大鉄人戦記   作:雑草弁士

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第030話:ハイパー・トッド

 我々がボストンの街に到着したとき、戦端は既に開かれていた。ボストンの街にも、大きな傷跡が見られる。これまでの戦訓を活かし、連邦軍側はマシンガンやミサイルを多用して戦っていた。ただ機体は高価なイチナナ式よりも、ジェガンの数が多い。

 圧倒的、とまでは言わない。そこまで巨大な差は無い。だがそれでも、連邦軍側が大きく押し負けている。ブライト大佐が通信で叫んだ。

 

 

『こちらロンド・ベル隊! 敵、ドレイク軍の相手は我々に任せてくれ! 連邦軍各機は、ボストン市民の避難誘導と護衛を!』

 

『こ、こちら地球連邦軍第703-A機動中隊! 了解、救援に感謝する!』

 

『た、助かった! こちらは地球連邦軍第20A-357MS(モビルスーツ)中隊! すまないが任せた!』

 

『こ、こちらは……』

 

 

 連邦軍の部隊から、次々に感謝の言葉が返って来る。我々は艦から次々に、機動部隊を発進させた。

 

 

『フフフ、こちらオロシャのイワン! 発進しますぞ! 行け、ウラエヌウウウゥゥゥス!!』

 

『草間大作! いきます! 飛べ、ジャイアント・ロボぉ!!』

 

 

ガオオオォォォン……!!

 

 

 元敵対組織であった2体の特機(スーパーロボット)が、並んで射出される。やはり大作少年は、ロボの顔面にある整備ハシゴに掴まっているな。『わたし』に心臓は無いのだが、心臓に悪いなあ。

 

 2体の特機(スーパーロボット)に敵のオーラ・バトラーが群がるが、この2体は圧倒的な防御力か、もしくは強固なバリアーでもってして、その攻撃を受け付けない。そして反撃で、次々に敵オーラ・バトラーは粉々になって()ちて行く。

 更にその隙に、他の機体群が次々に射出された。さあ、ここから巻き返しだ。

 

 

 

*

 

 

 

 現状戦況は、ややこちらに有利だ。こちらの機動兵器群は、個としての力が圧倒的に強いのだ。シロー君のイチナナ式ですらも、『わたし』と甲児の施した徹底したチューンにより、既に一般のイチナナ式からは程遠い高い戦闘能力を備えている。

 更に言えば、オーラ・バトラーとは少々相性が良くないMS(モビルスーツ)ですらも、実体弾兵器を装備する事で有効に敵と戦えている。ウッソ君のVダッシュガンダム、マーベット女史のVダッシュガンダムヘキサなどは、ビーム兵器であるオーバーハングキャノンでさえオーラ・バリアを貫いて敵機を撃破しているし。

 

 しかしながら、数は未だ圧倒的に敵の方が多い。徐々に戦線を押し上げてはいるのだが、下手をすると一度ならずこちらの前衛を抜かれ、後ろの母艦群に攻撃を仕掛けられたりしている。その様な場合に心強いのは、真ドラゴンだったりする。

 真ドラゴンの広域へのゲッタービーム、そして近接でのダブルトマホークにダブルトマホーク・ブーメラン。真ライガーに変形してのドリルハリケーン。真ポセイドン形態でのゲッタートリプルサイクロン等、幅広い攻撃手段で他の母艦を護ってくれる。

 

 しかしながら、安心はできない。敵のブル・ベガー型オーラ・シップが護衛機のオーラ・バトラーを犠牲にして、こちらの戦線を突破したのだ。電波の発信量などからラー・カイラムが旗艦と見定めたのか、一直線にそちらへと向かっている。

 

 

「ゲッタアアアァァァ……ビイイイィィィム!!」

 

 

 真ドラゴンより、強烈なゲッタービームが撃ち放たれた。ブル・ベガー型は一撃で爆散する。しかしその直前、それに搭載されていたレプラカーン2機とその直掩のビランビー4機が、離脱した。まずい、奴らはラー・カイラムの艦橋(ブリッジ)を狙っている。

 シグコン・シップからショック・カノンによる支援砲撃が行われ、ビランビーとレプラカーンを1機ずつ撃墜したが、残りの4機はラー・カイラムのすぐ近くまで到達してしまった。本気でまずい。あれじゃショック・カノンはラー・カイラムに命中しそうで撃てない。

 

