えっ?! マジで!!
エドがアイナ街道で戦闘を始めている中、クローゼ達と共に喫茶店に向かっていたオランピアは……
「ん~、ここのケーキおいしいわね~」
「そうね。来て正解だったわ」
自身が注文したショートケーキを幸せそうに頬張るジルに、ルーシーは食後のアフタヌーンティーを優雅に飲みながら賛同した。
「でも、よかったのでしょうか? 私達だけここに来てしまって……」
同じテーブルでチーズケーキを食していたクローゼは、学園祭の手伝いを他の人に任せてしまったことに少し後ろめたさを感じていた。
「いいのよ。散々サボっていたんだもの。この程度の事、押しつけたって誰も文句なんて言わないわ」
「ルーシー先輩、あの人の当たりが結構きっついですね」
「生徒会長のくせに目を離した時にはどっかに行っているわ、会議には普通にサボって屋上で寝ているわ、生徒会活動の時、彼の尻拭いを何回したことか……」
そう言ってため息をついたルーシーは、誰もが見惚れる程の笑顔を浮かべながら顔を上げた。
「ちょっとイラッときたわね。明日もまた押しつけちゃいましょうか♪」
「先輩……」
笑顔を浮かべているが目が全く笑っていないルーシーを見て、クローゼはここにはいない元生徒会長の先輩に憐憫の情を禁じ得なかった。
「ごめんなさいね。オランピアさん。せっかく招待したのにほったらかしにしちゃって」
「あ、いえ、大丈夫です」
ルーシーは隣の席に振り向くと、そこにはシュークリームを手に持って頬張っているオランピアがいた。彼女の顔は口の中に広がる至福の甘味に緩みきっていた。
「フフフ……、あら? 口にクリームが付いているわよ」
オランピアが浮かべる表情に微笑んでいたルーシーは、オランピアの頬にクリームが付いていることに気づき、ハンカチを優しく当てて拭き取った。
「あ、ありがとうございます」
はしたないところを見られてしまい、オランピアは頬を赤く染めて俯いてしまった。
「いや~さすがルーシー先輩だなぁ~。成績優秀、気品が良く、面倒見がいい。付き合える野郎がうらやましいわね」
一連のルーシーの行動に尊敬の念を禁じ得ないジルに、とうの本人は笑って対応する。
「ありがとう。でもあいにく、この学校にはそんな相手はいないわ」
「え、そうなのですか?」
ルーシーはジルの言う通り、見た目も良く、頭もいい。さらには有名な家系にいることにも鼻にかけない穏やかな性格をしているなど、マイナスな要素が見られない完璧な人物だっだ。そのような人物なら付き合っている人がいてもおかしくないと思っていたクローゼは、ルーシーの発言に目を丸くしてしまう。
「何回か交際を申し込まれたことはあるけど、全部断っているわ」
「そ、それはまさか! 故郷に意中の相手がすでに!」
クローゼと同じく驚いていたジルは眼鏡を光らせながら身を乗り出して、ルーシーに質問する。
「さぁ、どうかしら」
しかし、ルーシーは笑いながらとぼけて、ジルの攻撃を躱す。
「あなた達はどうなの? 入学してもうすぐ二ヶ月になるけど、そういう相手はもう見つかったのかしら?」
そして、今度はルーシーの方から反撃のパンチを送った。
「いや~、そういう相手はいませんね。あなたの方はどうなの、クローゼ?」
「私ですか? そうですね……。私もいませんね。今は勉学に集中したいから」
「さっすが、今年の首席ね。私も負けてられないわね。あなたはどうなの、オランピアちゃん」
「え?」
黙って聞いていたオランピアは、突然、自分に振られたことに少し驚いた。
「エドさんだったけ。かなり親しそうだったけど、もしかして、もうそういう仲なわけ?」
「ジ、ジル……」
ぐいぐいと攻めてくるジルに、クローゼは落ち着くように注意する。
「? そういう仲っていうのは?」
だが、オランピアにはジルの言っている内容がわからず、首を傾げてしまう。
「あら、まだわからないって感じかな。そうね……、それじゃあエドさんの事はどう思っているの?」
オランピアの反応に少し目を丸くしたジルは話題の内容を少し変えて、再度オランピアに質問する。
「エドさんは恩人です。ある事情で助けていただいて、それから一緒に行動しています」
「ふ~ん。もうどのくらい行動しているの?」
「えっと……、二ヶ月くらいは経っています」
「二人の年は?」
「私は十二で、エドさんは十八だったはずです。あのこれっていったい……」
「ジル。もうそのくらいで……」
次から次へと来るジルの質問にオランピアは意味がわからず戸惑いを覚える。
対して、ジルはオランピアから手に入れた情報を吟味して、隣で傍観していた先輩に振り向く。
「六歳差か……、ルーシー先輩はどう見ます?」
