不幸中の幸いか、前回の戦いでの死者は少なかった。少ないと言うだけで、やはり幾人かは亡くなったのであるが。それでも救えた人数の方が、ずっとずっと多い。
そう自分に言い聞かせて、気持ちを慰めていると、弁慶が帰艦してきた。彼は前回ゴラオンの時と同様、ブライト大佐に連れていかれてグラン・ガランに表敬訪問に出向いていたのだ。
「よぉ」
『どうだったね』
「いや、エレ女王陛下とは違うな。なんつうか、あの眼はこっちの事を全部が全部見通しちまいそうな気がする。まだ若年で、善意の人ではある様だが、正直ちょこおっと近寄り
そういや、ゴラオンは?」
『あと30分で、こちらに到着するよ』
「そうか……」
弁慶は、しばし口ごもる。だが彼は、意を決して語り出した。
「ワンセブン、これは時期が来るまで他言無用だと理解してくれ。知ってるのは俺たちに話して聞かせたクロノクルってザンスカールの高級士官だった男の他は、シーラ女王陛下、向こうの艦長のカワッセ、立ち合いを許されたショウとニー、こちらからブライト大佐とメラン中佐に、そして俺、あとはある意味関係者としてその場に居た、ウッソとシャクティ嬢ちゃんだけだ」
『わかった』
「ほんとは竜馬や隼人にも話したかったんだが、ワンセブン以外にはまだ駄目だと釘を刺された。……ザンスカール帝国の中枢に、インベーダーが……。コーウェンの奴が居やがる」
『!?』
「奴は俺たちの猛攻から逃げおおせた後ザンスカールに辿り着き、人間の姿になってどうにかしてフォンセ・カガチに取り入ったらしい。だがそれも最初の内だ。今はザンスカールのトップ連中は殆どがインベーダーに寄生され、乗っ取られている可能性が高い」
やってくれる、インベーダーども……。なるほど、ザンスカール帝国の迷走の理由の一端は、それか。
「そして奴らは、かつてのザンスカール帝国の野望も引き継いでいる。エンジェル・ハイロゥという直系20kmはあろうかという巨大構造物……。それはサイキッカーの思念を増幅して全ての人類に呼びかけるというシロモノだが……。
女王マリア本人は真摯に平和を願っているサイキッカーらしいんだが、その祈りを機械的に増幅した結果、人々から闘争心を忘れさせ、強制的な眠りに陥らせて最終的には衰弱死に追い込むらしい」
『……そのシステムを、インベーダーが入手した、わけか。万が一それ自体がメタルビースト化されると、まずいな』
「怖い事言わんでくれないか、ワンセブン。女王マリアの実弟クロノクルは、どうもV2ガンダム2機を輸送中のウッソの母親を輸送艦ごと拿捕し、ザンスカール帝国に帰還したらしいんだ。ところがそこで、女王マリア当人から直接に頼まれたらしい。シャクティ嬢ちゃんを、ウッソの所に逃がしてやってくれ、ってな。
クロノクルは女王マリアも共に逃がそうとしたんだが……。無理だと言われたらしい。既に女王マリア自身が、インベーダーに寄生されており、意識を奪われるのも時間の問題だった様だ」
それでも自我意識を保てていたのか。さすがはサイキッカーだ。それとも母の愛のなせる業だったかも知れんな。
しかし、エンジェル・ハイロゥは原作アニメそのままに近かったが、だがそれにインベーダーと言う不確定要素が混入された、か。ヤバいな。はっきり言って、まずいなんてもんじゃない。
「クロノクルは、血の涙を流していやがったよ。奴はシャクティ嬢ちゃんとウッソの母親、それに彼女が運んでた
そしてクロノクルの奴は、シャクティ嬢ちゃんのついでにV2ガンダム2機をウッソに届けるため、シャトルで地球に降りて来たんだが。大気圏突入直前にザンスカールの追手に攻撃を受けて、突入コースが狂ったそうだ。で、グリーンランドに降りてグラン・ガランに
『この話は、上の方には?』
「キャンベル大将には、今頃ブライト大佐が高指向性のレーザー通信で、幾重にもガッチガチにプロテクトをかけた通信で話している頃合いだ。そこから間違いなくゴップ議長にも伝わるだろう」
『そうか……』
なるほど、グラン・ガランを攻撃していたザンスカール部隊は、クロノクル氏とシャクティ嬢の追手か。だがしかし、クロノクル氏が逃げ切ってくれていて本当に助かったな。この情報が入らなければ、ヤバい事態になっていたのは間違いない。いや、既にヤバい事態ではあるんだが、気付かずにそのままだったら、より一層ヤバい。
そうだ。ウッソ君が戦う目的はシャクティ嬢を取り戻す事だったな? 彼はどうするんだ?
