英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第百二十一話 後日談

 《庭園》との最終決戦から二ヶ月の時が過ぎた。その間にさまざまのことが起きた。

 まずは、国際指名手配犯、エドワード・スヴェルトの無罪だ。今は亡きクロスベル警察の捜査官、ガイ・バニングスが残した数々の証拠、遊撃士グランの身体を乗っ取ったギース・カーストの証言、そして、いつ置かれたかは不明だが、エドの部屋に残されていたシモン・グレラスの自白文。

 これらの要素からエドが二つの殺人に関与していないことが立証され、彼は晴れて無罪となった。

 二つ目は暗殺組織《庭園》の壊滅だ。最終決戦の後、S級遊撃士、カシウス・ブライトと星杯騎士団総長、アイン・セルナートを筆頭に二度目の国際的な犯罪捜査が行われた。元《庭園》の幹部、オランピア・エルピスと元《庭園》の構成員、イクスとヨルダの証言から《庭園》が管理している四つの《庭》の位置を特定。遊撃士、星杯騎士団、軍、警察組織、そして、裏では《黒月》、《見喰らう蛇》が合同で取り組み、《庭園》の一斉検挙が行われた。

 《庭園》によって誘拐され、彼らの教育プログラムを受けさせられていた子供たちは無事に保護することができた。その際にそれを食い止めようとした《庭園》の幹部三人は見事に撃退されて、その場から逃走。その後、追跡の結果、幹部三人は遺体となって発見され、謎の暗殺組織《庭園》は壊滅という形で幕を閉じた。

 

「ま、これは絶対に嘘だろうがな」

 

 新聞を開いて、《庭園》の顛末を読んでいたエドはそんな感想を呟く。新聞を目の前のデスクに置いて、手を組んで身体を上に伸ばす。

 エドが今いるのは、アルテリア法国に建設された特別な医療施設。最終決戦の時、エドはギースから謎の紅い薬を掠め取り、それを服用したことで《魔眼》の出力を上げていた。だが、その反動が一気に来たのか、元の世界に戻ったエドはその場で気を失い、すぐさま病院へと運ばれた。

 現在、彼は白い病衣に身を包み、病院の個室に設置されたベッドに倒れ込んで、療養していた。

 

「あの時は本当に驚きました。セリスさんも泣いていましたよ」

「わ、わるかったよ。説教はもう勘弁してくれ。お師匠さんから、もう十分にもらったからよ」

 

 まだ入院中のエドをお見舞いにオランピアはベッドの隣にかけてあった椅子に座り、エドをじっと見つめていた。彼女は謝罪するエドに呆れて、彼がデスクに置いた新聞を手に取った。

 

「……やっぱり、エドさんも同じ考えなんですね」

「当たり前だ。あの三人がこんな簡単にくたばるとはとても思えねぇ」

 

 二人は神妙そうな顔で新聞を睨んでいた。二人が懸念していること。それは死亡したと書かれている《庭園》の三幹部のことだった。

 

「《庭園》の存在が世間に公にされ、俺たちが奴らを何度も退いたことで、どうやら《庭園》内で反乱が起きたそうだ。奴らは作戦時に隙を見て影武者を用意して、そいつらを囮にして逃走したと、カシウスさんが言っていた」

「では、彼らは……」

「間違いなく生きているだろうな。そして、いずれ第二の《庭園》を立ち上げるだろうよ。……聞いた話だと、誘拐されたと思われる子供たちの数が足りなかったそうだ。たぶん、何人かは《庭》から連れ去られたんだろうな」

 

 オランピアは顔を俯かせて落ち込んでしまう。《庭園》が壊滅したというのに子供たちを全員、助けることができなかった。しかもメルキオルたちは再び、《庭園》を立ち上げようと目論んでいる。その事実がオランピアの心に影を落とす。

 

「オランピア。落ち込むな、とは言わねぇ。だが、俯いたって何も変えられないぞ」

「わかっています。彼らが《庭園》を再び立ち上げるというのなら、私は何度だって、彼らと戦います。それが私の償いの一つですから」

 

 顔を上げて見せるオランピアの真剣な眼差しにエドは頷いた。どうやら、彼女の心は折れていないようだ。

 

「そういえば、もう二ヶ月になるんですね」

「あぁ。俺がここに入院しているって聞いて、いろんな奴が見舞いに来たな」

 

 最初に訪れたのはクローゼと護衛のユリアだった。エドの冤罪の報道を聞き、その労いの言葉を贈るために、リベールから足を運んできたのだ。クローゼはオランピアとの久々の再会に喜び、二人は久方ぶりの友人との会話を楽しく過ごした。

 次に来たのはイリアだった。レマン自治州で保護されていた彼女もエドの冤罪を聞きつけて、労いの言葉を贈りにきたのだ。オランピアと再会した時、彼女が舞をさらに上達したことを一目で見抜き、なんとアルカンシェルに出てみないかと勧誘してきたのだ。その時のオランピアはあまりの嬉しさにテンパってしまった。

