ワープ機関を使わない航宙は、とても長かった。長かったが、火星民の疎開船団とそれを護衛する我々『スタイシュッツ』艦隊は、ようやくの事で地球圏へと到達する。
幸いだったのは、ゼントラーディ軍とメルトランディ軍の攻撃がほとんど無かった事。軽くちょっかいをかける程度の威力偵察行動こそあったものの、不可思議なほどに手出しが無かったのだ。
まあ、それぞれの陣営の中で、何がしかトラブルでも起こっているのだろう事は想像がつく。彼らが連れて行った捕虜たちによる、カルチャーショックとかな。だがゼントラーディ軍からもメルトランディ軍からも、捕虜交換とかの交渉は現状のところ一切無い。
……なんとかできないだろうか。ジュドー君にルー・ルカ嬢、ウラキ少佐にレナード少尉。彼らをなんとかして取り戻したいのだが。
それとゾルタン配下の部隊が延々とたれ流していた、彼らがジオン共和国のモナハン・バハロ外務大臣の指示で動いていた、その証拠映像だが。それは超遠距離指向性レーザー通信で、地球のキャンベル大将を通じてゴップ議長に送っておいた。
そうしたら、我々が地球圏に帰還したときには既に、モナハン外務大臣は更迭されていたりする。ゴップ議長からすればそれを材料にでも使って、この国難にあたり上手くジオン共和国を動かすのに使うかとも思ったのだが……。
それ以前の問題として、ジオン共和国外務大臣モナハン・バハロは、利用する価値も無い、と見限られた様だった。うん。それよりは、ジオン共和国が国として正常に動ける様にする事の方が、価値があったのだろうな。
せっかく他に傍受されないように、指向性レーザー通信で連絡したんだが。何かしら政治的にこの情報を使うかと思って。あ、いや、火星民の疎開船団には聞かれていたから、最後まで秘密にしておくわけにも行かなかっただろうが。まあそれはそれ、だ。
地球圏にたどり着いた事で我々『スタイシュッツ』は、地球圏の連邦宇宙軍艦隊に火星民の疎開船団護衛を引き継いで、ほんのわずかだが休暇に入った。
ジュドー君たちが捕虜になっているのに、気持ちとしては休んでもいられないのは本当なんだが。だが上の方つまりキャンベル大将から、休めと命令が下りて来たんだよな。その命令の正しさも、理解できるし、反論はしなかった。うん。
*
まあ休暇とは言っても、場所は『スタイシュッツ』に割り当てられた根拠地であるゼダンの門だ。そんなに長い期間を休めるわけでもないし、本当に数日間だけ休養に充てるだけの話なのだ。だから何処かのコロニーにでも行って外出するとか言う事も無い。
『……休養なのだから、身体を休めた方が良いのではないかね』
「そうも言っていられないわ。なんとか身体の反応が並程度に戻せたところだし、シズラー黒改をきちんと使える様にしておきたいもの」
そう言ってシミュレーターに乗り込むのは、言わずと知れたユング女史だ。彼女はとりあえず簡単なAIで動く
と、そこでシミュレーター室に入って来る者達がいる。『わたし』は彼らに声をかけた。
『どうしたね? と問うのも野暮か。君らも自主鍛練かね』
「そうだ。正直な話、そちらに用意してもらった
だが実機訓練をしようかと格納庫に行ったら、分解整備中でな……。だからせめてシミュレーターで、と思ってな」
にやりと男くさい笑みを浮かべつつ言ったのは、マクドガルだ。更にその後ろから、ヨナ少尉が声を上げる。
「自分も、フェネクスに少しでも慣れるためにと思って格納庫に行ったんですが……」
『ああ、フェネクスも念のためにC整備中だったな。あの機体が行方不明になった事件からこのかた、まったく整備も補給も受けてないはずだからなあ』
「ええ。でもシミュレーターにフェネクスのデータが入力されてるって聞いて。それで……」
