英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 だいぶストックが溜まってきましたので、週二で送ろうと思います


第百十話 分断

 エドたちの一撃をもらったアリオッチ。地面に仰向けとなって倒れる彼だったが、ゆっくりと身体を起こした。

 

「っ~~、今のは中々に効いたぜ」

 

 全身に淡い光を放ちながら立ち上がるアリオッチ。受けた傷が少しずつ治っていき、不敵な笑みをエドたちに見せつける。

 

「そんな……、今のでもダメなの?」

「化け物め……」

 

 回復していくアリオッチにエオリアたちの顔色が悪くなっていく。

 

「いや、そうでもないな」

「アリオスさん?」

「奴の脇腹を見ろ」

 

 アリオスに促されて、リンたちはアリオッチの脇腹を注視する。一見、無傷のように見えるが、鎧からにじみ出てくる赤い血が地面に落ちていた。

 

「傷が治ってない!」

「どうやら、完全に回復はできていないみたいだな」

「あぁ。今のは結構、危なかったぜ。久しぶりに死を感じたくらいだ」

 

 腕を回しながら状態を確認するアリオッチは、問題がないとわかると再び斧槍を構えた。

 

「さて、それじゃあ続きをしようぜ」

 

 エドたちが構える中、アリオスがエドに話しかける。

 

「エド。ここは任せろ」

「アリオスさん?」

「ここは俺たちで足止めをする。お前たちは先に行け」

「危険すぎます。負傷しているとはいえ、アリオッチの実力は《剣聖》以上だ。俺が抜けたら、殺されますよ」

 

 確信を持って言うエドに対して、アリオスは口角を上げるのだった。

 

「その心配は無用だ。……どうやら、本当に来てくれたようだ」

「なにを……」

 

 エドが何かを言う前に、頭上に何かが通り過ぎる。黒い影がエドの前に降り立ち、手に持った物をぶん投げる。

 

「フンッ!」

 

 斧槍で上に弾くアリオッチ。影は弾かれた飛来物――巨大な手裏剣を掴み、両手に持ち直す。

 

「ぬんっ!」

 

 すると手裏剣が分離し二つの双剣へと変わる。影はアリオッチの懐に一瞬で詰め寄る。双剣の連撃を受け止めて、アリオッチは影を後ろへと吹き飛ばす。吹き飛ばされた影はエドの前へと降り立つ。影の姿を見たエドは目を大きく開いた。

 

「く、クロガネさん!」

 

 黒装束にマスクをつけた《斑鳩》の忍び――クロガネがアリオッチと打ち合う中、エドたちの後ろから《斑鳩》の忍びたちが次々と出てくる。忍びたちはアリオッチを取り囲み、手裏剣を放った。

 

「オラァアアアア!!」

 

 アリオッチは斧槍を回し、小さな竜巻を生み出す。押し寄せてくる風圧に手裏剣は軌道をずらされた。

 

「なんという力」

「《皇帝》が言っていた。東の最強か……。だが、それじゃあ、俺には届かないぜ」

「ふ~ん。それじゃあ、これはどうするかな」

 

 透き通った声と共に一筋の銀閃が走る。銀閃はアリオッチの前へと降り立ち、手に持った黒い大太刀を振るった。

 

「嵐雪!!」

 

 大太刀と斧槍が激突する。受け止めるアリオッチは腕力で大太刀を押しのけて、距離を取った。

 

「おっと……。ふぅ、今のを弾いちゃうか。思ったよりも強いね」

「シズナさん!」

 

 銀閃の正体にオランピアが声を上げる。長い銀髪を揺らし、大太刀を構える少女――シズナ・レム・ミスルギが降り立った。

 

「シズナ」

「やっほ~~、エド。その娘を無事に助けられたみたいだね」

「まあな。それよりもどうして、お前らがここに?」

老師(せんせい)からのお達しでね。君たちの助っ人に来たんだよ」

「アリオスさんは知っていたのか?」

「あぁ。作戦開始前に老師から手紙が届いてな。この場所についても老師から教えてもらったのだ」

「あの人、どこまで視えているんだよ……」

 

 シモンにも負けないユンの未来予知とも言うべき天眼に、エドは驚きを通り越して呆れてしまっていた。

 

