英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 新年あけましておめでとうございます。
 初投稿となります。
 読み専でしたが、自分も書いてみたいと思い挑戦しようと思いました。
 どうか温かい目でお読みください。


序章 巡り合う二つの金
第一話 暗殺者の少女


 七耀(しちよう)暦1201年 クロスベル自治州 ウルスラ間道 3月18日

 

 夕日が地平線へと沈み、景色が赤黒く染まっていく時間。ウルスラ間道はずれの浅瀬に一人の男が立っていた。

 白いシャツに黒のスラックスを着ていた十八歳の青年だった。手には釣竿が握られており、足は太ももまで湖につかっていた。

 湖と同じように透き通った蒼色の瞳はいつでも釣れるようエルム湖の水面をじっと睨んでいた。

 

「……釣れない」

 

 男はその場で肩を落としため息をついていた。視線の先には自分の顔が水面に写っていた。

 東方出身の特徴である黒い短髪は、夕日に照らされて、その色を黄金(こがね)色に染める。

 

 ぐぅぅぅぅ~~~~

 

「魚……、今日の俺の晩飯……」

 

 突如、腹から鳴り響く拍子抜けな音に男の目は、まるで死んだ魚のように徐々に光を失っていった。

 男は今日の晩飯のために釣りをしていたようだが、釣りを始めてからまだ一匹も釣ることができていないようだった。今日の成果に落ち込んでいる男は顔を上げて間道方面に目を向ける。

 

「……今から森に行っても夜になっちまうし、かといってこのままじっと待っても釣れるかどうかもわからないし……」

 

 男は魚が釣れるまでやり続けるか、森に入って食材を取りに行くかと今日の晩飯をどうするのか、声を唸らしながら悩み始めるのだが、

 

 ぐぅぅぅぅ~~~~

 

「……食わないよりマシか」

 

 再び鳴り響いた腹の音。それが決め手となり、男は釣りは諦めて、森で食料を調達することにした。岸の方へと身体を向け、森へ向かう準備をするために湖から出た。その時――、

 

 ……ああぁーーーーーーー!!

 

 叫び声が浅瀬の方まで届いた。かなり遠くから聞こえた大声に男は勢い良く顔を上げ、間道の方に視線を向ける。

 ただの叫び声ではない。何かに怯え、恐怖したことで発せられた悲鳴。

 尋常ではない事態が起きていることを察した男は、持っていた道具をその場で手放して、かわりに近くの岩に掛けてあった黒のコートと武器を手に持った。

 コートを羽織りながら浅瀬を抜き、間道につなぐ階段を駆け上がる。叫び声がしたと思われる場所にたどり着き、足を止める。そこには人の姿は一人もいなかったが、まるで大きな岩が上から落っこちてきたかのように大型の運搬車はへこんだ形で倒れていた。

 

「事故? それとも魔獣か…? いや、これは…」

 

 男は倒れた車へと近づいて調べ始めた。そこには穴がぽっくり開いていた。穴は人間一人が入るくらいの大きさだった。

 

「押しつぶされたというより、貫通した跡だな」

(だが、導力(どうりょく)灯があるこの間道で魔獣に襲われることなんてあるのか?)

 

 男は周りに車を貫通させるようなものがないことから、魔獣に襲われたのではないのかと考えた。

 しかし、間道には魔獣除けの導力灯があり、故障でもしなければ魔獣が近づくようなことはない。

 男は周辺の導力灯を確認したが、全ての導力灯には光が灯っており、故障したものは見当たらなかった。

 

「魔獣じゃない? じゃあ一体誰が……」

 

 魔獣の襲撃の可能性が低くなり、人為的に襲われた可能性が出てきた。

 別の推測をした男は、周辺を歩き始める。他に手がかりがないのか目を凝らしながら探す男。

 探し始めて数分、間道はずれにある草むら付近まで探索していた男は、何かに気づきその場で膝を着く。

 

「これは、血か」

 

 男はかすかに草に付いていた血を発見した。その場で周辺を見渡すと、他の場所にも血がついていた。まるで道を作るかのように森の方まで続いていた。

 

「急いだ方がよさそうだな」

 

 車に乗っていた人は何かに襲われ、逃げるために森の方へ逃げたのだろう。

 男はすぐに森へ向かうため、その場から立ち上がる。すると――、

 

 ……ォォォォ!

 

 雄叫びが響いた。

 遠くから聞こえてきたにも関わらず、男の所まで届き、その頬を少し揺らした。

 

 ―― シン シン

 

 先程の雄叫びとは違う音が、森の中から。

 

 ――ドシン! ドシン!

 

 地面を叩きつける鈍い音が地面を揺らしながら近づいていき、森の中から大きな影が出てきた。

 ヤギを思わせるような二本の巨大な角。

 白い毛でおおわれた、大木くらいの太い腕。

 男の背丈を越え、三アージュ以上にも届く巨大な魔獣――ゴーディ・オッサーが姿を現した。

 

 グゥオォォォォォォ!!

