英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第百五話 始まりの地にて

 ギースをリオンに預けたエドはオランピアとセリスを引き連れて、旧ロッジの中へと入る。薄暗く、壁に立てられている松明しか明かりはなかったが、《魔眼》を開いたエドが二人を引き連れて先行する。

 

「少し、埃っぽいですね」

「特に触るようなものがねぇから、ここはただ素通りしているだけなんだろう」

「足元に注意しろよ。結構、ガラクタが多い」

 

 見えづらいが地面には何かの機材などが散らばっており、それらの上には埃が被さっていた。

 

「こんな場所で実験が行われていたなんて……」

 

 オランピアは暗い顔をしてうつむく。今の自分とそんなに変わらない子供たちがこの場所で想像を絶する悲惨な日常を過ごしていたのだと思うと、とてもではないがいい気分にはなれない。そして、正にその想像を絶する日常を体験した青年に、オランピアは視線を送る。

 

「人どころか、魔獣の気配もないな。襲撃する気がないのか?」

 

 いまだ敵が現れないことに不信感を抱くエド。周囲を警戒しながらゆっくりと前に進む。そこにセリスが後ろから声をかける。

 

「エド、大丈夫なのか?」

「ん? なにがだ?」

「いや、だから……」

 

 いつも堂々としているセリスが珍しく戸惑っている様子だった。おそらく、オランピアと同じ心境なのだろう。そんな二人の様子に聞きたいことを察したのか、エドはフッと笑みを浮かべる。

 

「心配すんなって。別に気にしていねぇからよ」

「そう、なのか?」

「あぁ。前にも言ったが、思い出そうにも思い出すことができないんだ」

 

 エドは実験の末に記憶を失っており、ロッジにいた頃のことは覚えていないのだ。

 

「ま、思い出したとしても、いい思い出はないだろうがな」

「エドさん……」

 

 なんでもないと言わんばかりの態度で二人を安心させるエド。その様子に嘘がないとわかったからか、オランピアたちはホッと息を吐く。

 

「……そんなことよりもお前ら、気をしっかり持てよ」

「どうしたんだよ?」

「広いところに出るぞ。警戒しとけ」

 

 そう言って、エドたちは武器に手をかけながら、歩を進める。

 

「……ここは?」

 

 エドたちの前に広がるのは土一色で作られた広いドーム。道中にあった機材のようなものはなく、中心にポツンと残された白いデスクのようなものが妙に目立っていた。

 

「なんだこれ?」

「何かの染み、でしょうか?」

 

 白いデスクに集まるエドたち。端部分に飛び散るように広がる黒い染みにセリスたちは首を傾げる。

 

「こいつは血だな」

 

 だが、エドだけはそれが何なのか、すぐにわかった。

 

「血?」

「あぁ。血は空気に触れると固まって黒く変色する。これは飛び散った血の名残だな」

「で、でも、どうして端っこ部分だけなのですか? それに量もかなりのものです」

 

 エドは改めて、白いデスクを観察する。血の跡があるのは片側の隅っこ部分。中心と反対側には血の痕跡は一切なかった。そして、血が付いている部分も不思議な飛び散り方だった、隅の中央部には血が付いておらず、そこを避けるような形で周囲に飛び散っていた。

 

「ここはおそらく……」

「《魔眼》を目に宿す儀式場だよ」

「「「っ!!」」」

 

 突如、上から響いた声にエドたちは顔を上げる。そこにいたのはエドたちが思っていた人物だった。

 

「《皇帝》!」

 

 《庭園》の一つ《剣》の管理人――《皇帝》がゆっくりと空から地面へと降り立った。

 

「エデン村以来だな。オランピア、そして、《黒金の剣聖》」

「まずはお前が相手か。そして、お前がここにいるってことは……」

「あぁ。我らのリーダー、シモン・グレラスもここにいる」

「おい! それよりも、さっきの話だ!」

 

 セリスが二人を押しのけて、前に出る。その目は今にも襲い掛からんと《皇帝》を睨みつける。

 

「ここが《魔眼》を宿す儀式場ってのはどういうことだ?!」

「言葉通りの意味だ。そのデスクに子供を置いて、その目に《魔眼》を宿そうと儀式という名の人体実験が行われてていたんだよ」

「こ、ここで、ですか」

 

