ジュドー君が火星総督府軍所属の
しかしやはり、そう言う事に耐性のありそうな竜馬あたりでさえも、食堂での食事量が昨日は普段の倍であったのに今日は軽めにしか食していなかったりする。ジュドー君の明るくムードメーカー的な雰囲気は、我々にとって欠くべからざる物であった事を思い知らされていた。
そんな中、怪訝そうな顔をしていたのは秋津マサト君と氷室美久嬢である。彼らはシグコン・シップⅡに拾われて日が浅く、それ故に乗員たちとの交流も少ない状態であったためだ。
「……ワンセブン、なんか艦内の様子が沈んでいる様な気がするんですが」
『君らにまで、気付かれてしまうほどか。いかんな……。いや……。先の戦闘で我々の仲間が1人と、火星総督府軍の
わざわざ手間をかけて捕虜にしたぐらいだから、生きてはいると確信はしているのだが、ね。どうにかして奪還したいのだが……』
「そうでしたか……」
彼らに愚痴を言っても、どうしようもない。とりあえず話を変えた方がいいな。
『ところでマサト君、身体の調子はどうかね? いちおう検査では、もう万全だと結果が出ているが』
「はい、もう僕は大丈夫です。……すいません、ゼオライマーを見に行っても、いいでしょうか」
『うん? かまわないが……』
「お願いします」
マサト君だけでなく、美久嬢も小さく頭を下げる。いや、意識端末の方向はそっちじゃないんだが。見れば判る様に、レンズ状のカメラが壁にあるんだが。
*
「これは、ずいぶんと……」
「自爆したんですもの。形がここまで残っているだけでも、奇跡的だと思うわ」
『申し訳ないが、ゼオライマーはざっくりと調べさせてもらったよ』
「あ、いえ。かまいませんよ」
少し苦笑を漏らしつつ、マサト君は言った。うん、彼が眠っている間に、ゼオライマー本体は念のために調査させてもらったんだ。それによると、センサー類が一部死んでいる他、左脚が稼働不能。装甲各部が破断もしくは剥離。
しかしながらそれでも、最低限の稼働はできる状態だ。メインのエネルギー源である次元連結システム=美久嬢が離れているため、そこまでパワーは出せないが。1G環境下であれば片脚が死んでいるから歩行はできないが、バーニアやブースターが生きているから、宇宙空間での機動は最低限できるだろうな。
『今、作業ロボットに調査報告書を持って来させるよ。……ほら、これだよ』
「ありがとうございます、ワンセブン。……なるほど。それでも、一応は動ける程度はシステムが生きてるんですね」
『凄まじい堅牢性だよ。
これを造った彼のオリジナルである木原マサキは、少なくともとんでもない天才であったのは確かな様だ。……マサト君は、思い詰めたような表情でゼオライマーを見つめている。
「……ワンセブン。事情はある程度聞きました。この世界の地球は、というよりも地球人類は、大変な事になっている様ですね」
「マサト君……」
『……』
マサト君は、しばらく黙したままゼオライマーを見つめている。だがやがて、口を開きかけた。……もしかしたら、まずいか? 彼の性格だと、思い詰めてしまうと自分がゼオライマーで戦うとか言い出しかねないな。
ううむ、これはこれで彼には苦痛かも知れないが……。先に『頼んで』みるか?
『マサト君。もし君が良ければ、なんだが……』
「ワンセブン、それは!」
「美久! いいんだ! 僕にできる事……」
『メカニックとして力を貸してくれないだろうか?』
「「……え?」」
マサト君と美久嬢の喉から、変な声が出た。うん、これは成功したかな?
