オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第六章 魔法の杖

ホグワーツ魔法魔術学校

制服

 一年生は次の物が必要です。

   一、普段着のローブ 三着(黒)

   二、普段着の三角帽(黒) 一個 昼用

   三、安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの) 一組

   四、冬用マント 一着(黒。銀ボタン)

 衣類にはすべて名前をつけておくこと。

 

教科書

 全生徒は次の本を各一冊準備すること。

  「基本呪文集(一学年用)」  ミランダ・ゴズホーク著

  「魔法史」          バチルダ・バグショット著

  「魔法論」          アドルバート・ワッフリング著

  「変身術入門」        エメリック・スイッチ著

  「薬草ときのこ千種」  フィリダ・スポア著

  「魔法薬調合法」       アージニウス・ジガー著

  「幻の動物とその生息地」   ニュート・スキャマンダー著

  「闇の力 護身術入門」   クエンティン・トリンブル著

   参考図書:ザ・クィブラー

 

その他学用品

  杖(一)

  大鍋(錫製、標準2型)(一)

  ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)

  望遠鏡(一)

  真鍮製はかり(一組)

 

 ふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい。

 一年生は個人用箒の持参は許されていないことを、保護者はご確認ください。

 

「こんなのが全部ロンドンで買えるのかな?」

「ダイアゴン横丁なら買えるんだろ? 僕も行ったことないけど」

 

 煙突飛行粉で飛ぶ準備をしながら二人はドロホフ邸の広間で話していた。オスカーはこの日がずっと楽しみだった。二人が住む場所はスコットランドでも北の端っこだったし、魔法族が多くいる場所などほとんど行ったことが無かったからだ。

 

「じゃあキングズリー、よろしくね。グヴィンさんからも夜までよろしくって言われているから何かあって遅くなっても大丈夫」

「え? 母さんが来るんじゃないの?」

「いいえ。違うわ。お母さんは家の事でいろいろやることがあるから二人はキングズリーに案内してもらうわ」

 

 オスカーはそれを聞いただけでちょっと気分が落ち込んだ。てっきり母親と一緒に外出できるのだと思っていたのだ。魔法省以外、オスカーは母親とドロホフ邸、シャックルボルト邸の敷内しか一緒に歩いたことが無かった。

 

「じゃあ行こうか。煙突飛行粉の使い方は大丈夫だね?」

「それくらい分かるよ」

「私は初めてなんだけど。先に撒いて、緑の炎になったら行先を言えばいいんだったよね?」

「そうだよ。言い間違えると違う場所に出るから気を付けないといけないんだ」

 

 やっぱりオスカーはキングズリーが好きでは無かったし、シラがキングズリーを信頼できる大人だと考えていそうなのも嫌だった。そしてどうにもキングズリーも母親もオスカーがちょっと生意気な事を言っても笑っているだけなのも嫌だった。

 

「じゃあ私は先に行こう。行先は漏れ鍋だ」

 

 キングズリーはそう言ってそのまま暖炉の中に消えた。オスカーは言い間違いで違う場所に飛んでくれないかと思っていたが、あの男はそんな簡単な間違いをしない人間だとも知っていた。

 

「よし…… じゃあエティさん行ってきます。漏れ鍋!!」

「行ってきます。漏れ鍋」

「行ってらっしゃい」

 

 シラに続いて暖炉の中に入ると強烈な回転に襲われる。色んな暖炉が次々と目の前を通り過ぎていく。オスカーは何回かこの回転と耳を襲う轟音を体験していたので目当ての暖炉が見えたのと同時にしっかり自分が立っている事を意識することができた。

 

「え!? う、うわっ!?」

 

 目の前で前のめりに倒れそうになっているシラをオスカーは後ろから支えた。キングズリーは相変わらずの笑顔でこっちを見ている。出た先は普通のパブと言ったところで、ザ・魔法族とでもいうべき三角帽やローブを来た人間達が新聞を読んだり、何かの話題について言葉を交わしたりしている。

 

「お、シャックルボルトの若殿じゃないか。任務かい?」

「トム、今日は引率と買い物でね」

「なんだ。若殿、後継ぎがいたのかい?」

「いや、そうでは無い。従弟の子供でね。まあ君も知っている通り、シャックルボルトの家に後継ぎがいないからそうなるのかもしれないが」

 

 勝手な事を言っているとオスカーは思った。シャックルボルトの家や敷地は広かったが、オスカーは自分の家と屋敷しもべがいれば十分だった。

 

「うーん、なんか気持ち悪いよ。魔法族の人はみんなよく平気だね。さんはん…… 三半規管? が普通の人と違うんじゃないかな……」

「慣れれば大丈夫だろ。僕も初めての時は立てなかったし」

 

 シラを支えながらオスカーはもうちょっと周りの魔法族を観察した。オスカーも多くの魔法族がいる場所に来たことは少なかった。一番目を引くのは玉ねぎの輪切りみたいなものをネックレスにして首から下げている男だ。眼が左右で少し違う方向を見ていて、目の前の私はまともな魔法族ですと言わんばかりの恰好した女の人と何か議論している。

 

「守るべき。指導要領を。一年だったとしても。ゼノ」

「パンドラ。死の秘宝について探求できるこんな機会は無い。ダンブルドアがあの秘宝、特に杖について何か知っていることは事実だ」

「馬鹿。重要な職業。命を預かる。教師は。ニワトコの杖は見つからない。関係が無い。隠されていることが事実だとしても、沢山の秘密が。ホグワーツに。ゼノ。あと、言っていた時間は合ってる? イライザが言っていた」

 

 きっちりした魔女の方も何かおかしな喋り方をしている。もちろんオスカーはそもそも魔法界の普通が分からなかったのでそれがおかしいのかどうかも良く分からなかったが。

 

「ではもう行かないと。二人とも中庭に行こう」

「シラ、大丈夫か?」

「うん。ありがとう。ちょっとマシになって来たよ。教頭先生の車の後ろに乗った時みたいだった」

 

 三人はパブを通り抜けて、壁に囲まれた小さな中庭にたどり着いた。ゴミ箱と雑草が二、三本生えているだけの庭だ。

 

「さて、ゴミ箱の三つ上、二つ右、ここを三回だ」

 

 キングズリーが杖で叩くとレンガの壁全体が震えた。真ん中のレンガが外れたかと思うとその穴がどんどん広がって大人の男性の二倍くらいの高さがあるアーチができた。アーチの向こう側には石畳の道が曲がりくねって先が見えなくなるまで続いている。

 

「ダイアゴン横丁へようこそ」

「やっぱり魔法だ……」

 

 シラが目をキラキラさせるのでオスカーもちょっと楽しかった。キングズリーがいなければもっと楽しかっただろう。三人が通り過ぎると勝手にアーチは小さくなり、ただのレンガの壁に戻った。オスカーは自分でもこういう建造物だったり物に魔法をかけれるようになれるだろうかと考えた。

 三人の近くには鍋屋の看板がある。銅、真鍮、錫、銀、自動かき混ぜ鍋、折り畳み式と書かれている。ホグワーツで必要な物にはこの鍋も含まれていたはずだ。早速買い物をするのだろうか?

 

「今日は買い物だけれど。二人を魔法界に案内してくれと言われているからまずはグリンゴッツに行こうか」

 

 隣のシラはいろんなところに目が行くらしく、時々店や魔法族達を見つめすぎていて遅れそうになっていた。左側に見える煙突飛行粉を売る店の前では中年の魔法使いと年をとった魔女がなにやらブツブツ言っている。

 

「前にまとめ買いしたときはキロ四ガリオンだったねえ?」

「それが今は八ガリオンだなんて。魔法省が出勤手当を削ったのはこのせいか」

 

 右側にはふくろうを籠に入れて一杯吊ってある店があり、ショーウィンドウでは日光を浴びて白く輝くふくろうが眩しそうに眼をつぶっている。籠には当店の看板白ふくろう、二十八ガリオンと札が付けられていた。

 その隣は高級クィディッチ用品店だ。オスカーやシラと同じくらいの赤毛の少年が箒が何本も飾ってあるショーウィンドウにかじりついている。

 

「最新型ニンバス1500、うちのこづかいじゃ七年生になっても買えない……」

 

 決闘用品店、手袋からマント、靴まで、天然最高級ドラゴン革取り扱い。闇祓い御用達、と書かれている店にはウィンドウにキングズリーが時々つけているようなマントや靴が飾ってある。他にも羽ペンから呪文の本の山を取り扱う店まで、まさにここは魔法界といった感じだった。

 

「あそこがグリンゴッツだよ」

 

 キングズリーが指した建物は他の商店街の街並みが同じ高さなのにその建物だけは頭一つ飛びぬけた高さをしている。真っ白な建物の正面にはブロンズの観音開きの大扉があり、その両脇には真紅と金色の制服を着てペンスより少し大きいくらいの生き物が立っていた。

