうどベンはスリザリンのスナイドにマグル生まれの事でいじめられてて、その後にドロホフが飛行訓練の時にクラーナを助けてクラスみんなに怒鳴ったもんだから……」

「え? オスカーって、ムーディにそんなことしてたわけ? 話してくれなかったじゃない」

 

 オスカーはローガンに話かけていたことがルームメイトにばれていたのが恥ずかしかった。何を聞かれたのだろうか? ローガンに何を喋っていたのだろうかと思い返そうとした。たしかムーディ以外と喋りたいといつもローガンに漏らしてしまっていた気がした。

 

「ちょっとオスカー聞いてるわけ?」

「え? ああ、まあそうだよ。成り行きでだけど……」

「成り行きだったんだ? でも、ドロホフがふくろうに向かってムーディがどうとか喋ってるってベンとジェイが言ってたから僕らはてっきり……」

「てっきりなんなのよ」

「ドロホフはクラーナ以外認めてないから話さないのかなって思ってたんだ。下手しなくても二人は五年生より色んな呪文が使えるだろ。だから僕らとは違うんだぞって思ってるのかと思ってたんだ。クラーナとは授業でいっつも喋ってるからさ。あとクラーナは話すと闇祓いと家族の話以外はドロホフがドロホフでドロホフなんですみたいな感じだから……」

 

 どうしてそうなるのだと思った。ムーディと楽しく喋っている様に見えるのだろうか? オスカーは彼女を名前で呼んだことも無いのだ。トンクスといいオスカーは他の人の考え方が分からなかった。

 

「へーえ、で、今はどうなわけ? オスカーって飛び出しちゃったじゃない」

「ああ、ドロホフ、あの飛ぶのどうやるんだい? 帰ってきたらあの着地の時の魔法を教えて貰いたいと思ってたんだ。クラーナを助けるときも同じ魔法使ってたじゃないか」

「は?」

「いや、ウィーズリー何言ってるの?」

 

 トンクスとオスカーは顔を見合わせた。ウィーズリーが言っていることがさっぱり分からなかった。だがどうもウィーズリーは真剣な顔をしている。

 

「箒も見つかっちゃったからもう夜しか飛べないだろうし、それにずっと箒以外で飛ぶ方法が無いかなと思ってたんだ。そしたらドロホフは僕らの部屋から飛び降りたじゃないか。なんであの方法を教えてくれなかったんだ? そしたらすぐに話しかけたのに」

「いや何言ってるの?」

「だって箒で飛びたいじゃないか? 箒で飛べないならそれ以外の方法で飛びたい。そうじゃないと魔法族に生まれた意味がないよ。僕らには翼が無いんだからさ。それにもっとドラゴンの勉強とかできると思ってたのに、魔法生物飼育学は三年生からだし、闇の魔術に対する防衛術は飛べない生き物と妄想の生き物しか説明してくれない。クィディッチは一年生は出来ない。こんなの最悪だよ。飛行訓練は同じ動作しかさせてくれないし、あんなのもっと乗りたくなるだけだよ。だから乗りたくて我慢できなくなって夕方から隠してた箒に乗ったらすぐフィルチにばれたんだ」

 

 またオスカーはトンクスと顔を見合わせた。チャールズ・ウィーズリーは変なやつだった。間違いない。というか自分の言いたいことしか言っていない。そもそもオスカーの事などどうでもいいのではないだろうか? 彼の興味は飛ぶことにしか無いのではないか?

 

「あんた変なやつね。オスカーが可愛く見えそうよ」

「僕が? そうかな? えっと。どうすればいいのかな。ドロホフがグリフィンドール寮に戻れるように何かすればいいとかかい? というかマクゴナガル先生とクラーナ以外はそんなにドロホフのこと嫌いじゃないと思ってるけど。表立って君の悪口を言うやつはいないからね」

「別に僕はそういうわけで……」

「はいはい。そこでストップね。ウィーズリー、他の寮生はべつにどうでもいいって感じなわけ? ムーディは滅茶苦茶怒ってるみたいなんだけど」

 

 オスカーもウィーズリーが言うことがさっぱり分からなかった。オスカーは結構グリフィンドール寮全体に向けて啖呵を切って出てきたのだ。そんな簡単に戻れるのだろうか?

