オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第三章 生き残った男の子

 ペンスとシラと話せなくなる前のオスカーだったら、家以外の場所に連れて行って貰えるならなんだってすると思っていた。でも、今のオスカーはすぐにだって家に帰りたかった。

 

 ここにいる今なら分かった。簡単な話でオスカーは世間知らずだったのだ。オスカーが教えて貰っていたのは、母親とペンスが話す平和で優しい世界だった。でも世の中はそんなに優しくも単純でも無いらしい。

 オスカーはまずは人に教えて貰わないで色んな事を知ろうとした。つまり、母親、禿げ上がった頭の魔法使い、年老いた屋敷しもべの事だ。母親は色々面倒になったのかオスカーに敷地から出るな以外に何も言わなくなったから、双子の屋敷しもべにお願いして、魔法界の新聞を読むことにした。

 

『プルウェット一家が襲撃される。一人死亡』

『ホグワーツ、パトロール隊、闇祓いの配置を容認』

『魔法省職員十七人が六月から行方不明』

『聖マンゴ魔法疾患傷害病院にて集団誘拐事件発生。四人が行方不明』

『魔法省、抜き打ちで七邸宅を捜査。手がかり無し』

『複数の生徒がホグワーツから各家庭に退去、一部授業の継続に問題』

『例のあの人、現れる。ボーンズ一家惨殺』

『ヨーロッパ各国大使集団失踪事件、各国はイングランドから大使を国外退去』

『バグーノルド魔法大臣、遅すぎる魔法法執行部、闇祓い局の権限強化』

 

 大量の新聞、ここ数か月の新聞をオスカーは読みに読んだ。マグルに対する事件なんて言うのはずっとあるのだが、最近になると純血の一家を襲撃して殺人だとか、魔法省職員の行方不明、誘拐のような記事が多くなる。そしてどの新聞にも書かれている事は共通している。

 ヴォルデモート、そう呼ばれる魔法使いと魔法省は戦争状態にあるらしい。新聞でさえ、ヴォルデモートと言う名前をオスカーは数年前の新聞からしか見つけることは出来なかった。名前すら魔法族達は恐れているのだ。

 

「オスカーお坊ちゃま。お便りです!!」

「オスカーお坊ちゃま。連絡!!」

「いい方から教えてよ」

「ティロ、ドネの方がいいお便り」

「ドネはおバカバカ、ご主人様からの連絡が先」

「ティロ、ティロはお坊ちゃまの事を何もご存知で無い。お坊ちゃまはご主人様がお嫌い。ご友人のお便りがお先」

「ドネはおバカバカ。お坊ちゃまはおふくろうのおローガンが好き。ドネが運ぶのはおバカバカ」

 

 この白くて無駄に眩しい家のどれもオスカーは好きになれなかったのだが、唯一嫌いになれないのはこの二人だ。少なくともこの二人はオスカーに悪意なんて全く無いし、大人みたいに変な隠し事はしない。それに何か月もいて、やっとオスカーは二人の性格の違いも分かって来た。

 

「シラからのは?」

「ほら、ティロがおバカバカ。こちらですオスカーお坊ちゃま」

「ありがとう。読みながらティロの話を聞くよ」

「もったいないお言葉!! オスカーお坊ちゃま!!」

「ドネ、ティロが話す番!! 帰って来たので魔法の練習をしないか? ご主人様はオスカーお坊ちゃまにそう言う!!」

「ティロ、ありがとう。分かった。中庭に行くよ」

「お言葉もったいない!! ご主人様にお伝え!!」

「おずるい!! ドネもお聞きした!!」

 

 シラからの手紙をローガンが運んで来てくれた。シラはオスカーがいきなりいなくなった事に戸惑っていたみたいだが、オスカーが手紙を出すとちゃんと返してくれた。でも、手紙をシラと交換すると余計に会いたくなるし、手紙だと一回のやり取りに凄く時間がかかってしまう。それにペンスの事を思い出してオスカーはペンスと喋りたくなって仕方なくなるのだ。

