英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 第二章始まります。
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第二章 人形達の学園祭 ~若き白隼~
第十六話 学園に通う少女


 少女は目の前に広がる光景に言葉を発することができなかった。

 少女は小さな村にひっそりと暮らしていたため、外の世界のことは本の中でしか知らなかった。

 本でそれのことは知っていたが、どういうものなのかと、あまりイメージができていなかった。

 だが、彼女は外の世界へと行き、今、生まれて初めてその光景を目にした。

 

「これが、海ですか……」

 

 少女――オランピア・エルピスはその一言を言うだけで精一杯だった。

 少女の視界に広がるのは、どこまでも透き通った青い海だった。 

 クロスベルのエルム湖とは比較にならない、水平線の果てまでずっと続いている広大さ。

 太陽の光が水面を反射し、宝石のように輝く美しさ。

 波の音が常に響き渡り、それは心に安らぎを与えるような心地良い綺麗な音だった。

 

「こいつは絶景だな」

 

 オランピアの隣で同じく海を眺める青年ーーエド・ヴェルガことエドワード・スヴェルトも海の美しさに感嘆の声を漏らしていた。

 

「それじゃあ、海を眺めながら飯にするか」

「はい」

 

 エド達は近くにあるベンチに腰を下ろして、海を眺めながら、近くの村で買った出来立てのサンドイッチを摂っていた。

 

「そういえば、エドさん」

「ん?」

 

 食事を終えてエドが作ったココアを飲みながら、静かに海を眺めていたオランピアは何かを思い出したのか、隣に座っているエドに声をかけた。

 

「どうしてリベール王国に来たのですか?」

 

 この国に着いてから疑問に思っていたことをエドにぶつけた。

 

 リベール王国

 北のエレボニア帝国と東のカルバード共和国に隣接している、ゼムリア大陸の南西部に位置する小国。

 古くから君主制を敷いているが貴族制は廃止されており、現女王アリシア二世の手腕で両二大国と対等な関係を保っている国だ。

 

 クロスベルから離れたエド達はカルバード共和国を経由して、現在はルーアン地方にある《バレンヌ灯台》にいた。

 目的をまだ伝えていなかったことを思い出したエドは、ばつが悪そうな顔をして頭をかく。

 

「そういえば、まだ言っていなかったな。ここに来たのは、ある人に会うためだ」

「ある人?」

「あぁ。《庭園》のことで気になることがあってな。その事も含めて、相談したいと思ったんだ」

 

 エドはある事件の殺人容疑がかけられており、指名手配されている身分となっている。本来ならば、正体がばれる可能性を考えて人との接触は避けるべきなのだが、それも承知でエドはその人物に会おうと考えていた。

 

「誰なのですか?」

「カシウス・ブライト。俺とアリオスさんの兄弟子だ」

 

 カシウス・ブライト

 リベール王国軍に所属していた元軍人。同時にエドとアリオスよりも先に、《剣仙》ユン・カーファイの直弟子となり、八葉一刀流を修めた《 ()剣聖》。

 九年前に軍をやめて、遊撃士に転属するのと同時に、剣をおいて今は棒術を用いて活動をしている。

 

「では、これからそのカシウスさんに会いに行くのですか?」

「いや、行っても多分会えないだろう」

「? それはなぜ?」

「あの人はすごい多忙だからな。なにせ、アリオスさんより上の()()()()()だからな」

 

 正遊撃士には階級が存在しており、実績を積むことで階級が上がり、最後にはA級に達する。

 だが、非公式でA級よりもさらに上の階級が存在する。

 それがS級。ゼムリア大陸ではカシウスを含めて、まだ四人しかいない存在なのだ。

 それ故に、A級遊撃士のアリオスよりも多忙な身であり、リベール王国に滞在していることはほとんどない。

 だが――、

 

 

「一週間後に行われる、ある行事に合わせて、あの人はルーアンに来ると思う」

「ある行事?」

「あぁ。それは……」

 

 すると、エドは会話を止めて、整備されている街道――マノリア間道の方に視線を向ける。

 その視線は鋭く、何かに集中していた。

 

「? どうしたのですか?」

「剣戟の音……。誰かが戦っている」

「え?」

「行くぞ!」

「あ、エドさん!」

 

 突如、ベンチから立ち上がり走っていくエド。

 少し遅れたオランピアは慌てて、エドの後を付いていった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 マノリア間道の道中に、魔獣の群れが何かを取り囲んでいた。その中には、小さな子供を匿う一人の少女が魔獣と相対していた。

 

