オスカー・ドロホフと宿命の杖   作:ピューリタン

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第九章 ホグワーツの授業

「どいつ?」

「ちょっと赤っぽい髪のやつ」

「あんまり似て無く無いか?」

「もう呪文を無言で使えるらしいぞ」

「嘘つきなさいよ。でも死喰い人の息子ならあり得るのかしら?」

 

 翌日オスカーが寮を出たとたん、囁き声が耳に着いた。これでは他の寮生たちが話しかけてこないのは当たり前だ。ドロホフ、死喰い人、プルウェット、例のあの人、息子、そんな感じの言葉が聞こえる。それもオスカーが近づくと言わなくなるし、上級生も下級生も同じようにぶつぶつ言っている。

 

 オスカーは話す相手がいないのと他の生徒に噂されるのが嫌だったので、授業やホグワーツに慣れることに没頭した。

 まず、ホグワーツには百四十二もの階段があった。オスカーの家の広間より幅がある階段、金曜日だけ動く階段、十五段目だけ消えるのでそこは踏んではいけない階段、これらの階段を作ったとかいうレイブンクローをオスカーは怒鳴りたい気分だった。

 扉も壁になりきっていたり、怒鳴りつけるか頼まないと開かなかったり、とにかく何でも生き物みたいな反応をするのだ。肖像画が動くのは当たり前にしても、鎧や彫像もどうせ動くだろうとオスカーは思っていた。

 

 ゴーストはゴーストで問題なのだが彼らはポルターガイストのピーブズ以外、基本的にいい人…… いいゴーストだった。ほとんど首無しニックことニコラス・ポーピントン卿はきちんと名前で呼ぶとオスカーの名前をすぐに憶えてくれたし、教室への道を教えてくれたりした。

 太った修道士もいい人だ。ただピーブズは最悪でそこら中でチョークを生徒にぶつけたり、トイレから水を溢れさせたり、扉を閉めて誰かを閉じ込めたり、とにかく騒いで誰かを不快にしないと生きていられない…… 生きてはいないので存在していられないゴーストだった。

 

 ホグワーツでやっていく上の障害として、フィルチも問題だった。彼はホグワーツの管理人であるらしい。どうも魔法は使えないようなので、オスカーは彼がスクイブ、つまり魔法族なのに魔法が使えない人間、マグル生まれの魔法族の逆パターンでは無いかと思った。

 彼はそのせいもあるのかどうにも生徒たちが憎くてたまらないようだ。とにかく規則違反をした生徒を捕まえて、何か罰則を与えたくて仕方が無いのだ。オスカーも一人で歩いていたら、前の方でスリザリンとグリフィンドールの三年生が小競り合いをしていて、その喧嘩に混ざっていたのでは? といちゃもんを付けられて三年生たちと一緒に罰則だ。などと意味の分からないことを言われ、後ろでなりゆきを見ていたらしいマクゴナガル先生に助けられた。

 

 さらにフィルチはミセス・ノリスとかいう猫を飼っていた。痩せこけていて、グレーというよりほこりみたいな色をしている。これが可愛くない猫で生徒が餌をやっても受け取らないし、誰かが喧嘩していたり、嚙みつきフリスビーを飛ばしたりしていると、どこからかフィルチを連れてくるのだ。オスカーは動物が好きだったが、この猫は全然慣れず、好きになれそうに無かった。

 

 クラスへの道を肖像画やゴーストに聞いて、実際に歩いてみてやっとわかると次は授業に慣れる番だった。オスカーはここで自分がどうも一年生としてはできる方だという事と、先生と名乗っているくせに尊敬できない大人がいることを知った。

 

 最初の授業はマクゴナガル先生の変身術だ。オスカーはニックや肖像画たちに聞いた道を使って一番早く教室についた。今日も起きてから朝食を終えても誰とも喋らなかった。早く大広間から出たせいでシラの姿も見ていない。

 一番前の席にオスカーは座った。なぜならやっぱり一番前で授業を受けた方が先生に聞きやすいだろうと思ったのだ。オスカーは魔法や勉強で他の人に負けたくは無かった。いつかはあの保護者気取りの闇祓いだって黙らせられるような実力が欲しかった。

 

 だんだん後ろには他のクラスメイトが座り始めているのが彼らの会話でわかる。オスカーも誰かと一緒に喋って楽しく授業を受けたかった。誰か話しかけてくれないだろうか? 他の同級生はどれくらい魔法が出来るのだろうか? 今日の授業が終わったらローガンに手紙を持たせてシラに今日の授業はどうだったか聞いてみようと思った。

 

「一番前に行きませんか?」

「え、今日はいいかなって…… 最初の授業だし」

「私も、マクゴナガル先生って厳しそうだし。それにもう座ってる人がいるし」

「そうですか…… じゃあ私は前に行きますよ。別に気にしないでいいですよ。勉強するなら一番前が良いって言うだけです」

 

 オスカーが変身術の教科書を開きつつ、後ろの会話に耳を澄ませていると誰かがオスカーの隣に座って来た。オスカーは隣を見てげんなりした。ムーディだ。オスカーは誰か話せる人が欲しかったがムーディは例外だった。

 

「隣座ってもいいですよね…… なんだドロホフですか」

 

 オスカーは無視することにした。こんなやつになんだなんて言われる筋合いは無かった。初級変身術では簡単すぎて教科書に没頭できないのでオスカーは家の書庫から持ってきた中級変身術の方を読むことにした。

 

「ちょっと無視ですか? 何読んでいるんですか?」

「おい、ちょっと近い。離れろよ」

 

 ムーディとオスカーは喋りたくなかったのに彼女は髪からペパーミントの香りがするくらい頭をオスカーが読んでいる本のところへ突っ込んで来た。オスカーは意味が分からなかった。こいつは距離感というのが分からないのだろうか?