 

 手紙の内容はいつも通りだ。魔法界の事、マグルの世界の事、最近あった事、未来の、つまりホグワーツにいったらどうするかと言う事、そういう事ばかりだ。オスカーは手紙の中でシラに自分が今どうなっているか全部は書けなかったし、魔法界がどうなっているのかも書けなかった。書いてもシラにはどうしようも無い。怖がらせてしまうだけだ。

 でもそれだとまるで母親がオスカーにそういう事を教えなかったのと同じ気がしてしまう。返信を書くときにいつもそう思ってしまうのだ。だから今日も返信は夜に書くことにして貸してもらっている杖を持って中庭に行くことにした。ローガンは夜の方が飛びやすいし、何より、オスカーはちゃんと考えてシラに返信を書きたかった。言葉と違って、文字は相手にも自分にも届くのが遅いのだ。

 

 

 中庭に着くともうキングズリーがいた。オスカーよりずっと背が高くて百九十くらいあるだろう。肌の色は黒くて髪が無い。でも鼻筋とかそう言うのが母親と似ているのはオスカーにも分かった。

 

「やあ、オスカー。この前から一週間かな?」

「五日だけど」

「そうか、どうも夜勤すると時間の感覚がおかしくなってしまう」

 

 オスカーはこの闇祓いがあんまり好きでは無かった。むしろ嫌いだった。理由とか聞かれてもオスカーは困ってしまうだろうがとにかく好きでは無かった。でもどうもキングズリーの方は逆らしい。ドネとティロと同じくらい、キングズリーは家にいるとオスカーに構いたがった。

 

「闇祓いの仕事は?」

「闇祓いの仕事にも残念ながら休みはあるわけだ。今日のマグルの大臣の護衛は別の人間が行っている。じゃあ、前に教えた妨害の呪文のコツだけれど……」

「もう出来る。インペディメンタ 妨害せよ」

 

 闇祓いとは文字通り、闇を払う仕事だ。つまり闇の魔法使い、ヴォルデモートやその手下、父親なんかと戦うのが仕事なのだ。だから魔法界でも一部のエリートしかなれない仕事だし、このキングズリーもそのエリートだった。

オスカーの放った緑色の光線は飛んでいる蝶に当たり、しばらく蝶の動きが遅くなった。キングズリーはそれを見て笑顔になった。オスカーはそれでまたちょっと嫌になった。キングズリーを喜ばすために魔法を学んでいるのではないのだ。

 

「オスカー、この呪文は本当なら五年生の闇の魔術に対する防衛術で教える呪文だ。だから今できる君は凄いという事なんだ」

「キングズリーはいつできたんだ?」

「私かい? 私はホグワーツの一年生だったかな? 決闘クラブで覚えた呪文の一つだった気がする」

 

 じゃあ別に大したことはないとオスカーは思った。キングズリーと一年しか変わらないという事だ。同い年の時にキングズリーが闇払いに教えて貰っていたらオスカーと同じように出来ただろう。なのに褒めてくる。そう言う所も嫌いだった。

 

「次は何の呪文にしようか? アクシオ、ディフェンド、レダクト当たりかな?」

「全部出来る。基本呪文集の三巻までは母さんに教えて貰ったし、四と五はここで覚えた。アクシオ 羊皮紙 レンガ 来い!! ディフェンド 裂けよ レダクト 粉々」

 

 呪文で呼び寄せた羊皮紙をディフェンドで裂き、レンガのブロックをレダクトで砕く。これまでは母親の言うペースに合わせて呪文の発音や理論をオスカーは勉強していたが、別に呪文だけ使う練習をするのならなんと言う事は無かった。むしろオスカーは自分が母親のペースに合わせていたことに改めて自分で気づいたくらいだった。つまり、これまでがゆっくりしすぎていたのだ。

 

「オスカー、もしかすると私がなんでも褒めているとエティに誤解されるかもしれないから言っておくが、これは凄いことだ。私がホグワーツの先生なら君の寮に五十点は加点するだろう」

