プロデューサーはじめました。   作:テラリウムA

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22話 きらりと光れ☆(4)

 

 

 オーディションはまだ続いている。次の質問は『なぜアイドルオーディションを受けてみようと思ったのか』だ。今は右隣の3番目の子が答えていて、終わればきらりの番となる。

 

 すでに回答済みの2人の理由を聞いて、きらりはそれはもうまっすぐにアイドルを目指しているんだなぁとひしひしと感じた。同時に自分の“アイドルになりたい”理由が雑なこじつけに思えてくる。

 

 ──………………。

 

 隣の芝生は青く見えるだけかもしれないが、きらりにはそう思えてならない。

  

「ありがとうございます。では、次の方お願いします」

 

 きらりの番がきた。覚悟を決めて口を開く。

 

「きらりがね、このオーディションに参加しようって思ったのは友達に背中を押してもらったからなんだにぃ。もともとアイドルに憧れはあったけど、でもでも大柄な自分じゃできない、向いていないってずっと思ってたんだぁ。そしたらある時、背の高さなんて関係ない、きらりにもできるよって言ってもらえてすごくすーっごく嬉しくて、それで受けてみようって決めたにぃ」

 

 これがきらりの飾りっ毛のないありのままの本音だった。

 

「そうでしたか。いい友達を持ちましたね」

「うん! きらりにとって、とっても大切な友達なんだぁ!」

 

 改めて言葉にすると、背中を押してくれた杏だけじゃなく、普段の学校の帰り道にどこか寄って遊ぶような友達たちの頭も浮かんだ。

 

 浮かんだ彼女たちの表情はみんな笑顔で、今まで互いに笑いあって楽しい時間を過ごせていたんだと思うとなんだか嬉しくなる。

 

 ──きらりはたくさん友達がいて、幸せだにぃ☆

 

 きらりは自然に笑顔をこぼす。それは不純物のない心からの笑みだった。幸福感とはぽわっと胸が温かくなるような感じなのだろうか。

 

 さて、このままきらりへの質問も終わって5人目へと回答が移っていくんだろうと思っていた。しかし、そうはならなかった。

 

「諸星さんはどのようなアイドルになりたいですか?」

 

 天津と名乗った男性が、追加の質問を投げ掛けてきたのである。

 

「ふえ? あー、えっとぉ」

 

 ぶっちゃけると自分の回答が終わったことで安心してしまっていた。しどろもどろになりつつも質問を頭の中で反復する。

 

 ──どのようなアイドルになりたいか、かぁ。

 

 きらりは考える。

 

 どのようなアイドルになりたいか、というのは言い換えれば、観てくれる人に何を届けたいか、でもある。

 

 ──きらりんはみんなで楽しく笑顔になってほしいなぁ。

 

 ありきたりな気がしたけれど、きらりにとっては大切な理由、いや信念とも言えるかもしれない。

 

 誰かが輪から完全外れてしまっているのは悲しいから、お節介かもしれないが、輪に入れるように手を差しのべたり声をかけたりする。

 

 最初はこのキャラもあるし背も大きいから驚かれるけど、それでもいい。例え理想論のようなものでも、きらりも含めてみんなで楽しく笑顔でいられたらいいなと思う。

 

「んーとね、きらりは、みんなを笑顔にしてハピハピしてもらいたいにぃ! いっぱい楽しんでもらえて、ワクワクもドキドキも止まらないくらいにすっごいアイドルになりたい!」

「ハピハピですか。……なるほど」

 

 彼はうなずきながらメモを取っているが、如何せん表情が固めなので伝わってるかどうかを判断しにくい。隣の今西というおじさんはにこにこしている。

 

「ありがとうございます」

 

 きらりが椅子に座ると、では次の方、と彼は言った。

 

 

 

 

 だいたい時間にして40分くらいだろうか。

 

「面接はこれで終わりとなります。荷物を忘れずに気をつけてお帰りください。それでは、本日はお疲れ様でした」

 

 天津と今西が椅子から立ち上がってお辞儀をしたので、

 

「ありがとうございました!」

 

ときらりたちもお礼を言って退室する。

 

 入室時とは別のドアから廊下へ出ると千川が案内のために立っていた。

 

