弾道軌道の頂点、超高高度にシグコン・シップはその艦体を置いていた。宇宙望遠鏡クラスの強力な観測機器で、ある程度目的地であるシャイアン基地の様子は判る。
『……まずいな。既に自称ネオ・ジオン軍のジオン残党と、ザンスカール帝国の派遣した部隊が現地に展開している。ただ、双方に協力体制は無い模様で、互いにけん制し合って実際の作戦行動には移れないでいる模様だ』
「こっちが到着するまで、動かねえでくれるといいんだが」
『そうもいかない様だ』
望遠映像の中で、シャイアン基地とジオン残党軍部隊、ザンスカール帝国部隊が交戦を開始したのが見て取れた。映像を解析した結果では、ジオン残党とザンスカールは双方で協力こそしていないものの、お互いには攻撃せずにシャイアン基地のみと戦う事にした模様。
シャイアン基地の貧弱な防衛設備や基地守備隊では、あれだけ数が居る敵にはとうてい及ぶまい。間に合うか……!?
「なんだ!? 俺の目の迷いか!? 気のせいか、あれはジェダに見えるんだが!?」
『間違いない。ジェダ、だ』
「なんて珍しい機体が……」
ジェダとは、ジェガンのプロトタイプに相当する
そのジェダはジオン残党のギラ・ドーガやギラ・ズールと、ザンスカールのゲドラフを相手取って、優勢に戦いを進めている。それに勇気づけられて、シャイアン基地守備隊のジェガンも士気を立て直した様だ。
だがやはり多勢に無勢、守備隊ジェガンは1機
『シロウ、シートに深く座ってベルトを締めて、シートを倒してくれ。これより急制動をかける』
「わかった!」
そして『わたし』が操るシグコン・シップは、強化人間であるシロウが耐えられるぎりぎりのGを見計らって急制動をかけた。つまりはそれだけ制動噴射を遅らせたという事だ。
大気圏内最大巡航速度までスピードを落とし、制動噴射を解除する。やがて通常カメラ映像でもシャイアン基地の様子が見えて来た。どうやら残っている味方側
ヒュッケバインNextから、通信が入る。シロウは既に、機体に乗りこんでいる模様だ。
『ワンセブン! カタパルト射出してくれ!』
【少し待て。まず艦砲射撃で進路上を掃除する。その後、射出する。】
さて、シグコン・シップの威力を見せてやるとしよう。ショック・カノン1番、2番、用意……。目標、インレンジ! ファイア!!
ドオオオォォォン!!
ドオオオォォォン!!
轟音と共に、凄まじい光条が砲門より
【行け! シロウ!】
『シロウ・サハラ、ヒュッケバインNext! 出るぞ!』
カタパルトから、ヒュッケバインNextが艦前方目掛けて射出される。同時に『わたし』も『要塞ワンセブン』形態から翼を開き、『飛行ワンセブン』形態となってシグコン・シップ艦体を離脱、全速でシャイアン基地へと飛んだ。
*
シロウのヒュッケバインNextが、ゲドラフをビーム・ソードでなます斬りにする。それを撃とうとするギラ・ドーガを狙い、『わたし』はミサイルを撃ち込んだ。爆散する敵機。
我々の唐突な援軍に、しかし歴戦の軍人であるジェダとリ・ガズィのパイロットは即座に対応して見せる。動きが鈍ったジオン残党とザンスカールの部隊に対し、すかさず攻勢に出たのだ。
わたしはシロウに、テキストメッセージを送る。音声通信よりもこちらの方が、若干手間がかからないのだ。
【シロウ、あのジェダの
「よくわかるな!? いや、俺もそうじゃないかと『感じて』はいたけどよ……」
【いや、肩口にアムロ・レイのユニコーン・マークがペイントされているからな】
そうなのだ。ジェダの肩口には、『A』と『ユニコーン』を合成した様なマークが描かれている。これにシロウの強化された人工NT感覚のお墨付きがあれば、まず間違いないだろう。
