螺旋城に、ガルファに奪われた機動要塞ゴル・ボドルザーの残骸の位置は、未だ分かっていない。地球連邦軍自体が26%もの大損害を受けており、その上で投降して協力関係を築いているブリタイ7018氏と、サンラナ1189女史の艦隊の存在がある。それらの扱いは現状『スタイシュッツ』麾下に置くと言う事でお茶を濁しているんだが。
そしてブライト准将が映像の中から苦り切った口調で語る。
『連邦軍は今現在、大規模な再編中だ。螺旋城の行方が分かり次第、攻略作戦を実施しなくてはならんからな。しかし、軍需物資に関しても今回空っぽになるまで使いまくったからな……』
「今すぐには、連邦軍は動きが取れん、という事ですなブライト准将」
『ゴップ議長からも、レーザー通信でなんと、あろうことか直接に、色々言われたよ。向こうも理解はしているのだが、それでも言わないとやっていられんらしい』
「なんとまあ」
ゴップ議長が普段の余裕ぶった装いをはぎ取らねばならん程に、物資供給にも色々と問題が出ているという事、か。本当であればそろそろ引退して後進に道を譲らねばとか、キャンベル大将からの伝聞情報ではあるが色々言っていたらしいんだが。だがそれも、現状の様子では難しい事だろうな。
しかしブライト准将も、弁慶に愚痴を言わんとならんぐらいに困っていると見える。まったく、色々と綱渡りだよ。まだ他に、何かあるんじゃないかな。そうしたら困るなあ。いや他人事みたいに考えてどうするんだ、『わたし』よ。
*
そんなこんなで、民間にも補給に関して迷惑を掛ける事になった。ただ、その分の支払いは今回の一大会戦で出たデブリを回収し、ゼントラーディ軍メルトランディ軍の資材、技術情報、その他諸々によって生まれる利益をもって充当するらしい。場合によっては、危なくない技術はこれまた民間に売り払う模様。
おまけにキャンベル大将から、ゴップ議長の通達が『スタイシュッツ』へ届けられた。とりあえず巨大企業じゃない、だいたい中規模の、ぎりぎり大企業枠に収まるかな? というレベルの企業が協力してくれるらしいので、そこで各種物資の補充を受けろと言う事らしい。足りない種類の物資は、補充を受けた物資を原材料にして、シグコン・シップⅡの艦内工場や、最悪『わたし』の体内工場で生産しろと言う話だ。
キャンベル大将が、レーザー通信の映像中から言う。
『ただ……。その企業なのだがね。ちょっと収支とかが怪しげだったので、わたしが議長に、『何か裏がある企業では?』と訊ねたら……。もちろんある、と堂々と言われてしまった』
『……それは』
「なんと言うか」
ブライト准将も弁慶も、引き攣った表情を返す。
『こうも言っておられたな。『最近浮かび上がった事実なのだがね。その企業には、『ノワール』の同類が絡んでいるらしい』との事だ。ノワールとは何かは、聞かせていただけなかったのだが。特にワンセブンには、注意しろと伝えて欲しいと言われたよ』
『!!』
ノワールとは、ゴップ議長の友人で、異世界から漂着したゼロイド96号の事だ。その呼び名を知った時には、キャンベル大将は居なかったな。つまり異世界からの漂着者が、その企業に絡んでいる可能性が高いという事だ。そしてこの様子では、マシンキメラ-001が絡んでいない転移による物。しかも『わたし』を名指しで『注意しろ』か……。
*
そして『わたし』たちは、その問題の企業、『ジェイソン・ベック民生
……ジェイソン・ベック? その名前がわたしの前世の記憶を刺激する。わざわざ地球の北米に降下して、とある都市近郊に艦隊を停泊させた我々は、その変に長い名前の会社の本社に赴く。悪趣味な成金丸出しの応接室に通されたブライト准将、弁慶、そして『わたし』の意識端末であるハロ型ロボット、あと護衛役としてシロウは、しかしながら既にけっこうな時間を待たされていた。
