英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 界の軌跡 WebCM 第二弾来ましたね! 驚きの連続で待ち遠しいです!


第百十九話 空断刃

「我が影より現れよ、従順なる僕よ!」

 

 枝のように細い腕を地面に突き刺す。すると、黒い泥沼のようなものが一気に噴き出てきた。少しずつ広まっていく泥沼の中から全身が黒一色で構成された人型の魔物が際限なくあふれ出てくる。

 

「ハッ! 洒落くせぇ!」

 

 それを見て、口角を上げるマクバーンは剣を持っていない手を広げて炎を灯す。空間を揺らす高熱の獄炎を手にして腕を大きく振りかぶる。

 

「燃えろ!」

 

 放たれた炎は魔物の群れに激突する。炎は柱のように白い空へと向かい、魔物たちを灰にする。

 

「おら、おら、まだまだ行くぜっ!」

 

 再び、炎を放つマクバーン。そのうちの一つが魔物の上を通りすぎ、サターンへと向かう。すると、サターンの顔から黒い魔物たちが這い出て来た。魔物はサターンの顔を土台にして、炎に飛び込む。炎は眼前で破裂し、サターンに届くことはなかった。

 

「行けぇえ!!」

 

 サターンの号令に魔物たちは剣や槍を取って、一斉に襲いかかる。向かってくる黒い波に臆することなく、エドは正面から迎え撃つ。

 

「炎龍!!」

 

 いつもの赤ではなく、黄金の炎を纏って軍勢に飛び込むエド。炎に呑み込まれた魔物は悲鳴を上げる間もなく消滅する。

 

「螺旋撃!」

 

 群れの中心に着いたエドは竜巻を起こして、魔物たちを巻き込む。魔物はエドの姿を見るなり、全方位を囲って襲いかかる。

 

「ハァッ!」

「シャッ!」

 

 前から来る魔物をエドは黄金の太刀で次々と斬り倒し、後ろから迫ってくる魔物はマクバーンの炎に焼き尽くされる。

 圧倒的な物量をものともせずに魔物たちを蹂躙するエドたちにサターンは激昂する。

 

「調子に、乗るなっ!!」

 

 すると、赤黒い背中が盛り上がり、血を吹き出しながら何かが生えてきた。鞭のようにうねうねしながら伸びる七本の触手。それぞれの触手が色を変えて、エドたちに向かう。

 

「焼き尽くせ!」

 

 触手を燃やそうと炎を放つマクバーン。すると青い触手が先頭に立ち、炎を直撃する。

 

 

 ――シュゥゥゥゥゥウウウウ!!

 

 

 直撃したところから白い煙が広がる。煙は徐々に広がり、エドたちを覆い尽くす。

 

「これは……蒸気か!」

 

 煙から来る湿り気に気づくエド。だが、次の瞬間、蒸気の奥から黄色の触手と緑の触手が同時に襲いかかる。気づいたエドは後ろに跳ぶ。二つの触手は地面を叩き、そこから巨大な砂嵐が吹き出す。

 

「おわぁ!!」

 

 砂嵐に呑み込まれ、上空へと投げ飛ばされたエド。そこに赤い触手が振り下ろされる。

 

 

 ――爆っ!!

 

 

 エドに触れた瞬間、爆発が起きる。エドはそのまま地面に叩きつけられた。

 

「おっと!」

 

 地面に着く瞬間、受け身を取って立ち上がるエド。服は少し焼け焦げていたが、咄嗟に太刀を盾にして、直撃を防いだようだ。

 

「なるほど。属性が付与された触手か」

 

 エドはまだ、襲ってこない残り三つの触手に注目する。

 金、黒、灰。先程の四つは基本四属性だった。ならば、あの三つは……。

 

「後ろだ!」

 

 マクバーンの声に即座に振り返るエド。影に潜っていた魔物が背後から奇襲をかける。

 

「素人が。振りが単純だ」

 

 襲ってくる刃をエドは指で挟む。

 指二本での真剣白羽取り。

 達人クラスの相手には無謀にも等しい行為が、技術が一切ない素人相手ならば造作もない。エドは魔物を斬り捨てて、サターンに向かって走り出す。

 

「蜂の巣にしてくれる!」

 

 サターンは十本全ての指に光を収束して、光線を放つ。エドは《魔眼》を使い、スローモーションとなって向かってくる光線を全て躱す。

 

「このまま一気に……っ!」

 

 前進しようとしたその時、前から魔物が現れる。何の前触れもなく現れた魔物を反射的に斬ったエド。だが、それを合図に何もないところから魔物が次々とエドの前に立ちはだかる。

 

「いったいどこからっ!」

 

 エドは周囲を確認する。すると金色の触手が魔物に触れた瞬間、魔物が姿を消えていく姿があった。

 

「空間転移か!」

 

 だが、その程度で怯む剣聖ではない。目の前に移される魔物たちを掻い潜りながら、サターンとの距離を少しずつ縮めていくエド。主を守ろうと魔物の群れがわらわらとエドに押し寄せてくるが、抵抗むなしく弾かれてしまう。

 

「っ!」

 

 一体の魔物を斬り付けるがエドは異変に気づく。剣が魔物の身体をすり抜けて、霞のように消えてしまった。エドは推測を立てて、ある一点に目を向ける。

 灰の触手が鞭のように振ると、そこから魔物が次々と出てきた。試しにその一体に剣を通すが、やはりすり抜ける。

 

(幻か!)

