ジェイソン・ベックからの頼み事、この世界に1年以内に『落ちて』来るメガデウスの兵団、THE・BIGの集団に対する予防措置として、『わたし』はこの世界で活動再開した初期の頃に多く使っていた、探査プローブの改良版を再度大量生産して世界中にネットワークを張らせる事にした。こちらの立場が公的な物になって以来、情報収集には既存の連邦軍の情報網とかを使っていたのだが……。
だが時空の歪みとか4次元方向5次元方向へ開いた穴とか、そういう物を感知するには通常のネットワーク情報ではまったく足りない。それ故に、探査プローブを改良して世界中にバラ撒き、時空の歪みみたいな情報を集める事にしたのだ。
……そしたら、出るわ出るわ。ジェイソン・ベックから得られた異世界関連研究資料と、わたしのこれまでの研究データを元にして、時空の歪みセンサーを開発したんだが。今すぐ穴が開くとは言わないが、ちょっと歪んでる、程度の時空の
これらの何処から、THE・BIGが出現するかは不明だ。だが歪みの大きい場所から順に、20件ぐらいは注意して観測しておく必要があるだろう。……ただ、探査プローブは実を言うと、最初の頃は頼り切っていたが使わなくなった理由もちゃんとあるのだ。
『……生産ラインが探査プローブにけっこう食われているな』
「ワンセブン、どうした?」
『シロウ、ちょっとな。まだそれほど深刻では無いんだが。探査プローブを大量に生産して、それで世界中に時空
後、他にも問題はあってなあ。今は緊急事態だからゴップ議長、キャンベル大将を通して黙認してもらっているが、口さがない言い方をしてしまえば覗き見の機械だからな。平和になったなら、機能停止した物まで含めて全部回収しなければ』
「……そりゃ、大変だな」
まあ、だが今は探査プローブに頼るしか無い。とりあえずメガデウス兵団の始末が付くまでは。いや、THE・BIGどもの始末が付いても、他に色々と来る可能性もあるのだよな。だとすると、しばらくは監視のネットワークを維持しないといけないか。
*
ちなみにジェイソン・ベックの葬儀は、全社挙げての盛大な社葬が行われた。うん、あのまま眠るように亡くなったんだ。そして取締役会全会一致で、ロジャー・スミスが2代目社長、というか社主に選出された。株式100%保有の支配株主にして代表取締役。ロジャーの顔は苦り切っていたが。
私人としてのベック家を継いだベックの息子は、ちなみにロジャーの2代目就任にまったく異を唱えなかった。というか、彼はそこそこ売れている絵描きであり、純粋に芸術家肌の人間であったので、商売にはまったく向いていない。ベックが財産の大半を会社組織に寄付し、彼には遺留分含めて一般家庭程度しか遺さなかった理由も、きちんと理解していた。
そんなこんなで、ロジャー・スミスは今日もシグコン・シップⅡの彼の部屋から、電話口にがなっている。
「ええい、民生
それと、上手く
「ロジャー、あなた最低ね」
「仕方なかろう。全社員を食わせていかねばならん。それと会社そのものの社会的地位、立場をもう少し高めておかねば。ベックはよくやった方だが、一代で成り上がった成金と見られている部分も大きい。ベックの死亡と代替わりで、会社を食い物にしようと寄って来る輩も多いんだ。そういう奴らは、丁寧に再起の余地無く潰しておかねば」
「収支をまとめたわ」
「ああ、ありがとうドロシー」
R・ドロシー・ウェインライト嬢を秘書にして、ロジャーは『ジェイソン・ベック民生
『ロジャー、ドロシー嬢』
「「ワンセブン」」
『少し、休みを入れたらどうかね? 甘い物はあまり好みではないかも知れないが、頭脳には糖分が必要だ。チョコクッキーとコーヒーを用意した』
「……すまない」
ちょっとロジャーは頑張りすぎかも知れないな。素直に甘味を受け取ったぞ。らしくない。
『何か欲しい物は無いかね?』
「有能な幹部経営陣取締役が欲しい」
『重症だな。ドロシー嬢は?』