うん、ゾルタン襲撃が片付いた後で、フェネクスに乗ったヨナ少尉がシグコン・シップⅡに着艦したんだよな、パイロット不在になったナラティブガンダムC型装備を自分で担いで。本当ならばヨナ少尉の本来の母艦である、ラー・カイラムに着艦すべきだったんだろうが……。
ラー・カイラムよりもシグコン・シップⅡの方が、色々とフェネクスを調査するのに都合がいいって事でね。調査機材とかの調査環境の面で、ね。それでシグコン・シップⅡに着艦させる事になったんだ。
で、着艦したその瞬間の事なんだ。フェネクスからシグコン・シップⅡのメインフレームに、フェネクス自体に関するデータが送り付けられて来たんだよ。半ば無理矢理に。
たぶんこれは、フェネクスに宿っている前操縦者のリタ・ベルナル嬢の残留思念が為した事だとは思うんだが。そんなわけで、シグコン・シップⅡの機動兵器シミュレーターには、フェネクスの機体データがインストールされてるんだ。うん。
『まあ、気持ちはわかるよ。ただ、あまり無理はしない事。休める時に休むのも、パイロットの仕事だからね』
「ああ、わかってる」
「自分も大丈夫です」
そこへシミュレーター内からユング女史が声を掛けて来る。
『あ、だったら良ければだけど……。わたしのリハビリの手伝いをしてくれないかしら。わたしのシズラー黒改と、シミュレーター上で対戦してくれない?』
「……俺は、かまわない」
「自分もです。よろしくお願いします」
『ありがたいわ。こっちが病み上がりだからって、手加減は無しよ?』
マクドガルとヨナ少尉は、各々準備したシミュレーター筐体へと乗り込んで行く。そして
ちなみにその結果だが。やはり肉体の反射が1からどころかゼロから鍛え直しになっているユング女史が、順当に敗北を喫している。しかしながら回数を重ねるにつれ、彼女は流石に努力型の天才であるというところを見せた。
1回1回、徐々に撃墜されるまでの時間が伸びて行き、最後に彼女は1回だけだが、時間切れ引き分けにまで持ち込んでみせたのだ。ヨナ少尉は素直に驚きを顔に出していたが、マクドガルはさすが歴戦の兵士というところを見せて、失笑するにとどめていた。
*
さて、ゼントラーディ軍とメルトランディ軍の捕虜である、ハロン38552とフォロス29883、カーサ28154とサリカ44892なんだが。彼ら彼女らも、未だ『スタイシュッツ』の扱いとなっている。
とりあえずは彼ら彼女らもゼダンの門に移送、そこの遠心重力ブロック倉庫を突貫で改装した留置所に入れられている。広さとか設備とかは、シグコン・シップⅡの空き格納庫よりは随分とマシになった。いちおう彼ら向けサイズの、温水シャワーとかあるし。というか我々の到着前までに、頑張って造ったとの事。
そして彼らの面倒自体も、ゼダンの門の基地を維持する人員として送り込まれて来た一般兵員たちが、引き継いでくれている。今までシロウやファさんがヒュッケバインNextや百式Rで、彼らの食事を給仕したりとかしてたんだが。それを今度は一般兵員たちが、プチモビでやってくれてるんだ。
捕虜たちはすっかり順応して、くつろいでいる。彼らは普通の食事――捕虜になる以前と比して言うならば、非常に美味い上等な食事らしい――と、娯楽としてTVアニメや歌番組を見せておけば脱走とか反乱とか全然考えもしない様だ。というか、時折本気で『かえりたく、ないな』とか言ってる模様である。
もしかしたら、このまま彼ら彼女らを『教育』してしまうのも手かもしれないな。心理的にも『こちら側』へ取り込んでしまうとか……。おそらくは最後の最後になるだろうが、ゼントラーディ、メルトランディとの懸け橋になってくれたりも……。
まあ、今の段階では『捕らぬ狸の皮算用』だ。とりあえず普通に捕虜として暮らしてもらう以外には無いだろうな。
*
今、我々『スタイシュッツ』は短い休暇を更に切り上げて、自分たちの拠点であるゼダンの門を、急ぎ出撃するところである。しかも部隊を2つに分けて。
