* 【3】 *
ピピピ。何度も繰り返されるアラームによって蘭子は眠りから覚める。心地よい夢から醒めてしまえば、そこにあるのは天井という名の現実だった。
「んんぅ、もー朝ぁ?」
体を起こして時計を見やる。時刻は午前6時15分過ぎ。アラーム通りには起きれたようだ。しかしてまだ眠い。昨晩、
抜けない眠気に二度寝でもしてしまおうかと気持ちが揺れ動くが、ダメダメ!とベッドから降りる。軽く背伸びをしてからカーテンを開けた。
上京してからまだ半月ほど。まだ完全に東京に染まりきってはいないが、多少は慣れた感じがある。例えば、初めは違和感バリバリだった窓からの風景も今はそれが薄れてきている。なんなら代わり映えしないなぁと思い始めていたりもして。そのうち地元の熊本に帰った際に郷愁を感じてしまうようになるのだろうか。
そんなことをぼんやり考えながら蘭子は次なる行動に移る。
水色のパジャマを脱いでベッドに雑に投げ、下着姿のままチェストを漁る。白い半袖シャツと黒のストレートパンツのジャージに着替えて、タオルを準備して完了。上下ともに紫のワンポイントラインが入っているが蘭子的に気に入っている。
おろしていた髪はひとまずポニーテールにまとめて、とりあえず部屋を出る。
朝食、といきたいところだが、まずは共用の洗面所で洗顔と歯磨きをする。いきなり私服に着替えないのはこれが理由だ。
「あ、智絵里ちゃん。煩わしい太陽ね!」
「蘭子ちゃん、おはようございます」
先に洗面所に立っていた智絵里に挨拶をして、彼女の隣に場所を取る。
彼女の名前は、緒方智絵里。蘭子のすぐ隣の102号室を使う三重県出身のアイドル。蘭子と同じくオーディションに合格し、その道を進むことになった。
蛇口を捻って水を手のひらに溜める。朝の水道水は冷たく、これで顔を洗うとひときわの爽快感があっていい。微妙に残っていた眠気もこれで吹っ飛ぶというものだ。
「ぷはぁっ、ふぅ」
蘭子がタオルで拭いていると、隣の智絵里に話し掛けられた。
「えっと、今日は一緒のレッスンだね。が、がんばろう!」
本日のレッスン予定は聖が担当の『基礎体力』と『ダンス基礎』、明が担当の『ボーカル基礎』の3つだ。学校が休みだから午前中からみっちりである。このうち前者2つが智絵里と被っていた。
「うむ! 我が力を磨きし時を重ねれば重ねるほど、いずれ宝石とならん!(レッスンを頑張れば頑張るほどどんどん上手くなっていきますから!)」
「んーと……これは同意してくれてるんだよね? わ、私も負けないくらい頑張る、ね!」
智絵里は、まだ蘭子の熊本弁(仮称)に慣れていないものの意味を汲み取って返事をした。慣れてくればニュアンスで理解るようになるとはプロデューサー談だ。
ぐうううぅぅぅぅぅ。
洗面所で2人、意気込みを固くしていると不意を突くように揃って腹の虫が鳴ってしまった。それはもう盛大に。
「ああ、えっと……!」
「力が枯渇しかけているのか(お腹空いたなぁ)」
智絵里も蘭子も恥ずかしさもあり、あたふたしていたが、互いに顔を見合わせると、ぷふっと笑いを吹き出した。
「ふふ、ふふふふふ。蘭子ちゃん、すごく音大きかったね」
「智絵里ちゃんも」
互いに笑いあった2人はすぐに歯を磨き、同じく寮暮らしのみくが作ってくれている朝食を摂りに行った。
メニューはトーストと目玉焼き、ウインナー、サラダにスープで、大変に美味しかった。
* * *
「そこまで!」
346プロオフィスビルのアイドル部門フロアの一室。『ダンス基礎』のレッスンルームに担当の聖の声が響く。息も絶え絶えのアイドルたちへ彼女は容赦なく指摘していく。
「かな子、後半につれて動きにキレがなくなってるぞ。最後まで手を抜くな」
「はい!」
「智絵里は動きがまだ小さい。着実によくなってるが自信のなさが出てるぞ」
「は、はい!」
聖は一人一人に改善点を伝えていく。きらりにみりあ、アーニャ、李衣菜──そして。
「それから蘭子。お前はワンテンポずれるときがある。振り付けのペースがバラバラだ。まわりを意識して体を動かせ」
「はい!」
自分の振り付けに集中してしまうとまわりとズレてしまうし、かといってまわりを意識すると自分の振り付けが甘くなってしまう。いったいどうしたら。
「全員、今の注意を意識してもう一度やるぞ!」
聖の掛け声に蘭子は他のアイドルたちと合わせて返事をして、上がっていた息を急いで整える。
──さあ、ばっちこい!