「遅えな」
『シロウ、あまり気にするな。こういう態度そのもので、どういう人物なのかはある程度想像がつくと言うものだ。
「そうかよ」
いい加減、メイドさんに出されたお茶が冷めきった頃合いになって、悪趣味な成金丸出しのドアが開き、悪趣味な成金丸出しの恰好をした長身で初老の男が、杖をついてちょっとだけよろめきながら入室して来た。黄色のスーツ、黄色のネクタイ、黒いシャツ、金ピカの杖、しかもどれも見てわかる上物だ。白髪の混じった巻き毛の金髪と髭。
……間違いない。ジェイソン・ベックだ。『THEビッグオー』での悪役……。ただ随分と、老いてしまってはいるが。そうか、こいつが『ノワールの同類』、異界からの漂着者、か。
「やあぁ諸君! 遅くなって申し訳ないね! ッククク……。まあこっちも仕事が立て込んでいたんでね、許して欲しい」
「いえ、そちらがお忙しい事は理解しております」
「ん~、さっすが音に聞くブライト・ノア准将閣下だ! 寛容だねぇ! それで、だ。その寛容さに付け込ませてもらって、諸君らに頼みがある」
いやらしい笑いを浮かべたベックは、薄ら笑いを浮かべて大上段で
「ッ
「黙ってろよ、下っ端」
一瞬で雰囲気を転じたベックが、裏社会の大物的な凄みを出す。シロウは気おされて、だがしかし次の瞬間それをはね
「了解だ、
「わ、ワンセブンをポンコツだと!」
『かまわない、シロウ。本体ならともかく、このハロ型意識端末じゃあ、彼ほどの技術者にとってポンコツもいいところだろう』
「ほう? わかってんじゃねえの」
ベックはクッソ暗く
「頼みがある。聞いてくれねえんなら、補給は無しだ。まあ頼みの内容を聞いてから、判断しやがれ。……ついて来い」
『……ブライト准将』
「……行こう」
そしてベックは、悪趣味な成金丸出しの杖を突いて、よろよろと立ち上がり、よろよろと歩き出した。……明らかに、どこか悪い人間の動きだ。
『病気、かね?』
「おう。ちょっと流石に、キツいぜ。言い訳をさせてもらえば、会談に遅れたのはソレの治療のためだ。発作、起こしたんでな。まあ、治療って言っても、終端治療って奴だ」
『そうか……』
先に立って歩き、ベックは悪趣味な成金丸出しの装飾が施されたエレベーターに乗る。我々は、それに付いていく。ブライト准将、弁慶、シロウの表情は厳しく
エレベーターは地下深くへと降下して行く。そして扉が開いたとき、そこは悪趣味な成金丸出しの部屋ではなく、質実剛健かつ清潔な研究施設だった。
「来い」
「「「『……』」」」
よたよたと歩くベックの後に続き、我々は研究施設の奥へと進む。そこには2つの医療ポッドと思しき、しかし本当に医療ポッドなのかは怪しい、片面がガラスのシリンダーが設置されていた。その中を見た時、わたしはあえて意図的に呟く。
『……『ロジャー・スミス』に『R・ドロシー・ウェインライト』、か』
「ほぉう? ワンセブンとやら言うポンコツは、このカラス野郎とポンコツのガラクタ女、知ってやがる、か。やっぱり
『『落ちて』来た、だと?』
「おうよ。平均的な異世界の基準からして、この世界はよ。なんか『位置的に』低い場所にあるらしいんだわ。向こうの世界群から、こっちの世界に来る穴を開けるのも、転移するのも、けっこう簡単な……。いや、難しいは難しいんだけどな。
だがよ、こっちの世界から他の世界に行くのは、穴を開けるだけでもしんどい。ましてや、『高度差』を
そしてベックは、周囲で作業している研究員たちに指示を下す。
「おいぃ! カラス野郎とポンコツガラクタ女、目覚めさせる準備は出来てるか!?」
