プロデューサーはじめました。   作:テラリウムA

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20話 きらりと光れ☆(2)

 

 

 通学路の途中にある公園にきらりはいた。そこは2週間ほど前、杏と出会った場所であり、友達である彼女と会うときの集合地点に決まった場所でもある。

 

「今日は遅いにぃ」

 

 いつもならめんどくさそうにだらだらしながらも、この時間には来ていた。しかし、今日はまだだった。

 

 きらりは学校が終わってから、何度かここに杏と集まってブランコなりベンチなりに座りながら30分ほど駄弁っている。

 

 お菓子を食べたり、他愛もない話で盛り上がったり、となんか青春している。

 

 これが思いの外楽しくて、ついつい解散する時間が遅くなりかけることもある。

 

 暗くなる前には解散しようとはしているが、楽しい時間はあっという間だからね。仕方ない。

 

 杏の好物だという飴ももちろん忘れていない。なにしろ飴を目の前にした杏の目の輝かせっぷりは想像もつかないほどに可愛かったのだから。

 

 飴を頬張る杏の幸せそうな顔を見ているときらりまで幸せな気分になってくるほどだ。

 

 今、こうして待っている友達の名前は双葉杏という。17歳で可愛くて賢い子である。

 

 ──そういえば、杏ちゃんは普段何してるんだろう? いっつもきらりが話してばかりだったから知らないにぃ。聞いてみゆ?

 

 数回会ったのみだが、杏が制服を着ている姿をいまだ見たことはない。同い年なら私と同じ高校生なんだとは思うものの、私服OKとか飛び級してるとか、あるいは今はお休み中だとか。

 

 可能性は低いけれど、もし聞かれたくないことだったはどうしよう。他人のお腹の中の考えを理解するのが難しいのは経験上知っているから迷ってしまう。

 

 その時、ピロリロンとスマホへ通知が届いた。差出人は杏だ。

 

「なになにぃ? 『今日は行けなくなったから、また次の機会に』……そっか、うん、仕方ないにぃ! こういうこともあるよね」

 

 ──残念だけど、仕方ないにぃ。また今度にしよっと。

 

 きらりは『了解だにぃ! d(>ω<)☆』と返信をする。既読が付いたところで、おもむろにブランコから立ち上がって、公園の出入口へ向かう。

 

 そして、人の流れに乗って帰路につく。

 

 

 

 

 帰り道には寄り道できる店舗がいくつかあるが、今日は本屋に寄った。とくに理由はないが、寄っていこうと思った。

 

 マンガやライトノベルは読まないので素通りし、雑誌コーナーに向かう。

 

 立ち読みの人たちに混ざって、きらりも1冊のファッション雑誌を手に取る。

 

 ペラペラとページをめくっていく。

 

 ──あ、これ可愛いにぃ。

 

 めくる手を止めたのはあるファッションブランドのページ。

 

 このブランドの服は可愛いものが圧倒的に多い。おまけに、価格もリーズナブルだ。店舗は持たずにネット通販だけで商品を取り扱うことでいろいろコストカットしてるらしい。別の雑誌にそう載っていた。

 

 いつも着てみたいとは思うけれども、今まで着れたことがない。

 

 理由は至極単純で、物理的にきらりに合うサイズがないからだった。

 

 女性の平均的な身長に合わせてサイズが決められているし、たとえ大きめサイズだったとしてもせいぜい165センチくらいまでしかない。

 

 誰もが知っているような有名ブランドなら身長186センチのきらりに合うサイズも作っているが、中堅ブランドや零細ブランドには残念ながらない。

 

 利益が出ないものはそもそも作らないのだと、ビジネスはそういうもんなんだとパパが言っていた。

 

 ──いいなぁ。

 

 羨んだところで背が縮むことはないが、もし着れたらなぁと考えてしまう。

 

 可愛い小物を作り、自分の理想に近付けようとしても、やっぱり服という要素なしでは進まない。オーダーメイドという手段もあるが、先立つ諭吉とか野口がない。

 

 さらにページをめくる。

 

 別のページのこのファッションブランドは、背の高い女性でも着こなせる服が多い。

 

 色合いも派手さはなく、背の高さやすらりと伸びた脚を生かすようなシンプルでシックな服だ。落ち着いていて、大人の雰囲気をまとうレディー。街を歩けば人目をさそかし惹くのだろう。服屋の店員からも何度進められたことか。

 

 でも、きらりはシック系ではなく可愛い系の服が着たいのだ。

 

 似合うかどうかなんてきらりには関係がない。はっきり言ってしまえば、どうでもいい。

 

 誰がなんと言おうとも、きらりが好きな系統の服を好きなときに着られる。これこそが大切なのである。

 

 ──やっぱり服も自分で作ろうかなぁ?

