オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第七章 九と四分の三番線からの旅

 ダイアゴン横丁から帰ってから出発までの一か月間は、オスカーにとっては楽しいものだった。何より自分の杖を手に入れたのだ。家族の杖を借りるよりずっと簡単に魔法を使うことが出来る。そして自分の杖と言うのは一人前の魔法使いに必要なものだ。杖を取り上げられた魔法使いは魔法使いでは無い。オスカーはそれを誰より知っていた。

 

 オスカーがあげた白フクロウにシラは魔法史からとった名前を付けた。ユーリアというローマ時代にいた炎の嵐という凶悪な魔法を得意とした魔女の名前らしい。オスカーはこのユーリアがローガンとも喧嘩しないし、彼女の白い羽が見えるとシラから手紙が来たという事が分かるので見るだけで自分の機嫌が良くなりそうだった。

 

 シラは毎日カレンダーにバツ印を付けて、九月一日まであと何日かを数えていると言う。彼女は本当にホグワーツを楽しみにしていた。時々彼女が家に来て魔法の練習をしたり、ホグワーツの準備をしたりとしていればいつのまにか八月の最後の日になっていた。オスカーは明日からはドロホフ邸でもシャックルボルト邸でも無い場所で寝泊まりするのだ。

 ペンスは今日は朝ごはんに何を作ってくれているだろうか? 多分、ペンスは自分を喜ばせようとオスカーが良く美味しいと言うものを出すだろう。ブリヌイと言う、パンケーキとかクレープみたいな料理か、母親とシラにも評判がいい、ブリックと言う揚げた餃子かもしれない。

 

「あっら。キングズリー、また来てる。ずいぶん久しぶりだけど。学習しないおバカばかり。ゆうびん局を買い取ってこの手のを送れないようにできない?」

「それは無理だろう。魔法族の郵便は一応、お互いの良識の範囲で検閲されないことになっている」

 

 広間からキングズリーの声が聞こえてオスカーは朝からちょっとげんなりだった。闇祓いは忙しくないのだろうか? それともマグルの大臣の護衛というのは暇なのだろうか?

 

「おバカさん達は届け人不明郵便の拒否と秘密発見機でほとんど判別できるっていつになったら気付くんだか? カミソリじゃなくて…… ブボチューバーの膿み? こっちは有毒中虫蔓? 結構珍しい。ペンス、この蔓、あそこの温室で育てられない?」

「かしこまりました。植えさせていただきます」

「一応、C級取引禁止品だが…… まあ脅迫状で送り付けるのは取引では無いか」

「それ法律の抜け穴にならない? ドラゴンの卵を相手に脅迫状と一緒に押し付けてお金を貰うみたいな」

 

 脅迫状? オスカーは聞き覚えがほとんど無い言葉が聞こえて来て広間に入るのをやめた。たしか脅迫状というのはシラに貸してもらった推理ものとかに出てきた記憶がある。探るのをやめろだとか、誘拐したからお金を払えだとか、相手に無理やりいう事を聞かすためだったりの手紙のことだ。

 

「さあ? 本当に魔法族が隠す気であれば取引禁止など大して意味が無いだろうから」

「しかしさっぱり分からないわ。この家あてに届けられないように色々処理したのに。ふくろうが賢い? 運んでくるふくろうを全部買い取っていけばそのうち来なくなるかも」

「そのなんでも根こそぎの考え方はやめたほうがいいと思うよ。まあ段々減ってきている。恐らく、他の死喰い人達の家族の所にも届いているのだろう。魔法省にあまり相談は無いが、彼らは中々相談しにくいだろうから。実体は分からないが」

 

 そんな手紙が来ていたなど、オスカーは知らなかった。母親もキングズリーもペンスもオスカーにそんな事を教えてくれなかった。でも、オスカーはよくよく考えてみるとホグワーツからの手紙、ローガンが運んできてくれるシラの手紙、あとはシャックルボルト邸の屋敷しもべが送ってくるお菓子以外、郵便物を開けたことなど無かった。

 ペンスが郵便物はまとめているし、ほとんどの郵便物は母親宛ての物か、ドロホフの家の持ち物になっている土地や建物に関するマグルからの郵便物ばかりらしいからだ。

 

「うちならまだいいんだけれど。両親がいなくなった子供を預かった家にもこういうのを送っているんだとしたら。性質が悪いわね」

「そうだろうね。両親の裁判を傍聴していた子供は幾人もいた。そういう子女への保護は全く考えられていない」

 

 朝から嫌な話を聞いて、ホグワーツに行く日だと言うのにオスカーの機嫌は急降下していた。ホグワーツに入っても同じような事をオスカーにしてくる人間がいるかもしれないと思ったし、単純にそんな事をやってくる人間が気に入らなかった。

 でも、シラが来て、一緒にトランクの準備をし、学用品のチェックをするとそんな気分も明るくなってきた。まずはオスカーの家でペンスにしばらくのさよならを言って、シラとシラの母親と一緒にシャックルボルト邸へ煙突飛行で移動し、ミリベスとドネとティロにもさよならを言う。

 

その後はオスカーが初めて乗る、じどうしゃなるモノに乗ってロンドンを目指す。キングズリーが運転するじどうしゃはブルブル震えて動くのだ。それに沢山のおなじようなじどうしゃが走っているのだが、キングズリーがじどうしゃのボタンみたいなのを押すと、いつの間にか前で停まっているじどうしゃの一番前にいたり、明らかに通れない狭い道でも通れるようになったりした。

それにシラの言う、ロンドンのこうそうびるとかまてんろうなるモノも初めて見た。マグルとは凄い生き物だ。こんな高い建築物を魔法無しに作ってしまうのだ。一体オスカーの家何個分の高さがあるのか見当もつかないくらいだ。

 

 シラがあれが何々で何々みたいな説明を言ってくれる中、外の景色に夢中になっているといつの間にかキングズ・クロス駅についていた。キングズ・クロス駅は魔法省より沢山の人がひっきりなしにあっちからこっちへ、地下から二階へ、列車からホームへと流れている。

 

「九と四分の三番線…… オスカー、魔法族ってこういうの好きだよね?」

「ダイアゴン横丁みたいな?」

「そう。そういう秘密の入り口みたいなやつ。この駅からエディンバラまで線路が繋がっているから、私もフランスから来た時、ここに来たんだけれど。その時に知ってたらなあ……」

「来たことがあるんだ?」

「うん。イースト・コーストって長ーい線路がスコットランドまで繋がっているんだ」

 

 シラの言う通り、このキングズ・クロス駅のマグルの使うプラットホームにホグワーツ行きの列車が来るわけでは無い。魔法族の秘密の通路がある。九と四分の三番線の名前の通り、九番ホームと十番ホームの間の壁みたいな場所から入れるのだ。二人は大人達に先駆けて、時々、魔法族らしき人が入っていくその入り口に足を踏み入れた。

 

「凄い!! あれがホグワーツ特急?」

「汽車ってこんなに大きいんだ」

 

 紅色の蒸気機関車が沢山の魔法族達でごった返すプラットホームに停車している。ホームの標識には『ホグワーツ行き特急十一時発』と書かれている。汽車の煙はホームの上に流れているが、ほとんどの人は立ち止まって、生徒と家族の別れの挨拶とか、ホグワーツでどうしなさいみたいなお話をしている。

 

