輝かせたくて   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第2話 予言

一人称の『俺』を『私』に切り替えることに苦戦しつつ、一人称『自分』という逃げ道が便利だと思い始めた頃。後に『不遇の二期生』と呼ばれる2D3Dの2期生達全員と一応ディスコード上で挨拶はした。無事トップバッターになることが決まり、12月24日が初配信となる。

 

冬休みを意識して、極力デビューの前倒しをお願いしたが、24日より前にデビューすると他の2期生と間隔が空いてしまうようだし自分にも準備期間が必要だから仕方ない。

 

……正直に言って、自分がVtuberになりたいと思ったことはなかった。ゲーム実況自体、かなり喋りのセンスが必要となるし、自分にそのセンスが備わっているとは思えない。しかし最低でも、元の鬼塚あみのチャンネル登録数は上回っていきたい。それがこの身体を借りた以上、達成しなきゃいけない義務みたいなものだ。

 

インパクトを残さなければいけない初配信。参考にするのは今から4年後にデビューするアルチライブのVtuber。前半は鬼塚あみの誕生動画にして、視聴者に新鮮さを与えると共に、どういう育ち方をしたのか伝えよう。後半は得意なこと、好きなこと、好きな食べ物辺りの自己紹介で繋ぎ、1時間を確保。後続の(つるぎ)刀子(とうこ)さんに繋げよう。

 

……この剣さんが、何だかんだで2期生ではトップクラスのVtuberになるんだけど単体で色々と完結している人だからコラボはちょっと難しい。この2期生達がデビューした直後、2D3Dではアバターを公開してからのライバーの募集を開始するけどそのせいでえげつないほどVtuberが増えるんだよね。

 

その結果、2期生のサポートに手が回ってない状態となり剣さん以外は浮き沈みの激しい存在となっていく。また2D3D自体、一時期はトップに躍り出ていた時期はあったが、2020年以降は玉手箱やアルチライブと比較すると人気は劣る。

 

少なくとも2022年12月1日時点で、業界では3番手の位置だった。Vtuberの数が多いことは強みではあるけど、同時接続数2桁のライバーが沢山いたことから目を背けてはいけない。トップ層は玉手箱やアルチライブとタメを張る同時視聴者数、チャンネル登録数だったんだけどね……。

 

準備期間中は、ひたすら初配信で流す動画の調整と録音だ。一生残る初配信の最初の語りだから、なるべく地声で、でも聞きやすいように練習を繰り返す。……この時代の育成画面だとパワ〇ロが一番分かりやすいだろうか?

 

オープニングを作り、時間があるのでエンディングも作る。初回に限り、このエンディングに自分の台詞をとことん詰め込むつもりだ。……将来において、自分が喋ることになるであろう台詞をだ。

 

伏線回収。これが好きな人は多い。初回配信のアーカイブを回し続けるため、このエンディングには仕込めるだけ仕込む。

 

「ついに……ついに10万人なのじゃあ!」

「ドン勝じゃあああああ!」

「ジャンプマスターは儂に任せて欲しいのじゃ」

「ふわんだりぃずの害鳥共がぁ……」

「甲子園の頂き目指すのじゃ!」

「これが2D3Dの絶唱じゃ~!」

「反省を促すダンスいくのじゃ」

「実装されたら必殺技撃ちたいのじゃー」

「押し込むより引っ張りの方がキツイのじゃー!」

「儂の愛馬が!」

「全員雪山に好んで行く時点で狂人だからの」

「海外なー、行けなくなっちゃったのじゃ」

「TNT!TNT!」

「儂は柱になれんからのお」

「無敵の恐竜軍団作りたいのじゃ」

「出血最強」

「今人生で一番お米のこと勉強してるのじゃ」

「せきろー難しいのー」

「ニャオハ立つな!」

「死は仕事を止める理由にならないのじゃ……」

 

仕込む台詞は合計20個。10万人達成以外は無理なく達成できるような台詞にしておいた。とりあえずはこれで、2022年まで予言者ムーブが出来る。このことに突っ込まれたらひたすら「え?」と惚けて「自分は何も知りませんけど?」みたいな態度を貫き通そう。実際、上手い返しは出来ない。

 

……というか凡人が成り上がるなら結局こういうムーブしないと100万人どころか10万人もキツイ。チャンネル登録数を増やすには新規をひたすら増やしていく必要があるけど、古参が多いと新規が入り辛い雰囲気になってしまうし、古参リスナーにも自分のことを理解させないムーブが必要になってくる。

 

この初配信を、将来的に伝説にするために、アーカイブを回させるために、出来ることは何でもする。後はなるべく、2D3Dであることを活かして将来伸びる人に乗っかっていく。コラボは正義。これが出来ればチャンネル登録数の方は問題ない。きっと10万人は、達成できる。

 

……それにしても、2017年末ってこんなにVtuberが少なかったのか。アルチライブなんてまだ大枠が出来てないし、Vtuber市場自体が小さい気がする。

 

2022年まで生き残っているVtuber自体は結構いるけど、2022年でも"有名"で"勢い"のあるVtuberは殊更少ない。玉手箱の鶴見(つるみ) (すず)さん、アルチライブの白狼(はくろう)フミさんぐらいかな?何だかんだ言って、企業勢は後発も有利だ。先輩達が築き上げた発射台から、そのまま伸びる人が多い印象。一方で土台を築いた先輩勢は新規が入り辛く、チャンネル登録数の増加が鈍化する。どこの箱でもよく見る光景である。

 

よし、エンディングも完成。これでデビュー日は1時間の放送の内、前半の20分と最後の5分、トークしなくて良い事が確定した。本当に自分がまともなトークを出来るか不安だから、準備は念入りにしていこう。

 

……にしても本当に自分がVtuberデビューしてしまう日が来るとは思わなかった。喋り続けられる気はしないが、極力無言は避けてコメントしやすいようにしていこう。コメントを拾う練習とかは、した方が良いのかな。先輩達の配信を見つつ、自分でコメントを拾う練習もしていこうか。


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