 

「なんですかこれ。闇の魔術の本とかかと思ったら中級変身術じゃないですか。こんなの分かるんですか?」

「うるさいな。向こう行けよ」

「はあ? なんですか。うるさいって。貴方がいけばいいでしょう。だいたい貴方みたいなのが一番前に座ってたら他の人が一番前で受けられないじゃないですか」

「知るかよ。僕が先に座っていたんだ」

 

 どういう意味なのだ。オスカーはそう思った。オスカーが座っているから誰も座れないなんてなんでそんな事を言われないといけないのだろうか? やっぱりこいつがオスカーは嫌いだった。初めて会った時から物騒な女の子だったし、今はとにかく嫌いな奴だった。

 

「ミス・ムーディ、ミスター・ドロホフ、それ以上騒ぐようでしたら教室から出てお行きなさい。変身術はホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なもののひとつです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出て行って貰いますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」

 

 怒られ損だった。オスカーは真面目に一番前に座っただけなのにムーディが隣に来たせいで怒られたのだ。生まれて初めての授業の思い出がこれになるのだ。母親が語っていた面白そうなホグワーツの授業とこれでは程遠い。

 

 その後、まず先生は机を馬に変え、また元の姿に戻して見せた。それも無言でだ。後ろの声から生徒たちは感激しているようだが、オスカーは別に大したことは無いと思った。これくらい保護者気取りなら簡単にやってしまうだろう。

 そのあとは散々板書をノートに取らされた。オスカーにはこの作業の意味が分からなかった。ノートを取るとはどういう意味があるのだろうか? 必要なことは教科書に書いてある。マクゴナガル先生が言っていることが全て黒板に書いてあるわけでは無い。なのに黒板を写して何の意味があるのだろうか? オスカーは分からなかったので手を挙げた。

 

「どうしましたか? ミスター・ドロホフ。質問ですか?」

「はい。先生。僕はこの授業を受けてノートを取るというのが初めてなんですが……」

 

 そこまで言うと後ろで何か笑い声が聞こえて、オスカーは自分がとんちんかんな質問をしているのかと思って恥ずかしくなった。

 

「ミスター・ドロホフ、続けて」

「はい。ノートをとるというのはどういう意味があるんですか? 教科書に書いてあることだけではダメなのですか?」

 

 まだ後ろからクスクスという笑い声が聞こえていた。オスカーは隣のムーディが笑っていないのが意外だった。

 

「良い質問ですよ。ミスター・ドロホフ。グリフィンドールに五点加点します。あなた達は初めて魔法教育を受けるのですからそういった疑問を感じるのは当然です。今、ミスター・ドロホフが質問した時に笑った者は私と同じレベルでノートを取ることの意味を理解し、答えられるのでしょう」

 

 後ろのクスクスが無くなった。オスカーはこの先生はどうも生徒を黙らせるだけの雰囲気があるのだと理解した。

 

「ノートを取る意味は私の考えでは二つあります。一つはメモをとる。つまり、忘れないように、忘れても思い出せるようにするためという事です。教科書には授業で学ぶべきことが書いてあります。しかしそれだけでは十分ではありません。教科書には書いていない学ぶべきことを私は口と腕であなた達に伝えます。それをあなた達は忘れないようにノートに取るわけです」

 

 なるほど。教科書では十分では無いらしい。さっきまでマクゴナガル先生が説明していたこともオスカーはところどころ教科書には書いていないことがあると分かっていた。教科書は教科書の内容を理解するための前提の知識は書いていないのだ。

 

「二つ目ですが、これはあなた達が理解を深めるためです。私は私の理解で変身術を理解し、あなた達に教えています。しかし、人は学問や物事を理解するとき、その人間なりに理解するのです。ですから、あなた達はノートに学問の自分の理解や考えを書いて、その上で学問を修めるために、足らない場所を確認するのです。足らない場所、理解が追い付かない場所を教師や教科書の理解と比較して見つけます。それを繰り返せばあなた達は確実に学問を修めることが出来るはずです。もちろん、努力を怠らなければ、ですが」

 

 オスカーはそういうものなのかと思った。質問しなければオスカーはノートを取らなくなっただろうと思った。別にノートなど書かなくても教科書に書いてあることは読めば分かるし、マクゴナガル先生が言ったり黒板に書いたことも、教科書を読めば思い出せると思っているからだ。

 

「良いですか。皆、同じ早さで学問を理解し、魔法を使えるわけではありません。低学年の授業であれば教科書を読むだけでも十分だと言う人もいるでしょう。ですがどの学問でも同じように出来るわけではありません。そしていずれはそのようなやり方ではやっていけなくなります。七年生の特別科目等では先生方と一緒に新しい学問に取り組むような内容もあります。ですから、今の間にあなた達は勉強の仕方を学ばないといけません。ノートを取ると言うのはその勉強の仕方の一つなのです」

 

 何故かさっきまではクラス全体に言っていたのにこの内容だけはマクゴナガル先生が自分とムーディの方を見ながら言っている気がオスカーはした

 

「ノートを取ることの意味を説明しましたが、肩ひじは張らなくても大丈夫です。フリットウィック先生やシニストラ先生はお優しいですから、お二人の言われるとおりにノートを取れば、自然とノートの使い方とその意味が分かるはずです。ただし変身術と魔法薬学でそれを期待するべきではありませんよ」

 

 オスカーはかなり感心した。マクゴナガル先生はちゃんと考えてノートを取らしているようだし、先生としてしっかり考えて授業をしていると思ったのだ。そしてオスカーが会ったことのある大人の中でも頭が抜群にいいことは分かったし、何よりちゃんと答えてくれる事がオスカーは嬉しかった。

 

「さて、答えはこれで良いですか? ミスター・ドロホフ?」

「はい。先生、ありがとうございます」

 

 その後、多少板書を取らされたので、オスカーは授業の内容より、マクゴナガル先生がノートについて言っていたことをまずはノートにとった。授業の内容は簡単で特に新しい気付きは無かったし、ノートの取り方をこれからどうして行くのか考えようと思っていたのだ。メモでは無くてノートを取る方法を考えるのだ。

オスカーにはシラが持ってきた自転車と一緒で、ノートと言うのが新しい道具に見えた。杖や自転車と一緒で使いこなせるようになって見たかった。そういう意味では箒は珍しい例外だった。オスカーは空を飛ぶ時の足が地面についていないのが気持ち悪くて箒が好きでは無かった。

 

「ではここにあるマッチ棒を一人一本づつ配りますから、授業が終わるまでの間に針に変身できるよう努力なさい」

 

 マクゴナガル先生がマッチ棒を飛ばして一人一本づつ配りみんながマッチ棒を針に変えようとうんうんいい始めた。オスカーは冷静になってキングズリーが言っていたことを思い出そうとしていた。彼をオスカーは好きでは無かったが、彼は間違いなくけた違いの魔法使いだった。

