見た目13~14歳程度の少女が、赤毛を振り乱して歩行器に縋り付き、必死で歩行訓練のリハビリを行っている。何と言うのか、当初のスケジュールより33%増しの進捗度だ。
「……んのォ、ふんとこどっこいしょおぉ!!」
「ユングが歩いた!」
「凄いわね……。でもあんまり無茶したら駄目よ?」
「それはわかってるわよカズミ。でも……うんとこせっ!! この世界の地球にも、危機が迫ってるんだもの。わたしたちが元の世界に帰還できる可能性が少ない以上、この世界で生きていく事も考えなきゃ。よおっせえええぇぇぇい!! だから一刻も早く、シズラー黒改も使える様にしなきゃ。はぁ、はぁ……」
そう、この赤毛の少女はクローン体への脳移植手術を完了した、ユング・フロイト女史であった。ちなみにプロポーションそのものが若い頃の物になってしまった事で、少々
それにしても、当初は舌も上手く回らなかったと言うのに、必死の努力であっと言う間に喋れる様になってしまった。そして今もまた、リハビリの想定目標を次々に突破している。さすが努力型の天才だけの事はあるという物だ。
『まあ、あまり無理はしないでくれると嬉しいね。それに筋肉は最低限だが、培養中の電気刺激で鍛えてある。あとは脊髄反射を身体に刻み込むのが目的だからね』
「うん、ワンセブン。でもそれなりに鍛えておいて、損は無い、うおりゃあああぁぁぁ! でしょ」
『まあ、そうなのだが』
まあ、本人のやる気に水を差すのも悪いな。それに彼女の言う通り、シズラー黒改が戦闘に参加してくれるなら、今後随分と有難いのも確かだ。まあ、木星圏攻略作戦には流石に間に合わないだろうなあ。
「どおおおぉぉぉっせぇい!!」
「頑張って、ユング!」
「ふ、動けば動くほど身体の自由が戻って来るのが、ヒシヒシと分かるのよ! 頑張らないでか!」
いや、戻って来ると言うよりも、新たに身体に刻み付けているんだがね。
*
ブライト准将と弁慶、それに『わたし』はシグコン・シップⅡの
なおシグコン・シップに所属していた機動部隊の面々は、既に機体も居住スペースもシグコン・シップⅡに移してある。本当はこういうのは、進宙式やった後で引越しするのが基本なんだがな。この過密スケジュールでは、そうも行かんか。
「ブライト准将、いよいよ明後日ですな。シグコン・シップⅡの進宙式やったらその足で、そのまま木星圏奪還作戦が開始される……」
「ああ。我々『スタイシュッツ』艦隊はシグコン・シップⅡ進宙直後にサイド1宙域を出立、そして地球連邦軍、ジオン共和国軍、それらから抜き出された選抜部隊とランデブーした後に、第三宇宙速度まで加速してワープ可能宙域まで進出。木星圏までのワープに入る」
『木星圏を取り戻すための、乾坤一擲の一大作戦、というわけだな。主役は
木星圏の螺旋城近隣宙域では雑魚は連邦軍やジオン共和国軍に任せ、我々の中で単騎での破壊力に優れた機体を選び、螺旋城への突入部隊を編制する。そして敵の中枢を早期に叩き潰す』
これでガルファの螺旋城を
これはゴップ議長が推し進めたオーラ力関連のエネルギー開発が物を言ったのが理由の1つ目。そして連邦上層部がようやく危機感を抱いたのか、ゴップ議長に尻を叩かれたのか、オーストラリア大陸、東アジア中央部、北アジア中央部、西アジア中央部の4箇所に建設開始された新たな光子力プラントによるエネルギー供給見込みが2つ目の理由。
3つ目の理由は、地球連邦に降伏したザンスカール帝国なのだが、インベーダーの奴らのせいで国体を維持できるほどの体力が既に無く、やむなく連邦に吸収されてしまったんだが……。吸収合併の際に色々調べたら、ザンスカール帝国が色々と詐欺まがいの手を使って、こっそり隠匿して備蓄していたヘリウム3の量が予想以上にあったんだな、これが。
4つ目なんだが、フリード星を始めとする宇宙共栄連合からの技術支援だ。フリード星からは既に軍事支援としてグレンダイザーが派遣されている。だが宇宙共栄連合は地球の
何にせよ宇宙共栄連合からは、デューク・フリードの古巣である宇宙科学研究所を通して、様々な技術支援が地球へ送られているのである。それの中には、グレンダイザーの動力源である光量子エネルギーに関する技術までもが存在した。光量子エネルギーは光量子の収集が技術的に難しいが、それさえクリアしてしまえば莫大なエネルギー源となる。