「ピアノが欲しいわ」
その台詞に、ロジャーは
「それでドロシーの気がまぎれるならば……」
「重症ね、ロジャー」
「君が言うか」
『……置き場所の問題がある。申し訳ないがグランドピアノは、造れるが艦内の部屋に置けない。アップライトピアノか、音質にこだわるなら逆に電子ピアノならどうかね?』
「……いえ、アナログがいいわ。アップライトピアノで」
『了解だ』
そうしてロジャーは、大きく息を吐く。
「……しかしな。資金に余裕がある内に、何かしら新規事業に打って出てシェアの拡大を図るべきかも知れん。何か良いアイディアが上がって来ていないか」
「駄目ね、ロジャー。会社の技術者たちは、与えられた課題を解決して結果を出す事は得意。けれど新しい物を生み出すのは苦手だと、これまでの社のデータから出ているわ」
「く、これまではベックの技術力だけでなく、あの奇想天外とも言える発想力に支えられていたわけか。新入社員や、あとは他社からのヘッドハントを急がないとならん。巨大企業や大企業はともかく、中小企業は破綻して潰れるところが多いから、なんとか人材の囲い込みを」
あ、そうだ。あれならいいかも知れないな。『わたし』はロジャーに訊ねてみた。
『ロジャー、君の会社でオラカとオラクルの製造販売をしてみないかね』
「オラカとオラクル、か。オーラ動力
『電力や化石燃料からの置き換えで、今地球連邦政府は可能な限りオーラ動力の普及を図っている。オーラ力を動力に置き換える部分と、ハイパー化現象を抑制する安全装置部分は、完全ブラックボックス化して、開けたら壊れるようにしたユニットでね。早い内に、この事業のシェアを確保できれば……』
「……うむ、よさそうだな。さっそくオンラインでの役員会を開き、提案しよう」
まあ、早いところ『ジェイソン・ベック民生
*
一方で、『わたし』は地球連邦軍との折衝にも出なければならない。
『ブライト准将、現状の想定では『スタイシュッツ』単独でどうにかなる、と言うのだな』
『はい、キャンベル大将閣下。更に現状地球連邦軍の指揮下に移譲した、ブリタイ艦隊サンラナ艦隊の4/5は、動かさずに済みます。ジェイソン・ベック氏の遺した研究データによれば、最大でもメガデウス……。THE・BIGの数は100機は無い模様。おおよそ80機から90機。まあ付記されていたメモ書きで、誤差は大きいとあったのが不安ですが。
……本来
『どちらにせよ、もし2週間以内に来られたなら連邦軍は出撃できん。補給と再編成が終わっておらん』
うん、最低限原料となる物資があれば自分たちで軍需物資を生産できる我々の、その反則さ加減が判るというものだ。
『まあ『スタイシュッツ』は『ジェイソン・ベック民生
「世話かけるなあワンセブンよ」
『気にするな、弁慶。キャンベル大将、ブライト准将、『スタイシュッツ』は今日中はさすがに部隊員たちの休養が足りていないが、まあおそらく明後日には完調で動けるだろう。損傷機も、一番状態がひどいマスター・ガンダム
「そいつぁ良かった」
そしてその後、時空の歪みや乱れに関しての監視体制とかその辺の事を相互に確認、我々は通信を終えた。しかしやる事が多い。特にブライト准将とロジャー・スミスが心配だ。
単純な仕事量では『わたし』も多いのだが、『わたし』の場合単純作業の類はスクリプトを組んでシェルで実行してしまえば、あとは万が一のミスや誤差をチェックしておくだけで簡単に終わる。自分が機械で良かった、と思える数少ない事例だな。
*
無理矢理に時間を作って、流派東方不敗の修行。シロウは生身で石破天驚拳を打てる様に習練中だ。もっとも現段階では、それのための基礎修行を行うだけであり、実際に打つ事は、試す事すら許可されていない。また彼の場合、生身はともかく機体にはブラックホールキャノンがあるため、無理に機体では打たなくてもいいとも師匠のお達しがある。
一方の『わたし』だが、
