それではご覧ください!
休養を一日取り、決戦の準備を整えたエドとオランピアは、グンターが所有するメルカバ八号機に乗り換えて、アルテリア法国の上空を迂回していた。
「作戦開始まであと、十分を切りました」
「周囲の警戒を怠るな。奴らが襲撃してこないとも限らない」
「イエス・キャプテン」
「バルクホルン卿。各勢力のチームが目標のポイントに到着したとのことです」
「回線はいつでも繋げられるようにするのだ。シモンが現れ次第、すぐに現場へと向かう」
「イエス・キャプテン」
「もうすぐですね」
「あぁ……」
グンターが従騎士たちに指示を送っている中、迫りくるタイムリミットに息を飲むオランピア。緊張して強張る彼女の背中を、エドは優しくさすって落ち着かせるのだった。
「……(そわそわ)」
「セリスさん。少しは落ち着いたらどうですか?」
「うるせぇ。アタシは大丈夫だ」
「今になって緊張するなんてあなたらしくありませんね」
「緊張なんかしてねぇよ。……ようやく全部に決着がつけられるって武者震いしてるんだ」
セリスとリオンはいつものようなやり取りをくり広げる。やれやれとグンターは苦笑いする中、後ろを向いて、エドたちを見る。
「エド。そちらの準備も問題ないな?」
「あぁ。じっちゃんからもらった服もだいぶ着慣れたって感じだ。戦闘には問題なく動けるぜ」
「そうか。オランピアよ。お主は?」
「私も問題ありません。イシュタンティ共々、いつでもいけます」
エドが着ているのは黒とグレーを基調した法衣。白いコートを羽織り、腰には八葉の魂である太刀と、戦術オーブメントが備え付けられていた。
一方、オランピアが着ているのは、白い足袋と踵部分が少し高い草履、動きやすい緋色の行灯袴、染みのない白衣。腰には愛用の小太刀を差し、袖の部分には少し弄って戦術オーブメントが取り付いていた。母から受け継いだ巫女装束。普段のワンピース姿とは違い、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「うむ。その姿を見ると、若き日のオーバを思い出すの」
「まぁ、孫だし、元々はおじいちゃんのお下がりだからな」
「ははは、たしかにそうだな。それにオランピアもよく似合っておるぞ」
「あ、ありがとうございます。えっと、エドさんはどう思いますか?」
「んあ? ……よく似合ってると思うが」
「……はい!」
「おい、イチャコラしてんじゃねぇぞ、テメェら」
エドたちのやり取りに青筋を浮かべるセリスはエドの後ろに回り、彼の頭を鷲掴みにする。ミシミシと嫌な音を立てながら、頭からくる圧力が少しずつ強くなっていく。
「イテテテテテ!! セ、セリス! 落ち着けって!」
「あぁ、落ち着いてるぜ。なんなら、ついでに首を絞めてもいい!!」
「殺す気か!!」
「人前でイチャコラしてる、オメェがわりぃ!」
「いや、だからイチャコラじゃなぇって!」
「なにやっているんですか、お二方……」
セリスは指先の力をさらに入れ、エドは振り払おうとするが外れない。そんな痴話げんかのような二人のやり取りにリオンは呆れてしまっていた。それに対してオランピアは顔をふくれ面になりながら二人の様子を睨んでいた。
「お主ら、そろそろ時間じゃ」
そこにグンターが静かに制止する。四人は動きを止めて、モニターの方に目を移す。
「そういやよ。龍穴を確保する面子ってどうなってるんだ? 教会からはお師匠さんが出るっていう話だったけどよ」
「あぁ。他にもトマス殿とワジ、アッパスも参加する予定だ」
「他は遊撃士に猟兵、あと結社か」
「猟兵というと、西風の皆さんでしょうか?」
「たぶんそうだろうな。村でお師匠さんが、猟兵王になにか話していたからな。あの時に協力のお願いをしたんだろう」
「では、残ったに勢力はどんな方々が?」
「先生、何かご存じですか?」
「あぁ……、たしか……」
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遊撃士 side
「そろそろ時間だ。全員、準備はいいな」
「えぇ。龍來での失態をここで巻き返してみましょう」
「こっちも負けてられないわよ、トヴァル!」
「おう!」
龍穴があるポイントへと向かうのはカシウス、ジン、サラ、そしてトヴァル。シモンとの戦いで負傷していたジンたち三人はすでに回復していた。サラとトヴァルの若者組は自分を打ち負かしたシモンに対して、リベンジに燃えていた。
「お前さんら、目的はあくまで龍穴の確保だ。リベンジしたいのはわかるが、それはエドたちが来てからだ」