 オランピアはおそるおそる白いデスクを注視する。この白いデスクに小さかった頃のエドが寝かされ、あの眼を宿らされたのだ。

 

「だが、この儀式は難しくてな。失敗すれば、脳が耐えきれず破裂することもあったらしい」

「脳が破裂……、っ! まさか、あの染みって!」

 

 セリスは再び、白いデスクを見るよく見れば、血が飛び散っていない中央部は丸い形状で残っていた。そう、ちょうど子供の頭一人分の大きさでだ。

 

「察しがいいな。我も初めて聞いた時は、恐れおののいたものだ」

「《D∴G教団》……。どこまで、クソ野郎な連中なんだ!!」

 

 あまりの非道な所業にセリスの怒りが爆発する。そんな彼女の様子を無視して、エドとオランピアの二人に向き合う。

 

「さて、まずは二人に称賛を与えよう。よくぞ、我ら《庭園》の猛攻を何度も退けて、ここまで来たな」

「お前から、そんなものをもらっても嬉しくもなんともねぇな」

「ふっ、まぁ、ありがたく受け取るがいい。これが最後になるのだからな」

 

 リベールや龍來の時とは違う。それ以上に濃厚で強烈な殺気をエドたちにぶつける《皇帝》。本気で殺しにくるというのが、嫌でも伝わってくる。

 

「今回はシモン先生から特にオーダーはないのか?」

「あぁ、ないな。今までは悪魔を召喚することが最優先事項だったからな。お前たちの始末は二の次だったのでな」

「やっぱりか。悪魔を顕現させたのは、封印された魔王を復活させるためだったのか?」

「あぁ。悪魔はただ現れるだけで霊脈に異常をきたす存在だ。悪魔を次々と顕現させて、霊脈を何度もかき乱すことで霊脈を不安定な状態させる。そうしなければ、かの魔王は復活しないようでな。貴様が出会った奴ら以外にも、他の場所で悪魔を何度も召喚していた」

「大陸のあちこちで霊脈が活発化していたのはそれが理由か」

 

 霊脈の異常を感知して各地に出向いていた星杯騎士であるセリスは、事の原因の正体を知り、納得していた。

 

「だが、今はもうその命令もない。今日こそ、貴様ら二人を確実に始末してやる!」

「よほど、俺たちを殺したいみたいだな」

「当然だ。貴様ら二人は我の手で絶対に殺す。メルキオルたちに譲りはしない」

 

 《皇帝》はエドたち、特にオランピアの方に殺気を向ける。見られていることに気づいたオランピアは、ビクッと身体を揺らすが、最初の時とは違って怯む様子はなかった。

 

「ふんっ、随分と変わったな、オランピア。人形だったあの頃とは大違いだ」

「あの時とはもう違います。私はもう自分の足で歩んでいけます」

「大きく出たものだな。一人では何もできん小娘が……」

「たしかにそうかもしれません。……私は何もわからないただの小娘でした」

 

 彼女の頭に過るのは、《皇帝》と初めて会った頃の自分。

 

「考えることを捨てた私は、あなたに誘われて《庭園》に入りました。それから、私は何の罪もない人たちをこの手で殺めてきました。あの時の私は自分が何をしたいのか、どうしたいのか何もわからず、ただ与えられた命令に従うだけの人形でした。……でも」

 

 オランピアは横に並び立つエドを見つめる。

 

「エドさんと出会って、彼に引っ張られて、たくさんのものを、たくさんの人たちと触れ合いました。そのおかげで私は少しずつ変わることができました」

 

 最初は戸惑うばかりだった。自分は本当にここにいていいのか。自分は表の世界で生きていていいのかと。

 だって、自分は散々、たくさんの人をこの手にかけてしまった。彼の母親も自分が殺してしまった。

 自分は平穏を望んではならない。自分はここにいてはならないと。

 だけど、そんな私を彼は無理矢理、表の世界に連れて来てくれた。

 

「エドさんのおかげで、私はここに立っています。そして、私はこの場所にずっといたい。だから、私は決着をつけるためにここに来ました」

「決着だと?」

「はい。《庭園》の管理人だった者として、私が罪を重ねてきた居場所を私の手で終わらせる。そのために《皇帝》。私はあなたを全力で倒します」

 

 決意を込めた眼で小太刀を《皇帝》に向けるオランピア。初めて出会った頃よりも遥かに成長した少女の姿にエドは自然と笑みを浮かべるのだった。

 

