オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第八章 組み分け

 巨大な扉なのに流れるように左右に開いた。中からエメラルド色のローブを来た背の高い黒髪の魔女が出てくる。キングズリーと同じくらい身長があるのではないだろうか? 魔法省にいたクラウチ部長を思い出すような厳格な顔をしている。

 

「イッチ年生の皆さんです。マクゴナガル教授」

「ご苦労様です。ハグリッド。ここからは私が案内します」

 

 生徒たちが入った玄関ホールだけでもオスカーの家の広間くらいの大きさがある。天井は比べものにならないほど高く松明の火も届かないくらいだ。奥へ向かって壮大な大理石の階段が続いている。

 一行は階段を登り、大広間の入り口らしき沢山の人のどよめきが聞こえる扉を通り過ぎて大広間の隣にあるらしい部屋に詰め込まれた。オスカーが周りを見回すとどの生徒も周りをキョロキョロ見たりしながら寄り添っている。

 

「ホグワーツ入学おめでとうございます。新入生の歓迎会がまもなく始まります。ですが、大広間の席に着く前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組み分けは非常に重要な儀式です。ホグワーツにいる間、学校での皆さんの家族は寮生そのものです。教室では寮生と一緒に日々勉強し、寝るのも寮、自由時間は寮の談話室で過ごすことになります。寮は四つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンです。それぞれ学校が創設された時から輝かしい歴史があります。偉大な魔法使いや魔女が卒業しました。皆さんのお父さまやお母さまもそうだと言う人も多いでしょう。そして、ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いは、自分の属する寮の得点になりますし、反対に規則に違反した場合は寮の減点となります。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るとしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなる様に望みます」

 

 なるほど。だいたいオスカーは聞いていた通りだと思った。でも家族だなんて、そんなに仲良くなれるモノだろうか? だってもうムーディやウィーズリーと喧嘩してしまったのだ。

 

「まもなく全校列席の前で組み分けの儀式が始まります。待っている間、出来るだけ身なりを整えておきなさい」

 

 マクゴナガル先生は一瞬、ウィーズリーのとまっていないボタンに目をやり、ピンク髪の女の子のツンツンした髪に目をとめた。シラはとなりでちょっとぶるっと体を震わせている。

 

「学校側の準備を確認してきます。出来ていれば戻ってきますから、静かに待っていて下さい」

 

 先生は部屋を出て行った。途端に生徒たちにざわざわが戻る。

 

「どうやって寮を決めるんだろうね?」

「キングズリーは生徒の特質を見極めるって言ってたけど。誰かそういう事が出来る人がいたり、そういう魔法があるのかもしれない。優れた魔法族は開心術も使えるって言ってたし」

 

 流石にオスカーもちょっと緊張してきた。誰と一緒になるのだろうか? 仲良くやれるだろうか? と言っても周りの生徒たちに比べればあまり緊張していないようだ。ムーディはなんだかブツブツと言っていたし、シラは相変わらずじっと動かず、時々ぶるっとしている。ウィーズリーは何も喋らないが顔色は良くない。一番緊張して無さそうなのはピンク髪の女の子だ。相手かまわず何するのかしら? とか、まあ大丈夫よね。死ぬわけじゃ無いもの。とか言っている。

 

「さあ行きますよ。組み分け儀式がまもなく始まります。さあ、一列になってついて来てください」

 

 みんなが動かないのでオスカーがマクゴナガル先生について行くと、シラがついて来て、他の生徒たちもぞろぞろとついてきた。一年達はもういちど部屋から出て、玄関ホールに戻り、そこから大きな二重の扉を通って大広間に入った。

 オスカーは今日二度目、人生で二回目くらいに美しいと口に出しそうになった。まず何千というロウソクが宙に浮かんで広間を照らしているのが目に入る。そしてその上、天井はなんと星がまたたいているのだ。ビロードのような黒い空は外の星空そのものだ。

 

「オスカー、あれが『ホグワーツの歴史』に書いてあった本当の空を映すための魔法だよ」

 

 シラが後ろからそう言うのが聞こえた。そしてその天井の下には四つの長いテーブルが並んでいて上級生たちが座っている。それぞれ赤、黄、青、緑の色に分かれている。各寮のテーブルなのだろう。広間の奥には先生方が座っているテーブルがあり、汽車のカードで見たアルバス・ダンブルドアその人が中央に座っている。

 マクゴナガル先生に引率され、奥のテーブルの前まで来て、反対を見るように一年達は言われた。先生たちに背を向け、上級生に顔が見えるようなかっこうだ。一年生をみつめる幾百もの顔がろうそくの明かりで瞬いて見える。

 

 マクゴナガル先生は一年生たちの前に四本足の椅子のようなものを設置した。椅子の上には魔法使いのかぶるとんがり帽子が置かれている。オスカーが見たことが無いくらい古くて汚く、つぎはぎだらけでボロボロだ。ペンスやミリベスがいればすぐに捨ててしまうだろう。

 オスカーは上級生たちの目線がその帽子に集まっていることに気づいた。まるで帽子の動きに期待しているようだ。ほんの一瞬、広間は時が止まったみたいに静かになり、それを待っていたとばかりに帽子がピクピク動き出し、つばの破れた所がまるで口のように開き、なんと歌いだした。

 

『私の姿はみすぼらしい

 けれども人は見かけによらぬもの

 果たして私は誰なのか?

