木星が、大きく見える。それをシグコン・シップの第3展望デッキで眺めながら、ラー・カイラムから来た
いや、食堂の飯がラー・カイラムより美味いからって、彼らを始めとしたラー・カイラム乗員は、しょっちゅうこちらの艦に来るんだよね。ワープは完了したけれど、艦のドッキングも解除していないし。
「……木星か。あそこがガルファに襲われていると言う……」
「たしかにヘリウム3の供給が止まっちまったら、あたしらもザンスカールもドンパチを続けるわけには行かなくなるけどねえ……」
「正直、ザンスカールとの手打ちには、思う所あるよね」
ふむ、流石にリガ・ミリティアから派遣されたシュラク隊や、ウッソ君やマーベット女史と言った面々は、今回の地球連邦の方針転換は、
「リガ・ミリティアの上層部、ジン・ジャハナムたちは、これはあくまで一時の方便である、とか言っているけれど……。難しいわよね」
『やあ、どうしたね? 難しい顔をしている様だが』
「「「「「「ワンセブン!!」」」」」」
とりあえず士気の問題もあるので、ちょっとウッソ君や彼女らとも話をしておこう。
「いえ……。ザンスカールと地球連邦が、手打ちをする件について……。僕たちはこれまで、ザンスカールの暴虐に対する抵抗勢力として、連邦軍とも手を取り合ってベスパと戦って来ましたが……」
『ふむ、確かに難しい問題だ。しかしこの件で、手打ちが上手く行ったならば。宇宙からの侵略勢力である機械帝国ガルファを撃破できた後は、今後は正面からの戦いではなく、ザンスカールとの戦いは政治闘争の局面に移るとも考えられるね。
具体的には外交交渉を通じて、ギロチンなどの野蛮な行いをやめさせる。可能な限りソフトなやり方で、ザンスカールの方針を転換させる。……できるかどうかは不明で、ガルファ戦後の再度の武力衝突も可能性が高いがね』
「あんたも、ザンスカールのギロチンとか、野蛮だと思ってるんだねえ」
『あたりまえだよ』
展望デッキの窓の外では、吉良国とベガ女史がそれぞれ操縦する2機のセルブースターが、サイコフレーム搭載工事を完了したファさんの百式Rと完熟訓練の模擬戦闘を行っている。
『正直な話、ザンスカールは信用できないからね。ガルファと連邦軍を戦わせて、後ろから撃つなんてこともやりかねない。だがそんなのでも、可能であれば味方に取り込んで使うだけ使い倒さねばならないほど、人類は追い詰められている』
「「「「「「……」」」」」」
『木星公社と地球連邦は、木星圏を一時的に放棄して市民を脱出させようとしている。後々にヘリウム3の備蓄があるうちに、
もっとも、その
ウッソ君たちは言葉も無く聞き入っている。
『人々の生活レベルも、大きく後退するだろうな。そして化石燃料や木々の伐採などに頼る率が上がり、地球環境は破壊の一途をたどる。地球連邦軍も、当然ながらベスパも、兵力を維持することはできない。そして技術体系がまったく異なるガルファに蹂躙されて、全ては終わってしまうだろうね。
ただ……。ザンスカールの連中が、そこまで頭が回るかどうか。機械帝国ガルファを侮り、まずは地球連邦を片付けてから返す刀で……とか考えていそうで怖いよ』
「ありそう過ぎて、笑えないねえ……」
『笑い話じゃないよ。ジュンコ・ジェンコさん』
「ま、とりあえずは今回木星圏の連中を救援して、それからだね! 気合入れな、あんたたち!」
「「「「「「おー!」」」」」」
多少はやる気が出てくれた様だ。ほっとしたよ。しかし本当にザンスカールの連中が、停戦に応じるかどうか……。応じたとしても、共にガルファと戦ってくれるかどうか。