『ウッソ君は、これからどうするって言っていたんだ? シャクティ嬢を取り戻せた以上、もう戦う意味は無いだろう』
「いや、あいつはこの戦いに完全な決着がつくまでは戦い続けると言っている。ここで放り出すのは無責任だって事と、シャクティ嬢ちゃんの安心して暮らせる場所を護らんとならんって言ってな」
『なるほどな。……うーん、だが戦いが終わったら、戦士として以外の道を歩めるだけの知識や技能が彼にあるのか心配だな。戦いが終わったならば、少し勉強とか技術とか、周りにいる面々で彼に教えてやった方がいいかも知れない』
「そうだな。あいつが竜馬みたいになっちゃ、親御さんに申し訳が立たん。頭は良くても隼人みたいでも困るけどな」
い、いや竜馬はアレでけっこう頭とかいいぞ? 技師になってもやって行けるぐらいには。旧量産ゲッターを改造して、ブラックゲッター造るぐらいは朝飯前だし。隼人は……。うん、置いとこう。
……そう言えば、グラン・ガランがこんな寒々とした場所から動かなかったのは、何の理由があるんだ?
『弁慶、そう言えばグラン・ガランがグリーンランド中央で停泊していたのは、どういうわけだ? 食料の補充なりなんなり、取り急ぎどこかの勢力と伝手を持つ必要があっただろうに』
「あー、それなんだが。単なる初期不良だそうだ」
『……初期不良?』
なんだそれは。
「バイストン・ウェルだったか? それから放り出された直後、自分たちがこんな氷原のまっただ中に居るのは本気で困ったらしいんだがな。だがグラン・ガランのエンジンが駄々をこねたそうでなあ。
今も必死で修理しているそうだ。直る見込みも、もう立ってるそうだが、明日まで動けん」
『……よければ、シグコン・シップから食料他を援助する、と伝えてやってくれるかね』
「わかった」
やれやれ、そんな状況なら暖かい食事には飢えているだろう。生石灰のヒーターで温められるタイプのレーションを、大量に製造して送りつけてやろう。
*
あの突然変異体が召喚した
やがて、彼は目を開く。そして周囲を見回した。暴れたりはしない。諦観の結果か、もしくは肝が据わっているのだろうか。
と、彼が声を発する。
「俺を見ているのは、誰だ? 機械の視線には、慣れている」
『……『わたし』の名は、『大鉄人
ああ、点滴のカテーテルを抜いてはいけない。君の身体は、かなり衰弱していた。まだ栄養分や薬が必要だ』
「……そう、かっ!? 目が!? 俺の左眼が、『
彼は左眼、左手、右脚が存在して機能している事に混乱する。うん、欠損してたから、機械仕掛けのもので申し訳ないんだが、とりあえず神経接続で稼働する義眼、義手、義足を取り付けてやったんだ。
『それは偽物で申し訳ないんだが、義眼、義手、義足を着けさせてもらったよ。機械仕掛けで、本物に『近い』動きができる。後々君の細胞をクローン培養した、生身の眼や手足を用意できたら、取り換えようか』
「そう、か。……感謝する。クローンは別にいらん。用が足りればいい。それに、クローンには少々嫌な思い出がある」
『了解した。体調が回復したら、リハビリをしようか。機械仕掛けだからな、一応使い方をきちんと心得ておかないと、どんな落とし穴にはまるか分からない』
「……確かにな。使いこなしていたと思った機体に隠されていた機能に、裏切られた事も……。!?」
その瞬間、彼は驚愕の表情を浮かべ、叫ぶ。
「馬鹿な! 何故この
『おちついてくれ。君には衝撃的な話をしなければならない。……ここは君の生まれ育った世界ではない。異世界、とか並行世界、とかの概念は解るかね?』
そして『わたし』は彼に、彼がこことは異なる並行異世界より、あの突然変異体によって召喚された事を伝える。彼はしばし苦悩の表情で考え込んでいたのだが、やがて呟く様に言った。
「つまりは、俺は普通の宇宙船では到達できないような、はるか彼方の
『そうかね?』
「この
『君の乗っていた機体は、大きく損傷していたが調査の結果、修復は不可能ではなさそうだ。何にせよ、君が健康を回復してからだ、な』
彼は唇の端を歪める。笑ったのだろう。
「ああ、分かった。修理代の分も、つけといてくれ」
『了解だ。ところで、君をなんと呼べばいい?』
「俺はケイン・マクドガル。しがない
『わかった、マクドガル。この艦にはもう既にケインが居るんでな。姓の方で呼ばせてもらおうか』
「ふ、姓で呼ばれるのは何か新鮮だな。わかった」
うん、彼の
……ヤバい、だろう。オーラ・バトラーとかは機体耐久度とか防御力の割に、無茶に攻撃力が高いという機体特性を持っているが。テスタロッサはそんなレベルじゃない。特別製だけあって一応は防御力も
攻撃力は、そんなレベルじゃない。下手な
