突然だが、電童とその
理由はただ1つ。木星圏に、機械帝国ガルファの侵攻が起こったからである。車弁慶隊(仮)は、木星圏へ救援に向かう事ができる、数少ない戦力なのだ。
なぜならば、シグコン・シップと真ドラゴンには、ワープ機関が搭載されているのである。
本来地球連邦には、ワープ機関搭載艦は一切存在していなかった。しかしながら、かつて勃発したベガ星連合軍による地球侵略……。これにより、幾多のマザーバーンが撃破され、あるいは鹵獲された。そしてそれらに搭載されていたワープ機関が、あるいは地球連邦の艦艇に移植され、あるいは複製され、またあるいは鹵獲マザーバーンそのものを運用する事で、地球連邦はワープ機関搭載艦を手に入れたのである。
ただし移植できるだけの損傷の無いワープ機関は極めて希少であり、また複製にも地球の技術では極めて手間取ったため、ワープ機関搭載艦はそれこそ極めて数が少ない。運用中の艦では、鹵獲マザーバーンそのものを含めて片手の指で数えられるほどしか存在していないのだ。
そしてそれらの片手で数えられるワープ機関搭載艦は、全て何らかの任務に就いていた。一部は太陽系外の友好的な星との外交任務に就いており航行中であるし、一部は火星圏と地球圏の往復をしている。木星圏との往復をしている艦もあったのだが、現在はドック入りして動けない状況だ。
太陽系内の移動に、ワープ機関が必要なのか、と言われるかも知れないが、必要である。火星へ行くには通常航行で数ヶ月から1年ちょっと。木星船団などは地球圏と片道2年の時間をかけて往復している。大規模輸送などには長期間かけて航行せざるを得ないが、緊急時にはやはりワープ機関搭載艦は必須であった。
なおワープ機関搭載艦であっても、そう簡単に惑星間を行き来できるわけではない。まず通常航行で、ワープの障害となる惑星の大質量から離れた宙域に移動し、そこから目的の惑星から充分離れた場所を狙ってワープしなければならない。向こうに着いたら、また通常航行で目的の惑星へと移動するのだ。
この通常航行というのが曲者であり、正直今の地球連邦艦艇ではかなり時間が掛かる。時間を掛けて行かないと、急げば今度は推進剤が不足するのだ。そんなわけで色々なバランスが取れている、オリジナルの鹵獲マザーバーンは非常に大人気だったりする。まあ外交団を乗せて太陽系外に出ているから、今は地球の地元には無いのだが。
そんなわけで、例えば地球から月に出向くぐらいの距離だと、ワープ機関はただのデッドウェイトになる。ワープ機関は、もっと長距離を移動するための装備なのだ。ただし地球連邦艦艇では先ほど言った通常航行能力や推進剤とかとのバランス問題もあり、恒星間移動に使える艦艇とかはこれまた一部のみだ。
ちなみにシグコン・シップと真ドラゴンには、マザーバーンのワープ機関を解析してコピーした、複製ワープ機関が組み込まれている。真ドラゴンについては、早乙女博士が連邦軍から奪った情報を元に、後付けで造り替えた物だ。シグコン・シップはこれはこれで、『わたし』が
『……と言うわけで車少佐。シグコン・シップがワープ機関搭載艦であったのは幸いであった。どのようにしてその技術を得たのかは、あえて問わない。君たちには済まないが、木星圏の人々を救うために力を貸して欲しい。ついては、真ドラゴンも今回より、君たちの指揮下に入れる事にする。
本当に、情けない……。こんな時に最前線に立てなくて、何のための連邦軍なのか。だが今回は、物理的に木星圏まで即座に
キャンベル大将の腰が低いのは、こちらはあくまで連邦軍に協力している、ジオン残党軍やザンスカールに対抗するレジスタンス組織という建前だからだ。今回の件で弁慶には、あらかじめキャンベル大将の要請は受け入れてかまわない、と伝えてある。
弁慶は通信画面の向こうのキャンベル大将に、力強く頷く。
「了解です。今回の目的は、木星圏の人々が地球圏へ脱出する、その脱出支援、ですね」
『そうだ。今現在の地球連邦軍の能力では、長期間に渡って遠い遠い木星圏を、機械帝国ガルファから護る事は、物理的に不可能だ。故に木星圏のコロニー群を核パルスエンジンで自力航行させ、2年間かけて木星圏から地球圏へと離脱させるのだ。