 

「結局、一度だけ出ることになったんだったな」

「はい! 時期はいつかわかりませんが、すごく楽しみです!」

 

 イリアが帰った数日後にはロゼが見舞いにやってきた。決戦の時に彼女が保護したアルフォンスの子供も一緒に引き連れて。

 

「あの後、ロゼさんの養子になったんですね」

「そのようだな。まぁ、俺としては母さんたちを拾ってくれたことに感謝しかないがな」

 

 あの戦いで奈落の底に落ちてしまったアルマとオーバの遺体は、ロゼが愛弟子のイソラの遺体と共に回収してくれたようだ。このことにはグンターとアインも感謝していた。

 

「デュバリィさんたちが来たことは驚きましたね」

「そうだな。シズナも来てそうそう、戦おうって言ったときは冷や汗をかいたがな」

 

 ロゼが立ち去って、さらに数日後にはデュバリィたち《鉄機隊》の三隊士がこっそりとお見舞いに来た。エドはその時、エンネアに回収されたアルマの遺体が埋められた墓を教えて、代わりに花を供えて欲しいと頼み込んだ。お参りの口実を作ってくれたエドに感謝したエンネアは、その後、デュバリィたちを引き連れてアルマの墓に花を供えに行ったそうだ。

 次に来たシズナの時は、まさに大変の一言だった。あの戦いでアリオッチに逃げられたことで消化不良となっていたシズナは、エドと再会して、いきなり斬りかかってきたのだ。私と戦え、と瞳孔を開きながら、笑って追いかけてくる様はまさに恐怖そのものだった。その後、アインが彼女を一撃で沈めたと聞いたときは、恐怖がシズナからアインへと移行した。

 

「本当に全部、終わったのですね」

「そうだな」

 

 久しぶりの平穏の時間を過ごすエドたちは言葉にして改めて実感する。龍來からここに至るまでの怒涛の日々を思い返して、二人はしばらく沈黙する。

 

「あの……、眼の方は大丈夫なんですか?」

「あぁ。眼の力はどうやら元に戻っちまったらしくてな。未来改変とかはもう使えねぇみたいだ」

 

 アインの推察では、眼の本来の主である魔王の力が失ったことで、力を増幅していた《魔眼》は元に戻ったのではないかという話だった。

 

「それじゃあ、魔王は……」

「あぁ。倒されたんだろうな。シモン先生とイシュタンティの手によって」

 

 二人の間に再び会話が途切れる。どちらも顔を俯き、その表情を暗くする。

 あの戦いから二ヶ月。いまだにシモンとイシュタンティが戻ってきたという話は聞いていない。

 

「シモンさんはただ、イシュタンティに会いたかっただけだったんですね」

「あぁ。魔王を倒すっていう目的もあったんだろうけど、一番の理由はまさしくそれなんだろうな」

 

 あの空間での戦いをアインやグンターたちに話し、シモンの真の目的を伝えた。それを聞いたグンターは悔しそうに眼を瞑り、アインはそうか、と言って、その場を立ち去った。

 

「すごいですね。二人とも……」

「あぁ。千年経とうとも、二人の愛は決して錆びつかなかった。だからこそ、魔王を打ち倒すことができたんだろうな」

「いつか……、いつか、会えるのでしょうか」

「オランピア……」

「もしかしたら、十年、いえ、百年はかかるかもしれないんですよね。このままもう一生、会えないなんてことは……」

 

 オランピアはイシュタンティとの別れに、いまだに踏ん切りを付けらない様子だった。あの戦いが終わってから一週間くらいはずっと泣きっぱなしだったという。だが、それは当然だ。彼女と一番長く一緒にいたのは、他ならぬイシュタンティだったのだ。彼女にとっては一番安心できる拠り所でもあった大切な相棒。その相棒との突然の別れは、彼女にとっては納得できるものではなかった。

 

「信じるしかねぇだろうな」

「信じる?」

「あの人たちがいつか帰ってくるって信じること。それが今、俺たちがやれることだ」

「信じれば、会えるのでしょうか」

「それはわからない。でも、信じることを諦めなければ必ず叶うと思う。……少なくとも、俺は諦めなかったから、無実を証明することができた」

 

 最初は諦めていた無実の証明。だが、エドはガイと出会ったことで、詰んでしまった未来を変えることができた。どんな壁が立ちはだかろうと、最後まで諦めなかった強い気持ちが、未来を掴み取ってみせたのだ。

 

「だから信じよう。先生が、そして、イシュタンティが必ず帰ってくることをよ。返さなきゃいけないものだってあるしな」

 