 私は思う、私は誰?

 それは皆が知らぬこと

 

 ならば私は伝えよう

 君の頭にあるものを

 

 組み分け帽子はお見通し

 かぶれば君は知るだろう

 君の頭にあるものを

 

 四天王のそれぞれは

 四つの寮を作り出し

 自らの持つ徳目を

 それぞれ寮で教え込む

 

 グリフィンドールが持ちよるは

 何にもくじけぬ勇猛さ

 

 ハッフルパフが持ちよるは

 何にも負けぬ勤勉さ

 

 レイブンクローが持ちよるは

 何をも知る賢明さ

 

 スリザリンが持ちよるは

 何をも阻まぬ狡猾さ

 

 四天王の亡き後に

 誰が選ばんその素質?

 

 グリフィンドールその人が

 ボロボロにしたその帽子

 四天王のそれぞれが

 自分の徳を吹き込んだ

 帽子が素質を見分けるよう

 

 被ってごらん。恐れずに

 君の知らない君の頭

 私が見よう。知らぬ頭

 そして知るのさ、寮の名を!』

 

 歌が終わると広間は拍手に包まれた。帽子は四つのテーブルそれぞれにお辞儀した後、まるでただの帽子だと言わんばかりに椅子の上で動かなくなった。

 一年生たちはホッとしたのかブツブツ後ろから囁き声が聞こえる。オスカーはオスカーでちょっと嫌な気分だった。何故なら恐らく名前を呼ばれるだろうからだ。

 マクゴナガル先生が長い羊皮紙の巻物を持って前に出る。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」

「アリ・バディーア!!」

 

 ターバンのようなものをかぶった女の子がちょっとフラフラしながら前に出てきた。被り物の上に帽子をかぶったが帽子を大きすぎてほとんど顔が見えない。座ってかぶったほとんどその瞬間……

 

「レイブンクロー!!」

 

 右側の青い服を着た人たちのテーブルから歓声と拍手が上がった。アリはやっぱりちょっとふらつきながらもレイブンクローのテーブルに向かって行った。

 

「キャプラン・ディエゴ!!」

 

 結構大柄な男の子が堂々と前に進み出て帽子をかぶり、一瞬の間の後に。

 

「ハッフルパフ!!」

 

 と帽子が叫んだ。黄色の服のテーブルから歓声と拍手が上がった。ディエゴが行くとハッフルパフの何人かが立ち上がって握手で迎えていた。次のコッパー・ベンはしばらくの間の後にグリフィンドールに組み分けされ、他の生徒と同じように歓迎されている。

 オスカーは思った。多分、どの寮でも歓迎はされないのだろう。だってみんなオスカーの名字を知っているのだ。レストレンジやブラックと同じように連日、新聞の一面を埋めていたのだから。

 それから何人か呼ばれたがみんな歓迎されている。オスカーは自分の名前を呼ばれるのが嫌になっていた。だってまたウィーズリーやムーディのように名前を聞いた途端、あんな顔をするのではないだろうか?

 

「ドロホフ・オスカー!!」

 

 オスカーが前に進み出ると、広間にささやきが広がったのが分かった。

 

「ドロホフ?」

「ドロホフって、死喰い人の?」

「親戚か?」

 

 帽子をかぶる直前にオスカーが見たのは広間中の人間が首を伸ばしてオスカーの方を見ようとしている様子だった。それでも深くかぶればその顔も見えなくなった。

 

『フーム』

 

 キングズリーと同じくらい低い声がオスカーの耳の中で聞こえた。

 

『難しい。非常に難しい』

「何が難しいんだ?」

 

 思わずオスカーは小声で口に出してしまった。

 

『スリザリンとグリフィンドールどっちが良いかね? そうか、君は私に選ばれるのが嫌なのか』

「えーっと…… お前…… 君…… あなたは心が読める?」

『いかにも。私はホグワーツ組み分け帽子、先に私は歌った。君の頭の中を知っていると』

 

 オスカーは他の人には聞こえていないのだろうかと思ってちょっと組み分け帽子を上げ、周囲を見回した。上級生たちはオスカーの方を好奇の目で見ている。口々に何か言っているのも聞こえる。

 

『君の人や物事に対する素晴らしい怒りと勇気はグリフィンドールが求めるものそのものだ。私に決めつけられたくないのだろう? 誰かのために偉くなりたいんだね? 君は目的のためならルールを守らないだろう? まだそうしないのは君が抜け目ないからだ。スリザリンはそれを求めている』

 

 ちょっとオスカーは怖くて恥ずかしくなりそうだった。そしてその後、組み分け帽子が言うようにムカついて来た。なぜなら組み分け帽子の言う通り、お前はこんな人間だと押し付けられている気がするのだ。そして言われた通りに思ってしまって、まるで大広間に自分の心の中を分解されて並べられている気分だった。

 

『そうか。君はどちらも嫌なのか。中々珍しい子供だ』

「早く、決めてくれ…… 決めてくれませんか?」

 

 いったいどれくらいかかっているのか分からないのだが、組み分け帽子はときどき喋ってはウームとかウーンとか唸っているだけで全くオスカーの寮を決めてくれなかった。他の新入生は長くても一分とかそれくらいなのにオスカーは随分とこの大広間の中心に座らされていた。

 

『どちらも嫌だと言っても君はグリフィンドールかスリザリンどちらかにしか入れない』

「だから早く決めてくれ。こんなことになるんだったら最初から寮なんてなければいいんだ」

『残念ながら君をハッフルパフに入れるわけにはいかない。君は受け入れるのは得意では無い。君は普通になりたいわけでは無い。君はある意味での忍耐を持たない』

 

 グリフィンドールに入れば、ムーディやウィーズリーみたいな奴らがいてオスカーはなじめないだろう。スリザリンには入ればドロホフの息子だと余計に思われるだろう。オスカーはどっちも嫌だった。寮なんてなければシラと苦労しないでも喋れるのにどうして組み分けなんてあるのだろうか?

