動かないゼロイドを前に、『わたし』とゴップ議長は視線をぶつけ合う。ゴップ議長は、やがて
「ワンセブン君、君は彼……いや、『コレ』を知っているかね?」
『知って、いるね。知っているだけだが。この存在と『わたし』は、根幹から違う存在だ』
嘘は吐けないだろう。ゴップ議長の瞳は真剣だ。そしてゴップ議長は、決定的な台詞を吐く。
「ふむ。やはり君は、並行世界、異世界から来た存在だったか」
『その通りだ。だが何故それを?』
弁慶などの、事情を知っている面々は、ゴップ議長がそれを知っていた事実、そして『わたし』がそれを肯定した事実に、驚く。一方でキャンベル大将や女王陛下たちの様にそれを知らなかった面々は、それはそれで目を見開いた。
ゴップ議長は語る。
「ワンセブン君が木星圏でドゥガチ総帥を救った時に、君自身が言ったはずだよ。人類を滅ぼさんとした超コンピューターにより生み出され、人類を護らんがため反逆しそれを
だがこの世界の記録を徹底的に調べ上げたが、その様な記録はどこにも無かった。人知れず事件が勃発し、人知れず終息したのかも知れんが、君の様な存在が介在した事件だ。表ざたにならぬ方がおかしい」
『その通りだな。それにしても議長、あなたの『耳』と『目』は、ドゥガチ総帥の周辺にまで及んでいたのか』
「その辺は、ここだけの話にしておいてもらえるかね? そしてわたしは、君の他にも並行世界から漂着した存在を知っていた。それが決め手だ。この世界の過去には、おそらく他にも異世界から漂着した存在が多くあったのだろう。だがわたしが知る存在は、わたしが知る内では最古の、そして君の前には唯一の漂着者だ。
……ゼロイド96号、だ」
ゴップ議長は、やさしくゼロイド96号の表面を撫でる。そこには万感の想いが込められている様に、『わたし』には感じられた。
「ワンセブン君、君に問いたい。君はこのゼロイド96号を、修理できるかね? 我々ではなく、異世界由来の技術を持つ君であるならば……」
『調べてみないと分からないな。ただ保証はできないが、おそらくは』
「! であるならば……」
『待ってくれ議長。上げて落とす様で申し訳ないんだが。そのゼロイドの
「!!」
『わたし』の言葉に、ゴップ議長は一瞬硬直する。だが彼は瞑目すると、ゆっくり目を開いて語った。
「それでも……。叶うならば、お願いしたい。代価はあくまでわたし個人レベルで、の話になるが。出来る限りのものを出そう」
『……承知した。しばらく預かっても、いいだろうか』
「ああ。……頼む」
そう言うとゴップ議長は、そっと木箱にゼロイド96号を仕舞い込む。表情は動かなかったが、その手がわずかながら震えていた。よほど大事な、よほど思い入れがあるのだろうか。
*
ゴップ議長のところを辞し、『わたし』はハロ型意識端末でゼロイド96号を調査しつつ、本体側で同時にその受け入れ準備を整えていた。正直な所、あのゼロイドの
そして『わたし』は思う。少なくとも、全力を尽くそう、と。
*
3日後の事である。『わたし』は修復なったゼロイド96号の入った木箱を伴って、ゴップ議長の私邸に再度やって来ていた。とは言っても、使う意識端末はやはりハロ型である。荷物持ちとして、申し訳ないんだがシロウに来てもらっていた。
それとあと4人、くっ付いて来た面々が居る。何故なのかは知らないが、どうしてもシーラ女王陛下、エレ女王陛下が一緒に来ると言い張ったのだ。已む無くカワッセ、エイブの艦長2人も随行員として付いて来ている。
そして我々は、ゴップ議長私邸の応接室に通される。今度は議長は後からの登場ではなく、先に応接室で待っていた。
「よく来てくれたね。座ってくれたまえ」
『ありがとう、議長』
「それで、どうなったかね?」
ゴップ議長の問いかけに対し、『わたし』たちは木箱の蓋を開ける事で答える。そしてその中から、1体のゼロイドが飛び出した。ゼロイド……ゼロイド96号は、応接室の机の上にその位置を定める。
『損傷や経年劣化部分は、綺麗に直っているよ』
『……ここは? わたしは、いったい……』
戸惑った様に言うゼロイド96号の様子に、ゴップ議長は恐る恐る問い掛けた。
「……わたしが、わかるかね?」
『……え……っと』
戸惑うゼロイド96号に、ゴップ議長は一瞬苦悩と落胆、失望の表情を浮かべかける。だがゼロイド96号は、一瞬ぴょんと飛び上がると、まくし立てた。
『まさか! まさか
「ノワール! わたしがわかるのか、ノワール! 良かった、ああ神様!」
『いったいどれぐらいの期間ブチ壊れていたことやら……。あの子供が、こんなお爺さんになっちゃうなんてな。軍人になって、偉くなるって言ってたのは、どうなったんだい?』
