まず始めに撮影するのは正面入口ゲートとエントランスだ。いろいろと老朽化していたらしく、取り壊して新しく建て直したらしい。
「じゃあ撮影開始するよ」
「はい!」
「元気でよろしい。まずはタイトルコールをして──」
台本を見つつ、具体的な動きを指示される。
「カメラは?」
「オッケイです」
「音声は?」
「同じく」
「よし。準備はいいかい、みりあちゃん」
みりあは頷く。現場には緊張感が流れる。
「5秒前。4、3──」
残る2と1は指で示して開始の合図が出る。みりあは落ち着いて息を整え、声を発する。
『みなさん、はじめまして! 今回のおでかけ情報局でレポーターを担当します、赤城みりあです! よろしくお願いします! さて今回は、こちら! 龍ノ宮動物園に来ています! 本日はここの魅力をたっぷりとお伝えしていきます! では、さっそく行ってみましょー!』
みりあは台本にある台詞を言う。表情はそこまで固くなく、聞き取りやすい声量や滑舌だったのではないかとプロデューサーは思う。
ディレクターがゆっくりと口を開く。
「オッケイ!」
ほっと安堵を浮かべるみりあ。このペースを維持できれば今日は問題なくいけるだろう。
「あ、ありがとうございますっ!」
「よし。このまま次にいこうか」
こうして撮影は進んでいく。次は正面ゲートを抜けた先にあるエントランスだ。広場のようになっており、中心には動物たちを象ったオブジェが設置されている。右側には総合案内所があり、ここを抜ければいよいよ動物たちのいるエリアに行ける。
『ここは新しく整備されたエントランスです! やはり目を引くのは動物さんたちのオブジェでしょう! 近づいてみましょう!』
みりあとスタッフたちがオブジェへ近づいていく。
『おお、近くにくると結構大きいです! ライオンさんに象さん、キリンさん……あっ、こんなところにウサギさんがいる! 亀さんも! えへへ、すごいなぁ。あ、ごめんなさい。夢中になっちゃって。こんな風にたくさんの動物さんたちが大きなオブジェになってます! 写真映えも間違いなし! では、次はいよいよ動物さんたちに会いにいきましょう!』
「──カット!」
エントランスでの撮影がひとまず終わり、ディレクターがみりあを呼ぶ。
「ううむ……。みりあちゃん」
みりあは少し駆け足で彼の元へ。
「ちょっと台本にないことが入っちゃったね」
「あ、ごめんなさい」
「とりあえず、台本通りに1回撮り直そうか。それで、見比べて良かったほうを採用するよ」
「はい」
「じゃあもう1回エントランスの部分から」
ディレクターの指示により台本通りの台詞で撮り直しが行われ、みりあはそれもしっかりやり通した。
小型のモニターをディレクターとプロデューサーが肩を寄せ会って眺めている。最初に流されたのは先ほどのエントランスのシーンで、みりあが台本にないことを言ってしまった場面、続いて台本通りの場面だ。
「どう思う」
「どちらもよく撮れてると思いますが」
「そうじゃなくて、どっちがより魅力が伝わると思うかってことだ」
「それなら、最初のほうだと私は感じました」
ディレクターはプロデューサーの返事を聞いて押し黙る。
「──だよな」
沈黙を破り、そうつぶやいた。
「俺も最初のほうが伝わりやすいと思ったよ。ただ台本を大幅に変えるのもな。……まあ一言、二言くらいならいいか。進め方なんだけど、概ね台本通りで、一言二言くらいなら追加していいから」
「わかりました」
プロデューサーがみりあに手招きをして呼ぶ。今の決定事項をディレクターとともに話しつつ、彼も自身の台本の余白にメモをしていく。
「台本の流れは変わらないから、そこは打ち合わせ通りで。あと無理して追加はしなくていいからね。何も浮かばなかったら台本通りでいいよ」
ディレクターは優しめに言う。
「はい。あの、ありがとうございますディレクターさん」
「いいのいいの。これくらいは現場の裁量だから。改めて、今日はよろしくね」
「はいっ! がんばります!」
そして、撮影は再び始められた。