『右手でダークネスフィンガー……。左手でシャイニングフィンガー……』
「器用な真似をしておるな、ワンセブンよ」
「両手で
『ああ。位相が180度異なる『気』の波動を両手で練る事で、どうにか相乗効果でチカラを高められないかと思ってな。あくまで感覚的な話、なんだが』
そして師匠が、
「いや、これはワンセブンが機械であるが故に可能な事かも知れんのう」
「そうなのか、師匠?」
「両手でシャイニングフィンガーとダークネスフィンガーの制御を同時に行うなんぞしたら、人間であれば脳が焼き切れるわい。ワンセブンの電子頭脳あってこその技じゃな。ただワンセブンが制御法を上手く確立してくれれば、それを他者に伝授する事で、脳の容量に上手く収める事ができるやも知れぬが。技の開発まで自分でやったら、人間の脳では無理じゃ。
ワンセブンは石破天驚拳までは体の構造上至れるかわからんと思っていたのじゃが、これならば上手くすればソレに匹敵するか、もしくは……」
両手刀に生成されたサイコシャードが、徐々に消えて行く。シロウがシャイニングフィンガーをサイコシャードで再現するのを見せてくれたんだよな。『わたし』は
*
ジェイソン・ベックの葬儀から1ヵ月弱。THE・BIGの襲来は1年以内に、という話だったが、どうやらその中でもかなり早期に来た模様である。今、我々『スタイシュッツ』は弾道飛行にて、北米大陸から旧中華人民共和国エリアへと飛んでいる。時空の歪みが破断して、大穴が開きそうになっているのは、四川省成都市近郊であった。
『住民への避難勧告は』
『ああ、ワンセブン。近郊の連邦軍が既に誘導を行っている。せめて1ヵ月時間があって助かったな。近隣の連邦軍は、補給と再編成をなんとか終える事ができていた』
「まだ全軍を満足に動かす事ぁできんが、避難誘導はなんとか、か」
『そうだな、弁慶。ブライト准将、時間が無い。『スタイシュッツ』全部隊の出動準備を急がせよう』
『ああ』
『スタイシュッツ』の艦隊はひたすら飛ぶ。艦の戦闘能力の関係から、先頭にシグコン・シップⅡ、その左右後にブリタイ艦隊旗艦とサンラナ艦隊旗艦、更にその後ろに真ドラゴン、グラン・ガラン、ゴラオンが編隊を組んでおり、全体の中央にブライト准将のラー・カイラムが位置している。更に衛星軌道上で待機していた、連邦軍本隊に吸収配備された以外のブリタイ艦隊やサンラナ艦隊の一部が、緊急降下して来ている。
こう述べると、連邦軍本隊に吸収配備された余りが『スタイシュッツ』に残された様に感じるが、実際は逆である。特に選抜された優秀な者たちが『スタイシュッツ』指揮下に残されて、他が一般連邦軍の補強に分散配備されたのだ。ちなみに、いつの間にか皆がアニメファン、アイドルヲタと化していたのは何故だろう。やはりフォロス29883とサリカ44892に持たせてやった映像ディスクがまずかったか……?
こうして我々『スタイシュッツ』は、旧中華人民共和国エリア、四川省成都市へ向けてひたすらに全速力で飛んだのだった。
と言うわけで、螺旋城in機動要塞ゴル・ボドルザーの残骸よりも先に、メガデウス兵団THE・BIGの集団がやって来ました。いよいよ戦いです。
でも、これ本作品をゲームと見た場合、ステージ的には螺旋城戦とメガデウス兵団戦、それのどちらかを選択するパターンですね。どちらを先に選んでも、もう1方のステージもやる事になります。ですがそれぞれで微妙な展開の差が出るわけでして。
特に変わるのは、ロジャー・スミスがビッグ・オー(の並行異世界同位体)を先に入手するか後に入手するか、ですな。本作のルートでは、先にロジャーにビッグ・オーを入手させるのを選んだわけですが……。はたして何事も無く上手く行く、のか?
あと、会社運営大変です。綺麗ごとだけじゃ済まないし……。なにしろ元々ベックの会社だったし……。
そしてロジャーたちの仕事部屋に、アップライトピアノが配置されました。ロジャー、乙。