「ク、クローゼお姉ちゃん……」

「大丈夫よ。あなたは下がっていて」

 

 心配をかけないよう優しい声で子供を下がらせ、少女は手に持った細剣を強く握りしめる。

 守る人がいて、一対多数という圧倒的な不利な状態にも関わらず、少女は魔獣達から一歩も引かなかった。

 少女と魔獣達がにらみ合っている中、魔獣の群れから一体の魔獣が飛び出した。

 羊のような小柄な魔獣――ヒツジンは鋭い飛び蹴りで少女に襲い掛かる。

 しかし、少女は落ち着いて一歩バックステップして攻撃をかわし、すぐに前に出る。

 

「やぁっ!」

 

 少女から放たれた細剣の突きは、見事に魔獣に命中しそのまま消滅させた。

 倒されたのを見たヒツジン達は、一斉に声を上げる。

 すると、森の中から新しいヒツジンがどんどん現れて、数を増やしていった。

 

「っ! 数が多い(何とかこの子だけでも……)」

 

 このままではやられてしまうと察知した少女は、子供だけでも逃げられるように策を練ろうとする。

 

 それが致命的だった。

 

 一瞬の隙を見過ごさなかったヒツジンの群れは一斉に少女達に襲いかかった。

 反応が遅れた少女は剣を捨て、子供を守るように覆いかぶさった。

 少女はこれから来る痛みに耐えるよう、目を強く瞑り、その時を待つ。

 すると――、

 

「イシュタンティ!」

 

 少女達と魔獣達の間に何かが飛び出してきた。

 それはその場で身体を回転させ、襲ってくる魔獣達を弾き飛ばした。

 

「え?」

「て、天使様?」

 

 少女と子供は割って入ってきた存在に目を丸くする。

 それは、四つの翼を羽ばたかせた人形だった。

 

「大丈夫ですか?!」

 

 二人が呆けていた時、横から誰かが来た。

 小太刀を構えて近づいてくる白髪の少女オランピアと、後ろからオランピアを追いかけてきた眼鏡をかけた黒髪の青年エドだった。

 

「えっと、あなた方は?」

「話は後だ。まずはこいつらを片付ける。オランピア、いけるか?」

「はい!」

 

 エドとオランピアは少女達の前に立ち、武器を構える。

 

「いくぞ!」

 

 エドとオランピアは正面からヒツジンの群れに突っこみ、わずか数分で全滅させるのであった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 七耀暦1201年 リベール王国 ルーアン地方 5月25日

 

 メーヴェ海道を通り、《海港都市ルーアン》とは別の道の先には、一つの建物が建てられていた。

 古くなったレンガで作られた大きな一軒家。辺りには多種多様の花が木製で作られた植木鉢で咲き誇っており、小さな畑がちらほら存在しており、ハーブを栽培していた。

 マーシア孤児院。

 静かな場所で建てられた院内では、三人の男女が席を囲っていた。

 

「この度は子供達を助けていただき、ありがとうございます」

 

 三人の中でも年長者である緑髪の女性が、テーブルを挟んで席に座っている男、エドに頭を下げていた。

 

「頭を上げてください。人として当然のことをしただけですから」

 

 エドは丁寧な口調で頭を上げるよう促す。女性は慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる。

 

「私はテレサ。この《マーシア孤児院》の院長を勤めています」

「エド・ヴェルガといいます。向こうにいる彼女はオランピアです」

 

 エドはテレサから視線を外し、窓の外を見る。外には孤児院の子供達と一緒に遊んでいるオランピアがいた。

 楽しそうに遊んでいる姿にエドは口角を上げるが、視線を元に戻してテレサと一緒にいる、先程魔獣から助けた少女に目を向ける。

 

「それで君は?」

「あ、はい。ジェニス王立学園一年生のクローゼ・リンツと申します。先程は助けていただきありがとうございます」

 

 青みがかった紫色の短い髪。

 服装は、青と白を基調にした学生服。

 丁寧な言葉遣いからもわかるほど物腰が柔らかそうな少女だった。

 

「ジェニス王立学園……。ルーアンの外れにある名門校だったな。もしかして細剣もそこで?」

「いえ、学園に入る前から嗜んでいます。人を守るために振るうようにと教わりましたが、今回はあまり役に立つことができませんでした」

「そんなことはないさ」

「え?」

 

 役に立つことができなかったことに少し落ち込んでいるクローゼだったが、エドはそれを訂正する。

 