「お疲れ様でした。お帰りの際は受付に通行証の返却をお願いします。結果は最初に説明した通り郵送にてお伝えいたします」

 

 千川が改めてお辞儀をした。

 

 

 

 

 1階にあるエレベーターホールの程近くにトイレがあって、きらりはハンカチで手を拭きながらそこを出る。

 

 オーディションも無事に終わり、あとは帰宅するだけだ。終わった直後だからか足取りはとても軽く感じる。時間が経ってくれば、結果が気に掛かってドキドキしてしまうんだろうけど。

 

 渡り廊下を進み、セキュリティゲートが見えてきた。通行証を読み取らせると単純な電子音が鳴りフラップが稼働して通れるようになる。きらりはそこを通り抜け、受付で通行証を返却した。

 

「……ふぅ」 

 

 きらりは安堵の息をもらす。ひとまずオーディション関連はこれで終わりだ。緊張がほどけて肩が軽い。ここで油断すると足元を掬われるので気をつけて帰ることにしよう。遠足は家に帰るまでが遠足だというし、怪我をしてしまっては元も子もない。

 

「およ? カフェ『リコリス』?」

 

 きらりは346プロにはカフェもあったのだと看板を見て今初めて気付いた。出入口は受付のすぐ近くにあった。さっぱり気付かなかったのは、それだけオーディションに集中していた証拠なのかもしれない。

 

 ──帰る前にちょっと試しに入ってみようっと。何があるかなぁ?

 

 センサー式の自動ドアが素早く動作し、いざ店内へと入る。

 

 木目調の内装とそれに合わせられた家具、地面から槍の刃先のように鋭く濃緑の葉と白い斑が特徴的な観葉植物、会話を邪魔することのない落ち着いたBGMといった要素がすべて噛み合っている。

 

 ──すっごくお洒落なカフェだにぃ! あ、あそこの人ノートパソコンでお仕事かなぁ? いかにもって感じがする!

 

 きらりのテンションがちょっと上がる。行きつけのカフェという言葉の響きは魅力的で、何気ない会話の中でさらっと使ってみたい。

 

 ──行きつけのカフェでコーヒー飲んでたの……キリッ。うっきゃー、なんかカッコいいにぃ!

 

 お昼前かつ手早く済ませられるサンドイッチなどの軽食も提供していることから今の店内は割と混んでいる。どうやら一般の人にも解放されているようで、本館内の出入口より道路に面したほうが人の出入りが多い。

 

「うゆ?」

 

 どうせならここでお昼を済ませようと思っていると、あたふたおろおろしている女性が目についた。

 

 ──あの人。

 

 目についたのは理由があって、髪の色や顔立ちが日本人とは違って目立ったからだ。髪色はシルバーで、目尻は鋭く凛とした印象を受ける。顔のパーツはバランスよく整っていて、外国のモデルだと説明されれば信じてしまうくらいに美人である。

 

 ハーフか、あるいは旅行で来日したのかまではわからない。

 

 不安そうにしている彼女を見て、きらりは放っておけなかった。外国語は苦手なので、日本語が通じればいいなと思いつつ声をかける。

 

「どうしたの? 何か困り事かにぃ?」

「……? あー、私、ですか?」

 

 きらりはうなずく。

 

「ダー、はい。カフェでコーヒー、買おうと思いました。でも、なんだか難しい? です。とおる? 人の名前みたいで」

 

 ──とおる……? あ、もしかしてトールサイズのことかなぁ?

 

 きらりはカフェのメニュー表へ視線を移すと、しっかり“Tall”サイズもある。

 

「このサイズのイメージする量がよくわからないってことかなぁ」

「ダー、コーヒーショップ、初めてです」

 

 きらりも初めて有名チェーンのコーヒーショップに入ったときはちんぷんかんぷんだったことを思い出す。

 

 サイズ表記がややこしくて素直にSサイズとかMサイズって書けばいいのにと思ったものだ。前の注文客のオーダーが、今なら理解できるが、初めて聞いたときは誰かを殺そうとして呪文でも唱えているのかと思わせられるほど長かった。

 

 初めてならちょっと面食らうのがコーヒーショップというものである。

 

「トールがMサイズ、グランデがLサイズだって覚えておけば問題ないにぃ」

「とーるがMサイズ、あー、普通の量ですね?」

「うんうん、そういうこと」

 

 ──まだちょっと不安そう……。あっ、そうだ!