「はっ! コードネーム『カラス野郎』『ポンコツガラクタ女』、双方とも休眠状態よりの回復準備段階への遷移、2日前に完了しております。覚醒信号をポッドに送れば即座に!」
「なら、やれ!」
「「「はっ!」」」
『……ひどいコードネーム、だ』
ブライト准将と弁慶、シロウは半ば理解が及ばない顔で、引き攣っている。やがてポッドの中の2人が目を覚まし、ポッドのガラスの扉が開いた。
「ぐ、ううむ……。!? ベック!」
「ロジャー、落ち着いて。どうやら敵対意図は無い模様」
「よぉ、カラス野郎。ポンコツガラクタ女も、おっそいお目覚めだな」
「前言撤回、敵対意図確認」
「マテやコラぁ」
ここでブライト准将が、口を挟む。
「ベックさん。わたしたちに対する頼み事と言うのは、いったい?」
「まあ待ちやがれ。カラス野郎へのネゴシエーション依頼にも密に絡む案件だからよぉ」
「わたしに貴様がネゴシエーションの依頼、だと? 貴様が信頼できるとでも言うのか? ……よく見ると、随分と老いたな」
「ロジャー、見ればすぐわかるわ」
ベックは薄ら笑いを浮かべると、口を開く。
「まあ、話を聞け。……の前に、お前らその病人服じゃ恰好つかねえだろ。50年前の服だが、保存状態は最高だ。今持って来させる」
「50年前だと?」
「……いいか、よく聞け。ここはパラダイム・シティがある世界じゃねえ。次元の穴に俺とお前らは落っこちて、異世界へ転移した。へっ、何を馬鹿なって顔してやがんな。だが、とりあえず確かめるのは後だ。まずそういうもんだって仮定して聞け」
「「……」」
いやらしく
「それでいい……。あのノーマンの爺から、意識不明の
「悪趣味だな」
「悪趣味ね」
「何とでも言え。けっこう大変だったんだぜぇ? Dr.ヘルやら恐竜帝国やら地下勢力が暴れまわり、ジオン公国によるコロニー落しからの一年戦争、ミケーネ帝国に百鬼帝国、ジオン残党デラーズフリート、アクシズ勢力の幾度かに渡るテロ攻撃、インベーダーやらベガ星からの侵略……。いや正直、やってられっか! って思ったのも一度や二度じゃねえ」
そうして、研究員たちがロジャー・スミスとR・ドロシー・ウェインライト嬢の服を持って来る。あのアニメで着ていた、黒服だ。いったん彼らは奥の更衣室へ引っ込み、そしてきっちりと着替えて戻って来る。ベックは話を再開した。
「いいか、よく聞け。俺はパラダイム・シティに帰還するための研究に、けっこう金を突っ込んだ。そして、ある程度の異世界観測を成功させた。あのパラダイム・シティが存在する異世界……。そしてその周辺異世界、だ」
「「「「「周辺異世界?」」」」」
『……』
「そうだ。その周辺異世界の1つ。パラダイム・シティがある世界とそっくり似た世界だが、『時間が始まるのが数十年から百数十年近く遅かった世界』だ。その世界に、時空の穴が開いた。そして、『その世界を滅ぼしつつある機械の兵団』の一部が吸い込まれるのが、観測できた。……THE・BIGどもの兵団だ」
『わたし』はハロ型意識端末から、言葉を発する。
『来る、のだね? この世界に』
「おう。時空の転移にかなり時間が掛かっているらしいが、一年以内、早けりゃ明日にでもこの世界に『落ちて』来る。今日中、って事ぁ無えが、よ。空中戦・爆撃戦用のビッグ・デュオ。水中戦用のビッグ・ファウ。そして……陸戦用の、ビッグ・オーだ。数も1機じゃねえ。どれだけ吸い込まれたかは完全には確認できなかったが、ぶっちゃけ『多数』だ」
「なんだと」
「あいつらは、この世界で元の世界でされたプログラム通りに、文明の破壊を最重要目標として行動するだろうさ。そこで、ブライト准将たち『スタイシュッツ』への頼み、だ。そしてカラス野郎……。ネゴシエーター、ロジャー・スミスへの依頼、だ」
「……」