 

 灰の触手が生み出した魔物が幻だとわかったエドは、《魔眼》を使って魔物たちを見極める。幻が多い部分へと走り出し、魔物たちを避けながらサターンへと向かう。

 

「邪魔だ!」

 

 幻に紛れ込んだ魔物を斬り続けるエド。迫ってくる魔物をエドは落ち着いて刃を通していくが、進んでいたエドの足がその場で止まった。

 

「っ!!」

 

 先程、斬った魔物の姿が消えて、かわりに別のものが現れた。幻で魔物に扮していた黒い触手がエドの剣を絡めとっていた。

 

(か、身体が?!)

 

 エドは自分の身体が動かないことに気づく。どれだけ力を込めても、まるで時間が止まったかのようにピクリとも動かない。

 

「殺せぇええ!!」

 

 動けないエドに向かってサターンが魔物をけしかける。魔物たちが動けないエドを取り囲み、一斉に跳びかかった。

 

「シャァアア!」

 

 すると、巨大な熱量がエドを囲い込む。エドの周囲を燃やす炎は、飛び込んでくる魔物を呑み込み消滅させる。

 

「ったく、足を引っ張んなって言っただろう」

 

 面倒くさそうにエドに近づいてきたマクバーン。彼はエドの前に立って、魔剣を構える。

 

「そらよ!」

 

 一振りするマクバーン。すると、空間が歪み、魔物たちが吸い寄せられる。

 

「オラァアア!!」

 

 魔物を一太刀で葬ったマクバーン。魔物と一緒に巻き込まれた触手たちも、灰となって消滅していく。

 

「くはっ!」

 

 触手が消えたことで動けるようになったエド。どうやら、呼吸も止められていたようだ。

 

「どうした? もうバテたか?」

「誰が」

 

 エドはマクバーンと並んでサターンを見上げる。一方でいまだに殺すことができないエドたちの姿にサターンは苛立ちを募らせるのだった。

 

 

 ――リン、リン

 

 

 そんな激しい戦いが繰り広げている中、後方で一人の少女が静かに舞っていた。手に持った神楽鈴を鳴らしながら、大きく、ゆっくりと身体を動かして踊り続けていた。

 

(今のところ互角。魔王に届くにはあと一歩足りない!)

 

 踊りながら戦いを見守っていたオランピアは、そう結論づける。圧倒的だったサターンの力はシモンの策とオランピアの舞のおかげで、その力を多く削がれていた。エドとマクバーンが魔王を追い詰めているが、いまだに魔王の懐には行き届いていない。

 

(私が何とかしなくちゃ!)

 

 オランピアは雑念を振り払い、舞に集中する。

 彼女が踊る舞。魔王を静め、魔を打ち払う退魔の舞。魔王にその効果が効いている以上、この状況を覆せるのは彼女が踊る舞だけだった。だが、技術に関しては、すでに彼女は申し分ないほど上達していた。これ以上の舞を踊るには、技術ではなく、別の何かが必要だ。

 

(……お母さん)

 

 頭からふわっと思い出すのは、祭壇で舞う母の姿。

 母の舞はとても美しく、無意識に惹かれるものがあった。あの領域に至るのに自分にはいったい何が足りない?

 

『おかあさん! どうだった?!』

 

 思い出すのは母との思い出。何回も練習して舞を完璧に踊れるようになった日。それを母の前で披露して、すごいと褒められたことは今も覚えている。

 

『えぇ。すごく綺麗だったわ、オランピア』

『やった! 私もいつかおかあさんみたいに踊れるかな?』

『たくさん練習すれば、いつか私のように踊れるわ。でも、そうね。もっと上手くなるコツを教えてあげるわ』

『本当に! どうやるの?!』

『簡単よ。自分にとって大切な誰かのことを想いながら踊ればいいのよ』

『大切な誰か?』

『そうよ。舞は技術だけじゃなくて、私たちの心の持ちよう次第で、いくらでも上手になるわ。大切な、大好きな人のことを想い、祈り、願って踊るの。その人のために頑張ろうと自然と力が溢れるのよ』

『私はおかあさんが好きだよ! もちろん、おとうさんも!』

『ありがとう。でもね、オランピア』

 

 お母さんは私の頬に手を添えて、自分の方に顔を向ける。その時のお母さんは悲しそうに笑いながらも、愛おしそうに微笑んでいた。

 

『いつか、あなたは私たち以上に大切な誰かに出会えるわ。もしも、そういった人に出会って、その人のことを想って踊れば、きっと私以上のものになるわ』

『おかあさんよりも?』

『えぇ。だから、オランピア。どうか健やかに。そして、どうか幸せに生きて』

 

