ボドルザーの基幹艦隊、そしてラプラミズの基幹艦隊は、お互いに激しく潰しあいながらも、地球連邦軍の艦隊とも戦端を開いた。だがミンメイ・アタックがゾルタン・アッカネンの怨念に潰された影響で、連邦軍の士気はガタ落ちであり、攻勢どころか守勢も守勢、それもどうにか必死の防戦をしている状態である。
これをどうにかすべく、我々『スタイシュッツ』は更にその中から、機動力と破壊力を併せ持った個体を選抜し、機動要塞ゴル・ボドルザーと機動要塞モルク・ラプラミズへの突入を行うべく、隊の編成を行おうとしていた。しかしその時、1人の少年の声が響く。
『……皆、何やってんだよ』
『『『『『『!?』』』』』』
その声は、ミンメイ・アタックが不発に終わり消沈した全軍を叱咤激励する。
『あんたらの背後には、何十億もの人たちが居るんだろ? たかが策の1つや2つ、使えなくなったからって、諦めんなよ!
たとえ俺たちが全滅しようとこの戦争! 最後の最後に男と女が1人ずつ生き残れば、俺たちの勝利だ!』
『
『男と女が1人ずつ』
『生き残れば』
その声は、滝川君だ。その言葉は、彼が彼の世界で学んできた言葉だ。世界を幻獣に蹂躙され、滅びの一歩手前まで追い込まれつつ、それでも勝利と生存を諦めなかった人たちの言葉だ。
『どこかの誰かの未来のために!
そして『わたし』は、滝川君が次に何を言うのか、理解していた。『わたし』は
『
自身の深い前世の記憶の中と、そしてニュータイプ的な能力で滝川君の頭の中から、『わたし』は『歌詞』と『メロディ』を読み込む。そして音響ソフトに即興でデータを叩き込み、演奏を開始。更にシグコン・シップⅡのデータリンクを用いて全軍にその『伴奏』を流すと共に、『わたし』体内のサイコフレームを最大限共振させて、この場の味方全軍の頭の中に、『歌詞』を送り込む。幸いにも、今回はミンメイ・アタックの放送のためにミノフスキー粒子戦術は採っていない。ノイズは低い。
『機動戦士ガンダム』、いわゆる1stガンダムの最後で、主人公アムロはカツ、レツ、キッカの助けを借りてホワイトベース乗員たちの精神に、脱出のための言葉を届けた。カツ、レツ、キッカの助けがあったとは言え、サイコフレームどころかサイコミュの助けも無しに、だ。ならば大量のサイコフレームが体内に装備されている『わたし』が、地球圏全域の全軍に言葉と音楽を届けられないなど、あるものか。
これは、『わたし』が『ニュータイプ能力』を持つ『機械』だからこそできる事だ。そうだ、『わたし』だからこそできる事、なのだ。まあ、音響機器としてはちょっと頼りない、過去のゲーム機に搭載されたカラオケモードのレベルかもしれんが。……滝川君が、歌いはじめる。全速で最も近い敵の戦闘ポッド・リガードに超硬度大太刀で斬りかかりながら。
『絶望と悲しみの海から、それは生れ出る』
石津嬢が続けて歌う。いつもの
『地に希望を、天に夢を、取り戻すために生れ出る』
全軍が、ガンパレード状態になった。
*
これが、これがガンパレード状態、と言うものか。精神の奥底から、気力が沸き上がって来る。
『闇をはらう銀の剣を、持つ少年』
『それは子供のころに聞いた話』
『誰もが笑うおとぎ話』
連邦軍の将兵が歌う。ムバラク大将も歌う。歌いつつ、ドゴス・ギアから発進した
『『『でも私は笑わない、私は信じられる、あなたの横顔を見ているから』』』
歌声が、宇宙空間に響き渡る。
*
『わたし』は気づく。この世界にはガンパレード・マーチ世界のワールド・タイムゲートは存在しない。しかし滝川君と石津嬢の身体を伝って、遠い世界からチカラが流れ込んでいる。これは、滝川君たちの仲間の声だ。
(今なら私は信じられる)
(あなたの作る未来が見える)
