ミンメイ・アタック。リン・ミンメイ嬢他、一部の歌手たちの歌声を母艦から放送し、強制的カルチャーショックにてゼントラーディ軍やメルトランディ軍の将兵たちの士気をどん底にまで落とし、味方の士気を限界まで高める事で、戦闘を圧倒的なまでに有利に運ぶ戦法だ。マクロス劇場版では、歌そのものも『愛・覚えていますか』というかつて太古の時代、プロトカルチャーの愛唱歌であった物を歌う事で効果を高めていたが。
ちなみにミンメイ嬢の歌のレパートリー、特にミンメイ・アタックで放送する予定のものについて確認させてもらったところ、彼らはTV版背景の歴史を通って来たはずであるのに、何故か『愛・覚えていますか』も曲目に入っていた。幸いなのか、なんなのか。
とりあえずブリタイ7018氏とサンラナ1189女史をメガロードー01艦内に、巨人兵士たち複数名と共にお呼びして、ミンメイ嬢の歌を聞いてもらって効果のほどを確かめてもらう事になった。結果、ブリタイ7018氏もサンラナ1189女史も感極まった様子であり、2人とも『これならば希望はある』と力強く頷いていたのだ。
「で、メガロード-01艦内じゃ今、中央コンサートホールで色々と音響機器の準備とかしてるってか」
『ああシロウ。彼らにとってミンメイ・アタックは初めての事じゃないからな。もう手慣れた物らしい』
「気に入らんなあ」
『シロウ? ブライト准将と同じか?』
眉根を寄せているシロウに、『わたし』は問いかける。だがシロウは
「いいや、ブライトさんみたく民間人を戦わせるって事が面白くねえ気持ちも確かにあるが、それでもミンメイってのが『戦う』って決めてんだろ? 俺が文句言うこっちゃ無え。俺が気に入らんのは、切り札っていうか、それどころか対処の策全て含めて1枚しかフダが無えって事だ」
『それは、確かにそうだ』
「なあワンセブン、なんかいい考え、無えのか? 流石に手札1枚じゃ、ヤバいってもんだろ。いくら
『敵の物量の前に、気休めにしかならんかも知れないが……』
そして『わたし』は、シロウの部屋のテレビ画面を兼ねた映像ディスプレイに、図面を映し出す。
『前々から何とかしたいと思っていた、ヒュッケバインNextのブラックホールキャノン。どうにかなったぞ。研究が実を結んだ』
「!! あの部品が足りなかったやつかよ!」
『そうだ。これでヒュッケバインNextは、部隊内で有数の破壊力を持つ事になる。感覚的に言うならば、ストナーサンシャインか、もしかしたら真シャインスパーク級の破壊力が、部隊にもう1機。しかも軽量級で機動性が無茶苦茶高いパーソナルトルーパーで、と言う事だ』
シロウは考え込む。
「そっかぁ。なら……。最悪の場合、本気で最悪の場合だがよ。俺が全力で、敵ボスの片方……。ボドルザーかラプラミズ、だっけ? そいつらのところに突っ込んでって、キャノン撃つか。もう1体のボスは、ワンセブンか真ゲッター、あるいは師匠あたりに任せて」
『ただブラックホールキャノンは、ブラックホールエンジンが最大稼働していないと撃てない。注意してくれ。モノが大きいから、撃ったときの隙もけっこうある』
「げ。……了解だ」
『首狩り戦術は、万一の際に可能な有効な策ではある、か。総司令の指揮下から外れれば、敵軍たちも少しは……。だがそれでも、物量は本来なら絶望的なんだが』
そう、本当であれば物量は絶望的だ。だがそれでも
*
とりあえず、例の停止させたゴル・ボドルザーやモルク・ラプラミズへの自動報告システムを逆用した、ゼントラーディ軍メルトランディ軍の基幹艦隊探知システムを作ってみた。要は時空の位相が異なる空間に飛び交っているフォールド通信の通信波を拾い上げ、敵機動要塞への報告を行っている艦の位置を把握する事が可能なシステムだ。裏技的な物であり、敵に技術的素養があれば対処は容易なんだが。
『その対処する頭のある要員が、ゼントラーディ軍にもメルトランディ軍にも居ないからなあ。相手は戦闘員のみで、壊れたらパーツごと、あるいは機体や艦体ごと交換ってとんでもなく大雑把な措置で戦い続ける連中だし』
「不幸中の幸いと言うところか」
「そんな馬鹿共でも、物量は脅威だ」
「たまらねえなあ」
システムの設計と構築に助力してくれたアムロ、隼人、甲児が口々に言う。
「できるだけ人類に被害は出したく無いが」
「あと、ミンメイ・アタックだったか。こちらの切り札がアレ一枚というのも気にかかる」
『隼人も思うのかね。シロウも、同じ事を言っていたよ』
「む、奴と同じ意見、か」