ドアが閉まる音がした。どうやらトレーナーの聖がレッスンルームを後にしたようだ。
蘭子はその場に座り込み、とめどなく流れる汗を手の甲で拭う。ねちゃりとした汗の感触を感じつつ、レッスン内容を思い出す。
あの後、何度も同じことを指摘されたけれど、それは改善せずに終了時刻になってしまった。
蘭子としては一生懸命やっているつもりではある。もちろん一生懸命だからできなくても許してねなどと言う気はない。できるようになりたいし、このまま落ちこぼれていくのは嫌だ。
ただ、今の蘭子に解決するための方法があるかと聞かれれば、残念ながらないと答えるしかない。
正直言って、へこたれてしまいそうだった。アイドルという道は厳しいのだろうと想像してはいたが、その何倍もきつく、厳しい。基礎レッスンでこれなのだからステージに立つとなれば、さらに倍になるはず。
「──ん」
体力がない、運動が苦手だから。そんな言い訳がどこからともなく浮かんできては必死になって振り払う。
「──こ──ん」
頭の中は、できなかったことをつい考えてしまう自分や言い訳を作り出してしまう自分、へこたれている自分がいて混沌としている。
「蘭子ちゃん!」
ぼうっとしていると強く自分の名前を呼ばれた。気付けば目の前にかな子がいて、その手には可愛く綺麗にラッピングされた袋がある。
「蘭子ちゃん、大丈夫? 何回も呼んだんだけど」
心配そうに蘭子の顔をのぞき込んでくるかな子はどことなく不安そうな表情だ。
「あ、う、うん。大丈夫……」
適当な嘘をつき、誤魔化しの笑顔を顔に貼りつける。もちろん大丈夫なわけがない。
「そう? ならいいんだけど。あっ、このミニドーナツ食べてみて! 私の自信作なんだぁ!」
かな子はニコニコといくつかのミニドーナツが入った袋を蘭子に手渡す。その嘘に気付いて気を遣っているのか、それとも本当に信じているのかははっきりとはわからなかった。
紐をほどいて包装を解き、一口サイズのそれをぱくりと食べる。
「ん……!」
甘ったるそうな見た目に反して、ミニドーナツは甘控えめで、ぼそぼそせずにふわっとした食感だった。正直、市販のものよりも美味しいかもしれない。いや、絶対美味い。
「どうかな?」
いつの間にか蘭子の隣に腰を下ろしていたかな子は食した感想を求めてくる。その瞳は自信にあふれていた。
「とってもおいしい! こんなに美味しいのは初めて!」
蘭子は袋から1つ追加で取り出し口に放る。こちらもさきほどと同じように美味しい。ぶっちゃけ何個でもいけそうでやばい。カロリーはそれなりにあるだろうし、食べ過ぎは良くない。ただでさえアイドルは体重管理も大切なのだから。1袋に3つしか入っていないのは不幸中の幸いだ。
最後の1つを堪能する蘭子を見て、かな子はふふと笑みをこぼす。
「?」
「蘭子ちゃんが美味しそうに食べてるのを見ると、作った甲斐があったなぁって思うよ。少しは元気も出たみたいだし」
「……あ。んん。甘美なる贄は我が血肉となりて力を取り戻す糧となろう(美味しいお菓子を食べて少しは元気がでました)」
蘭子は少しばかり沈黙したあと、
「あ、ありがとう。かな子ちゃん」
ちょっとだけ小声になってしまったけれど感謝を伝えた。
「どういたしまして。私も美味しく食べてもらえて嬉しかったよ」
かな子も笑顔で返す。
「ねえねえ、2人でなんのお話してるの?」
肩を並べて座っている蘭子とかな子の間からみりあがひょっこりと顔を出す。
「えっとね、甘いお菓子はみんなを元気にしてくれるってことかな」