 

「きらりんも飲みたいって思ってたから一緒に買う?」

「……! いいんですか?」

「もっちろんだにぃ☆ じゃあ並ぼー!」

「ぼー! です」

 

 きらりは彼女とともに注文待ちの列に並ぶ。前に2人しかいないから順番はすぐにまわってくるだろう。

 

 興味津々といった顔で、そのくりくりとした目も忙しなく動かし店内を見渡している彼女は改めて見ると、瞳の色が綺麗だし、しかも、さきほどはわからなかったが、まつげが雪でも積もりそうなほどに長い。つけまつげだろうか?

 

 直前の客が注文を終え受け取り口へ移動したので、きらりたちが注文する番だ。

 

「次のお客様、ご注文はお決まりですか?」

「はーい、えっとぉきらりはアイスミルクのトールで」

「私は、アイスコーヒーのとーる、お願いします」

 

 かしこまりました、と店員はレジスターにオーダーを打ち込み会計金額を弾き出した。今回はシンプルなものにしておいたから値段は安い。

 

 きらりが財布を取り出そうとすると、彼女が先に全額支払ってしまった。

 

 ──ありゃりゃ? 払っちゃったゆ?

 

 驚いているきらりに気付いた彼女は、

 

「助けてもらった、お礼です」

 

と微笑む。

 

 気持ちに甘えてご馳走になることにしたきらりは受け取り口へ彼女と移動する。

 

「ごめんねぇ、きらりの分まで」

「私からのお礼、です。受け取って、ください」

「ありがとにぃ」

「アイスコーヒートールとアイスミルクトールの方ー」

 

 きらりは2つのプラスチックカップの受け取って、アイスコーヒーのカップを彼女へ手渡す。

 

「スパシーバ、ありがとうございます。コーヒーショップの使い方、知れてよかったです」

「きらりんも、コーヒーご馳走さまです☆」

「これでおあいこ、ですね。ふふ」

 

 彼女は顔をほころばせて、にっこりと笑う。第一印象から感じたクールさはどこかへ消え去り、可愛い笑顔がまぶしかった。

 

「あ……、待ち合わせの時間、もうそろそろあります」

「予定かゆ? 遅れたら大変だからもう行ったほうがいいにぃ」

「ダー、はい。あなたと会えて、プリヤートナ 良かったです。ヌ、パカー、ばいばい」

「ばいばーい☆」

 

 彼女はにこにこしながらきらりに小さく手を振って、通り側の出入口からお店の外へ出ていった。やがて、その姿は物影に隠れてしまった。

 

 アイスミルクはほどよい苦味とミルクのまろやかさがマッチしていて、飲んでいて苦にならないおいしさだった。

 

 きらりはアイスミルクを堪能したあと、今度こそ帰路についた。

 

 

 * * * 

 

 

 今日という日が、きらりにとっての新しい始まりを告げることになる。

 

 いつものように学校から帰宅したきらりへ届いていた1通の封筒。封筒といってもいつもの三つ折りが入れられている方ではなくA4サイズの文書が入る方である。

 

 明らかに何枚も入ってるであろう厚さがあるそれは、差出人が346プロダクションのアイドル部門だ。これは間違いなくオーディションの合否通知だと察する。

 

 きらりは深呼吸をして封を開ける。

 

「あ……………………合格、きらりん合格してるっ!!」

 

 合格を通知された文書のうち、何度その部分を読み返してみても決して変わることはなかった。紛れもない現実である。

 

「やった! やった! やったにぃ! きらりんもアイドルっ、うぇへへへへ!」

 

 きらりは嬉しさの余り、自室でぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現する。ドタバタやり過ぎてしまって母親に叱られたが、このときばかりは全然怖くなかった。

 

「そうだ! 杏ちゃんにも知らせるにぃ!」

 

 今回、きらりがアイドルになれたのは杏のおかげといっても過言ではない。結果がなんであれ連絡はするつもりだったが、合格ともなれば早めに送りたい。 

 

 スマホを持ってベッドにダイブすると、ぎしぃっと悲鳴のような音を立ててきしんだ。スリープ状態のそれを起動させ、トークアプリを開く。

 

