英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

108 / 122
 先週のUA数が1400を超えました。
 今まで1000超えるか超えないくらいだったのに……


第百八話 諦めなければ

 前方からヒリヒリと伝わる強烈な殺気。それを肌で感じながら進むエドたちは広い空間へと足を踏み入れた。

 

「アリオスさん!」

「スコットさんも!」

 

 リンたちが最初に目に入ったのは、太刀を構えた長髪の男とライフル銃を構えた男。リンとエオリアの先輩であるアリオスとスコットだ。二人はリンたちの方には振り返らずにただ真っ直ぐに前を見据える。そこにあるただ一点から視線を逸らさないために。

 

「エドさん……」

「あぁ……」

 

 アリオスたちが見ている視線の先、そこにはエドたちが予想した通りの男がいた。

 全身を鎧で身を包み、その肩に乗っているのは獅子の絵柄が入った巨大な斧槍。紫のオールバックを揺らす、岩のような巨体の大男。

 《庭園》の一つ、《錆》の管理人――アリオッチが堂々たる佇まいでフロアの中央に目を瞑りながら仁王立ちしていた。

 

「なんて殺気だ……」

 

 エドはその姿に冷や汗を流していた。武器を構えず、目を瞑りながら銅像のようにただ立っているだけだというのに、全身を震わせるほどの殺気が彼から漏れ出していた。最後に会ったエデン村の時とは、比べものにならないほどの威圧感だった。

 

「……待っていたぜ」

 

 エドがアリオスたちと合流したタイミングで閉じていた目をゆっくりと開けるアリオッチ。自分たちに向けてくる視線は今まで相対していた時よりも冷たく、鋭いものだった。

 

「《皇帝》を退いたみたいだな」

「仲間が俺たちを先に行かせてくれたんだ。俺たちに想いを託してな」

「なるほど。だが、素直に賞賛を贈るぜ。俺たちの中じゃ、あいつがお前さんらに対して、かなり執着していたからな。意外としぶとかったんじゃねぇのか?」

「まぁな」

 

 エドは意識をアリオッチに向けながらも、周囲を警戒していた。《皇帝》と同様に伏兵がいないか、探りを入れていたのだ。

 

「安心しろ。ここにいるのは俺一人だけだ」

 

 エドの様子に気づいたアリオッチは伏兵がいないことを教える。その答えを耳にした一同は眉を潜める。そして、今まで沈黙していたアリオスが前に出た。

 

「どういうつもりだ? エドたちと合流するまでに我々二人を始末することもできたはずだ。なのに、なぜ、わざわざ彼らと合流するまで何もしなかった?」

 

 今のアリオッチが自分よりも遙かに強いことをアリオスは見抜いていた。後にエドが合流することを考えれば、アリオスの言う通り、合流する前にアリオスたちを始末するのが上策だ。にもかかわらず、アリオッチは《剣聖》二人と戦う今の状況になるまで、何もせずにずっと待機していたのだ。

 

「そうだな。状況を考えれば、それが賢い選択だ。特に《黒金の剣聖》。今のお前は俺の天敵といってもいいくらい厄介な存在だからな。先にお前さんらを殺した方がこっちに勝ちが傾く。……けどな、そんなもんは今はどうでもいいんだ。俺は今、気分が最高に高まってるんだ。《剣聖》と呼ばれる手練れ二人と同時に戦えるというこの状況。戦人としてはこの上ない展開だ!」

 

 アリオッチの顔に笑みが生まれる。だが、その笑みは今までのようなニッコリしたものではない。両口端を上げて、白い歯を見せつけていた。目はこれでもかと大きく見開き、狙いを定めた獣のようにエドとアリオスから決して目を離さない。

 

「今まではボスのオーダーがあったからな。やれ時間稼ぎやら、足止めがほとんどでこっちは不完全燃焼が続いていたんだ。だが、今はもうその制約はない。今度こそ、加減なしでテメェらと殺し合いができるってもんだ。こんなおあつらえ向きな場所を用意してくれたボスには感謝しかねぇぜ」

「おあつらえ向きの場所?」

 

 エドたちは改めて、フロアを見回す。《皇帝》がいた場所と同じく土で作られた広い部屋。だが、土の色は少し黒く、地面の感触が《皇帝》がいた場所よりもかなり固い。そして、エドたちの目に留まるのは、地や壁を抉る少し大きめなクレーター。数は一つではなく、軽く十個以上は越えていた。

 

「ボスの話じゃ、ここは《魔眼》を制御するために作られた訓練所のようなところだ。《魔眼》を持つ者同士で殺し合わせて、その力を高めるために作られたみたいだぜ」

「こ、殺し合わせるって……」

「まさか、誘拐した子供たちがお互いにっ!?」

 