彼らも滝川君の思いを、想いを受けて、歌っている。ガンパレード・マーチ世界に残された5121小隊が、歌っている。あまりにも、あまりにもか細い繋がりだ。今にも途切れてしまいそうな。だがそのか細い繋がりを通じて、あまりにもか細い繋がりを信じて、チカラが流れ込んで来るのが、理解できる。
*
ハロン38552の戦闘ポッド・リガードが、カーサ28154のクアドラン・ノナを庇って被弾するが、相打ちで敵の戦闘ポッド・グラージを撃墜する。
『いくせーんまんの! わたしとあなたで!』
カーサ28154のクアドラン・ノナが、戦闘ポッド・リガードのハッチを吹き飛ばして脱出したハロン38552をお姫さま抱っこにして救出、近場のブリタイ艦隊戦艦に飛び込む。即座にヌージャデル・ガーを受領して再出撃したハロン38552と並んで発進する。
『あのうんめいに! うちかとう!』
歌う、歌う。ゼントラーディ軍とメルトランディ軍に分かれていた2人が、肩を並べて歌い、共に戦っている。
同じような光景は、周囲のあちらこちらで見受けられる。ブリタイ配下のグラージが、クアドラン・ローを救う。サンラナ配下のクアドラン・ローが、宇宙に投げ出されたブリタイ配下を救助。味方の巨人兵士を小脇に抱えて、連邦軍の旧式GMⅡが必死になって近場の600m級ピケット艦にたどり着く。女性型巨人兵士が、男性用の戦闘ポッド・リガードで再出撃するのを、ジェガン数機が支援する。
『はるかなる未来への』
『かーいだんをー、かけあーがるー』
『『『私は今、一人じゃない』』』
この『歌』が、何のつながりも無かった皆を、『戦友』として繋いでいる。繋げている。
『未来のために、マーチを歌おう、ガンパレード・マーチ、ガンパレード・マーチ……』
歌声は続いていく。
*
ブリタイ7018氏の声が響き渡る。ガンパレード・マーチの歌唱では、指揮官の言葉が入る間奏部分だ。だが彼の言葉は、本来のガンパレード・マーチ世界で語られていたものとは違っている。
『この場にいる、全ての戦う者たちに、『友』たちに告げる』
『進め、友よ。風に向かって』
『歌え、友よ。力の限り』
『どこかの誰かの未来のために』
『お前たちにとっての、どこかの誰か』
『お前たちの隣で、銃を取る戦友たち』
『お前たちの背後で、物資を、砲弾を送ってくれる仲間たち』
『そしてお前たちの背後に浮かぶ、あの蒼い星に住まう人々……』
『皆、お前たちにとっての、どこかの誰か、だ』
『どこかの誰かの未来のために。どこかの誰かの未来のために』
『進め、友よ。風に向かって』
『歌え、友よ。力の限り』
『この
『この
『恐れる物など』
『何一つ、無いのだ……』
彼の言葉を背景に、音楽は高まる。歌声は高まる。この無味乾燥な宇宙空間に、歌が広がって行く。
*
輝少佐率いるスカル大隊のVF-4ライトニングⅢが、編隊で飛翔する。高らかに歌いながら。
『『『『『『陰謀と血の色の空から、それは舞い下りる』』』』』』
『『子に明日を、人に愛を、取り戻すために舞い下りる』』
一条艦長も歌っている。リン・ミンメイ嬢も歌っている。電気系統が死んだ中でも、『わたし』から送られた精神波の音楽と歌詞で、力の限り歌っている。歌うことが、皆の力になる事が、本能的に理解できている。まだ赤子の、一条艦長と輝少佐の娘の未来ちゃんまでが、『だー、あー』と必死になって歌っているのが聞こえる。本能的に、本能的に理解できているのだ。前線で頑張るパパを応援して、歌っているのだ。
そしてその歌声はパパさんに届き、輝少佐はVF-4ライトニングⅢを駆り、見事5000m級の旗艦級戦艦を撃沈して見せた。
*
真ゲッター1が真ドラゴンに飛び乗る。その肩口から、ゲッタートマホークが射出され、強大なゲッター線を纏いつつ巨大化する。真ゲッタートマホーク……。
『『『『『『闇をはらう、