 

 小物作りとは比べ物にならないほど、服作りは難しい印象がある。ハードル高めということである。

 

 ちょうど本屋にいることだし裁縫関係の本でも探してみようかと思ったきらりは雑誌を閉じる。残りのページは家で読むことにする。

 

 ひとまずこの雑誌は購入するとして、次のコーナーへ移動する。

 

 棚にまとめられたジャンルを隅から目で追っていく。

 

 鉄道模型、プラモデル、車、釣り、占い、旅行、料理……もうそろそろ手芸ジャンルがあるはず。

 

 ──お、あったにぃ。

 

 手芸コーナーもまあまあ広く冊数も多い。きらりはその中から『初心者でもできる洋服の作り方』というありきたりな題名の本を手に取る。他にも似たような本が何冊かある。

 

 パラパラとページを進めていき、棚に戻す。別の本を取り、またパラパラとめくっていく。

 

 正直、どれもこれも内容は似たり寄ったりである。

 

 きらりは文章や写真でわかりやすくまとめられた1冊を選ぶ。専門用語があまり使われていないのが、初心者であるきらりの決め手になった。

 

 雑誌と実用書の2冊を手にレジに向かう。

 

「ふんふんふ~ん、およ?」

 

 鼻歌まじりにレジに向かっていると、1冊の雑誌が目に付いた。それは芸能雑誌で『新人アイドル大特集!!』と大きく表紙に書かれている。

 

 興味の赴くまま、それも手に取る。

 

 表紙のアイドルたちは、“555プロ”というきらりの知らないユニットだった。きらりには初耳だが、最近売り出し中らしい。

 

 目次を見て『346プロダクションの新人アイドルに迫る!』という項目があり、なんとなくそこを開く。

 

 別にきらりに大した理由なんてなかった。ちょくちょくテレビやSNSで名前を聞くとか、大手プロダクションだからとか、たぶんそんな感じだろう。

 

「あ」

 

 ニュージェネレーションズやファミリアツインというユニットの説明にまぎれて見知った顔を発見した。今日は予定が合わずに会えなかったが、きらりは彼女を、その友達をよく知っている。

 

 少し眠そうに下がっている目尻にいつも抱いている年季のはいったうさぎのぬいぐるみ、妖精のようなプロポーション。

 

「あ、杏ちゃんだにぃ……!?」

 

 見間違える訳がない。そこに写っているのは杏その人だったのだから。 

 

 

 

 

 結局、きらりはその雑誌も含めた計3冊を購入することにした。野口が3人ほど財布から出ていってしまったが、良い買い物ができたと思う。

 

 

 * * *

 

 

 きらりは今日も杏と会うことになっている。場所はいつもの公園だ。ブランコは子供たちが遊んでいたので、ベンチで待つ。

 

 ベンチに座って人を待つというのは、なかなかどうしてロマンチックである。恋人が駆けつけてくれて結束が深まる、あるいは、結局誰もが来ずに失恋してしまう、などだろうか。どちらにしても盛り上がる場面なのは間違いない。

 

 きらりだって花の17歳だ。ロマンチックに憧れるときだってある。待ち人は友達だが。

 

「お待たせー」

 

 ふにゃっとした挨拶をしながら杏が現れる。

 

「杏ちゃん! おっすおっす!」

「おっすおっす、きらり」

「うぇへへ、今日も飴持ってきたよぉ!」

「お、さっすがぁ」

 

 鞄からラッピング袋に入れた小袋を杏に手渡す。

 

「おお、凝ってるねぇ」

 

 あくまで中身は既製品の飴ではあるものの、そのまま渡すのは味気なくてちょっとラッピングしてみた。

 

 杏はさっそく袋から1つ取り出して、包装を剥き、口に放り込む。

 

「うま~」

 

 飴をここまでおいしそうに舐める人はそうそういないだろう。きらりだって初めて見たくらいだから。

 

 コロコロとおいしそうに舐める杏はとても可愛い。そんなに喜んで貰えたのなら、用意した甲斐があったというものだ。

 

 ──杏ちゃん、リスみたいで可愛いにぃ! うぇへへへ!

 

「うぇへへへ!」

「……? どったの?」

 

 きらりは思わず笑みが溢れてしまった。顔をじっと見ながらにこにこ笑っていたら、さすがに変だと思われてしまう。

  

「ううん、気にしないで。それより杏ちゃんは本当に飴が好きなんだねぇ、見てるきらりまで幸せな気分になるにぃ」

「そりゃもちろん。飴は人類で最も偉大な発明品だと思ってるよ! 一番最初に発明した人には杏がノーベル賞あげちゃってもいい!」

 

 ここまで飴を喜ぶ人がいることを知ったら、きっと発明者も両手をあげて大喜びするに違いない。

 

「きらりは何か好きものとかあるの?」

 

 いまだ飴を舐めている杏が聞いてくる。

 

「きらり? きらりはね、可愛いものが大好きなんだにぃ! アクセサリーとか服とか、たくさん集めてるよぉ!」

「へー、その着けてる小物とかも?」

「んゆ? あ、これはきらりが自分で作ったの! 今着けてるのはみんな手作りだよ!」

「すごいじゃん。服も?」

「んーん、服は買ったんだぁ。サイズが少し合わないから、組み合わせて使ってるにぃ」

 

 実用書を読んでみたら、スカートのような初歩的な服なら少ない道具で作れそうではある。まずは必要な物を揃えなければならない。

 