あの突然変異体……可能であれば、ジェ・ガーンとは言いたくないアレに、テスタロッサを喰われなくて、本当に良かった。『キューブ』と『パイルバンカー』をアレに与えたら、いったいどんな事になっていたか。流れるはずも無い冷や汗が、背中を伝う気がした。
*
ゴラオンとグラン・ガランが並んで停泊している。まことに壮観だ。今現在、まともに動いており暖房も効いているゴラオンの方に、シーラ女王陛下が出向く形で女王陛下方は会談しているはずだ。いや、どちらが格上かと言うとシーラ女王陛下側だと思うんだが、流石にクソ寒いところで話すのも、問題か。
現状グラン・ガランの修理は、おおよそ完了している。予定よりも半日ばかり早い。これはシグコン・シップの艦内工場、場合によっては『わたし』の体内工場まで使って、必要な部品を即時生産し向こうへ提供しているからだ。
……うん、初期不良が出るのも当然だな。はっきり言って、部品の精度が悪い。生産する部品について質問すると、『この辺をちょっと削って』とか『この辺は多めに盛って』とか、非常に、極めて、思いっきり、感覚的な答えが返って来る。
オーラ・バトラーを造る技師連中は、それでもまだ話が分かるんだよな。オーラ・バトラーは大量生産品だから、部品を共通化とか規格化とか、色々工夫しないとやっていけない。それでもビルバインとか一品物の逸品は、工業製品と言うよりも工芸品っぽいんだが。
だけどオーラ・バトル・シップを造ってる連中。ちょっと待て。待ってくれ、頼むから。あいつら、技師と名乗ってはいるが、実質は鍛冶屋だ。造るものは工業製品じゃなくて、工芸品だ。同じ性能、同じ機能の疑似オーラ
うん、共食い整備って言葉は、彼らには存在しない。悪い意味で。個々の性能は高いよ。だけど実際の運用については、ヤバいとしか言いようが無い。兵器ってのは、口金のサイズさえ合えば動かないといけない。そんなもんだ。
そんなわけで『わたし』は、最初は注文された部品を造って送ってやっていたのだが、ついにしびれを切らした。そしてトラブルの原因になっている4基の疑似オーラ
そしてグラン・ガランの不調は、とりあえず綺麗に直ったのである。今現在、色々試運転している最中だ。もっとも鍛冶屋製の疑似オーラ
いや、どうせならゴラオンもグラン・ガランも、宇宙に出られる様に改装する必要な時が来るかもしれない。であるならば、その際に思い切り魔改造してしまうのも、一つの手か。きっとゴラオンも、今不調が出ていないだけで、鍛冶屋の工芸品なんだろうし。
*
そんなこんなで、我々は地球連邦政府の議会があるダカールに向かうため、出立準備を進めている。議会本部はもうすぐ南オーストラリアのアデレードに移り、連邦政府の首都機能もそちらに移る予定ではないか、との噂もあるが、少なくとも現在はそこが地球連邦政府の首都であり、議会もそこにある。
何にせよ、女王陛下たちはそこでキャンベル大将と落ち合い、議長の私的に所有する邸宅へと向かう。シーラ女王陛下、エレ女王陛下はキャンベル大将とだけではなく、同時にゴップ議長ともいっしょに面談する事になったのだ。
『……の予定だったのだがな』
『ブライト大佐?』
主スクリーンの向こうで、ブライト大佐が苦り切った顔をしている。
『ゴップ議長は、何を考えておられるのか……。女王陛下たちに、わたしと弁慶もお供する様に、と……』
「なんですと!?」
弁慶が驚愕の声を上げる。さもありなん。
『向こうがお望みとあらば、仕方ないだろう弁慶』
「そうは言うがな、ワンセブン……」
『まだある』
「『え?』」
ブライト大佐は、更に言葉を続ける。それはまさかの、爆弾発言だった。
『ワンセブン。議長はお前とも話してみたいそうだ。向こうに到着するまでに、あちらの邸宅に入る事ができる小型の意識端末を何か用意してくれ』
『……なるほど。向こうは『わたし』の事を既に知っている、という事か』
ゴップ議長、何のつもりがあるのか。これは気を張っていかねばならないだろうな。しかし……。『わたし』も比喩的表現で『頭が痛い』んだが、ブライト大佐と弁慶の顔色が土気色なのが少々憐れに思った。
さて、ザンスカール帝国の現状が明かされました。ザンスカール帝国は、その中枢がほぼ完全にインベーダーの手に落ちています。エンジェル・ハイロゥの件もあり、出来る限り早くあちらを落とさねばなりません。
しかしながら地球には、ドレイク軍とビショット軍というガン細胞が2つも存在、いえ……まだ他にもショット・ウェポンと言う隠れた病巣が居ます。ショットは今のところ動きをまったく見せていません。はたして何処で何をしているのか。
これを片付けておかないと、ザンスカールへの全力攻撃は出来た物じゃありません。
そして
でも『キューブ』と『パイルバンカー』が、乗り手ともどもあの突然変異体に捕食されなくて、本当に助かりましたね。いかに
でもってゴップ議長。ワンセブンに会いたいそうです。えらい事ですねー(他人事のごとく)。