 

「オスカー、あれが小鬼だよね?」

「そうだろ」

「私は小鬼の反乱の歴史は結構読んだけど。他の魔法史と違って、十字軍の歴史と同じくらい血生臭さかったよ」

 

 階段を登って行くと小鬼が良く見える。浅黒くてずる賢そうな顔をしている。手と足は屋敷しもべよりずっと長いだろう。三人が近づくと小鬼がお辞儀をしてきた。

 大扉の向こうにはもう一つ銀色の扉があって言葉が刻まれている。

 

 見知らぬ者よ 入るがよい

 欲のむくいを 知るがよい

 奪うばかりで 稼がぬものは

 やがてはつけを 払うべし

 おのれのものに あらざる宝

 わが床下に 求める者よ

 盗人よ 気をつけよ

 宝のほかに 潜むものあり

 

「すごいなあ。魔法界でも銀行員ってあるのかな?」

「銀行員?」

「マグルの世界では銀行で働く男の人達をそう言うんだ。今はいないけどお父さんはその仕事をしてたから」

 

 オスカーはシラの父親の話を初めて聞いた。確か母親と別れて、妹と一緒にフランスに残ったとしか聞いていなかった。銀行員とは何だろうか? 呪い破りみたいにマグルもマグルが作った墓だったり遺跡だったりを探検するのだろうか?

 ホールは白い大理石でできた空間だった。そこで百人を超えるだろう小鬼たちが細長いカウンターの向こう側のやたらと高い椅子に座り、真鍮の秤でコインや宝石の重さを計ったり、高そうな貴金属の吟味をしている。

 キングズリーは特に迷うことなくなんだか一番偉そうな、一番奥に座っている他の小鬼より皺の深い小鬼のところまで行った。

 

「どうも。シャックルボルトの金庫に行きたいのだが」

「これは。ミスター・シャックルボルト。失礼いたしました。すぐに案内させましょう。申し訳ないですが鍵を…… おっと失礼いたしました。他にご用命はございますか?」

 

 キングズリーは偉そうなゴブリンが何か言う前に鍵を出していた。金色のとんでもなく年季が入っていそうな鍵だ。なぜなら金に緑色の錆びのようなものが浮かんでいるのだ。ゴブリンは注意深くその鍵を調べてキングズリーに返した。

 

「今日は引き出すだけだが…… ああ、後でもう一回来させてもらう。用はその時に言おう」

「かしこまりました。ボグロッドとグリップフックにご案内させましょう。ボグロッド、グリップフック、他の要件はいい。旧家のお方だ」

 

 要件とは何なのだろうか? オスカーはちょっと気になった。それにドロホフの金庫では無くシャックルボルトの金庫に行くと言う。キングズリーの行動はオスカーにとって良く分からなかった。

 

「じゃあ行こうか。一応社会体験と言うわけだから、一番深いところまで行っておけば十分だろう」

 

 かなりかしこまった感じで二人の小鬼が三人にお辞儀し、ホールの一番奥にある扉を開いたので三人はついていった。

 

「やっぱりなんか特別なんじゃないかな。オスカーのお家って」

「シャックルボルトの金庫だから、特別なのはキングズリーの家だ」

 

 オスカーはシラに言われてもちょっと嫌だった。もちろん、さっきのバーテンやシャックルボルトの屋敷しもべにそういう扱いをされるのはもっと嫌だった。オスカーの家はペンスが管理していて、森の中にあるあの家だけなのだ。白くて眩しいシャックルボルトの屋敷では無い。

 小鬼と一行は松明に照らされた細い石造りの通路を歩いた。傾斜がどんどん急になり、途中で線路が現れた。オスカーは本やテレビ以外で線路を見るのは初めてだった。

 

「炭鉱みたいじゃない? 私は行ったことないけど」

「あれがトロッコってやつか」

 

 ボグロッドが口笛を吹くとオスカーが言った通り、小さなトロッコが闇の中から現れた。人間と小鬼、合わせて五人はそれに乗り込んだ。シラはなんだかおっかなびっくりという感じでトロッコに乗っていたがオスカーはちょっとした探検みたいで楽しみだった。

 

「オスカー、これ鍾乳洞ってやつ…… うわわっ!?」

 

 シラが何か言っていたがとてもじゃないがスピードが出ている時は喋っていられない。ゴブリンたちがどう見てもかじ取りをしていないのにトロッコは猛スピードでとんどん深く潜っていく。

 洞窟の中は外と違って冷たい空気なので、オスカーは目がぱさぱさどころかチクチクしてきた。でもこんな体験をしたことが無かったので所々たいまつで照らされた場所を頑張って見ようとした、地底湖、鍾乳石に石筍、金庫らしき物体、いろんなものがドンドン過ぎていく。

 

「オスカー、私は行ったことないけど、遊園地のジェットコースターって多分こんなんだよ」

 

 シラが風とガタンガタン言うトロッコに負けないように大声で言った。たしか遊園地というのはときどきシラの家にあるテレビの広告で映る場所のことだ。オスカーは遊園地にも金庫があるのかと思った。ダイアゴン横丁みたいに人が集まるから銀行が必要なのかと思ったのだ。

 その後もどんどんトロッコは深く潜っていき、最後にやっとスピードが下がった。

 ちょっとフラフラしているシラが降りるのを手伝ってオスカーはトロッコを下りた。下りた瞬間に何か大きなものが地面を揺らしているのが分かった。

 

「地下って温度が一定だから物を保管するにはいいって学校の先生が……」

 

 シラは途中まで言いかけて目の前のモノに圧倒されていた。オスカーもだ。巨大なドラゴンがこれまた巨大な杭で地面に繋がれ白濁した目でこちらを見ている。

 オスカーはモノが見えているのか疑問だと思った。何故ならオスカー達の話声や足音がするとこのドラゴンは反応するのだ。そして瞳はほとんど動いていない。一行が近づくとドラゴンは吠えた後、こちらに向かって炎を吐いた。冷たい洞窟の空気があっと言う間に暖かくなり膨張した空気がオスカー達の後ろへ抜けて行った。

 

「この距離であれば安全です」

「鳴子を鳴らしている間にお願いします」

 

 小鬼が鳴子と呼んだ小さな金属の物体を振ると、金床にハンマーを打ち付けるような音が鳴り、洞窟の中に反響して何倍にもなった。オスカーの体の骨にまで響いてくるような音だ。

 ドラゴンはそれを聞くとさっき火を噴く前よりずっと大きな咆哮をあげ、震えながら後ずさった。やっと道が見えて、ドラゴンの後ろに金庫がいくつかあるのが分かった。

 

「オスカー、あのドラゴン怯えてるんじゃないかな」

「守ってるんじゃなくて、守らされているってことか」

 

 シラの言う通り、ドラゴンは明らかに怯えていた。ドラゴンの体は傷だらけだ。恐らく、あの音がすると自分が傷つけられると分かっているのだ。

 オスカーは小鬼も魔法族もやることは一緒なのだと思った。考えることが出来る生き物は自分達が有利なら何でも不利な相手に押し付けられるのだ。だって、魔法族も小鬼もこんな洞窟の奥でずっと宝を守るなど嫌だろう。だからドラゴンに押し付けているのだ。

 

「ではどうぞ」

 

 グリップフックがシャックルボルトの金庫の扉を開けた。オスカーはてっきり鍵を使うのだと思ったのだが、小鬼が手を押し付けると扉は消えたのだ。

 隣のシラがあっと息を呑むのが分かった。中は洞窟のようになっていて奥の奥まで金貨が詰まっている。手前には甲冑からわけのわからない魔法薬、巻物や机に鏡、兜や刀剣、宝石類まで、宝だと魔法族でもマグルでも認識できるものが山ほどあった。

 

「オスカー、もともと君のお爺さん、この金庫の前の持ち主は君と君のお母さんに半分くらいこの中身を渡すつもりだった。だから君のホグワーツ準備のお金はここから出そう。そうしないと私が今晩夢の中で怒られてしまう」

 

 あったことも無い爺さんの話をオスカーはしないで欲しかった。シラは隣でため息つきながら金庫の中身をみているようだ。オスカーは要らないので隣のシラに全部あげると言いたかったがシラはそんなことを言っても喜んではくれないだろう。

 お金をキングズリーが巾着に入れた後はそのままトロッコに乗ってグリンゴッツのホールまで戻った。帰りもシラは絶対に忘れないようにとばかりに金庫とドラゴンを凝視していた。オスカーはシャックルボルトがどうのこうの以外はしたことが無い体験だったのでグリンゴッツは面白いと思った。

 