実は『わたし』は、難しいんじゃないか、と思っているんだがね。
*
主スクリーンに映る映像の向こうで、老齢の男性が疲れ果てた様子で、それでも見るからに必死の様子でこちらを睨んでいた。スクリーンの中にウィンドウが開き、そこにラー・カイラムの
ちなみにブライト大佐は、今回の派遣艦隊に於いて、階級が最も高いことから代表者となっていた。ちなみに形式上の次席は弁慶だが、実際は『わたし』が弁慶隊(仮)の指揮を執っている。
ブライト大佐が口を開いた。
『木星公社、クラックス・ドゥガチ総帥、お初にお目にかかります。地球連邦宇宙軍大佐、ロンド・ベル隊部隊司令、ブライト・ノアです』
「同じく地球連邦軍少佐、車弁慶隊を預かっている、車弁慶少佐です」
『……いや、諸君らに八つ当たりしたところで、どうにもならんな。来援に感謝する』
ドゥガチ総帥は、しかしながら憤りを隠しきれない様子であった。だが彼は、絞り出すように言葉を
『……これまでに、既に8基のスペースコロニーがガルファの機獣により破壊され、数多くの木星市民が虐殺の憂き目に遭った。ここに至り、木星公社は地球連邦政府と交渉し、一時的な……。あくまで一時的な!! 木星圏の放棄を決定した……』
「『……』」
『諸君らに頼みたいのは、残り22基の各スペースコロニーに装着した核パルスエンジン起動までの間の防衛、そしてコロニー群が木星脱出速度に乗るまでの時間稼ぎだ。エンジン起動は3日後の12:22時だ。
本来はこちらの軍も出す予定であったのだが、残念ながら一昨日までの定期的ガルファ襲撃により稼働
ふとドゥガチ総帥がよろめく。側近が慌てて支えようとするが、彼はそれを制して言った。
『……冷たい、冷たいと思っておった地球圏の人間たちだが。希少なワープ機関搭載艦をもって、こうして
地球圏の者たちを、見誤っていたやも知れぬな……』
『……地球圏の全てが善良な人だとは、絶対に言えません。腐っている者も、多く存在します。ですが、我々を送り込んで来た人たちは……。木星圏の人々に感謝を忘れてはおりません』
『そうか……。貴官らと、貴官らを送り込んで来た、遠き友に……。感謝を』
ドゥガチ総帥は本当にボロボロに疲れ果てた様子ではあったが、しかし強い視線でこちら側を見遣ると、頭を小さく下げた。
*
ガルファの機動要塞、ベガ女史によると『螺旋城』という名称らしいが……。これもアニメ知識と一緒なんだな。もういい加減、原作アニメ知識とこの世界の現実知識を混同しないように、必死になって原作知識をあまり参考にしないようにしているのが、ちょっとだけ馬鹿らしくなっている。
いやいや、駄目だ駄目だ。真ゲッターロボ関係のストーリーも、早乙女博士の最後は原作アニメに近い形になったが、そこまでの過程はかなりの差異があった。油断するな。どこに落とし穴があるかわからないぞ。
その螺旋城なんだが、現状は小惑星帯に潜んでいるらしい。そこから木星圏へ、定期的に機獣を送り出しているんだそうな。ちなみに火星圏は今現在の火星の位置からして、とりあえずは襲われる事は無さそうだと言う話。木星圏の次に狙われるのは、たぶん地球圏だ。
「定期的に襲撃が来るって事は、次の襲撃は4日後だよな? って事は既に避難民たちは出発してるから、俺たち戦わなくて済むんじゃね?」
「うーん、もしかして次回の襲撃は、わざとタイミングずらして来るかも知れないよ、銀河。 敵なんだから、卑怯なことをしてくるのは当然って考えなくちゃ」
「ちぇ、めんどくせえ奴らだなあ」
「コラ!」
パカン! パコン!