 

 魔獣の眼光が男を捉える。男を獲物だと判断したのだろう。獲物が逃げないよう雄叫びを上げながら男に襲いかかった。

 地面を大きく揺らしながら徐々に距離を縮めてくる魔獣。

 しかし、男は逃げることせずに足を前に踏み出し、魔獣に向かって走り出す。

 魔獣は一撃で仕留めようと拳を上に高く振り上げる。

 男は腰にかけた武器に手を差し伸べる。

 

「邪魔だ」

 

 ――キンッ!!

 

 男は拳を振り下ろした魔獣の横を通り抜き、そのまま森の方へと姿を消した。

 魔獣は時が止まったかのように、その場から一歩も動かなかった。

 なぜ動けないのか疑問に思い始めたその時、自分の視界が徐々に下へと移動し始める。

 魔獣の上半身が地面に落ちた。

 腹から2つに斬られた魔獣は絶叫を上げることなく、何もわからないまま消滅した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 ウルスラ間道近くにあるエルム湖湿地帯。血が流れている腕を抑えた青年が顔を真っ青にしながら、薄暗い道を必死に走っていた。

 青年は、仕事でウルスラ間道の先にある《聖ウルスラ医科大学》に荷物を運んでいた。今日も新しい医療機器を導力車で医科大学へと運搬していた。

 しかし、突如、車に衝撃が襲い掛かり外に投げ飛ばされた。地面に叩きつけられ体中に痛みが走ったが、何とか立ち上がり車を見た。

 車は上から押しつぶされた形で倒れていた。青年は目の前の光景に口を開いたままその場で立ち尽くした。

 

「ターゲット補足。イシュタンティ」

 

 すると、上の方から声が聞こえた。 青年は空を見上げると、何かが突っ込んできて自身の手を自分に向かって振り下ろしてきた。

 咄嗟のことに驚いた青年は後ろに倒れたが、腕から強烈な痛みが走った。尻もちをつき、痛みに耐えながら、視線を自身の腕に移した。腕にはナイフのような鋭利なもので切られた痕、傷口から血が腕を沿って下へと流れていた。

 青年は腕を抑え、襲い掛かったものを確認しようと前を向いた。視線の先にいたのは人どころか魔獣ですらなかった。

 背中に2つの翼を広げながら、宙を浮いていた人形が立っていた。翼を生やしたその姿はまるで天使のようだった。

 しかし、その姿とは裏腹に人形の手は鋭い爪が研ぎ澄まされおり、そこには赤い血がべったり付いていた。青年は自分を襲ったのはこの人形だとすぐに理解した。

 人形はその場にただずんでいたが、ゆっくりと動始め、青年の方へと近づいてきた。青年はすぐさま後ろに振り向いて、今まで発したことがない大きな悲鳴を上げてその場から逃げていった。

 その後のことはほとんど覚えてない。

 死にたくない。

 ただその一心で天使から少しでも遠ざかろうとすることしか頭に入っていなかった。

 逃げている間、木の枝がぶつかり、顔にはいくつもの傷が付いたが痛みを感じなかった。

 少し肌寒い時間帯にも関わらず、青年の背中は汗でびっしょり濡れていたが不快感を感じなかった。

 青年は走った。ただ生きたいために全力を振り絞って走り続けた。だが、とうとう体力の限界が訪れ、青年の足が止まってしまった。

 

「ハァッ、ハァッ……」

 

 すでに夕日が沈んで夜になっていた。暗い森の中で青年は膝を地面に着いて息を整えていた。

 

「ハァッ、ハァッ……、こ、ここまで来れば……」

 

 青年は後ろに振り向いて誰もいないことを確認する。助かったのだとわかり、体を震わせていた。だが――、

 

「終わりですか」

 

 青年の息が一瞬、止まった。前から聞き覚えのある声が届いた。その声は人形が現れた時に聞いた声と同じだった。目を大きく開きながらブリキのようにゆっくりと首を前に戻す。目の前には後ろから迫っていたはずの天使の形をした人形が空中に浮かんだまま、青年を見下ろしていた。

 

「な、なんで……」

「好都合です。ここならば誰にも気づかれずにすみます」

 

 人形の後ろにある木の陰から先程の声が聞こえた。夜の暗がりで姿はまったく見えないが、その影は子供くらいの背丈をしており、声からして女の声だった。

 

「ど、どうして俺を狙うんだ!」

 

 青年はなぜ自分は襲われているのか理解できず、影に吠えた。

 

「依頼です」

 

 しかし、影は特に声色を変えることなく答えた。

 

「それでは、これで終わりです。イシュタンティ」

 

 影の声に反応した人形――イシュタンティは翼を広げ、血が付いた腕を上げながら青年に突っ込んできた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 青年は目の前から迫ってくる「死」にただ悲鳴を上げることしかできなかった。