「いい一撃だったぜ、お嬢ちゃん。そして確信した。アンタが《皇帝》が言っていた《白銀の剣聖》だな」

「お初にお目にかかるよ。イスカ王朝の守り手。その肩書きに恥じぬ腕前、天晴れの一言だ」

「そいつはどうも。……それで、《黒金の剣聖》の代わりにアンタが相手してくれるのか?」

「まぁ、そういうことだね。本当なら今すぐにでもエドと戦いたいんだけど……」

「おい」

「冗談だよ。それはこの仕事を終えた後に取っておくよ。……それに、まずはこっちを何とかしなくちゃいけないから」

 

 大太刀を両手に構えるシズナ。その目は据わっており、冷ややかな目でアリオッチを睨んでいた。

 

「エドは私が倒すべきライバルなんだ。彼を倒すのは他の誰でもない私だけなんだよ。君たちのような泥棒猫に彼を掻っ攫われるのは、我慢できないんだ。……だから、ここで落ちてもらうよ」

「ハッ! いいね。《黒金の剣聖》にも劣らねぇ、いい殺気だ。こいつは楽しませてくれるぜ!」

 

 アリオッチはエドからシズナへと標的を変える。そのシズナの隣にアリオスが並び立つ。

 

「シズナ、助力に感謝する」

「久方ぶりの共闘だ。足を引っ張らないでね、アリオス師兄」

「フッ……。お前こそ、一人で無闇に突っ込まないようにな」

「やれやれ、いちいち一言が多い兄弟子だな」

 

 二人の剣聖を後ろから見ていたエドは、オランピアとセリスの方に振り向く。

 

「セリス、オランピア。俺たちは先に行くぞ」

「わかった」

「はい!」

「三人とも、女神の加護を!」

「クロスベルでまた会いましょう!」

「オランピアちゃん、気をつけてね!」

 

 三人は武器をしまい、奥へと走り出す。それを合図に再び戦いが始まった。

 

「黒神一刀流、シズナ・レム・ミスルギ。いざ尋常に勝負!」

「八葉一刀流、アリオス・マクレイン。参る!」

「《庭園》、《錆》の管理人、アリオッチ。行くぜっ!!」

 

 三者一斉に地面を蹴り、得物を振るう。金属の音がフロア内に響き、そこから爆発、突風の音が続くのであった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 奥に進むエドたち三人。かなりの距離を走っているのにもかかわらず、後ろから響いてくる激しい音がいまだに三人の耳に届いている。

 

「どんだけ暴れてんだよ、あいつら」

「シズナさんたちが来てくれましたけど、大丈夫なのでしょうか……」

 

 後ろを振り向くセリスとオランピア。呆れながらも引きつった顔をするセリスに対して、オランピアは心配そうに見つめていた。

 

「大丈夫だ」

「エドさん?」

「シズナを舐めるな。あいつがこんな所でくたばるような奴なんかじゃない」

 

 真剣な顔つきで力強く発するエドにオランピアたちは目を見開く。

 

「あいつは俺が戦ってきた中で一番強い剣士だ。あいつなら絶対に何とかしてくれる」

「信頼してるんだな」

「当然だ。……あいつは俺のライバルだからな」

 

 純粋な剣の実力で言うのなら、ヴィクターやアリオス、カシウス、ユンなど、シズナ以上の実力者は多く存在する。だが、エドが今まで戦ってきた剣士の中で一番強いと感じたのは他でもないシズナだった。共に剣の道を行き、高め合ってきた同門にしてライバル。誰よりも相手の実力を知っているからこそ、お互いにとって、相手は最高のライバルであると同時に、最強の敵でもあるのだ。

 

「それよりも、ここから先は緊張感を持った方がいい」

「? なんでだ?」

「《皇帝》にアリオッチと続いてきたなら、次に立ちはだかるのは……」

「メルキオル、ですね……」

 

 次に来る相手にオランピアの警戒心が一段と強くなった。

 

「彼が素直に待っているとは思えません。何かしらの罠が仕掛けられているかもしれません」

「ノルドの時に会ったあいつか。たしかに嫌な性格をしていたな」

「嫌な性格で終われるかよ。あいつは教団司祭の奴らとは、別の意味で最悪の部類に入る男だ」

 

 クロスベル、ノルド、エデン村と剣を交えたのは三回だけだったが、メルキオルの悪辣さと残忍さを理解しているエドはオランピアの考えに同意する。

 

「刺客が飛んできたり、落とし穴だったり、何がくるかわからない。セリス、お前も注意してくれ」

「わかったよ。そこまで言われると警戒しないわけにはいかねぇな」

 

 セリスも顔つきを変えて、いつでも抜けるように手を背中に回す。

 

「っ! 前から誰か来る!」

 

 すると、エドは前方の曲がり角に注視しながら、二人に呼びかける。

 

「私が先手を取ります。お二人は続いてください」

 

 天使化して加速するオランピア。エドとセリスは置いてかれないようにしっかりと着いていく。

 

(姿が出た瞬間に決める!)