 母艦の直掩にあたっているシュラク隊から火線が打ち上がるが、なんとかビランビー1機を撃ち落としただけだ。そして残りのレプラカーンとビランビー2機が、搭載火器の狙いをラー・カイラムの艦橋(ブリッジ)につけた。

 

 

『あたれえぇっ! インコムっ!』

 

 

 そしてレプラカーンとビランビー2機は、一撃で灰になる。オーラ・バリアの内側から放たれたインコムのビームは、ビーム兵器本来の強烈な威力を発揮した。全員が驚きの声を上げる。

 

 

『『『『『『ヨナ少尉!!』』』』』』

 

『皆さん、ご心配をお掛けしました』

 

【もう大丈夫なのかね?】

 

『大丈夫だ、ワンセブン。あなたが調整してくれたナラティブ、とてもいい感じだよ。機体が軽い、もう何も怖くないな』

 

 

 フラグっぽい台詞を吐きながら、ヨナ少尉のナラティブガンダムB型装備はシグコン・シップ甲板上で周囲を警戒する。

 

 

『まあ、それでも。寝たきりになっていた間、点滴だけだったらしいからね。何か形のある物を、食べたい気分だ』

 

【急に固形物を食べると良くない。とりあえず戦闘が終わったら、流動食を用意しよう】

 

『頼むよ』

 

 

 数字上から言っても、艦隊の直掩に新たに1機加わってくれたのは有難い。我々は引き続き、敵陣を削りにかかった。

 

 

 

*

 

 

 

 そんなさ中、『わたし』の右前方で戦っていたショウのビルバインに、はるか上空から逆落としに襲い掛かった機影がある。機種名はライネック。ドレイク軍とビショット軍の共同開発した機体のはずだ。この戦場でも少数は散見されたが……。だがこの動きは、ただ者ではない。

 ショウが叫ぶ。

 

 

『トッド! いったい何を考えている! 気付いていないのか!? この世界は俺たちの地上じゃない! その世界の人々に、迷惑をかけていいわけが無いだろう!』

 

『ハ! そんな事は、もう理解しているさ! この世界に飛び出したその時になあ! 俺はここ、ボストンに出たんだ! 俺の故郷『だったはず』の場所になあ!!

 だけどここには、俺の家は無かった! 俺のママも居なかった! 俺は悲しかったよ! だから俺は決めたんだ! この『偽物のボストン』を、俺の手でブチ壊してやろうってなあ! 俺の手で、『偽物』を炎の海に沈めてやる!』

 

『!! 馬鹿を言うな! ここは偽物なんかじゃない! ここには生きている人がいるんだ! 大人も、子供も、男も、女も、必死になって生きている、本物の世界なんだ!』

 

『ハン、お行儀がいいなショウ! だけどな! 俺が『偽物』だと思ったら、それは『偽物』なんだよ!

 いい事を教えてやるよショウ……。ここを攻撃する事をドレイクに進言したのは、ビショットの使いとしてドレイクに謁見した、この俺だ! 世界でも中心と言っていい大国である合衆国、そのワシントンDCにほど近いボストンからニューヨークまで、次々に燃やして行けば! 合衆国政府に圧力をかけるには充分だろお!?』

 

 

 ちっ、トッド・ギネスは今現在の地球の様子をまったく知らない。アメリカ地区は一年戦争でコロニーの破片がバラバラに落ちたせいで、世界の中心からは滑り落ちているんだ。たしかにニューヨークやキャリフォルニアなど、連邦軍基地とその周辺工業力はかなり高いから、重要な地域ではあるが……。

 けれどアメリカ地区の議会が置かれている場所はワシントンじゃないし、世界の構造自体が旧世紀とはまったく異なっていることを認識していない。この世界が『地上界』の偽物だとか言っているくせに、『地上界』の常識を捨てきれていないのか。

 

 わたしはショウにテキストメッセージを送る。

 

 

【ショウ、その馬鹿は任せた。手助けしたいところだが、手が回らない。すまない】

 

『わかった、ワンセブン! トッド! お前の曇った目を覚ましてやる!』

 

 

 そしてビルバインとライネックは、激しい空中戦を繰り広げる。どちらかと言えば、ビルバイン有利だ。ビルバインは、徐々に、徐々にライネックを追い詰めて行く。これならば大丈夫だと見て取った『わたし』は、『戦闘飛行ワンセブン』形態でブル・ベガー型オーラ・シップを狙い、パンチを見舞って撃沈した。バラバラと人が、地上へと落下して行く。

