輝かせたくて   作:インスタント脳味噌汁大好き

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第35話 予想

私の立ち位置である未来人を完全に乗っ取った鬼の子Vtuberの鬼塚あみ。正直に言うと、最初は嫌いというか苦手だった。しかしながら配信を追い続けている内に、その感情は畏怖へと変わっていった。

 

本当に未来を見ているとしか思えない発言もそうだが、人を惹きつけることが異様に上手い。トークスキルも短い間に随分と上手くなっている。何よりも彼女は、自身がパニックになったり慌てたりミスすることを計画に組み込んだ上で配信を行っている。

 

「儂はなるべく正解をあげようと無理に解釈を捻じ曲げようとすることもあるじゃろうから、そこを上手く突っ込んで欲しいのじゃ」

「英語のテスト、発音間違えるところを幾つか作るから突っ込んで欲しいのじゃ」

「動画じゃとコメントがないから慌てたり頭真っ白になるのは難しいの」

 

……あの動画撮影の間、配信者としての力量差を感じた。そしてあっという間に、人気Vtuberになってしまったからにはもうコラボで誘われることはないだろうと思っていた。

 

チャンネル登録数53万人。そんな彼女からのGWコラボの誘いに、乗らないわけがなかった。彼女の配信は切り取り動画が多い。コラボ配信で切り取られれば、知名度は跳ね上がる。余計な発言をしなければ、確実にチャンネル登録数は増える。

 

そこで最初に行われたのは、順位の数字分腹筋、筋トレをするマリオカート配信。罰ゲームの提案が唐突過ぎて反対し切れなかったため、配信が終わる頃には全員疲労困憊していた。配信の向こう側の人に対して、別に実際に筋トレはしなくてもバレることはない。それでも彼女に乗せられて、気付けば200回以上の筋トレをしていた。

 

「いやー、すまぬの。思っていたよりも地獄になってしもうたのじゃ」

 

発案者である彼女に、めぐみさんも美咲さんも文句を言う。私だってあのコメント欄の盛り上がりを体感していても、文句を言いそうになった。人気Vtuberだからと言って、無理強いは良くないと。だけど彼女は続けて、恐ろしいことを言い始めた。

 

「じゃがもうそろそろ軽度の下ネタ言ったり可愛い子ぶれば伸びる時代は終わるぞ?ただでさえ2D3Dはアバターでの人気が低い上、儂ら2期生のアバターは一段と質が落ちるじゃろ?下手すればあっという間に人が来なくなるのじゃ」

 

……デビューして5ヵ月目。そろそろ新規の獲得は難しくなって来ていた。配信に来る面子はほぼ固定。しかしその固定面子の数は、他に面白いVtuberが現れれば減っていく。同じ2D3D内でも新人の期間が明らかに少なかった2期生は、苦しんでいる人も多い。

 

「じゃからこの3日間、儂は軽率に地獄を作るぞ。これから先、生き残るVtuberは地獄を作りだし、それを切り抜ける力が必要じゃ。ほれ、次のたこ焼きパーティーでは順番にシチュエーションボイスを言い合うからお題を書くのじゃ」

 

反論はなかった。この中の誰よりも年下であるはずの彼女が、誰よりもVtuber界を理解しており、誰よりも先を見据えていた。何より彼女の言葉には、自然とついて行きたくなる魔力があった。同期であり、同業者であり、潜在的な最大の敵であるのに。

 

「あの……どうして私達を誘ったんですか?正直このコラボ、あみさんにメリットはないように思えます。スパチャだって均等割りってことは、一番損しますよね……?」

「損はしないのじゃ。同期達が、地獄を切り抜くアドリブ力を身に付ければ、これから先のVtuber界でも確実に成長して数字を伸ばしていけるのじゃ。そうなればこの4人で定期的に集まるメリットは大きいのではないかの」

 

思わず彼女に、コラボしてくれた理由を聞いてしまった。彼女を除く、私達3人のチャンネル登録数は4万人から5万人前後。当然普通の個人勢や規模の小さい企業勢なんかとは比較にならないぐらい恵まれた環境にいる。しかしこの5万人の中には、箱推しが多くいる。実際に私だけを推してくれている人は、もっと少ない。

 

そして彼女の回答を聞いて、彼女は元から私達の成長をさせたいのだと理解した。めぐみちゃんはそれに対してボソッと「余計なお世話」と言う。しかし彼女の言う通りこれから先のVtuber界は、生温いことを言ってられないのだろう。既に私は、脇役感をヒリヒリと感じている。Vtuberに必要な、突発的に面白いことをいう才能なんてないことをこの5ヶ月で痛感しているからだ。

 

……そう言えば別に彼女も、突発的に面白いことを言っているわけじゃない。今回の筋トレマリカだって、間違いなくあの場で即興で考えた罰ゲームではなく、あらかじめ用意していた企画だろう。その筋トレの最中に下ネタコメントが多くなり、彼女が怒ったり叫ぶような流れはあったが、これもあらかじめ予想できる範囲内のことだ。

 

競馬で3連単を当て続けた予言。そのレベルまでの予想は出来ないかもしれないけど、配信を通してどこをピークに持って行くのか、どういう反応を貰えるか、そこからどういう切り返しが出来るかまでは想定することは出来そう。というより、やっていかないといけないのかもしれない。

 

今までのように単に企画を考えるだけじゃなく、ただ漠然とゲームするだけじゃなく、コメントの反応やそこからの切り返しを含めてちゃんと予想し準備して挑もう。きっと彼女は、全てを考えて予想しているはず。だからこそあんな予言染みた言動を沢山しているのだと思う。

 

……あ、でもパンデミックとかお泊りコラボは来年までとかそこら辺の発言は完全にオカルトだから考えても仕方ないかな。とりあえずはこの3日間、爪痕は残すために頑張ろう。


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