「あ…… オスカー、オスカー!!」
「え?」
トンクスと練習したりする魔法を選ぼうと思い、図書室で色んな本を借りて必要の部屋に戻ろうとした時、聞き覚えのある声がオスカーを後ろから呼んだ。
「やっと追いついた……」
オスカーの後ろにいたのは、はあはあと息切れしているシラだ。なにやら沢山の魔法史の本を図書室で借りたところで、同じように図書室から出ようとしているオスカーを見かけて追いかけて来たのだろう。
「君、歩くのが早すぎないかい? だいたい……」
「どうしたんだ? 重いなら持つけど」
オスカーはシラが持っていた分厚い本を彼女の手から受け取った。シラは近くにあった彫像の台座に残りの本を置いて、真剣にオスカーの顔を見ながら喋り始めた。
「オスカー。君、グリフィンドールの寮に戻ってないって聞いたんだけど」
その話かとオスカーは思った。マクゴナガル先生は結局、オスカーに加点こそしなくなったものの他に何もしなかった。他の先生はいつもと変わらない。トンクスとマクゴナガル先生の反応からして、ダンブルドア先生がマクゴナガル先生に何か言ったのだとオスカーは思っていた。
そして先生がそんな感じなのだから他の人に何か言われることは無いとオスカーは思っていたのだ。現にグリフィンドールの監督生の忠告をオスカーは聞く気が無かった。
「そうだよ。高学年のやつらと喧嘩したんだ。その後、マクゴナガル先生に怒られたから、グリフィンドール塔からトランクを持って飛び降りたんだ」
「えー!! と、飛び降りた? グリフィンドール塔ってレイブンクロー塔と同じくらいの高さが無いかい? あ、でも、そうじゃなくて、マクゴナガル先生に謝って、グリフィンドール塔に戻った方がいいよ」
シラはどうみても本気で言っていたが、オスカーはまだマクゴナガル先生と喋る気は無かった。オスカーは間違った事をした気はさらさらないのだ。だから自分から謝るなど絶対に嫌だった。まだオスカーは自分の心の中を整理できていないと思っていた。なのに謝っても何の意味もないではないか。
「嫌だ。僕はまだグリフィンドールの連中が嫌いなんだ。マクゴナガルのババアも大嫌いだ」
「ば、ババア!? オスカー、マクゴナガル先生だよ。オスカーがそんな言葉遣いするなんて……」
シラはオスカーがマクゴナガルの事で悪態をつくのが衝撃なようだった。オスカーは彼女がオスカーの事をとにかく育ちがいいとかそういう風に思っていると知っていた。本当はそんな事は無いのだ。なぜならムーディがよくよく言ってくれるようにオスカーの父親は凶悪犯罪者なのだから。
「とにかく君が言ったって僕はグリフィンドール寮に戻らないよ」
「なんで? だって、エティさんやキングズリーやペンスだって……」
「今、僕と家にいる人は関係無い。ここはホグワーツだ」
大人の事を言われるとオスカーはもっと意固地になっていると自分で感じていた。グリフィンドールの連中にも先生にも、家族の大人達に頼るのも嫌だった。だって間違った事をしていないはずなのだ。
「なんでそんなに頑固に……」
「あ、オスカー、ここにいたのね。フィルチが私達の事でコソコソしてるから、フィリバスターの長々花火をピーブズにあげて大暴れ…… おっと、お邪魔しちゃったかしら?」
それまで驚いて困惑していた顔だったシラがちょっと怒った顔になってオスカーは驚いた。あんまり彼女が怒っている顔をしているのを見たことが無かった。ホグワーツ特急でムーディと言い争っていた時くらいだろう。
「シラ、とにかく僕は寮に戻る気は……」
「オスカーは不良になっちゃったのかい?」
不良? 不良とは何なのだろうか? オスカーがあんまり聞いたことの無い言葉だった。ムーディが良く言っている死喰い人とか闇の魔法使いの卵みたいなものだろうか?