「凄い人…… 本当に大丈夫かしら? シラ、貴方、この人たちとやっていけるの? お母さん一人でも貴方の成績と母子家庭の補助と奨学金があればパブリック・スクールにだって入れるかもしれないし」

「大丈夫だよ。私みたいに家族に魔法が使える人がいない人も昔から入学してるって改訂ホグワーツの歴史に書いてあったし。それにホグワーツはパブリック・スクールと同じで寮だから私の分のお金とか要らないし、学費も魔法省が払ってくれるからみんな払ってないみたいだし」

 

 シラは後ろから話かけて来た母親と喋り始めた。母親の方は心配そうな顔をしている。オスカーにはシラがいつも気にしている母親のお金のことだったりが良く分からなかった。困ったら自分の家に来てくれればペンスがご飯を作って渡すくらいできると思うのだ。

 

「いじめられるかもしれないわ。引っ越してきた時もそうだったでしょう? お母さん学校の先生に言ってあげることも遠くて難しいし……」

「大丈夫。ホグワーツについたらユーリアをお母さんの所に飛ばすから手紙をユーリアに渡してくれればそれで連絡できると思うし」

 

 オスカーはシラがどこか母親から離れたがっていると思っていた。彼女は自分の母親の悪口なんて言わないが、彼女の家にいる彼女は窮屈そうなのだ。オスカーから見てもシラは彼女の母親の前ではほとんど完璧な子供に見える。マグルの学校の成績はほとんど一番らしいし、彼女は洗濯から掃除、料理までほとんど自分でしてしまうのだ。オスカーはそんなこと子供がやることじゃないのではないかと思っていた。でも、彼女にはそれが当然のことなのだ。

 

「ふくろうね…… 普通に郵便じゃダメなのかしら。それか電話か電信でも。電話をかけるポンドは持ってる?」

「ちょっとは持っているよ。あ…… お母さん。聞きたかったんだけど。お父さんの家族って魔法が使える人なんていなかったよね?」

「いなかったと思う。けれどほとんどあの人のお母さん以外と私は喋ったことが無かったから……」

「分かった。あともしかしたらヨルシカも魔法が使えるのかも。ヨルシカとおばあちゃんに手紙を…… 海をユーリアに越えて貰うのは可哀想だから無理かな。お父さんもヨルシカもびっくりしちゃうし」

 

 シラ待ちでホームをキョロキョロしていると色んな人がいるのが分かった。向こうに見えるのは多分マルキンの店であった女の子と家族では無いだろうか? ダークグレーの髪の背の低い女の人と女の子、それになんだかクルクル回る目をはめた老人が一緒だ。

 

「じゃあお母さん、クリスマスは家に帰ろうとおもうけどいい?」

「大丈夫。その頃には仕事も落ち着いていると思うから家にいるはず。帰りの汽車の切符はあるの?」

「うん。大丈夫。行ってきますって言うか、とりあえず席を見つけてきます」

「行ってらっしゃい。ドロホフさんたちには席を見つけに言ったって言っておくから」

 

 オスカーがそっちを向いている間にシラは家族と喋ったようだ。キングズリーと母親は知り合いらしき人と話している。当たり前だけれど二人の世界はここなのだから、知り合いだって沢山いるのだろう。

 

「オスカー、席を取りに行こうよ。ホーム側の席ならお母さんたちと出発まで話せるんじゃないかな?」

「分かった。もう前の二両は一杯だからあっちに行こう」

 

 もうちょっと出発までには時間があるはずだが、すでに先頭の数車両は生徒たちで一杯だった。列車に入ろうとするところでシラはカートに乗せていたトランクを持とうとして足に落としかけた。

 

「オスカーどうしよう。このトランクすっごい重いや。引くの手伝ってくれない?」

「魔法を使えばいいじゃないか」

 

 シラのトランクをロコモーターという物を動かす魔法で浮かせて二人は列車の中に入った。オスカーのトランクは祖父が使っていたと言う魔法の手提げのトランクだから重く無いし、物凄い量のモノを入れる事が出来るので手で持てば良かった。ちなみにキングズリーが言っていたふくろうじゃないプレゼントとはこれのことだ。流石にオスカーもこのプレゼントは嬉しかった。

まだ発車のアナウンスは流れていないがすでにたくさんの生徒たちで列車は混み合っている。そこら中から生徒の声とホーホーというふくろうの不機嫌な鳴き声が聞こえる。

二人は開いているコンパートメントを探してふくろうの籠を手に持ち、浮かせたトランクが当たらないように気を付けながら進んだ。

 

「オスカーのトランクってすっごい便利なんじゃ無いかな。流石、オスカーのお爺さんが使ってたトランクだよね」

「まあ、会ったことないけど。僕の爺さん。ここ開いてるよ。ホーム側だし」

 

 とりあえず、上の棚にトランクを入れて、籠を椅子に置き、二人は一息ついた。オスカーは初めて列車に乗るし、こんなに人が多い場所に来たのは魔法省とダイアゴン横丁以来だったのであんまり落ち着かなかったのだ。

 

「あ、お母さんたちあそこにいるよ」

「ほんとだ。手を振ったら見えるんじゃないか?」

「そうだよね。おーい!! お母さん!! エティさーん!!」

 

 シラが大声で叫んで手を振っている間にオスカーは他の家族の姿を見ていた。みんなだいたい父親、母親、兄弟という感じで、他に時々お爺さんやお婆さんらしい年配の人と一緒の子供もいる。特に目立つのは赤毛の一家で、とんでもない数の男の子たちがいる。親戚の集まりとかだろうか?

 

「チャーリー、箒は持っていないでしょうね?」

「持ってないよ。ママ、一年生は箒は禁止だって書いてあったし」

 

 あの子はもしかするとオスカーがダイアゴン横丁に行った日に箒を見ていた男の子では無いだろうか? オスカーの記憶が確かならそのはずだ。あんな赤毛の人は周りにいないので覚えていたのだ。

 

「兄貴の箒は僕達が使うから大丈夫だよママ」

「ママ、チャーリーのトランクを運んでもいい? 別に汽車に隠れたりしないからさ」

「いやに親切じゃないか。フレッド、ジョージ」

 

 あの双子らしい小さい男の子も兄弟なのだろうか? オスカーはてっきり赤毛の一族の集まりかと思っていたのだがそうではないようだ。あんなに家族が多い家族もいるのだ。

 

「ビルの荷物も運ぼうか?」

「一回、ホグワーツ特急に入って見たかったんだ。ねえ、ママ、いいでしょ」

「ちゃんと出発の十分前には戻るんですよ」

「ガッテン承知!!」

「いくぞ!! って重…… 兄貴、いったい何入れたんだ?」

 

 ビルと呼ばれた身長の高い年上の男の子も兄弟らしい、それ以外にも全員で七人子供がいるみたいでオスカーには衝撃だったが、あれだけ兄弟が多ければ、ずっと家に籠りっきりでも寂しくないのでは無いだろうか?