 

 

 ――八葉一刀流 捌の舞

 

 

 研ぎ澄まされた感覚がたしかに感じ取った。曲がり角からゆっくりと近づいてくる気配に。タイミングを合わせるように速度を緩め、剣ではなく、出だしが速い拳打を選ぶ。

 

「破甲演舞!」

 

 繰り出される拳と蹴りの嵐が曲がり角から出てきた刺客に襲いかかった。

 

「ギャァアアアアアアアアア!!」

 

 命中した刺客は情けない悲鳴を上げて、壁に叩きつけられた。追撃しようとオランピアは拳を構えて、再び接近。

 

「……えっ!」

 

 と思いきや、オランピアは追撃をやめて止まってしまった。

 

「どうした、オランピア?」

 

 なぜ追撃をしなかったのか、聞こうとするエドだったが、曲がり角から新たな気配が現れた。

 

「さっきの悲鳴はなんだ?!」

「敵襲っ!?」

 

 出てきたのは二人の女性。おそろいの甲冑にハルバードと弓をエドたちに向けて構えた。

 

「お前ら……」

「ん? 貴殿は……」

 

 エドはその二人に見覚えがあった。赤い髪をまとめた厳格そうな女性。もう一人は青い髪を下ろした淑やかな女性。レグラムで共闘した結社の戦闘部隊《鉄機隊》のアイネスとエンネアだった。

 

「じゃあ、オランピアがぶっ飛ばしたのは……」

 

 エドはオランピアに近づき、彼女が倒した人物に目を向ける。顔が赤く腫れ上がり、白目をむいて気絶していた《鉄機隊》の筆頭――デュバリィの姿がそこにはあった。

 