「大丈夫ですよ。そこはわかってますから」
「悔しいが、敵の親玉と戦えるのはエドだけだしな」
若いとはいえ、高位のランクを持っている遊撃士。自分とシモンとの実力を客観的に理解していた。
「カシウスさん、どうかしたんですか? さっきから、ずっと黙ってますけど」
「いや、少しな……(なんなのだ、この感じは……)」
いきなり黙ってしまうカシウス。根拠はない。だが言い知れぬ違和感にカシウスは顔を顰めるのであった。
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結社side
「レーヴェだけじゃなくて、あの《咆天獅子》も倒しちまう相手なんだろう? ククク……、血が騒ぐじゃねぇか」
黒いスーツにサングラスをつけた男――《痩せ狼》ヴァルターはその異名にそぐわない猛獣のような笑みを浮かべながら闘志を燃やしていた。
「まぁ、うちとしては旦さんがやらかした結果さかい、手を貸さんわけにもいかへんからなぁ」
「レティ。そういえば、《庭園》を立ち上げたのって《破戒》のおじさまだったっけ?」
「正確に言うと、壊滅状態の《木馬》と教団のメンツを合流させただけなんやけど。さすがにここまで膨れ上がるとは思わんへかったわ」
「《庭園の主》シモン・グレラス。リベールでレーヴェに重傷を負わせた男。レンの大事なレーヴェを傷つけた落とし前、きっちり払ってもらわないとね。ね、パテル・マテル」
黒いドレスに目元をベールで隠した金髪の女性――《黄金蝶》ルクレツィア・イスレが困ったように笑う中、隣でおもしろそうに、だが、その目には隠しようのない殺意を込めた菫色の髪をした少女――《殲滅天使》レンは後ろで静かに佇むゴルディアス級人形兵器――パテル・マテルを見上げていた。
「皆さん、そろそろ時間です」
そんな三人に声をかけるのは、銀の鎧と兜を纏った結社最強――《鋼の聖女》アリアンロードだった。
「そういえば、あの三人はどうしたのかしら?」
「たしかにおらへんな。あの三人、特にあのお転婆っ娘は絶対に付いてくると思っていたんやけどな」
「彼女たちは別行動をとらせました。……少し、妙な感じがしたので」
沈黙してしまったアリアンロード。兜面で隠れた顔はいつにもなく険しいものに変わっていた。
~~~~~
「……ヤバすぎだろ」
作戦に参加する者たちを知ったエドはそんな感想を呟く。
S級を筆頭にA級が二人。そして、アーツの腕ならばA級クラスの遊撃士チーム。
結社きっての戦闘狂に、最強格の執行者が一人。最高傑作の人形兵器とそれを従える天才少女。そして、武の至高ともいうべき、最強の使徒。
その気になれば、一つの組織を壊滅することだってできる錚々たるメンバーにエドも思わず、恐れ戦いてしまう。
「どこにシモンが現れるか、わからないからな。奴と対抗できるメンバーで参加するのが最低条件だ」
「未来改変ですね。正直、勝てるイメージが思いつきませんね」
「そのための俺たちだろう。シモン先生の能力を完璧に対応できるのは、今のところ俺とオランピアだけだからな」
他に対抗できる者がいるとしたら、それこそ今回の作戦に参加しているカシウス、アリアンロード、アイン、そして、ルトガー。各勢力の筆頭である彼らくらいだろう。事実、アリアンロードとルトガーにいたっては、シモンに傷を負わせることができた。過剰な戦力だと思うが、今回にいたってはこれがベストだ。
「作戦開始まで、後一分です!」
「いよいよか……」
艦内の空気が緊張感に包まれる。一気に静寂に包まれた空間で全員がその時を待つ。
(……なんなんだ、この違和感)
そんな中、エドはどこか落ち着かない様子で時計を見ていた。何かが引っかかる。何かを見落としているような……
「……っ!」
「エド!」
「エドさん!」
その時、エドが目元を抑えて膝を着いてしまう。直接、針にでも刺されたかのような激痛。燃えるような激痛にエドは以前にも経験があった。
(こいつは……ノルドの時の……)
そんなことを考える中、エドの意識が深く沈んでいった。
~~~~~
そこはどこかの地下遺跡か。窓のない土と岩で作られた古びた教会のような場所。その中央にある祭壇のような場所にシモンが静かに立っていた。
「作戦が始まったか。しかし、見るからに錚々たるメンツだな」
シモンは祭壇に置かれている水晶を覗き込むとそこには龍穴へと向かっている各勢力の姿が映っていた。
「……見ているのだろう? エド君」