 

「ドーラ、もうその髪の毛は言わないけれど。ちゃんと遅刻しないで授業に行って、先生のいう事を守って、夜は寮で寝て、一週間に一回は手紙を書いてね」

「はーい。ママ。分かったわ。だいたい出来ると思うもの。授業なんて多分余裕よ。だって教科書に書いてる事しかしないんでしょ? もしかすると私が一番になっちゃうかも」

 

 こっちでは赤毛の兄弟に勝るとも劣らないとばかりに目立つ家族がいる。何より女の子の髪の毛がショッキングピンクなのだ。いくら魔法界とは言え、そんな奇天烈な髪の色をしている人は他にいない。

 

「あのねぇ…… そういうところだけは私やウチの家系に似てるわね……」

「ドーラ、ちゃんと手紙を書くんだよ。パパが寂しくて泣いてしまうかもしれない。もしいじめられたりしたら……」

「大丈夫よ。よーし、これから私の物語が始まるってわけよね。多分、一番目立ってる気がするから出だしはばっちりだもの。じゃあ行ってきまーす!! って痛ったあ!? トランク重すぎるわ。何なのこれ」

 

 いきなりホグワーツ特急に駆け出そうとして父親からトランクを奪い取ったと思ったら、そのまま自分の足に落としたらしかった。確かに、オスカーの注意を惹くという意味では彼女は一番目立っていた。

 

「ほんとにもう。なんでそういうところばっかり似たのかしら。テッド、窓からトランクを入れましょう」

「エピスキー 癒えよ。ほらもう大丈夫。じゃあドーラ、先にホーム側のコンパートメントに入ってこっちに手を振ってくれればそこにトランクを窓から入れよう」

「オスカー、みんなこっちに来てくれたよ」

「え? ああ」

 

 そう言われてそっちを見ると母親二人がそこにいた。キングズリーは何か向こうの方で傷だらけの顔をした老人と喋っている。闇祓いの同僚だろうか? 裁判で見た気もする。

 

「シラ。ちゃんと手紙を送ってね。シラがいない間は頑張って家のことはするわ」

「うん。お母さん、ちゃんとメモはしたと思うから、野菜は農場のグリーンさんの所からおすそ分けして貰って、お肉は牧場のリーチさん……」

「大丈夫。学校の事だけ考えていればいいわ。私一人なら生活できるから」

 

 オスカーはいつも思うのだが、子供がそんなに大人の面倒を見るモノなのだろうか? シラは本当に家の事ならなんでも出来るみたいなのだ。

 

「オスカー、ちゃんとシラちゃん以外にもお友達をつくらないとダメだから。どうしてもうちょっと笑えるように教えられなかったのかしら?」

「母さん、大丈夫だよ。多分」

「シラちゃんお願いね。この子、ほんとに表情が分かりにくいのよね。こういう所だけ似なくてもいいのに…… グヴィンさん、ほんとシラちゃんが近くに住んでてくれて良かったわ」

「いえそんな…… ドロホフさんにはお世話になりきりで…… 私達はこういう場所の右も左も分からないから……」

 

 そう言って二人は母親同士で会話を初めてしまった。オスカーは母親に良く表情が分かり辛いと言われるのだが、そんなこと言われても良く分からない。だって相手の瞳に移る表情でも見ろとでも言うのだろうか? それにペンスやシラはオスカーがどう思っているかくらいだいたい分かってくれると思うのだ。

 

「ここ開いてる?」

「兄貴の荷物なんだけど。置いてもいい?」

「重いんだこれ。二人は新入生? 兄貴も新入生なんだ」

 

 二人がコンパートメントのドアを見るとさっきオスカーが見た赤毛の双子が後ろにいた。多分、七歳くらいじゃないだろうか? オスカーでもシラのトランクは重いのでいくら二人とはいえこのトランクは相当重かっただろう。

 

「ああ。僕達も新入生だけど。トランクから手を離してくれ…… 貰えるか? ロコモーター トランク。ほら、ここに置いておくから、二人のお兄さんに伝えてくれればいい」

「いいなあ。弟に荷物を運んで貰えるなんて」

 

 オスカーは二人だけのコンパートメントじゃなくなったのがちょっと残念だったが、この気のいい双子にダメというほどでは無かった。そして双子は呪文でトランクが戸棚に収まるのを見るとちょっと悪戯っぽい顔をして、背中から見えない何かを取り外すような動作をした。

 

「ありがと。それとこれも置いといて欲しいんだけど」

「見えないけど。箒なんだ。これ、紐がついてるから、そのトランクに結んどいて欲しい」

「箒? でも箒って新入生は持ってくるのも禁止って書いてなかったかい?」

「だから透明なんだよ。兄貴に二シックルで頼まれたんだ。でもトランクが重かったから倍にしてって言おうと思う」

「じゃあよろしく頼むぜ!! 銀髪のお姉さんと魔法が上手いお兄さんのカップルに渡したって言ってくるから!!」

 

 そう言って二人は走り去ってしまった。なるほど。さっき母親から彼らの兄らしい人物がくぎを刺されていたのはこれだろう。それで透明にして持っていく…… オスカーは箒が好きでは無いので分からなかったが、好きなら強引に持っていくこともあるのだろう。オスカーは双子の心意気を汲んで彼のトランクに結んでおいてあげた。

 

「カップルだって。なんだかませた双子だったよね。オスカー。でもあんまり規則を破るのは良くないよね……」

「まもなく、十一時になりますとホグワーツ特急は発車いたします。皆さま、乗り遅れることが無いようにご注意下さい」

 

 シラの声はアナウンスと汽車の汽笛で途切れてしまった。流石にオスカーも母親に何か言おうと思って窓から顔を出した。列車の窓ではみんな似たような感じで生徒の顔が出てきているし、両親と別れの挨拶をしている。

 

「じゃあオスカー、ペンスやドネやティロがいなくても、朝起きて、夜寝て、ご飯を食べなさい。それだけしてくれればいいわ。まあ勉強は大丈夫でしょう」

「分かったよ。母さん、一応、みんなにはローガンで手紙を出すよ」

「よし。あとはペンスやドネやティロが山ほどお菓子や何かを送るからその時に手紙を付けてくれればいいわ」

 

 なるほど。そうなるのかとオスカーは思った。実際、ドロホフ邸にいるとドネとティロがお菓子と手紙を送ってくるし、シャックルボルト邸にいるとその逆なので、ホグワーツにいたらそういうことなのだろう。

 

「お母さん、お風呂の洗剤はお付き合いもあるから港町のスーパーじゃ無くて雑貨屋さんで買わないとってメモに書き忘れてて……」

「シラ。大丈夫って言ってるでしょ。元気でいてくれればいい。時々お手紙を書いてね。それに裁判の結果があるから、今度の夏休みにはパリかロンドンであの人とヨルシカに会えるはずだから…… それまで元気でいてくれないと困っちゃうわ」

「えっ…… うん。分かった。車でも言ったけどクリスマスには帰るね」

 

 汽笛が鳴った。汽車の車輪が滑り始める。汽車の入り口では慌てて乗り込む生徒たちがそこかしこにいる。母親二人はなんだかちょっと寂しそうに見えた。キングズリーは向こうで傷だらけの老人と喋っていたのだが汽車が動き始めたのでこっちに来た。オスカーはキングズリーじゃなくて、ペンスがここにいて欲しかったと思った。

 

「行ってきます」

「行ってきます!! お母さん、エティさん。キングズリーさん」

 

 大人からの声は汽笛と蒸気、車輪の音で聞こえなかった。汽車がカーブを曲がって、大人達の姿が見えなくなるまでオスカーとシラは手を振っていた。ロンドン近郊の家々が飛ぶように過ぎていく。どうなるのだろう? ペンスと母親との生活とこれからのホグワーツでの生活はどう変わるのだろうか? オスカーは裁判で見た、父親や弁論に立っていた母親を見るあの魔法族達の視線を思い出すと少し不安だった。