 

『私は長い歴史の中で組み分けを間違えたことは無い。君の組み分けには時間が必要なのだ。もちろん君はどちらでも上手くやれるだろう』

「じゃあどっちを選んでも一緒じゃないか」

『君がどちらも嫌だと本気で思っているからだ。どちらかが良いと言うなら君はそれを選ぶことが出来る』

 

 そんな事を言われてもオスカーは本当にどっちも嫌だった。どっちに入ったって何が変わるのかも分からないのだ。

 

「レイブンクローは……」

『君は賢い。だが君は賢さそのものに意味を見出しているわけでは無い。賢さと考え方に価値があると知っているが君はそれが何に使えるのかに興味があるのだ。君は個性を認める。だが君はそれを個々人に求めているのではない。君は世の中にそうさせたいのだ』

 

 言い方が難しくてオスカーは半分くらいしか理解できなかったが組み分けは帽子はグリフィンドールかスリザリン以外に譲るつもりが無さそうだった。

 

『その通り、君はグリフィンドール、スリザリンどちらかにしか入れない。君はどちらに入っても偉大になれる道が開く』

 

 心の中を読むのをオスカーはやめて欲しかった。物凄くムカついて仕方なくなるのだ。今、魔法が使えるのならこの帽子を燃やしてしまいたいくらいだった。心の中に土足で踏み込んで、一体この帽子とそれを作った人間は何様だと言うのだろうか?

 

『それが君の長所だ。不遜な考え方とプライド、グリフィンドールとスリザリンが求めるものだ』

 

 恐らくもう五分は経ってしまっているのではないだろうか? 生徒たちのざわざわは大きくなっていて、職員のテーブルも何だかオスカーに注目しているようだ。ゴブリンかと思うくらい小さい先生は隣のハグリッドのテーブルの上に立ってまでこっちを見ている。マクゴナガル先生もこっちを興味深げに眺めている。

 

「あなたと話せば決まるのか…… 決まるんですか?」

『やっと話す気になったかね? これでも君をかなり褒めているつもりだったのだが』

 

 やれやれという口調の組み分け帽子にオスカーはやっぱり怒りが湧いて来た。他の生徒のようにすぐ決めればいいではないかと思うのだ。

 

『それは出来ない。五十年に一人は君の様な新入生がいるものだ。けれど…… 君はやはり今を変えたいのだね?』

「今を?」

『そう、今を。君にはもう守るべきものがあるのだから。君は外を変えるべきだ。よろしい、君が求めるものにより近く…… グリフィンドール!!』

 

 最後の言葉はどうも広間全体に聞こえたようだ。もっとざわざわが大きくなった。帽子はもう喋らなかった。最後まで勝手な帽子だとオスカーは思った。帽子を置いてオスカーははっきりとした足取りでグリフィンドールのテーブルへ向かった。ここでフラフラしていたら舐められる気がしたのだ。 

 ポロポロとした拍手があがっていた、恐らく寮監のマクゴナガルとバッジを付けた何人かが拍手をしたからだろう。他の生徒の時の拍手と比べて明らかに小さかった。オスカーはどう考えても歓迎されていないと思い、誰も座っていない一番端のテーブルに座ることにした。

 

「そんなに遠くに座らなくともいいでしょう?」

「貴方はゴースト?」

「いかにも。ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿と言います。お見知りおきを。グリフィンドール塔に住むゴーストです」

 

 座って他の組み分けを見ていたオスカーに話しかけて来たのは半透明の銀色をしたゴーストだ。オスカーはこのゴーストの事を母親から聞いたことがあった。

 

「母さんが言ってたよ。『ほとんど首無しニック』ってあだ名でみんな呼んでるって」

「むしろ、呼んでいただくのであれば、ニコラス・ド・ミムジー……」

「ほとんど首無しが嫌ならニックって呼ぶよ」

「なんと。今年の新入生は礼を知っているようですね」

 

 寮に配属されたのに最初に喋ったのがゴーストなんて母親には話せないとオスカーは思った。それからも組み分けは進んでいる。エグウ・アンドレは黒人の男の子でレイブンクローに組み分けになった。

 

「グヴィン・シラ!!」

 

 シラの番だ。ちょっとカチコチな動きで彼女は椅子に座って組み分け帽子をかぶった。帽子は一瞬の間の後叫んだ。

 

「レイブンクロー!!」

 

 そうだろうなとオスカーは思っていた。大抵、こういう時は自分の思い通りにはいかないものだ。オスカーとは対照的に彼女はレイブンクローの寮生に迎えられている。先に組み分けされた新入生と喋っているようだ。どうしてこうも上手く行かないのだろうか?