「そっか! 私もかな子ちゃんのお菓子食べたら元気出たよ! もう元気100倍だぁーっ!」
みりあはニコニコと笑顔で答える。太陽みたいまぶしい明るい笑顔だ。
「うんうん、きらりもきらりも♪ めっちゃハッピーだにぃ」
次はきらりが蘭子の右隣からどかんと顔を出した。みりあと違って圧がすごい。
「蘭子ちゃんもハピハピしてゆ?」
きらりの瞳は蘭子をまっすぐ捉えていた。彼女の言葉遣いは独特で──人のことをとやかく言える立場ではないが──一瞬戸惑うものの、心配してくれているのは感じ取れた。
「うん。ちょっとは、元気出た」
それはそれとして、ハピハピってなんなんだろうと思いつつ蘭子は照れくさそうに答える。
「うん。うんうん! うえへへ、やっぱりみんな笑顔でいるのが一番だね!」
きらりは一安心したように相好を崩す。
思い返してみれば今みたいに声かけをしてもらったことが何度かあった。きっと彼女なりの気配りだったのだろう。気付かないうちに助けられていたことがまだあるかもしれない。お礼を何か考えておこう。
気付けば、蘭子とかな子のまわりには他のアイドルたちが集まっていて、あちらはカロリー談義に花を咲かせているようだった。
「美味しいから大丈夫だよ。それに、ドーナツは丸くて穴が空いていて、数字の『0』に似てるからゼロカロリーなんだよ!」
鼻息荒く持論を展開しているかな子。とんでもない暴論のような気が……いやどう聞いても暴論だった。もはやトンチキレベルである。それだとマカロニやバウムクーヘンもゼロカロリーになってしまうのでは。
蘭子はその事実をそっと胸にしまう。うん、ここでは言わないほうがいいだろう。いずれプロデューサーあたりが介入するだろうし。
「あ、ねえ、みんな。まだ時間あるし、エネルギー補給もしたし、ちょっと自主練しない?」
壁の一面鏡の上部に設置された時計を確認しながら李衣菜が言う。
「そうですね。みんな、セイからいろいろ指摘されています。直すには練習あるのみ、ですね!」
アーニャを含めたアイドルたちから賛同する声があがる中、蘭子もまた決意する。
ここでへこたれているわけにはいかない。気を遣ってくれる人もいて、心配してくれる人もいて。結果として競い合うこともあるかもしれない。それでも、私はアイドルになったんだから、置いてきぼりにならないように努力を重ねていかないといけない。
「うん! いいと思う……!」
満場一致で全員で合わせての自主練が決まる。それぞれが聖に注意されたところを頭に浮かべる。もちろん蘭子もだ。
「じゃあみんな始めよう!」
李衣菜の掛け声が響いた。
* * *
それからもうすぐ2週間になろうとしている。スケジュールで組まれたレッスンとは別に時間を合わせて自主レッスンを行う日々だった。
ただひたすらに行うのではなく、参加しているメンバーで意見を出しあいながら進め、お互いに不完全な点を指摘した。初心者は初心者なりに努力を重ねた。
このことを知った聖には「無理をし過ぎないように」と釘を刺されたが、それ以降は黙認という形で続けることができた。後で知った話だとプロデューサーが頼んでくれたらしい。
自主レッスンで多くの汗を流したが、果たして上達しているのだろうか。
蘭子としては、上達しているような気がしないでもないものの、レッスンに関してはてんで素人だから、自分自身のその判断を信じてよいものか迷う。
聖には相変わらずまだズレていると指摘されてしまう。彼女いわく改善はしているらしいが、はたして。