 するとコンパートメントの戸が開いて、双子の兄らしい少年とマルキンの店で見た女の子が入って来た。

 

「僕のトランクがあって銀髪の女の子がいるからこのコンパートメント…… 空いてるよね? 双子が持ってきたトランクは僕のなんだけど」

「あ、貴方、マルキンの店で話しましたよね? 私も入ってもいいですか?」

「大丈夫だよ。二人は新入生? オスカーは会ったことあるの? 私達も新入生なんだけど」

「私と隣の男子もそうですよ。あとトランク入れるの手伝って貰えませんか? これ引きずるのもしんどいんです」

「これ重いんだよね。流石に手伝わないとダメかなって思って手伝ってたんだけど」

 

 オスカーは杖を振ってロコモーターの呪文を使った。二人のトランクが宙に浮いて戸棚に収まった。入って来た二人の目がオスカーの方を向いた。女の子はやっぱり凄く小さく、ダークグレーの髪に黒い目で真っすぐこっちを見てくる。男の子の方はオスカーよりちょっと身長が低そうだが、がしっとして横幅はある様に見える。何より本当に髪の色が赤くて顔にはちょっとそばかすがある。

 

「あれ? 魔法ってもう使っていいんだっけ? ママにあんまり使うなって言われてたんだけど……」

「いいはずですよ。ホグワーツに入る前の子供は使っても問題無いはずです。私もそうすればよかったですね。それより今の無言呪文ですよね?」

 

 女の子の方は奥に座っていたオスカーの前に座って話しかけて来た。オスカーはやっぱりこの女の子がちょっと苦手に感じた。もの凄く気が強そうなのだ。入ってくる時もほとんど問答無用でドアを開けたし、マルキンの店でもずっと喋りかけてきた。女の子は何やら杖と生き物の籠を置いた。なんと籠の中にはタランチュラみたいな蜘蛛が入っている。

 

「そうだけど」

「え? これ何の生き物? た、タランチュラ? すっごいね。私初めて見たよ。おっきいなあ」

 

 ちょっとオスカーの横で引きながらシラが蜘蛛のゲージを覗いた。赤毛の男の子も気になったのか横から見ている。オスカーは女の子が蜘蛛を持っているというのが何だかアンバランスな気がした。シラは虫の類が嫌いだったし、マグルの女の子たちはみんなそうらしいからだ。

 

「アクロマ…… タランチュラですよ」

「アクロマンチュラがこんなに小さいわけないよ。あの蜘蛛は卵もドラゴンの卵と同じサイズなんだ。それに人に慣れないからペットになんかできない。だからただのタランチュラだよね?」

「そうですよ。タランチュラです。姉さんがホグワーツの禁じられた森で森番のハグリッドと捕まえたんです。ちょっと小さいから群れから追い出されちゃったんです。ねえフレイ? あなたはお利口だしただのタランチュラだから喋ったりしませんよね?」

 

 赤毛の男の子が早口で喋った後、女の子に声をかけられるとフレイと言われた蜘蛛は女の子の方にまるで返すようにはさみを何度か上げ下げした。この蜘蛛は人語が分かるのだろうか? だとしたら羨ましかった。動物は人間と違って理不尽な行動をとらないからオスカーは好きなのだ。

 

「ずいぶん詳しいですね。アクロマンチュラのこと」

「幻の動物とその生息地に書いてあるじゃないか。魔法生物飼育学は三年生かららしいけど。僕、あの授業のパパの昔の教科書は七年の分まで全部読んだよ。他は何もしてないけど。ホグワーツで他の面白い生き物も見れるといいなあ」

 

 自慢する風でも無く赤毛の男の子が言った。オスカーはそれくらいが普通なのだろうかと思った。オスカーもオスカーでまあまあキングズリーが少し褒めるくらいには呪文を練習したり、教科書を読んだりはしていたからだ。

 

「あ、そうでした。さっきの無言呪文ですよね? どのくらい使えますか? 私も簡単なのは使えるんですけど」

「僕も簡単なのしか使えないよ。頑張って武装解除とかそのくらい。失神呪文は当たっても大きな動物にはあんまり効かない。まだ魔法力が無いかららしいけど」

「え? 君もあの何も言わないで魔法使うやつ使えるのかい? そっちの君も?」

 

 やっぱりこの小さな女の子は優秀なのでは無いだろうか? 普通、無言呪文は六年生になるまで練習しないと言う。オスカーはキングズリーとしばらく練習したら使えるようになったのでどうせ褒めているだけでは無いかと思ったが、シラの練習やこの女の子の反応を見るに多分本当なのだろう。

 

「はい。使えますよ。練習したら使えるようになりました。まだインセンディオとかは使えませんけど。このくらいなら」

 

 女の子が杖を振ると蜘蛛がゲージの中いっぱいくらいの大きさになった。この大きさだとふくろうでも食べてしまいそうだ。それを見てシラがびくっとしてオスカーの手を持ってきた。オスカーは赤毛の男の子がそれをじっと見てきたのがちょっと気になった。

 蜘蛛は大きくなれたのが嬉しいのか女の子の方へはさみをカチカチやっている。ローガンとユーリアはシラと同じようにちょっと怯えてびくっとした。

 

「肥らせ呪文? 僕は二人みたいに無言で魔法なんて使えないよ。ビルだって使えないし、それが普通じゃないか? あ、ビルって言うのは僕の兄貴で二つ上なんだよ」

「そうだよね。私も面白かったから一年生の分の教科書は一応全部読んだけど。オスカーみたいに魔法は使えないし、一応魔法史は古い版のやつを七年生分まで読んだけど、それくらいだし」

 

 どれくらいが普通なのかはよく分からなかったが、そんなことは授業が始まったら分かるのでは無いだろうか? それより、オスカーはこの蜘蛛が気になったのと、じっとオスカーの方を見てくる女の子がちょっと苦手だった。あんまり真っ直ぐオスカーの目を見てくるのだ。普通、女の子とは女の子と喋りたかったりするものでは無いのだろうか?

 

「エサやってもいいのか? ふくろうのエサだけど」

「あげすぎなければいいですよ。でもフレイは肉食だから豆とかは食べませんよ」

「コオロギを混ぜ込んだやつだから大丈夫じゃないか。ほら、食べるだろ」

 

 オスカーがフレイのゲージにコオロギをペーストにしたせんべいを入れるとハサミをカシャカシャとやってから一瞬女の子の方を見て、女の子が頷くとムシャムシャ食べ始めた。するとローガンとユーリアが抗議とばかりに鳴いた。こっちにもくれという事だ。オスカーは同じエサを二匹にもあげた。

 

「いいなあ。僕も箒じゃ無くてペットにすればよかったかな。でもドラゴンは買えないし飼えないし……」

「ドラゴンなんて飼えるわけないじゃないですか。あ、自己紹介してないじゃないですか。私、クラーナ・ムーディです。オスカーとチャーリーですよね。あなたは?」

「あ、私はシラ・グヴィンだよ」

「そうだよね。僕はチャールズ・ウィーズリーだ。家族はみんなチャーリーだけど」

 

 ムーディ。なるほど。オスカーでも聞いたことがある。一家全員闇祓いという前代未聞の家族だ。よくキングズリーの話に出てくる。アラスターとイライザというのが確かムーディ家の人だったはずだ。多分、裁判の時もいたのではないだろうか?