「……ふ、フハハハハハ!!」

 

 オランピアの宣言に少し唖然としていた《皇帝》だったが、すぐに豪快な笑いだし、フロア中に響き渡った。

 

「我を倒すか! ずいぶんと成長したものだ。だが《庭園》が滅ぼうが関係ない! 貴様がどれだけ変わろうとも、どれだけ努力しようとも人が貴様を見る目は変わることはない!」

 

 ギラついた笑みで語る《皇帝》。だがどこか憤っているようにも見えた。

 

「何をそんなに苛立ってやがる。リベールや龍來の時でもそうだったが、えらくオランピアにきつく当たっていくるな……」

「事実を言ったまでだ。人というのはどこまでいって愚かで醜い生き物だ。己の願望のために他者を裏切り、蹴落とし、最後には自ら破滅するんだ!」

 

 《皇帝》の脳裏にチラつく光景。それは《庭園》に入る前。自分がまだ皇族だった時の光景だった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 我は小さな王国を治める皇族の一人。次期皇帝を約束された皇帝の息子だった。

 皇帝だった父は正に暴君ともいうべき男だった。民を圧制し、臣下を下僕のように扱い、使えないと判断したら簡単に切り捨てる。誰もが父に平伏し、父の顔を毎日窺うのが日常だった。

 当時の我は甘っちょろい男だった。圧政に苦しむ民の姿に心を痛め、国のために働く臣下を簡単に捨てる父をひどく嫌悪していた。その時の我は誓ったのだ。民を救い、臣下を救い、国を救う。そのために父を蹴落として良き王になろうと。

 そのために我はいろんな努力をした。

 我の意見に賛同する同士を集めるだけ集めていき、必要な知識と武芸を学べるだけ学んできた。全ては父を倒し、民を救うために。

 そして、全ての準備が整い、ついに父を打ち倒そうとしたその日。我の信じていたものが全て崩壊した。

 信頼する同士と共に父を打ち倒すことはできた。だが、その同士は今度は我に刃を向けたのだ。

 なぜ、と同士に聞こうとするが、聞く前に奴らがべらべらと喋りだした。

 

『この国を自分のものにするのが、あんたの目的なんだろう!』

『父に代わって、今度はあんたが俺たちを使うんだろう!』

『誰がお前の下に就くか!」

『暴君の子なんて、信用できるわけがないだろう!』

 

 奴らの目には、我のことを『暴君の子』としか見ていなかった。奴らだけではない。民たちでさえ同じ目で我を見ていた。

 その時に我の奥から噴き出してきたのは怒り。そして、失望だった。我が守ろうとした者たちが、導こうとしたものたちが、こんな奴らなのかと。

 そして、我は国を追われた。

 国を追われてから、いくつもの国を渡り歩いた。数か月経った後、我は偶然、故郷のその後を耳にした。

 我を追いやった臣下たちは自分が次の王になろうと、民たちをも巻き込んで争いを繰り広げた。

 ある者は民を巻き込んで敵を殺し、ある者は民に利用され殺された。誰もかれもが互いを利用しあい、最後には臣下も、民も、国も滅んだようだ。

 それを聞いた我は滑稽のあまり笑いが止まらなかった。

 自分が王になろうと、あれだけ守ると言っていた民さえも利用し、最後には全員共倒れだ。我と共に戦った同士たちの裏の顔はどこまでも醜いものだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

「人は信ずるに値しない。絆などというもので人を利用し続け、自分の身に危険があれば切り捨てる。オランピア、お前たちも例外ではない。貴様がどれだけ人を信じようと最後には裏切られるのだよ」

「いいえ! エドさんは私を裏切ったりしません。エドさんは私を許してくれました。母親を殺した私に生きろと言ってくれました。そう言ってくれたエドさんを私は信じます!」

「甘い言葉に唆されて。それが信じさせる行為となぜ疑わない。貴様を体よく利用するためにほざいたのかもしれないぞ?」

「エドはそんなことはしねぇ!」

 

 我慢ができなかったのか、セリスが前に出て《皇帝》にかみつく。

 

「テメェの境遇には同情するが、それだけでエドやアタシたちをそいつらと同列にしてんじゃねぇ!」

「そうか? 少なくとも貴様はどうなんだ? 貴様はオランピアのことを信用していないのではないか?」

「っ!」

「セリスさん?」

 