『いや、君にとっては苦痛かも知れないのだが……。君には、木原マサキの知識もあるとの事だった。正直なところ本気で申し訳ないとは思うのだが。君にとって、木原マサキの知識を使うのは苦痛ではないかとは思うが、どうか力を貸して欲しい』
「あ、いえ、はい。その程度の事ならば、喜んで!」
「……」
美久嬢はマサト君の背後から、彼に見えない様に頭を下げて来た。うん。そっちは意識端末の方向じゃないんだが。やれやれ。
それはそうと、これでたぶんマサト君も只飯ぐらいとはならないから、少しは気持ちが晴れるんじゃないかな。実際のところ、ゼオライマーを造った木原マサキの知識や知的能力が手助けしてくれるのは、ありがたい以外の何物でもないんだよ。
それに、可能であるならばマサト君を戦闘には出したく無い。事情を聞かされたブライト准将も、同意見だ。彼の場合、電童の北斗少年、銀河少年の様な事情も無い。……戦わないで済むなら、その方がいい。このまま地球圏に着いたら、科学者、技術者としてゴップ議長に引き取ってもらうべきだろう。
……彼には、戦士の道は似合わない。
*
ゼントラーディ軍とメルトランディ軍は、ときどき思い出した様な軽いちょっかいレベルの手出しをして来る以外は、本格的な攻撃は仕掛けて来ない。明らかに、これはこちらの戦闘力を測るための、威力偵察だ。
奴らの意図は、まったく読めない。こちらから捕虜を取って、こちらの内情を手に入れようとしていたのであろう事は、間違いないだろうが……。それが奴らに対し、どんな事態を引き起こしているのか、それが読めないのだ。
敵の機体の構造などから、奴らはおそらく劇場版マクロス『愛・おぼえていますか』のゼントラーディ、メルトランディに近い性質だろうとは思われるのだが。だとすると、ゼントラーディでは今現在、ジュドー君とルー嬢によって文字通りのカルチャーショックに見舞われでもしているのだろうか。
メルトランディ側では、攫われたのがレナード少尉とウラキ少佐という男2人という事もあって、これはこれでどういう反応をしているのかは全く判断できない。劇場版マクロスでミリア639がマクシミリアン・ジーナスに惚れたのは、機動兵器戦闘で敗北に近い形になった事があったからだろうし……。今回は、ウラキ少佐もレナード少尉も敵の作戦通りに
……!? その時『わたし』は、悪意を感じた。急ぎ『わたし』は、シロウ、アムロ大尉、
『シロウ! それに皆! 今の『悪意』を感じたかね!?』
『俺ははっきり感じたぜ!』
『俺もだ。シャアはどうだ?』
『わたしも感じた。これは……奴、か? ゾルタン・アッカネンとか言ったか』
『こちら副長! 自分と操舵のバージル、センサー手のジェイミーは知覚しました! が、他の面々は……』
ある程度以上のニュータイプ能力者は、なんとかこの悪意を感じ取る事ができた模様。ゾルタン・アッカネン、か。奴は
しかし……。一定以上のニュータイプ能力者にしか感知できなかったと言う事は、相当に上手く自分の悪意の気配を隠していたと言う事か? 『わたし』は全艦隊に警報を発し、機動部隊に出撃準備を命じた。
*
ゾルタンの偽袖付き部隊は、しかし積極的には攻撃を仕掛けて来なかった。こちらが準備万端整えて待ち構えているのを見ると、一定以上の距離を置いてギラ・ドーガやギラ・ズールなどの
『……あのゾルタンとか言う奴の機体が無い。気配もだ』
『
『かも知れんが』
まあだが、これまでの色々な出来事から類推するに、自分が『そう』である事を認めないのは逆に科学的では無いだろうし、な。それよりも、持っている『力』であれば、理由も無いのに使わないのは不合理だ。
そんな訳で、『わたし』やシロウは徹底的に精神を研ぎ澄ませてゾルタンの気配を探していたのである。
……そしてアムロ大尉が、叫ぶ。同時にサイコΞガンダムAが、跳ね飛んだかの様に天頂方向へと加速。
『!! 疎開船団だ!
『!! わかった!』
そしてそれと同時に、偽袖付き部隊が攻撃を開始する。未だに姿が見えないが天頂方向に居るゾルタンの悪意は、確かに疎開船団中央のタンカー群に向かっていた。このタンカーは、火星圏から火星人民が疎開を決めたとき、火星圏にあるヘリウム3を可能な限りありったけかき集め、存在するタンカーに載せられるだけ載せて来た物である。
このヘリウム3の火星圏備蓄分が地球圏の備蓄に加われば、エネルギー事情は更に余裕ができるはずだ。つまりは火星の疎開民同様に、絶対に護らねばならない存在である。『わたし』はシグコン・シップⅡ機動部隊にテキストメッセージで指示を出した。
【師匠、シロウ、電童は『わたし』と偽袖付き部隊を。マジンガーチームと真ゲッター、グレンダイザーも同じく。ジャイアント・ロボとウラエヌスは敵後方の改良型チベ級を。クロノクル殿とカミーユ君、ファさん、マクドガルはジャイアント・ロボとウラエヌスの直掩、彼らが艦を沈める間、敵を彼らに近寄せるな。ガンバスターは疎開船団中央のタンカー群の、防護に入ってくれ】
『『『『『『了解!』』』』』』
見遣ると、ラー・カイラムのヨナ少尉、ウッソ君、マーベット女史、シュラク隊の面々は、『わたし』同様に偽袖付き部隊に襲い掛かっている。グラン・ガラン隊のオーラ・バトラーは右翼から、ゴラオン隊のオーラ・バトラーは左翼から、敵を逃がさない様に鶴翼の陣を敷き、敵を半包囲の状態に追い込もうとしている。
そして疎開船団からは、火星総督府軍の型落ち
キャンベル大将は火星の連邦軍は、士気、練度、装備のいずれも低レベルだと言っていたが、少なくとも士気の面では既に何らかの改善が為されているじゃないか。ただ、死に急ぐのだけは勘弁してくれよ?