「君があの子を守って戦っていたから、俺達は間に合うことができた。君はちゃんと子供を守ることができたんだ。そこは誇っていいことだと思うぞ」

「そうね、彼の言う通りだわ。クローゼさん、マリィを守ってくれてありがとう」

「エドさん……、テレサ先生……」

 

 二人の言葉に感銘を受け、少し涙ぐみそうになるクローゼ。

 

「クローゼはこの辺に住んでいるのか? 子供達にもかなり慕われていたようだが……」

 

 孤児院に着く際、子供達が一斉にクローゼの元に駆けだしてきたことから、かなり親しい間柄なのだとエドは推察する。

 

「いえ、私はグランセル地方出身で、今は学園の寮で暮らしています。テレサ先生とは九年前に知り合ったんです。ある事情で保護されてたことがありまして、学園に入ってルーアンに来たことをきっかけにまた親しくさせていただいています」

「九年前? ある事情ってまさか、《百日戦役》か?」

「あ、はい」

 

 《百日戦役》とは、九年前にリベール王国とエレボニア帝国の間で起きた侵略戦争の事だ。

 開戦時は帝国の圧倒的戦力でほとんどの領土を占領されてしまったが、開戦から二ヶ月後に行われたリベール王国の反抗作戦によりその形勢は逆転した。

 その後、両国との間で講和条約が結ばれ、終戦。開戦から終戦まで約百日かかったことから《百日戦役》と呼ばれるようになった。

 戦争の話で場の空気が少し重くなってしまっていることを感じたテレサは、話題を変えてエドに話しかける。

 

「そういえば、エドさん達はどのような理由でリベールに?」

「はい。ある人に会いに来たのですが、どうやら留守だったようで。学園祭の日には戻ると思うので、一週間くらいマノリアの宿屋に泊まる予定です」

 

 エドがオランピアに言っていたある行事というのは、ジェニス王立学園で年に一度に行われる学園祭のことだった。

 

「まぁ。一週間もですか……」

 

 テレサは何かを考え始め、エドにある提案を出す。

 

「エドさん。よろしければ、この孤児院に泊まっていきませんか?」

「え?」

「一週間ともなるとお金もかかりますし、何より子供達を助けてくれたお礼がしたいので」

 

 テレサの提案にエドは考える。

 オランピアと共に行動をする事になってから、物資の購入が今までの倍以上はかかっており、オランピアの事を考えて野宿の数を減らし、宿をとることが多くなったことでお金が心もとないのは事実だ。

 テレサの提案は確かにお金もかからないが、一週間も宿に泊まれば、遊撃士達に自分がリベールにいることを感づかれてしまう恐れがある。そういう意味では、テレサの提案はとても魅力的だった。

 

「わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます。()()()テレサ」

 

 エドはテレサの提案を受け入れて返事を返す。

 

「あら、マザーだなんて」

「エドさん……」

 

 テレサは少し照れくさそうに微笑み、クローゼは少し驚いていた。

 

「え? あ! 申し訳ない!」

 

 予想していなかった反応に少し戸惑うエドだったが、自身の発言を思い出し、慌ててテレサに謝罪する。

 

「その、実はアルテリア法国の福音施設育ちで、テレサさんの雰囲気がその時のマザー達にとても似ていましたので、つい……」

 

 福音施設とは七耀教会が運営している修道院に近い孤児院のことだ。エドは七歳の時からその施設で育った。

 

「そうだったのですか」

「エドさんのご両親は……、あっ、すみません」

「いや、いいんだ」

 

 聞いてはまずいことを聞こうとしたクローゼは、すぐに言葉を止めて、エドに謝罪する。エドは特に気にしていないようだ。

 

「父は物心ついた時にはいませんでした。母はいましたが精神的にまいっていまして、とても俺を育てることができなかったんです。神父だった祖父がそれを見かねて、知り合いが勤めている福音施設に俺をいれるようお願いしたんです」

 

 エドは話題を変えて、話を続ける。

 

「とにかく、お泊まりの件に関しては、俺からオランピアに伝えておきます。その代わりに泊まっている間は、家事などのお手伝いをさせていただきます」

「それは助かります。一週間、よろしくお願いしますね」

 

 その後、エド達はクローゼが学園の寮に帰るのを見届けた後、エドはオランピアに孤児院で泊まる事を伝えた。夕方で辺りが暗くなっていく時間、マーシア孤児院では子供達の声がいつもよりも賑やかなものになっていた。




 ストックがなくなりましたので、更新のペースが遅くなります。
 ご了承ください。

 次回、第17話「海港都市ルーアン」
 お楽しみください!
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