大鉄人戦記   作:雑草弁士

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第038話:優しさと弱さと厳しさと

 ここは日本地区の星見町である。今『わたし』は、『戦闘ワンセブン』形態で拳を握り、拳法の型を繰り返し行っていた。機体(からだ)の内部に増設した、疑似オーラ(ちから)発生機を参考に開発した、人工(アーティフィシャル)気力(オーラ)発生装置(ジェネレーター)が唸りを上げる。と、足元から罵声が上がった。

 

 

「この阿呆が! 貴様の頭の中に詰まっているのは電子頭脳ではなく、ただの鉄塊か!? そうではない、もっと腰を入れんか!」

 

『申し訳ない、師匠。こうかね?』

 

「やればできるのなら、最初からやらんかぁ!」

 

 

 罵声の主は、東方不敗マスター・アジア師匠だ。彼は車椅子に座り、それに取り付けられたポールにぶら下げられた点滴に繋がれた状態である。

 

 

「師匠、こっちも見てくれよ。こうか?」

 

「貴様はワンセブンより酷いわ! そうではない、もっと肩を押し込む様に、それともう少し全身から力を抜くのだ!」

 

 

 一緒にマスター・アジア師匠の怒声を浴びているのは、シロウだ。『わたし』とシロウは、東方不敗マスター・アジア師匠に弟子入りしたのである。まあ無論シロウの場合、ヒュッケバインNextの操縦系はモビルトレース・システムでは無いため、直接この修行を戦闘に活かせるかと言うと難しいのだが。

 いや、ヒュッケバインNextにはサイコフレームが搭載され、準フル・サイコフレーム機になっている。サイコフレームが十全に働けば、シロウの思考そのものをトレースして動く事も可能だ。そうなれば武術の技も再現できるやも?

 

 マスター・アジア師匠は、しかし少々疲れた様子で車椅子の背もたれに身体を預ける。彼は呟く様に言った。

 

 

「やれやれ……。異世界に来たのは『別にそんな事もあるであろう』程度の事だが。その異世界ではワシの不治のはずの病が、療養は必要なものの治る病であったとはな。入院もいらぬとは」

 

「よかったじゃないかよ、師匠」

 

『うむ、まったくその通りだ』

 

「治ったら、鍛え直さねばならぬわ。随分(ずいぶん)(なま)ってしもうた」

 

 

 異世界に来た事より、病が快方に向かった事の方が驚きか。というより異世界に来た事は全然驚いてないのか。武術家として、身体が(なま)ってしまった事を嘆くのは、理解できるが。

 そのマスター・アジア師匠に、『わたし』は釘を刺す。

 

 

『だが、だからと言って無理はだめだ、師匠。治る病で入院も要らぬとは言え、それは師匠の元から強靭な身体あっての奇跡。治療を怠っていれば、死に至る病であった事は間違い無いのだ。いや、実際1度死んだのだろう?』

 

「わ、わかっておるわ! 口うるさい弟子じゃのう……」

 

 

 次に『わたし』たちの視線は、少し向こうで道着を着用して少林寺拳法の型を練習している、2人の少年に向けられる。先ごろようやく再合流した、電童の操縦士(パイロット)である銀河少年と北斗少年の2人組だ。

 彼らの周囲には、ベガ女史、吉良国、Dr.井上、愛子女史、そして再合流の際に新たに紹介された少女、エリス・ウィラメット嬢が居る。一同は楽し気に、電童操縦士(パイロット)2人組を見守っていた。

 

 シロウが溜息混じりに呟く。

 

 

「どうしたもんかなあ……。奴らを、ドレイク軍との戦いに連れて行くってのは、まずいんじゃね?」

 

『だがこれ以上、電童チームを放置しておくわけにも行かない。先日も、事故でデータウェポンたちが契約解除され逃げ出した際に、ガルファの先遣部隊が警戒線を突破して星見町に襲撃を行ったとの事。

 ガルファの狙いは、明らかに電童……GEARの存在だ。幸いレオサークル、ユニコーンドリルは再契約できて敵の撃破には成功したが……』

 

「そりゃあ分るけどよぉ……。ドレイク軍との戦いは、ほぼ確実に人死にが出る。『人殺し』になる。本音を言えば、奴らに『人殺し』は、させたかねえなあ……」

 

『……覚悟が必要なのは、『わたし』たちも同じなのかも知れないな』

 