 

 

――八葉(はちよう)一刀流 壱の型

 

 

 その時、青年とイシュタンティの間に何者かが入ってきた。

 割って入ったその人物は手に持っていたものを構えイシュタンティに向かって振るい上げる。

 

螺旋撃(らせんげき)!!」

 

 すると赤い突風が吹き荒れ、イシュタンティは木を何本も倒しながら吹き飛ばされた。

 

「っ!?」

「な、何だ!?」

 

 影と青年はイシュタンティが吹き飛ばされたことに驚き、突然入ってきた人物を見た。

 そこには、黒髪に蒼い目をした男が剣を持ちながら立っていた。

 

「あ、あんたは?」

 

 青年は男に声をかけたが、男は青年に振り返らなかった。

 

「ここは俺が何とかするから、ここから離れろ」

「えっ」

「早く行け!」

「は、はい!!」

 

 男の切羽詰まった大声にびびりながら青年は振り返らず、その場から離れていった。

 男は青年が遠ざかっていくのを感じながら、木の陰にいる影から目を離さなかった。

 

 ドンッ!

 

 すると、倒れていた木の山の中から大きな音をたてて何かが出てきた。

 イシュタンティが上に積まれていた木を吹き飛ばし起き上がったのだ。

 イシュタンティは翼を広げながら、その場から飛び立ち、影を守るかのように降り立った。

 

「《風の剣聖》……、いえ、武器は似ていますが、外見的特徴はまったく違いますね」

 

 影は男の武器を確認し、ある人物を思い浮かんだが、男の容姿を見てすぐに否定した。

 男の剣は店でよく売られている両刃の剣ではなかった。刃は片側しかなく、通常の剣より反りがあった。東方の剣、太刀と呼ばれる武器だ。

 そして、クロスベルで太刀を使う剣士は彼女の先ほど言った《風の剣聖》しかいないはずだった。

 

「何者ですか?」

 

 影は突然現れた謎の男に警戒する。男の方も警戒しながら剣を構え、目の前の天使と影をじっと睨んでいた。

 

「お前こそ何者だ? どうしてあの人を襲った?」

 

 男は影がただの民間人ではないことを察し、逃げた青年を狙う理由を尋ねた。

 

「依頼です」

「依頼?」

「はい。先程の男の始末するよう依頼されました」

 

 男は影の返答に目を丸くする。影は青年を暗殺する依頼を受け、襲いかかったのだ。

 

「お前、人を殺すことを何とも思わないのか?」

 

 男は人を殺すことに嫌悪感や拒否感をまるで感じていない影に、疑念を抱かずにいられなかった。

 

「……特に何も、どうでもいいことです」

 

 影は起伏がない声で淡々と返答した。

 

「これ以上は時間の無駄です。依頼の範囲外ですが障害となるのならあなたも排除します」

 

 影は木の陰から出てきてその姿を現した。雲にかかっていた月が姿を現し、影を照らしていきその正体を明かす。

 影の正体は十代前半くらいの可愛らしい少女だった。少し傷んでいるが綺麗な白い髪を風になびかせながら、少女の赤い目は目の前の男をじっと見ていた。

 体には包帯が巻かれており、その上に白いマントが体を覆い隠すような恰好で着ていた。

 

「お前は……」

 

 男は少女の姿を見て、僅かに目を見開いた。

 子供くらいの背丈をしていたが、本当に子供だったことに驚きを隠せなかった。

 だが、それ以上に男はもう一つのことに驚いていた。

 彼女の顔には喜怒哀楽といった表情がまったくなく、その目には光がなかった。

 あの人が作り続けている人形みたいだ。

 

「――イシュタンティ、モード《暴君(ドミナトゥス)》」

 

 少女の声に反応し、イシュタンティの翼が二つから四つに増え、異様なプレッシャーが男を襲う。

 

「その人形……、《古代遺物(アーティファクト)》か」

 

 プレッシャーを肌で感じながらも男は顔色を変えずに、イシュタンティの変貌を観察していた。

 《古代遺物》。

 大崩壊以前にあった古代ゼムリア文明の時代に作られたとされる遺物。

 現代の技術でも解明することができず、中には軍隊を1つ滅ぼすほどの強大な力が秘められているものもあると言われている。

 少女は男の質問に答えることなく右手を上げ、手の甲を見せるようにして構えた。

 

「《黄金の庭(アウルムガーデン)》の管理人オランピア、参ります」

 

 少女――オランピアはイシュタンティに指示を出し、男に襲い掛かる。

 男は息を整え、意識を集中する。剣を強く握りしめて、前に構える。

 

「八葉一刀流 エド・ヴェルガ、行くぞ!」




 序章までは、連日で投稿しようと思います。
 次回、第2話「《金》のオランピア」
 お楽しみください!
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