「じゃあ行こうか。オスカーの分はおろしたし、シラの分のお金はホグワーツから預かっているからね」

 

 三人は照り付ける陽の光にぱちくりしながらダイアゴン横丁を歩いた。シラはホグワーツからのお金というとちょっと恥ずかしそうだ。オスカーはあんまりシラの家が裕福ではないと知っていたが、そもそも普通のホグワーツの生徒がどれくらい裕福なのか分からなかった。そして自分の家が普通では無いことくらいは分かっていた。

 

「まずは制服だね」

「キングズリー、私の分のはエティさんのをペンスが仕立て直してくれるって言ってくれたから……」

「ああそうだね。じゃあオスカー、ここで君が制服を買っている間に私たちは魔法薬の材料を先に買ってこよう。お金はドロホフかシャックルボルトの屋敷しもべが払うと言えば大丈夫だ。この洋装店なら大丈夫」

「分かったよ」

 

 結局、お金を下ろしたのに使わないのだ。どうも本当にさっきのグリンゴッツは社会見学だったらしい。

ㅤそしてオスカーは不満だった。別に急いでいるわけでは無いのだからオスカーはもっとシラと店を見て回りたかったのだ。もやもやしながら、マダム・マルキンの洋装店、普段着から式服まで、と書かれた看板の店にオスカーは一人で入った。

 出迎えたマダム・マルキンはえらく紫色がキツイ服を着た、愛想のよい、ずんぐりした魔女だ。

 

「坊ちゃん。ホグワーツなの?」

「はい。新入生です」

 

 オスカーはどこでもお坊ちゃま扱いだと思った。他の新入生もみんなこう言われるのだろうか? それとも自分はそんなにお坊ちゃまみたいに見えるのだろうか?

 

「全部ここで揃いますよ。親御さんはいらっしゃるの?」

「シャックルボルトかドロホフの屋敷しもべがお代は払うと言えと言われました」

「あら? これはこれは…… あの闇祓いの若さんは結婚されてないから、先代のお嬢さんのお子さん? 先代さん、あなたのお爺さんにはここを御贔屓にしていただきましたわ」

 

 またまたこれだとオスカーはうんざりだった。お爺さんとか言われてもオスカーはそんな人物に会った事が無いのだ。そもそも爺さんがこの店を贔屓にしたからと言って何なのだろう?

 

「申し訳ないけれど奥で待って頂けますか? 坊ちゃんと同じで今年ホグワーツに入るお嬢さんが座ってるあのあたりで待って頂けるかしら?」

「分かりました」

 

 結構人が来ているらしく、踏み台の上で若い男の子二人に魔女がローブを着せて、その着丈がわかるようにピンで止めている。その順番待ちなのか、服が出来るのを待っているのか、端の方のソファーに女の子が一人座っている。ダークグレーの髪に黒い目でオスカーから見てもずいぶん小柄だ。さっき今年ホグワーツだと言われなければシラより二、三歳下に見えるくらい小さい。

 

「座ってもいいか?」

「大丈夫ですよ。貴方もホグワーツですか?」

「そうだ。新入生なんだけど」

「私もですよ。なんか私のサイズが小さいからちょっと仕立て直すのに時間がかかるとか言われて結構待たされているんです。貴方はそんな心配は無さそうですね」

 

 良く通る声だった。もし彼女が大柄な怖い顔でこの声ならオスカーも背筋が伸びたかもしれないような声だ。でも彼女はとても小さかった。

 

「これから決闘用の手袋と靴を買ってもらうつもりなんです。でもこの感じだと私のサイズなんてないかもしれません。そう言えばホグワーツでは決闘や決闘クラブは禁止らしいですけど。理由が分かりませんよね。ちょっと前まで戦争をしていたんですから、もっと戦う練習をさせてもいいと思います」

 

 決闘用の手袋? 小さいのに物騒な女の子だとオスカーは思った。そしてこんな小さい女の子が決闘する絵がオスカーには思い浮かばなかった。オスカーがちょっと大声で凄んだら泣いてしまうのではないだろうか?

 

「もう杖は買いましたか?」

 

 オスカーはほとんど言葉を返してないのに女の子はどんどん喋りかけてくる。

 

「まだ買ってないよ。杖は最後に買う予定なんだ。時間がかかるらしいから」

「そうなんですか? 私はもう買いましたよ。姉さんと一緒のイトスギの杖でした」

 

 なんだか得意そうだとオスカーは思った。言葉の端に嬉しさがにじみ出ている気がするのだ。イトスギの杖とはそんなにいいものなのだろうか?

 

「あとは寮の一年生で一番になれば姉さんと…… 姉さんは私が一番になれなかったらおかしいとか言うんですけど。私はちょっと疑問なんです。あ、そうでした。どこの寮になりそうとか家族に言われました?」

「父さんはスリザリンで母さんはグリフィンドールだった。僕がどこに行くのかは知らないよ。組み分けもどうやるのかみんな教えてくれないし」

 

 そう。組み分けだ。オスカーはかなり気分が沈みそうだった。オスカーはシラと一緒の寮にはなれないのではないかと思うのだ。何となくだがオスカーはそう思っていた。寮が一緒なら今よりもっと話したり出来るだろうが違ったらそうでは無いだろう。

 

「まあそうですよね。組み分けされないと分かりませんよね。でも、私はグリフィンドールですよ。私の家族はみんなそうでしたから。貴方のお父さんには申し訳ないですけど、スリザリンに入れられたら私はちょっと困ったことになります」

「そうなのか」

 

 スリザリンならオスカーは絶対にシラと一緒の寮では無いだろう。そして後の三つの寮だったとしても一緒になれる可能性は三分の一だ。加えてグリフィンドールならどうなるのか、オスカーは自分の名字と父親の悪名がプラスに働かないことくらい分かっていた。

 

「なんでジョンはいつも姉さんの言う通りなんでしょう……」

 

 急に隣の女の子は頭を抱えだした。彼女の視線の向こうにはガラス越しにやたら手を振っている女の人がいる。ちょうど隣の女の子をそのまま大きくして、ちょっと釣り目ぎみにした感じだ。両手にはやたらとでかいアイスクリームとクレープを持っていて、隣の同い年位の男の人にありえないくらい荷物を持たしている。男の人は荷物で前が見えていないのではないだろうか?

 

「二人とも闇祓いで同じ仕事しているんですからちょっとくらい断れないんですかね……」

「闇祓いなのか?」

「そうですよ。私の家族はみんな闇祓いですし、姉さんと仲がいいジョンも闇祓いなんです」

 

 家族がみんな闇祓いなんて物騒な家族だとオスカーは思ったが、父親が死喰い人で保護者もどきが闇祓いの自分が言えることでは無いと思い直した。

 

「あ、さっき屋敷しもべってマルキンさんの方からちょろっと聞き漏れてきたんですけど、貴方、代々魔法族の家系ですよね? 魔法の練習ってしていますか?」

「してるよ。やること無いから、家族の杖を借りて家にある呪文集とかのを試してる」

 

 この娘がさっき言っていた寮で一番になれないとおかしいと言うのはどうも本当かもしれない。闇祓いは簡単になれる職業では無いのだ。それが家族全員となればどう考えたって普通では無い。この娘も例外なく優秀なのかもしれない。

 

「それってお父さんやお母さんが教えてくれるんですか? それとも姉弟ですか?」

「父さんと兄弟はいない。母さんの従弟が闇祓いなんだ。闇祓いのくせに暇そうにしてるから教えて貰ってる」

 

 あんまりずけずけ聞いてくるのをオスカーはやめて欲しかった。家族の事なのだ。なのに彼女はオスカーが闇祓いと言うと彼女の髪からシャンプーらしきミントの香りがするくらい近づいて喋って来た。

 

「闇祓いに教えてもらっているんですか? 誰ですか? 私、何度も局には行った事がありますから名前を言って貰えれば誰か分かりますよ。あと、私、姉さんはなんでも私の事を褒めるから信用してないんですけど。ジョンや叔父さんが褒めてくれるから結構新入生としては出来ると思ってるんです。新入生には私や貴方みたいに闇祓いに教えて貰っている人がいれば、死喰い人の家庭とかで育って、闇の魔術とか呪いを教えてもらっている子供もいるらしいですよ。そう言うのはスリザリンに行くんでしょうけど。私、そう言うのには負けたくないんですよ。あ、ちょっと長く喋っちゃいましたけど、貴方、家族の姓はなんて言うんですか?」

 

 オスカーが答える前に、マダム・マルキンが彼女の服らしきものが入った紙袋を持ってきた。

 