「不良って……」
「マグルのセカンダリー・スクールには一杯いるよ。大人じゃないのに、タバコを吸ったり、お酒を飲んだり、家出したり、髪を染めたりとかそういうことするんだ。あんまり評判の良くない子供の事をそう言うんだ。それでそういう子供はグループを作る」
シラはトンクスのけばけばしいショッキングピンクの髪の毛を見ながらそう言った。確かにトンクスの髪は魔法界でもほとんどあり得ない色をしていた。そしてどうにもトンクスの素行がいいかと言われれば難しいところだった。
「それトンクスの事を言ってるなら……」
「オスカーは良い家の子供なんだから。もっとちゃんとした方がいいに決まってるよ。勉強だって出来るんだから普通にグリフィンドールで友達を作って、マクゴナガル先生と仲直りすればいいじゃないか」
「それは無理な相談ね。マグル生まれとちびっこ闇祓いがもたもたしてるから、私の方がオスカーと仲良くなっちゃったもの」
オスカーはトンクスが変に笑っているのを見て、また悪戯でもしようとしていると思った。トンクスはそもそもお父さんがマグル生まれなのだからシラの事をマグル生まれなんて言う人間では無いのだ。
「君、ハッフルパフのニンファドーラ・トンクスだろ。いつも罰則を受けてるし、授業に遅れてきたり、授業の準備を忘れたり、先生のいう事を聞かなかったり、評判が良くないよ。君もお父さんやお母さんが……」
「シラ、トンクスの事を……」
「オスカー、私は君のために言ってるんだよ。オスカーはちゃんと勉強しているのに、ムーディみたいに変ないちゃもんとかつけてくるやつがいるじゃないか。なのにそれに加えてそんな娘と一緒にいてどうするんだ。自分でそうだって言っているようなものだよ」
オスカーはどうすればいいのか分からなかった。シラは間違いなくオスカーの味方だったし、どうにもならない時に助けてくれたのはトンクスだった。彼女にトンクスの悪口を言って欲しくないのだ。
「だってオスカーはそうだもの。だいたいマグル生まれの想像する不良なんて優しいものじゃないわ」
「違う。君はオスカーのことなんて知らないじゃないか。オスカーの家は大きくて……」
「オスカーは優しいから言わないだけだけど、私はそうじゃないわ。言っとくけど、オスカーのお父さんが誰か知らないでしょう? あのねえ、死喰い人にも格っていうのがあるのよ。スリザリンには死喰い人の子供だとか言って集まってるやつらもいるけど、あんなのお遊びなんだから。オスカーのお父さんや私の叔父さんや叔母さんの方がずっと有名なのよ」
一体何をトンクスが言い始めたのかと思ってオスカーは目を剥いた。トンクスはドジなことばっかりやるけれどもオスカーから見たって凄く柔らかい考えをできる人間なのだ。どう考えたってふざけているのか何か理由があってこんなことを言っているのだ。
「トンクス、何言ってるんだ」
「私は前の戦争の資料や新聞はたくさん読んだけどトンクスなんて名前は……」
「教えてあげるわ。私のお母さんの元の名字はブラックって言うのよ。お母さんの従兄弟はシリウス・ブラック、お姉さんはベラトリックス・レストレンジ、その夫と兄弟はロドルファスとラバスタン・レストレンジ、全員、オスカーのお父さんと同じアズカバンの特別管理下の死喰い人よ。マグル生まれでも分かるんじゃない? 頭でっかちだからたくさん本を読んだんでしょ?」
トンクスが死喰い人なんて天地がひっくり返ってもオスカーはありえないと思うのだ。こんなドジばかりする女の子が死喰い人になれるなら、マグル生まれの方がよっぽどなれるだろう。でもシラはトンクスが言った名前を聞くとちょっと顔が青くなった。
「頭でっかちなマグル生まれでも分かったみたいね。私達をリーダーにしてもっと私達みたいなのを集めて……」
「だからってオスカーが君と一緒にいる理由にならない。君がハッフルパフらしくない不良で死喰い人の親戚だからってオスカーとは関係ないよ。ほら言ったじゃないか。オスカー、こんな女の子と付き合ってたらダメだ。オスカーまで影響されてる。とにかく、この子みたいな不良と付き合うのはやめて、マクゴナガル先生に謝ってグリフィンドール寮に戻って」
二人ともオスカーが言っていることも聞かずに喧嘩してなんなんだとオスカーは思った。グリフィンドール寮の連中と違って二人はもっとオスカーの話を聞いてくれると思っていたのだ。
「トンクス、シラは頭でっかちじゃないし、マグル生まれとか言わなくていいだろ。シラ、トンクスは不良じゃないし、僕らは死喰い人の家族だから一緒にいるわけじゃ無い」
「オスカー、君、その娘の味方をするのかい?」
「このまま君がトンクスを不良だとかそういう言い方や決めつけをするならそうだ」
「は……? ちょ、ちょっとオスカー」