『嫌そうな顔だが、シロウはどうしようもない事情で学が無いだけだ。地頭は良いぞ』
「……そうなのか。すまん、気を付けよう」
そんな所へ、滝川君と石津嬢がやって来る。けっこうへばっている模様だ。
「ひぃ~。無重力での機動訓練、厳しいぜ」
「でも……。やっておかないと……」
「ああ、わかってらい。北斗と銀河、それに大作に……。あんなちっちゃなガキ共が、この世界の地球のために必死に頑張ってんだもんよ。俺らが折れちゃいらんねえよ」
『やあ、ご苦労滝川君に石津嬢。準竜師、と階級で呼んだ方がいいかね?』
「あ、ワンセブン。ほんとに何処にでもいるんだな。階級は堅苦しいから、最初ので」
「……」
無言で小さく頭を下げる石津嬢。彼女はなんとなく『わたし』が
「頼もしいな。だが無理は……。いや、次の戦いになるかもしれないソレは、無理しないと生き残れないかもな……」
「あ。アムロさん、何、次のはそんなにヤバいってのかよ」
「ああ。元々は月面のフォン・ブラウン市跡地の、螺旋城を攻めるのが次の作戦だったんだが」
「……そこにゼントラーディ軍とメルトランディ軍の各基幹艦隊1個ずつ計2個基幹艦隊が、地球圏に攻め寄せて来る可能性が出たんだ。螺旋城攻略よりも先になる可能性も高い」
甲児の台詞に、少年少女たちの表情もこわばる。まあ、今更隠しても仕方が無いからなあ。一般兵士や民間人にならともかく、我々『スタイシュッツ』では、可能な限り情報共有しておくべきだろう。
「奴らの戦闘力そのものは、機動兵器の質では地球連邦の一般戦力にプラスマイナスして互角ぐらいか、一部戦力では若干勝っている程度だ。もっとも母艦になっている艦艇群は、地球連邦のそれを突き放して強力だが、それでも対抗できないほどではない」
「隼人さん」
「だが、数が違う。ざっくりイメージで言うならば、この辺りの宙域を埋め尽くしておつりが来るぐらいだ」
「「……」いや! 気持ちで負けてたらどうにもなんねえ!」
滝川君が、一瞬表情を曇らせるがしかし無理をしていると判る表情であえて明るく叫ぶ。本当に、ゲーム初期状態の彼からすると、とんでもなく成長しているなあ。
「それに、なんか手段は講じてる、んだろ?」
「ああ、ミンメイ・アタックとかいう必殺技で、戦力差を埋めてやろうって話だ。けど、それでも犠牲は出るだろうって想定なんだがな」
「勝ち目があるなら上等! 俺、ちょっと鍛えて来るわ! 石津、いっしょに訓練しようぜ!」
「まかせ……て」
そう言うと、滝川君と石津嬢はジム施設の方に走り去って行く。……またトンデモ無い重さのバーベル上げとか、目盛りの振り切れた状態でフィットネスバイク動かしたり、チェストプレスのマシンを貧弱に見えるあの身体でブチ壊したり、騒動起こすんだろうなあ。
アムロ、隼人、甲児も苦笑を顔に張り付けて、彼らを見送っていた。
*
結局のところ、螺旋城攻略は無期限延期になった。ゴル・ボドルザーの基幹艦隊とモルク・ラプラミズの基幹艦隊の、太陽系への接近が確認されたためである。幸いと言って良いのか、それとも何かしら企んでいるのか、月面螺旋城のガルファはアルテア撃破以降、何の動きも見せていない。
そして地球連邦軍は、可能な限りの全戦力を地球近傍宙域に集めた。どこにこれほどの戦力があったのか、と思うほどの艦、艦、艦。中にはザンスカールのスクイード級、アマルテア級、リシテア級、アドラステア級も見える。機動兵器も、ジェガン、ゾロアット、連邦版GM顔ゾロアット、GMⅤ、ヒュッケバインMM、ズワァースMM、諸々、諸々。
更にそれに加えて、ブリタイ7018氏の投降ブリタイ艦隊、サンラナ1189女史の投降サンラナ艦隊が加わる。それら全ての艦隊のおおよそ中央部、全域に放送が届きやすい場所に、リン・ミンメイ嬢がスタンバっているメガロード-01が有った。
『壮観だな、弁慶少佐』
「そうですな、ブライト准将」
『だが、これでも……。ミンメイ・アタックで、どれだけ差を埋められるのか』
『まだ悩んでいるのかね? ブライト准将』
『ワンセブンか』
苦笑するブライト准将は、だが苦し気な笑顔で語る。
『いや、分かってはいるんだ。そんな事を言っていられる場合では無い、使える物はなんでも使って、この難局を乗り越えねばならん、とな』
『わたしが言うのも何なんだが、開き直った方が楽かも知れないよ。どうせ我々は、やむを得ない仕儀とは言えど子供を戦場に出すという大罪を犯してしまっているのだ。