組み分けはどんどん続いている。ヘイデン・コーリーという赤っぽい茶髪の男の子はグリフィンドールに、ヘイウッド・ペニーという金髪の女の子はハッフルパフ、ロボスカ・キアラは銀髪のショートカットの女の子でこれもハッフルパフだ。リーというこれまでで一番大柄な男の子はスリザリンになった。

 

「トンクス・ニンファドーラ!!」

 

 ピンク色の髪の女の子が待ちきれないとばかりに飛び出して思いっきり帽子をかぶったのだが、ビリっと出してはいけない音が鳴ってしまい、しばらく帽子は動かなくなった。オスカーはもしかして帽子があの女の子に怒っているのでは無いかと思った。

 

「ハッフルパフ!!」

 

 トンクスはちょっと舌を出しながらニコニコ顔にピンクと赤の色交じりの髪を点滅させながらハッフルパフのテーブルに向かった。なんて器用な髪の毛なんだろうか? オスカーは本当に放っておいても目立つ人間がいるのだと分かった。オスカーだって目立つならああいう方がまだましだと思うのだ。

 次のマーク・イスメルダという顔にそばかすかにきびのある女の子はスリザリンに迎えられた。スリザリンは他の寮より人が少なく見えるのに拍手の大きさは一番かもしれない。オスカーはもしかしてスリザリンにしてくれと組み分け帽子に頼んだ方が良かったのかもしれないと後悔しそうだった。

 

「ムーディ・クラーナ!!」

 

 ムーディ、ムーディだ。他の一年生たちより頭一つ分くらい小さい。堂々とした足取りで帽子をかぶるとほとんど体が見えなくなってしまった。なんて小さいのだろうか? そして……

 

「グリフィンドール!!」

 

 オスカーは思わずうめいた。どうせこうなると分かっていたにしろ、思い知らされると嫌だった。オスカーの時とは違って割れるような拍手がグリフィンドールのテーブルから起こった。やっぱり堂々として嬉しそうにムーディはこっちのテーブルに来る。

 まだまだ組み分けは続いている。カラス・チューリップという赤い髪の女の子はレイブンクローに、キム・ジェイは東洋人の風貌でグリフィンドールだ。あとはスナイド・メルーラがスリザリン、ムーディと同じくらい気が強そうな顔の女の子だ。

 

「ウィーズリー・チャールズ!!」

 

 ウィーズリーの番だ。ウィーズリーはかなり青い顔で帽子をかぶったが、頭に触れるか触れないくらいで帽子が叫んだ。

 

「グリフィンドール!!」

 

 オスカーはどうにも最悪の予想だけが的中するのだと思い知らされた。シラは別の寮で、ムーディとウィーズリーが同じ寮だ。どうやっていけばいいのだろう? 組み分けは最後にウィンガー・タルボットという男の子がレイブンクローに配属されて終わった。

 

「さあ、君も新入生なのですからあちらに行きましょう。今は生徒数が少ないのですからテーブルは余るんですよ」

 

 ニックにそう言われてオスカーは出来るだけ目立たないように新入生たちの方へ移動した。そう、むしろ席が余っているので離れた場所にいる方が目立つのだ。

 

「チャーリー、よくやったぞ。えらい」

 

 ウィーズリーによく似た男の子が話しかけている。多分、さっき言っていた兄のビルだろう。弟と同じく燃えるような赤毛で、身長は高く、顔も整っている。オスカーはニックと一緒にたしかキム・ジェイと呼ばれていた東洋人の男の子の隣に座った。

 

「おめでとう!! ホグワーツの新入生、おめでとう!! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ!! どっこいしょ!! 以上!!」

 

 アルバス・ダンブルドアはいきなり立ち上がったと思えばそう言ってそのまま座ってしまった。広間中が歓声をあげている。オスカーは笑えばいいのか分からなかった。

 

「ビル、ダンブルドア先生ってちょっと変だよね? 二言、三言って言ったのに一言しか言ってないし」

「変? チャーリー、あの人は世界一の魔法使いさ。まあでも、偉大な魔法使いは大抵どこかおかしいものだ。チャーリー、ホグワーツのご飯はママのに負けないくらい美味しいぞ」

 

 目の間の大皿はオスカーが目を離した間に食べ物で一杯になっていた。新入生の何人かはそれに驚いている。でもオスカーはあんまり気乗りがしなかった。組み分けの事もあったし、何より料理はイングランドやスコットランドで一般的なものだ。ローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ゆでポテト、グリルポテト、フレンチフライ、ヨークシャープディングなんかだ。

 オスカーの家とシャックルボルトの家はあんまりスコットランドやイングランドの料理が出ないのだ。多分、昔、違う場所から祖先が引っ越して来た時からの料理を変えていないせいだろう。

 一応、よく食べている料理が無いかキョロキョロしてから、オスカーは諦めてポークチョップとグリルポテトを食べる事にした。オスカーや新入生たちが食べている様子を見て、ニックが羨ましそうに言った。

 

「美味しそうですね」

「ヒッ…… 食べ…… 食べられないの?」

 

 金髪のコッパーがビビりながら訪ねている。オスカーはさっきからこの男の子が何に怯えているのかが不思議だった。人が動けばびくっとするし、ニックが喋ってもこれなのだ。

 