何もない場所に振り返り、ひとり言を呟くシモン。だが、まるでそこに誰かいるかのように、笑みを浮かべながら話を進める。
「私はここにいる。そこで我々は待ってるよ」
景色が少しずつ遠のいていく。シモンは深い笑みを見せながら、水晶に手を掲げるのであった。
~~~~~
「おい! エド!」
「エドさん! しっかりしてください!」
「ぐぅ……」
膝を着いて頭を抱えていたエドはオランピアたちの声に意識を取り戻す。
「い、今のは……」
「エド?」
「っ! おい今の状況は?!」
エドは先程の光景を思い出したのか、切羽詰まった勢いでグンターに近寄る。
「作戦開始と同時に龍穴の周囲に結界が張られた! 参加していたメンバーが全員、閉じ込められた!」
「くっ!!」
嫌な予感が当たったからか、エドは顔を歪ませる。そこにリオンがエドに近寄る。
「エドさん。先程の反応、まるでなにかが起きたのを知っていたような感じでしたが……」
「……あぁ。さっき視た」
重苦しい顔をしながらエドは立ち上がる。
「シオン先生はいない。全員が中に入っていくのを確認した後に結界を張ったんだ」
「まさか、全部、囮だったということですか?」
「あぁ。目的を達成するために、自分を倒せる存在をばらけさせて罠を張っていたんだ」
エドはその場で強く地団駄を踏んだ。
「クソッ! 予想してしかるべきだった!」
「ど、どういうことですか?」
「全部、先生が仕組んだんだ。例の未来改変で俺たちの行動を確定されていたんだ!」
「え!」
「龍穴を確保するという作戦も、各勢力の最高戦力をその場に送り込むことも、全部、操作されていたんだ!」
「なっ……」
「さらには未来改変されていることに気づけない未来を選択してな! ちっくしょ! 拭いきれなかった違和感はそれだったか!」
「じゃ、じゃあ、シモン先生はどこに隠れてんだよ!」
「…………」
セリスの問いかけにエドは押し黙る。
古びた教会。その中央にあった祭壇。それにエドは見覚えがあった。忘れてしまった記憶の中で、唯一残っていた光景。
「エドよ。もしやと思うが、お主が知っている場所なのか?」
「…………教団ロッジ」
「え?」
「俺が七年間、過ごしてきた元教団ロッジだ」
エドが告げた場所に全員が目を丸くする。
「エドさんが過ごしたロッジって……」
「エドがアルマさんと一緒に抜け出した場所か」
「まさか、あそこにいるとはな……。これも運命というやつか」
驚愕する者、眉をひそめる者、顔をしかめる者など、その反応はさまざまだ。
「……エドさん。この際ですから、一ついいでしょうか?」
「……なんだ?」
「どうして、居場所がわかったのですか? 先程、『視た』とおっしゃってましたが、あなたの《魔眼》にはそのような力はないはずです」
リオンはエドに起きた不可思議な現象に疑問を覚えていた。エドの《魔眼》は見えないものを見るようにすることができる「強制視認能力」だ。だが、その能力の範囲はエドの視界内の話であり、どこにいるのかもわからない人物を大陸内から探し当てることはできない。
「《魔眼》の力が上がっている。そうとしかいえない」
「力が上がった?」
「少なくとも、《古代遺物》の……、いや、もしかしたら《原初》レベルまで上がってるかもしれない」
「そ、それって大丈夫なのか?!」
《魔眼》の正体を知っている一同は驚愕し、セリスはエドに詰め寄る。魔王をも凌駕する力がエドに何かしらの影響を与えるのではないかと気にせずにはいられないのだ。
「今のところは問題はない。だけど……」
「この後、何も起きないとは限らん。このまま放置するわけにはいかんな」
グンターは顔を引き締めて正面を向く。
「発進する! 各自、準備につけ!」
『イエス・キャプテン!』
従騎士たちがグンターの指示に迅速に動き出す。艦内が揺れる中、エドは深刻な表情を浮かべていた。
(シモン先生は間違いなく俺を待ち構えている)
一番の障害であるエドを足止めしなかったシモン。誘っているのだ。《庭園》の全勢力を持って、エドが来るのを待っているのだ。
「エドさん」
エドの手を優しくギュッと握るオランピア。それに驚くエドにオランピアは優しく微笑む。
「大丈夫です。私が、セリスさんたちが付いてます。今度こそ、全てを終わらせましょう」
「……そうだな」
握った手を握り返すエド。少女の温もりを感じながら、エドは決戦の地へと向かうのであった。
巌窟王は男性キャラの中では一推しですね。
ちなみに女性の方は新章ヒロインだった彼女の自称姉です。(ほぼ同一人物だけど……)