「でもキングズリーは一年生の時に出来ているんだから大したことじゃない」

「なるほど…… イライザもそうだが…… 自分より出来る人間に教えると言うのは難しいものだ…… この年で初めて思う事だ。じゃあ何か覚えたいことはあるかな?」

「何も言わないで魔法を使いたい」

 

 オスカーがこの家に来て思った事はいくつかある。取られないモノが必要なのだ。家も屋敷しもべも友達も、おバカで何も知らなくて、杖も振れないなら簡単にどこかに行ってしまう。だから取られないモノをまず手に入れないといけない。その一つが自分で理解して覚える事なのだ。つまり、考え方とか魔法とかそういう事だ。それがあれば、いつかは取られ辛くすることが出来るし、取られてもすぐに取り返せるようになるはずだ。

 

「イライザの妹もそれぐらいだとか言っていたが…… あれは本当だったのか。てっきり妹バカが進みすぎたと思っていたんだが…… オスカー、それは無言呪文と言われる技術だ。魔法族でも一部の人しかまともに出来ないし、今の君が使えるようになっても、魔法力の大きさから大した効果は出なくなってしまう。それでもいいかな?」

「もともと大人みたいな効果は出ないからいい。教えて欲しい」

「そうか、じゃあアメリアに教育虐待と言われないくらいにやって行こうか。最初は単純な呪文で、理論や認識と体の動かし方の連動を……」

 

 

 

 そんな風にシャックルボルト邸での日々が過ぎていった。オスカーが出来るのは魔法を覚える事くらいだったのだ。キングズリーがいる時はキングズリーに教えて貰って、母親とはちょっと勉強する時間は減ったけれど、それも続けて、ドネやティロの相手をして、シラと手紙でやり取りする。

 いくらオスカーが焦っても、どう考えてもシラやペンスと会える術が無い。オスカー自身のためにも、シラやペンスのためにも、無理やり会っても意味が無いのだ。そう母親とキングズリーに言われたし、オスカーもそれを理解していた。だから、意味が無くても、ちょっとづつ色んな事を覚えて、自分のモノを増やすしかないのだ。周りを変えられないなら自分をなんとかするしかない。いつか周りを変えられるようになるまでじっと待たないといけないのだ。

 

「カエルばっかりだ」

「オスカーお坊ちゃま。カエルがお好き?」

「ご主人様はカエルおバカバカ!!」

 

 オスカーはハロウィンの次の日、朝から温室にいた。この屋敷には中庭があって、そこに大きな温室が二つある。片方には面白い魔法界の植物が沢山生えていて、先々代、つまりオスカーの曾祖父が作ったものらしい。

ㅤそしてそうじゃない方の温室にはありえない位色んなカエルがいた。ヒキガエル、ウシガエル、虹色のカエル、爆発するカエル、周りを凍らすカエル、ガラスを食べるカエル、ヘビみたいなカエル、触ると腕が二倍になるくらい腫れるカエル、歌を歌うカエル、この温室はカエルの楽園なのだ。

 

「カエルおバカ?」

「ご主人様はカエルはお好き!! お屋敷にいらっしゃるとカエルのお世話ばかり!!」

「だからカエルおバカバカ!! でもお坊ちゃまが来たからカエルおバカバカじゃない!!」

 

 カエルの温室はキングズリーのモノだという事らしい。オスカーは不意に考えが湧いた。オスカーがいくら暴れて、汚い言葉で言っても、壊したモノは魔法で元通りになるし、口なんていくらでも魔法で黙らせることが出来る。でも生き物はそうでは無いのだ。

 

「キングズリーはこのカエルが大切なんだ?」

「ご主人様はお仕事をおくだされない!! でもカエルはお仕事!!」

「ご主人様はカエルしかお金としもべは使わない!! カエルおバカバカ!!」

 