 教団がした外道な行いにリンたちは嫌悪感を通り越して、戦慄が走ってしまう。

 

「ま、結局、そんなことは起きなかったみたいだけどな」

「……どういうことだ?」

「殺し合いは起きなかったんだよ。いざ、始めようとした瞬間、ガキどもはすぐに死んじまったみたいだからな」

「な、なんでっ?!」

 

 アリオッチは驚くリンたちを余所に周りを見渡す。彼の目に映るのは、何かの衝撃で抉れたクレーターの痕。

 

「ここらへんにあるクレーターが答えだよ。ガキどもはあのクレーターの中心で死んだって話だ」

「中心で?」

「おう。いざ、《魔眼》を発動しようとしたんだが、どうやら制御がまったく効かなくてな。発動をした瞬間、ガキどもはそこで爆散したって話だ」

「ば、爆散……」

 

 クレーターが出来た経緯に女性陣は顔を青ざめ、男性陣は顔をしかめる。

 

「そのせいで教団司祭らが何人も巻き込まれたみたいでな。それを防ぐためにここが作られたんだ。ここの土や壁は硬度が極めて高い鉱物を大量に使っているみたいでな。そんじゃそこらの衝撃じゃ簡単に壊れないはずだったんだが……」

 

 アリオッチはクレーターを再び視界に入れて、乾いた笑みを浮かべていた。

 

「それでもクレーターができちまうとは。相当な勢いで破裂したんだろうな」

「……なんで、笑っていられるんですか」

「ん?」

 

 ボソッと呟いたエオリアの言葉に、アリオッチは目を丸くする。俯いていたエオリアは顔を上げ、アリオッチを睨みつける。

 

「子供が、まだ小さかった命が失われたんですよ! 儀式なんて、よくわからないものに利用されて理不尽に! まだ先があったのに、これからだっていうのに、どうして、そんなふうにあなたは笑っていられるんですか?!」

 

 医学に携わった者として、教団の非道な行いに怒りを覚えていたエオリア。同時に命を軽視するかのように笑みを浮かべたアリオッチを断じて許すことができなかったのだ。一方で、アリオッチはエオリアの怒りが伝わったのか、どこか悲しそうに失笑するのだった。

 

「お嬢ちゃんの怒りはもっともだ。昔の俺だったら、その怒りに共感を覚えていたと思うぜ」

「今は違うとでも言うのですか?」

「俺は長く生きすぎちまった。たくさんの戦場を、戦争を嫌というほど見てきた。この手で殺してきた奴らの数なんて、もう覚えてもいねぇ。俺の中の良心ってやつは、とっくに錆びついちまったのさ」

 

 《古代遺物》の力で百年以上も生き続けてきた男。すでに滅んでしまった国に守護者として仕え、国に仇なす者たちを多く殺してきた。そして、国が滅んでからも、自分の中にある"渇き"を満たすために、より多くの者を殺し尽くした。

 多くの戦場を、戦争を体験してきた。そこにあった理不尽な現実を何回も見てきた。それを知ってしまったアリオッチは、まだ未熟な準遊撃士の綺麗事にもはや共感することができなかった。

 

「戦争が始まれば大人も子供も関係なく、多くの人間が死ぬ。上の者はそれを見ようともせず、ただ勝つことしか頭に入ってねぇ。中には勝つためならば、どんな非情な手段もいとわねぇ奴らもいる。子供を戦場に送ることだってよくあるし、敵国の兵士がその子供を容赦なく殺すなんてこともある。そんな場所に生き続けていた身としては、子供の命も大人の命もどれも同じものなんだよ」

「それは……」

「お嬢ちゃんの言っていることは間違ってはいないぜ。俺も昔はガキどもの未来を守るために戦っていたかもしれねぇ。もう、覚えてねぇがな。だが、戦場ではそんな綺麗事は通用しねぇ。弱い者は強い者に蹂躙される。それが現実なんだ」

 

 アリオッチの口から出る重い現実に誰もが沈黙してしまう。エドたちは戦争を体験していない。だから、アリオッチの言葉を否定することができない。子供が戦争に参加する話をした時は、信じられないような反応をする者もいた。

 

「そんな顔をしているけどな。少なくとも、お前らクロスベルの人間は決して無関係な話じゃねぇぜ」

「どういう意味だ?」

「おいおい、しらばっくれるなよ《風の剣聖》。アンタが一番わかってるだろう。次、戦争が起きるとしたら、真っ先に犠牲になるのはクロスベルだってことがな」

「なっ、どういうことだ?!」

 

 銃を構えていたスコットが引き金に引っかけた指に力を込める。返答次第では容赦なく発砲するだろう。しかし、アリオッチはそれに気を留めずに、涼しい顔で話を続ける。

 