「私が言っても聞かないし、マクゴナガル先生にも謝らないし、でもその娘のいう事は聞くって言うのかい?」
ちょっとシラが涙目になっているのでオスカーは動揺した。こんな風に喧嘩しそうになったことは無かった。でも、オスカーはマクゴナガル先生に謝る気は無かったし、トンクスと喧嘩して欲しくなかったし、決めつけて欲しくなかった。
「僕はマクゴナガルに謝らない。君が言ってもそうだ。それにその娘じゃなくてトンクスだ」
「苗字で呼んでいるくらいにしか仲良くないんじゃないか」
「トンクスはニンファドーラって呼ばれたくないからそう呼んでるだけだ」
「私のいう事は聞けないし、その娘のいう事は聞くって言うんだ。そうか、分かったよ」
「ちょ、ちょっと、オスカー、謝った方がいいわよ」
シラはそう言うなりオスカーの手元から彼女が図書館から借りた本を乱暴に奪い取った。彼女はかなり敵意のある目でオスカーを見て、もっとキツイ目つきでトンクスの方を睨んだ。
「いいよ。君がそうしたいって言うならそうしたらいいじゃないか。でも、今日の事とか、君やそこのトンクスの事は全部、エティさんやキングズリーに相談する」
「え!? 僕の事だ。僕の家族は関係無い……」
「オスカーは不良だし私の話を聞かないじゃないか。じゃあ君の家族に怒って貰えばいいよ。私の話は聞かないでその娘の話は聞くんだから、大人に言って貰う。キングズリーは闇祓いだ。死喰い人の親戚とかそんなの関係無い。私は君にちゃんと言ったよ。先生に謝って、寮に戻って、不良と付き合っちゃダメだって。聞いてくれないなら、エティさんかキングズリーに言って怒って貰うだけだ」
そのまま彼女は行ってしまった。オスカーはどうすればいいのか分からなかった。マクゴナガル先生と喧嘩するのはいいのだ。だって彼女が言っていることはおかしいのだから。でも、母親やキングズリーが出てきたらオスカーはどうすればいいのか分からなかった。
「オスカー、追いかけて謝った方がいいわよ」
「いいよ。部屋に戻る」
そのままオスカーは一直線に必要の部屋に戻った。部屋に戻ろうとするとトンクスはついて来て、部屋に戻る間、レイブンクロー寮に行ってシラに謝った方がいいだとか、ローガンに手紙を持たせて彼女に謝った方がいいとか、自分が彼女とオスカーの間を取りもつので今から行こうとかそういう事を言った。でも、オスカーは自分でもどうしたいのかまだ分からなかった。
必要の部屋に戻り、いつもオスカーが使っている二段ベッドに下の段にオスカーは潜り込んで冷静になろうとした。トンクスは部屋に入ってからは喋らず、上の段に引っ込んだみたいだった。
しばらくたってもオスカーはどうすればいいのか分からなかった。シラと喧嘩してしまった。彼女と仲直りしたかった。でもマクゴナガル先生に謝るのは嫌だった。彼女にトンクスの事を悪くいって欲しくなかった。どうすればいいのだろうか?
「ねえ。なんで私をかばったの?」
全く喋らなかったトンクスが二段ベッドの上から顔を出してオスカーに聞いた。オスカーは自分がやっていることがホグワーツに入ってから一つも上手くいっている気がしなかったが、少なくともシラとトンクスに間違った事を言ったと思っていなかった。
「そうしたらダメだったのか?」
「だって、オスカーはあの娘の事凄く好きじゃない? いっつも他の子のこと話すときは楽しそうじゃないけど、あの娘の時は楽しそうだもの。それに私、変なこと言ってたでしょ」
そう見えるのだろうか? でも、そう見えてもオスカーはおかしく無いと思った。だって彼女は初めてできた友達だったし、家族以外で初めて会話できる人だったのだ。トンクスはまだベッドから顔を出してこっちを見ていた。
「だからだよ。シラにトンクスの悪口を言って欲しくない。トンクスは不良じゃないし、トンクスの髪は染めてるわけじゃ無い。トンクスがおかしなこと言ってても、シラは最初から決めつけてトンクスに結局謝らなかったし…… だいたい一緒にいて僕が悪い人間になるわけない。もしそうなら僕が元々悪い人間なんだ」
そうもしシラから見てオスカーが不良に見えるのなら、それは彼女のせいでは無くて、オスカーが不良なのだ。マクゴナガル先生と喧嘩したのはオスカーだし、寮から飛び出したのもオスカーなのだから。
トンクスはオスカーの言った事を聞くなりベッドから降りようとして足を滑らせはしご全部にお尻をぶつけながら落ちた。こんな女の子が死喰い人になれるわけが無い。オスカーはそう知っていた。
「痛った…… なんでいつもこうなるのかしら…… ちょっと失礼するわ」
「おい、スリッパのまま…… まあいいけど」
打ったおしりを手でこすって痛みを誤魔化そうとしながらトンクスはそのままオスカーのベッドに入って来た。それも何故かスリッパを履いたままだ。上のベッドにもスリッパを履いたまま入っていたのだろうか?