虚空を疾走する真ドラゴン。それに乗った真ゲッター1は、真ゲッタートマホークを振り抜き、振り払い、途中にある数十隻の巨大な敵艦と機動兵器群を、なで斬りにして行く。通信スクリーンの映像で、竜馬が、隼人が、弁慶が、その瞳がにやりとシロウを睨む。
ああ、わかっている。真ドラゴンと真ゲッター1は、シロウが機動要塞モルク・ラプラミズへと至る道筋を切り開いてくれたのだ。シロウが映像の中でこちらとゲッターチームに向かって頷く。ヒュッケバインNextが、全身からサイコフレームの光を漏れ出させつつ、ブラックホールエンジンを全開にした超出力で突進した。
*
ここでも歌声は響いている。
『でも私は笑わない、私は信じられる』
『あなたの言葉を覚えているから』
マジンガーチームが、光子力エネルギーを全開で、マジンパワーまで発動させて、師匠と『わたし』が機動要塞ゴル・ボドルザーへと突入する道筋を開いてくれる。ドリルプレッシャーパンチが、アイアンカッターが、ターボスマッシャーパンチが機動兵器群を粉々に粉砕する。ブレストファイヤーが、ブレストバーンが、ファイヤーブラスターが、数km級の宇宙戦艦を何隻もまとめて焼き尽くす。
『はるかなる未来への、
『あなたの鼓動を、知っている』
『今なら私は信じられる、あなたの宿す未来が見える』
師匠のマスター・ガンダム
*
ああ、歌声が聞こえる。
『幾千万の私とあなたで、あの運命を打ち破ろう』
『はるかなる未来への、階段を駆け上がる』
『私は今、一人じゃない』
そう、一人じゃない。歌詞の通りに、周囲では皆が力を合わせて戦っている。グレンダイザー・ダブルスペイザー装備形態が、味方のヌージャデル・ガーを救う。マクドガルのベルゼルガ・テスタロッサがパイルバンカー・キューブ装備を駆動して、無数の機動兵器を消し飛ばす。その背中をショウのビルバインとマーベルのダンバインが守り、1機たりとても近寄らせない。
『
『ガンパレード・マーチ、ガンパレード・マーチ……』
そしてシロウが機動要塞モルク・ラプラミズに、『わたし』と師匠が機動要塞ゴル・ボドルザーに、突入した。
*
『わたし』は高らかに歌う。
『死すらも超える、マーチを歌おう、時をも超える、マーチを歌おう』
『き、貴様らぁっ!!』
ゴル・ボドルザーの中枢が眼前にある。こいつは中枢コンピューターの役割をする生体ユニットであり、防衛システムはほとんど持っていない。そして『わたし』の脳裏には、シロウの様子も映っている。
*
シロウは高らかに歌う。
『
『馬鹿な、馬鹿なぁっ!』
ホログラム映像で装飾された、モルク・ラプラミズの中枢。だがこいつも中枢コンピューターの役割をする生体ユニットでしか無い。シロウがソレにブラックホールキャノンを向ける。ブラックホールキャノンが唸りを上げる。
『ガンパレード・マーチ、ガンパレード・マーチ……』
ブラックホールキャノンから、超高重力の塊が吐き出される。微小ブラックホールは、周囲の物質を吸い込むと共に超高速でその全質量をエネルギーに転換し、放出して蒸散するのだ。全力でその場を脱出する、シロウのヒュッケバインNext。
*
師匠のマスター・ガンダム
『『ガンパレード・マーチ! ガンパレード・マーチ!!』』
そしてゴル・ボドルザーの、モルク・ラプラミズの
『『で、デカルチャあああぁぁぁ!!』』
そのまま『わたし』は、技の余波で半壊したマスター・ガンダム
*
士気崩壊して、しかしながら『何故か』逃走する事も相成らず次々に討ち取られて行く、ゴル・ボドルザー基幹艦隊とモルク・ラプラミズ基幹艦隊の残党たち。だが正直『スタイシュッツ』は働き過ぎて、もはや継戦能力が切れている状態だ。師匠のマスター・ガンダム
『勝った、な』
『ああ、シロウ。だがなあ……。滝川君には、今後『突撃行軍歌』可能な限り歌わない様に、言い含めておかないとな。まあやむを得ない場合は仕方ないが』
『どうして?』