 

 更にもう1隻、ブル・ベガー型をキックで沈めたその時である。トッドのライネックが、苦し紛れにミサイルを発射するのが見えた。だがビルバインは、それを大きく(かわ)す。……!? ビルバインがウィング・キャリバー形態へと変形するや、落下するミサイルを追って急降下した。そして直撃。

 ビルバインは必死でオーラ・バトラー形態に変形して姿勢を制御するが、オーラ・コンバーターをやられている。そのまま派手に、地面へと落着した。幸い、機体は形を保っている。マーベルさんの悲鳴が聞こえた。だがダンバインは敵機にまとわりつかれて、なかなかショウのもとへ行けないでいる。

 

 

『ショウ!? ショーーーウ!?』

 

『ははは、馬鹿なやつだぜショウ! 地上のガキを(かば)って、ミサイルに自分からあたりに行くとはな! 今、とどめを刺して……。

 え?』

 

 

 ライネックがビルバインの落下地点に降下していく。『わたし』は急遽、近場で戦っている特機(スーパーロボット)クラスの機体に連絡を入れた。

 

 

【デューク・フリード、イワン、大作君。こちらの戦線の維持を頼む。『わたし』はショウの救援に赴く】

 

『わかった、ショウ君の事は頼んだぞ、ワンセブン』

 

『ふはははははは! おまかせあれ! 行け、ウラエヌウウウゥゥゥス!!』

 

『こちら大作、了解です! 叩け! ジャイアント・ロボぉ!!』

 

 

ガオオオォォォン!!

 

 

 ジャイアント・ロボの叫びが背景に入る通信を聞きながら、『わたし』は急ぎ、ビルバインのもとへ向かう。同時にマーベルさんのダンバインが急降下して行くのが見えた。トッドのライネックの通信が拾える。トッドの奴は、ショウとの怒鳴り合いが大事だったのだろうか、オープン回線にしていたからな。

 

 

『オイ、そこのガキ! 名前だ! お前の名前を聞かせろ! そうすれば、そうすればソイツの命は助けてやる! だから聞かせろ!』

 

 

 何を、言っている? ビルバイン周辺の映像を解析すると、地面に(くずお)れたビルバインの前に1人の少女が立ちはだかり、両手を広げてそれを(かば)っている。それに向かい、トッドのライネックは剣を突き付けているが、どうにも様子がおかしい。

 そして『わたし』とダンバインが地上に降り立った瞬間、トッドのライネックは絶叫を上げてその場を飛び立った。

 

 

『あ、あ、ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁああああ゛あ゛あ゛ーーー!!』

 

『と、トッド!?』

 

『ショウ! 大丈夫、ショウ!?』

 

 

 ショウのビルバインは、ギシギシと機体を軋ませつつ、必死で立ち上がる。

 

 

『お、俺は大丈夫だ。その子のおかげで……。ありがとう、君! だ、だけどトッドが!』

 

【トッド・ギネスがどうかしたのかね?】

 

『その子の名前を聞いたとたん、奴のオーラ(ちから)が……。変わった。怒りと憎悪に満ち溢れていた、悪意のオーラ(ちから)が、いっぺんに……。なんて言うのか、悲しみと喜びと、そして後悔に……。

 お、追わなきゃ!』

 

『ショウ、そのビルバインじゃ無理よ!』

 

 

 『わたし』は近場にいる、連邦軍のジェガンに通信を送る。すぐにジェガンがやって来た。

 

 

【申し訳ないが、その民間人の少女を保護して退避を】

 

『りょ、了解! さあ、君! こっちのコックピットへ入ってくれ!』

 

「あ、ありがとうございます!」

 

『君! ありがとう、君のおかげで助かった! 気をつけてな!』

 

 

 ダンバインに肩を借りて立ち上がったビルバインに、少女はジェガンのコクピットから手を振る。そして『わたし』は、ビルバインとダンバインを共に抱え上げた。

 

 

『うわっ!?』

 

『何!?』

 

【トッド・ギネスを追うのだろう?】

 

『あ、ああ! 頼む!』

 

【任せろ、完璧だ】

 

 

 そして、『わたし』は()んだ。

 

 

 

*

 

 

 

 トッド・ギネスの行方は、すぐに判った。彼のライネックは、ドレイク軍のオーラ・バトラーを斬っては捨て、千切っては次の獲物を見つけて、次々に撃破していたからだ。ドレイク軍もまた、裏切り者である彼を殺そうと必死になっている。しかし『わたし』に感じられる『圧』が、彼のライネックとドレイク軍の機体では全く違っていた。感じられるのは、サイコ・フレームのおかげか?