 

 ~~~~~

 

 

「こ・む・す・めぇ~~~~!! 一度ならず、二度までも!!」

「ご、ごめんなさい! ゆ、許してください!」

「いいえ、絶対に許しませんわ! このっ! あなたなんかこうして!」

「い、痛い、痛い! あ、頭がっ! 頭が割れます~~!!」

 

 復活したデュバリィは自分を気絶させたオランピアの姿を見て、怒りが爆発。顔にヘッドロックをかけて、オランピアの顔を強く締め付けていた。

 

「……なんかすまん」

 

 さすがに申し訳なかったのか、エドは二人に視線を逸らしながらアイネスたちに謝罪する。

 

「いや、貴殿たちのせいではない。注意を怠った筆頭のミスだ」

「ごめんなさいね。この子、ここに入ってからビビりっぱなしでね」

「ちょっと! 聞こえてますわよ、あなたたち!!」

 

 オランピアを投げ捨てて、近寄ってくるデュバリィ。ゴミのように捨てられたオランピアは頭を抱えながら蹲っていた。

 

「それで、お前たちも俺たちの助っ人として来たって事か?」

「あぁ。マスターから待機を命じられてな。自分に何かあったら、貴殿らに手を貸すように命じられていたのだ」

「ここには使徒の一人と、執行者の一人と一緒に来たのだけれど。行く道中ではぐれちゃってね。あの人たちを捜そうと思ったんだけど……」

 

 アイネスとエンネアはジト目でデュバリィを見る。見られていることに気づいたデュバリィはギョッとしながらも二人に食い下がる。

 

「な、なんですの?! 私に何か問題がありまして!」

「問題大ありだ。お前がビビりまくって、思う通りに先に進めないのだからな」

「怖いなら、怖いって言ってもいいのよ? 私たちで守ってあげるから」

「だ、だ、だ、誰がビビっているんですの?!」

 

 明らかに青い顔で震えている彼女の様子にエドたちは一斉に首を傾げてしまう。

 いったい何が彼女をここまでビビらせているのだろうか?

 

「実はここに来る時、使徒の方が少しイタズラをしてしまってね」

「周囲を探索しようと火の玉を出したのだが、それを知らなかったこいつは……」

 

『ギャァァァアアアアア!! ゆ、幽霊~~~~!!』

 

「……と雄叫びを上げてな。その様子を見ていた使徒様が面白がってしまってな」

「結果、こうなったとういうわけか」

 

 エドは首を縦に振る。レグラムで共闘した仲だ。デュバリィの実力を知っていたエドは、なぜオランピアに気づかなかったのか、と疑問に思っていたが、それがわかり、納得してしまった。

 

「ビ、ビビってなんていませんわよ。だいたい、幽霊なんてオカルトが存在するはずがありませんわ! なんでいないものに対して、そんなにもビビらなきゃいけませんの!」

「オカルトって……。《古代遺物》やら、悪魔なんかが存在している時点でオカルトの存在は証明されているようなもんだろう。だったら、幽霊の一体や二体……」

「あーー! あーー! 聞こえませんわ!!」

 

 子供のように聞かない振りをするデュバリィは居たたまれないのか、エドたちよりも先に奥へと進む。

 

「とにかく! マスターからあなた方に協力するように仰せつかっておりますので、ここからは一緒に行動いたしますわよ!」

「そう言って、本当は幽霊が出ても対処できる人材が一緒にいてほしいだけだろう」

「あの……、セリスさん。お祓いとかってできるんですか?」

「あ? アタシはこれでもシスターとして活動したことがあるんだ。お祓いくらいできるっての。それともなんだ? お前もビビってるのか?」

「そ、そ、そんなことはありません!」

 

 デュバリィに負けないくらい、顔を青ざめるオランピアはセリスの言及を振り切って、デュバリィと同じく奥へと進む。

 

「そ、それよりも先に進みましょう! 幽霊なんていませんけど、万が一のことだってあります! 早く奥に進みましょう!」

「そ、そうですわね! ほら、ボサッとしていないで、とっとと行きますわよ!」

 

 お互いに距離を妙に近寄らせて、先に進むオランピアたちにエドたちは一斉にため息を吐く。これ以上は面倒くさいと判断したのか、何も言わずにオランピアたちの後を付いていく。

 

 

 ――ぼこっ

 

 

「「え?」」

 

 すると突然、デュバリィの足元から音が生じた。下を向けるとデュバリィが踏んだ所だけ、四角い形状で陥没していたのだ。

 

「……おい」

「えっと、これは……」

 

 エドの追求にデュバリィが言い訳を述べようとした次の瞬間、

 

 

 ――ビキッ!!

 

 

 地面に亀裂が走った。亀裂はエドたちの方へと徐々に広がっていき、地面が崩れていった。

 

「やべっ!」

「くっ!」

 

 エドとアイネスは隣にいた者を咄嗟に捕まえて、そのまま崩落した地面へと落ちていった。

 

「エドさん! セリスさん!」

「アイネス! エンネア!」

 

 落ちていき、姿が見えなくなった彼らに声をかけるが、彼らからの声は一切なかった。

 

「ど、どうしましょう、デュバリィさん!」

「ど、どうするも、すぐに助けに!」

 

 パニックに陥る二人だったが、すぐにエドたちを助けようと下に降りようとする。しかし――、

 

「「え……」」

 

 崩落した地面から手が這い出てきた。一瞬、エドたちが登ってきたと思ったが、這い出てきた手を見て、二人は固まってしまう。

 這いずり出てきた手は白くて細かった。よく見ると、白くて細長いものを組み立てて、手のような形になっているだけだった。つまり……

 

「ほ、ホネェェェェェェェェ!!」

「いやぁあああああああああ!!」

 

 手の正体に絶叫するオランピアたち。だが、それで終わりではなかった。骨の手がもう一本現れ、次に胴体が出てきた。どれも骨のみで構成されており、皮膚などはどこにもなかった。

 

「「で、出た~~~~~~~~!!」」

 

 回れ右して、その場から全力で逃げ去るオランピアたち。もはやエドたちの救出など、彼女たちの頭には入っていなかった。一方で、地面から這いずり出てきた骸骨はそんなオランピアたちを空洞の目で見つめ、そのまま駆け足で二人の後を付いていくのであった。

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