友人へ なぜか死んだので神に頼まれ異世界に行きます 作:ASSSr
「お前のせいで多くの同業者が死んだ、何か言うことはねえのか!?」
肩幅の広い男が少し離れたところにも十分に聞こえるような声を目の前の背を向けている少年に向けてぶつけた。
(この世界の人間は肺活量がすごいみたいだな)
そんな皮肉めいたことを思いながら肩を落とし、突き刺さった刃物が、驚いて固まっているナマド立ちに当たらないよう右回りしてその男に体の正面を向けた。
その少年見て肩幅の広い男の目が大きく開き、ギギギと歯を噛み締める。
すぐに詰め寄り、ダルそうにしている少年の胸ぐらを掴み間近でガンを飛ばした。
「ふざけてんのかテメェ!」
(なわけあるか)
「おい聞いてんのか!」
(聞こえてはいるな)
「なんとか言ったらどうだ!」
(何言ってもまた怒鳴るだろ)
しかし何を言っても厄介事を引き延ばすだけだと考え、少年はうんともすんとも言わない。
その上胸ぐらを掴まれてもなお全身の力を抜きダラけ、目の前の男に顔を向けなかった。
「テメェ、後ろの奴は仲間か?」
「...」
少年はなにも言わなかった、それにより少年とその男の間に静寂が訪れた。
だがその静寂も肩幅が広い男がナマド達とは逆の方へ少年を投げ飛ばしたことで終わった。
少年はそれを後頭部と背中全体で受け、衝撃で数回軽く跳ねたあと左腕を軸に起き上がり、首を擦りながら顔を肩幅の広い男へと向けた。
「なんとか言えよ!」
「...」
それでも少年は沈黙を貫いた。
「おい!」
肩幅の広い男が叫びながら再び少年に近付き胸ぐらを掴んだ。
「...」
しかし首を擦る少年が言葉を発することはなかった。
「謝罪すらないのか?」
それを聞いた少年のふてぶてしい態度が一瞬だけ改まった。
「...悪かった」
そして青い仮面を挟み視線が交わった時、少年から心のこもってない乾いた謝罪の言葉が聞こえた。
だが肩幅が広い男は胸ぐらを掴んでない方の拳で少年の顔の上部を狙って、思いっきり殴り落とした。
(だろうな)
そのようなことを思った少年の目元にヒビが入り、首から軋む音が小さくなる。
それについで二度目の地面との衝突で仰向けのまま天を仰ぎ、その痛みを感じる。
肩幅が広い男はそれでもまだ怒りが収まっていないとばかりに少年を跨ぎ馬乗りになって殴りがかった。
それを少年は全くもって動かずに相手のなすがままに左右の頬を交互に殴られた。
(謝って許されないのはならなぜ謝らせるんだろうか?...まあ俺が悪いんだろうな、速く終わってくれると助かる...)
両頬から伝わる痛みに耐えながら少年は自分にまたがっている肩幅が広い男の行動の訳がわからないと思い、早期解決を諦め抵抗をしなかった。
少年が馬乗りにされてから7発目の拳が振りかぶられた、しかしその拳は少年の顔に接触することなく黒い革の手袋をした誰かの手に収まっていた。
「お前達何をしてるんだ?」
メリハリのある中性より少し高めの声の持ち主がそう言い、少年達とその周囲の冒険者達の視線を集めていた。
「ネ、ネスファウス」
肩幅の広い男は自分の拳を低い姿勢で受け止めた女性にそう言った。
そのネスファウスと呼ばれた黒い鉱石に白い光を当てたような黒銀の髪とギリギリ目を奪われないほど大きな胸を装備で覆っている女性は、船でケルセから師匠と呼ばれていた人物だった。
肩幅が広い男は先程まで少年に釘つけだった視線をネスファウスの目に移し、その眼を大きく開きそこから動かなくなった。
「もう一度聞く、何をしてるんだ?」
そんな相手にネスファウスは目を細め、体制のせいで少し上がっていた顎を下げた。
「こいつが悪いんだ」
肩幅が広い男の目が動くと同時に男は、そう訴えた。
「もう数発殴ったんだろ?ならもう用はすんだよな?」
「いや、それは...」
それを聞いた肩幅が広い男の口が数回モゴモゴと動かし何かを言っているようだったが、それは馬乗りにされている少年にすら聞こえなかった。
「他に何か言いたいことがあるのか?」
「...ああ、仲間が死んだんだ、こいつのせいで」
「君たちは冒険者なんだろ?」
「死ぬ前提の仕事なんだから文句を言うなって言いたいんだろ?だけどよこいつは俺の仲間を見殺しにしたんだぞ」
「見殺し?」
「ああ、こいつは俺の仲間が助けを求めたのにも関わらず無視してどっかに行っちまったんだ」
「そういうことか、一つ言っておくけどその独特な服の少年は冒険者じゃない」
「は?そんなわけがないだろ、あそこに冒険者じゃない奴がいるなんてただの自殺行為だろ」
「だけど事実よ、もし冒険者だとしたらその軽装のどこに冒険者プレートをいれてると思う?」
ネスファウスは男の拳を受け止めた腕につけている装備の内側から少し厚みのある、1と彫られた金色の円盤を男に見せながら話した。
「そんなの決まって...いや、カクシモッテ」
肩幅が広い男は少年を跨いでいる自分の足から少年のズボンに先程目の前の女性が自分に見していた固い冒険者用の証明書がないと察し、目を大きく見開いた。
「ドケ」
そんな文言を解いたにも関わらず退かない男をネスファウスは面倒に思ったのかつかんでいた男の拳を自分の後方へ引き、拳を掴んでない方の手で肩幅が広い男の溝にその勢いのまま拳を放った。
その攻撃をまともに食らった肩幅が広い男はうっと変な声を出し、ネスファウスに拳を掴まれた状態で少年の上で踞った。
ネスファウスは瞬時に逆を向き、拳を掴んでいた手を手首に回し、後ろにいる肩幅が広い男を背負い投げかのように、前に投げ落とした。
「騒ぎは終わった、お前らも散れ」
パチパチと手を払うネスファウスはそれを見ていた外野にそう言い止まっていたもの達の歩みを進めさせた。
「独特な服の奴大丈夫か?」
ネスファウスは振り返り腰を曲げ、石のレンガで作られた地面に寝っ転がっている少年に手を伸ばした。
しかし少年は顔を動かしそれを一瞬だけ直視した後、その手を取らずに一人でゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、ケルセを助けてくれて」
そんな少年の態度を気にせずネスファウスは立ち上がった少年の背中に向かってそう言った。
「...これでチャラだ、じゃあな」
その声は少年の安定した言葉より少し低く、何処か冷たい声色だった。
「待ってくれ...」
ネスファウスの返答の途中で足元から姿が消えていく少年が完璧に透過し言葉が中途半端に響き終えた。
そして透過した少年はナマド達の方まで歩きナマドの肩を叩いて、初めて来た色取り取りな町の道案内を頼むのだった。