まあもっとも、4つ目は現状では宇宙科学研究所の光量子エネルギー炉しか実用機材が無いんだが。現在は宇門源蔵所長が音頭を取って、必死になって実用型光量子エネルギー炉を造ろうとしている。
ちなみにデューク・フリードがベガ星連合軍と戦っていた時代のグレンダイザーサポートメカ、地球製スペイザー群は光量子エネルギーで動いているのだから、金に糸目をつけなければ造れることは造れるんだ。しかし実際に商業的に成功させるとなると、スペイザーの動力用システムではなあ……。
ぎりぎりで2度の作戦が可能『かもしれない』としても、1回で成功するに越したことは無い。それに失敗した場合、戦力的にももう1度やると言うのは厳し過ぎる。やはりどう考えても、今回の作戦で絶対に成功を掴まねばなるまい。
「ところでブライト准将。万が一、ですが」
「どうした、弁慶?」
「万一、
ブライト准将は、顔を
「その場合は、木星圏の残存ガルファ勢力を殲滅した後に、木星圏に部隊の3割を置いて即座に地球圏へワープ帰還する。いかに乾坤一擲の一大作戦だからと言って、地球の護りを空っぽにして行くわけでは無い。と言うか、ワープ機関を搭載できるのは連邦軍所有艦艇の4割が限界だからな。
残り6割の戦力を纏めて叩き付ければ、いかにガルファ主力と言っても、悪くても護り抜くぐらいは可能だ。ただし螺旋城に突入して内部から破壊できるほど、個々の戦力価値が高い機体を保有しているのは、現状我々ぐらいな物だ。ジェガンやイチナナ式では心もとない。我々がワープで戻るまで、防戦に努める事になっている」
『ただ、数少ない特機の乗り手たちが、うっかり暴走して突撃しない事を祈りたいな』
竜馬の知り合い、シュワルツ氏のステルバーとか。あとはBF団の怪ロボットとか。ぎりぎりで螺旋城に通用しそうで、それでいてぎりぎりで心細いレベルが多いんだよな。いや、ガイアーあたりを出せば、けっこう良い線いけるかな、BF団は?
……おっと、そう言えば。
『……そう言えば今回の作戦にあたり、宇宙科学研究所から連絡が来ていたぞ』
「へ? デュークにじゃ無く、か?」
『いや、デューク・フリードにも別個に私信は来ていたがね。これは別に、部隊司令宛てに、だ。だからブライト准将で良いとは思うが、弁慶も一応見ておくべきかと思う』
「俺も?」
「ふむ、そうだな。弁慶はシグコン・シップⅡ機動部隊の隊長役だからな。なあ車少佐」
ブライト准将にそう言われ、弁慶は頬を引きつらせる。そんなわけで、『わたし』は
*
そして翌日の事である。シグコン・シップⅡの艤装工事は、100%完了した。明朝標準時で
ちなみにユング女史は、ロンデニオンコロニーの病院へ入院していろと言ったのだが、断固として断って来た。どうしても我々に、と言うかノリコ嬢とカズミ女史に付いて来るそうだ。やれやれ。
しかしながらユング女史の執念は凄い物だ。あんなに短期間のリハビリで、時折ふらつく事はあるものの、歩行器とか使えば日常生活を送れるまでになったのだ。もしかしたら、ガンバスターやシズラー黒改とまでは言わんが、RX-7とかのマシーン兵器レベルであれば木星から帰る頃合いには乗れるんじゃないだろうな? いや、RX-7は手元に無いけど。
そして我々『スタイシュッツ』に、新たな加入メンバーが来た。ついさっき。今さっきの話だ。いや、加入の連絡はもっと前に来ていたんだが。昨日のブライト准将と弁慶と一緒に見た連絡がそうだったんだよな。デューク・フリードが目を丸くして、驚いている。
「ひかるさん!」
「来たわ、大介さん」
うん、牧葉ひかる女史なんだ。彼女はデューク・フリードがグレンダイザーで地球に来援した頃から、宇宙科学研究所に通って地球製スペイザーの操縦訓練に励んでいたらしい。流石に昔取った杵柄、あっと言う間にかつての勘を取り戻し、実戦レベルの操縦技術を取り戻したとの事だ。
「正直、少し悲しかったわ。せっかく地球に来てくれたのに、一度も牧場にも研究所にも顔を出してくれないんですもの」
「済まない……。行きたい気持ちはあったんだが、いつ何時敵が現れるかと思うと……」
「わかってます。だからわたしの方で、大介さんの力になるために来たのよ」