「ちょっとやりすぎちゃった。そろそろオスカーは寮に戻った方がいいわ」
「トンクスもそう言うのかよ」
「あのね。オスカーは絶対にあの娘の事の味方をすると思ってたのよ。そしたらしょうがなくでもマクゴナガル先生に謝るのかなって思ってたんだけど。ちょっとあの娘にもオスカーにも悪いことしたわ」
シラにもトンクスにもそう言われるという事は、やっぱりマクゴナガル先生に謝って、グリフィンドール寮に戻った方がいいのだろう。トンクスの髪の毛の色がいつも見るショッキングピンクや紫では無くほとんど真っ赤なのがオスカーは気になった。
「トンクスが死喰い人になれるならスリザリン生はみんな死喰い人になってる。だからどうせふざけてるんだと思ったんだけど」
「ふざけては無かったわ。そういう事言ったらあの娘がもっと真剣になると思ったの。そうしたらオスカーはクソ真面目だからあの娘のいう事を真に受けてグリフィンドール寮に帰るのかなって」
オスカーはやっぱりそういう事なのだと思った。自分ほどでは無かったが、トンクスはトンクスでドジでどうにも素直でないところがあった。だから一緒にいてくれているのだ。トンクスがあんまり近くに座ってくるので彼女の髪から甘いお菓子みたいな香りがするとオスカーは思った。
「だから…… そのごめんね。仲直りするの手伝うわ」
「いいよ。どうせ友達が二人…… 三人から二人になっただけだし。僕がマクゴナガルに怒られればいいんだ」
「あ…… 友達…… マクゴナガル先生に謝るわけ?」
「母さんに連絡が行くくらいなら謝った方がマシだ。もうとっくに連絡されてるのかもしれないけど。母さんに心配かけてシラと喧嘩したのを僕がどうにか出来るなら、マクゴナガルに謝ったって、グリフィンドールの連中の所に戻ったっていいよ」
かなり本気でオスカーはそう思った。シラと喧嘩したり、彼女がトンクスの悪口を言ったり、母親に心配をかけるくらいなら自分が嫌な思いを飲み込んだ方がよっぽどましだった。
「ふーん。そう。じゃあいいわよ。手伝うわ。でもお腹減ったわね。オスカーがずーっと何にも言わないもんだからもうお昼ご飯の時間すぎちゃったわ。厨房にいかない?」
「もう午後なんだ。ペンスがいればどこでも何か食べれる……」
「お呼びですか? オスカーお坊ちゃま?」
バチッという音がして二人がいるベッドの前に屋敷しもべが現れた。ホグワーツにいる屋敷しもべと違ってちゃんとした服を着ているように見える。ペンスはオスカーに向かって完璧なお辞儀をして見せた。
「ちょっと…… この子、オスカーのお家の屋敷しもべ?」
「そうでございます。オスカーお坊ちゃまのご学友であらせられますか?」
「ああ、ペンス、ニンファドーラ・トンクスって言って、僕の友達っていうか……」
「ではニンファドーラお嬢様、オスカーお坊ちゃま、僭越ながら少しこのお部屋は散らかっているようですし、ベッドのシーツやカバーも洗う必要がございます。それにお腹は減ってらっしゃいませんか?」
その間にもペンスはオスカーとトンクスが使っていた必要の部屋に目を走らせ、バチッバチッっと指を鳴らし、枕やシーツを消したり、色んな場所をピカピカにしたりしている。
「あ、お腹空いてるわ、ちょうどオスカーとその話をしてたところだったの」
「では、お屋敷に参りましょう。その間にペンスめがこの部屋を綺麗にさせていただきます」
オスカーが喋ろうとしたときにはもうペンスが二人の近くまで来てオスカーの手に触れていた。
「ニンファドーラお嬢様、オスカーお坊ちゃまと手をつないでいただけますか?」
「え、わ、わかったけど……」
トンクスがオスカーのもう片方の手を持つとバチッという音がして、いつの間にかオスカーは闇の中にいた。四方八方からぎゅうぎゅうと空間そのものがオスカーを押さえつけてくる。鼓膜がどんどん体の中に押し込められている気がする、けれどこの感覚をオスカーは知っていた。姿くらましだ。
気づくとオスカーはパチパチと火の爆ぜる音がする暖炉の前、黒いピカピカの大理石の上に置いてあるソファーに座っていた。トンクスがまだ思いっきりオスカーの手を握っていて痛いくらいだったが、初めて姿くらましをしたのなら仕方ないとオスカーは思った。
ここはオスカーの家だ。巨大なタペストリーが壁にかかり、動物の毛皮と豪奢な絨毯が大理石の床にひかれている。テーブルの上ではサモワールというお茶を入れる時に使う巨大なポットが湯気を上げている。
「ここどこ? 私達、必要の部屋にいたはずよね?」
「僕の家だ。ホグワーツでは姿くらましが使えないって言われたのに……」
「ここオスカーの家なの? へぇ~ すっごい大きな部屋ね。教室より大きいじゃない」
オスカーはトンクスに手を離して欲しかったが、離して欲しいとまでは言えなかった。そしてどうも母親がいるのかどうかが気になった。御飯を家で食べるだけならいいのだが、今の状況でいきなり母親に会って何を喋ればいいのだろうか? それに名字の話もしないといけないかもしれない。
またバチッと音がしてテーブルの上に料理が並び始めた。どれも熱々に見えるし、やっぱりオスカーがホグワーツの料理にあまりなじめない理由がここにあった。オスカーの家で出てくる料理はホグワーツの料理と少し違うのだ。そしてオスカーはこの家で育ったのでこの料理の方が好きだった。
「すご…… ホグワーツみたい。ほんとにお坊ちゃまなのね」
シラを初めて家に連れて来た時とトンクスはそんなに変わらなかった。魔法を知っているか知っていないかくらいしか違わないだろう。この反応を見るとやっぱりオスカーは自分がお坊ちゃまなのだと分からざるを得なかった。