 

「ムーディとウィーズリーって魔法史の本で何回も見たことがあるよ。やっぱり二人は代々魔法族なんだ?」

「ウチのパパは駆け落ちしちゃったからあんまり関係ないけどね。兄妹が多すぎて貧乏だし」

「貴方はそうでは無いって事ですか?」

 

 よくもこんなに喋れるとオスカーは思っていた。家族のことなのだ。なのにみんなこんな風に他の人に喋れるものなのだろうか? だって二人は今日あったばかりみたいなものだ。

 

「うん。私、マグル生まれなんだ。オスカーのお屋敷の近くに住んでたから、オスカーに会って魔法が使えるって分かったけど」

「へえ。そうなんですね。私、マグル生まれの人って初めて会いましたよ。でもあれですね、多分、先祖に魔法族かスクイブの人がいたんでしょうね」

「スクイブ?」

 

 スクイブ。つまりマグル生まれの魔法族の反対のことだ。けれどオスカーはあんまりそういう言い方はどうかと思っていた。マグルだとか純血だとか何の意味があるのだろう? 名前を付けると安心するのだろうか?

 

「マグル生まれの魔法族の反対の事だよ」

「そうです。姉さんはマグル生まれの人の先祖には絶対魔法族か魔法族から生まれたスクイブがいるはずだって言ってました。まあ一緒の事ですけど。あ、姉さんはホグワーツを卒業して闇祓いをしているんです」

 

 このムーディは多分、この事を喋りたかったのではないだろうか? 前にあった時もオスカーはムーディが姉の話になると早口になると思っていた。

 

「闇祓い? じゃあ、オスカー、キングズリーさんの同僚ってことだよね?」

「キングズリー? キングズリー・シャックルボルトのことですよね? 姉さんは闇祓いになった時にあの人の下で仕事をしてたんですよ。私も闇祓い局に行った時に会ったことありますよ」

「ムーディって、マッドアイ・ムーディじゃないんだ? 前にパパに付き添った時に会ったけど」

 

 オスカーが喋らなくてもどんどん会話が進んでいった。マッドアイとは多分、アラスター・ムーディのことだ。マッドアイとはあだ名なのだ。だからキングズリーはそんな風には言わない。

 

「マッドアイって言うのは叔父さんのアラスターのことです。魔法の目を左目に入れているからマッドアイってみんな言うんです。あの目は何でも透明にして見ることが出来るんです」

「えー!? じゃ、じゃあその服とか着ててもってこと? そ、そんなの付けててもいいのかな?」

「そんな下らない…… というか、そういう使い方じゃないです。罠とか敵の場所を見破るために使うんですよ。それに誰でも使えるわけじゃ……」

「車内販売よ。何か要りませんか?」

 

 えくぼのおばさんがニコニコした顔で戸を開けていた。カートを押していてその中には色とりどりのお菓子が並んでいる。パーティー・ボッツの百味ビーンズ、ドルーブルの風船ガム、蛙チョコレート、かぼちゃパイ、大鍋ケーキ、杖型甘草あめみたいな定番のお菓子も一杯ある。

 

「シラ。何か食べる……」

「オスカー、無駄遣いはダメだよ」

 

 シラに聞くとあっという間にくぎを刺された。シラはお金に関しては魔法史と同じくらいうるさい。これは最近になってオスカーが気づいたことだった。

 

「でも、お菓子の値段なんて知らないから、聞いときたいんだ」

「うーん。おばさん、えーっと、このお菓子は……」

「一ガリオンで適当に見つくろって貰えますか?」

「オスカー、そういうのがダメだって言ってるじゃないか…… もう……」

「はいはい。じゃあおすすめのお菓子を四人分盛り合わせね。はい。これはお釣りね」

 

 そういって、四シックルおばさんはオスカーに返してくれた。カエルチョコレートや百味ビーンズなんかがちょっとした山になってテーブルを占領している。フレイとローガン、ユーリアの眼もお菓子に釘付けだ。

 

「これで十三シックルなのか。毎日食べても使いきれない。やっぱりキングズリーが言ったのは本当なのか」

「それ、一体何ガリオンくらいあるんですか? その巾着、全部ガリオンじゃないんですか?」

「さあ? 数えてないから。多分、百ガリオンくらいじゃないかな」

「オスカー、ダメだよ。ちゃんとお金は自分が使える額を知って、それでどれくらい使うか計画を立てるものなんだ。だってそれ今年のお小遣いだよね? ちゃんと考えて使わないと一杯あっても無くなっちゃうよ」

 

 ムーディとウィーズリーは目を丸くしていて、シラはたしなめるような顔だ。オスカーにはこれが変な事なのだと分かった。ならキングズリーはもっとお金を使う時に注意するように言うべきでは無いのだろうか?

 

「いや。ひと月分だって」

「あー。もう。オスカーとエティさんはお金の事だけはちょっとおかしいよ……」

「いやいや、ひと月分って…… ほんとにお金持ちなんですね。マルキンさんがペコペコしてた理由が分かりますよ」

 

 なんだがお金持ちなんて別に有利でも何でもないとオスカーは思った。だって現におかしいと思われたではないか。

 

「オスカー、私、家でサンドイッチ作ってきちゃったんだけど」

「え? じゃあ食べないのか? 二人は?」

「あ、私もありますよ」

「僕もサンドイッチはあるよ」

 

 そう言ってシラはサンドイッチをムーディはスコッチエッグとパイ、ウィーズリーもサンドイッチを出した。みんなやっぱり屋敷しもべがいるのだろうか?

 

「これ自分で作ったのかい?」

「そうですよ。うちは姉さんと叔父さんと私だけですから、ジョンがお家から屋敷しもべの作った何かを持ってきてくれる時以外は私も作るんです。あ、ジョンって言うのは姉さんの同僚です」

「僕のはママ作だよ。いっつもピーナッツバターはやめてって言うんだけど忘れるんだ」

「へえ、凄いね。私ももうちょっと色々作れればいいんだけど」

 

 オスカーは話を聞いていて思い出した。ペンスとドネとティロからやたらとトランクに色々詰め込まれたのだ。全部お菓子と料理に違い無い。

 

「忘れてた。入れて貰ってたんだった」

「オスカー…… なんでお菓子買ったんだい?」

 

 トランクからドーナッツだの、パイだのが山ほど出てきた。どう見たってみんなで食べるための量なのだ。さっき買ったお菓子と合わせて完全にテーブルは埋もれてしまった。動物三匹の目はニシンのパイに釘付けだ。

 

「忘れてたんだ。夕方までかかるみたいだし、食べてくれていいよ。そのフレイとローガンとユーリアもお腹が減ってるみたいだし」

「フレイ。ダメですよ。食べすぎたらデブになりますよ。デブなクモはお利口じゃないし、賢くありません」

 

 フレイはなんだか寂しそうにハサミをカチカチさせているが全部の目はニシンのパイに向いている。とりあえず、自分が食べないと話が進まないと思ったのでオスカーはカエルチョコレートの山を取り崩しにかかった。

 

「じゃあ私もいただきまーす。残したらペンスさんに悪いよ。オスカー。ご飯を残すとか遊ぶのは最低なんだ。先に日持ちするお菓子は残しておいて、普通の料理を食べた方がいいんじゃないかな」