「かれこれ四百年、食べておりません。もちろん食べる必要はないのですが、でもなつかしくて。オスカー君以外にはまだ自己紹介しておりませんでしたね。ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿といいます。お見知りおきを。グリフィンドール塔に住むゴーストです」

「ほとんど首無しニックですか? あ、ドロホフいたんですね」

 

 ムーディが間髪入れずにそう言ったが、オスカーはムーディに見つかったことで気分がもっと下がった。

 

「そう言うあなたは…… おや、イライザ嬢の妹さんですね。しかし、むしろ、呼んでいただくのであれば、ニコラス・ド・ミムジー……」

「なんでほとんど首無しなんだい?」

 

 キムがそう口を挟んだ。間で口を挟まれニックはどうも一年生たちの反応がお気に召さなかったようだ。

 

「ほら。このとおり」

 

 ニックが左耳を掴んで引っ張ると、頭が首からグラッと外れて肩の上に落ちた。かなり乱暴な切断面が見える。銀色の半透明なのにオスカーも含めて新入生たちはぎょっとしてしまった。それが期待通りの反応だったのかニックは嬉しそうな顔で頭を元に戻した。

 

「昨年はレイブンクローが寮杯を取りました。今年は寮対抗優勝カップを獲得できるように頑張ってくださるでしょうな? イライザ嬢の妹さん、期待していますよ。貴方のお姉さんは時には信じられない減点で寮杯をふいにし、時には信じられない加点で逆転させたこともありますから」

「何やってるんですか…… 姉さん……」

 

 オスカーはなんだかグリフィンドールの会話がどうでも良くなってレイブンクローのテーブルを見た。シラはターバンを被った女の子と喋っているみたいだ。ダイアゴン横丁に行った時と同じように目をキラキラさせている。

 会話に入らなくてもどんどん時間は過ぎ、あらかた生徒たちのお腹に夕飯が入るとデザートが現れた。いろんな味のアイスクリーム、糖蜜パイ、エクレアなんかだ。オスカーはペンスの作ってくれる色んなお菓子がもう恋しくなりそうだった。

 オスカーが一番端でアイスをほおばっていると一年生たちは家族の話になったようだ。

 

「僕の両親はホグズミードに店を持っているんだよ。だから実は何回かホグワーツは見たことがあるんだ」

「へえ。僕は顔を見たらわかると思うけど。両親とも東洋の出身だけど、二人とも僕が生まれる前にこっちに越して来たんだ。僕が受け継ぐのなんてトッポギのレシピくらいだから羨ましいな」

 

 なるほど。ホグズミードにお店。オスカーはコーリーが羨ましかった。事実なら何度も小さい頃から家の外に連れて行って貰っていたのだろう。キムの言っているトッポギとは何だろうか? 東洋の料理などオスカーはスシとテンプラくらいしか知らなかった。

 

「ベンはどうだい?」

 

 ウィーズリーに話を振られるとコッパーはビクッとした。やっぱりまるで何かに怯えているようだ。一体何が怖いと言うのだろうか?

 

「僕、マグル生まれなんだ。魔法の学校に入るってワクワクしてたんだけど……」

「してたけど何ですか?」

 

 ムーディがそう言うと余計にコッパーの体は強張っていた。オスカーにはあんな小さい女の子の何が怖いのかさっぱり分からなかった。

 

「その…… ホグワーツ特急でずっといじわるされたんだ。何かにつけて僕を脅して、穢れた血って呼んできた。あんまり言葉の意味は分からなかったけど……」

「はあ!? 誰ですかそいつ? 名前は?」

「誰だいそいつ? 穢れた血なんて…… パパが聞いたら大変だよ」

 

 そんな言葉を使う生徒がまだいるのだとオスカーは思った。穢れた血とは、マグル生まれの魔法族の血が穢れていると言う意味なのだ。シラを穢れた血と呼ぶ生徒がいたらどうだろうか? もしかしなくてもオスカーは普通に杖を上げてしまうかもしれなかった。

 

「ほら…… スリザリンに組み分けされた。メルーラだよ」

「苗字はスナイドだったっけ?」

「そう。一年生で最強の魔女になるんだって。言ってたけど」

 

 最強の魔女とはいったい何なのだろう? 一年生で最強になったからと言って何の意味があるのだろうか? 同級生に負けたくないならオスカーにも分かるのだが自分で名乗るのはさっぱり意味が分からなかった。

 

「ハッ…… 最強の魔女? まあ私の方が魔法も決闘も出来ますよ。だいたいスナイドって…… たしかアズカバン送りの死喰い人の名前にいましたね。マイナーですけど。大した名前じゃないですよ。特別管理下のメンバーじゃないです」

「し、死喰い人って……」

「死喰い人って言うのは例のあの人の下で働いていた人たちだよ」

「そ…… それじゃあ……」

 

 オスカーは絶対にムーディとウィーズリーの方を見ないようにしていたが、二人がこっちを向いていることはオスカーにも分かっていた。なんなのだろうか? 死喰い人の子供の事は死喰い人の子供に聞けとでも言うのだろうか? スナイドなんて名前、オスカーは聞いたことも無かった。

 