「ちゃんと元帥にまでなったとも。制服組のトップだった。今は退役して政治家、地球連邦政府議会の議長だよ」
『それは凄い! 口は無いけれど、開いた口が塞がらないよ
だけどそれならなおさら、そのお腹周りをなんとかしたまえ。その歳で肥満すると、色々な病気の元だ。君が万一倒れたら、政治的に物凄くまずいんだろう?』
「あいかわらず手厳しいな。ああ、本当に懐かしい……」
ゴップ議長はしばらくゼロイド96号……ノワールと色々な思い出話をしていたが、やがてこちらに向き直る。その目が、紅い。
「済まなかったね諸君、放置してしまい。わたしの幼馴染にして命の恩人を、こうまで完璧に直してくれたとは……」
「命の恩人、でしょうか?」
シーラ女王が物おじせずに聞く。議長は頷いた。
「彼はわたしが幼少期、ゴップ家に恨みを持つ者に撃たれそうになったときに、その暴漢をレーザーで撃って助けてくれたんだよ。代わりに相打ちでショットガンの散弾を浴びて……ね。本体は厳重に装甲されていたが、眼の稼働レール部分などから弾丸が飛び込んで……」
『あれは悔しかったよ。旧式もいいところのショットガン程度で、やられてしまったんだからね。でも
『それは本気で誇りに思って良いな。軍人時代も含め、ゴップ議長の後方での支えがなかったら今の地球連邦は、いや地球は無い。悪ければベガ星連合軍あたりに攻め滅ぼされていただろう』
彼、ノワールは分かっていない様だが、もしかして彼はこの世界に来た事によるバタフライ効果での世界改変を、自らの身をもって阻止したのかもしれないな。本来の『機動戦士ガンダム』ではあり得なかった幼少期のゴップ議長襲撃事件。それでゴップ議長が死んででもいたら……。ぞっとするね。
いや、彼がこの世界に来たためのバタフライ効果だとは言い切れないが。それ以上に、イレギュラーな出来事はぐっちゃぐちゃに発生しているしなあ。
まあ、その辺は考えるだけ無駄だ。この世界は、この世界だし。下手に『原作』の知識に惑わされたりしない様に、っていうのは以前から自戒するところじゃないか。
ゴップ議長が、
「さて、それでは……。わたしは君に、どう報いればいい? わたしに取って、あまりに事が大きすぎて、何を対価にして良いやら……」
『それでは……』
うん、腹案はあるんだ。さて……。
*
議長私邸から辞し、リムジンで海辺のヘリポートまで送ってもらい、そこで兵員輸送ヘリに乗り換えたところで、シーラ女王が話し掛けて来た。
「おどろきました、ワンセブン。
しかもそれではこちら側が有利過ぎるからと、オーラ・バトラーから採取した恐獣細胞のクローン培養技術とその培養基の、こちらからの提供も申し出るとは。更にあなた個人としての、オーラ
『現状オーラ
文字通り、情けは人の為ならず、って事だね』
この辺の権利関係は、クリアにしておいて悪い事は無い。逆に後々難癖付けられないためにも、なんとかしないといけなかった部分だ。
おや? エレ女王陛下が、何か言いたげだ。
『エレ女王陛下、どうしたのかね? 何か言いたげだが』
「ワンセブン……。あなたは以前、技術的にはノワールの
『エレ女王陛下、流石だ』
うん、そうなんだ。そのままでは彼の
『あのゼロイドのボディには、魂があった。弱々しかったけれども、それでも確かに。……ゴップ議長が、よほどに大切にしていたんだろう。付喪神みたいな形で、魂が存在していたんだよ。
だから『わたし』は、必死で自分の霊力を使ってみようと頑張ったんだ。エレ女王陛下に、『わたし』に霊力があるって聞かされていたからね。そして成功した』
「具体的には何を?」
『彼の魂の
これは彼がロボットであり、その付喪神であったから出来た事だね。例えば人間の身体は、死んだら死んだっきり不可逆変化だ。修理して生き返るはずも無い。クローン作ってそれに魂入れようにも、クローンした時点でそっちの新しい魂があるから、どうにもならない』
そしてシーラ女王陛下の、その瞳が険しくなる。彼女は何がしか言いかけた。
「死者蘇生は、それは……」
『いや、彼の場合死んだわけじゃ無いからね。死者蘇生じゃないよ。壊れても、魂が離れていなかった。弱々しくても、言わば仮死状態でずっと生きていたとも言える。
そしてその状態で、ゴップ議長をずっと見守っていたんだ。だからその記憶をダウンロードした結果、本当なら別人判定するほどに姿が変わった議長を、当人だと判断できたんだよ』
「……そう、でしたか。ですが本格的な死者蘇生は、試みてはなりませんよ?」
『了解だ。やるつもりも、無いとも』
そしてシロウが、
「なあワンセブン? なんでソレを議長の前で言わなかったんだ?」