「僕も貰うね。いいなあ。僕の家にも屋敷しもべがいればいいのに。ママは毎日、子供の世話で大変なんだ。七人もいるもんだから」

「七人ですか? 魔法族って子供が少ないって言われてるのに凄いですね。私は姉さんと二人だけですけど、一回り以上離れてますよ」

 

 やっぱりシラはお金とかご飯とかそういうことにうるさいのだ。もちろん、そう思っていても顔や言葉には出さなかった。何故ならオスカーは彼女の家に行ったことがあったし、実際、オスカーはご飯やお金には困ったことは無かったからだ。

 

「一番上のビルが僕より二つ上で、一番下のジニーが八つ下だから、ビルとジニーはそれくらい離れてる。ジニーって言うのは一番下の妹なんだ。うちの兄弟はジニー以外みんな男だから、ママはジニーが可愛くて仕方ないんだよ。ママの兄弟の所には子供がいないし、パパの兄弟の子供は男ばっかりだから」

「へえ。まあ一杯いるのはいいんじゃないですか。少ないよりいいですよ。ねえフレイ…… こら、勝手にニシンをつまんじゃダメですよ」

「いいよ。それあげるよ」

「あーもう。さっそくデブへの道を突き進んでますね……」

 

 クモがパイを食べているのを見て案の定、ローガンとユーリアが抗議の声を上げた。オスカーは仕方なくもう一度エサを二匹の籠に入れてあげた。その間にオスカーの手からカエルチョコレートが逃げたがシラが一瞬で捕まえた。やっぱりシラはフレイに負けないくらい食べ物にはうるさいかもしれない。

 

「このカエルチョコレート、オスカーの家のやつより小さいね」

「家のやつはペンスが作ったやつだから大きいんだ。本物はこのカードがついてる」

「モルガナかガンプだったら貰えないかな? まだその二枚が無いんだよね」

「カードですか。姉さんは自分と叔父さんがこのカードに載らないのはおかしいって言うんですよね」

 

 カードに載らないとおかしいというのは中々の自信では無いだろうか。本物のカエルチョコレートについているカードにはマーリン勲章を持っているくらいの人じゃないと載ることはできないのだ。まあ時々、変な魔法族も載っていたりするのだが。ちなみにオスカーのカードはアルバス・ダンブルドアだった。半月形のメガネをかけ、高い鼻は鈎鼻で、流れるような銀色の髪、あごひげ、口ひげを蓄えている。

 

「オスカーのは何のカードだったんだい? あと、私のカード、キングズ・シャックルボルトって書いてあるんだけど。これ、エティさんとかオスカーのご先祖様じゃないかい?」

「え? えーと。季節を操る呪文の開発とその薬草学、魔法薬学への貢献で知られる。マーリン勲章勲一等…… そうかもしれないな。たしか中庭にこの呪文がかかってて、ドネがマーリン勲章勲一等って叫んでたし」

「もしかしてキングズリーさんのズリーってこのキングズさんから来てるのかな?」

「すごい単純だな。まあ二世とか三世みたいなものなのか」

 

 オスカーはこんな場所で自分の母方の先祖の顔を見ることになるとは思わなかった。あんまりキングズリーと似てはいない。どっちかと言うとペルシャだとか中東系の顔に見えるし、何より髪の毛がふさふさだ。三代変わる間にシャックルボルト家は髪の毛を失ったのかもしれない。

 

「僕のはダンブルドアだった」

「へー、これがダンブルドア校長先生なんだ。初めて見たよ」

「ダンブルドア先生を見たことないんですか? 新聞でも結構載ってますよ。私のは…… バーティ・ボッツですね。百味ビーンズを作ったらカードに載れるんですね」

「うーん。どっちも持ってるや…… こっちのはアグリッパだったし……」

 

 ちなみにダンブルドア先生のカードにはこうある。

 アルバス・ダンブルドア

 現在ホグワーツ校校長。近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に、一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究などで有名。趣味は、室内楽とボウリング。

 

 このカードに載っている人もみんなホグワーツに通っていたはずなのだ。オスカーはそう思うとちょっと不思議だった。

 

 クィディッチの話だとかをしている間に時間はどんどん過ぎて行く。残念ながらウィーズリー以外、クィディッチの話題が分からなかったので、分かったのはウィーズリーがチャドリーキャノンズというひと際弱いチームのファンだという事だけだ。

 

 あとはシラが百味ビーンズは食べ物で遊んでいるから嫌いだとか、お菓子とお弁当の山が崩れている間に、フレイがニシンのパイを全部食べてしまい、クモのお腹が明らかに膨れてしまったとかそういうことだ。オスカーは同年代で複数人で喋るというのが初めてで、いつ喋ったらいいのかも分からなかった。

 車窓からはオスカーの家の傍にも似ている風景が広がっている。うっそうとした暗い森に包まれた丘や山ばかりだ。

 

「そうだ。二人とも、どの寮に入るのかって分かってるのかい?」

「寮ですか? いいえ、分かりませんよ」

「うん。ホグワーツの組み分けって新入生には言わないのが伝統らしいよ。だからビルもパパもママも何も教えてくれなかった。自分達もそうだからって」

 

 組み分け、そう、組み分けなのだ。ホグワーツというのは一つの寮だけでなく、四つの寮があるのだ。だからシラと同じ寮になれるのかは分からない。この目の前の二人とも同じ寮になるのかは分からないのだ。

 

「ふーん。そうなんだ。あれだよね。大抵は家族と同じ寮になる可能性が高いってホグワーツ今昔の二版に書いてあったんだけど」

「そう聞きますね」

「僕も多分グリフィンドールだと思うよ。家族はみんなグリフィンドールだし、ウィーズリーの一族はみんなグリフィンドールなんだ」

 

 そんなものだろうか? しかしそれだとオスカーはスリザリンになってしまう。父親はスリザリンで母親はグリフィンドールなのだ。そしてスリザリンに組み分けされれば……

 

「私の家もだいたいグリフィンドールですね。ダンブルドア先生もグリフィンドールですし、あ、でも今の魔法大臣はレイブンクローですよ。まあ私はグリフィンドールだと思いますけど」

「僕もグリフィンドールだろうってさっき言ったけど。まあ…… スリザリン以外なら大丈夫かな」

「スリザリンはダメなのかい? でも、マーリンはスリザリンだったって書いてあったよ」

 

 オスカーからするとあんまりどこの寮というのは良く分からなかった。でもスリザリンだと父親の名前が余計ついて周るのだろうか? それとも他の寮でも同じだろうか?