ベックは不敵に笑うと、ブライト准将に向かい言った。
「『スタイシュッツ』は、THE・BIGどもの集団がこの世界に現れるのに対する即応態勢を取ってもらいてぇ。無論、THE・BIGどもとは言えこの世界の連邦軍全軍に勝てるほどの戦力じゃあねえが……。だが唐突にこの世界に現れるとなれば、連邦軍が対処するまでに多大な被害が及ぼされる事ぁ明白。確実に大破壊が、ってな」
「……了解しました。我々『スタイシュッツ』は、その異界の機械兵団出現に対処するため、補給完了次第に即応態勢を取ります。ただし、ガルファ螺旋城の行方が判明したなら、そちらの対処が優先されますが」
「ああ、それでいい。ガルファ螺旋城は、なんか地球そのものが危険になりそーな兵器抱えてトンズラったんだろぉ? その場合は、地球の一部が犠牲んなっても、ソッチ対処優先でかまわねえ。で、だ……」
視線をロジャー・スミスに向けたベックは、笑顔を消す。ロジャー・スミスは眉根を寄せた。
「興味深いな。貴様なら、騒動が起きるならそれに一枚噛んで、騒ぎを大きくして甘い汁を吸おうとするかと思っていたが」
「舐めんな。……俺がこの世界に『落ちて』来て、
「……貴様、本当にベック、か?」
「ほっとけ。俺が貴様に依頼するネゴシエーションの内容だ。……高確率で、THE・BIGの中に1体、貴様のビッグ・オーの異世界同位体が混じってやがる。それに対し、
ロジャー・スミスは一時目を瞑り、考える。だがすぐに目を開き、答えた。
「その依頼、受けよう。ジェイソン・ベック……」
「報酬は、『ジェイソン・ベック民生
そしてベックとロジャー・スミスは、契約書をよく読み込んで、サインを交わす。
「これで
「「「「「『!!』」」」」」
ベックは、唐突に血を吐いて倒れる。周囲の研究員たちはおそらくこれを予想していたのだろう。まったく動じる事無く、医療チームが現れてベックを担架に乗せ、ストレッチャーで連れて行った。
*
艦に戻った我々だが、ロジャー・スミスとR・ドロシー・ウェインライト嬢は『スタイシュッツ』預かり、『わたし』のシグコン・シップⅡに乗り組む事になった。そして一室を仕事場として与えられたロジャー・スミスは、次から次に鳴り響く電話に辟易している。
何せ彼は、ベックの物だった会社の、支配株主だ。経営に直接介入する権限は確実に有り、そして社長であるベックは現在意識不明の重態だ。医者の言い分では、このまま苦痛も無くあの世に行くだろうとの事。とりあえず副社長に全権を任せようとしていたロジャー・スミスだったが、副社長はベックのイエスマンだった事もあり、事実上何もできない男だったり。つまりロジャー・スミスの両肩に、大企業の社員たち全ての生活がかかっている事になったのだった。
『長い眠りから目覚めたばかりで、大変だな』
「おのれベック。この事を予想していたな。くそ、奴がこのまま死んだら、全社挙げての大規模な社葬で送ってやるぞ」
『彼の事だから、喜ぶのではないかね』
ちなみに『スタイシュッツ』への補給物資の中に、ベックが直接管理していた異世界関係の研究データも含まれていたりする。これは『わたし』が喉から手が出るほど欲しかったデータでもあった。まあ、『わたし』には喉は無いが。
異世界からの軍勢に関しては一応警戒はしていたのだが、今回はある意味
死ぬ間際に、いい奴になるんじゃねえ。と言っても、ロジャー・スミスに対しては仕掛けが成功した模様。ロジャー、あなた最低ね。いえ境遇が。
というわけで、ロジャー・スミス、本作での破嵐万丈(破嵐財閥トップ)ポジ、ただしちょっと規模小さいバージョン、です。元ベックの会社の社主なので。100%株主。巨大企業じゃないけど大企業にちょっと指先1つでぶら下がってるレベル。