 

 その『わたし』の台詞に、マスター・アジア師匠はふっと笑う。彼は(おもむろ)に、言葉を(つむ)いだ。

 

 

「ふん、馬鹿弟子どもが。まあワンセブンは理解している様だが」

 

「へ?」

 

『そう、だな。ただ、踏み切れないのは『わたし』たちの弱さなのだろう』

 

「まあ、良い。不甲斐無い弟子どもの尻ぬぐいも、師匠たるワシの役割であろう」

 

 

 そしてマスター・アジア師匠は車椅子の車輪を押して、北斗少年と銀河少年の方へと向かう。シロウが慌てて車椅子を押すと、マスター・アジア師匠は素直にシロウに車椅子を任せ、そして顔を(しか)めて厳しい表情になった。

 『わたし』はその後方から、マスター・アジア師匠に深々と礼をする。確かに『わたし』は不甲斐無い。マスター・アジア師匠に全てを押し付けてしまう事に、『わたし』は忸怩たる思いを抱く。

 

 そしてマスター・アジア師匠は、少年たちに向かい呼び掛ける。

 

 

「精が出るな、小僧ども」

 

「えっ……」

 

「あー、おう。たしかアンタ、マスター・アジア、だっけ? いきなりの小僧扱いは、なんかちょっとなあ……」

 

「あ、うん。お爺さんには申し訳ないけど、ちょっとなんか……」

 

 

 銀河少年も、北斗少年も、『小僧』呼びに少々の不快感を見せる。だがマスター・アジア師匠は気にも留めない。

 

 

「なに、覚悟の一つも決まっておらぬ子供には、小僧扱いで構うまいよ」

 

「「!!」ちょっと待てよ、爺さん! いくら半病人ったって、言っていい事と悪い事が、あんぞ! 流石にそりゃ侮辱ってもんじゃねえのか?」

 

 

 しかしマスター・アジア師匠は、それまでの厳しい表情から一転、憐れみを浮かべた顔で、北斗少年と銀河少年の顔を見遣る。慌ててベガ女史たちGEAR関係者が割って入った。ベガ女史が、厳しい声音で問う。

 

 

「マスター・アジアさん、いったい何の御用ですか?」

 

「うむ? その小僧どもの覚悟の無さを危ういと思うてな。苦言を呈しに来た。ついでにお主らの覚悟の無さも、糾弾(きゅうだん)しに来たがの」

 

「し、師匠! あ、いや、そのよ」

 

 

 シロウは泡を喰って、こちらに視線を送って来る。だが『わたし』と視線が合うと、なんとなく『わたし』が『制止()めては駄目だ』と言いたいのが分かったのだろう。一歩下がって(かぶり)を左右に振った。

 吉良国が、怒りの表情で口を開く。

 

 

「俺たちの、覚悟の無さ、ですか?」

 

「うむ。そこな小僧どもに対し、覚悟をさせておらぬ事よ。……殺しの、覚悟をな」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 そしてベガ女史、吉良国、Dr.井上、愛子女史が顔面を引き()らせる。ベガ女史などは、仮面ごしでも分かるくらい、仮面脇の(ほほ)肉が引き()っていた。エリス嬢は、よく分かっていない様子だ。北斗少年が、戸惑った表情で問う。

 

 

「こ、殺しの覚悟、ですか?」

 

「そうよ。お主らは、ロンド・ベル隊を中核とするこの艦隊……いまだ正式名称も決まっておらぬそうだが。その任務を何と心得ておる? 戦闘だ。そして電童は、データウェポンとやらを捜索し、ガルファ皇帝を打倒せんがため、この艦隊に参加しておる。

 この艦隊の次の任務は、バイストン・ウェルから来た悪漢ども、ドレイク軍の殲滅よ。そしてその主力兵器オーラ・バトラーの脱出装置は、貧弱だ。撃墜すれば、容易に操縦士(パイロット)は死ぬ」

 

「「!!」」

 

「マスター・アジア!!」

 

「それは……!!」

 

()ーーーッ!!」

 

 

 マスター・アジア師匠が、喝破(かっぱ)した。その裂帛の気合に、ベガ女史以降GEARの面々は思い切り()()る。マスター・アジア師匠は、厳しい口調で言い放った。

 

 

「貴様ら! この小僧どもを普段は艦隊直掩に回し、前線からは遠ざけていたそうじゃな! なれど何時まで、その様な誤魔化しが効くと思ってか! いつかはこの小僧どもは、前線を突破してきた機動兵器を撃墜する! そしていつかはその操縦士(パイロット)は、脱出に失敗して、死ぬ!