「クロスベルを挟む二大国。エレボニア帝国とカルバード共和国。この二つが衝突すれば、間にいるクロスベルはあっという間に火の海に呑み込まれるだろう?」

「そ、それは……」

「さらに言えば、クロスベルは質のいい七耀石を採掘できるから経済的にも豊富だ。そういった意味でもクロスベルという地は両国からしても要所となるところ。自分たちのところに取り込みたいと思わないわけがねぇだろう」

「クロスベルを手に入れるために戦争を始める。そう言いたいのか?」

「別におかしくはねぇ話だろう? それが起きないのは攻める口実やきっかけがないからだ。もしも、口実が見つかれば、連中は容赦なく侵攻してくるぜ?」

 

 ありえそうな話に誰もが苦い顔をする。表では争っているように見えない二大国だが、裏を見れば帝国と共和国が長年の間、水面下で何度も争いを繰り広げている。クロスベルの政界にいたっては帝国派と共和国派の二つの派閥に分かれており、争いの火種となるものはあらゆる所に、数え切れないほど存在していた。

 

「クロスベルは他の自治州とは違って、宗主国がアルテリアじゃねぇ。さらにお前さんら遊撃士は政治への介入はできない。いざ火が出れば、そこからはもう誰も止めることはできねぇ。クロスベルは戦火の火に燃やされちまうだろうな。その時が訪れて、その身で体験した時、お前さんらはそんな綺麗事をほざくことができるのか?」

 

 もはや完全に押し黙ってしまった遊撃士一同。クロスベルが抱える理不尽な現実を突きつけられて、何も言うことができなかった。

 

「だからといって諦めるのは違うんじゃねぇか?」

 

 そこにエドが割って入った。

 

「エドさん?」

「俺も戦争ってものを知らねぇから、何も言えねぇけどよ。世の理不尽みたいなものに関しては身をもって知っているつもりだ。お前の言うとおり、この世には綺麗事では済まされない無慈悲な現実っていうのはたくさんある。それに打ちひしがれて、何をやっても無駄だって思っちまうのも仕方がない」

 

 教団のモルモットにされた時。指名手配犯にされた時。エド自身もそういった理不尽な出来事に巻き込まれて、人生を無茶苦茶にされた。絶望して何かをやる気力も湧かず、ただ為されるがまま時間を過ごしていた。

 

「けどな、世の中、そこまで無慈悲ってわけじゃないんだ。この世界にはどんな理不尽な現実が立ち塞がっても、諦めずに乗り越えようとする人たちがたくさんいる。俺自身、そんな諦め知らずの大馬鹿野郎に救われた」

 

 エドの脳裏に過ったのは一人の捜査官。どんな壁をも乗り越えて、最後まで真っ直ぐ突き進んだ熱い男の姿。

 

「そして、クロスベルにはそんな諦めの悪い人たちがたくさんいる。……そうだろう、オランピア?」

「あ……」

 

 オランピアの脳裏に過ったのは一人のアーティスト。自分の為すべき事を最後まで貫き、絶体絶命だった状況を見事にひっくり返した、太陽のように輝く舞姫。

 

「そして、その人たちの背中に惹かれ、諦めていた想いをもう一度、奮い立たせることができる。それが俺たち人間ってもんだ。綺麗事をほざいたっていいだろう。それを叶えようとするために夢やら理想やらを追いかけているんだ。お前だってそうだったんじゃねぇのか?」

「……」

「間違っていないんだ。理想を追い求めるのは。たとえ叶えることができなくても、自分の願いを託した者が、その理想を追い続ける。そうやって次の世代へと託していって理想を叶えるんだ。そして、クロスベルにはその力がある。どんなに押さえつけられても、決して諦めない根性ってやつがな」

「…………クッ」

 

 アリオッチは耐えきれずに笑いを上げる。常時漏れていた殺気がいつの間にか消え、おもしろそうにエドを見返す。

 

「言うじゃねぇか、《黒金の剣聖》。まぁ、たしかにそうだな。俺もかつてはそういったものを叶えるために必死になっていたんだろうな。もう思い出せねぇが、なんとなく、わかる気がするぜ」

 

 懐かしむように笑みを深めるアリオッチだったが、すぐに顔つきを変える。先程よりも薄く、だけど刃物のように鋭くなった殺気にエドたちは身構えた。

 

「それだったら見せてもらおうじゃねぇか。お前さんらの力を。綺麗事を叶えようとするテメェらの覚悟をな!」

「望むところだ!」

「全力でいかせてもらいます!」

「上等だ!」

 

 エドたちは武器を取る。そして、エドの啖呵に気を取り戻した遊撃士たちも続く。

 

「エオリア!」

「えぇ。いくわよ、リン!」

「援護は任せろ!」

「いざ、参る!」

 

 両者の闘気が最高値に高まり、ぶつかる衝撃を合図に戦いが始まるのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。