 一瞬、顔を強張らせるセリス。オランピアは首を傾げ、エドは目を細める。

 

「アルマ・スヴェルト。教会の間ではかなりの慕われていたそうだな。彼女に憧れて、教会の門を叩いた者は大勢いる。貴様もそうじゃないのか?」

「な、なんで、テメェがそんなことを知っていやがる!」

「調べたのだよ。三年前、《爆拳》とその娘の暗殺を計画した時にな。その息子であるエドワード・スヴェルト。彼と交際していたセリス・オルテシア。彼らの関係者隈なく調べ尽くしたさ。それでどうなのだ、セリス・オルテシア。貴様は憧れであったアルマ・スヴェルトを殺したオランピアを許せるのか? 本当は今すぐにでも殺したい。そう思っているのではないかね?」

 

 それに対してセリスは何も答えない。答えられない。歯を噛み締めてただ俯くことしかできなかった。オランピアはまさか、セリスがエドの母に憧れを抱いていたとは思ってもおらず、彼女から視線を逸らしてしまう。そんな二人の様子を見て《皇帝》は鼻で笑い、エドは心配そうに二人を見つめていた。

 

 そんな時だった。

 

「フッ、悲しいことだね」

 

 心を癒す優しい音色がフロアに広がる。突然、鳴り響く場違いな音に全員が音がした入口に振り向く。

 

「レディたちの心に土足で踏み込む、その蛮行。帝国男児としては見過すことはできないね」

 

 そこに立っているのは、二十代の男。長い金髪と白いレインコートをたなびかせて、優雅にリュートを奏でていた。

 

「薔薇のように情熱な髪を持つレディ。そして、天使のような可愛らしいレディよ。君たちのような美しい女性にそんな悲しい顔は似合わない」

「「……」」

「この世でもっとも大切なもの。それは、人々の笑顔。何よりも女性の笑顔はこの世でもっとも美しき宝石とも言えよう。今風に言うのならば、『Smile is Beautiful』!!」

 

 小さな風が静かになびく。エドたちがいる空間が何とも言えない静寂が包まれていった。そして――、

 

『……誰っ?!』

 

 いきなり出てきた謎の男にエドたちは思わず声を上げる。当然だ。エドたち全員、その男とは完全な初対面だ。驚かないわけがない。

 

「おや、これは申し訳ない。僕としたことが自己紹介を忘れるとはね」

 

 男は本気で恥じるように頭を抱え、そのまま手で前髪をかき上げた。その行為に少しイラッとしてしまうエドたち。

 

「オリビエ・レンハイム。大陸各地を駆け巡り愛を贈り続ける。漂白の詩人にして狩人さ」

「……で、その漂白の詩人がなんでここにいるんだ? ここはあんたのような人が来るところじゃねぇぞ」

「あぁ、僕はおまけだよ」

「おまけ?」

 

 首を傾げるエドたちをよそに、オリビエの後ろから二人の男が出てきた。

 

「彼は私が連れてきたのだ」

「ヴィ、ヴィクターさん!」

 

 一人はエドたちがよく知る顔。レグラムで共に《庭園》と戦ってくれたアルゼイド家当主、ヴィクター・S・アルゼイドだった。

 

「このアホっ!」

「ギャンッ!」

 

 そして、もう一人は紫の軍服を纏った仏頂面の男。男はオリビエの後頭部を全力で殴り、オリビエは思わず変な声を上げてしまう。

 

「い、いきなり何をするんだいミュラー!」

「勝手に前に出るだけでなく、くだらんことをほざきおって。少しは状況を考えて動け!」

「もうミュラー君ったら、そんな怖い顔しないの。ほら、君もスマイル、スマイル!」

「……そうか」

 

 ミュラーと呼ばれた男の声が恐ろしく低いものへと変わる。

 

「……いいだろう。そんなに見せたいなら見せてやってもいいぞ。その時、貴様の顔がどうなっているかは保証できんがな」

「ゴメンナサイ、チョウシニノリマシタ、モウシマセン」

 

 拳を上げる姿にオリビエは平身低頭で早口で謝るのであった。その姿に深くため息をつくミュラーはエドたちに振り返る。

 