 そう、この小僧どもが殺すのだ! その覚悟もなしに、な! 憐れだとは思わぬか! 覚悟も無しに、人殺しを強いられたこの小僧どもが、憐れだとは思わぬのか!」

 

「「「「「「……」」」」」」

 

「あのGEARとか言う兵器に選ばれてしまったから、なんだ!? こやつら以外に、電童が扱えぬから、なんだ!? こやつらに人殺しをさせたくなくば、こやつらを(はな)から戦場に出すでないわ!! GEAR以外にガルファ皇帝が倒せぬだと!? データウェポンが扱えぬから!?

 甘いわい! 試してもおらぬくせに! そしてそれが本当であったとしても、だ! こやつらに人殺しをさせたくなくば、電童を、GEARを使わずにガルファ皇帝を倒す方法を探し求めよ! そのために、大人が何人死のうと! 大人が何人傷つこうと! それが大人の責任であろうが!!」

 

 

 そしてマスター・アジア師匠は、声を低める。先ほどはちょっとマスター・アジア師匠が興奮し過ぎで、制止()めたかったのは山々なのだが、できなかった。自分で抑制してくれて、助かった。

 

 

「そして一度でも戦場に出してしまった以上、もはや手遅れよ。この小僧どもは、護られておるだけの事には、到底耐えられまいて。その善良さ故に、な。となれば後は、こやつらに『人殺しになる』覚悟を決めさせるしかなかろう。

 第一、だな? ガルファを殺すのと、人を殺すのの、違いはあるが。しかしどれだけの違いがある? ちょっとした違いでしか無かろう」

 

「そ、それは!」

 

「違う! 絶対に違う!」

 

「いや、そんなに違わんよ、小僧ども。木星で、貴様らは言葉を話すガルファの機将とやらに出会ったらしいではないか。奴らには『心がある』のだよ。それとも何か? 機械だから、『殺して』も構わんと?

 では小僧ども。貴様らそこに居る、『大鉄人17(ワンセブン)』が敵に殺されたとしたらどうじゃ? それを考えて見よ。平静で、いられるのか? ワシは無理だ」

 

「「!!」」

 

 

 そしてマスター・アジア師匠は、再度GEARの大人たちに向かって語る。子供であるエリス嬢までその中に入っているのは、位置的に仕方あるまい。

 

 

「お主らは、この小僧どもの心を傷つけまいとして、できるだけ『人殺し』から遠ざけておる。だが、それではもう手遅れなのだ。いつか必ず、この小僧どもは、戦いの場に身を置いている以上は『人殺し』にならざるを得ない。それが人間であれ、ガルファであれ、な。

 そのときに、覚悟ができているか否か。お主らがこの小僧どもに覚悟を決めさせておらぬのは、優しさからなのであろう。だがあえて言おう。それは『優しさ』ではない!! 貴様たちの『弱さ』だ!! 貴様たちは自分たちの『弱さ』を、この小僧どもに押し付けているのだ!! 自身では気付かずにな!!」

 

 

 GEARの大人たちは、顔面蒼白になる。仮面に顔が隠れているベガ女史も、アゴや耳の色合いからはっきり分かる。

 そしてシロウが言った。

 

 

「師匠……。人は簡単にはそこまで、強くはなれねえよ。せめて、このGEARの連中が、まだマシな人間だって事だけは認めてやってくんねえか?まあ、俺も含めてよ、師匠のおかげでギリギリで間違いに気付けたんだ」

 

「ふ、そうじゃな。こやつらはそれでも、小僧どもだけを前面に押し立てて殺し合いをさせる恥知らずでは無いものな。

 ……小僧ども」

 

「「は、はいっ!」」

 

 

 もはや北斗少年も銀河少年も、『小僧』呼びに異議は唱えない。マスター・アジア師匠は優しい言葉で語り掛ける。

 

 

「小僧ども、お前たちは次の戦いには出るな。他人だけに戦いを押し付けるのが、どれだけ辛かろうと、な。覚悟も無しに、人殺しになられる方が……。お前たちがそれで血反吐を吐くほどに苦しむ方が……。大人たちには辛いのだ。