 マッチを見ながらオスカーはまずは変身術の理論を頭に浮かべた。そしてマッチと針の類似点、相違点、変えるべき場所、そのための魔法、それらを順番に思い起こし杖を振った。

 

「よし!!」

「やりました!!」

 

 オスカーとムーディが思わず声を出したのはほとんど同時だった。オスカーはうんざりした気持ちでムーディの方を向こうとしたがその前にムーディがこっちにやって来て自分で持ってきた針とオスカーが変身させた針を見比べ始めた。

 

「ふん。なんだか私のより黒いですね。闇の魔術の影響じゃないですか?」

「黒く無いだろ。ちゃんと銀色だ。お前の頭の色と違ってちゃんとした銀色してるだろ。だいたい僕の方が変身させたのは早かったし、お前の針はお前と一緒でなんか小さい」

「はああ? 私の方が早かったです。貴方のはちょっとさきっぽが丸くないですか? だいたい……」

「ムーディ、ドロホフ、あなた達は最初に私が言っていたことを聞いていなかったのですか?」

 

 そう言いながらマクゴナガル先生は微笑んでオスカーとムーディの針を取り上げた。

 

「皆さん。いいですか。ミスター・ドロホフとミス・ムーディが変身させた針です。ちゃんと銀色をしていますね? しっかり尖っていますね? きちんと魔法をかければこのように変身させることが出来ます。二人が静かにしていればもっと良かったのですが。ですが、一人五点づつ合わせて十点加点しましょう」

 

 オスカーはまたケチがついたと思った。ムーディがいなければマクゴナガル先生にクラスでオスカーだけが一人で十点加点して貰えたし、怒られることも無かっただろう。もしかしたら他のグリフィンドール生もオスカーに対する噂なんて気にせずに話しかけてくれるようになったかもしれない。なのにムーディのせいでこのザマなのだ。

 その後、クラスで針に変身させることが出来た人はいなかった。ヘイデンは惜しかったがちょっと先っぽが赤いままだった。

 

 午後の授業は闇の魔術に対する防衛術だ。オスカーはこの授業に期待していた。これこそ戦うための授業ではないか。闇祓いも死喰い人も両方ともこの授業から戦う術を学んだはずなのだ。物騒なミニ闇祓いほど戦う術が必要では無かったが、それでも身内を守れるくらいの力がオスカーは欲しかった。

 

「また一番前に座ってますね。何ですか? 死喰い人になるのに勉強熱心なんですか?」

「黙れよ。チビ闇祓い。その杖、長すぎるんじゃないのか? オリバンダーの店で交換して貰ったらどうだ?」

 

 またこいつだ。もう無茶苦茶だった。オスカーは一番前で授業を受けると絶対にムーディがやってくるのだと理解した。でもこれで一番前で受けなかったらムーディに負けたのと一緒では無いか。

 

 ただ、闇の魔術に対する防衛術は完全に肩透かしだった。まず教室にはわけのわからない大きな角が置いてある。オスカー含めて生徒はそれをみてワクワクしたのだが……

ラブグッド先生いわく、これはしわしわ角スノーカックなる生き物の角だと言う。もちろんそんな生き物は存在しない。そしてオスカーはチャーリー・ウィーズリーがあんまり好きでは無い。なぜならオスカーを無視してくるし、やたらとホグワーツ特急でシラに話しかけていたからだ。でも彼が言っていたそれはエルンペントの角じゃないか? という指摘は最もだと思った。

 

 次になんだか授業と言っている事が噛み合っていない。どうも授業の内容はまともなのだ。まともと言っても教科書通りに魔法生物とその弱点、弱点をつくための呪文の種類を覚えるだけだ。その辺はまともなのに、時々、この魔法生物はこんな利用法があるとか。倒すためだけの魔法なんて無駄だとか、教科書の理論は形式ばっていて全く面白くないとか言うのだ。全く闇の魔術に対する防衛術には関係の無いことばかりだ。しかも根拠が薄そうだ。

 

 オスカーは授業の内容自体は別の人が考えているんじゃないかと思った。誰かが考えているシナリオを最低限やっているので授業としてなりたっているように見えるのではないだろうか? そして教科書の事を学ぶだけなら先生が邪魔だと一限受けただけでそう感じた。ムーディなど終いに怒りだして関係の無い妄想を話すのはやめてくださいなどと言うくらいだった。

 そこまで生徒に言われても、君には知的好奇心が足りないみたいだね。ですます辺り、大人ではあるらしかった。

 

 その日の夜、オスカーは一人、ベッドルームで手紙を書いていた。母親とシラ宛だ。オスカーはホグワーツからローガンに手紙を渡して二人とやり取りするというのをホグワーツに入る前からどんな感じだろうと想像していたのだ。

 ガチャっと音がしてどうも金髪が見えたので、コッパーが入ろうとしたらしい。ただ彼はオスカーを見るなりもう一度扉を閉めてどこかに行ってしまった。なんて失礼なのだろうか。

 オスカーは随分自分が想像していたホグワーツと程遠いと思った。もっと簡単に何でも喋れる友達がもっと出来ると思っていた。今日喋ったのはあのミニマムオーラーだけだ。

 手紙を書き終える前に白いふくろうがオスカーの所にやって来た。ユーリア、シラのふくろうだ。オスカーはちょっと気分が良くなった。彼女からの手紙を持ってきてくれたのだ。

 

「ローガン、ユーリア、明日は先生とムーディ以外と話したいよ」

 

 オスカーはせめて、ルームメイトとくらい話したかった。なのにオスカーがこの部屋にいるとみんな出来るだけ話さないようにしているように見えるし、話している時もオスカーはいないふりだ。コッパーに至っては、オスカーの顔を見る度にヒッとかいって怯える。いったいどうすればいいのだろうか? シラからの手紙を読みながらオスカーはこういう時のやり方をキングズリーは教えてくれるべきだったと思ったが、それだとなんでも彼に聞かないといけないみたいでなんだか嫌になった。

 