 

「ドロホフがやったの結構面白かったからね。五年生のバカ三人をボコボコにしちゃったし、マクゴナガル先生とも喧嘩するし、寮の窓から飛び降りるし、グリフィンドールはああいうの大好きだよ。だって面白いじゃないか。目立つし、嘘も卑怯なこともしてないから。まあグリフィンドールにもいろいろいるけどさ」

「じゃあムーディは?」

「それは僕も分からないよ。クラーナはドロホフガーって言わなくなっちゃったからね。ていうかクラーナはマクゴナガル先生に怒ってるみたいなんだよね。それもドロホフよりずっと怒ってるよ。あとなんでか知らないけど僕らにも怒ってるみたいで、最近だとクラーナの相手をするより怒ったトロールの相手をする方が楽だってみんな言ってるくらいさ」

 

 なるほど、あのムーディの態度はオスカーだけでは無くみんなにそうらしい。もしかするとオスカーの怒りが彼女に乗り移ってしまったのかもしれない。

 

「で? あれなんでしょ? 二人ってムーディとオスカーと一緒で喧嘩してたんでしょ? 違ったっけ?」

 

 二人にそう言った時のトンクス顔は完全に計画通りという顔だ。もちろんオスカーはこうなると分かっていてやったのだ。そう思う事にしていた。乗せられる方がいい時だってあるのだ。

 

「そうだよ」

「まあそうだよね」

 

 ムーディがあんまり絡んでくるので忘れていたがムーディと喧嘩をする原因になったのはこのウィーズリーなのだ。そしてウィーズリーと喧嘩する原因になったのは父親だ。結局、また大人なのだ。オスカーだって、目の前のウィーズリーだって別に何かお互いにしたわけじゃないなのにこうなっていた。

 

「で~? どうするわけ? まあ私から見るとオスカーはスーパーお人よしお坊ちゃんだし、ウィーズリーはドラゴンと箒にしか興味無さそうだけど。あ、間違えたわね、グヴィンを挟んで三角関係なんだっけ?」

「悪かったよ」

「いきなり怒ったのがダメだったよ」

 

 どうしてこんな事すら分からないのか? 結局、ウィーズリーと喧嘩していたのは大人のせいなのだ。そんなことトンクスと行動する前だって分かっていたはずなのだ。

 

「ドラゴンだっていきなり火は吹かないんだ。でも叔父さんは僕に箒を……」

「僕の父さんがしたことは知ってるよ。僕は父さんの裁判を全部見てるんだ。あいつが悪いやつだって知ってるさ。あいつの仲間もそうだ。でも僕には何も出来ない」

「そんなことないと思うけど。君はコーリーどころか兄貴より魔法ができるじゃないか」

「でも箒は上手くないし、なんでもドラゴンに例えられない。トンクスみたいに機嫌で頭の色が変わったりしない。大したこと無いよ」

「色が変わるドラゴンはまだ発見されてないんだ。南米には姿が消えるドラゴンがいるって噂があるらしいけど」

 

 そう言うとちょっとウィーズリーは笑った。なんだか変な感じだった。ある意味ではオスカーもウィーズリーも困らせられている相手は一緒だった。

 

「えー。ちょっと何? いきなり仲良くなってない? ドラゴンって言えば仲良くなれるわけ? ウィーズリーがちょろいの? それともオスカー? 私も言った方がいいわけ? ドラゴン、ドラゴン、ドラドラ、ゴンゴン……」

「汽車で言ったかもしれないけど。チャーリーでいいよ。ほんとはチャールズだけど、そう呼ぶのはミュリエル大叔母さんくらいだし」

「分かった。僕もオスカーでいいよ」

 

 オスカーが思うのは話せる人が増えただけで、随分ホグワーツが違う場所に見えるという事だ。このフィルチの汚い事務所でさえ、今は少し面白い場所に見える。だってこの部屋を見たら今日のことを絶対に思い出すだろう。フィルチの間抜けな姿やすぐにずっこけるトンクス、飛ぶことしか言わないチャーリーの姿を。

 簡単な話、面白くない場所が面白くなったのだ。オスカーはやっとトンクスがどうしていつも悪戯したり、ルールを破っているのかが分かって来た気がした。

 

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