ではそのアムロ大尉と肩を並べて戦えている、あのリ・ガズィの
『わたし』は戦場の中央に強引に着陸を敢行し、そこで変形を開始する。ビームやら何やらが時折『わたし』の身体に着弾するが、毛筋ほどの傷もつかない。そして『わたし』は立ち上がる。『戦闘ワンセブン』形態だ。
『な!? と、
『データ照合しろ! どこの
『だめだ! データが無い!』
敵連中は、慌てふためく。そしてビームやミサイルを乱射してきた。……悪いがね、その程度で損傷するほどヤワじゃないんだ。『わたし』は脚の
そして手前の敵機を……タイヤ状の
そして次はギラ・ズールだ。必死にこちらの蹴りを回避しようと、スラスターを全開にして飛び上がるが……。『わたし』はタイミングを合わせ、文字通りの鉄拳を見舞う。パンチはギラ・ズールの胴体を
『ば、バケモノめぇっ!!』
『俺のダチに、言ってくれんじゃねえか!』
『わたし』に対し罵声を吐いてビーム・マシンガンを乱射してきたギラ・ドーガを、シロウのヒュッケバインNextがビーム・ソードで叩き斬る。それを後目に、アムロ大尉のジェダが2機のギラ・ドーガを沈め、リ・ガズィも2機のゲドラフを撃墜する。そして『わたし』がゲドラフ1機を踏み潰して、戦闘は終了した。
*
敵機が全機撃破されて安全が確認されるや否や、シャイアン基地の人員が
他に漏れない直通回線で、シロウがわたしに語り掛けて来る。
『な、なあ……。なんかあの2機、やば~い雰囲気なんだけどよ』
【リ・ガズィはこの基地への救援に来たのではなかったのかね?】
『うん、俺もそう思う。思うんだが……。あのアムロ・レイ大尉? あっちがリ・ガズィって言うかその
その言葉を聞いて、『わたし』は
わたしはアムロ大尉機と、リ・ガズィの双方に回線を繋ぎ、テキストメッセージを送りつけてやる。
【その辺にしておかないかね? 特にアムロ大尉は、気持ちはわかるとか言うと返って失礼だろうし、実際わからないから言わないが。だがそれでも君たち2人の関係性から言って、アムロ大尉が怒りを抱くのは少なくとも理解の
だがそれでも、今はそんな状況じゃないだろう。アムロ大尉、そしてシャア・アズナブル大佐】
『……そう、だな。それに、わざわざ救援に来てくれた相手でもある。来援に感謝する、シャア……。
そちらの濃紺の機体と、そちらの
『……』
『……ふぅ』
シロウが安堵の息を吐いたのが、通信回線ごしに聞こえる。おそらくは彼の強化人間としての人工NT感覚でわかる程度には、アムロ大尉とシャア大佐の間の緊張が
と、アムロ大尉がこちらに向かい、語り掛けて来た。
『ところで君たちは、どこの部隊の者だ? 部隊マークも付いていないし、まさか
【いや、会社登録はしていない。ぶっちゃけた話、こちらは非合法の武装組織だ】
『『!?』』
アムロ大尉とシャア大佐は絶句する。そこへシロウが口を挟んだ。
『こいつの名はワンセブン。俺はシロウ・サハラって言う。俺は地球連邦軍が組織してた非合法の強化人間研究所の、強化人間だ』
『『!!』』
『ある日突然、研究所が俺にかけてた洗脳が唐突に破れてさ。このヒュッケバインNextごと研究所を逃げ出して来たんだ。そこをワンセブンに救われてよ。ワンセブンの旅に付き合ってる。
ワンセブンはお人よしでなあ。アムロ大尉がジオン残党やザンスカールの奴らに狙われてるって知って、助けに来たんだよ。おまけに連邦軍は上の連中が鼻薬嗅がされたりなんだりで、動けないっつーか、動かなかった』
『それでネオ・ジオンやらザンスカールがこんな連邦の勢力圏内まで入り込んで来たのに、連邦軍が動かなかったのか……』