「さあお嬢さんお待たせしました。お姉さんが外で待ってらっしゃいますよ。旦那さんも一緒かしら?」

「まだジョンは姉さんの旦那じゃないですよ」

「あら? そうなの? お嬢さんと一緒の年くらいからあのお二人は一緒にダイアゴン横丁を歩いてたからてっきり…… おっと。坊ちゃん、お待たせしました。あそこの台が空きましたから立って貰えますか?」

 

 オスカーはこれ幸いに踏み台に向かった。この女の子から離れたかったのだ。オスカーは彼女のように考える新入生が一杯いるのだろうかと思った。でも、それは当然なのかもしれない、オスカーは裁判で父親やその仲間を裁いていた大人たちの形相を忘れてはいなかった。

 

「じゃあ、ホグワーツでまた会いましょう。もしかしたら汽車でも会えるかもしれませんね」

 

 女の子にオスカーは言葉を返さなかった。あんまり話が合うと思わなかったし、あんな子供ばかりホグワーツにいるのではと少し不安になったからだ。

 その後、やたら自分だけ丁寧に接客している気がするマダム・マルキンから制服を受け取って外に出るともう二人が待っていた。

 

「オスカー、オスカーがいない間に、お金をどう使うかキングズリーと話したんだよ。これなら少ないお金を一番無駄なく使えると思うんだ。こういうのが投資ってやつなんじゃないかな。小さい時にお父さんが言ってたんだけれど」

「とうし? 待たしたならごめん」

「大丈夫、私達も今来たところだ」

 

 シラは得意そうでオスカーはやっぱり一緒に行きたかったと思った。さっきの物騒な小さい女の子と話すより、シラが得意になるような話をしながら店を回った方が絶対楽しいだろう。

 

「ねえパパ。私、もうちょっと魔法薬の材料がいるかなって思うのよ。ほら、私、あんまりああいうの得意じゃ無いから失敗するかもしれないわ。魔法薬の授業なんて初めてだし」

「だめよ。さっき変な魔法薬の作り方が書いてある本を読んでたでしょう。しかもその本のタイトルをメモしていたでしょう? おかしな魔法薬や悪戯に使うための材料は買わないわ」

「ママがそう言うならダメだよ」

「じゃあアイスクリームでいいわ」

「妥協したふりをしてアイスをねだらないの」

 

 何やら騒がしい家族連れが隣を歩いて行った。三人ともシラと同じくらいマグルの格好をするのが上手く、そのせいでちょっとダイアゴン横丁では浮いているし、何より娘の髪色が目に痛いくらいのショッキングピンクでとにかく目立っている。

 

「さて、じゃあ買い物を続けようか。来年以降、誰と来ても困らないように全部回ろう」

「私はもう貰ってるけどオスカーは新しいの買わないといけないしまずは本屋さんに行こうよ」

 

 シラの言う通りに最初はフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に行った。天井まで本がぎっしりと積み上げられていて、とにかく色んな本がある。ただ、これくらいならドロホフ邸やシャックルボルト邸の書庫の方が大きいのであんまりオスカーには新鮮では無かった。

 案の定、シラが魔法史のコーナーで動かなくなったので、オスカーは彼女を引っ張っていかないといけなかった。いったい何がそんなに面白いのだろうか? オスカーは教科書や本の中で一番魔法史の本が面白く無いと思うのだが。

 

「やっぱり歴史書は版が違うと書いてることが違ったよ。ホグワーツの図書室は最新の版があるのかな?」

「さあ? まあでもあるんじゃないか? 魔法界で一番の図書室らしいし」

 

 そのあと、何やらシラは自分で持ってきたマグルの家には一杯あるというチラシの裏にぼーるぺんで書いた使えるお金の合計額と、行く店店の商品の値段とを見比べて、うんうん言いながらも結局オスカーと同じものを買っていた。

 大鍋はホグワーツ指定の錫製の物を買った。キングズリー曰く、金だとか銀だとかの鍋を買っても先生や教科書のモノと違うので授業を受ける時に良くないらしい。

 魔法薬の材料を計る秤は一番誤差が少ない上等なものを買い、望遠鏡は持ち運びやすいように真鍮製の折り畳みできるものにした。この辺りもキングズリーの言う通りに買った。オスカーはホグワーツに入った後に不満が出たら文句を言ってやろうと思っていた。

 だいたい買い終わるとグリンゴッツの前辺りに戻っていた。クィディッチ用品店やふくろう百貨店があるあたりだ。

 

「そうだ。オスカー、君はクリスマス休暇までに誕生日があるだろう?」

「そうだけど……」

「そう言えばオスカーの誕生日は…… あれ? なんで最初の年にプレゼントを…… あれ? なんでだろう?」

 

 そうキングズリーが言いだして、シラにそれを思い出させたのを見てオスカーは不機嫌になりそうだった。本当はそんなはずはないのだ。オスカーは出会った年にシラからプレゼントを貰っていた。オスカーはそれを思い返すだけで自分がもう怒っていると分かった。シラと一緒にダイアゴン横丁にいくのがあんなに楽しみだったのに、キングズリー以外は楽しい買い物だったのにそうなるのだ。

 

「動物はどうかな。ヒキガエルは私の時代に流行っていたから今は……」

「要らない。要らないよ。僕にはローガンがいる。それ以外にペットなんて要らない!!」

「ちょ、ちょっとオスカー、そんな言い方しなくてもいいじゃないか」

 

 イーロップふくろう百貨店を指しながらそう言ったキングズリーにオスカーは気づけばそう言っていた。ふくろうが何匹かオスカーの大声で驚いて羽根を震わした。

ㅤオスカーは自分の顔が赤くなっている気がした。別にキングズリーは新しく買ってくれると言っただけだ。ローガンはまだ若いふくろうだし、ローガンを逃がして新しいふくろうを買おうという訳ではないのだ。なのに大声を出してしまった。

 

「とにかく、ペットなんか要らないよ」

「オスカー、どうしちゃったんだい? 人込みが嫌とかかい?」

「そうか…… けれど欲しいモノがあったら夏休みの間に言ってくれればいい」

 

 だいたいシラの目の前でそんな事をしないで欲しかった。彼女はいろんなモノを中古だったり、オスカーの家族のおさがりだとかですましているではないか。なのにシラの目の前で自分にだけ買い物をするなんてどういう事なのだとオスカーは思った。

 でも、オスカーは自分の怒りに理由を付けているだけだと分かっていた。とにかく気に入らないのだ。保護者面をするだけでもムカつくのに善意だとしてもこんな事をして欲しく無かった。

 

「あとはオリバンダーのお店だけだね。杖は自分にあった最高のモノを持たないといけない。一生使うモノだからこればかりは妥協してはいけない」

 

 魔法の杖…… これこそオスカーが一番欲しかったものだ。杖を持つ者こそが魔法族なのだ。大人みたいに魔法が使えるようになればキングズリーについて来て貰わなくてもいいのだ。さっきまでずっと不機嫌でキングズリーともシラとも話さなかったがオスカーはやっと話す気が湧いて来た。

ㅤ最後の買い物の店は狭くてみすぼらしかった。はがれかかった金色の文字で、扉にこう書いてある。

 

 オリバンダーの店 紀元前三百八十二年 創業 高級杖メーカー

 

「オスカー、オリバンダーって有名な苗字じゃないかい?」

「そうなのか? 僕はあんまり杖以外で聞いたことないけどな」

「だって、カンタンケラス・ノットの純血一族一覧を読んだけど。そこに出てくる聖二十八族って一族の一つだし。魔法史にも時々名前が出てくるよ。共和制ローマのころからパラパラと何とかオリバンダーって名前が出てくる。あの看板は本当じゃないかな?」

 

 これはちょっと不味いとオスカーは思った。シラは他の事ならいいのだが、とにかく魔法史の事になると話が止まらないのだ。オスカーは看板を見るのをやめてキングズリーの後ろについて足早に店の中に入ることにした。

 中に入ればどこかでチリンチリンとベルの音が鳴った。先客はおらず、店内は古臭い椅子が一脚置いてあるだけだ。キングズリーはその椅子に呪文をかけ、椅子は何と二つに増えた。恐らく双子の呪文だろう。

 

「オスカー、シラ、ここに座って待つといい。人によるらしいが大抵はかなり時間がかかるからね。私もそうだった。じゃあオスカー、二人分のお金を渡しておく。私は外に……」

「いらっしゃいませ」

 

 天井近くまで積み上げられた何千、何百という細長い箱の奥から柔らかい声がした。カウンターの向こう側にいつの間にか老人が立っていてオスカー達の方を見つめている。オスカーは老人特有の枯草みたいな香りがした気がした。

 

「こんにちは」

「こんにちは。ええっと。オリバンダーさん」

「お久しぶりです。ミスター・オリバンダー」

「おお、キングズリー・シャックルボルトじゃないか。また会えて嬉しいよ。ブナノキ、三十六センチ、持ち手はかなり太い。心地よくしなる。そうじゃったな?」

 

 オスカーは一体どんな記憶力をしているのだろうと思った。隣のシラも本に書いていることを大概覚えているが、いくらなんでも何十年も前に売った杖の詳細など覚えてはいられないだろう。それともキングズリーが印象深いので思い出したのだろうか?