「女の子とご飯を食べに来たって聞いたけど、シラちゃんじゃないじゃない…… なんてお名前?」
「え? あ、私、ニンファドーラ・トンクスって言います。えーとハッフルパフで、オスカーとは友達で…… あ、ちょ、ちょっとこの手は……」
「ペンスの姿くらましで連れて来たから手を繋がないといけなかった」
いきなりソファーの後ろから母親が話しかけてきて、オスカーとトンクスはちょっと飛び上がりそうになった。トンクスは喋っている途中でやっと手に気づいてパッと離したが驚いているのか何なのか髪の毛がマグルの信号機みたいに点滅していた。
「トンクス? トンクスって…… もしかしてブラック家にいた三姉妹の一人がお母さん?」
「あ、そうです。私のママはアンドロメダって言って、真ん中なんですけど」
「やっぱり。結構有名ですよ。あなたのお母さん。当時結構衝撃だったの。ブラック家の令嬢がマグル生まれの男性と電撃で駆け落ちですから。社交界なんてもうそのころ廃れていたけどそれでも色んな人が話してました。それにあなた、七変化なのね。オスカー、面白い子と仲良くなれたのね」
母親はいつもの通りにオスカーには見えた。オスカーは果たしてグリフィンドール寮の話がどれくらい母親に伝わっているのか分からなかった。オスカーはローガンを家に帰してからはシャックルボルト邸からくるワシミミズクに手紙を持たせることくらいしか家に便りを送っていなかった。
「でも、知らなかったわ。オスカーの手紙にはシラちゃんっていう名前のこの近くに住んでいる女の子の名前しか出てこないの。最初のころにムーディさんの名前が出てきたくらいで、他のお友達の名前が出てこないし、最近手紙を送ってくれないの。反抗期?」
「あ、私、オスカーと仲良くなったのは最近なんです。ちょうど一か月くらい? よね? オスカー?」
「そうだけど……」
「あと、オスカーは別に嘘ついてないっていうか。私と話してもグヴィンとお母さんと屋敷しもべの話ばっかりするし……」
相変わらずトンクスは大人に物怖じしなかった。オスカーはなんとなくトンクスは母親と問題無くやれるのではないかと思っていた。むしろオスカーより相性が良いのかもしれない。
「オスカー、あなた女の子の前で他の女の子の話ばかりするの? もっと面白い話を出来るようにならないとみんなに愛想つかされてしまうわ」
「あ、大丈夫です。なんかすごいオスカーのお家ってセレブで他の人と違うから何聞いても面白いし、それにオスカーって凄い出来るから話が合うんです。その、授業とかつまらないなっていうか…… そういう……」
そう言うと母親はワッハッハとばかりに大声で笑った。どうも相当トンクスの事が気に入ったのだとオスカーは思った。オスカーはあんまり気を許していない人の前で母親が大声で笑わないと知っていた。一応、はしたないとのことらしい。ミリベスはこの笑い声を聞くとちょっとムッとするのだ。子供だったころはミリベスに大声で笑うと怒られたらしい。
トンクスは笑い声の大きさにびっくりしたのかオスカーの方を見て来た。オスカーは一応問題無いと顔を振った。
「ワッハッハ…… 正直ね。あなた。まあしょうがないわね。ブラック家って言ったら美形だし、学校の勉強は嫌になるほどできる一族って相場が決まっているの。嫌だったら言ってくれていいけど。あなた間違いなくお母さんの子供ね」
「え。でもママは授業が面倒くさいって書いたら吠えメールを送ってきて……」
「それはトンクスがカエルの胆を送ったからだろ」
「オスカー、どうして苗字で呼ぶの?」
「それは私が呼んで欲しいって言ってるからなんです。えーっと、とにかくママと私は別に似てないっていうか」
オスカーは自分がマクゴナガル先生やムーディがあんまり得意でない原因は母親のせいかもしれないと思っていた。この母親は例の二人と同じように結構胆力があったのだ。
「いいえ。絶対似てますよ。ちょっと違うかもしれないけど。ブラックの家の人はみんなスリザリンに組み分けされて、すごくプライドが高くて、実際勉強も杖も出来て、家族が大事な人ばかり。あなたもそうじゃない?」
「うーん、そうかしら。プライド? とかよく分からないけど」
「トンクスは勉強できるじゃないか」
「でも、オスカーとムーディの方が出来るじゃない」
そう簡単に納得しないし普通に言い返すのもトンクスとシラが違うところだった。シラならもっと母親相手だとはーい。という感じだろう。彼女はもしかしたら自分の母親以上にオスカーの母親を頼りにしているふしがあるくらいなのだ。でもトンクスは違うだろう。
「良かったわねオスカー、女の子に褒めてもらえるなんて。時代が時代ならブラック家のご令嬢と仲良くなんてすごく噂になるのよ。あ、ご飯を食べましょう。ペンスに怒られてしまうから」
「あ、食べてもいいんですか? じゃあいただきまーす」
「いただきます」
オスカーはホグワーツに入って初めて分かったのだが、オスカーの家で出るのはイギリスの料理というより、ロシアや北欧の方の料理らしく、良くてもスコットランドの地方料理なのだ。それにちょっと地中海、イタリアやスペイン、チュニジアといった場所の料理が出ていて、イングランドの料理というのはあんまり出てこない。だからオスカーはトンクスの口に合うのか心配だった。
シラは何を食べても美味しいしか言わない節があり、食べることが好きだし、食べ物で遊ぶのがかなり嫌いな人だった。だからハエ型ヌガーとかは嫌いなのだ。でもトンクスはなんでもはっきり言うタイプだし、そういう冗談も通じるタイプだ。だからどうだろうか?