「小物作れるんだし服は作ったりしないの」

「のんのん! じ・つ・は、今準備をしているところなんだぁ! 道具とか材料とか、探してるの」

 

 価格を抑えた道具なり材料なりを扱う店はすでにピックアップしてあったりする。

 

「杏ちゃん、今度きらりの買い物に付き合ってくれゆ?」 

「んー、まー、あんま遠くないとこなら」

「うっきゃー! 杏ちゃん、やさすぃー! ハピハピな買い物になっちゃうねぇ!」

 

 きらりは小物や服という単語でポンと思い出した。

 

「そうだにぃ!」

「……?」

 

 おもむろに鞄へ手を突っ込むとあのアイドル雑誌を取り出す。あのページには角に折り目が付けてある。

 

「これ!」

「うげ」

 

 346プロの特集ページをがばっと開いて杏に見せる。彼女はあちゃーという表情でそれを眺めていた。まるでパンドラの箱でも開けてしまったかのようにである。

 

「まさか杏ちゃんがアイドルだったなんて、きらりびっくりしてうっきゃーって感じだったよぉ! 言ってくれたらもっと早く応援したんだから!」

「いやー、杏は週休8日目指してるからねぇ。応援されて仕事が増えるのはなー」

 

 週休8日という“1週間は7日間”という概念が吹き飛ぶような発言にきらりははてなマークをいくつか浮かべる。そして、それについて考えるのをやめた。

 

「杏ちゃんは最近なんのお仕事したの?」

「えーっと、寝具の広告写真に出演したくらいだよ」

「すごいにぃ!」

「雑誌の裏表紙の裏側のスペースだけどね」

 

 目立たない場所だよ、と杏はあくびをしながら言う。

 

「ちなみに、なんの雑誌なのかきらり気になるにぃ」

「それは秘密」

「えぇー! なんでなんでぇ!」

 

 杏は結局、なんの雑誌に載った広告なのか教えてくれなかった。少し照れているようにも見えたのは気のせいだろうか。

 

「じゃあじゃあ、他の子のお話は聞かせてくれゆ?」

「それならまあ」

「どぅるるるる、でん! まずはこの子!」

「奈緒ちゃんか。確か、アニメ雑誌でキャラクターのコスプレ写真の撮影があったって。仕事だから仕方ないなって言ってたけどあれはどうみても喜んでた。ツンデレだからさ」

「うきゅ、可愛い子なんだね! じゃあ、次は」

 

 こうして、杏によるアイドル紹介が行われた。王道から個性的なアイドルまでいろいろ所属していることがわかった。杏はどちらかといえば個性的寄りだろう。

 

「きらりはアイドルに興味ないの? 雑誌は買ってるみたいだけど」

 

 杏はきらりに聞く。

 

「きらり? うーんとね、あるといえばあるんだけどぉ……」

「けど?」

「ほら、きらり、背がおっきいから難しいかなって」

 

 様々な場面で見かけるアイドルたちは、みんなきらりより小柄で、自分と同じような身長のアイドルは見たことがない。

 

「憧れたことはあるにぃ。昔の遠い夢って感じかなぁ」

 

 背が伸びてきて、他の子たちと違いが生まれてきて、なんとなく疎外感を感じてきた頃にその夢はどこかへいってしまった。探す余裕もなかった。

 

「そっか。杏はきらりはアイドル向きだと思うな。でかいけど可愛いところあるもん」

「えっ?」

「キャラクターも服装も尖っているし、なれそうな気がする。それに背なんて気にすることないよ。杏だってなれたんだから」

 

 ──それはそうたけど……。

 

「それに、まわりの評価を気にしたり気を配るのも大切だけど、夢まで失くすほどなら多少は割り切っちゃったほうがいいんじゃない」

「……杏ちゃん」

「あ、別にきらりのやってきたことを否定したい訳じゃないよ?」

「うん、うんうん。わかってるにぃ。アイドル、できたら楽しいんだろうなって思うよ」

「ふーん……」

 

 杏はさらに追加で飴を1つ舐めながら、静かに考え込んでいる。

 

 空の包装を見るにミルク味だったようだ。ほのかな甘さが口いっぱいに広がるおいしい飴で、きらりも好きな味だ。お値段やや高めでもある。

 

「まあ、やろうと思えばできるんじゃない、アイドル」

「うゆ?」

 

 杏の発言の意図を探っていると、

 

「きらりもアイドルなれるかもしれないよ」

 

と言う。 

 

「うちのプロデューサーが言ってたんだけど、アイドル募集のオーディションするんだってさ。今日の15時にホームページに載せたらしいからもう見れるよ」

 

 杏にそう言われてきらりはスマホを起動させる。画面に表示されている時刻は16時半になろうとしている。

 

 検索エンジンに『346プロダクション』と打ち込み、ヒットした一番上の公式ホームページをタップする。

 

 いくつかある部門の中からアイドル部門のページへと飛ぶ。

 

『第2回346プロダクションアイドル部門オーディションはこちら』

 

 新着のお知らせに確かにそれはあった。

 

 きらりは思わず息を呑んだ。

 

 

 

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