そして、今日もまた『ダンス基礎』のレッスンが行われようとしている。
「全員揃ってるか?」
入室してきた聖はどこか険しい顔をしていた。彼女は参加アイドルたちの顔を視線を流すように確認していく。蘭子も含めて全員が揃っていて、その表情はやる気に満ちていた。
「全員いるな。では、これからダンス基礎のレッスンを始める──と言いたいところだが」
言葉を切った聖。
「お前たちもダンス基礎のレッスンを初めてもうすぐ1ヶ月になる。アイドルとしては大切な要素だが、基礎レッスンだけを延々とやっていくわけにもいかない。いずれもっとレベルの高いレッスンに切り替えて、より高みを目指す必要がある」
アイドルたちに緊張感が漂いはじめる。
「そこで。今日はお前たちの実力を見極めようと思う」
誰も何も言葉を発していないにも関わらず、動揺が走ったのを蘭子は肌で感じた。当たり前だ、いきなりこんなこと言われたら。
ただ、改めて実感もした。ここは仲良しダンス教室ではなく、アイドル事務所なのだと。これも厳しい競争に曝されるアイドルの世界では当たり前に行われるふるい落としだと。
「まぁ実力テストのようなものだと思っていい。今から通しで最後までしてもらう。基準に達した者は次から一段階上のレッスンに移行することになる。達していない者は引き続き基礎レッスンを受けてもらう」
場の空気が一気に重くなる。両肩に小さな重機でも載っているかのようだ。
「まずは準備運動だ。全員の準備が整ったら、さっそく始めよう」
蘭子は一度呼吸を整える。吸って。吐いて。
いつものような和気あいあいとした雰囲気はなく、皆が真剣な顔つきで準備運動を行う。もちろん蘭子だって真剣だ。アイドルに曖昧な憧れを抱いていたとはいえ、こうして曲がりなりにもアイドルになれた以上はステージに立ちたい。
この緊張感を裂くようにレッスンルームの分厚いドアがギイと音をたてて開く。
「お待たせしました。聖さん、もう始まってますか」
顔を出したのはプロデューサーだ。ジャケットは羽織っておらず、ネクタイは胸ポケットにしまわれている。
彼は聖と二言三言話すと──小声だったので内容はわからず──ドアの近くに陣取って後ろ手を組む。
怪我をしてしまっては元も子もないから、入念に。同時に気持ちも落ち着ける。さっきは驚いたが、練習は重ねてきた。今は自分を信じるしかない。
「全員、準備は整ったようだな。さきほど話したように初めから通してだ。いいか、今までの練習がもろに出るぞ。今までを信じて全力を出すように」
「「「はい!」」」
全員の返事が重なる。
「では、プロデューサー殿。始めます」
プロデューサーは深く頷く。
こうしてレッスンが始まる。
レッスンはいつもと同じように、しかしながらどこか重苦しく進んでいく。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
聖の手拍子に合わせて、蘭子たちはステップを踏み、腕を振って、その指先にまで意識を集中させていく。
動くところは動き、静かなところは静かに。表現のメリハリも意識する。
プロデューサーは壁に背を預け、腕を組みながらじっと見守る。表情からは思考を読み取れず、不気味さすら感じるほど。
智絵里がバランスを崩しかけるが、なんとか持ち直す。
ほっとするのもつかの間、蘭子が特に苦手だと思う振り付けに差し掛かる。今度は自分自身の番である。
──ここで、こうっ!