 その後も授業は続いた。水曜日の真夜中には、望遠鏡で夜空を観察し、星や惑星の動きを勉強した。シニストラ先生は実際の星の動きやその意味、そして星に関する発見の歴史であったり、物語であったりを面白おかしく、丁寧に教えてくれるし、何より星を見ている間はみんな静かに授業を受けることになるのでオスカーはすぐこの授業が好きになった。ムーディが静かなら一番前で受けるのは先生に顔を覚えて貰えるし、質問がしやすいと良い事ばかりだった。

 

 妖精の魔法は小さなフリットウィック先生が教える授業だ。この授業は三年生になると呪文学という名前に変わるらしい。この先生も他のほとんどの先生と同じく、ちゃんと生徒の質問に答えてくれるし優しかった。浮遊呪文の練習ではまた自分とムーディが最初に出来て褒めてくれた。でも、オスカーはこの先生の授業のやり方がクラスで一番できない人に合わせるようなやり方なのでちょっと退屈かもしれないと思った。

 

 週に三回は薬草学の授業がある。ずんぐりした小柄な魔女であるスプラウト先生と城の裏側にある温室で、不思議なキノコや植物の育て方、使い方を学ぶのだ。オスカーはシャックルボルト邸の敷地にあった温室にもいろいろ生えていたので、もしあそこに行けと言われた時に温室で時間を潰すためにいろいろ覚えようと思っていた。

 ただ、薬草学はハッフルパフと一緒に授業を受けるのだが、ムーディと同じくらいおかしな同級生がいるとオスカーは知ることになった。

 

 薬草学の温室には番号が振られていて、数字が大きくなるほど珍しくて危険な魔法植物が生えている。なので一年生は一号温室しか入れないのだ。

 

「ねえスプラウト先生、このミンビュラス・ミンブルトニアってやつが見たいのよ。なんか臭い液を出すって書いてあるし面白そうだし」

「トンクス、ダメですよ。一年生は一号温室にしか入ってはいけませんよ」

「ちょっとくらいダメかしら?」

「ダメです。もう授業になりますから一号温室に行きなさいね」

「は~い」

 

 オスカーはそのショッキングピンクの女の子の事を覚えていた。髪色が見る度に変わるし、そもそもショッキングピンクとか紫色の髪色なんて忘れられないだろう。プラスして何故かローブでは無く、カーデガンだったりを先生に怒られない程度に着崩して着ている。とにかく外見が目立つのだ。

 ピンク髪はスプラウト先生が見えなくなった瞬間、三号温室へ走り出したと思えば、温室前にある泥除けにひっかかって思いっきりこけていた。スプラウト先生が呆れた顔で戻って来てピンク髪を叱っているがまるで聞いていない風だし、泥だらけなのに笑っている。オスカーは絶対近づかない方がいいと理解した。

 

 その後、授業が始まると案の定、隣はムーディだ。オスカーはもう半分諦めていた。一番前で授業を受けるというのは隣にムーディが来るという事なのだ。オスカーは何故かさっき見たピンク髪まで近くにいるので警戒した。まだ服は泥まみれで鼻にも泥がついている。

 

「また一番前にいますね。いい加減にしてくださいよ。ハッフルパフはマグル生まれが多いんですから、貴方みたいなのが一番前にいたら迷惑でしょう」

「声は聞こえるけど。小さくて見えないな。その辺の木かその長い杖でも接ぎ木して身長を伸ばしたらどうだ? そうしたらお姉さんと間違えて貰えるかもな」

「減らす口を叩きますね。そもそも……」

「何々? 喧嘩? 私も加勢した方がいい?」

 

 オスカーは早くスプラウト先生が来てくれないかと思った。ムーディに加えてピンク髪の相手なんてできるわけが無い。オスカーは普通に授業を受けたいのだ。

 

「何ですか? 私は今、こいつと喋っているんです」

「え? 何? ムーディ、ドロホフの事好きなの? だから話しかけるなって事?」

「はあ!? 何言ってるんですか? 滅多な事言わないでください。身震いしますよ」

「え? でも自分から話しかけて、私は間に入っちゃいけないんでしょ? ドロホフと喋るのが好きなんじゃないの?」

 

 オスカーはとにかく巻き込んで欲しく無かった。これではグリフィンドールに加えて、ハッフルパフ生もオスカーには話しかけてくれないだろう。どう見てもオスカーは自分より、ムーディやピンク髪の方がまともでは無いと思うのだ。なのになぜみんなオスカーとは話してくれないのだろうか。

 

「はいはい。ミス・ムーディ、ミス・トンクス、静かにして下さい。授業を始めますよ。今日は飛び跳ね毒キノコの収穫を手伝って貰います」

 

 マクゴナガル先生なら減点していそうなぐらい二人は騒いでいたが、それですます辺りスプラウト先生は優しかった。その後は薬草とキノコ千種に書いてある飛び跳ね毒キノコの特徴を確認して、みんなで飛び跳ね毒キノコを収穫することになった。

 ただ、この飛び跳ね毒キノコは教科書では網を使って収穫するようにと書いてあったのだが、オスカーは今は網など持っていなかった。そしてどうも素手で捕まえようとするとなかなか難しそうなのだ。

 

「速いですね。めちゃくちゃすばしっこいじゃないですかこれ」

 

 ムーディが一人でぶつぶつ言いながら飛び跳ね毒キノコと正面から戦っていた。オスカーの見る限りムーディと飛び跳ね毒キノコはいい勝負だった。チビオーラーはクラスでは一番反射神経が良いのではないかと言うくらい反応が早いのだが、それでも毒キノコは彼女から逃れることに何本か成功しているのだ。これは正面からやるのは頭が良く無いと思ってオスカーはクラスを見回した。

 

 みんな飛び跳ね毒キノコから逃げられたり、手を原木にぶつけて痛がったりしていたが、どうも変な動きをしている生徒がいた。ピンク髪だ。彼女はキノコと戦うことに夢中になっている生徒の後ろに回って、後ろの原木を思いっきり蹴っ飛ばしていた。

 こうすると飛び跳ね毒キノコは驚いてロケットみたいに飛んで行くのだ。生徒たちはぶつかってきた毒キノコに驚いたり、ピクピク動くそれが髪に引っ付いて女子は泣きそうになったり、あまりの速さに痛がったりしている。ピンク髪はそれが愉快らしくそれを見て爆笑しながら、地面に落ちた毒キノコを拾っていた。