みりあは、たまにミステイクを出しつつも、順調といえるペースで撮影を進めていた。ライオンにゾウ、ゴリラ、フラミンゴ……その他もろもろ。すべてVTRで使うとは限らないが、どのように組み合わせるかは編集のときに決めるらしい。
さて、続いて一行が訪れたのはキリンエリアだ。ここではカットされた野菜を1個200円で購入することで餌やり体験ができる。
キリンはキリン科キリン属に属する動物で、高所の葉を食べるための長い首とヒョウの模様のような斑紋が特徴である。某海賊漫画にも登場するほどの認知度を誇る。
ここでみりあはキリンへ実際に餌をあげ、そのシーンを撮影する。
「これが餌となります。キリンが近づいてきたら摘まんでゆっくりと差し出してください。そしたら、あとは勝手に食べますから」
キリンの担当職員から細長くカットされた野菜入りの透明のコップを受けとった。
「ありがとうございます!」
「よーし、じゃあさっそく撮影しよう。みりあちゃん、準備して」
「はーい!」
みりあはキリンの飼育エリアに併設された矢倉の階段を登っていく。カメラマンたちスタッフも続く。
「準備はいいかな?」
「はい!」
「じゃあいくよ。5、4──」
開始のキューが出される。
『続いてやってきたのはキリンさんたちのエリアです! キリンさんはとっても首が長くて、高いところの葉っぱも食べれちゃうんです! 今日は餌やり体験ができるので、さっそくやってみたいと思います!』
みりあがコップの蓋を外し、中から1本取り出そうとした時、1頭のキリンが首をのそっと近付けてきた。目的は明らかに野菜スティックだろう。
『わわっ! もう来たよ! 大きいねぇ! じゃあ1本目、はいどーぞ!』
みりあから野菜スティックが差し出されると、そのキリンは黒くて長い舌を上手に使ってそれを巻き取り口に運んだ。
『わぁ、もぐもぐ食べてますね! それに近くで見ると結構迫力があるんだね! あ、もう食べちゃったみたい。美味しかったのかな? またあげちゃいます!』
キリンは2本目もぺろっと食べる。
『美味しかったのかな? ラスト1本も、はいっ!』
最後の1本をもぐもぐと一心不乱に食べているキリンとみりあのツーショットをカメラに収めていく。
『えへへー、キリンさんも美味しそうに全部食べてくれました! 餌やりは常時やっているので、ぜひみなさんも体験してみてくださいね!』
ディレクターのカットの声が掛かる。カメラや音声のスタッフたちがわらわらと矢倉を降りていく。
「ここは問題なしだよ、みりあちゃん。次、といきたいところだけど15分ほど休憩しようか」
「はーい!」
ディレクターは近くにいたスタッフたちの元へ、みりあはプロデューサーと合流する。
「ねぇねぇ、プロデューサー! みりあ、どうだった?」
「ばっちり」
「やった!」
喜ぶみりあへプロデューサーは常温の水のペットボトルを手渡す。彼女はさっそく蓋をまわして口を付ける。
「ありがと! んくんくんく、ぷはぁー。ふぅ」
「疲れた?」
「全然! たくさんの動物が見れたし、キリンさんに初めて餌やりもできたんだもん! とっても楽しいよ!」
「それは良かった」
「プロデューサーがお仕事取ってきてくれたからだよ! あっ、そうだ!」
みりあは何かを閃いたらしく、キリンの矢倉の階段に登り、プロデューサーに対して手招きをしている。
「プロデューサー、こっち来て。ほらほら早く」
行かない訳にはいかなそうなので、のそのそと指定された場所へ数歩移動する。
「あ、そこでいいよ! そこに立っててね!」
階段の1段目の前で立たされるプロデューサーと視線を合わせるようにみりあは1段上がる。目線の高さはちょうど合っている。
「よしよし、よくがんばりました♪」
そうして、みりあはすっと手を伸ばしプロデューサーの頭を撫でた。
彼の体は唐突の衝撃により瞬時に固まったが、脳みそは状況判断のためにフル回転している。頭の上、髪の毛の部分に物が当たる感触があり、それは動いている。目の前にはにこにこ顔のみりあが手を伸ばしている。階段に登ったのは身長差を埋めるためか。
──ふっ、なるほど、そういうことか。つまり、私は今頭を撫でられているんだなッ!