蘭子としては、今の部分はできたはずである……多分。
「ほら、ラストスパートだぞ! 気を抜かず最後まで!」
最後の決めポーズまであともう少し。意識するポイントはすべて頭に入ってるし、手足も普通に動く。むしろ前より好調かもしれない。
「そこまで!」
聖の声が室内に響き、熱気に溢れていた室内がしんと静まり返る。誰かの小さく囁くような吐息が聞こえる。彼女は持ち込んだノートにメモをとりおえると、顔を上げいまだ呼吸の荒いアイドルたちに顔を向ける。
聖と目線があったアイドルたちは少し力んで彼女の発言を待つ。
「みんな、ご苦労だった。クールダウンと水分補給をして待っていてくれ」
聖は隣に寄ってきたプロデューサーとメモを見ながら、なにやら説明している。
会話の内容が凄まじく気になるが、耳を澄ましてもドクンドクンと脈打つ心臓の鼓動しか聞き取れない。
蘭子はタオルを手に取り、とめどない汗を吸わせる。水筒に容れてきた冷たいスポーツ飲料が喉を通り、胃に流れていく。火照った体には心地よい冷たさだ。
その場に腰をおろして、結果を待つ。
蘭子としては全力を出した。不安はあるが、今はもうどうにもならない。時間は戻らない。
「──では、そのように」
時間にして10分ほど。汗もだいぶ引いてきた頃にプロデューサーは部屋を後にした。ドアが閉まる音が合図となり、話し合いの終了を、そして結果が確定したことをアイドルたちに言葉なく伝える。
聖はこほんと咳払いをする。
「では、結果を伝える」
せっかく収まった汗がまた噴き出す。今度は冷や汗だが。
「全員、合格とする」
しんと静寂を1拍を置いて、アイドルたちの歓声がどっと弾けた。
──や、やった……!
蘭子も嬉しさを噛みしめる。きらりは「にょわぁぁぁーーーー!」と叫びながらがばっと立ち上がり、喜びを全身で表現している。ただ、いきなりはやめてほしかった。気持ちはわかるが、心臓に悪い。
パンパン。聖が手拍子を2回鳴らす。声たちはピシャッと止まる。
「静かに! きらり、座りなさい。合格の喜びはまたあとで発散してくれ」
聖に指示されて、きらりはすっと座る。
「まず今回のテストは、今までの中で一番良かったと私は思う。各々苦手としていた点をよく練習した。これは通常のレッスンに加えて、自主レッスンの成果が出ていたのだろう。よくやった」
蘭子の重ねてきた努力はどうやらしっかりと蓄積できていて、しかもちゃんと認められたのは嬉しかった。初めてのレッスンではうちひしがれていたが、続けてきて良かったと思う。
「お前たちは1歩踏み出したわけだが」
──あんなに頑張ってまだ1歩なんだ。
本当は10歩くらい進んでほしかったけど、確かな1歩なのは変わりない。
言葉を真似れば、
『数多いるアイドルたちからすれば小さな1歩だが蘭子にとっては偉大な1歩だ』
となる。
ちょっとカッコつけすぎたかもしれないと勝手に照れつつ、聖の話に耳を傾ける。
「これから、その1歩1歩を確実に積み上げていくことになる。決して手抜きのできない、苦しく辛い道になるだろう。ただ、アイドルの道はその先にしかない。これからも頑張ってくれ。私やプロデューサー殿も全力でサポートするからな」
長々と言葉を連ねていた聖は「最後に。これは業務連絡だ」と前置きをして、
「お前たちが自主レッスンをしているのは私も知っている。今日のテストにも良い結果をもたらしたはずだ。そのことについてプロデューサー殿と話し合い、原則として自主レッスンは認めないこととした」
最後にさらっととんでもないことを言う聖。
「これはお前たちだけではなく、所属するアイドル全員に対してだ。とはいえ、絶対認めないわけじゃない。希望する場合は私やプロデューサー殿に“必ず”相談すること。レッスンの進捗や健康状態を考慮して許可する」
『必ず』を強調していたから、無制限でずっと自主レッスンをするのは良くないということだろうか。まあレッスンは手段であって目的ではない。体を壊すほどやられても困るということだろう。
「さて。長くなったが、この場の全員が次のステップに進めることは大変喜ばしい。おめでとう。私もより一層指導に力をいれていこうと思う。厳しくいくから覚悟するように」
李衣菜が「え~」とこぼす。
「ほう。李衣菜は厳しくされるのが不満のようだな。なら、“もっと”厳しくしてやろう」
「ええっ!? わ、私も普通がいいなぁ~……」
「まったく。アイドルの道は甘くないからな。シャキッとしろ、シャキッと!」
「シャキッ!」
「口で言っても意味ないだろうに。っと。とりあえず私からの話は以上だ。今日のダンスレッスンはここまで!」
「「「ありがとうございました」」」
アイドルたちの返事が室内にこだました。