 この温室を滅茶苦茶にしてしまったらどうなるだろう? そうしたらオスカーが今思っている事、つまり、シラやペンスに会えない事だって、母親やキングズリーに伝わるかもしれない。大切なモノに会えない体験は辛いモノだとオスカーは経験して初めて知ったのだ。だから大人だってそうならないと分からないのかもしれないと思ったのだ。

 

「何匹いる?」

「三百七十七匹!!」

「だからカエルおバカ!! ご主人様のお部屋はカエルのご本ばかり!!」

 

 カエルたちはのんびりしている。動く虫とかをたまーに咥えたり、温室の壁に張り付いたり、ぴょんぴょんビオトープの中を跳び回ったり、大きな自動で動く霧吹きの下で集会みたいに集まったりしている。どいつもこいつもオスカーがそんな事を考えている事なんて知りもしないのだ。もちろんカエルは喋ることは出来ないのだから辺り前なのだが。

 でも、そういう風に見てしまうとオスカーはそんな事する気は無くなってしまった。

 

「こいつらは外に出たいのかな?」

「カエルはお出たくない!! ご飯たくさん!! 危なくない!!」

「お屋敷と一緒!!」

 

 ティロの言う通りだ。お屋敷と一緒だ。ご飯は出てくる、危なくない、だからカエルは文句も言わずにここにいる。そういう事だ。なのに突然オスカーが出て来て危ない場所にしたらダメだろう。これではやっていることが大人と同じだとオスカーは思った。

 

「ご主人様ご帰宅!!」

「忘れ物? ティロが行く!!」

「ずるい!! ドネが行く!!」

「キングズリーが忘れ物?」

 

 突然二人はそう言って姿くらましで消えた。オスカーは知っていた。キングズリー・シャックルボルトは忘れ物なんかしない。忘れ物したら屋敷しもべに取りに行かせればいいし、そもそも単純な間違いをほとんどしない。オスカーは自分がシラや母親よりそういう事をしない人間だと思っていたが、キングズリーはもっとそういう単純な間違いをしない人間だと見ていて思っていた。そして間違いをしても余裕を持って対応できる大人だ。だから嫌いなのだ。

 オスカーも広間に行く事にした。姿現しをして入ってくるのなら玄関から広間に行くはずだ。いつも通りならだが。

 

「本当に? キングズリー…… 信じられないわ」

「本当だ。すでにゴドリックの谷には闇祓いと惨事部の部員が出そろって確かめている。記憶の再現からして彼が滅びたのは間違いない。ただ、滅びた理由が分からない事と彼の杖が見つかっていないようだし、どうも子供はダンブルドアが連れ出したらしい」

 

 広間の中から声が聞こえる。母親、ヘンリエッタとキングズリーの声だ。オスカーはやっぱり何か起こったのだと思って中に入った。広間の奥のソファーで二人が喋っているようだ。屋敷しもべの姿は無い。もしかすると二人が下がらせたのかもしれない。

 

「だとすると……」

「エティ、先手を打った方がいい…… オスカー?」

「おはよう。母さん。キングズリーも」

 

 先手、先手とは何だろうか? 逃げるための先手だろうか? でもオスカーは二人を手伝う事も出来ないだろう。オスカーの魔法など、杖を使ったとしても成人の魔法族と比べるべくも無いのだ。

 

「エティ、私の予想だが、彼は賢い。もう知っているはずだ。そして多分だが……」

「オスカー、ペンスを呼んでくれる?」

「ペンスを? でも……」

「いいから、呼んでくれる?」

 

 オスカーはペンスを呼びたくなかった。ペンスを呼んで出てこないと会えない事をいやでも認識させられるからだ。

 

「ペンス」

「はい。オスカーお坊ちゃま」

 

 バチッと言う音がして目の前に足をついて完璧な礼をしている屋敷しもべが現れた。オスカーは思わずペンスに抱きついてしまった。この何カ月かずっとペンスに会えなかったのだ。抱き着くと家の厨房と同じ、いつも家に作ってあるイチゴのジャムと同じような匂いがした。

 

「オスカーお坊ちゃま。恐れ多いですから……」

「ペンス、あの人はもう家にいないのね?」

「はい。奥様。ご主人……」

「ペンス、自分を罰することをやめて」

 