 あの時のお母さんはすごく悲しそうに笑っていた。たぶん、お母さんは知っていたんだ。私が儀式の贄に選ばれるのを。

 

(お母さん。私、見つけたよ。大切な人を)

 

 うっすらと目を開いて、今も戦う彼を見る。

 魔王と戦いながら、自分を守ってくれる私の大切な人。母親を奪った自分を許し、その行く末を見守ってくれる優しい人。乙女心を理解しておらず、私や彼女に殴られることがよくあるどうしようもない人。

 数ヶ月という短い旅の中でたくさんの彼を見た。笑っている顔。困っている顔。寂しそうな顔。彼のことを想うと胸の奥がとても暖かくなる。

 もっと知りたい。もっと一緒にいたい。そして、もっと私のことを知って欲しい。胸から熱いものがどんどん、どんどん膨れ上がってくる。

 

(今ならわかる。お母さんが言っていたことの意味が。舞でもっと必要なものとは何なのか……)

 

 オランピアは目を閉じて、再び踊り続ける。足をなだらかに滑らせて先程よりも流麗に、そして、腕や体を大きく動かして先程よりも激しく。鳴り響く鈴の音が空間に鳴り響き、エドと対峙する黒の魔物を次々と消滅していく。

 

「な、なんだ、これは?!」

 

 自分が呼び出した魔物が何の前触れもなく消えていく。さらには、自分の力が格段に落ちていると実感する。混乱に生じる中、サターンは後ろで踊り続けるオランピアの姿を捉える。

 

「小娘! キッサマァアアアアアアアア!!」

 

 弱体化させる元凶を見つけた魔王は吼える。広げた両腕を伸ばして、オランピアを絞め殺そうと迫る。

 

 

 ――キィン!

 

 

 しかし、腕は金色の閃光に阻まれる。六翼を広げたイシュタンティが魔王の両腕を斬り裂き、その進行を阻止する。

 

「抜け殻の人形ごときが邪魔をするなぁああああああ!」

「おいおい、俺たちを無視していいのかぁ!」

 

 サターンは顔を下に向ける。そこにはこちらを見上げて、自身の腹に手を添える焔の魔人がニヤッと顔を見せていた。

 

「丸焼きだ。ちょいと熱いが我慢しろよ?」

 

 魔王を掴んだ腕から高熱の炎が噴き出る。炎は魔王の身体を這いずり回り、やがて全身を包み込む。

 

「ギャアアアアアアアア!!」

 

 あまりの熱さに悶え苦しむサターン。そこにエドが追い打ちを仕掛ける。

 

「断空!!」

 

 伸びた腕を切り裂くエド。地面に着地した、剣を鞘にしまって腰を落とす。

 

「雷光!!」

 

 神速の抜刀が魔王の胴体を捉える。身体から黒い血しぶきが吹き出し、魔王はさらなる激痛に悲鳴を上げる。

 

「アァアアアアアアア!! キ、キサマら、もう許さんぞぉおおおおお!!」

 

 怒りが頂点に達したサターンは口を大きく開く。すると黒い球を作りだし、そこに力を注ぎ込む。

 

「もう、お遊びはここまでだ! この空間ごと、キサマらを吹き飛ばしてやる!」

 

 空間の破壊を試みるサターン。だが、頭に血が上ってしまった魔王はそれが致命的な隙になると気づかなかった。

 

「いいね、最高じゃねぇか! そんなテメェにご褒美だ! いいもん見せてやる!」

 

 マクバーンは魔剣を手放して、代わりに両手に赤黒い炎を作り出す。炎をサターンに目掛けて放ち、開いた手にまた炎を作り出す。

 

「オラ! オラ! オラ! オラ!!」

 

 炎を何度も何度も放ち、魔王を焼き尽くすマクバーン。黒い球を作っていたサターンは、身体の中から蝕んでくる熱さに絶叫を上げる。

 

「こいつで仕上げだ!」

 

 マクバーンは生み出した炎を収束する。小さく、激しく燃える炎をマクバーンは腕を大きく振りかぶり魔王にぶん投げた。

 

「ジリオン・ハザード!!」

 

 収束された炎は一気に解放し、極大の炎の球へと変わる。悶える魔王は避けることもできず、さらなる炎に声にならぬ悲鳴を上げる。

 

「我が太刀は万物を切り裂く無双の一撃」

 

 エドはゆっくりと魔王に向かって歩いて行く。納刀した太刀をゆっくりと抜き、両手で握る。

 

「地を裂き、空を斬り、『理』を断つ」

 

 周囲が異様に静まる。音を断ち切った空間でエドは剣を水平に構える。

 

「終の太刀・改」

 

 音を立てずに一足でサターンとの距離を縮める。炎に包まれた魔王を黄金の眼で捉えて、太刀を振り払う。

 

空断刃(からたちのやいば)

 

 太刀は炎を斬り、身体を裂き、そして、空間を断ち切った。

 地面に着地したエドは後ろを振り向き、サターンに背を向けてその場から離れる。

 剣を一振りして、歩きながら納刀するエド。

 カチッと太刀が鞘に収まった瞬間、サターンの胴体が地面へと崩れていった。

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