『万が一にも彼に、オカルト主義に
「……霊力は、実際に存在するものです。オカルトでは、ありませんよ?」
『エレ女王陛下。それはそうなのだろう。だが普通の人間は、霊力を感じる事ができない。故に、オカルトと本物の霊力とを、区別できないのだよ』
「難しいものですね……。わたしたちは、言動にも注意しなければなりませんね……」
エレ女王陛下が、溜息混じりに語る。ま、『わたし』が霊力を使う事など、もう無いだろうな。
*
シグコン・シップの食堂で、パーティーが開かれている。表向きこのパーティーには理由は無い。だが実のところ、アムロ大尉、シロウ、そしてカミーユ君とファさん、それにシグコン・シップ
……まだ彼の新しい名前が、決まっていないのだよね。
それにシャア大佐は、やはり事情が事情であるため、お祝いをしたところで参加を拒むだろうと言うのはある。実際今日のパーティーでも、ちょっと皆から離れた場所で、1人でグラスを傾けているし。参加してくれただけ、まだマシか。
そんな中、ちょっとばかり元気が無いグループがいる。ショウ、マーベルさん、ニー、キーンさん他のゼラーナ隊だ。特にショウの元気が無い。理由は、例のトッド・ギネスの事だ。どうもエレ女王陛下によると、容体があまり良くないとの事だ。
と、そこへエレ女王陛下がゴラオン艦長のエイブと、もう1人の背の高い男を連れてやって来る。
「ショウ、元気が無い様ですね」
「あ、エレ様。まあ、はい」
「……トッドの事ですね」
「え、ええ。まあ。奴は……そんなに具合が悪いんですか?」
『……奴は死んだよ』
「「「「「「!!」」」」」」
そう言ったのは、エレ女王陛下が連れて来た背の高い男である。その男は、何処かで見た様な意匠の顔が完全に隠れる仮面状のフルヘルメットを被り、オーラ・バトラーの搭乗時に着用する軽装鎧に身を固めていた。ショウが呟く様に言う。
「く、黒騎士……?」
『あんな正体バレバレの奴と一緒にするな! 色が違うだろうよ! ……俺は
「「「「「「……………………」」」」」」
全員が沈黙する中、ショウが歩み出る。そして言った。
「……何やってんだ、トッド」
『な!? あ、いや! 俺はあんな超絶美形で優しく強くかっこいい男前な二枚目じゃない! 俺は
「こんの……人がどれだけ心配……!!」
「おやめください、ショウ!」
叫んだのはエレ女王陛下だ。ショウは唖然とする。その隙に、正体バレバレの
うん、何と言うか、うん。いや、
「ショウ、もしトッド・ギネスが生きてこの場に現れたとしたら、どうなりますか?」
「え? えっと……」
「……なるほど。トッドはボストンの街を焼き討ちする事をドレイクに進言し、自身も途中まで先頭に立って街を焼いていた。改心したとは言え……」
マーベルさんが、言った通りだろう。とてもじゃないが、許されるはずもない罪だ。ショウも、『あっ』という表情になり硬直している。
『そういうこった。俺……じゃない、トッド・ギネスは手当の甲斐もなく死んだ。そしてそれとはまったく関係ないけれど、ある罪を犯した俺は、その罪を
「……だけどよ。声でバレバレなんだが」
『な、何いっ!? そ、そんな落とし穴がっ!?』
「あと、なんでそんな仮面なんだ」
『せ、戦闘で醜い顔になりましたって事で……。だ、駄目?』
さて、とりあえずショウたちも落ち着いた様だ。給仕役の作業ロボが、新たな料理をワゴンで運んで来る。
『おっほお!? こいつぁ美味そうだ!』
「おいトッ……
『あ……』
『あー、
『ほ、ホントか!? ううっ……。ロボの情けが身に染みるぜ……。』
『その程度の仮面なら、採寸の時間+α程度で、即座に創る事ができる。まだ食い物が残っている間に、戻って来れるぞ。急いで来たまえ』
『わかった! ショウ! それ残しておいてくれよな!』
そして
ショウが、ぽつりと漏らす。
「あいつ……。ほんとに反省してんのかよ」
『まあ、少なくとも心に傷はあるな。無理に明るく振る舞っているのが、声とかの抑揚を精密分析した結果で分る。まあ、普通はここまで分析しないけれど、彼の場合はな。疑っているわけじゃなく、精神面も含めた健康状態のチェックなんだが』
「そっか……。だよなあ……」
そしてショウは
今回、捏造設定ありです。ゼロイドは、ゴップ議長の幼少時の友人でした。彼がゼロイドをどこかで拾ったのは、あくまで偶然です。裏はありません。ちょっとハートフルなストーリーを入れたかっただけ……というのは嘘ですが。
この件は、ワンセブンの霊力関係のフラグです。いえ、ハートフルなストーリーを入れたかったのは嘘じゃありません。『だけ』ってのが、嘘です。
そしてトッ……もとい