「そうね……、ありかなしかって言ったら、ありじゃないかしら」
「ですよね!」
「ルーシー先輩まで……。オランピアさん、ごめんなさい」
先輩のルーシーまで話に乗ってしまい、止めることができないとわかってしまったクローゼは、オランピアに謝罪する。
「いえ、みなさんとこうして話すのは、すごく楽しいです。ただ……」
「ただ?」
オランピアはしばらく黙ったまま俯いていてしまった。
そして、顔を上げてゆっくりと口を開いた。
「…………エドさんも一緒だったらなぁと思いまして……」
別れる前、オランピアはエドを呼び止めようとした。なぜ、そんな事をしたのか最初はわからなかったが、時間を掛けて考えていく中、オランピアはそう思ったのだ。どうしてそう思ったのかまではまだわからないようだが。
「あら?」
「ふむ、ふむ」
「オランピアさん……」
オランピアからの告白に三人は反応は違えど、驚きながらオランピアに注目していた。
「えっと、どうかしたんですか?」
視線が自分に集中していることに気づいたオランピアは、視線からくる圧力に少し身体を小さくしまう。
「いいえ、何でもないわ。それじゃあ、新しいのを注文しましょう」
「そうですね! えっと、他には何があるかなぁ~」
ルーシーは一笑して話を中断させて、追加の注文を促す。
ジルもそれに賛同して、メニュー表を開いて何にするか選び始める。
クローゼはジルの切り替わりの速さに苦笑いを浮かべ、残っているケーキを手に付ける。
最後にオランピアは三人の先程の反応に疑問を浮かべるが、シュークリームの中から出てくる濃厚なクリームの匂いに負けて、再び食べ始める。
(……エドさん、まだ買い物の最中なのかな……?)
今、この場にいない黒髪の青年を思い浮かべながら、オランピアは次々と出てくるデザートを堪能するのであった。
~~~~~~~~~~~~~~
四人の女子が話に花を咲かせている中、アイナ街道では激しい戦闘が続いていた。
「ハァアアアアアアア!!」
赤毛の遊撃士、アガットは大剣を上段に構えて、勢い良く振り下ろした。気合いがはいったその攻撃は、相手を一撃で仕留める程の強大な力が籠っていた。
だが――、
「ハァッ!」
頭上から迫ってくる圧倒的な質量をエドは剣より細い太刀で軽々と弾き返す。
弾かれて体勢が崩れそうになったアガットは、弾かれた勢いでその場で一回転して横から大剣を振るう。一回転した遠心力を乗せた、先程よりも強力な一閃がエドに迫る。
「フッ!」
だが、それも甲高い音を鳴らして弾き返される。
体格や筋力といったパワー勝負では、アガットの方に分がある。本来なら弾き返されることなどなく、相手の武器を叩き折ることができるはずだった。
しかし、アガットが相手にしているのはただの剣士ではない。
皆伝に至った者は"理"に通じると言われる八葉一刀流の《黒金の剣聖》。エドが持つ圧倒的な剣術がアガットとの力の差を埋めるどころか完全に追い越してしまい、アガットの攻撃はエドに届く前に全て弾かれてしまうのだ。
「ちっ!」
攻撃が全く通用しないことに苛立ちながらも焦るアガットは、エドと距離を取り勝負に賭ける。
「オォォォォォォォ……ダァアアアアアッ!!」
自身の中にある闘気を一気に爆発させ、上段の構えをとる。
「食らいやがれえぇええええ!!」
そのまま強く地面に叩きつける。すると、砕かれた地面の礫を巻き添えに赤色の巨大な斬撃が地を割りながらエドを襲う。
エドは迫る斬撃に怯むことなく剣を構える。
「緋空斬!」
エドが放った炎の斬撃は迫りくる赤い斬撃とぶつかり、砂塵を撒き散らす。
エドは剣を納刀して前に出る。
すると、目の前で視界がふさがれている砂塵の中から、アガットが勢い良く出てきた。
二人の距離が徐々に縮まり、アガットは自身が持つ最強の技を放つ。
「ダイナストゲイルッ!!」
リーチの差からエドが抜刀する前にアガットの大剣が届く。
エドは《魔眼》を解き放ち、世界が減速した。
迫りくる一撃目を身体を横に反らして躱す。
続いての二撃目は身体を低くして横からくる大剣の下に潜る。
そして――、
「残月」
――キンッ
三撃目を放つ前にエドの剣は大剣の持ち手と刃を繋げている部分を斬り落とした。大剣の刃は空に舞い、三撃目は空ぶった。
「なっ!」
武器が破壊されたことに固まるアガットの懐に潜ったエドは拳を構える。
――八葉一刀流
「破甲拳っ!!」
「ぐあっ!」
"気"を込めたエドの掌底はアガットの腹をめり込み、後ろに大きく吹き飛ばした。
「……ッ! ゴホッ! ゴホッ!」
地面に倒れながらも痛みに耐えて、何とか立ち上がろうとするアガットに対して、エドは追撃を行わずにその場で立ち尽くす。
「ハァ……、ハァ……、どういうつもりだ」