 

 オスカーはどうして毒キノコが動かず、ピンク髪が拾えているのかと思ってよく見てみると、どうも激しく飛んだ毒キノコは気絶して動かなくなるらしい。

 あのピンク髪はもしかして賢いのでは? とオスカーは思ったのだが、その後、今度は杖で原木を動かそうとして、凄まじい勢いで転がし、原木が生徒数人を撥ね、最後には温室のガラスを突き破ったのを見て、考えを改めた。近づいてはいけないし、賢くは無いだろう。

 

 とりあえず毒キノコを卒倒させるのは正しいみたいなので、オスカーは原木を蹴っ飛ばして気絶させて毒キノコを集めた。最後にはムーディの二倍くらい飛び跳ね毒キノコが集まり、オスカーはスプラウト先生に褒めて貰えたのだ。

 

「皆さん見てください。ミスター・ドロホフがこんなに集めました。グリフィンドールに五点加点します。ミス・トンクスも悪戯が無ければ同じくらい集められたと思いますよ」

 

 オスカーはムーディには勝ったのでちょっと気分が良くなった。この女の子に負けると嫌な気分になるのだ。勝つとその逆だった。

 

「どうやってそんなに集めたんですか? 手下の人さらいとかに集めさせました?」

「ムーディもそのやり方でよくそんな集めたわね。感心しちゃうわ。あ、また邪魔しちゃダメだった?」

「何なんですか。貴方、トンクスでしたよね。失礼だと思わないんですか?」

「え? でもムーディとドロホフはお互いに失礼な事言い合ってるけど。あ、夫婦喧嘩だからいいの? これが狼人間でも食わないってやつね。うえ~」

「こいつ…… ムカつきますね。何なんですか。泥だらけのくせに」

 

 絶対にこの二人の会話に入り込まないとオスカーは決めた。そうすればムーディはオスカーに話しかけてこないし、もしかしたらその間に他のグリフィンドール生やハッフルパフ生が話しかけてくれるかもしれない。

 と言っても、結局、他の生徒はオスカーと二人を遠巻きに見るだけでもちろん誰も話しかけてくれなかった。

 

 

 魔法史の授業は退屈だ。ほぼすべての生徒はそう思っている。この授業は魔法界でも珍しいゴーストが教えるクラスなのだ。それだけ聞くと面白そうなはずだ。でもこの授業はほとんどの生徒にとって退屈なのだ。

 ゴーストのビンズ先生は随分前に教室の暖炉で居眠りしてしまい、なんと翌朝起きて授業に行こうとしたところ、体を忘れてしまったのだと言う。しかも、それ以降もビンズ先生は自分が死んでいるか死んでいないのかも分からないらしい。

 

 やっぱりこれを聞くと面白そうな授業なのだが、ビンズ先生の授業スタイルが問題だった。彼は抑揚も無く、ずーっと同じ調子で自分のメモを読み続け、時々板書を書くのだ。オスカーはどうやって板書を書いているのかも不思議だったがそれは大した問題では無い。

 

 とにかくこの授業にオスカーが思うのは質問を誰もしないなら、シラの家にあるカセットテープを聞くのと何も変わらないのでは無いかということだ。別に音が出るならゴーストじゃなくてもいいでは無いか。

 とオスカーは思っていたが、オスカーはこの授業が楽しみな数少ない生徒の一人だった。なぜならこの授業は戦争で一学年の人数が少ないせいか、レイブンクローとグリフィンドールが一緒にやっているからだ。

 オスカーの期待通り、一番前の席に一番早く座るとシラが隣に座ってくれた。オスカーはこれがあるのでこの授業のある日が楽しみなのだ。

 

「オスカー、お菓子ありがとう。あれってペンスが作ったやつかい?」

「いや、シャックルボルトの家から送って来た方。凄い量送られてくるけど一人だと食べられないんだ。ローガンじゃなくてわしみみずく三匹で送ってくるから止められない」

 

 オスカーの家とホグワーツはスコットランドにあるのでローガンは結構な頻度でその間を行き来してお菓子や手紙を運んでくれていた。でもシャックルボルトの家はグレートブリテンの一番南にあるせいか、あそこの屋敷しもべ達は馬鹿みたいな量をただでさえ大きなわしみみずく三匹に持たせて送ってくるのだ。どうみても友達と食べろという事なのだろうが、オスカーに友達は一人しかいなかった。

 

「友達と食べてねってことじゃないかい? グリフィンドールの友達は?」

「そいつに友達がいるわけないでしょう。今朝も一人で朝ごはん食べてましたよ」

 

 せっかくシラと喋っていたのにシラと反対方向から声が聞こえてオスカーはぷっちんとなりそうだった。レイブンクロー生は前に座りがちなのだからムーディ以外が座って欲しいとオスカーは願っていたがどうも誰も願いは聞き届けてくれなかった。

 

「まだムーディとオスカーは喧嘩しているのかい?」

「喧嘩じゃない。あいつが突っかかってくるんだ。こうやって一番前に座るとすぐ後からやってくるんだよ」

「失礼なこと言わないでください。私は一番前で授業を受けてるだけです。こいつが人の迷惑も考えずに一番前で授業を受けるのが悪いんです」

 

 オスカーはあんまりシラの前でムーディとやり合いたくなかった。何故ならオスカーの家族の事でシラが嫌な目に遭う必要は無かったし、オスカー自身の事でもそうだからだ。

 

「君達、仲良くしないといけないよ。普通、喧嘩は両成敗っていって……」

「喧嘩なんかしてませんよ。私はドロホフに取るべき態度を取っているだけです」

「ああ。喧嘩なんかしてないさ。こいつがしつこいだけなんだ。闇祓いは追跡が得意なんだよ」

 

 シラは呆れているとばかりに二人の方を眺めていた。オスカーだって好きでムーディとこんなやり取りを毎日、朝から晩までしているわけではないのだ。

 

「座ってもいい? 後ろいっぱいなんだけど……」

「はあ? チャーリーですか…… あー、そういうことですか? それで汽車だと……」

「ダメならいいけど」

「私の隣は別にいいですよ。まあ座りたいのはそっちじゃないんでしょうけど」

 