『歌っている最中に気付いた。あの強大なチカラは、滝川君の元の世界の『ワールド・タイムゲート』から流入していたらしいんだ。滝川君と石津嬢が、元の世界とかろうじて縁が繋がっていた霊的なラインを通して、ね』
そして『わたし』は肩を竦める。
『だが、その霊的な繋がりは、あまりにか細い。何か変な事をしたら、切れてしまいそうだった。これ以上『歌』を歌って、変にそのラインにストレスを掛けない方がいい。
その繋がりがあれば、もしかしたら滝川君と石津嬢を、元の世界に帰してやれるかも知れないんだよ。……まあ研究に、最低で数年単位、下手すれば数十年から数百年かかるかも知れんので、彼らが生きている間に帰せるかは見込み薄いんだがね』
『けど、今までよりもずっと見込みあるんだろ? ならマシってもんだろ!』
『そうだな。ああ、その通りだとも』
こうして、ゼントラーディ軍メルトランディ軍との最初の大規模戦闘は終わった。だがお願いだから、他の基幹艦隊にこちらの情報が伝わっていない事を祈る。とりあえず地球連邦は、『スタイシュッツ』は、もう現状ぎりぎり、もういっぱいいっぱいな状態だ。お願いだから、次の戦闘まで、もうすこし立て直しの時間が欲しいところだった。
*
此度のゴル・ボドルザー基幹艦隊、モルク・ラプラミズ基幹艦隊との戦闘で、地球連邦軍全艦隊の26%が喪失した。その中でも被害が大きいのは、こちらに対する誠意を見せるためもあり最前衛に立って奮戦したブリタイ7018氏と、サンラナ1189女史の配下の艦隊である。彼らの艦隊は、28%の損失を被っていた。ただし兵員の救出は効率よく行われており、そこまで喪ってはいない模様。
そして……。大問題が、1つ。その一報は、『スタイシュッツ』拠点であるゼダンの門で休息していた我々の元に、至急・重要・部外秘の扱いで届いた。ただ部外秘だけは、あれだけの大事をどうやって隠せと言うのだ、という気持ちにならなくも無い。
『機動要塞ゴル・ボドルザーの残骸が、消失した?』
『ああ、ワンセブン。正確には、『奪われた』だ』
ブライト准将によると、月面からガルファの勢力が一斉に消え失せた、との事だ。螺旋城もろとも、だ。そして螺旋城が現れたのは、損傷の度合いが機動要塞モルク・ラプラミズと比して若干軽度だった、機動要塞ゴル・ボドルザーの残骸。その中央部に螺旋城はゴリゴリとネジ状の躯体をねじ込ませて、その制御を掌握。そのまま機動要塞ゴル・ボドルザーのフォールドシステムを稼働させてその場から消失したと言う。
『まずいな。機動要塞ゴル・ボドルザーの主砲は、一撃で同等クラスの機動要塞を周辺艦隊ごと吹き飛ばせるだけの威力を有している。それが地球に直接撃ち込まれでもしたなら……』
『今、地球連邦軍はそれに対抗すべく、機動要塞モルク・ラプラミズの残骸を修復、再起動しようと調査隊を派遣しているのだが』
『あちらは中枢をブラックホールキャノンで吹き飛ばした、からな。主砲などがあれば、それだけでも復旧できるなら……』
ガルファどもめ。次から次へ、面倒な事をしてくれる。ブライト准将の胃袋も心配だが、『わたし』もストレスで精神を病まないか、不安で仕方が無いところだった。
1人が歌えないなら、皆で歌えばいいじゃない。という力任せの対策。というわけで、どうにか対ボドルザー、対ラプラミズは勝利できました。あと、斉唱のルビ、Say、Shout。軍歌ってのは、厳密には『歌う(Sing)』より『叫ぶ(Shout)』ものらしいです、ハイ。
だけど目を付けられてないだけで、宇宙の彼方には他のゼントラーディメルトランディの基幹艦隊がゴロゴロ存在します。まあそれでも、今回はどうにか勝利、です。損害も、軍事上の全滅となる3割をぎりぎり切りました。
そしてよりによって、ガルファ螺旋城がボドルザー残骸を占拠して持って行ってしまいました。戦力化されたらヤバいです。物凄く、ヤバいです。どうなる事か。