「まあ大丈夫ですよ。グリフィンドールにはもっと有名な死喰い人の子供がいますからね」

「ヒッ…… そ、そんな……」

「ですよね。ドロホフ。スナイドは知り合いですか?」

「知るか。話しかけるなよ」

 

 グリフィンドールの一年生のほとんどがオスカーの方を見ていて、コッパーなどあからさまに怯えている。なんて失礼なのだろうか? オスカーがいつ穢れた血とマグル生まれに言ったりしたというのか。まるでいつ誰かに呪いをかけてもおかしくないみたいな扱いではないか。

 

「なんだ? 知り合いじゃないんですか?」

「だから話しかけるなって言ってるだろ」

「じゃあ。今度、ベンにスナイドが近づいたらグリフィンドール生には手を出さないように言っておいてくださいよ。特別管理下の死喰い人の子供のいう事なら聞くかもしれないじゃないですか」

「また喧嘩を売ってるのか? ムーディ?」

 

 本当にこいつはなんなのだろうか? だってここは新入生の歓迎の場ではないか。だというのに明らかにオスカーを挑発してきているのだ。

 

「ええ。私とチャーリーのカバンをコンパートメントから放り出して、闇祓いの事を侮辱しましたからね。忘れていませんよ。だいたい、なんで貴方がグリフィンドールなんですか?」

「僕はお前がホグワーツに入れたことの方が意外だよ。九歳か八歳くらいだと思ってたさ」

 

 ウィーズリーは加勢に入らない様だ。オスカーを無視することに決めたのだろうか? どうしてまだ何もしていないのにこんな目で見られないといけないのだろうか? 組み分け帽子の選択は間違っていたとしか思えなかった。

 

「へえ。言うじゃないですか。やっぱり私はスナイドなんかより貴方の方が危ないと思いますけどね」

「そ…… そんな挑発するなんて……」

「気を付けた方がいいですよ。ドロホフは無言で魔法を使えますし、それも四、五年生が習う呪いも無言で使えるって自分で言ってましたからね。まあ私も使えますけど」

 

 嫌味な女の子だ。どうも完全にオスカーはムーディを敵に回してしまっていた。あの時、闇祓いの事を言わなければこんなことにはならなかったのだろうか? でも、オスカーはローガンの事を言われた時は本当に怒っていたのだ。

 

「良かったじゃないか魔法が使えて。身長に合わない杖で良く使えたな」

「安い挑発ですね。アズカバンではそういう言い方が流行っているんですか?」

「そうだ。闇祓いと違って身の丈に合った言い方をするんだよ。相手の身の丈にあった言い方をな」

 

 オスカーはムーディと言い争うのが賢く無いのが分かった。何故なら一年生たちの目線はみんな二人に向いていたからだ。これではどう他の一年生と喋ればいいのだろうか? コッパーなどあからさまにオスカーがそっちを見るだけでヒッ…… などとするのだ。

 

「エヘン…… みんなよく食べ、良く飲んだことじゃろうから、また二言、三言、新学期を迎えるにあたって、いくつかお知らせがある。新入生に注意しておくが校内にある森には入ってはいかん。これは上級生にも特に注意しておいて貰いたい」

 

 ダンブルドアが喋り始めてオスカーはこれ幸いとばかりにムーディを無視してそっちを向いた。

 

「管理人のフィルチさんからは毎年のことじゃが、授業の合間に廊下で魔法を使わないようにとのことと様々な規則を守るようにとの連絡があった。これらの規則はフィルチさんの事務所の前で確認することが出来る」

 

 教職員のスペースを見れば中々バリエーションに富んだ先生が座っている。まず中心に長身の老人、ダンブルドア。隣はオスカー達を案内してくれたマクゴナガル。顔しか見えないくらい小さい先生。どこにいても目立つ巨大な森番? のハグリッド。他にはすんぐりとした女の人。珍妙な玉ねぎの輪切りを首に連ねている人…… オスカーはこの人に見覚えがあった。その隣は…… オスカーは見たものが信じられなかった。その隣にいる人と父親が話しているのを見たことがあったからだ。

 

「それに今学期は二週目からクィディッチの選抜会が始まる。一年生以外で寮のチームに参加したい人はまずマダム・フーチに連絡して欲しいとのことじゃ」

 

 一年生以外、とのフレーズの所でウィーズリーはあからさまに肩を落とした。けれどオスカーはクィディッチに興味が無かったし、それよりも一番端に座っているねっとりとした髪にかくっと曲がった鉤鼻の若い男。この男はどうして教員のテーブルに座っているのだろうか?

 

「最後になるが。四階の右側の廊下は立ち入り禁止じゃ。先生方以外が立ち入るのは非常に危険じゃから立ち入らぬように」

 

 ダンブルドアが良く分からない事を言っていたがオスカーは聞いていなかった。さっきまでムーディと喧嘩していたことも忘れていた。

 

「非常に危険? 何かいるんでしょうか? 何か置いてあるとか?」

「なんであいつが教師なんだ?」

「は? ドロホフ? あいつって誰ですか?」

「一番端の若い男」

 

 オスカーは知っていた。何人もアズカバン送りを逃れた人間がいるのだ。例えばイゴール・カルカロフ。オスカーの目の前で沢山の死喰い人の名前を吐いて許してくれと言っていた。クラップ、ゴイル、ノット、マルフォイ。どいつも何もやっていないで通していた。