微笑むひかる女史。デューク・フリードも力強く頷いている。まあ……ベガ星連合軍のときに、彼女が戦う戦わないって話は、十二分にやってあるだろうからな。今更なんだろう。
「宇門博士も、理解はしていたけれど寂しがっていたわよ」
「ああ、
……うーん、雰囲気は若干甘い感じはするんだが。だがそれでも微妙に硬いな。ひかる女史も、せっかく再度訪れたチャンスなんだから、もっと頑張ったら良いのにと思うんだがね。
まあ、野暮はよしておこう。本気でその気があるなら今度こそ、デューク・フリードがフリード星に帰るときに無理やりにでも付いて行くだろ。たしかデューク・フリードは、ベガ星連合軍との戦いで仲が良かった幼馴染の女性も、それこそ婚約者も、全部丸ごと纏めて一掃されてしまったはずだからな。たぶんフリード星の政府の人たちも、星王(予定者)に浮いた話が無い事で困り切ってるはずなんだよな。
あ、そうだ。2人の会話に割り込むのは申し訳ないけれど、仕事はしないとな。
『牧葉ひかる女史、申し訳ないのだが』
「え? ど、どなた?」
『いや、『わたし』は『大鉄人
ところでひかる女史、君の機体について申告してもらいたいのだがね』
ひかる女史は一瞬驚いて、デューク・フリードへと目を遣る。デューク・フリードは柔らかく微笑んで、頷いた。
「彼はとてもいい奴だよ。僕たちの大事な戦友さ」
「そ、そうなのね。驚いたわ。ええと、ワンセブン? 搭乗員はわたし1人しか居ないんだけれど、場合によって使い分けられる様に地球製スペイザーは3機とも持って来たのよ。グレンダイザー側の仕様が変わっていなければ、そのまま合体できるはずよ」
「ああ、その点は問題ないよ。かつての時代とまったく仕様変更は無いからね」
『なるほど、3機と言う事はダブルスペイザー、マリンスペイザー、ドリルスペイザーの全部を持って来たんだね? 一番活躍しそうなのはダブルスペイザー、かな』
うん。ダブルスペイザーがあれば、グレンダイザーの運用がもっともっと楽になる。3機全部をいっぺんに使うことは、まあ……無い、だろうな。
さて、せっかくだから兜甲児を呼ぼうかとも思ったのだが……。いや、もうしばらく2人にさせてあげた方が良いか? どうしたもんだろうな。
*
結局のところ、デューク・フリードと牧葉ひかる女史は、しばらく2人にさせてあげる事にした。ちなみに後々で兜甲児に声を掛けたら、彼は彼で2人に気を遣っている模様であった。まあそれはそれなんだが、甲児は久しぶりにダブル、マリン、ドリルの3スペイザーを見て研究者魂に火が付いてしまった模様。
それで『今の俺の技術なら、ダブルスペイザーの最高速度と攻撃性能をもっともっと上げられるはずだ!』とか言い出した。だが
そしてついにシグコン・シップⅡの進宙式だ。もっとも色々と忙し過ぎるので、あくまで簡易的にやったんだが。ノーマルスーツを着用した中尉待遇のブリッジクルー、火器管制のフィリス・ウォルドロンが、ワインボトルを持ち出した。そして彼女がそれをシグコン・シップⅡの艦首に叩き付ける。
ちなみにワインボトルの中身は、真空だ。これは何処ぞの航宙艦の進宙式に、宇宙船なのだからとあくまでシャレで、酒ではなく真空の
なお真空用掃除機は、飛び散った破片に電荷を掛けてやり、それとは正反対の電荷で吸着してやる仕組みだったりする。まあ宇宙空間に細かなデブリを変に増やすわけにもいかんだろう。
こうしてシグコン・シップⅡの進宙式は完了。我々『スタイシュッツ』は艦隊を組んで、いざ木星圏目指して出撃したのである。
ようやくの事で、前々から予定していたメンバー増員が出来ました。はい、牧葉ひかる女史でございます。乗機は地球製スペイザー3機を場合によって乗り換えですね。
まあでも、ダブルスペイザー以外はあんまりそんなに出番無いと思いますけどね(笑)。
何にせよ、木星圏を奪還するために出撃開始です。これが上手く行ったなら、現在地球圏に向けて航行中の木星公社コロニー群は、再度の核パルスエンジン噴射で軌道を調整し、地球圏に定着せずにそのまま軌道を大きく回って木星圏へ帰還する事になるのかも……。
まあ、そう上手く行くかはわからないですが。
そして今回、本当はシロウと師匠とを出すつもりだったのが、大介さんとひかる女史に文字数を取られてしまって……orz。いや、ユング削ろうかとも思ったんですがね。でも書きたかった……。