まあ、だからと言って、新たな罪を犯してもいいと言う事では無いのも理解する。毒食らわば皿まで理論でも、拭いきれる物でも無い事もね。だが今は……。生き残るしか、あるまいよ』
『ああ。巻き込んでしまった子供たちを、無事元の場所に返してやるためにも』
『……!?』
その時だった。『わたし』とシグコン・シップⅡに装備されているセンサー群が、強大な重力場異常を感知する。肉眼や映像による監視では、近傍宇宙空間に虹色の光が満ちるのが観測された。……間違いない、デフォールド反応だ。
『わたし』はシグコン・シップⅡ
不幸中の幸いか、我々よりもボドルザー艦隊とラプラミズ艦隊の方が、距離が近い。しかも既に両者間では戦端が開かれている。なんたる
『諸君! 我らが地球連邦の将兵諸君! いよいよ外宇宙からの第2の敵手、ゼントラーディ軍、メルトランディ軍が姿を現した! 先んじてそ奴らに反乱を起こし、我が方に参じてくれたブリタイ艦隊とサンラナ艦隊……』
『あ、ありゃあ何だ!』
『おい! 閣下の演説中だぞ!』
『だけどメガロード-01近辺に、何か不明機が』
『あ!? ……ただの残骸、デブリだ!』
『わたし』の『耳』は、ムバラク大将の演説の背後で交わされる、総旗艦ドゴス・ギア級ゼネラル・レビル艦橋要員の言葉を捉えていた。不意に気になった『わたし』は、その『デブリ』に意識を集中する。……なんだ、アレは?
何処かで見た様なグレーの
ゾルタン・アッカネンは死んだ。間違い無い。だが、なんだコレは? 今感じている、この不安は?
*
その瞬間、シナンジュ・スタインの残骸のカメラアイに赤く光が灯り、全身が薄緑のサイコフレームの発光現象に覆われて、猛烈な速度で飛翔を始める。
*
『わたし』は、音声前回で全領域に向けて叫んだ。
『あの
『わ、ワンセブン!?』
『まずい! あれを止めないと!』
『だめだ、間に合わない!』
シナンジュ・スタインの残骸はメガロード-01に特攻して、その装甲板に軽微な損傷を与えて四散する。しかし同時に、その周辺に粉々になったサイコフレーム材をバラ撒いていた。一瞬だけ疑似的に発生する、サイコ・フィールド。一瞬だけ、響き渡るゾルタンの、死人の残留思念の叫び。
(死ねば溶けあえるんだろう!? 溶けあおうじゃないの! みんな、みんな死んじまってさぁ!!)
そこまで、そこまで憎いのか! 生きとし生けるもの全てが! この世界の全てが!
(ああ、憎いねえ! 怨めしいねえ!! だが、これ、で……)
ゾルタンの思念は消えた。そして悲鳴のような通信が、メガロード-01から流れて来る。
『こちらメガロード-01の中央コンサートホール! 会場責任者だ! 全ての電気系統が死んだ! 今全力で復旧しているが、奇跡的に生き残ったこの通信回線以外……』
いや、奇跡的にこの通信回線が生き残ったわけじゃない。賭けてもいい。ゾルタンの残留思念、それは生きていた頃の行動方針をなぞる様に動くだけの、ただの霊的なAIみたいなもんだ。だからゾルタンの行動方針を鑑みれば……。
皆を絶望に落とすために、皆に現状を余す事無く伝えて絶望させるために、その通信回線だけを残したんだ。
『音響装置、放送設備、全て、全てダメだ! ミンメイ・アタックは、ミンメイ・アタックは、できない……!!』
切り札、しかも
『シロウ』
『ああ。やらにゃならん様、だな。俺が一番機動力高ぇな? だから俺が、遠い方へ……。機動要塞モルク・ラプラミズへ突っ込んで、その首印を、獲る』
『頼む。機動要塞ゴル・ボドルザーに近くて、充分な火力があるのは……。師匠、今のマスター・ガンダム
『難しいが……。機体を犠牲にすれば、やってやれん事はあるまい』
『頼めるかね? 万一の際は『わたし』が随伴して、救出する』
『うむ』
そして我々は、悲壮な覚悟を固める。どうにかしてゴル・ボドルザーとモルク・ラプラミズの首印を獲って、敵に混乱をもたらすのだ。そうすれば、まだ勝機は……。いや、それでも難しいかも知れないが、何もしないよりはマシだ。
*
しかし、我々はある人物が、今まさに動き始めようとしていることに、気づいていなかったのである。
というわけで、死人の怨念に今回は完全にやられた形でした。以前の話で、何度も重ねて『ゾルたんは死んだ』と言ったのは、今回のための伏線でもありましたのでございますですだすどす。サイコフレームが残留しているのですから、それに残留思念がこびりついている事は、『スタイシュッツ』の面々であれば推察できた可能性もあったわけなんですが、まさかここまでとは思っていなかったのです。