『杏ちゃん、きらりん合格したよぉ!!』

 

 杏に対してトークを送って数秒も経たないうちに“既読”が付いた。彼女にしては珍しく早いので、たまたまネットサーフィンでもしていたのだうか。

 

 ピロン。数秒を待たずにメッセージを受信したと通知が表示される。送り主は杏だった。今日はいつもより返事も早いらしい。

 

『おめでとー』

 

 たった一言しかないが、それでもなお彼女らしい言葉だった。

 

 

 * * *

 

 

 数日後、きらりは346プロダクションにいた。オーディションの時と同じく30階だ。違う点があるとすれば、それは参加者ではなく1人の新人アイドルとしてそこにいることだろう。

 

 学校が休みの今日、きらりは書類をすべて記入し、両親の判子をもらい、ここに来ている。書類提出後には先輩アイドルたちとの顔合わせがあって、その後さっそくレッスンになるとのこと。

 

 書類はすでにオーディションと時もいた千川ちひろに渡してある。何も問題がなければそのまま処理するという。

 

 ちひろしかいないプロジェクトルームできらりは1人静かに待つ。あまりにも気合いが入り過ぎてしまって、事務所に一番乗りだったのである。他のオーディション合格者どころかアイドルたちすらいない。

 

 ──誰か来ないかなぁ。あ、でも、うぅ、ドキドキするにぃ……。

 

 そのとき、パタパタと足音が聞こえて、ドアが乱暴に開けられた。きらりは背筋をさながら空へ伸びる1本の木のようにピンと伸ばす。

 

「おっはよー! 未央ちゃんただいま参上っ!」

「ちょっと未央、ドアは静かに開けないとプロデューサーに怒られるよ」

「でも、未央ちゃんの気持ちもわかります。今日はオーディションの合格者の方と顔合わせですから!」

 

 わいわいと3人の女の子たちが入室してくる。

 

「あ」

「あ、もう来てるッ!」

 

 きらりとその3人は目が合った。それはもうばっちりと。

 

「はじめまして! 私、本田未央! 元気で明るいニュージェネレーションズのリーダーやってます! ねぇねぇ、君はオーディションに合格したんだよね? 実は私もオーディ──ぐぇぇっ」

 

 未央と名乗った女の子の襟首をがっしりと掴んだのは長い黒髪の子だった。 

 

「はい、ストップ。そんなに矢継ぎ早に話したら困るでしょ」

「ちょっ、襟首襟首! もー、未央ちゃんは猫じゃないにゃ」

「みくにどやされるよ」

 

 黒髪の子は襟首を掴んでいた手を離すと、きらりと向き合った。

 

「驚かせてごめんね。私は渋谷凛です。よろしく」

「島村卯月です! 今日から一緒にがんばりましょう!」

「凛ちゃんに卯月ちゃん、それに未央ちゃん」

 

 それぞれが名乗ってくれた以上、きらりも名乗らねばならない。一度、咳払いをしてタイミングを整える。

 

「にゃっほーい! 諸星きらり、17歳だにぃ! アイドルになれてとぉってもうれしくてハピハピしてるよぉ! よろしくおにゃーしゃー☆」

「お、おお、これはまた個性的ですな」

 

 未央が見定めるように全身をくまなくチェックしてくる。もしやダメ出しの1つや2つ飛んでくるのだろうか。

 

「あー、変、かなぁ?」

「いや? やっぱアイドルだし、私は全然いいと思うよ」

「そ、そう? うぇへへへ、ありがと未央ちゃん」

「うんうん、いい笑顔だね! でも、うちのしまむーも負けてないよ! ね?」

「はい! いぇい!」

 

 卯月がダブルピースをする。なんとも可愛らしくて、さすがアイドルだなぁと感慨深く思う。……凛もやるのだろうか。

 

「おやおや? これはしぶりんもやる流れかな?」

 

 凛に向けていたきらりのほんのちょっぴり期待するような視線に気付いた未央がそう言い出した。

 

「えっ」

「わぁ、私も凛ちゃんのダブルピース見てみたいです!」

「ちょ、卯月!」

 

 純粋な笑みで無意識に圧をかける卯月とそれに動揺する凛、そしてニヤけ顔の未央。これは悪い笑顔だと一目でわかる。

 