無論これは一時的な事だ。木星圏はヘリウム3の唯一の供給源であり、いずれはガルファの手から奪還せねばならない。地球圏にヘリウム3の備蓄があるうちに、な』
キャンベル大将は、更に続ける。
『地球圏ではジオン残党軍とザンスカール帝国に対し、大幅な譲歩をしてでも停戦を行うつもりだ。ゴップ議長の後押しもある。
そしてザンスカール帝国に対しては対ガルファの軍事同盟を提案する。ジオン残党軍に対しては過去の罪をいっさい問わないことと、スペースノイドに対する参政権を認めることで、ジオン共和国への恭順と言う形での事態収束を図りたい』
「……そうして、ヘリウム3があるうちに人類全体の総力を結集するわけですな。ギロチン野郎どもとの手打ちには、正直思う所が無いとは言いませんが。火星圏は?」
『火星圏も、あちらがガルファの攻撃を受けた場合、最悪地球圏への撤収を考慮している。あちらに駐留している連邦軍は、士気、装備、練度に至るまで劣悪だ。……それでも遠すぎる木星圏よりはマシなのだがな』
その他、いくつもの事項を打ち合わせて、キャンベル大将との通信は切れた。キャンベル大将、今回の件で頬がこけて、顔色も随分悪いのが気にかかる。帰ってくるまで無事でいてくれると良いんだが。
*
そしてGEARの面々が、シグコン・シップに乗り込んで来た。
「……その様なわけでして、わたくしたち地球防衛の組織であるGEARは、車弁慶少佐の指揮下に入ります。ですが場合によっては、拒否権も認められている事をお忘れなきよう願います」
「それは聞いてるぜ。安心しな。それに『車弁慶隊』ってのは元々、民間のレジスタンスを指揮下に置くための方便でしか無い。お前さんが、あの
それとな? 形の上では俺がトップだが。お前さんが話を通しておくべきなのは、他にいる」
「……元々の、レジスタンス組織のトップの方ですね」
「そう言うこった。ワンセブン!」
やれやれ、『わたし』の出番か。
『直接顔を会わせられなくて、申し訳ないね。GEAR副司令ベガさん?』
「……貴方が、ワンセブン、ですか?」
『ああ。そう、だな。最初からぶっちゃけてしまおう。『わたし』の本体は、ここシグコン・シップの
「!?」
「驚いたみたいだな。いい奴だぞ?」
ベガ女史は、仮面の奥で目を白黒させる。
『さて、ベガさん。はっきり言おうか。『わたし』たちは軍人でもない者達が多くいる。だがそれ故に、自分で戦う事を選んだ者達ばかりだ。そういう立場からすれば、本来護られてしかるべき子供を戦わせる貴女たちGEARの在り様は、正直腹立たしくもある。無論、『わたし』自身の感情も含めてね?
ただ、『わたし』は見ているからね。
「……。貴方、本当にAIなのかしら? 正直信じがたいんだけれど」
『ふふふ、皆にもよく言われる。……で、だ。そんな貴女たちが、何故に銀河君と北斗君を危険に晒す? 何故に学校を休ませてまで、危険な木星圏くんだりまで送り出す? ……そうだな。貴女にとっては、特に北斗君を』
「!! 貴方、なぜそれを!」
『貴女がこの艦に乗り組んで来た時に、北斗君の視線の外で、彼に向ける瞳の柔らかさ。仮面の脇からのぞく頬肉の、わずかな引き攣り。銀河君に対しても心配はしている様だったが、北斗君とはやはり差があった』
うん、アニメの知識はあったんだが、それでもその知識は可能な限り判断材料には使わないつもりだ。で、そのアニメ知識を除いても、ベガ女史の北斗少年への想いは、はっきり言ってあからさまだったからな。北斗少年や銀河少年には見られない様に心がけてはいた様だが。
『ベガさん。貴女の副司令という立場が許す限りの事を、この場で『わたし』と弁慶には教えて欲しい。『わたし』と弁慶の両方が納得している、という事ならば、この艦の連中は間違いなく信じてくれるからな。詳しい事は聞かずに』
「無論、俺たちゃ他言はしない。アンタが話してもいいって言うまでは、な」
「……」
しばらくの間、ベガ女史は無言であった。しかしながら、結局彼女は大半の事を明かしてくれた。
彼女は、過去ガルファ皇帝に滅ぼされた惑星アルクトス王家の皇女であるそうだ。そして地球に流れ着いて地球の人間として暮らしつつ、地球人の義父の力を借りて秘密組織GEARを創り上げ、その副司令になっているとの事。北斗少年は彼女の息子である。ちなみに夫は、何も知らない一般人らしい。