 

「例のあの人もスリザリンですから。まあでも、貴方はまずスリザリンじゃないでしょうね。マグル生まれでスリザリンなんていないんじゃないですかね」

「そうなんだ。オスカーのお母さんはグリフィンドールだよね? 制服も赤かったし」

「そうだよ。母さんはグリフィンドールで父さんはスリザリンだ」

 

 そう言うとムーディはオスカーの方をじっと見た。オスカーは何だかこの女の子がオスカーの事を知っているのでは無いか? という気分になるのだ。というか、落ち着かなくなるのでじっと見るのはやめて欲しかった。

 

「そう言えば、貴方だけ自己紹介してませんよね」

「え? でもさっきキングズ・シャックルボルトがお爺さんって話をしてたじゃないか。シャックルボルトって僕でも知ってる古い魔法族だし、屋敷しもべもいるみたいだし、お金持ちみたいだから。名前がオスカーで、名字がシャックルボルトなんだと思ったけど」

 

 どうしようとばかりにシラがオスカーの方を見てきた。そしてオスカーは自分がどうもシャックルボルトだと言われると無性に心がざわつくのだ。だって、シャックルボルトの家に行ったのは八歳とか九歳になってからだし、キングズリーのことだってオスカーは後見人なんて認めていなかった。

 

「シャックルボルトは母さんの前の名字だよ」

「あ、そうなんだ。勘違いしてたよ」

「僕の名前はオスカー・ドロホフだ。さっき自己紹介してなくて悪かったよ。いつ喋ったらいいのか分からなかったんだ」

 

 そう言うとやっぱりコンパートメントが凍った気がした。ウィーズリーは結構気の抜けた顔をしているのだが、名字を聞いた途端、どう見ても目の前のムーディ以上にオスカーの方を睨んでいるのだ。

 

「ドロホフ? ドロホフって……」

「何が言いたいのか分かるよ。アントニン・ドロホフと関係あるかってことだろ? アントニン・ドロホフは僕の父親だよ」

 

 オスカーは何だか予想していた反応と違うと思った。てっきりムーディの方がオスカーの方に敵意とかそういうのを持つのかと思ったのだ。何せ、闇祓いなんて言うのは父親の勢力は真っ向から戦っていた人間たちなのだ。でも結果は逆でムーディの顔はあまり変わらず、明らかに変わったのはウィーズリーの方だ。

 

「僕のママの前の名字はプルウェットなんだ」

「そうなのか。じゃあ前の寮の話に……」

「僕の叔父さんは君の父親が殺したんだ。君、今、何も思ってなかっただろ。プルウェットって苗字も知らないんじゃないのか?」

 

 なるほど。オスカーにはやっと訳が分かった。それならこんな顔になるわけなのだ。でも、オスカーにはどうしたらいいのかが分からなかった。キングズリーだって母親だって、父親に身内を殺された人間と喋ったことは無いだろうし、そんな時、どうしたらいいかなんて教えてくれていないのだ。

 

「そうだったら。どうするんだ?」

 

 オスカーがそう言うと蜘蛛のフレイがカチカチとひと際大きな音をたて、ふくろうの二匹も大きく鳴いた。動物たちには人間達の敵意の高まりが分かるのだ。

 

「君は知らないだろ。フェービアン叔父さんは僕に箒をくれたし、ビルには……」

「僕が知るわけ無いだろ。知っておいて欲しいのか? 僕がここで謝ればいいのか?」

「ちょっとやめて下さいよ。喧嘩しないでください」

「そうだよ。オスカーはオスカーのお父さんじゃないよ。オスカーもなんでそんな言い方してるんだい。落ち着かないとローガンとユーリアも怯えちゃってるよ」

 

 だってどうしろと言うのだろうか? オスカーからすれば父親に怒りたいのは自分の方なのだ。シャックルボルトの家に一年近くいることになったのも、ペンスやシラとしばらく会えなくなったのも、キングズリーが家に来ることだって、全部父親のせいなのだ。なのにどうして父親がやったことで自分が何かしないといけないのだろう?

 

「普通、知ってるものだろ。自分の父親が何をしたのかって。知ったらそんな顔出来ない。僕なら出来ないさ」

「じゃあどんな顔をして欲しいんだ。君の前で泣けば気がすむのか?」

 

 どうしたらいいのだろうか? オスカーにはどうすればいいのかも分からなかった。だって喧嘩などしたこと無いのだ。こういう時、どうすればいいのだろう? でも、何もしていないのに、それにシラの前なのに、情けなく謝るなんて御免だった。

 

「シラの言う通り、オスカー、貴方もそういう言い方は良くないですよ」

「君にオスカーなんて呼ばれる理由は無いよ。ムーディ」

 

 どうせムーディはウィーズリーの味方をするに決まっているだろう。だって、闇祓いの家族なのだ。オスカーは闇祓いも魔法省の人間も嫌いだった。オスカーの周りが滅茶苦茶になった原因は父親かもしれないが、実際にやったのは魔法省の人間なのだ。

 

「オスカー、納めてくれようとしてるんだから……」

「なんですか。ドロホフ。頭が悪いですね。せっかく納めてあげようと思ったのに。あれでしょう? そこのグヴィンの前だとそんなこと出来ないから意地を張っているんでしょう?」

 

 言った後で自分で敵を増やしてしまったとオスカーは気づいた。別にムーディは敵では無かったはずだった。でも、ムーディに図星をつかれて頭が悪いなんて言われる筋合いは無かった。

 

「それでどうすればいいんだ?」

「自分の父親は何をしたのかくらい知らないとおかしい」

「そうかじゃあ勉強するよ。どうせ一か月に一回は顔写真がまだ載ってるから日刊予言者新聞でも読めばいいかな。まあそんなことしなくても僕の家に、何もしてない母さんやペンスの所に、嫌がらせの手紙を送って来て教えてくれるけどな」

 

 オスカーはムカつくのだ。だって、自分達は相手の家族や友人を狙った事に怒っているのに、その逆はするのだ。一緒では無いか。どうしろと言うのか。オスカーにはウィーズリーやムーディの顔と裁判にいた大人たちの顔が同じに見えた。

 

「だからオスカー、そういう言い方はダメだって言ってるじゃ無いか」

「グヴィンの言う通りですよ。喋り方を勉強したらどうですか? お坊ちゃまなんだから、いくらでも本くらい買えるでしょう?」

「どういう意味だ。僕がお坊ちゃまなら、君はチビじゃないか」

「チビとは何ですか。フン。そこのふくろうだって本当に買ったかどうかも怪しいですよ」

「どういう意味だ」

 

 今度はムーディの方がオスカーにはムカついた。一体どういう了見でそんな事を言っているのだろう? ローガンはオスカーが雛の時から育てたのだ。

 

「買ったんじゃなくて、どこかの家から盗って来た……」

「そんなことしてない!! ローガンは雛の時から僕が育てたんだ!! もう一回言ってみろ!!」

「え…… あ、えっと、その……」

 

 ムーディは気は強そうなのに何故かやってしまったみたいな顔をしている。でもオスカーはローガンの事を知らない人に言われるのが嫌だった。だって、オスカーの家族はもう母親とペンスとローガンだけなのだ。

 

「だから闇祓いなんて嫌いなんだ。どっちが盗んだんだ。僕の家から何でも持って帰ったじゃないか!! 絨毯も、本も、時計も、何から何まで勝手に持っていっただろ。ペンスやシラに…… とにかく、闇祓いなんてクソみたいな職業だ。なのになんでそんな自慢気なんだ」

「ふざけないでくださいよ。何がクソなんですか。死喰い人の連中が暴れたせいで闇祓いが働くことになったんです。死喰い人の家を捜索するのなんて当たり前でしょう。闇の魔法に関する物があったり、犯罪の証拠があるかもしれないんですから、家から押収するのなんて当たり前ですよ。良かったですね。マグルがお屋敷の地下に監禁されていなくて」

 

 どうにも売り言葉に買い言葉で二人は完全にお互いを怒らせてしまっていた。最初はウィーズリーに怒っていたはずなのに、オスカーはムーディの方がムカつくのだ。

 