「これ美味しい。あ、美味しいです。食べたことない料理ばっかりだし…… ポットもなんか大きいのね」
「いいのよ。うちの屋敷しもべが作ったもので私が作ってるわけじゃないから」
「ポットはサモワールって言ってお茶を飲むのに使うんだ。なんでこんなに大きいのかは知らないけど」
トンクスには好評でオスカーはちょっと安心した。オスカーはトンクスと自分の家族が仲良くして欲しかった。シラと同じように喧嘩したらどうしようかと思っていたのだ。
「オスカーがあんまりホグワーツの料理が好きじゃないのってこういう事なのね。だってホグワーツの料理と全然違うじゃない」
「あら。オスカーはホグワーツの料理嫌い?」
「そんなことトンクスに言ったことないけど」
「え? 好きじゃないでしょ? 分かるもの。オスカーのお家からのお菓子とかお茶を飲んでるときの顔と厨房から貰って来た料理を食べてる時の顔は違うじゃない?」
オスカーはトンクスが開心術を使えるのかと思った。あんまりオスカーは誰かに文句を言いたくないのでそんなこと言ったことは無かった。それに厨房から料理を貰ってくるのはトンクスのお気に入りの行動だったし、それに嫌なことを言いたく無かったのだ。
「本当にいいお友達ね。ニンファドーラって呼んではいけないのね?」
「え? うーん。別にオスカーのママならいいかなって」
「じゃあニンファドーラ。オスカーのことよろしくね。この子、お父さんと一緒で表情が分かりにくいし、あんまり喋らないでしょう? これ、図星の顔なのよ」
「じゃあ変身できるくらい顔見ちゃおうかしら?」
そう言うとトンクスはオスカーの顔に変身した。オスカーはどうすればいいのか分からなかった。母親とトンクスに馬鹿にされている気もしたし、そうでもない気もしたのだ。
「オスカー? 怒らないの? いつも怒るでしょ?」
「怒らないよ」
「お母さんの言うことは聞くんだ。へえ~」
オスカーは自分に言い聞かせた。分が悪すぎる。母親とトンクスでは何を言ってもさっきの流れになるに決まっている。自分は勝てないのだ。オスカーは諦めてご飯を食べることにした。久しぶりに食べるペンスの料理は美味しかった。母親とトンクスと一緒なのはオスカーが考えうる中でほとんど最高の状況だ。シラと喧嘩していて、母親とトンクスに馬鹿にされていなければだが。
そのあとはどうも波長が合うらしい二人の会話をかわしたり我慢したり料理に舌鼓を打ったりしている間にご飯が終わって暖炉の前でお茶を飲む時間になった。母親はどこかの部屋に引っ込んだみたいでオスカーはちょっと安心した。トンクスと母親が一緒ではオスカーの勝率はゼロパーセントなのだ。
「オスカーのママって良い人ね。私のママになってくれないかしら?」
「トンクスにはお母さんがいるだろ。まあうちの家は広いからもしトンクスが家族と喧嘩したら来ればいいよ」
「へぇ、来てもいいわけ? 居着いちゃうかもしれないわよ? グヴィンが怒っちゃうかも?」
「シラはトンクスがいても怒らないよ。この家はほんとに広いし」
どうしてオスカーにはトンクスとシラが喧嘩してしまうのか分からなかった。オスカーからすれば二人とも良い人だったし、ホグワーツでは一番大切な人なのだ。
「でもあの娘は怒ってたじゃない。私のこと嫌いみたいだったし」
「シラはマグル生まれなんだ。だからあんまりトンクスの髪色に慣れてないから……」
「私は不良だもの。まあそうよね。授業サボったこともあるし、遅刻もしたことあるし、宿題もつまんなくてサボったことあるし、罰則も受けたことあるし、悪い男の子と寮の外で泊ったわ」
困ってしまうのでそんなことを言わないで欲しかった。どちらかの事を言えばどちらかは嫌な目にあうなんてどうすればいいのだろうか? オスカーの友達は少ないのにどうしてそうなるのだろう?
「トンクス、シラはマグル生まれなんだ。だからシラにはシラのルールがあるんだ。魔法族の僕には馬鹿みたいなルールだけど。シラは十年とかそのルールの中にいたんだ」
「そうよね。オスカーはあの娘にはそういうこと出来るのよね」
「トンクスにだってそうするよ」
オスカーはまた言わされたと思ったのだが彼女は珍しく何も言ってこなかった。オスカーはちょっと不思議だった。言わされたと思う時にトンクスがニヤッと笑ったりしない条件は何なのだろうか?