 抱えているショウのビルバインが、トッドに通信を送る。

 

 

『トッド! トッド、返事をしろ!』

 

『ママが……』

 

『何を言っている、トッド!?』

 

 

 トッド・ギネスは涙声で語る。

 

 

『俺は、この世界にママが居ないって、思ってた。だけど、まったく関係ない世界でも、何処かで繋がってたんだ。あの子供……。ママの名前だった。ママの結婚前の姓だった。ママの小さい頃の顔だったんだ。

 あの子供、ママだったんだ。俺の、ママになってくれるかも知れない子供だったんだ!』

 

『『!!』』

 

『それなのに、俺はミサイルで、ママを撃とうと! この街を、ボストンの街を、焼き滅ぼそうと!! だめだ! だめだ!! 俺のママの街を! ママが未来を生きる街を! 焼かせたりしない!! 罪滅ぼしを!! 贖罪を!! しなくちゃいけないんだ!! 命をかけても!! 命を捨てても!!』

 

『駄目だ! トッドおおおぉぉぉおおお!!』

 

 

 ショウの叫びが、切っ掛けになったかの様だった。

 

 

 

*

 

 

 

 ライネックが、(いかづち)(まと)って、巨大化した。

 

 

 

*

 

 

 

 戦闘が、全ての戦闘が、一瞬停止した。巨大な、それこそ『わたし』よりも一回りも二回りも三回りも巨大なライネックが、剣を振り上げる。そして振り下ろすと、無数のレプラカーンが、ビランビーが、ドラムロが、ブル・ベガー型オーラ・シップが、爆散する。

 慌てたかの様に、敵布陣の一番奥に座していたオーラ・バトル・シップであるウィル・ウィプスが後退する。その強大な火砲を、巨大ライネックに向けて発砲する。だが巨大ライネックは突き進んだ。

 

 

『やめろ、トッド! おまえが保たないぞ!!』

 

『俺は……。間違った……。はなっから、全部、間違った……。贖罪を、しないと……。罪、滅ぼし、を……。

 ショウ……。俺の撃った、ミサイル、か、ら、ママを護ってくれて……。ありが、と、よ……』

 

 

 大口径のオーラ・キャノンが何発も巨大ライネックに命中する。巨大ライネックは揺らぐ。しかしそれでも前に進む。必死に逃げるウィル・ウィプスが、あの巨大艦が、小さく見える。

 

 そして巨大ライネックが剣を突き込んだ。それはウィル・ウィプスの左舷を突き刺す。切っ先が、ウィル・ウィプスの背後に抜ける。

 同時にゼロ距離で、ウィル・ウィプスの火砲が巨大ライネックに叩きつけられた。

 

 

『あ……』

 

 

 巨大ライネックがひび割れ、砕け散り、そしてその中央からトッド・ギネスのライネックが姿を現す。それはゆらりと姿勢を崩すと、真っ逆さまに落下した。

 

 

『トッドおおおぉぉぉ!!』

 

【マーベルさん、ここからは自分で飛んでくれ】

 

『え! わ、わかったわ!』

 

 

 マーベルさんのダンバインが、自力飛翔する。これで左手が空いた。『わたし』は周辺の敵にミサイルを放ちつつ、落下するライネックに追いすがり、ぎりぎりで捕まえて再上昇する。

 

 見遣ると、左舷を大破したウィル・ウィプスが必死で逃げて行く。大勢は決した。残るは残敵掃討だ。

 

 

【ブライト大佐、申し訳ないが『わたし』とショウは一足先に帰艦させてもらいたい】

 

『了解だ。あとは任せてもらおう』

 

 

 そして『わたし』たちはシグコン・シップへと帰艦する。トッド・ギネスのライネックという土産を持って。




ヨナ少尉、復活。まあこれから、ミシェルと合わせて色々聞かれるのですが。まあ、あまり厳しくは無いはずです。たぶん。彼は基本素直に話すはずですからね。それにミシェルの計画は、彼にすら秘められていた部分も多いので。

そしてトッド。
「彼女はわたしの母になってくれるかもしれなかった女性だ!」
「トッド! キャラが違ってるぞ!」
「……」
「どうしたシャア? 顔色が緑色だぞ」
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