 今度はウィーズリーまでやって来た。せっかく喋れる授業なのにオスカーの機嫌は急降下し続けていた。たしかにレイブンクロー生でちょくちょく埋まっているものの全部埋まってはいないのになんでわざわざオスカーのいる前まで来たのだろうか? いつもみたいに他の男子と喋っていればいいではないか。

 

「では授業を始める。教科書の二十三ページを開いて……」

 

 ピンズ先生の退屈な授業が始まった。まだ数回しか受けていないというのに生徒たちはペチャクチャ喋ったり、寝ていたり、落書きしていたりとみんなやりたい放題である。何故かって? それはピンズ先生が全く生徒たちの方を見ないし、終いには寝てしまうからだ。

 

「オスカー、悪人エメリックが出て来たじゃ無いか」

「ウリック? 奇人の? ジョークの落ちに出てくる……」

「エメリックだよ。ほら。オリバンダーさんのお店でその話をしたじゃないか」

 

 シラはこの授業に対して完全な耐性を持っている。オスカーは他の生徒よりずっと耐えられる方だったが彼女ほどではない。オスカーにはブーンブーンと言うシラの家の冷蔵庫みたいな音にすら聞こえるピンズ先生の声も彼女にはめくるめく壮大な魔法史のストーリーを紡ぐ声に聞こえるらしいのだ。この授業に関してはオスカーもムーディも彼女に勝てると露ほどにも思っていなかった。

 

「そんな話したっけ? あの時したのって……」

「君の杖の話だよ。悪人エメリックは極悪人エグバードに殺された。この時の杖がニワトコの杖。魔法史第一巻の四版より後だと挿絵もついている。ほら、オスカーの本だと二人が持ってる杖は……」

「節がいっぱいあって凸凹だ」

「オスカーの杖にそっくりじゃないかい?」

 

 シラはまるで自分の本とばかりにオスカーの魔法史の教科書をペラペラめくってあっという間に件のページを開いた。そこにはオスカーの杖、正確にはオスカーの杖の姉弟杖にそっくりな杖が書かれていた。デフォルメされていても確かに形が分かる。

 

「ふーん。あんまり知らなかった。教科書にはそんなこと書いて無いし、ニワトコの杖って昔話に出てくる杖だし」

「私はあんまりその童話は知らないけれどね」

 

 オスカーはシラの話を聞きつつ、隣のムーディとウィーズリーが聞き耳を立てている気がした。特にウィーズリーはいつもはすぐ寝ている気がするのだがなぜ今日は寝ていないのだろうか?

 

「そうか。マグルの童話には無いのか。最強の杖なんだよ。ニワトコの杖って。でも昔話なんだ。三人の兄弟が三つ道具を死から貰うんだけどその一つ」

「死? 死って?」

「昔話だから。死が話しかけてくるんだ。もちろん、現実の話じゃない。あんまりおもしろい話じゃないよ。僕は豊かな幸運の泉とかの方が好きだし…… 死が兄弟を殺そうとするけど、兄弟は魔法を使って逃げたから、兄弟にご褒美を渡すんだ。その一つが最強の杖だよ」

 

 こういう話を同じ寮ならいつも出来ただろうとオスカーは思うのだ。チラチラ見てくるウィーズリーとムーディでは無くて、シラと同じだったなら毎日の授業だって違うものになっただろう。

 

「豊かな幸運の泉はマグルの騎士と魔女の話ですからドロホフは好きでしょうね。チャーリー、貴方も好きそうですねそういう話」

「え? 僕かい?」

「じゃあその杖が……」

「そうだよ。ニワトコの杖。最強の杖だけど持ってる人が寝てる間に殺されちゃうんだ。最強の杖を持ってるって自慢したから。それで死は杖の持ち主を自分のモノにしたってオチなんだ」

 

 オスカーはこの話があんまり好きでは無かった。昔も好きでは無かったが今はもっと好きでは無かった。だって話は暗いし、あんまり登場人物達は報われないし、なんだか説教されているような内容だからだ。

 何かウィーズリーがムーディの耳元でぶつぶつ言っているのがオスカーは気になった。

 

「それって何を読めばいいんだい? ニワトコの杖の事はオスカーの家にあった闇の魔法史とその象徴史って本に書いてあったけど……」

「ビードルの童話だよ。他にもペチャクチャ兎とかさっき言ってた豊かな幸運の泉も載っていて……」

「グヴィン、ドロホフ、仲が良いとこ悪いですけど。お誘いですよ。ハグリッドの所に行きませんか。だそうです。まあ特にグヴィンにですかね?」

 

 二人はムーディ達の方を向いた。どういうことなのだろうか? ハグリッドとはあの道案内をしていた巨大な森番のことだ。そもそもなぜ?

 

「私はオスカーが行くなら行ってもいいけれど。オスカーは……」

「僕は行かないさ。興味ないね」

「だそうです。ウィーズリー。今度は自分で言った方がいいと思いますよ。ドロホフがいない時に」

 

 ウィーズリーはこっちを見て来なかったがどういうことなのだろうか? オスカーと話したいとは思えないし、それなら寮で言えばいい事なのだ。ムーディが言っているようにシラと話したいのだろうか?

 結局、オスカーは釈然としないまま魔法史の時間を終えた。良かったのはなんだかムーディが呆れているのか静かなことくらいだった。

 

 さて。魔法薬学の授業、それはグリフィンドールにとっては最悪の授業だ。

 授業は地下牢で行われる。地下牢は九月、十月でも他の教室より寒い、地下にあって気温が変わりにくいからだ。壁にずらりと並んだガラス瓶にはホルマリン漬けの動物がプカプカしている。別にそれは特段おかしなことでは無い。

 それ以上にオスカーは授業を受ける前からこの先生が嫌いだった。

 

 フリットウィック先生と同じく、スネイプもまずは出席をとる。他の生徒の名前には特段反応しなかったのだが、ムーディの名前までるとちょっと止まった。

 

「あぁ、さよう。クラーナ・ムーディ。君のお姉さんにはずいぶんとお世話になった。輝かしい一族だ。無論、闇祓いを目指すのだろう」

 

 となりのムーディの手がピクピクしていたがムーディは暴発しなかった。オスカーはこれが意外だった。この女の子は闇の魔術に対する防衛術でもそうだが、結構簡単に怒りだすのだ。相手が先生であっても。