「あー…… あのねそうじゃなくて……」
「二人とも午後の授業は?」
「一年生は午後の授業無いよ。防衛術の先生が何かちょっと家に戻るとかで来週まで休みなんだ」
また母親が戻って来た。何か紙を持って来て、オスカーの前に置いたようだ。オスカーはちょっと嫌な予感がした。この家で紙を見て思いだすのは少し前にキングズリーが広げていた権利書の類だったからだ。
「ニンファドーラには関係の無い話で申し訳ないけれど。オスカー、ここにあなたの名前を書いてくれる?」
「名前? なんで?」
「ご飯食べさせてもらったし、静かにしまーす。だけどこれって何? オスカー?」
沢山の文言が書いてあって、しかも何だか表現が難しくて読みにくいが、どうもこれはシャックルボルト邸のお金とか、土地とか、そういうモノの扱いについて書いてあるように見える。それに一番下にある名前は、ミリベスの言う所の先代様、つまりオスカーの祖父の名前だった。
「これはね、まず、私のお父さんは私に全部渡していなくなるつもりだったんだけど、私が出て行ったからとりあえず唯一残っている甥に渡したのね。けど、いなくなる前にあなたが出来たから、この紙を作ったみたい。だからここに名前を書いて欲しいという事」
「母さんが名字を戻したのは? これに関係ある?」
「え? オスカーってもしかして今はドロホフじゃないわけ? あ、聞いちゃダメだった?」
「大丈夫よ。まあ理由はね…… 面倒くさいでしょう? こういう書類を作ったり申請するのがだけれど。だからいったん戻したんだけど。もちろんあなたは元のままだし、別に名前なんて自分のしたい方にすればいいんだから」
「したい方?」
「へー、お得じゃない。私もブラックって名乗った方がいいかしら? そしたら多分ママは爆発するわね」
キングズリーに聞いた時は随分深刻な話だった気がしたのに、隣でトンクスが気の抜けた事を言っていると、なんだかオスカーはおかしな気分になりそうだった。一人でいるのと誰かといるのとではこんなに違うモノなのだろうか? それともあの時のオスカーがおかしかったのだろうか?
「名前書くとどうなるの?」
「とりあえず、キングズリーに子供ができなければあのお屋敷と一式があなたのものになるという事。出来ても半分はあなたのものになるという事。それだけね。書かなくてもキングズリーが指定しなければそうなるんだけど」
「じゃあ一緒だ」
「そうでもないわね。書くと今もあなたに権利が生まれるから、ドネやティロはあなたのいう事を本当に聞くことになるから」
「凄い話しててわけわかんなくなってきたわ」
オスカーはとりあえず名前を書いた。別にドネやティロは嫌いでは無いし、もしドネやティロがペンスみたいに取られてしまうとか、傷つけられるのであれば、その時にオスカーの名前なんだったら、オスカーが嫌だと言えるはずだ。オスカーはそう思っていた。
「ありがとうねオスカー。あなたのお祖父さんも喜んでいると思うわ。じゃあ後はちゃんと二人ともホグワーツに帰ってね。まだ冬休みには早いでしょう? ホグワーツにいる時間は今は長いかもしれないけれど。本当は短い時間しか無いのだから」
「本当は短い?」
「たしかにそうかも。私達はダンブルドア先生みたいにずっといるわけじゃ無いし」
ホグワーツにいる時間が短い、そうなのかもしれない。オスカーだってもう十二歳だし、七年なんていうのはあっと言う間だろう。母親や父親みたいな大人はホグワーツで過ごした時間より、外で過ごした時間の方がずっと長いのだ。
「オスカーお坊ちゃま、お帰りになられますか?」
「うん。戻るよ。今度はクリスマスに戻ると思う」
「よーし、いいこと覚えたわ。最悪、オスカーに頼めばいつでもご飯を出してもらえるって事だもの」
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「行ってきまーす」
気づくと二人はまた必要の部屋にいた。ペンスは二人に一礼して消えた。必要の部屋の中はさっき出た時よりずっと綺麗に整理整頓されていて、布団や服もふかふかになっていそうだった。ソファーに座ってオスカーはどうするか考えようと思った。マクゴナガル先生に謝ればシラと仲直り出来るだろうか?