コンマ数秒の間にプロデューサーは結論に至る。
「あー、みりあ、いったい何を……?」
「あのね! プロデューサーはいっつも頑張っているからなでなでしてあげたの! 頑張ってるときはちゃんと誉めてあげないといけないんだよ! お母さんがそう言ってた! えへへ、……あ、もしかして……嫌だった?」
「……普通」
「えー、“普通”じゃわかんないよ? もっと具体的に聞きたいなぁ? ねえねえ? 教えて?」
首をきょとんと傾け、楽しげな表情でみりあは問いかける。
「また今度な。さーて、台本の確認でもしようかなー」
あからさまに話題を剃らしてプロデューサーは階段前からするりと離れた。男に二言はないが、嘘や誤魔化すことは普通にあるのだ。
「あ、そうやってはぐらかすのいけないんだぁ! ねぇプロデューサーぁ!」
ぴょこぴょことプロデューサーの背中を追いかけてきたみりあは、休憩終了までなんとか聞き出そうとしてきた。その度にのらりくらりとかわしたが。
その表情はどこかからかっているような、なおかつ楽しげな感じが読み取れた。みりあの秘めたる“小悪魔”っぷりをその身で体験したと同時にそれを活かせる仕事もいいかもしれないと思うのだった。
はてさて撮影は折り返しを過ぎ、台本の流れに沿っていけば、次はふれあいコーナーで動物たちとふれあうシーンの撮影となる。
ここでは主にテンジクネズミとのふれあいができる。よくモルモットと呼ばれるあの動物のことだ。
「ここがテンジクネズミの飼育小屋です。1匹1匹に名前が付けられていますから、貼ってある写真を見ながら探してみてください」
撮影の準備中にみりあとプロデューサーは担当の飼育員から簡単な説明を受けていた。2人の前には大きな飼育ケースがあり、ガラス越しにテンジクネズミたちがたくさん飼われているのが見える。
「わぁ、たくさんいるね!」
「ここでは15頭を飼育しています。もし撮影の際に撫でたい子がいれば対応しますので」
みりあは写真の名前とガラス越しのテンジクネズミたちを交互に眺めていた。プロデューサーも同じように飼育されているネズミたちの名前の把握に努める。どれもこれも毛色や模様が違っていて、同じものや限りなく似てるものはいない。
「プロデューサーはどの子が好き?」
「私はあの“どむ”かな」
プロデューサーが選んだのは黒い体毛で少し大きめの“どむ”だ。のろまそうに見えて実はすばしっこいのが気に入った。他にも赤茶色の兄弟だという“げる”と“ぐぐ”や、顔のまわりが中世の騎士のような模様の“ばいあらん”などがいる。“ぜっつー”に“とりすたん”もいる。はたしてこの名付け方は偶然なのだろうか。
「どれどれ~、あの黒いのかー! みりあはねぇ~、あ、いた。あの子!」
みりあは飼育小屋の中を元気に動き回るうちの1匹を指差した。
「ふむ、“づだ”か」
あの灰色のテンジクネズミをみりあは気に入ったらしい。
「えへへ、可愛いなぁ」
みりあはそうつぶやいたとき、
「おーい、みりあちゃん。準備完了したから」
とディレクターから準備完了の声が掛かる。スタッフたちもそれぞれの持ち場についたようだ。
「あ、はーい! 今、いきまーす!」
みりあは早足で撮影開始位置に立ち、プロデューサーはそっとスタッフ側へ。
「じゃあ台本のふれあいコーナーの紹介するところね。準備はいい?」
「はい!」
「よっしゃ。じゃあ、5、4──」
撮影開始だ。無機質な1つの大きな瞳がみりあを捉えて離さない。
『私は今、ふれあい館のテンジクネズミさんたちに会いに来ています! 見てください、たくさんいますねぇ。えへへ、みんな可愛いくていつまでも見てられますね! さて、ここでは撫でたり餌をあげられるんです! さっそくやってみましょう!』
みりあは噛むことなく台詞を言い終えた。
「カット! いいよ、じゃあふれあってるシーンにいこうか。撫でてみたいのとかいた?」
「はい! あの“づだ”って子がいいなぁって」
「わかったよ。広場の中で待機していてくれ。俺はちょっと話してくるよ」