 オスカーはムーディの姉が何かスネイプに関することをムーディに言ったのでは無いかと思った。そうじゃないならとっくに爆発してもおかしくない。ちなみに向こう側のスリザリンのテーブルではスナイドとマークという女子がムーディ弄りが面白いのかクスクス笑っている。

 

「このクラスでは、魔法薬の調剤における微妙な化学、そして厳密な芸術を学ぶ」

 

 ぼそぼそ声とむりやり出している芝居かかった低音を合わせたみたいな声だ。オスカーはキングズリーの声とはまるで逆だと思った。オスカーは彼の声が嫌いだったが、あの声は他の人を安心させる力があるのだ。スネイプの声はその逆だ。

 

「我輩のクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと諸君らは思うかもしれん。ユラユラと立ち上る湯気、ふつふつと沸く大釜、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力…… 諸君らがこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。ただし、我輩がこれまでに教えて来た頭の足らない連中より諸君らがマシと言えるのならだが」

 

 大演説だったがオスカーはまるで心に響かないと思った。なるほど、裏切り者のクソ野郎には魔法薬というのはふさわしいかもしれない。杖で叶わなくても魔法薬なら誰かの夕食のワインに垂らすだけで相手を操ることが出来る。油ぎった汚い髪型の男にはおあつらえ向きの授業に違い無い。

 そのまま授業を始めるのかと思ったのだが突然スネイプは「ムーディ!!」と呼んだ。

 オスカーは思った。スネイプはムーディの姉が好きだったとかだろうか? なんだかさっきからムーディにこだわっているように見える。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

「生ける屍の水薬です」

 

 スネイプは表情が変わらなかったが面白く無さそうだ。多分、ムーディをいびれるか試したのだろう。オスカーはムーディが嫌いだったが、キングズリーと同じで舐めてはいなかった。ムーディはどの先生から見ても飛びぬけて優秀な生徒だ。

 

「なるほど。では山羊の胃から見つかる石は?」

「ベゾアール石です」

 

 それを聞くとスネイプは歩き出した。ちょうど一番前に座っているオスカーとムーディから顔が見えない方へだ。オスカーは他の生徒たちがスリザリン含めてちょっとムーディに感心していると思った。実際、明らかに馬鹿にするためにスネイプは喋っていた。これは意地悪な質問なのだ。スネイプが今聞いたことが確かに一年生の教科書には書いてあったが、材料のちょっとした解説くらいにしか書いていないことだ。重箱の隅をつつくような話で、一年生の魔法薬の大元になるような話では無い。

 

「では。混合毒薬の解毒剤の成分は毒薬の各成分に対する解毒剤の成分の総和より大きい。これは何の法則か分かるかね?」

 

 スネイプがクラスの後ろへ歩きながら言った。オスカーはどうもこいつは裏切り者以前に本当に性格が悪いと思った。これは上級魔法薬に書いてあった法則だ。オスカーだって言葉を見たことがあるだけで意味はイメージでしか理解できていなかった。ムーディもぱっと答えられなさそうなので、オスカーは見えないように机の下から無言で杖を振った。ムーディのノートに文字が現れる。

 

「ゴルパロットの第三法則です」

「少しは勉強してきたらしい。あの姉あっての妹というわけだ。諸君、なぜ今の問答を全部ノートに書きとらんのだ?」

 

 あわててクラスメイトたちが羽ペンと羊皮紙を取り出し始めた。ムーディがこっちを凝視していると分かっていたがオスカーはムーディの方を見なかった。ムーディは馬鹿なのだろうか? あれでは何かオスカーがしたと言わんばかりだ。

 その後、スネイプは生徒を二人ずつ組みにして、おできを治すための簡単な薬を調合させた。オスカーにとっては残念ながら同じテーブルに座っているムーディと組まされたし、授業の内容としては至極まともだ。

 

「なんで私を助けたんですか」

「お前に構うつもりは無い。僕はスネイプに確かめたいことがあるんだ」

 

 スネイプは生徒たちが干しイラクサを計って、ヘビの牙を砕く方法を見回った。どうもお気に入りらしいスナイドは褒め、オスカーとムーディの机を素通りし、その他の全員が注意を受けた。

 オスカーは慎重に様子を伺った。今日で無くてもいい。チャンスは魔法薬の授業中ならいつでもあるはずなのだ。

 

「さっき言ってた。確かめたい事ってなんですか? 何を確かめるんですか?」

「だからうるさいって言ってるだろ」

 

 またムーディが聞いてきた。オスカーはムーディの相手などするつもりは無かったが、もうとっくにオスカーとムーディは教科書通りにおできの薬を作り終えていたので時間があったのだ。二人は教科書通りにするだけなら他の人よりずっと早くできた。

 スネイプを見るとまた何かスナイドに小声で教えている。どうもスネイプは授業で全て自分が知っている事を教えるつもりは無いようだ。オスカーとムーディは教科書通りに作っているのにどうもスナイドの薬の方が出来は上なのだ。どう考えても教科書に加えて何かの工程が必要なのだろう。

 

「うわっ!!」

「何だ? 熱っ!?」

 

 スリザリンのテーブルの方で誰かが叫び、みんながそっちを向く。緑色の煙が広がり、床に何かが広がっている。オスカーとムーディはとっさに椅子の上に避難した。避難しそこねたみんなの靴には床に広がった薬品で穴が開いている。

 スリザリンのリーがどうやったのか大鍋を溶かしてしまったようだ。リーは腕に薬をかぶったらしく、服の袖が溶け、腕は赤いニキビのようなモノで一杯だった。

 

「バカ者!!」

 

 スネイプがリーの所に向かって薬を除去しようとしている。オスカーはチャンスだと思った。ムーディ以外に誰も見ていないので杖を無言で振り、グリフィンドールの誰かのテーブルの上にある山嵐の針とヘビの牙を呼び寄せて、スネイプの目の前の床に広がる薬品の上に落とした。

 効果はてきめんで山嵐の針が薬品に触れると爆ぜ、スネイプは顔を腕で守った。つまり腕に薬品を受けたのだ。

 

「机の端に材料を置くなと言っただろう。グリフィンドール一点減点。リー、大鍋を火から降ろさないうちに山嵐の針を入れたな?」

 