「私も見たいなー? ね、きらりちゃんもそう思うでしょ」

「うん、きらりんも見たいなぁ」

 

 とりあえず乗っかることにする。クールな彼女のダブルピースをちょっと見てみたいと思ってしまったし。

 

「ほらほら、いくよ。3、2、1、はい!」

「い、いぇい……!」

 

 ぎこちない笑顔とダブルピースの凛。

 

「いいねいいね!」

 

 未央が両手の親指と人差し指でカメラのような形を作り、撮影の真似をし始める。

 

「こっちにもピース欲しいなー」

 

 あまりにも自然に輪に入ってきたので気付くのが一瞬遅れたが、それはどこか聞き覚えのある男性の声だった。

 

「いぇい……!」

 

 凛はそのまま声の主がいる後ろへ振り向き、ぎこちなさを残してダブルピースをした。

 

 おそらくカメラが起動しているであろうスマホを構えている彼の方向へ、である。

 

 パシャシャシャシャシャシャシャ。無機質なシャッター音が鳴る。

 

「あ、連写のままになってるな」

「…………………………え?」

 

 オーディションで面接官をしていた彼は確か天津という名前だった。

 

 彼は澄ました顔でスマホを操作していて、これなんて良さそうだとつぶやいているから連写した写真を精査しているのだろう。

 

 対して、状況を呑み込めていなかった凛は1秒にも満たない時間で茹でダコのごとく真っ赤になった。

 

 そこからは早かった。

  

「その写真、消して!!」

 

 凛は素早く彼のスマホに手を伸ばすものの、すんでのところでかわされてしまう。

 

「早くっ!!」

「凛、男にはな、やらねばならぬときがあるんだ」

「え? は? つ、つまり?」

「絶対消さないってことさ」

「っ! スマホ寄越せぇ!」

 

 彼と凛のスマホ争奪戦?が勃発した。未央と卯月はただただ見守っている。

 

「止めなくていいの?」

「ほっといて大丈夫! コミュニケーションみたいなもんだから」

「凛ちゃん可愛いかったです!」

 

 2人がそう言うのなら大丈夫なんだろう。

 

「あー、2人はきらりのこと怖くない?」

 

 ドタバタ争奪戦がまだ繰り広げられている中、きらりは2人にこそっと尋ねる。

 

「全然」

「私も怖くないですよ」

 

 正直、ほっとしている自分がいた。きらりにとっては“背の高さから周囲が抱く恐怖心”はこのキャラのある意味で原点ともいえるから。

 

「まあ、うちのプロデューサーもきらりちゃんと同じくらい背がおっきいから、もう慣れてるよ。だからあんまり気にしなくていいからね」

「未央ちゃん」

「身長で思い出したけど、うちには双葉杏ちゃんっていう妖精スタイルの子もいるし」

 

 ──杏ちゃんとは今日会えるかなぁ? 最近会えてないし。

 

「お、噂をすればなんとやら」

 

 ドアが開いて、杏の姿が見えた。いつもと変わらないめんどくさそうな歩き方にボロボロなうさぎのぬいぐるみを抱えている。

 

「お、争奪戦(あっち)も収まったみたいだし、しぶりんのフォローでもしてきますか」

 

 未央と卯月が決着した凛と彼のもとへ向かい、すれ違うように杏がこちらへ来る。

 

「おはよー、きらり」

「あ・ん・ずちゃーん! きらり、アイドルになれたにぃ!」

「まあねー、杏の審美眼に不可能はない!」

「うっきゃー! 今日から一緒にがんばってハピハピしようね!」

「えぇー、めんどぉー」

「んもぅ! そういうこと言っちゃめっ、なんだからね! うぇへへへへ!」

「どうしたの? いきなり笑い出して」

「杏ちゃんと一緒にアイドルできるって思ったら、きらり嬉しくなっちゃって! 本当にありがとうね」

 

 アイドルとしてのきっかけをくれた杏にきらりはできうる限りの心を込めてお礼を言う。

 

「ふぅん、ま、どういたしましてって言っておくよ」

 

 杏はそう返した。

 

 きらりはポケットから飴を1つ取り出して、杏に食べさせたのだった。

 

 

 

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