 オスカーから飛びのいて傍にある椅子を掴もうとしたペンスを見てオスカーは言った。何か父親に禁じられた事を言おうとしたのだ。屋敷しもべはルールを破ると自分を罰しようとする。ペンスはそれが弱い方らしいのだが、オスカーはあんまりそれを見たくなかった。

 

「ペンス、あの人はオスカーに全部渡すと言って出たのでしょう? あの人の事を言わずに答えて」

「はい。奥様。今朝、四時ごろ、お屋敷に来られて、全てオスカーお坊ちゃまのものだとおっしゃりました。ですから全ての魔法が解けております。魔法族に対しても、マグルに対してもそうです。先代様からの魔法も解けております」

 

 自分の物? どういう意味なのだろうか? ペンスの言い方では今日の朝までは父親が家にいたと言うのだ。だと言うのに自分の物になるのだろうか? だって父親は死んでも捕まってもいないのだ。母親は? オスカーはついて行けなかった。

 

「やっぱり賢いな。エティ、バーティは確実に彼の家を捜索するはずだ。先回りした方がいい。捜索隊も荒っぽい人間が行くかもしれない。闇祓いならいいが、全員の統制が取れるわけでは無い。特に価値がある物は先回りした方がいい」

「魔法もかけ直さないといけないわ。魔法関係の動物や植物がある場所にマグルが入れるようになってしまっているはず。キングズリー、手伝ってくれる?」

「ああ、今すぐ動いた方がいい。死喰い人達も動いているはずだ」

 

 二人の大人が何を言っているのかオスカーには分からなかった。家に戻るのだろうか? そもそも何が起こったのだろうか? でも、二人は深刻そうな顔をしているし、今、質問をして返ってくるだろうか?

 

「オスカー、家に居てちょうだい。絶対に家から出てはいけないわ。ミリベス。家からオスカーを出さないで。もし魔法族が来たら私かキングズリーの所へ。ペンス。私とキングズリーをドロホフ邸に連れて行って」

「かしこまりました。お嬢様」

「かしこまりました。奥様」

 

 バチっという音が二回して、大人二人とペンスがいなくなり、代わりにミリベスが現れた。あっと言う間の出来事だった。ペンスと会えたことでオスカーは頭の中が一杯だった。またペンスと喋られるようになるのだろうか? シラとも?

 

「ミリベス。二人はどこに行ったんだ?」

「オスカーお坊ちゃま。分かっておられるでしょう? お二人はドロホフのお屋敷です。お坊ちゃま。朝食にいたしましょう。ドネ、ティロ」

「「朝ごはんでございます!!」」

 

 ミリベスより高い声が二つ響き、ボンボン!! という音がしてテーブルの上に朝ごはんが並ぶ。オスカーがこの家で好きなシャクシュカとかオジャとかいう名前のオムレツがトマトソースで煮込んであるような料理だ。でもとても朝ごはんを食べられる気分では無かった。

 

「オスカーお坊ちゃま。いかが?」

「クスクスの方がいい?」

「ティロがシュクシャカの方がいいって言った」

「今日は良い日だからこの方がいいってドネが言った」

「食べるよ」

 

 あんまりオスカーはミリベスが好きでは無かったが、やっぱり双子の屋敷しもべの事は嫌いになれなかった。もちろんペンスほど好きでは無かったが、二人はオスカーがお礼を言うと凄く喜ぶから嫌いにはなれなかった。

 

「そうだ。いい日ってどういうことなんだ?」

「おや? お嬢様からお聞きになりませんでしたか?」

「何も聞いてないよ」

「今日は良い日!!」

「闇の帝王がお倒れ!!」

「ご主人様達のお勝ち!!」

「ご主人様もお暇!! 結婚相手をお探し!!」

 