「何がだ?」
「とぼけんじゃねぇ! 何で手を抜きやがった!」
最後の一撃。エドは剣てはなく、拳でアガットを沈めた。
本気で止めを指すのなら、拳よりも剣の方が確実に決まる。
そうしなかったことに、アガットは手を抜かれたと憤っていた。
しかし――、
「それはこっちのセリフだ。あんた、本気で俺を捕らえる気があったのか?」
「何?」
エドからの質問にアガットは眉を潜ませる。
「捕まえる気はあったんだろう。だが、あんたの剣からは"熱"を感じなかった。本気で叩き潰すっていう"熱"がな。……どこか俺を試しているように感じた」
「っ!?」
発せられた言葉にアガットが顔色が変わったところをエドは見逃さなかった。
「あんたは……」
「キャアアアアアア!!」
「っ!」
「何だっ?!」
突如、聞こえてきた女性と思われる悲鳴にエドとアガットは声がした方へ視線を向ける。
エドは《魔眼》の力を行使して、肉眼では目視できない遥か先の光景を目にする。
そこには頭巾を深く被って顔が見えない人が倒れていた。
そして、近くには黒装飾にフードを被った二人がいた。
「ちぃっ!」
「お、おい!」
エドはアガットの呼び止めを無視して、声がした方へ全力で駆け上がった。
走っている中、エドは三人の様子から目を離さなかった。
黒ずくめの二人は、少しずつ倒れている頭巾の人に近づいていった。二人の手には太陽の光に反射して、銀色に光る鋭利なナイフが握られていた。
間に合わないと判断したエドは手に持った剣を逆手に持ち、大きく振りかぶり三人の方に投げた。
螺旋の動きを駆使して投擲された剣は、一本の矢となって一人と二人の間を通りすぎた。
「「っ!?」」
突如、割ってはいってきた剣に黒づくめの二人は動きを止めた。
エドは足に力を込めて、一気に三人の間にはいった。
「なっ!?」
「遅い」
黒づくめの一人がエドの姿に驚くが、それを無視してエドは懐にはいった。
「破甲拳っ!」
「がぁっ!」
腹からきた衝撃に一人は吹き飛ばされ、もう一人を巻き込んで後ろに倒れた。
痛みに耐えながら遅れてやってきたアガットは、黒づくめの二人が倒れていることに驚きながら、頭巾の人に近づく。
「大丈夫か?」
「はい。あの人が助けてくれました」
頭巾の人はエドを指差して呟く。それを聞いたアガットは正面からエドを見つめる。
「……お前、何で助けたんだ?」
「なんだ、助けちゃいけなかったのか?」
「そういう意味じゃねぇ。お前は指名手配犯として狙われているんだぞ。あの時、隙を見て逃げることだってできたはずだ。だが、お前は逃げようとせずに、真っ先に助けに行った。何でだ?」
遊撃士であるアガットが助けに行くことはエドもわかっているはずだった。アガットが助けに行く隙に逃げることができたにも関わらず、エドはアガットよりも先に助けに行った。わざわざ捕まるリスクのある方を取ったエドの行動にアガットはどうしても腑に落ちなかったのだ。
「……一言でいうなら、"約束"だからだ」
「約束?」
「あぁ。何があっても、捨てられない。捨てたくないものなんだ」
(そうだ……、これだけは絶対に譲れねぇ……)
『約束だからな!!』
あの時に交わした約束。
あっちからの一方的なもの。
だけど、どんな状況に陥っても"あいつ"との約束だけは絶対に破りたくない。
街道でのやり取りの時よりも真剣な表情で顔を向けるエドにアガットはただ黙っていた。
「もういいんじゃないんですか、先輩」
「え?」
すると、アガットの後ろにいた頭巾の人がアガットに声をかける。
「この人の人となりは、もうわかったんじゃないですか?」
「ハッ、まだ疑いが晴れたわけじゃねぇ。だが、まぁ……、調べる必要はあるかもな」
素直じゃないなぁ、とアガットの態度に少し呆れながら、頭巾の人はエドに近づいた。
「ごめんなさい。あなたの事を少し見極めたかったんです」
頭巾の人の態度と、アガットとのやり取りでエドはある一つの推測に思い至る。
「まさか、あんたら全員、遊撃士?」
エドは頭巾の人だけでなく、さっき倒した黒づくめの二人も見た後、目の前にいる頭巾の人に確認をとった。
頭巾の人はその場で頷き、言葉を続ける。
「エドワードさん。あなたのことはカシウスさんやおじいちゃんから色々聞いています」
「おじいちゃん?」
頭巾の人は被っている頭巾を脱ぎ、自身の顔をエドに晒す。
「改めまして、遊撃士協会所属にして、ユン・カーファイの孫のアネラス・エルフィードです。よろしくお願いします!」
次回、第19話「事情聴取」
お楽しみください!
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