何が起きたかと言うと、片方はまた例のマシンキメラ-001だ。奴が月面に姿を現し、ガルファと戦っている最中の地球連邦軍の横腹に攻撃を仕掛けて来たのである。
不幸中の幸いと言っては何だが、月面の連邦軍には奴に絶対に喰われたくないイチナナ式は含まれていない。そのほとんどが連邦版のGM顔ゾロアットと、わずかにジェガンが混じっていると言うものである。
だがだからと言って、味方の兵や機体が喰われてもいいというわけでは、絶対に無い。そして奴に対抗可能なのは、はっきり言ってしまえば我々以外に居ないのだ。
そしてもう一方だが、こちらはガルファの別部隊である。いや別部隊と言うか、ガルファの強力な機獣を先頭にして、少数の大型機獣が見るからに慌ててその後を追う様な形で、月面はフォン・ブラウン市跡地の螺旋城から出撃したんだそうだ。
その先頭の機獣には、とてもではないが一般の地球連邦軍
そのようなわけで、我々としては已む無く部隊を2つに分ける事になった。まず地球方面は敵が強力であるが機獣だと言う事で、電童を中心の編制で送り出す事になった。
まずは電童チームは当然として、ゲッターチーム、マジンガーチーム、グレンダイザー+ダブルスペイザー、ジャイアント・ロボとウラエヌスが主軸となる。そして電童の少年たちのお目付け役と言ってはなんだが、マスター・アジア師匠のマスター・ガンダム
その他に、それらを運ぶための母艦としてゴラオンと真ドラゴンがあちら側へ随伴する。当然ながらゴラオンのオーラ・バトラー隊、特に
一方でマシンキメラ-001にあたるのは、奴の融合同化を防ぐ力を持ち必殺の
そして戦場が月面だと言う事で、その他のガルファ機獣が手出しをして来る事も多々考えられる。それらを防ぐ戦力として、アムロ大尉と
こちら側の母艦としては、シグコン・シップⅡの他にラー・カイラム、先ほども述べたグラン・ガランとスプリガンが付いて来る事になっていた。
と、ここで地球方面へ出向くゲッターチームの弁慶から、秘匿回線で『わたし』あてに通信が入る。何事だろうか。
『こちらワンセブン。どうしたね、弁慶』
『すまん。別行動になる前に、最終確認をしたくてな。……ガルファの奴らは、基本は物量こそが最大の武器で、前のINFINITYみたいにいきなり世界を終わらせるとか言う事は無いんだな?』
『ああ、それは無い……』
そう言いかけた『わたし』だったが、その時ふと下手をすると取り返しのつかない事態になりかねない問題が、ガルファ関連で存在する事に気付いた。無論、前世でのアニメ知識が100%この世界で通用するとは思ってはいないが、それでもこの件に関しては教えて置いた方が良いだろうと思う。
『弁慶、ガルファ関連で取り返しのつかない事になりかねない事柄を、1件思い出したよ。もしも、の事だがね。敵に赤い体色をして翼の生えた、双頭の獣の様な機獣が存在していたら、電童を後ろに下げてくれ。そいつはデータ・ウェポンの天敵だ』
『なんだと』
『そいつが出たなら、電童以外の全機で全力攻撃をして、早急に破壊してしまうんだ。ただし……。万が一、データ・ウェポンがそいつの攻撃で毒牙に掛かったら……。奴の攻撃は、強力、強烈なコンピューター・ウィルスだ』
通信映像の弁慶の顔が、驚愕に引き攣る。やはりラゴウの事は、驚きだったか。
『データ生命体であるデータ・ウェポンがその攻撃を喰らったら、放置して置けば破壊され尽くして消滅してしまう。もしそうなったなら、マスター・アジア師匠では無いが、それこそガルファ皇帝を倒す別の手段を探さねばならなくなるだろう。
もしデータ・ウェポンがそいつのウィルス攻撃を喰らってしまったら、そいつを倒すのではなく、なんとか捕らえてそのウィルスを抽出する方法を考えなくてはならん。ワクチン・プログラムを作るためにな』