 そして戦闘を艦内から観ながら……。考えるのだ。お前たちの戦う意味、戦う意義、戦う動機をな。そして、『人殺し』になる覚悟が出来たなら、その時には戦え。ただし、居ても立っても居られないからというだけでは、絶対に戦場に出て来るでない」

 

「「……はい」」

 

「無論、覚悟を決めて殺したからと言って、その苦しみは絶対に減らぬ。だがな。その苦しみに耐える事はできる様になる。わしも、GEARの大人たちも、その手助けぐらいはしてやるでな」

 

 

 そしてマスター・アジア師匠はシロウに目を遣る。シロウは急ぎ車椅子を引いてその方向を変え、『わたし』の方に戻って来た。その後ろから、北斗少年、銀河少年、そしてGEARの者たちの声が唱和する。

 

 

「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」

 

 

 片手を挙げて、マスター・アジア師匠はそれに応えた。

 

 

 

*

 

 

 

 次の日から、『わたし』とシロウの修業に銀河少年、北斗少年が加わった。もっとも場所は、シグコン・シップの艦内である。ちなみに『わたし』は艦内には入れないので、まずマスター・アジア師匠がシロウに技術を教え、シロウが演武をし、その演武を画像解析して所謂(いわゆる)見取り稽古をしていたりする。

 ちなみに見取り稽古が済んだ後で、『わたし』はシグコン・シップの甲板で『戦闘ワンセブン』形態に変形し、独自に復習をしていたりする。それに対し艦橋(ブリッジ)から見ているマスター・アジア師匠がツッコミを入れたり、場合によっては罵声が飛んできたりもするが。

 

 それと何故シグコン・シップの艦内で修行しているのかと言うと、我々の艦隊は今太平洋を渡り、北米へと向かっているからだ。何故北米へ向かっているのかと言えば、そこにドレイク軍、オーラ・バトル・シップであるウィル・ウィプスの一団が居るからだ。

 いや、奴ら一旦ボストンから逃走して大西洋上に逃げたんだがね。再度北米大陸へ戻って来たんだ。で、北米の南部地域の農場とかを襲撃して、水や食料を略奪している。流石にそろそろ備蓄が足りなくなっているんだろう。

 

 銀河少年、北斗少年の表情は硬い。おそらく『どのように覚悟を決めて良いのか』が分からないのだろう。これに関しては、難しい問題だからなあ……。

 『わたし』の経験は、あまり役に立たない。『わたし』の場合は、以前居た世界でブレイン党の構成員を吹っ飛ばして、それで罪の意識を必死に抑え込んでいる間に、無いはずの胃壁をボロボロにした結果、獲得した覚悟だからなあ。同じことやらせるのは、無理だろ。

 

 なお銀河少年と北斗少年には、マスター・アジア師匠は流派東方不敗を教えていない。元々銀河少年に少林寺拳法を教えたその師匠を尊重し、それを自身の流派で塗りつぶすのは避けたのだ。その代わり、シロウに命じて組手とかはやらせており、悪いクセとかがあれば潰し、良いところは褒めて伸ばしている。

 何にせよ、もうすぐドレイク軍、ウィル・ウィプスとの決戦だ。電童チームがこの戦いに参加しないのは、既にブライト准将の許可を取ってある。だから少年2人は、無理に急いで覚悟を決めないで欲しい。じっくりと時間をかけて、決めるべき覚悟なのだ。




師匠の参入を契機に、北斗少年と銀河少年の覚悟関係に決着をつける事にしました。ただ、実際に覚悟を決めるまでにはもう少し作品内時間でかかりそうです。だけど方向性は、決まってしまいました。

ごめんよベガさん、ごめんよ吉良国、ごめんよDr.井上、ごめんよ愛子さん。
そして本当にごめんよ、エリス。本気で、出ただけで台詞も出番も無い賑やかしだった。本気でごめんよエリス。君が嫌いなわけじゃない、上手く動かせなかっただけなんだ。

そして師匠。なんと言っても師匠。絶対、師匠。もう贔屓(ひいき)贔屓(ひいき)贔屓(ひいき)のひきたおし。美味しいところを全部持っていかせました。でも今は車椅子。はやく治ってください。というか早く治しちゃおうかな。
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