 リーは痛いのかウーウーと唸っている。オスカーは他の人間にはやたらととげとげしいマークがリーの事は明らかに気遣っているように見えるのが意外だったが、それよりスネイプだった。

 

「医務室へ連れて行きなさい」

 

 マークがリーを医務室へ連れていき、その間にスネイプは自分で教壇から何か薬を取り出して自分の腕をそこに漬けているようだ。オスカー達からは見えないところでだ。オスカーはマークがそのままにした大鍋をまた無言で動かしてひっくり返した。出来かけの薬品が広がっていく。生徒たちがまた悲鳴をあげて机の上に避難する。

 

「ちょっとドロホフ……」

「スネイプ先生。どうすればいいですか?」

 

 オスカーはムーディを無視してそのままスネイプの方へ行った。オスカーの靴はドラゴン革だ。そんな簡単には溶けも焼けもしない。

 スネイプは生徒たちの方へ気を取られていたのか腕を上げていた。左の前腕には髑髏の印がある。オスカーはやっぱりだと思った。こいつは死喰い人でその上で裏切り者なのだ。なによりこいつの声をオスカーは家の前で聞いている。スネイプはオスカーの視線に気づくとすぐに印のある場所をもう片方の腕で隠した。

 

「ドロホフ。君は自分の大鍋に戻りたまえ。我輩が対応する」

「失礼しました。先生」

 

 自分の机に戻ってもオスカーはやっぱり怒りが隠せなかった。どう見たってあいつは死喰い人なのだ。なのになぜホグワーツで教えられるのだろうか? それはどう考えても、死喰い人の陣営を裏切ったからだ。そんな事で許されるのか? だってあいつはシラに何かしようとしていた奴らの一人なのだ。

 そのあと、ずっとムーディが授業が終わるまで話しかけようとしてきたがオスカーは無視し続けた。授業がやっと終わってもムーディがついてくるのでオスカーはうんざりした。スネイプについて考えるのにムーディは邪魔なだけだった。

 

「ちょっと、待ってくださいって言ってるでしょう」

「なんなんだよ。追いかけてくるな」

「喧嘩? 一年生は元気ね」

「ゲルヌンブリ!! 開けてくれよ」

 

 合言葉を言い、太った婦人の肖像画を開けてよじ登ってもまだついてくる。どうもこの女の子は本当にしつこかった。二人は授業が終わって一直線に寮まで戻って来たので誰も談話室にはいなかった。といってもオスカーは談話室だと誰かの視線が痛いのでほとんど談話室を使ったことは無かった。

 

「そこに座って下さいよ。女子は男子寮に入れますから寮の部屋に行っても無駄ですよ」

「何を聞きたいんだよ」

「なんで私を助けたんですか?」

「お前も大嫌いだけど。スネイプはもっと嫌いだからだ」

 

 大嫌いとはっきり言うとちょっとムーディの顔色が変わって泣きそうに見え、オスカーはどうしたらいいのか分からなくなったが、すぐに眉を上げていつもの怒っていると言わんばかりの顔になった。

 

「じゃあさっき何してたんですか? あなた、リーのアホがやったことを大きくしたでしょう? 無言で引き寄せ呪文を使って、薬品を飛び散らしたり、マークの鍋をひっくり返したでしょう」

「あいつの腕が見たかったんだよ」

 

 ムーディは何を言っているのか? とばかりの顔だったがすぐにオスカーが何を言っているのか分かったみたいだった。オスカーはやっぱりやりにくいと思った。他の生徒だったら無言呪文だって分からないだろうし、オスカーが言ってることも分からないはずなのだ。

 

「闇の印ですか?」

「そうだよ。あいつは死喰い人だったって聞いてた。だから見たかったんだ。どう見てもあったけどな。あいつの腕に」

 

 何か混乱している風のムーディだったがオスカーには関係無かった。とにかくスネイプのやつに負けるわけにいかなくなっただけだ。裏切り者のやつらがどんなやつらかオスカーは知っていた。それに何よりあそこにいた人間達、スネイプ、カルカロフ、ロジエールみたいな連中にいつかは思い知らせてやるとオスカーは思っていた。

 

「そんなの見てどうするんですか? スネイプが元死喰い人なんて知ってる人は知ってますよ。味方だとでも……」

「僕は魔法省の奴らも死喰い人も嫌いだ。特に逃げた奴らとそれを許した奴、それに弱い奴にだけ強く出る奴らが嫌いだ。スネイプなんて特にそんな奴だろ。強いやつから逃げて違う強いやつの所に逃げる。それでもっと弱いやつには強く出る。そういう奴だって確かめたかっただけだ」

 

 嫌いな奴ばっかりだとオスカーは思った。大人は嫌いな奴ばかりだ。あいつらに比べたらまだムーディの方がましだろう。オスカーはさっきのスネイプの顔を思い出すだけでもイライラしてきた。なんであんな奴が自由でいられるのだ。

 

「確かめてどうするんですか?」

「僕がそういう奴だって思いたいだけだ。お前、お姉さんに教えて貰わなかったのか? 裁判でああいう奴が何を言うのか。自分はやってません。他の奴がやりました。私だけは助けてください。記憶にありません。自分で自分の記憶まで消すんだ。あいつも絶対そういうやつだ。ダンブルドアや魔法省が許しても僕には分かる」

 

 オスカーは喋りすぎたと思った。ムーディと仲がいいわけじゃ無い。もっと大人にならないといけないのだ。魔法省も死喰い人ももっと狡猾なやつらばかりだ。今日だってスネイプ相手に確かめるためだけに意地になっていたではないか。

 

「それでどうするんですか?」

「どうする? 何もしないよ。僕は馬鹿じゃない。ああいう奴らは自分が有利になるまでじっとしてるんだ。同じようにしないといけない。ああいうやつらをどうにかするには時間がかかるんだ。僕は待つのには慣れてる」

 

 オスカーはそれだけ言ってベッドルームに行った。ムーディは追いかけて来なかった。

 ムーディじゃなくて、もっと自分の事を話せる友達が欲しいとオスカーは思った。馬鹿な大人たちでは無くて、自分の事を死喰い人とか闇の魔法使いとか言ってくる子供じゃ無くて、シラみたいに自分のトラブルに巻き込みたくない人じゃない。そういう友達がオスカーは欲しかった。

 

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