『例の……。その、『物語』ではどうやって解決したんだ?』
弁慶の問いに、『わたし』は一言で答える。
『奇跡で』
『……頼るわけにゃ、いかんかぁ。いや、まずは了解した。それらしい敵が出たら、電童やデータ・ウェポンは前に出さん。じゃ、出撃だな』
そして我々は、部隊を2つに分けて緊急出撃したのだった。
*
我々『スタイシュッツ』が到着したとき、月面では地球連邦軍、ガルファ、そしてマシンキメラ-001が三つ巴で戦いを繰り広げていた。3つの陣営の中で、最も不利な立場にいるのが地球連邦軍だ。徐々に戦線を後退しながら、必死で遅滞戦闘を繰り広げている。
そしてブライト准将の声が、通信で響き渡った。
『こちらは地球連邦軍特務部隊『スタイシュッツ』司令の、ブライト・ノア准将! 地球連邦軍、あとはこちらに任せて後退し、周辺での支援に移ってくれ!』
『こ、こちら地球連邦宇宙軍、第1360-35高機動大隊! 救援感謝する、後は頼む!』
『こちら地球連邦宇宙軍、第202-3BMS大隊! 後退する!』
『こちらは地球連邦宇宙軍、第57独立戦隊所属MS中隊……』
多数の連邦版ゾロアットと、少数のジェガンが一斉に撤退して行く。それを追おうとしたガルファ機獣群に、シグコン・シップⅡのショック・カノン、グラン・ガランのハイパーオーラキャノン、スプリガンのオーラキャノン、ラー・カイラムのメガ粒子砲が容赦なく叩きつけられた。
そして各艦より、機動部隊が一斉に発艦して行く。『わたし』もシグコン・シップⅡの機動部隊に、出撃指示のテキストメッセージを出した。
【機動部隊全機、発進。V2ガンダム以外の
『了解だ。ベルゼルガ・テスタロッサ、ケイン・マクドガル。出撃する』
『こちらクロノクル・アシャー、V2ガンダム。出るぞ!』
『アムロ、サイコΞガンダムA、行きます!』
『カミーユです! サイコΖ、行きまーす!!』
次々に、機動部隊の機体が発進する。わたしも飛行ワンセブン形態でシグコン・シップⅡを離艦し、そのまま戦闘飛行ワンセブン形態に変形するとマシンキメラ-001へと向かって飛翔した。
ガンバスターとシズラー黒改、ゼオライマーが『わたし』の後に続く。『わたし』はシズラー黒改のユング女史にテキストメッセージを送った。
【久しぶりの実機だ。大丈夫かね?】
『ええ、大丈夫。それどころか前回よりも調子が良いくらいよ! まあ、前回は病状が進んでいたものね……』
【今の君は、反射神経やら条件反射やら、何から何までまっさらになっている状態だ。注意の上にも注意を重ねてくれ】
『了解よ』
そう言っている間に、前方にマシンキメラ-001の姿が見えて来る。今現在奴は、ガルファ機獣素体タイプに齧りついて、噛み砕いているところだ。そして奴はこちらを認識すると、オープン回線で憎悪と怨嗟の
『マタ来ヤガッタナ……。』
そして奴は、おそらく連邦版ゾロアットを喰らって身に付けただろうビームストリングスを、『わたし』に向かって発射する。『わたし』は高圧の電荷が込められたそのワイヤーを、気を
お久しぶりです。なんとか更新することができました。亀更新にはなりますが、なんとかして続けて行きたいと思っております。
さて、今回は部隊一時分割です。といっても、そんなに長い間分かれてるつもりは無いんですがね。電童中心チームと、とりあえずマシンキメラ-001を抑えるチームです。
ただマシンキメラ側の隊は、あわよくばマシンキメラを倒してしまいたいと思っていますが、まあそう上手くは行かないかも。もう一方も、敵の機獣? の情報が『手ごわい』以外に少ないので、どうなることやら。
ところでゴップ議長の事なのですが。やはり地球圏で戦乱とか内乱の嵐とか宇宙からの侵略とか吹き荒れてたんで、辞めるに辞められなかったという事でおねがいします。ハイ。