本来あの
「ガルファ皇帝を倒すには、データウェポンと呼ばれる電子の聖獣……特殊なプログラム生命体の助けが必要なのです。手下をいくら倒したところで、ガルファ皇帝を倒さなければ……。
そして7体のデータウェポン……うち1体は謎の存在ですが、それらを使役し、扱うためには、GEAR……。組織のGEARではなく、
『「……」』
「わたしと吉良国君が選ばれればよかった……。だけど、だけどッ……。わたしたちでは、GEAR操縦用のギアコマンダーを
『わかった。もういい。弁慶、ハンカチを』
「いや、俺のハンカチは汚えって」
「え、ハンカチ? わたし持っているけれど」
『「なら使え。泣いてるぞ」』
ベガ女史は、あわてて後ろを向いて仮面を取ると、ハンカチで涙を
*
ベガ女史が退出した後、『わたし』と弁慶は肩を落として話し合う。いや、『わたし』は肩を落とせないが、雰囲気的にそんな感じだったのだ。
『……まいったな。銀河少年と北斗少年は、こうなるとガルファとの戦いからは最低限、外すわけには行かない。今回の彼らの木星圏遠征は、ガルファが木星圏を襲ったという事から、そこにデータウェポンが存在している可能性を考えたためだ』
「ほんとに、ガルファの親玉……。ガルファ皇帝は、そのデータウェポンとかが無いと倒せねえのかね」
『わからん。だが最悪その可能性が大きいと考えて、準備をしておくべきだな。それより頭が痛いのは、少年2人をどこまで戦闘に出すか、だ。
彼らは調査結果からして、気のいい少年たちだ。たとえばジオン残党軍とかとの戦いに彼らを出さずに置いたとして、彼らはそれに耐えられるか? 自分だけ安全なところに置かれたまま、皆が戦うのを我慢して見ていられるか? ……難しいと思うぞ』
弁慶が、大きく溜息を吐く。
「だがよお。あの小僧っ子どもに『撃つ覚悟』『撃たれる覚悟』そして、いざと言うときに『殺しても生きる覚悟』なんかさせるのは、ちょっとなあ……」
『そう言う事、だよ。だが覚悟も無しに戦場に飛び出して来られても、結局は『わたし』たちは、あの子らの心が傷つくのを、間近で見せつけられる事になる。……ああ嫌だ嫌だ』
「脱出装置だって、非常に高度なものは今の時代完成してるが、それでも脱出失敗なんてのは多々あるもんな……」
再度弁慶が、溜息を吐く。『わたし』も溜息を吐きたくなった。肺も口腔も無いので、無理なのだが。
*
そして『わたし』たちは宇宙へと上がった。シグコン・シップと真ドラゴンが並んで航行すると、片方は1km級の巨艦、もう片方は6km級の異形艦、大迫力である。そしてキャンベル大将によれば、今までザンスカール方面に展開していた部隊から戦力を母艦1隻分引き抜いて、我々の隊に付いて来させるそうである。
ちなみにその母艦はカイラム級機動戦艦だそうだ。優秀な艦ではあるが、ワープ機関は搭載されていない。であるため、シグコン・シップとドッキングしてワープする事になる。シグコン・シップのワープ機関は、500m弱の艦艇であれば1隻追加で運ぶ事も可能だ。
「すっげぇ、すっげぇ! 見ろよ北斗、宇宙だぜ、宇宙! 地球がでっけえ!」
「銀河ぁ……。僕たちはガルファから木星の人たちを助けるために行くんだよ? わかってる?」
「ちっ、わかってらあンな事! だけど今回の作戦だと、避難民をどうにか逃がすだけって話じゃん。ガルファを本気でブチのめしちゃ、駄目なのか?」
「戦力の差が、あり過ぎるんだって話だよ? 前の星見町での戦いがベリーイージーモードだとしたら、ヘルモードだってさ」
「うへぇ……」
……とりあえずこの子供たちを、人間相手の戦いに引っ張り出さない事で、皆とのコンセンサスは取れた。ただ、それが可能かって話は、その場でも出たんだよな。頼むから、地球圏ではジオン残党軍もザンスカールも、攻撃して来ないでくれよ。
とりあえず夜に今話を書きあげて、風呂に入ってる間、色々考えていました。全体ストーリーの本筋、根幹は出来上がってます。でも色々と調整はこれからですからね。
そしてふと、ゲッターチーム、特に竜馬に銀河と北斗を鍛えさせるのはどうだろうと思いつきまして……。
……。
…………。
………………。
……………………ドワォ。
ヤベぇ……。
ベガさん、泣いちゃいますね。やめとこうかな……。