 エドはベッドにかけた黄金の太刀に視線を向ける。それはシモンが魔王を倒すためにエドに託した女神からの贈り物。今はその役目を終えたのか、力はすでに失われており、ただの頑丈な太刀となっていた。

 

「……そうですね。諦めたら、それで終わりですもんね」

「そうだ」

「それにシモンさんも言ってくれました。必ず戻ってくると。あの人はイシュタンティのために千年も戦い続けてくれました。そんな人が私たちに嘘をつくはずがありません」

「その通りだ。少なくとも俺が知る限り、あの人が約束を違えたことはないぜ」

「ならば、待ちます。そして、帰ってきたとき、おかえりなさいって言います」

 

 顔を上げて笑顔を見せるオランピア。それに安心して、エドも微笑み返す。

 

「どうやら、もう心配する必要はなさそうだな」

「……いえ、実はまだ少し落ち込んでいます」

「え?」

 

 そんな表情も見せずに真顔でエドを見つめるオランピア。言葉とは裏腹な態度にエドは思わず目を丸くしてしまう。

 

「まだ、踏ん切りが付かないので、エドさん、慰めてくれませんか?」

「いや、お前、どう見ても……」

「慰めてくれませんか?」

「……おう」

 

 妙に強くなった圧にエドはただ頷くしかなかった。それに内心でガッツポーズを決めたオランピアは、ここに来る前のことを思い出す。

 

(病室には私とエドさんの二人っきり。あの二人の言う通り、ここで一気に距離を詰めてみせます!)

 

 実は今日、エドをお見舞いしようとエルザイムからシーダが。そして、カルバードからはアシェンが訪れてきたのだ。二人はオランピアの無事と再会に喜び、彼女に作戦を授けて、そのまま帰っていった。戸惑うオランピアだったが、この後、セリスが来ると聞き、その作戦を実行するのであった。

 

「まずは頭を撫でてください」

「は?」

「な・で・て・く・だ・さ・い」

 

 ぐいぐいと迫るオランピアにエドは黙って従う。優しく、壊れないに彼女の頭に手を置いて撫でるエド。頭から来る心地よさに浸りながらも、オランピアは次の指示を出す。

 

「次はその……、抱きしめてください」

「え、そいつは……」

「抱きしめてください」

 

 二度目の圧力にエドは黙って従う。全身を包み込んでくれる彼の温もりに体が熱くなるのを感じる。

 

「えっと、最後は目を瞑ってください」

「目を?」

「はい。十秒だけでいいので……」

 

 首を傾げるエドだったが、彼女の言われるがまま、目を閉じて待つ。

 オランピアは緊張しながらも彼の肩に手をそっと乗せて、身体を持ち上げる。

 徐々に近づくエドとオランピア。彼女は頬を赤らめながら自身の唇を彼の唇へと近づける。

 そして、二人の唇が重なり合おうとする、その時、

 

「だーーらっしゃぁああああああああああ!!」

 

 突然、病室のドアがぶち破られた。

 勢いよく中に入ってきたセリスは鬼のような形相で足を突き出して、エドに向かって跳び込んできた。

 

「グッッフッ!!」

 

 そして、彼女のドロップキックは彼の顔に命中する。彼女の足で顔を抉られたエドはベッドから吹き飛ばされて、そのまま病室の壁に強く叩きつけられた。

 

「何やってんだ、テメェ!」

 

 着いてそうそう、オランピアに詰め寄るセリス。エドは何が起きたのか理解できず、目を瞑ったまま、床に倒れて気を失うのであった。

 

「おい、クソガキ。今、何しようとしてやがった?」

「彼に慰めてもらっていたんです。……セリスさんのおかげで台無しにされましたが」

「ほぉ、慰めね。とても、落ち込んでいるようには見えねぇが? それに、最後のあれは何だったんだ? あれも慰めの一つだっていうのか?」

「ご想像にお任せします。セリスさんには関係のないことですので?」

「あ゛ぁ?」

「そういうセリスさんも予定より早かったですね。仕事で夕方まで遅れるという話でしたが。……まさか、サボったのですか?」

「んなわけねぇだろう。ちょっと嫌な予感がしたからな。仕事をパパッと片付けて帰ってきたんだ。……ま、来て正解だったみたいだがな」

 

 二人は無言で睨み合いながら、静かに武器を取った。ぶつかる二人の威圧に病室全体が揺れ出し、ピキッと窓にひびが入った。

 

「どうやら、テメェとは決着をつけなきゃいけねぇみてぇだな」

「奇遇ですね。私も同じことを考えていました」

 

 気を失ったエドを無視して、二人の戦いが突然、始まった。その後、彼女たちを鎮圧するために騎士団が派遣されたが、誰も彼女たちを止めることができず、逆に撃退されてしまった。最後はアインが直々に来て、二人をしばき倒して、事が収まったのだった。




 ラスト一話、明日にご期待ください。
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