 

「流石、よく覚えておいでで」

「覚えておるとも。かなり時間のかかるお客でしたな。しかし、あの杖が選ぶだけのご活躍をしておいでだ。それで今日は…… ご子息の?」

「いいえ、彼はオスカー・ドロホフ、彼女はシラ・グヴィン、彼の方は私の従弟、ヘンリエッタの息子だ。彼女の方はマグル出身で、彼の家の近くに住んでいる。なので二人まとめてホグワーツで必要な物を買いに連れています」

 

 できればやっぱりオスカーはキングズリーでは無く、母親と一緒に来たかったのでこういう事を言われるとちょっとムッと来たが、ぎょろっと瞬きせずにオリバンダー老人がオスカーの方を見るものなので何も言えなくなった。

 

「お母さんと同じ髪をしていなさる。三十一センチ、木材は美しいニレ、少し硬い。杖の芯は一角獣のたてがみ、無言呪文に向いている。シャックルボルトの名を持つ方は長い杖を持つ方が多い」

 

 もっと近づいてくるものなのでオスカーはちょっと引きそうだった。銀色に見える目がオスカーをとらえて離さなかった。

 

「お父さんの方はサクラの杖を気に入られた。少々固い杖で二十七センチ、ドラゴンの琴線と組み合わした強力な杖。決闘や戦いには引っ張りだこじゃ。事実、何度も新聞で彼の名前を読んだ。おお、父上が気に入ったと言うたが…… もちろん、杖の方が魔法使いや魔女を選ぶのじゃよ」

 

 やっぱりこの老人は売った全ての杖を覚えているのだ。老人はオスカーから目を離さなかったが、不意に隣のシラの方にも目線を向けた。

 

「オスカー、二人分のお金を置いておくから、二人が買い終わったらフォーテスキューのアイスクリームの店に来て欲しい。よろしく頼むよ。ではミスター・オリバンダー」

「おお…… それで…… どちらが先に杖を選ばれますかな?」

 

 キングズリーはあっという間に出て行ってしまった。やっぱりあの保護者気取りは交渉だとか場の空気を読むだとかそういうのが上手いのだ。

 

「私、私からでも……」

「では拝見しましょうか。グヴィンさん。どちらが杖腕ですかな?」

「あ…… 私は右利きで……」

「腕を伸ばして。そうじゃ」

 

 老人は自動で動く巻き尺を使ってシラの肩から指先、肩から床、膝からわきの下、頭の回りの寸法をとった。なんだかシラはかなりびくびくしているように見える。オスカーは無理も無いと思った。この老人はちょっと気味が悪いのだ。

 

「ドロホフさん、グヴィンさん。オリバンダーの杖は一本一本、強力な魔法力を持った物を芯につかっております。一角獣のたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。一角獣、不死鳥、ドラゴン、皆それぞれ違い、杖の木材も違うのじゃからオリバンダーの杖には一本として同じ杖は無い。もちろん、他の魔法使いの杖を使っても自分の杖と同じほどの効果は出せないわけですな」

 

 オリバンダー老人がそう言っている間に、巻き尺は勝手に動いてオスカーの寸法を測っていた。さらにオスカーが巻き尺に気を取られてちょっと目を離した間にオリバンダー老人はそのまま箱の山の中を飛び回って何箱か箱を取り出していた。

 

「ではグヴィンさん。これをお試しください。ハシバミに不死鳥の羽根、二十七センチ、良質でバネのよう。手に取って振ってごらんください」

 

 シラは恐る恐るオリバンダー老人から杖を受け取って振った。杖の先から青と銀色の火花が花火のように噴き出して、空のような色が天井に映し出された。オスカーも思わずおおという声が出た。

 

「所見どおりのお客じゃの? 素晴らしい」

「この杖を売って貰えるんでしょうか? その…… 私に?」

「さっきも言った通り、杖が貴方を選ぶのじゃ。もちろん、その杖は貴方のものになる。他の人では貴方と同じだけの力は引き出せない。さて、さて良かった。次のシャックルボルトの方は大抵、難しいお客じゃから」

 

 なんだか夢心地でシラは杖をじっと見ている。オリバンダー老人は次だ次だとばかりにオスカーの方へ来た。なんだか本番とばかりにオスカーの目をもう一度見つめてきて、オスカーは目を反らすと負けな気がしてきた。

 

「さて、どちらが杖腕ですかな?」

「僕は…… フォークとスプーンは右手だけど。他の事は全部左手です」

「なるほど…… では左腕でしょうな。難しければ右腕でお探ししましょう」

 

 そう言ってずっとオスカーの寸法を測っていた巻き尺でオスカーの左腕の長さを計り、そのまま杖を箱を取り出し始めた。シラは何だかやっぱり夢心地でカウンターの上に選ばれた杖を置いて色んな方向から見ていた。

 

「ではドロホフさん、これをお試しください。イチイにドラゴンの心臓の琴線、三十三センチ、良質で良く曲がる。手に取ってお振りください」

 

 オスカーが手に取ってちょっと振っただけでオリバンダー老人はそれを取り上げてしまった。

 

「滅多にない組み合ったじゃが…… 柊と不死鳥の尾羽根、二十八センチ、良質でしなやか」

 

 今度はほとんど振り上げていないのにオスカーはその杖をひったくられた。

 

「だめだ。いかん、いかん、次は…… ヨーロッパナラに一角獣のたてがみ、三十四センチ、良質で振りやすい。さあどうぞ」

 

 その後もシラのような火花の出る気配は無く、杖をオスカーに渡してはオリバンダー老人がひったくってというサイクルが繰り返された。物凄い勢いでダメだった杖の箱が古い椅子とカウンターに積みあがり始める。オリバンダーの店には何個も杖箱の山があったが、すでにその山二つ分くらいの山が椅子の上にできていた。

 

「オリバンダーさんが言っていた。シャックルボルトの人は難しいって本当なんじゃないかい? オスカー」

「シラが早かっただけじゃないのか?」

 

 今度は店の奥まで箱を取りにオリバンダーが消えている間にオスカーは喋った。どうもオリバンダー老人はオスカーの杖が見つからなければ見つからないほど楽しいらしく、どんどん笑顔でテンションがあがっていた。二人はいい加減時間がかかりすぎて最初の緊張感も無くなってきたのだ。

 

「なんかあの口ぶりだと、私くらいの方が普通で、オスカーやエティさんやキングズリーが特別長いみたいに聞こえないかい?」

「そうなのかもな。キングズリーのアイスはもう溶けてそうだ」

「魔法界のアイスって解けないんじゃないのかい?」

「特別難しいお客だ。ドロホフさん、こちらの杖を試してもらえますかな?」

 

 そういってまた突然二人の傍に現れたオリバンダー老人はひと際古い箱を出してきた。英語では無い文字で箱には何か書いてある。

 

「ロシア語?」

「おお、貴方はシャックルボルトの家の方ですが、やはりドロホフの家の方ですし、貴方はどうにも両方の腕が使えるようですから。昔の事を思い出しましてな。それにこの杖の事で最近になって話をしたのでそれもありますな」

 

 シラがロシア語と言ったのでロシア語なのだろう。確かに、オスカーの家にはいくつかロシアだったり、北欧系の言語が書かれた本や物があった。多分、昔、ドロホフの人間は大陸の北に住んでいたのだろう。今もほとんどグレートブリテン島の北の端っこに住んでいるのはその名残なのかもしれない。

 オリバンダー老人が箱を開くと箱はこれまでと違って中にしきりがあり、二本の杖が入っている。

 

「二本?」

 

 物凄く似た杖が二本入っている。よく見ると長さや木目や色が違うのだが、これまでの杖より長く、太さはそっくりで、さらにはこれまでにあまり見ない形で杖が一定間隔で節くれだっているのだ。

 

「一本はこの店の作では無く、グレゴロビッチという大陸の杖職人の物でしてな。一本は私の作で、この店にある杖でも抜群に古い杖というわけで。芯の材料も今では使わないものですな」

「同じ材質?」

「いえ、一本はナナカマドにセストラルの尻尾の毛、三十五センチ、良質でしなやか。もう一本はニワトコにセストラルの尻尾の毛、三十八センチ、非常に良質で少し硬い」

「ニワトコ?」

「ニワトコの杖?」

 

 オリバンダー老人はシラとオスカーが同じこと言ったのを見て、さらに機嫌が良くなった。ニワトコの杖、魔法界ならだれでも知っていることわざ。その杖を持てば永久に不幸になる。そう噂される杖だ。