 

「あれはスネイプですよね? チャーリーのお兄さん?」

「あれ? ああ、二人は喧嘩しているって聞いたけど。仲直りしたのか? あの先生はセブルス・スネイプっていう名前で魔法薬学の先生だよ」

「あいつは死喰い人だ。なんで先生が出来るんだ?」

 

 そう。オスカーはスネイプ、カルカロフ、そして今はいないロジエールという男と父親が喋っているのを見たことがあるのだ。そしてあの男が他でもないダンブルドアに裁判で守って貰っていたのを聞いているのだ。でもアズカバン送りでないだけではなく、先生をしているなんて知らなかった。

 

「はあ? ドロホフ。そんなこと私が知るわけないでしょう。貴方の方が詳しいのが普通でしょう。まあ姉さんはあいつはスルスル抜けていくから捕まらなかっただけだって言ってましたけど」

 

 なんなのだろうか? オスカーはもっとホグワーツは楽しい場所だと思っていたのだ。なのにムーディにウィーズリーはこんな態度。コッパーには怖がられる。他の新入生は怖い物を見る目。果ては裏切り者が教師をしている。ホグワーツとはこんな場所なのだろうか?

 

「では寝る前に校歌を歌おうの」

 

 ダンブルドアが突然声を張り上げたのでオスカーもそっちを向く。周りの先生たちの顔がさっきまでの笑顔では無くなっている。

 流れるようにダンブルドアが杖を振る。金色のリボンのような光が大広間に現れて、蛇や水の流れのように曲がって文字となった。

 

「みな、自分の好きなメロディーで、では、三、四、はい!!」

 

 どの寮の生徒も歌いだした。

 

 ホグワーツ ホグワーツ

 ホグホグ ワッワッ ホグワーツ

 教えて どうぞ 僕たちに

 老いても ハゲても 青二才でも

 頭にゃなんとか詰め込める

 おもしろいものを詰め込める

 今はからっぽ 空気詰め

 死んだハエやら がらくた詰め

 教えて 価値のあるものを

 教えて 忘れてしまったものを

 ベストをつくせばあとはお任せ

 学べよ 脳みそ 腐るまで

 

 オスカーはまだ機嫌が良く無かったので歌わなかったが、みんなバラバラなメロディーでテンポもそろえずに歌い終えた。ダンブルドアは最後の学生が歌い終えるまで金色のリボンのような光と杖を使って指揮をし続け、最後には広間の誰より大きく拍手した。

 

「ああ、音楽とは何にも優る魔法じゃ。さあ、諸君、就寝時間じゃ。駆け足!! 監督生と首席は仕事の時間じゃ」

 

 感動に涙ぐむダンブルドアの言葉を受けて全校生徒が動き出した。オスカー達、新入生の所にもグリフィンドールの監督生がやってきた。胸にPと書かれた赤と金色のバッジを付けた監督生はどこか得意そうだ。

 

「一年生はこれで全員かしら? 私はアンジェリカ・コールっていうの。グリフィンドールの監督生。もう誰かに歓迎して貰ったかもしれないけど、一応、もう一度。グリフィンドール寮へようこそ。寮に行く前にグリフィンドール寮の紹介をするわね」

 

 黒い肌の女性だ。口調や表情から監督生という仕事? を進んでやっているようにオスカーは思った。でも、闇祓いや裁判のメンバーといい、誰かに何かをさせる役割をオスカーは好きでは無かった。そんなに監督するというのは楽しいのだろうか?

 

「グリフィンドールの紋章は百獣の王、ライオン。寮の色は赤と金、談話室はグリフィンドール塔にあるの。ダンブルドア先生もそうだけど。グリフィンドール生はあんまり長々と説明しないから私もそうね。まあ、単純明快にグリフィンドールこそホグワーツで最高の寮よ。ホグワーツで最も勇敢な生徒がこの寮に選ばれる。今世紀最高の魔法使いであるアルバス・ダンブルドアもグリフィンドール生だったわ」

 

 勇敢? オスカーには何が勇敢なのかは良く分からなかった。嫌味を除けばムーディは怖いものなどないのかもしれない。でも他の一年生はどうだろう? みんな組み分けの時に青い顔をしていたでは無いか? オスカーを見る目だってとても勇敢な人間の目とは思えない。

 

「他の寮との関係も話しておくけれど、まずハッフルパフ。黄色の寮、いい人達よ。目立ちたがらなかったり競争しなかったりで面白くない時もあるけれど。スリザリン生でもいい人だと思っているわ。レイブンクローはまあガリ勉集団ね。試験の時はスリザリンより信頼できない人の集まり。最後にスリザリンは文字通り、ちょっと陰湿でねちっこくて嫌な奴らって感じ。それだけ覚えておけばあとは大体明日からの生活で分かると思うわ。さあ、もう眠いだろうから寮へ行きましょう」

 

 グリフィンドールの一年生はコールについて他の寮生たちがごった返す大広間を出て大理石の階段を登った。オスカーは喋りたくなかったし、他の一年生たちがムーディ以外、オスカーがいると静かになるのでコールの真後ろ、つまり一年生の先頭を歩いた。