アムロ大尉の声音は、悔し気なものが滲んでいた。この通信は向こうからはSOUND-ONLY、こちらからはTEXT-ONLYだが、もし映像回線も繋いでいたらおそらく彼は表情を顰めているであろうことは間違い無い。
しばらくアムロ大尉は黙り込んで考え事をしていたが、やがて彼はシャイアン基地へと連絡を入れる。あえてこちら……『わたし』とヒュッケバインNext、そしてシャア大佐のリ・ガズィへ回線を繋いだままで。
『こちらアムロ・レイ大尉。基地司令、応答願います』
『こちら基地司令、イーグルトン大佐だ。アムロ大尉、ご苦労だった。貴官のおかげで死傷者は最低限に抑えられた』
『いえ……。来援してくれた者たちの情報によれば、今回の敵は自分の殺害を狙って来た模様です』
『!! ……そうか、やはり、な』
アムロ大尉は沈痛な声音で語る。
『連邦軍上層部も、鼻薬を嗅がされたり色々な事情で、まったく動かなかった模様です。このまま自分がこの基地に居ては、皆さんにご迷惑がかかります』
『……』
『自分は……脱走します。自分が立ち去り次第、それを周知してください。それでこの基地が狙われる事は無くなるでしょう』
『……済まない、大尉』
『では……。今までありがとうございました』
そしてアムロ大尉のジェダは基地の方へ向かい、見事な敬礼を送った。
*
シグコン・シップの
耐えかねたシロウが口を開く。
「おい、あんたら……」
「シャア。あらためて来援感謝する」
「……礼を言われるほど活躍はできなかったがな」
どうやらシロウの動きが切っ掛けにはなったのだろう。こわばった表情ながら、双方とも最低限の歩み寄りは見せた。
そしてアムロ大尉とシャア大佐は、こちらにも言葉を向ける。
「そしてワンセブン、シロウ、来援および俺を受け入れてくれて、心より感謝するよ。ありがとう」
「わたし1人が加わっただけでは、あそこまで被害を抑えることはできなかっただろう。わたしからも感謝する」
『……どういたしまして。シャア大佐、君が不倶戴天とも言えるアムロ大尉と共に、この艦に乗り組んで来たのには、何かわけがあるのだろう?』
その問いに、シャア大佐は小さく苦笑すると答える。
「……不倶戴天、か。いや、それは今はいい。……わたしには、やらなければならない事があってな。だがわたし1人だけでは、どうにも不可能な事だ。それ故に、今までは苦悩しつつも断念せざるを得なかった事なのだが、な」
「はっきり言ったらどうだ、シャア」
「そうだぜ。こういうときは、単刀直入に言うに限るぜ」
「……わかった」
そう言った後、シャア大佐は深く頭を下げた。アムロ大尉などは、目を丸くしている。シャア大佐は口を開く。
「伏して諸君らに協力を要請したい。ここより東、オーガスタ研にカミーユ・ビダンとファ・ユイリィが捕らえられている。ことにカミーユは、過酷なNT能力の実験を強要されていると聞く。……なんとか、助け出したい。頼む」
アムロ大尉は血相を変えて、ブリッジに据えてあるメインカメラ、つまり『わたし』の『眼』の方を見遣る。『わたし』は
『進路変更。目標、オーガスタ研。かまわんね? シロウ』
「あったりめえだ! シャア大佐、いつまでも頭下げてんなよ! それよかあんたとアムロ大尉の
シロウの発破がけに、シャア大佐は小さな笑みを浮かべつつ頭を上げる。そして3人は機動兵器デッキへと駆けだして行った。
祝、アムロ脱走(笑)。シャアをリ・ガズィに乗せようっていうのは、かなり前から考えてました(笑)。
次回はカミーユ救出です。でもそろそろリアル系メンバーばかりじゃなくスーパー系メンバーも欲しいなあ。