 

「いかにも。もちろん、ニワトコの杖、永久に不幸とはよく言ったもの。ですが、ニワトコの杖にまつわる話はあくまでその扱いにくさと性質によるもの。もし使いこなせればこれほどの木材は存在しない」

「ニワトコの杖って魔法史に出てくる。エグバートとかの……」

「おお、ご存知ですかな? マグルのご出身とお聞きしていましたが…… 杖つくりの間でも伝説の杖の話は良くする話。その杖を求めてこうしてニワトコの杖をつくる人間がいるのです。そして、その杖芯はセストラルの尻尾の毛とされる。この杖はその杖を再現しようと作られた杖、そしてもう一つは同じセストラルが提供した尾の毛で作られたナナカマドの杖、ニワトコとナナカマドには非常に関連性がある。この二本の杖は非常に強力な絆で結ばれた姉弟杖」

 

 もしかしてニワトコの杖とは三人兄弟の話のニワトコの杖だろうか? オスカーはエグバートとかいうのはパッと出てこなかったが、おとぎ話の最強の杖の話であれば思い出せた。ニワトコの杖と言えばそれなのだ。

 

「ではお試しください。ドロホフさん」

 

 オスカーはナナカマドとオリバンダー老人が言った短い方の杖を振った。赤と緑の閃光が店中に満ちてこれまで積み上げていった箱たちがみんな元の場所に戻って行った。オスカーはこれまでの杖と違いまるで体の一部のように杖が感じられた。

 

「すごい!!」

「ブラボー!!」

 

 オリバンダー老人とシラの興奮した声が響いた。オスカーも興奮していた。自分の杖が見つかるとはこんな感覚なのか。まるでこれまでの他の人の杖を借りて魔法を使った時の感覚と違う。他の杖で使う魔法はあまり開いていない蛇口から無理やり水を出そうとしているようなものだ。

 

「この杖が人を選ぶとは…… もしかするともう一本もまもなく誰かを選ぶのかもしれませんな」

「あの、オリバンダーさん、姉弟杖ならオスカーはそっちのニワトコの杖も使えるんでしょうか?」

「ふむ? それは無いと断言できましょうが…… 試しますかね?」

 

 オスカーもなんだか杖が見つかってテンションがあがり、シラとオリバンダーの提案の通り、もう一本の杖を振ってみた。さっきとは何か感触が違った。緑色の光が少しだけ辺りを照らす。

 

「ドロホフさん。右手で振って貰えますかな?」

「え? はい」

 

 今度は右手で振ってみた。すると緑と青い光があたりを照らしたがさっきのナナカマドの杖の光よりは小さい気がした。ただ他に試した杖と比べれば十分な反応だった。

 

「なるほど…… 不思議じゃ。不思議じゃ」

「あの…… 何が……」

「普通、杖に選ばれた魔法族に他の杖がこのような反応はしないのです。よほどあなたはこの杖とつながりがあるようじゃ。じゃが少なくとも最初の選ぶ持ち主は貴方では無い様ですな。やはりあなたと強い因縁を持つ誰かがこの杖に選ばれるのかと」

「強い因縁?」

 

 オスカーとシラは二人そろって頭を捻った。因縁と言われたって、オスカーにはそんな生き別れの兄弟だとか、前世の恋人だとかそんな存在はいなかった。なぜならまだ十一歳だからだ。

 

「杖の選ぶことですから、誰かは分かりません。もしかすれば今よりずっと後の話かもしれません。しかし、貴方はいずれこの杖とその持ち主とどこかで関わるのでしょうな」

「は、はあ……」

「いいなあ。オスカー、なんか伝説とかそういうのみたいじゃないかい?」

「いや、知らない人じゃないか。因縁とか言われても困るよ」

 

 そうこうしている間にオリバンダーが杖の手入れの方法だとかを説明してくれ、オスカーはキングズリーに渡された巾着袋から十四ガリオン支払って二人は店を出た。

 

「これで私も魔女なんだ…… ふふ……」

「シラ、魔法は一応使っちゃいけないんだ。ホグワーツに入る前は良いけど。ホグワーツに入った後の大きなお休みとかは……」

「分かってるよ。でも、ちょっといい気分じゃないかい? 私も大人になってエティさんやキングズリーみたいにあの姿くらましってやつが出来るようになれば…… フランスまで行って、お祖母ちゃんや妹に自分で会いに行ける」

 

 やっぱりまだ夢心地のシラを見るとオスカーはキングズリーに連れてこられたとはいえ、来てよかったと思った。そしてオスカーにとっても杖は初めの一歩だった。シラが言うようにいつかは自分で自分の事を決められるし、家族に会う事も出来るし、誰かに押し付けられる理不尽だって叩き潰せるようになるはずなのだ。

 

「シラ、キングズリーが余分にお金入れてあるからそれでアイス食べて待っててくれって書いてあったけど……」

「オスカーの杖が決まらないからもうキングズリー座ってないかい? アイスのお店の人と喋ってるのキングズリーじゃないかな?」

 

 オスカーはかなり肩を落とした。キングズリーにしてはかなりナイスな提案だったのに、これでは何の意味も無かった。二人が傍までくると向こうの二人も気づいたらしく、こっちに手招きしていた。

 

「やあ。やっぱり時間がかかったみたいだね。多分、オスカーの方で時間がかかったんじゃないかな? うちの一族はみんな時間がかかることで有名なんだ」

「シラは一本目だった。僕のは何本かかったのか分からない」

「オスカーのは百…… 多分、百八本目だよ。結構退屈だったから数えてたんだ」

 

 なるほど、シラは魔法史が好きなのもあってかオスカーより数字に強かった。しかし、一族で杖を選ぶ時間が変わるとかそんなことあるのだろうか? でもキングズリーがそうだと言うのだからそうなのだろう。少なくともこの男をオスカーは好きでなかったが、母親と一緒で嘘をつく人間では無いのだ。

 

「おっと…… 噛みつきフリスビーか。誰か逃がしたな」

 

 キングズリーが手で持っていたアイスクリームを横から飛んできた緑色で歯がついた円盤が食べてしまった。キングズリーが杖を一振りするとテーブルの上に不時着してピクピクとしか動かなくなった。

 

「噛みつきフリスビー?」

「なんか悪戯に使うフリスビーだよ。空を飛んで噛みつくんだ」

「魔法族の人の考えは分からないよ。こんなの何が面白いんだろう? ハエ型ヌガーや百味ビーンズと同レベルなんじゃないかな……」

 

 シラはさっき買ったばかりの杖で噛みつきフリスビーを危険物のようにツンツンしていた。よく見ると噛みつきフリスビーには目があってどうも気絶しているらしくバッテンみたいに閉じていた。

 

「シラ、申し訳ないが店主にアイスを一つ追加してもらう様に頼めないかな? ここにシックルがあるから。あとついでにもう頼んである君たちの分をトリプルにして貰おう」

「それなら僕が……」

「行く。行きます。私も魔法界のお金を使ってみたかったんだ……」

 

 シラはそう言うなりキングズリーからお金を貰って走り出した。オスカーはなんだかキングズリーに二人とも上手い事使われている気分だった。

 

「オスカー、さっきのペットショップの……」

「ペットはローガンだけで大丈夫だって言ってるだろ」

 

 またその話を繰り返すのかとオスカーは早口でそう言った。キングズリーはオスカーの方を笑顔で見ていてまるで気にしていない風だ。オスカーはそういう所もこの保護者気取りが嫌いだった。この男の前だと他の大人よりずっと自分が子供だと気づかされる気がするのだ。

 

「まあ聞いてくれないか。ローガンの代わりに何かふくろうを買おうと言うわけじゃない」

「じゃあなんなんだ。僕はローガンで十分なんだ。他に何もホグワーツには連れて行かない」

「君はそうだろう。でも、ちょっとくらい君から彼女に何かあげてもいいんじゃないかな? 誕生日に何か渡したわけじゃないだろう?」

 

 オスカーはあんまり頭がついていかなかった。つまり? オスカーはシラの方を見た。アイスを作っている店主のフローリアンの方を見ながら出来るのを待っているようだ。アイスが出来るまでは帰っては来ない。

 

「えっと…… 僕からシラにふくろうを買えって? でも、僕はお金は持ってないよ」

「エティとミリベスからそれぞれオスカーとオスカーお坊ちゃまあてにおこづかいを渡すように言われていてね。正直、シャックルボルトの本家の人間と屋敷しもべは金銭感覚が酷いんだが…… まあ君はそんなにお金を使うタイプでは無いだろうし、そもそもお金を使う感覚もホグワーツで他の同級生と一緒に身に着けるものだから大丈夫だろう。二人の言うひと月分のおこずかいだ。本当は一年分渡せと言われたがそんなに持てないだろう。あの二人は自分で金貨を使う感覚が分からない人間としもべだからね」