ふれあい広場の中へみりあは入り、次の流れを確認しつつ待つこと数分。テンジクネズミ担当の飼育員の準備も整ったようで、撮影は再開される。
『それでは、さっそくふれあい──といきたいところですが、まずはテンジクネズミ担当の飼育員さんを紹介します! 池さんです、よろしくお願いします!』
『こちらこそよろしくお願いします』
テレビカメラの前でやや緊張ぎみの飼育員を紹介し、いよいよ本題に入る。
『では、まずこの長椅子に深く腰掛けてください。背もたれとくっつくくらいで。はい、そうです。次にテンジクネズミを膝の上に乗せますね』
飼育員は別の飼育員から1匹を受け取り、みりあの膝の上にそっと置いた。色味からしてさきほどみりあが気に入ったと言っていた“づだ”だろう。ディレクターが要望を通してくれたらしい。
『わぁ! もしかしてこの子は“づだ”ですか?』
『はい。あ、おとなしい子なので大丈夫ですよ。撫でるときはゆっくりと優しく、頭からお尻にかけて撫でてください。逆だと嫌がりますから』
言われた通りにみりあは撫でる。キョロキョロと辺りを伺っていた“づだ”だったが、撫でられると動きを止め、気持ちよさそうにしている。
『そう、そんな感じです。お腹とかも嫌がるので、それさえ注意してもらえればおとなしくしていますよ』
『ありがとうございます、お姉さん!』
飼育員の池は静かに距離を取った。カメラはみりあの撫でる様子をデータに収めていく。
『えへへ、気持ちよさそうにしてる~! 可愛い~。よ~しよし』
みりあはカットが掛かるまで楽しそうに撫でていた。
途中、メイク兼衣装担当の女性スタッフが鼻血を出して──とても幸せそうな顔で──倒れるというハプニングがあったものの、“づだ”を抱っこした飼育員とみりあは並んでふれあい館での最後の撮影をしようとしていた。
『今日はテンジクネズミさんとふれあいました。とっても可愛かったです! そして他にもふれあえる動物がいるそうですね?』
『はい。このふれあい館ではテンジクネズミだけでなくウサギやヒヨコ、カメなどの動物たちとふれあうことができます。ふれあいを通じて、いろいろなことを学んでいただけたらなと思います。お待ちしています』
『ありがとうございます! ふれあい館でした~!』
ディレクターによってカットとOKが出る。スタッフたちがわらわらと動き始めた中、みりあは飼育員の方へと向く。
「あの、ありがとうございました! とっても可愛い子ばっかりで、撫でるとふわふわで、なんだか癒されました!」
「楽しい体験になったのなら良かったです。赤城さんも撮影がんばってくださいね」
「はい! じゃあ“づだ”もばいばい!」
みりあは飼育員がだっこする“づだ”にも別れを告げる。2、3秒“づだ”と見つめあっていたが、やがてプロデューサーに呼ばれてその場を離れて彼の元へ向かう。
「どうだった?」
「すっごく可愛かった! ふわふわしててね、ほんのり温かいの! それに撫でると目を細めてキュウキュウ鳴くんだ! えへへ、また来たいなぁ」
「いい土産話ができたみたいだな」
「うん!」
そうして、みりあたちはふれあい館を後にした。
その後、カフェレストランでライオンをデフォルメしたオムライスや同じくクマのハンバーグカレーを試食──残りはあとでスタッフが美味しくいただきました──する場面や土産ショップをざっとまわる場面を撮影した。
動物園という定番で特別な体験ができる場所だからか、カフェレストランでの値段はそれなりに高めだった。
さて一行は再びエントランスにある動物たちのオブジェの前に戻ってきていた。ここで締めの挨拶を撮影して、このロケは終了である。
「長かったけど、これでラストだ。気を抜かずにいこうか。準備はいいかな?」
ヘアメイクを整えてもらっていたみりあにディレクターは台本を見つつ、最後の流れを確認する。
「はい! 最後までがんばります!」
「よぉし、じゃあ締めの撮影しようか。さっき撮影したときと同じ位置に立って」