 思わずオスカーもスプーンを落としそうになった。闇の帝王が倒れた? 闇の帝王とは例のあの人のことだ。つまり、ヴォルデモート卿のこと。誰が? 父親もキングズリーも所詮はどちらかの腕利きの魔法使いでしかない。誰もヴォルデモート卿に勝てるなんで思っていなかったはずだ。

 

「ミリベス。倒すって誰が?」

「日刊預言者新聞の号外が出ています。ドネ」

「ゴドリックの谷でございます!!」

「ハリー・ポッター!!」

 

 渡された新聞には文字が踊っていて、完全に破壊された家の写真がある。

 

『生き残った男の子』

『例のあの人、倒れる』

『闇の帝王はいずこに?』

『戦争の終わり』

『ハリー・ポッターは何者か?』

 

 そんな見出しがある。読んで見ると内容はこうだ。昨夜、ゴドリックの谷にあるポッター家を例のあの人が襲ったらしい。例のあの人はポッター夫妻をずっと追っていて、遂にその場所がバレたのだ。その理由は予見と言う、未来を予言する魔法だと言われているらしい。なんでも予見によれば例のあの人を唯一倒せるのが、ポッター夫妻の息子かもしれないのだと言う。だからわずか一歳の子供を例のあの人は狙ったのだ。

 結果として、ポッター夫妻、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターは死亡、息子のハリー・ポッターは生き残ってアルバス・ダンブルドアと言うホグワーツの校長に保護されたらしい。

 

「なんで誰も倒せないのにヴォルデモートは死んだ? それとも死んでいない?」

「オスカーお坊ちゃま。その名前を口に出されるのはおやめください。オスカーお坊ちゃまはいずれは素晴らしい魔法族になられますが、今はそうではありません。そして我々はお坊ちゃまほどその名前を聞く勇気が無いのです」

「分かったよ。でもなんで?」

「分かりません。ご主人様にお聞きすれば大方の予想をお話頂けるかと。そしておおよそそれは正しい。ですから、ご主人様が戻られたら、オスカーお坊ちゃまがお聞きください」

 

 その日はオスカーも色んな予想をして二人を待った。

 オスカーの考える予想はいくつかあった。実はハリーが凄く強い魔法使いで赤ちゃんでもヴォルデモートに勝てるくらい強いのかもしれない。流石にあり得ないだろうか?

 他にも実はハリーはアルバス・ダンブルドアと言うヴォルデモートも恐れる魔法使いがかけた罠で、ハリーに魔法をかけると凄い魔法がかかってヴォルデモートは死んでしまうのかもしれない。この方があり得そうな気がオスカーはした。

 いくつも色々案が浮かんだが、ミリベスの言う通り、キングズリーに聞いた方がいいだろう。キングズリーは闇祓いで戦い方も、魔法省の情報だって知っている。何よりこの家で一番賢いのだからキングズリーに聞くのが一番だ。オスカーはキングズリーは嫌いだけれど、賢くないなんて思っていなかった。

 

 魔法ラジオはブリテン島各地の様子を中継していて、どこもお祭り騒ぎらしい。あちこちでパーティをしたり、マグルの面前で堂々と魔法の話をしたり、果ては流星群を花火代わりに打ち上げているらしい。

ㅤでもミリセント・バグーノルド大臣はパーティを楽しむ権利を奪わせないと言って、今日だけは魔法族がお祭り騒ぎをすることを許したと言う。オスカーはずっと広間で二人の帰りを待った。ペンスにもシラにも会えると思ったからだ。

 

「アメリアに法廷証人をお願いして、裁判時の戦略を考えておこう。それに先にシャックルボルトと縁のあるウィゼンガモットのメンバーに話を通しておくべきだ。議長はダンブルドアだから心配は要らないはずだが」

「そうね。先にその辺りを押さえておくしかない。今日の夜には魔法省が踏み込むんでしょう?」

「ああ、その件で私は外されるだろうが、ガヴェインならそこまで強権的にやらないはずだ」

 

 昼前にやっと二人は帰って来た。ペンスは一緒では無かった。オスカーには何の話をしているのか分からなかったし、とにかく色んな事を聞きたかった。

 