 

 人をあまり責めないキングズリーが珍しく母親とシャックルボルト家の屋敷しもべの文句を言っていたがオスカーはあんまり聞いてなかった。大柄なキングズリーが重そうにポケットから出した巾着は置くだけで金貨がこすれる音がした。

 中身をざっと見た感じ、百ガリオン以上はあるのでは無いだろうか? キングズリーが言う通り、これを一年分、十二か月分渡されたのでは大変だった。

 

「それでどうかな? これはエティの提案なんだが。あの娘が君のローガンを良くブラッシングしたり、餌をやっているからそれが一番喜ぶんじゃないかとね。まあお節介なら……」

「分かったよ。僕の何かを買う体で入って、シラにどれがいいか聞けばいいんだろ。話を聞かないで要らないって言って悪かったよ。でも僕はローガン以外のふくろうは要らないんだ。だから……」

「ああ、行く前に言っておくべきだった。すまない。まあちょっとサプライズでやれと二人に言われてね。私もこういうのは下手なんだ。決闘だとか変装、追跡だとかなら得意なんだが…… まあ許してくれ」

 

 やっぱり表情を変えずに笑っているキングズリーを見て、オスカーはまた自分が子供だと思われている気がして怒っているのか情けないのかどちらなのか分からなかった。でもキングズリーに新しいペットをと言われるとそれを口実にローガンを誰かに持っていかれてしまいそうで嫌なのだ。

 

「じゃあ、その金貨はまずはしまっておいてくれ。あと、あの二人からのおこづかいはとりあえず君が杖を作っている間に、君名義で口座を作っておいたからそこに振り込んでおく。あんな額使えるわけ無いだろうからね。それにあの二人は放っておくと一年ごとに額を上げると言うだろう。鍵はペンスに渡しておくから君が使いたい時にペンスに頼めばいい。そうしたら引き出してくれるだろう。もちろん、何か欲しいならエティかペンス、ミリベスに頼めば用意してくれるだろうが、自分で自由に使えるお金もいつか必要になるかもしれない」

「分かったよ。ありがとう」

 

 自分用の杖、自分用の口座、自分用のお金、ここまで親や保護者に用意して貰って、果てはシラへのプレゼントまで自分じゃ無くて、大人たちの発想なのだ。やっぱり、オスカーはずっと子供扱いのままだと思った。

 

「どういたしまして。さて、君への誕生日プレゼントの体だが、実際のプレゼントはシャックルボルトの家からという事で君の入学と同時に別の物をあげる予定だ。だからまあ、彼女に上手い事ふくろうを選んで貰ったら、籠か何かを選んで梱包して貰っている間に、私が彼女を店の外に連れ出そう。わたしはあんまり女性の扱いは上手くないがそれくらいならやれるだろう」

「分かった。上手いことやるよ」

 

 ただ、オスカーが子供扱いされたとしても、シラが喜んでくれるならオスカーはそれでいいかと思った。自分が嫌な思いをしても、彼女が喜んでくれればそれでいいのだ。だいたい、オスカーからすればキングズリー含めて、魔法省や魔法族のマグル生まれや屋敷しもべに対する横暴はこんなのでは埋め合わせ出来ないと思っていた。

 

「はい。アイスクリームだよ。私こんなアイスクリーム食べたことないや。三つも付いてる。いつものスーパーのやつと全然違う。それに全然溶けない」

「おっ、さすがフローリアンだ。私の分はこのミントだね」

「ペンスが作るのとちょっと違う」

 

 アイスを三人で食べながらオスカーはこの後の事を考えるとちょっと緊張した。シラを騙しているわけでは無いのだが、サプライズなんてことをオスカーはやったことが無かった。

 あっという間に三人はアイスクリームを食べ終えてしまって、暖炉飛行するために漏れ鍋への帰路をたどり始めた。やっぱりシラは夢心地なのか、自分で持っている杖とダイアゴン横丁の街並みをそれぞれ交互に眺めて魔法界にいることを実感しているみたいだった。

 

「キングズリー、シラ、さっきはああいったんだけど。ローガンに何か買っていこうと思うんだ。列車で持ってくなら時間が結構長いからできれば大きな鳥かごとか」

「オスカーのお家は広いから別に鳥かごに入れなくてもいいけど、直接ホグワーツにローガンを飛ばすわけにはいかないからだよね…… うん。絶対その方がいいよ。その方がローガンも楽だと思うし」

「そうだね。じゃあ入ろう。まだ時間はある。夕方になる前に戻ればいいだろう」

 

 イーロップのふくろう百貨店、森ふくろう、このはずく、めんふくろう、茶ふくろう、白ふくろう。看板にはそう書かれていて、ちょっと薄暗い店から、低い、静かなホーホーという鳴き声が聞こえてきた。

 

「ごめんくださーい」

 

 興味津々のシラを先頭にオスカー達は店の中に入った。ふくろう百貨店は暗くてバタバタと羽音がして、ちょっと暗い店内で宝石のように輝く目があちらこちらでパチパチしている。

 

「ホグワーツ特急で運ぶようにふくろうの鳥かごを買いたいんだが」

「どれくらいの大きさですかな?」

「そこのシマフクロウと同じくらいだね。黒くて大きなふくろうなんだが」

「このサイズですか。ちょっと待ってくださいね。在庫を見てきますわ」

 

 店主が店の奥に引っ込むとキングズリーがオスカーの方にウィンクしていた。いくらオスカーがキングズリーの事が気に入らなくてもこれは後でお礼を言うしかなかった。

 シラは店中に吊ってある籠の中のふくろうを見つめてふくろうと目が合ったら次のふくろうを見つめるというサイクルでとにかく色んなふくろうを見ていた。

 

「色んなふくろうがいるんだね。オスカー」

「色々いるよな、シラはこの中に好きな色のやつがいるのか?」

「え? 色? うーん。良く分からないよ。でも、色はよく分からないけど、杖と一緒でふくろうっていいなあと思うよ。だって魔女って言ったら使い魔じゃないか。黒猫とかカラスとかそう言うのだよ。マグルが思う魔女ってそんな感じなんだよ」

「そうなのか。それって前貸して貰った本みたいに魔女が黒いから黒猫なのか?」

「え? うーん黒いからかぁ…… たしかにそうだろうね。黒魔術とかそういうイメージなんだろうね。夜とか暗い森の中にいる魔女だから黒い動物なんじゃないかな」

 

 シラはあんまり色のこだわりが無さそうだった。オスカーはちょっと情報が少ないと思った。ここまでして貰っていて、シラからするといまいちなふくろうをプレゼントなんて情けない気がするのだ。

 

「形とか顔とかは? 変な顔の奴とかもいるよな」

「めんふくろうとかは面白い顔をしているよね。でもやっぱりオスカーの家のローガンみたいに、ザ・ふくろうみたいな顔が一番じゃないかい? なんか賢そうで使い魔って感じがするよ」

 

 ローガンは確かに顔だけはかなり賢そうだった。実際、あんまりオスカーは手紙を運ばせたことが無いのでローガンがどれくらい賢いのかは分からないのだが、いつもの仕草を見ているとあのふくろうは賢そうな顔をすると自分が得をすると理解できるくらいの頭はありそうなのだ。

 

「ありました。このサイズなら大丈夫でしょう」

「じゃあこれでお願いする。オスカー、梱包してもらうから受け取って貰えないかな? 外でちょっと家に今から帰ると連絡してくる…… おっと、シラ、煙突飛行粉が無いみたいだ。ちょっとオスカーを待つ間、一緒に買いに行かないか?」

「分かったよ。シラ、キングズリーと先に出てて大丈夫だ」

「分かりました。オスカー、ちゃんとローガンにいるモノは買った方がいいよ」

 

 二人が出て行ったのと店主が梱包しているのをしり目にオスカーはふくろうを眺めた。シラはイメージとして黒い服だから黒猫とか結構安直な事を言っていた。ただそれ以前にオスカーはこのふくろうだろうともうほとんど決めていた。

 外から一番見やすい位置に置かれているこのふくろうだ。日光を浴びて白い毛がほとんど銀色みたいに見える。値段も一番高いがこの白ふくろうしかいないだろうとオスカーは思っていた。

 

「お坊ちゃん。ふくろうは二匹飼ってもあんまり意味ないよ。つがいを買ってあげるっていうなら別だけどね」

 

 店主が何か言っていたがオスカーは黙って白ふくろうの鳥かごを外してそのまま店頭に持っていった。ふくろうは何も言わずにこっちを見ている。眼もどこか似ているとオスカーは思った。