みりあは折り畳み式の簡易椅子から立ち上がって、タタタと駆け足で立ち位置につく。
「いよいよ最後だな。彼女、なかなかがんばってるよ。アイドルとして活動していく気持ちに嘘はないみたいだな」
「そう言ってもらえると助かります」
「“赤城みりあのプロデューサー”としてはどう見てるんだ?」
ディレクターはプロデューサーへ問う。
「そうですね。正直なめてました。アイドルとはいえまだ11歳ですから弱音を吐いたりするかと思ってましたが、笑顔を忘れず、アドリブもほんの少しはいれて、ロケを大きく中断させることもなく、撮影に臨んでいます。タフさと対応力に改めて驚かされましたね」
プロデューサーにとって、今日のロケは赤城みりあという1人の少女、そしてアイドルの魅力を改めて感じられたものだった。この仕事を取った意義があったといえる。
「業界には似たようなのがゴロゴロいるぞ?」
「みりあの魅力の再確認ができましたからね。他のに遅れは取りませんよ。それに、さっそくファンを1人獲得したようですし」
2人はヘアメイク兼衣装担当の女性スタッフへ視線を向ける。この場の誰よりも緊張した面持ちで、撮影風景を眺めている。
「……また鼻血出したりしませんよね」
「……ボックスティッシュあったから渡しとくか」
みりあが立ち位置を確認し気持ちの準備もできたところで、ボックスティッシュを渡したディレクターはみりあやスタッフたちへ声を掛ける。全員の意識が彼に集まる。
「じゃあ最後の場面。開始まで5、4──」
指で『3、2、1』と示してみりあへ振る。
『さて、いっぱい見てきましたが、いかかでしたか? 今回ご紹介できたのはあくまで1部だけなんです。紹介しきれないほど、ここ龍ノ宮動物には可愛いのからカッコいいのまでたっくさんの動物たちがいます! 動物が好きな人はもっと、そうじゃない人もきっと好きになれる場所です! とーっても楽しいので、家族友達恋人を誘ってぜひ来てくださいねー! 以上、赤城みりあでした! ばいばーい!』
みりあがカメラに笑顔で手を振る動作をして、台詞を言い終わる。
「……カット! OK!」
「! ありがとうございます!」
すべての撮影過程が無事に終わり、みりあの表情にわずかな安堵が現れた。いかにタフで対応力があるとしても、緊張しない訳がないのだ。
「撮影はこれで終了、各自撤収準備。忘れ物ないようにな」
「あの! ディレクターさん!」
「お疲れ様、みりあちゃん。良かったよ。この調子で次の仕事もがんばってな」
「ありがとうございます! えへへ、緊張もしたけど楽しかったです!」
「それなら良かった。あ、忘れ物とかしないようにな」
「はい!」
みりあは他のスタッフたちにもお礼を言ってまわる。あの女性スタッフにいたっては腰を抜かした上に『痛いの痛いのとんでけー』をされ昇天しかけていた。
「プロデューサー! みりあ、どうだった?」
「お疲れ。見直したよ」
「んふふー……ってあれ? それってみりあのこと、信じてなかったってこと?」
「そういう訳じゃないよ。ただ不安な点があっただけさ」
「そうなの?」
「ああ。それも考えすぎだってわかったよ。今日の経験は間違いなくみりあのこれからの糧になる」
「カテ?」
よくわかっていなさそうなみりあに改めて言い直す。
「みりあの役に立つってこと」
「そっか! トップアイドルへの新しい1歩だね!」
「その通り。さて、服を着替えておいで。忘れ物もないように」
「はーい! あ、お姉さん、もう大丈夫なの?」
みりあはなんとか復活したあの女性スタッフと着替えに行こうとして立ち止まり、ぱっと振り返った。
「プロデューサー! みりあのこれから、ちゃんと見ててね!」
彼が返事をする前にみりあは着替えるために走って行ってしまった。
「ああ、任せてくれ」
走っていく彼女へは届かないが、そう返事をした。
「さーて、帰る準備をするか」
「──あの、すいません。少しいいでしょうか」
プロデューサーが荷物をまとめて、スタッフたちへお礼を言いに行こうとしたとき、背後から声をかけられたのだった。