「ミリベス、ご飯にしてちょうだい。ああ、オスカー、ちょっと話は待って」

「すまない、先に私は局へ向かう。何かあればまた連絡する」

「お嬢様、こちらへどうぞ。ご主人様、行ってらっしゃいませ」

「こちら!!」

「ませ!!」

 

 キングズリーはそのまま姿くらましで消えてしまった。魔法省に出勤したのだ。よく考えればヴォルデモートがいなくなったら闇祓いだって忙しいのだろうから、母親に付き合っていたのがおかしかったのかもしれないとオスカーは思った。

 かなりオスカーの母親は疲れた様子だった。最近はいつも難しい顔をしているのだが、いつもにましてそんな顔だった。ヴォルデモートは母親からすれば敵なのに、どうして難しい顔になるのかオスカーには分からなかった。

 

「早く言えって顔に書いてあるわ」

「書いては無いよ。なんでヴォル…… 例のあの人はいなくなったの?」

「さあ? キングズリーが言うには、考えられるのは少ないけれど状況的には彼の杖が逆噴射でもしなければこんな状態にならないと言っていたわね」

「逆噴射?」

「そう。あんな風にポッターさんのお家が壊れるのは、彼の魔法力が必要だろうと言うのと、彼を倒せるのはダンブルドア以外だと彼自身だから、ポッター家の誰かが彼の魔法を跳ね返したのではないかという事ね。ドネ、トーストをもう一つ」

「トースト!!」

「マーマレード!!」

 

 なるほど。確かにその方がオスカーも納得できた。自身で倒せないのなら、相手の力を使うという事なのだ。魔法を跳ね返す方法が何か分からないが、もしそんな方法があるのならあのヴォルデモートだって倒せるのかもしれない。自身が強くなるのでは無くて、強い何かの力を自在に操るという事なのだろう。

 

「ペンスとシラ……」

「はいはい。まだあの二人には会えません。あの家には魔法省が捜査を行うから、それが終わるまでは入れない。なぜかは分かるでしょう?」

「父さんが悪いやつだから」

「まあそういうこと…… それに…… 裁判がある。私もあの人に協力していたかもしれないし、いずれあの人も捕まるだろうから、その裁判の後になるまで入れなくなるでしょう」

「裁判?」

 

 裁判と言うと、シラが良く言っている、魔女裁判とかだろうか? つまり、その人が悪い事をしたのかしてないのか、悪い事をしたならどうやってその罪を償わせるのか、そういう事を決める事だ。

 

「母さんも裁判される?」

「ええ。もちろん」

「裁判って…… アズカバンに行くって事?」

「お母さんはそうならないかもしれないけれど、あの人はそうね」

 

 そうならないかもしれない? つまり母親もアズカバンに行くかもしれない? 父親はアズカバンに行く? アズカバンとはイギリスの魔法族なら誰でも知っている恐ろしい監獄の事だ。魔法族の監獄、いまだかつて誰も脱獄出来たことが無いと言う。しかも吸魂鬼と言う、魂を吸う鬼が看守をしているのだ。

 

「あなたは裁判を見たい? オスカー?」

「僕が?」

「ええ、キングズリーが言うにはあなたはその年にしては賢いから、隠し事はできるだけやめてあげて欲しいといつも言うのね。そこのミリベスにも言われるのだけれど」

 

 裁判、裁判とはどんな風にするモノだろうか? どこでやるのだろうか? 魔法省だろうか? 連れて行って貰って何が出来るのだろうか?

 

「じゃあ見たい。見ないと分からないし、魔法省に行ってみたい」

「ならそうしましょう。ほら、オスカー、ちゃんとご飯を食べて、今日はめでたい日なんだから」

「めでたい日?」

「そう。生き残った男の子に乾杯ってするの」

 

 オスカーは母親がそんなに嬉しくもなさそうにグラスを挙げるのを見ていた。それはその年三回目の出来事だった。つまり、またオスカーの世界は変わってしまったのだ。

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