 

「お坊ちゃん言ってたこと聞いてたかい? 二匹ホグワーツに持っていってもあんまり意味が無いし、お父さんが置いて行ったお金だと足らないよ。この子はうちの看板だから二十八ガリオンだ」

「父さんじゃないし、僕のために買うんじゃない。なんか飼い始めるのにいるものがあれば一緒に買いたい。あとマグル生まれでも飼い方がわかるような本とかあれば……」

 

 オスカーはそう言って二十八ガリオン取り出して机に出した。店主はオスカーの言葉とガリオンを見て目を丸くし、なんだかえらく笑顔になった。オスカーはまた大人に子供扱いされている気がした。

 

「ははあ、坊ちゃん、さっき連れてた子にあげるのかい? はあ…… なるほどね。じゃあ鳥かご代とエサ代、ブラシ代は負けとこう。あとこの冊子を女の子にあげればいい。マグル生まれだと結構逃がしたり、返品にきたりするからね、そうならないようの冊子さ。坊ちゃん、やるもんだね。まだホグワーツに入る前だろう?」

「いいから早くいるものをまとめて欲しい」

「ほいほい。ちょっとまってね」

 

 それから店主がふくろうや他のエサだのブラシだのをまとめている間、オスカーはいったいどんな顔や言葉でシラに渡せばいいのだろうと考えていた。そもそも彼女は受け取ってくれるのだろうか? 

ㅤもし受け取って貰えないとなるとこのふくろうが可哀想だとオスカーは思った。こんな狭い店内の鳥かごの中にいて、その上、新しい主人に受け取って貰えないなんて可哀想ではないか。さっきはキングズリーにローガンしか持っていかないと言ってしまったが、最悪、自分でホグワーツに連れて行こうと思った。

 

「はいはい。お買い上げありがとうございましたっと。頑張ってね。坊ちゃん。鳥かご二つとも大きいから落とさないようにね」

「浮かす魔法くらい使えるよ」

 

 店主の言う通り鳥かご二つは流石に持てなかったのでオスカーはローガン用の鳥かごを呪文で浮かして、白ふくろうを自分の手で持つことにした。外に出て見回すとグリンゴッツの前あたりで二人が手を振っているのが見える。

 流石にオスカーも渡すタイミングが近づいてくると緊張した。

 

「オスカー、煙突飛行粉のお店も面白かったよ。煙突飛行粉にもグレードがあって…… オスカーのお家に置いてあるのはやっぱり高級品で…… あれ? その子は?」

「あげる。今年の誕生日のプレゼントだ」

「え? あげるって……」

 

 白い籠に入った白いふくろうをオスカーは前に出した。シラはなんのことか分からないとばかりに眉をよせていた。オスカーはやっぱりこのふくろうで良かったと思った。彼女の言うように黒い服を着た魔女の使い魔が黒猫やカラスであるなら、彼女の髪色を考えればこのふくろうだと思ったのだ。

 

「そ、そんなの受け取れないよ。だって、あそこのふくろうたち、十何ガリオンもしてたじゃないか。この子、ショーウィンドウの一番外側にいた子だし、一番高かったんじゃないかい?」

「受け取らないとか言わないでくれよ。あんな狭い店の中に戻したくない。家の庭とか村の周りの森だったらいくらでも飛ばせるじゃないか。受け取らないとか言われたらあの店に返さないといけない」

「そうじゃないよ。お、オスカーはお金の価値が分かってないんだ。新品を買ったら教科書で十三ガリオン、杖で七ガリオン、大釜で十五ガリオン、クリスタルの薬瓶三ガリオン、真鍮のはかりが二十一ガリオン、望遠鏡が五ガリオン、これで消え物以外で六十四ガリオン。ここに服とか手袋とか魔法薬の材料とか…… それでその子は確か……」

「二十八ガリオンだけど」

 

自分で数を数えてうわああという顔をするシラを見てちょっとオスカーは面白かった。お金など大した問題なのだろうか? オスカーはよく分からなかった。そもそも母親だって別に働いていないけれどお金を使っているではないかと思うのだ。

 

「だって君の家からもう色々古い教科書とか、エティさんの使ってた制服とかそういうの貰ってて、それで浮いたお金とホグワーツから支給されたお金で他のモノを新品で買えたんだ。その子一匹で魔法史の本が何冊買えると思ってるんだい?」

「いいから受け取ってくれよ。エサとかブラシとか世話するのにいるものと、マグルの家でも飼うための冊子も貰って来たんだ。あんな狭くて眩しいガラスのとこに戻したくない。早く戻ってちょっと暗い森で飛ばしてあげたい。あと名前をつけてあげないと可哀想だ」

「ちょ、ちょっと…… お金の話と違う話だし…… オスカーは無茶苦茶だよ」

 

 受け取るのが嫌なのだろうか? いまいちオスカーにはシラがどうして渋っているのか分からなかった。羽根の色が気に入らないとかだとオスカーはちょっとショックだった。これでもオスカーはちゃんと考えてこのふくろうしかないと思ったのだ。

 

「色が気に入らないとか顔が賢く無いとか……」

「そんなんじゃないよ。この子が悪いわけじゃなくて…… あー、やっぱりエティさんやキングズリーもそうだけど。ちょっとシャックルボルトの人はおかしいよ。オスカーもやっぱりそうなんじゃないか」

「おかしいとか言われても分からないよ。それで……」

「分かったよ。ありがとう。受け取るよ。大事にするよ」

「ほんとに? 良かった」

 

 オスカーがシラに鳥かごを渡すと彼女は自分の杖よりずっとおそるおそる鳥かごを持った。やっぱり羽根の色と髪の色が似ていて、オスカーはショーウィンドウにいる時や自分が持っているときよりふくろうにとってずっといいと思った。

 

「でも、オスカーはクリスマスと来年はそういうことしちゃダメだよ。私にプレゼント送ってきたらダメだからね」

「え!? どういうこと……」

「こんなのもらったらしばらくプレゼントなんて貰えないよ。だって君に何も返せないじゃないか」

「そういうものなのか?」

「そういうものだよ。プレゼントってお互いに同じくらいのものを渡すものなんだから。こんなの…… こんなのとか言っちゃダメだけど。返すのに何年かかるのか分からないじゃないか」

 

 オスカーはプレゼントを贈るなと言われてショックだったがどうせクリスマスや来年の誕生日になれば忘れたふりをして贈ればいいと思った。こういうのはあげればあげるほど得なのではないだろうか?

 

「どうしよう…… 私の部屋で飼ってもいいのかな……」

「シラの家は外れにあるから飛ばしても大丈夫だろ」

「外れにあるとか言わないで…… オスカーの家は敷地が広いからあんまり分かんないよね…… ああ、もう…… どうしよう。制服のお下がりとかならお母さん分かると思うけどふくろうなんて分からないよ」

 

 もうちょっと喜んでくれると思ったのだがシラはむしろ頭を抱えている様だった。オスカーにはさっぱり分からなかったし、隣のキングズリーはずっと笑ったままで多分彼女の悩みは分かってい無さそうだった。

 

「その辺で捕まえたって言えばいいじゃないか」

「マグルの法律だとその辺で捕まえたら私とお母さんが怒られちゃうよ」

「不便なんだな。マグルの法律って。僕の家から飛んできてるって言えばいいじゃないか」

 

 ふくろうを飼っただけで怒られるなんてマグルの法律は意味が分からないとしか思えなかった。そんな法律があるならなんのためにポストがあるのだろうか?

 

「それしかないけど。う~…… 絶対バレるよ。入学のこともなんかあんまり分かっていないし…… ふくろうなんて分かるわけないって言うか……」

「どうにもならなくなったら僕の家に飛ばしてもいいけど。いつもはちゃんと家で飼って欲しい……」

「分かってるよ!! もう。オスカーは無茶苦茶なんだ。私が悩んでること全然分かってないじゃないか!!」

「なんで怒ってるんだ?」

 

 ぷんぷん怒ってはおそるおそるふくろうの方を見てなんだか嬉しそうな顔をする。それを繰り返すシラを見て、オスカーはさっぱり女の子が分からないと思った。ずっと嬉しそうな顔をしてくれればいいのにと思うのだ。

 

「じゃあ帰ろうか」

「あ、また暖炉飛行なの忘れてた……」

「二回目だし大丈夫だろ」

 

 いつの間にか三人は漏れ鍋までついていた。煙突飛行粉を撒けば炎が緑色になる。足を入れれば体が回転していくつも暖炉が過ぎ去り気づけばドロホフ邸に着く。

 暖炉の前のソファーにはおやつとお茶が置かれていて帰ってきたら休んでくださいとばかりだ。

 ホグワーツに行く日はもうすぐそこだった。

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