「ムーディ。君が先にローガンの事でオスカーに……」

「何ですか。マグル生まれのくせにドロホフと随分仲がいいんですね。どうせこいつの父親が何をしたのか知らないんでしょう? 教えてあげたらどうですか? ウィーズリー」

「いや、ちょっと二人とも……」

「怖気づいたんですか? じゃあ私が教えてあげますよ。アントニン・ドロホフ、フェービアン・プルウェットを殺害、マグルや魔法族を多数拷問、殺害したとの証言あり、ですよ。よく仲良くしてられますね。私なら怖くてドロホフの家になんて行けませんよ。いつ磔の呪文の実験台になるのかわかりませんから」

 

 オスカーはいい加減限界に達しそうで杖を上げそうだったが、どうにも隣のシラの方が怒っているようだった。もしかしなくてもオスカーよりシラの方が気が短いのかもしれない。

 

「何て失礼な事言うんだい? 君はエティさんに会ったことないじゃ無いか。私の制服はオスカーのお母さんに貰ったし、教科書だって貰ったよ。オスカーのお屋敷に行っても私は拷問の呪文なんて受けてないよ。二人とも出て行って。怖い家から持ってきたお菓子をずいぶん食べたんだから、もうお腹一杯じゃないか。さあ早く出て行って」

「何を……」

「出て行ってって言ってるんだ。他のコンパートメントに行ってって言ってるんだよ。分からないのかい? マグルと魔法族だと喋る英語も違うのかい? フランス語で話せばいいのかい? トランクを持って出て行けばいいじゃ無いか。隠した箒とお菓子を一杯食べた蜘蛛を持って他のコンパートメントに行ってよ。だってオスカーがいると怖いんじゃないか。じゃあ君たちが出て行けばいいよ」

 

 シラの言葉に合わせて、オスカーは杖を振ってコンパートメントを開け、トランクを廊下に放り出した。ウィーズリーは唖然としている顔で、ムーディはまだ怒っているように見える。

 

「後悔しますよ。いいですか、死喰い人がやったことなんて知らないからそんなこと言えるんです。ネビルがどんな目にあっているのか……」

「知らないよ。私はマグル生まれだから。魔法族の戦争なんて知らない。聞こえ無かった? 出て行って。ゲットアウトだ」

「いいですよ。分かりました。ウィーズリー、出ていきましょう。私達はお邪魔みたいですから」

「え…… ああ。うん」

 

 二人が出て行ったあと、しばらく残りの二人は喋らなかった。外はもうすっかり暗くなってしまっている。オスカーはちょっと時間が経って、色々後悔した。だって、もしオスカーじゃなくてキングズリーがいたなら、するっとウィーズリーの怒りだって受け流しているのではないだろうか? ムーディとシラが喧嘩する必要だって無かったのだ。

 

「ちょっと怒りすぎちゃった。でもムーディは失礼だよ。オスカーのお母さんに会ったことないじゃ無いか」

「でも怒りすぎたよ。僕も。ウィーズリーが怒るのはそうだし、ムーディもお姉さんの事だとすぐ怒るのかもな」

 

 どうしたらいいのだろうか? だって、最初にあった二人でさえこうだったのだ。ホグワーツに入ったらもっとこんな事を言われるのだろう。そのたびにこんな風に喧嘩していては生活など出来ないでは無いか。それにやっぱりシラを巻き込んでしまったのだ。オスカーの父親とシラは関係が無いのに。

 

「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていってください」

 

 車内に声が響き渡った。オスカーもシラも汽車に乗る前から制服のローブを着ていたのでそのまま降りればいいだけだ。オスカーはローガンとユーリアに夜の分のエサをあげた。

そのあと二人で最後に忘れ物が無いかだけチェックをして、残ったお菓子を全部トランクの中にいれた。

 

 汽車は速度を段々と落とし、停車したようだ。もうコンパートメントの外は生徒たちで一杯だ。シラはフランスから来た時に列車の混雑には慣れているみたいで、彼女に手を持たれてオスカーはホームに出た。小さくて暗いプラットホームで、九月なのに夜の空気は寒い。でもオスカーとシラには慣れた空気だった。だってここは二人の家に近いのだ。

 

 上級生たちが他の方向へ行く中、一年達がどこに行ったらいいのか戸惑っていると向こうの方からランプが近づいてくる。一年生たちの身長よりずっと高い場所でランプがゆらゆらしているのだ。陽気で大きな聞き覚えの無いなまりのある声がした。

 

「イッチ年生!! イッチ年生はこっち!! おお、クラーナ、元気か?」

「ええ、ハグリッド、フレイもいますよ」

「おお、そりゃええ」

 

 オスカーが見たことがないくらい大きな男が生徒たちの頭の向こうから笑いかけている。ムーディの言葉からしてハグリッドと言うらしい。

 

「さあ、あとはイッチ年生はいないかな? 足元に気をつけろ。いいか!! イッチ年生!! ついてこい!!」

 

 どこを向いてもハグリッドのランプしか灯りが無い。なのに険しくて小石なんかが沢山ある小道を歩かないといけないのだ。

 

「ルーモス 光よ シラ、これで行こう」

「オスカーが呪文を使えてよかったよ」

 

 オスカーの灯りだけが生徒が持っている灯りらしい。あとはハグリッドの灯りとその傍に同じような灯りがあるがムーディのものだろう。どうも森というか藪の中の小道を一行は歩いているようだ。それに歩いている間にオスカーの周りには他の一年生が灯りを頼りに集まっていた。

 

「みんな、この角を曲がったらホグワーツが見えるぞ」

「うわー!?」

 

 一年生たちの口から言葉が湧き出てきた。

 狭い道がいきなり開けて、大きな黒い湖のほとりに立っていた。むこう岸は丘のようになっていてその一番上に城が見える。オスカーが見たことのある建物の中で一番大きい。小さい塔や大きい塔がいくつも突き出ていて、窓からはロウソクと同じ色の灯りが星空に浮かび上がっている。

 

「綺麗だね。オスカー。こんなお城初めて見たよ」

「綺麗だ」

 

 オスカーは確かに思った。美しいと。間違いなく、オスカーがこれまで見たことのある景色の中で一番美しかった。

 

「四人ずつボートに乗って!!」

 

 ハグリッドが岸辺に繋がれたボートに乗る様に促した。二人は空いているボートを探したが二人で城に見とれている間にほとんどのボートは埋まってしまっているようだ。

 

「みんな乗ったか? そこの二人、クラーナのところのボートがあいとる」

 

 二人はしぶしぶムーディとウィーズリーのボートに乗った。お互いに何も喋らない。オスカーはせっかくの景色なのに気まずいと思ったがそれを忘れるくらいこの景色は素晴らしかった。

 

「今度こそみんな乗ったか? よーし、では進め!!」

 

 船団は漕いでいないのに勝手に湖面を滑り出した。一年生は何も喋らず、ただただ、湖面に映る星空とその上に見える城に見とれていた。城が近づくほど首を上げないと城が見えなくなってくる。

 

「頭、下げぇー!!」

 

 崖下までくると崖の中にぽっかり穴が開いていて向こうの方に炎の灯りが見える。蔦のカーテンをくぐり、城の真下まで続くような洞窟をくぐり抜けて、地下の船着き場に到着した。

 

「忘れ物はねえな? みんないるな。よーし。進め」

 

 ハグリッドの大きな背中について岩でごつごつした道を星明りを頼りに登り、草むらを通り過ぎ、石段を登れば巨大な樫の木の扉があった。

 

「みんないるか? よーし」

 

 ハグリッドが大きな握りこぶしで城の扉を三回叩いた。

 

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