 廊下やいくつも階段を通ってかなり城の上の階まで歩く。途中でゴーストや肖像画たちがそこらじゅうで喋ったり、お祝い気分なのか絵の中でお酒を飲んだりしている。

 六階の廊下の突き当りまでくると、ピンクでシルクで出来たドレスを着た太った婦人の肖像画がかかっていた。

 

「合言葉は?」

「ポプラス」

 

 コールが唱えると肖像画が前に向かって開く、後ろの壁に丸い穴があり、コールに続いてオスカーは登ったがムーディはかなり苦労して登っていた。身長が無いので手が穴の縁に中々届かなかったようだ。

 穴の先はグリフィンドールの談話室だ。赤と金色の装飾が部屋中に広がっていて、ふかふかのソファーに肘掛椅子やパチパチと爆ぜる暖炉、心地よい感じの円形の部屋だ。

 コールの指示通り、女の子は女子寮、男の子は男子寮に続くドアから階段を登り、やっと部屋が見つかった。すでに部屋の入り口に名前が書いてある。

 オスカーの寮のメンバーはこうだ。

 ベン・コッパー、オスカー・ドロホフ、コーリー・ヘイデン、ジェイ・キム、チャールズ・ウィーズリーだ。オスカーはウィーズリーとコッパーの名前を見てげんなりした。

 

 部屋の中は深紅のビロードのカーテンがかかった、四本柱の天蓋つきベッドが五つ置いてある。すでにトランクと荷物が届いていて、オスカーを見るとローガンがホーと大きく鳴いた。

 

「ローガン。お腹減ってるだろ」

 

 オスカーがローガンにコオロギやうずらをやっている間に、何かオスカー以外のメンバーはぶつぶつ喋りつつ、パジャマに着替えているようだ。オスカーはせめてシャワーを浴びないと寝たくなかったし、何より、このメンバーというか、誰かと同じ部屋で寝るという事に慣れていなかった。

 他のメンバーがおやすみと言ってベッドに潜り出したのを見て、オスカーは着替えを持って、ローガンを連れて、もう一度、談話室の方へ戻った。たしか寮のシャワールームの場所はコールがここだと談話室に来た時に言っていたはずだ。

 うずらをまだ食べているローガンを談話室の肘掛椅子に座らせてやり、オスカーはシャワーを浴びた。シャワーを浴びながら、今日は想像していた中でもかなり最低な日だと思っていた。もっとホグワーツとは楽しくてワクワクする場所だと思っていたのだ。頭を拭いて、パジャマで談話室に戻ると誰かがローガンにエサをやっている。さっきオスカーがやったばかりなのでこれではあげすぎなのだが。

 

「寮だと五人いますからフレイと喋る時間がありませんね。フレイ」

「エサをやりすぎない…… またムーディかよ」

 

 オスカーはもう本当にうんざりだった。なんとローガンにエサをやっていたのはムーディだった。コンパートメントでローガンの顔を見ているのだからオスカーのふくろうと分からないのだろうか? ムーディはオスカーの声を聞くと何故か机の上に出していた蜘蛛のフレイを手で押さえた。何の意味があるのだろうか?

 

「フレイ、静かに…… って、このふくろう。ドロホフのですか。どこかで見た顔をしてると思ってましたけど」

「見たら分かるだろ。記憶力が無いのか?」

「いつからそこにいたんですか?」

「お前が蜘蛛に喋る時間がありませんねって言ったところからだ」

 

 何かムーディは警戒しているようだがオスカーには分からなかったし、興味が無かった。眠かったから早く部屋に戻りたいのだ。

 

「そうですか。嘘をついてるわけじゃ無いですよね?」

「お前に嘘ついてなんの意味があるんだよ」

「じゃあいいです。あとその…… 汽車でのふくろうの……」

「僕はもう寝る。ローガンはもうエサを食べた後なんだ。これだとやりすぎだ」

 

 ムーディの隣でコオロギを頬張っていたローガンを後ろから抱いて、オスカーはそのまま男子寮の階段を登った。オスカーにはどうしてローガンがムーディからエサを貰ったのか不思議だった。ローガンは賢いのでオスカーとシラがムーディと喧嘩したことくらい分かっているはずなのだ。そしてローガンはオスカーが嫌いな生き物はそのまま嫌いなのだ。つまり、家だとキングズリーくらいなのだが。

 ベッドルームに戻ると何やら他のメンバーはベッドに入って喋っていたようだが、オスカーが入ると無言になった。オスカーは自分が杖を振らなくてもシレンシオという誰かを黙らせる呪文を使えるようになったのかと錯覚しそうだった。

 

 窓にローガンをとまらせてやるとそのままローガンはどこかへ飛んで行った。まだお腹が減っているのか、それとも仲良しのユーリアのところへ行ったのかもしれない。黒い翼が見えなくなるとオスカーは一人にされた気分だった。

 ルーモスと言う灯りの魔法で灯りを付けて、明日の授業の準備と服を机に出してからオスカーはベッドに入った。でも、中々寝付けなかった。他のルームメイトの寝息や、寝返りの音、いびき、こんな音の中でオスカーは寝たことが無かったからだ。

 明日からどうなるのだろうか? シラしか喋れる友達は出来ないままだろうか? 先生もオスカーに生徒と同じ態度を取るのだろうか? 他の生徒はオスカーより出来るのだろうか? そういう考えがグルグル回っているうちにいつの間にか眠っていたのだった。

 

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