「じゃあ、グヴィンとオスカーの仲直り計画を立てればいいんでしょ? しょーじき、私はまだあんまり気に入らないんだけどね」
「それがどうにか出来ないならシラと会っても上手くいかないだろ」
「だって…… うーん…… 私、あいつの事好きじゃないもの。ムーディの方がずっと好きよ。ドラゴン馬鹿ですら何も考えてないだけマシだし」
さっぱりオスカーにはトンクスの感性や考えが分からなかった。だってトンクスは父親がマグル生まれだし同じ女の子だしでむしろシラの気持ちがオスカーより分かるのでは無いかと思ったのだ。
「なんでそんな気に入らないんだよ」
「向こうも同じだと思うけどね。それに別に私とグヴィンが喧嘩してても、オスカーとグヴィンは仲直り出来るでしょ? それよりムーディの方がグヴィンより……」
二人は思わず扉の方を見た。さっき二人が逃げるように帰って来た時には入ってすぐに消えた扉が現れている。そしてどう聞いてもノックする音がした。そしてそのまま扉が開いて三人入って来た。
「え? どういうこと?」
「誰だ?」
「本当にここでしたか。チャーリーが冗談を言っているのかと思いましたよ」
「凄い部屋…… ベッドもあるし……」
「オスカー、トンクス、えーっと…… そう、裏切ったわけじゃ無いんだけど……」
ムーディ、シラ、チャーリーが入って来た。ムーディは明らかにオスカーが見たことないほど怒っている。目を見れば分かる。さっきのシラより怒っているように見える。シラは何か戸惑っていて、チャーリーは罰が悪そうだ。
「オスカー・ドロホフ、私と決闘しなさい。私が勝ったら、下らない事をやめてグリフィンドール寮に戻りなさい」
「なんなんだ。いきなり入って来て」
「そうよ。ていうか何? 何の用なわけ?」
もうあからさまにムーディはオスカーに杖を向けていた。そしてオスカーは反射的に自分も杖を出した。なんとなく分かるのだ、あの三人から杖を向けられたのとこれは意味が違う。体も年齢も三人よりずっと小さいはずなのに、オスカーの体と頭のどこかがその時よりずっと危険だと告げていた。オスカーはこんな風な敵意を誰かから向けられた事は無かった。
「死喰い人の息子、私より弱いんですから、下らない事はやめて、寮に帰れと言っているんです。監督生や寮監がやらないなら私がやりますよ。ボコボコにして寮に連れ帰ってやるって言ってるんです」
「チビの闇払いもどきのくせになんなんだ。お前がしたいって言うならやってやる、けど泣いて謝るのはお前の方だ」
「この部屋は望む部屋になるんでしょう? じゃあ私たちが決闘を望むのなら決闘場が現れるんじゃないですか? ほら」
また新しい扉が壁に浮き上がった。あの先は決闘場なのだろう。この部屋は部屋にいる人間の望む通りに変化するのだ。だからオスカーとムーディが望んだ時点で部屋が現れる。
「チャーリーがチクったわけ?」
「僕は話し合いをするのかなって思ったんだけどさ」
「ムーディ、いくらなんでもまた決闘は無いんじゃないのかなって……」
「怖気づいたんですか? いいですか、私はこいつらなんて全く怖くありませんよ。私はやると言ったらやります。何もしないで見ているだけなんてホグワーツに入るまでで十分なんです」
ムーディが一体何に怒っているのかオスカーには分からなかったが、少なくとも言う通りにしてやる義理など無いのだ。そもそも最初からこの女の子が気に入らなかったし、いつもいつもオスカーの邪魔ばかりしてくるのだ。そして心無い事ばかり言ってくる。今もそうだ、何とオスカーに言ったのか? そう、死喰い人の息子だ。
「これは正式な決闘を申し込んでいるんです。グヴィン、あなたが私に話したんですから、介添人をして下さい。ドロホフ、あなたも介添人を選んでください。まあトンクスなんでしょうね」
「介添人って……」
「介添人っていうのは魔法族の正式な決闘で、決闘者が死んじゃったら代わりに決闘する人のことだよ」
「いいわよ。なんなら別の場所でグヴィンと……」
「ふざけるな!! なんの権利があってシラとトンクスを巻き込むんだ!!」
一瞬でオスカーは頭に血が上ったことが分かった。このムーディはよりにもよって、シラとトンクスを決闘に巻き込もうと言うのだ。一体全体、何の権利があってそんな事を言っているのだろう? オスカーの大声でムーディ以外はビックリしているようだがムーディの顔色は全く変わらない。
「そうですか、いいですよ。けれどこれは正式な決闘です。私が勝ったらあなたはグリフィンドール寮に戻るんです。従いますか?」
「いいさ、僕が勝ったら二度と僕に話かけるな」
「ちょ、ちょっとオスカーそんなのムーディが……」
「いいでしょう。ならもうあなたたちはこっちにいてください。ドロホフはあなたたちが大事みたいですからね。見られて気が散ったと負け惜しみを言われるのは我慢できません」
あちゃーという感じでトンクスは頭を抱えているが、オスカの頭の中は怒りで一杯だった。あの三人に対してより怒っていた。だってシラとトンクスはオスカーがホグワーツで一番大切なのだ。なのにこの女の子は二人を傷つけようというのだ。あり得なかった。
ムーディについてオスカーは隣の部屋に入った。扉が閉まって他の三人の姿が見えなくなった。本当にその部屋は決闘場になっていて、闇の魔術に対する防衛術の授業をする部屋に置いてあるモノが隅に並べられ、真ん中は盛り上がったステージになっている。
ステージにムーディは無言で上がりオスカーの方を見てくる。
「もう一度言います。私が勝ったらあなたがグリフィンドール寮に戻ります。杖に誓ってください」
「いいさ。僕が負けたら僕はグリフィンドール寮に戻る。お前が負けたら……」
「私はあなたと二度と喋りません。誓いましょう」