「「あいたっ!」」
甲児が北斗少年と銀河少年の頭を、丸めたノートで叩く。
「お前らが言いだしたんだぞ? 長期に休む分で出された、学校の宿題を見てくれって」
「「ご、御免なさい!」」
「まあ、気が散るのも分るけどな。俺も学生時代は勉強嫌いだったしよ。けれどな? 学校の勉強は全部が役に立つわけじゃ無い。だけど、幾つかは確実に役に立つし、社会に出た後で覚えて無くて『しまったあああぁぁぁ!!』って思った知識は、すっげぇ多かった。
今思うに、学校で詰め込めるだけ詰め込んでおくんだったよ。特に小学校の勉強は、基礎中の基礎だからな? しっかり覚えとけ」
「「はーい!」」
……まあ、甲児は勉強嫌いって言うレベルじゃ無かったけどな。マジンガーZ原作でも、この世界で確認した情報でも、ノーヘルバイクでパトカーにちょっかいかけてたし。ちゃんと記録が残ってた。
『まあ、あまり長時間根を詰めても、集中力が無くなってしまい、かえって効率は悪い。おやつを用意したから、小休止を入れてはどうかね?』
「……そうするか」
「「やった!!」」
『ははは、息ぴったりだな』
人間大作業ロボであるロボターは『わたし』の体内から出られない仕様だが、シグコン・シップ艦内にはロボターモドキの作業ロボが多数働いている。そのうちの1体がワゴンを押して現れた。ワゴンには、特大のチョコレートパフェが3つ載っている。
「お。俺の分もあるのか」
『当然だろう、兜甲児先生? 君に好き嫌いが無く、甘いものも嫌いではないのは知っている。まあ近年では酒の方が好きな様だが、まあいつ戦闘配置になるかわからんからな。酒類は諦めてくれ』
「いや、かまわない。サンキュ、ワンセブン」
「うわぁ! これ美味しいよ!」
「ほんとだ、うめえ!!」
美味しく食べてもらって、光栄だ。『わたし』に肉の身体があったなら、微笑を浮かべていただろう。
*
スペースコロニー群の核パルスエンジン起動まで、あと1日、24時間余りとなった頃の事である。当直で
「ワンセブン! センサーに感あり! これは……サイズは機動要塞
『こちらでも確認した! 通信士のアヤメは……まだ休憩中か。ジェイミー! 代理で木星公社の総帥府へ通信を!』
「了解です!」
そして『わたし』はシグコン・シップの他に真ドラゴンとラー・カイラムまで含めた全艦に、緊急の放送を行う。
『敵襲! 敵襲! 敵は機動要塞、螺旋城およびガルファ機獣多数! 総員戦闘配置! 各機動兵器は発進準備を!
「遅くなりました!」
「ジェイミー、ありがと!」
「くっそ、来やがったか!」
『副長! それにバージル! 艦の指揮を移譲、そして操舵を任せる!』
「「了解!」アイハブコントロール!!」
『わたし』は即座に甲板上で『戦闘飛行ワンセブン』形態に変形する。そしてそのまま発艦。『わたし』の後方では、
『ワンセブン! 敵はどっちから来るんでぇ!?』
【わたしを先頭として、ダイヤモンド編隊を組んでくれ。先導する】
『こちらアムロ、了解!』
『シロー少尉、イチナナ式、了解だ!』
『ヒュッケバインNextも、了解だぜ!』
その時、ドゥガチ総帥からラー・カイラムへの通信が、『わたし』にも『聞こえて』来る。それはこの緊急事態にあって、ドゥガチ総帥の決意の強さを感じさせるものであった。
『ブライト・ノア大佐……。敵の機動要塞が、こちらへ向かっておるそうじゃな?』
『はっ! 更にはガルファ機獣多数も確認しております!』
『提供されたレーダー始めセンサー情報によると、太陽系水平面上の20時方向からだな……。その進行方向からすると、最初の狙いは3バンチコロニーだ。
……3バンチコロニーの放棄と、在住市民の脱出命令を出す。同時に、他のコロニーの核パルスエンジンを即刻点火する』
『!? そ、それでは軌道要素が!』
本来の核パルスエンジン点火時刻である24時間後と少しというのは、厳密な軌道計算の結果、得られたタイミングである。これより点火が早くとも遅くとも、地球圏への到達は困難になるのだ。
だがドゥガチ総帥は語る。
『何、推進剤が大量に無駄になるだけよ。各コロニーには採掘済みのヘリウム3と重水素のペレットが大量に積んである。それを用い、軌道変更の再噴射を行えば、補いはつく。今はガルファどもの襲撃から、1人でも多くの市民を逃がす事の方が大事なのだ!