*
そして、ゾルタンの機体が見えた。
*
なんだ、あれは。いや、思い出した。Ⅱネオ・ジオング……!! 前世の『わたし』は全てのガンダム作品を視聴していたわけではなかったが、『ガンダムNT』だけでも観ておくべきだったか……! ネットなどで
いや、下手に情報を持っていて、もし並行世界間誤差で違う能力を持っていたりしたら、大変な災難じゃないか。情報が無いのはあたりまえなんだ。サイコミュ系の能力を持っていると考えてそれを想定すれば……。
いや、それって最悪じゃないか?
(やらせん!)
(なんだこいつ……!! どけっての! シャアを殺せないだろうが……よっ!)
アムロ大尉の声と、ゾルタンの声が響く。サイコΞガンダムAがビームライフルを撃ち放つが、その瞬間アムロ大尉の驚愕が感じ取れる。
(
(へっ、効かないんだなぁ、コレが!!)
Ⅱネオ・ジオングを包むサイコ・フィールドが、ビームを弾く。その機体は速度に任せたまま、アムロ大尉のサイコΞガンダムAをパスして行った。アムロ大尉機は、必死に機位を変えてそれを追う。
脳裏に……いや、『わたし』のは電子頭脳だが、その中にゾルタンのイメージが浮かんだ。……血の涙と鼻血をだらだらとたれ流している。その両目は見開かれ、右目の義眼……サイコミュ・レンズが明々と紅く輝く。
そしてⅡネオ・ジオングは両手指のビーム砲を、1隻のタンカーの方向に向けて撃ち放つ。10本のビーム束が、タンカーに迫る。だがその前には、ガンバスターが居た。
『バスタアアアァァァ……シイイイィィィルドオオオォォォ!!』
ガンバスターはマントの様な防御システムを起動し、迫るビームを受ける。そしてゾルタンが思念で叫んだ。
(甘いんだよおおおぉぉぉ!!)
『ええっ!』
『そんな!?』
ノリコ嬢が、カズミ女史が、驚愕の言葉を叫ぶ。Ⅱネオ・ジオングはガンバスター周囲にまでサイコ・フィールドの範囲を延長し、それを用いて自身のビームの軌道を変えたのだ。鋭角的に方向が変わったⅡネオ・ジオングのビームは、シールドの無い背後よりガンバスターに命中する。
そしてⅡネオ・ジオング、いやそれにドッキングしているシナンジュ・スタインが腕を振る。タンカー群から悲痛な通信が届いた。
『ば、馬鹿な! ヘリウム3が急に、急に臨界状態を!』
『何が起こっているんだ!?』
く、これもサイコ・フィールドのちょっとした応用だ、って事か。まずい。アレを妨害できるのは、サイコフレームを搭載している機体だけだろう。『わたし』はテキストメッセージを、味方に送る。
【サイコフレーム搭載機は全機、タンカー群の護衛に回れ。Ⅱネオ・ジオングのサイコ・フィールドにより、タンカー群に積載されているヘリウム3のエネルギー準位が急激に上昇、臨界に至っている。サイコフィールドを、なんとかして解除もしくは妨害するんだ】
(やめろ、ゾルタン・アッカネン! 貴様の目的はわたしだろう!)
(だーかーらー。ここでヘリウム3がドカーンといきゃ、てめえも、てめえらも、イヤな奴らは全部吹っ飛ぶだろうが!)
(貴様の部下だろう! 彼らまで死出の旅路の道連れにするつもりか!)
『……その通りだ。やつらは、俺と一緒にジオン共和国から切り捨てられちまったのさ。監視役のエリク中尉は、その相談をモナハン・バハロ外務大臣としてやがったから、撃ち殺してやった。俺たちにゃ、もう行くところなんて、無いんだよぉ! 奴らは命を俺にくれたぜ!? 最後に思い知らせてやろう、ってな!!
そうだ、俺たちを使ってやがったのはジオン共和国の、モナハン・バハロ外務大臣サマだ。おい、ヘリウム3がドカンと行っても、船の1隻ぐらいは残るだろぉ? しっかり記録を取っておきやがれ。わざわざオープン回線で喋ってやってんだからよ!』
……何か、逆転の一手は無い、のか?
さて、ゾルタン・アッカネンは乾坤一擲の最後の賭けに出ました。命を捨てて、命をすり潰して、命がけで、限界を超えるサイコ・フィールドを操っています。アムロもシャアも、他大勢のニュータイプ能力を持つ者達も、未だそのフィールドの影響を排除できていません。
その全ては、ゾルタンを追い込んだ者たちへの嫌がらせのために。そのためだけに、火星民疎開船団が運んで来たヘリウム3タンカーを臨界爆破しようとしております。
いや、命を捨ててるからって、それが許される事では無いのですが。