「お初にお目にかかる。帝国軍第七機甲師団所属、ミュラー・ヴァンダール少佐だ。子爵閣下と共に諸君らの助っ人に参った」

「助っ人?」

「ユン殿から文が届いてな。動けないカシウス卿の代わりに、そなたらに力を貸してくれと頼まれたのだ」

「それで帝国を出ようとしていた子爵閣下と偶然、出会った僕たちも君たちの助けようと思ったというわけさ」

「……そういうことですか」

 

 ヴィクターがここにいる経緯を知ったエドは納得する。そして、場違いともいうべきオリビエの存在にもエドは何も言わなくなった。

 

(ヴァンダール。帝国の皇族であるアルノール家の守護者と同じ姓。とすると、あの人は……)

 

 オリビエの正体に感づくエドだったが、そこで思考は停止される。

 背中を向けているエドに《皇帝》が杖を向けた。杖先から放たれた重力の球がエドに向かう。しかし、それに気づいたエドは振り向くと同時に刃を抜く。重力の球は刃に触れた瞬間、二つに割れて消えていった。

 

「やはりこの程度では通じんか」

「どうするよ、こっちは六人に増えたぜ。お前、一人で相手するのか?」

 

 《剣聖》に《守護騎士》、そして《光の剣匠》と名のある実力者が集まっている。四つの《古代遺物》を持っているとはいえ、状況は見るからに《皇帝》の方が劣勢だ。

 

「外野が増えたところでなんだ。そんなもの、こちらも想定済みだ」

 

 杖を持ったまま、器用に指を鳴らす《皇帝》。すると周囲の空間が歪み出し、中から何かが出てきた。

 

「あ、あれは……」

 

 現れたのは四体の蜘蛛。その姿にオランピアは目を丸くする。

 

「《暴食》のグラトニーか」

 

 リベールの王室学園で対峙した四体一柱の悪魔。母親を守るように三姉妹の小蜘蛛が陣取る。

 

「この感じ、リベールの時よりも強くなってるな」

 

 『汎魔化』の影響なのだろうと、結論づけるエド。エドは《皇帝》の顔をじっと見つめて、フッと口角を上げた。

 

「貴様、何がおかしい」

「いや、ただお前がオランピアにキツく当たる理由が何なのか、ようやくわかってな。思わず……」

「なに?」

「羨ましかったのか? オランピアが」

「っ!?」

 

 表情が固まった《皇帝》。そこにエドはさらに攻めかける。

 

「リベールでクローゼがオランピアを守るようにお前に立ち塞がった。彼女だけじゃない。あの場にいた皆がオランピアを守ろうと戦ってくれた。何の縁もない人殺しの少女のために命を懸けてくれた。人殺しというレッテルを知っても、それでも消えることがなかった彼女たちの絆に、お前は嫉妬したんじゃないのか?」

「……れ」

「そして、認めたくなかった。認めちまえば、自分の考えを否定することになるから。だからお前は……」

「黙れっ!」

 

 《皇帝》の声が響き渡る。再び、空中に浮かんだ《皇帝》は重力場を何度も生み出し、自分の近くへと置いていく。

 

「くだらん! 絆など、ただの幻想だ! 人とは自分とは異なる存在を忌み嫌う醜い生き物。そんな者たち育む絆など、まやかし以外の何ものでもない!」

「いいえ。クローゼさんと、リベールで育んできたものは決してまやかしなんかではありません! 私は信じています。そして、もう一度、会いに行きます。クローゼさんと約束しましたから!」

 

 

『大丈夫です。どんなに遠くに離れていても、私達はずっと友達です。私の心はずっとあなたの隣にいます。だから、またリベールに来てください。その時は私が王都を案内します。……約束、してくれますか?』

 

 

 別れ際に交わした約束。クローゼとの、初めての友達との大切な約束。それを果たすためにオランピアは《皇帝》へと立ち向かう。

 

「ならば、決着を付けようか。貴様らの絆とやらの幻想、打ち砕いてくれるわ!」

「そんなことはさせません。私たちの絆は絶対に壊れるものではないと証明してみせます!」

 

 イシュタンティの力で天使化したオランピアが飛び立つ。浮遊している《皇帝》に向かって剣を振り下ろす。激突する音を合図に戦いが始まるのであった。




 最終章の醍醐味。ボスのラッシュ戦、第一回戦だ!
 ギース? あんなのは前座だ。
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