……幸い核パルスエンジンの準備はほとんど終わっておる。噴射まで最大に急がせれば1時間30分、いや1時間でなんとかさせよう。それまでなんとしても、保たせてくれ。頼んだぞ』
『……了解しました。全力を尽くします』
そしてブライト大佐から、全部隊へ指示が飛ぶ。内容は1時間コロニー群を死守するという物である。ただし3バンチコロニーを除いて。3バンチコロニーは、救える可能性は無い。螺旋城が突っ込んで来るのだ。
今現在、3バンチコロニーからは住民が必死で脱出しているのが、『わたし』の『
……そして迫りくる螺旋城との激突に、その脱出の試みが完全には間に合わないであろう事も、『わたし』には計算で理解できていた。もし『わたし』に歯があったなら、それが砕ける程に噛み締めていたに違いない。
せめて脱出に成功した人々だけでも、螺旋城の周囲を取り巻いている機獣どもから逃がさねばならない。『わたし』、シロウ、アムロ大尉、シロー君はダイヤモンド編隊を組んだまま、敵中に突入する。
『マジンガー・ブレエエエェェェドッ!! イチナナ・マシンガンッ!!』
『これでもくらいやがれぇっ!! いけぇ、リープ・スラッシャー!!』
『2人とも、少しセーブするんだ! 敵が多すぎる! そんなんじゃ、すぐに残弾切れ、エネルギー切れになるぞ!』
そして他の仲間たちも、追い付いてくる。その中には、電童の姿もあった。だが同時に螺旋城も、肉眼で見える距離に姿を現す。
『来たぜえっ!! って、えっ、あっ……。な、なんだよあのデッカいネジみたいなのはよ!』
『すごく、でかい……。ま、まずい! あれコロニーに向かってるよ!?』
『や、やめろぉっ!!』
『行くな! 止まれ!』
2人の少年は叫んだ。
『『止まれ、止まれよおおおぉぉぉ!!』』
そしてついに螺旋城は、その猛スピードによる運動エネルギーを十全に活かし、我々の……北斗少年と銀河少年の目の前で、3バンチコロニーに突撃し、激突した。
前半の比較的のんきっぷりと、ラストのヤバさげっぷりの落差がひどい……。北斗と銀河にとって、戦う者として乗り越えなければならない試練の1つです。ですが、戦争に出なければ乗り越えるどころか相対する必要すらもかけらも無かった試練でもあります。
でも、本作品で書きたかった場面でもあるんです。我ながら、業が深いなあ……。
そしてクラックス・ドゥガチ木星公社総帥。後の木星帝国総統でもありますが。しかし本作では、木星帝国は成立するか怪しい状況ですね。
性格も、かなり違います。以前は地球圏の人々に対し、かなりの悪感情を持っていました。本作の現時点においても、その感情は拭い去れていません。
ですがマザーバーンから得られたワープ技術で、数少ない希少なワープ機関搭載艦を使って、良心的な(もしくは先が見える優秀な)ごく一部の連邦政治指導者は、木星に対する援助物資などの輸送に割り当てました。その事で、若干なりと彼の心象は緩和されています。若干ですが。
そして今回、またも希少なワープ機関搭載艦を派遣し、わずかでも援軍を送ってくれた事で、全ての地球圏の人類を憎むのは誤りではないか、との考えが『ちょこっとだけ』頭に浮かんでいます。