英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第十九話 事情聴取

 七耀暦1201年 リベール王国 ルーアン地方 5月27日

 

 

 エドが遊撃士達と邂逅した翌日。

 エドは朝早くにオランピアを連れて、ある場所を訪れていた。

 遊撃士協会。

 指名手配犯となってから二年間、一度も訪れることがなかった場所にエド達は足を踏み入れた。

 ルーアン支部の一階の窓口には、エドとオランピアを含めて七人の男女が集まっていた。

 その中にはエドが昨日出会った、三人の遊撃士もいた。

 一人目は、黒づくめの一人に扮していた男。リベール王国ではカシウスに次ぐ実力を持つ、額当てをした遊撃士――クルツ・ナルダン。

 二人目は、エドと対峙した男。D級でありながら、《重剣》の異名を持った遊撃士――アガット・クロスナー。

 そして三人目は、被害者を演じていた頭巾の人。エドの師、《剣仙》ユン・カーファイを祖父に持ち、祖父譲りの剣術と持ち前の明るさで遊撃士としての実力を伸ばしている少女――アネラス・エルフィード。

 

「よく来たね。エドワード・スヴェルト君。そして、オランピア・エルピス君」

 

 最初に口を開いたのは、ルーアン支部の受付をしている眼鏡をかけた男性――ジャンだった。

 

「あぁ。約束通り、オランピアも一緒に連れてきた」

 

 エドは横目でオランピアを見てジャンに告げた。オランピアは緊張しながら頭を下げてお辞儀をする。

 

「それで、そちらの女性も遊撃士なのか?」

 

 エドはアネラスの隣にいる一人の女性に目を向ける。

 異国から来たのかリベールでは見ない褐色の肌と銀髪に赤いターバンのようなものを巻いた、アネラスよりも年上の女性だった。

 

「初めまして。遊撃士協会所属、シェラザード・ハーヴェイよ」

 

 銀髪の女性――シェラザードは不敵な笑みを浮かべて、エド達に声をかけた。

 アガットと同じくD級でありながら《銀閃》と呼ばれている遊撃士。本来は東のロレントで活動をしていたが、ジャンの要請でルーアンを訪れていた。

 今は巡回に行って支部にはいないが、リベールの遊撃士で銃の腕が一番と称されるカルナや、持ち前のフットワークの軽さで多くの仕事を成し遂げているグラッツといった名が通った遊撃士達がルーアン地方に集まっていたのだ。

 

「さて、来てもらって早速だけど、君達にお願いが……」

「その前に一つ聞かせろ」

 

 ジャンが本題に入ろうとする前に、エドが口出しする。

 その口調はとても強く、ごまかしは許さないという気迫が感じ取れた。

 

「そこの赤毛の遊撃士が言っていたんだが、俺とオランピアがルーアンに来ているっていうタレコミ。いったい誰からもらった?」

 

 エドはアガットを睨みつけて、ジャンに昨日から気にかかっていたことを確認する。

 エドはオランピアも含めて、誰にもルーアンへ向かうとは一言も言っていない。にもかかわらず、自分達の居場所が把握されていた。

 しかも、ルーアンには名が通った遊撃士が一堂に集まっていることから、かなり前から知られていたのだろう。

 クロスベルからずっと付けられているのではないかと危惧したエドは早急にその事実を確認した。

 

「あぁ、そのことか。例のタレコミはクロスベルにいるアリオス・マクレインからだよ」

「アリオスさんから?」

「ちょうど二ヶ月くらい前に彼から連絡がきてね。一週間くらい前から君達が来るのを待ち構えていたんだよ」

 

 ジャンのから告げられた意外な事実にエドは深くため息をついた。

 誰かに監視されていると思っていたエドは、昨日の夜、マーシア孤児院の周囲を散策していたのだ。

 それが全くの無駄であったことに落ち込むと同時に、監視されていないことにほっとしたのだ。

 なぜアリオスが自分達の行き先を知っていたのか、それについては考える必要はなかった。

 

 観の眼。

 

 あらゆる一切の先入観を廃して、物事の本質そのものを見ることができる技。

 八葉の剣聖に至るためには、どうしても必要な技術だ。

 アリオスは準遊撃士のリンとエオリアから、太陽の砦での経緯(いきさつ)を聞いていた。

 エドと同じ剣聖であるアリオスもそれを用いて、エドと()()()()へと至り、エドがカシウスに会いに行ったのだとわかったのだ。しかも、クロスベルの事件があった二ヶ月も前から。

 

「でも、俺を逮捕するんじゃなく、見極めようとしたのは何でだ? あんた達からすれば、俺は捕まえるべき指名手配犯だぞ」

「君の無実を訴えている人がいるからだよ」

 

 エドの疑問に横からクルツが簡潔に答え、その理由をアネラスが続けて答えた。

 

「カシウスさんにアリオスさん、おまけにおじいちゃんもあなたの無実を訴えているんです」

「これがまだ新米の遊撃士だったのなら放置していたのかもしれないけど……、カシウス先生に《風の剣聖》。遊撃士協会でも名のある二人が相手となると、とてもじゃないけど無視はできないわ」

 

 シェラザードの口から出た内容にエドは納得したのか、その場で頷いた。

 S級遊撃士とA級遊撃士。数多くの実績を持ち、公平な立場で物事を見ることができる高位の遊撃士二人を相手にするなど、それこそ無理な話だ。

 

「だが、いくらカシウスのおっさんが違うとほざこうが、俺達、遊撃士が指名手配犯のことを全面的に信じることはできねぇ」

「だから俺を試したのか? あんなやり方で……」

 

 遊撃士に見つかり、自分が捕らえられそうな状況の中で、自らを省みずに人を助けるのかどうか。

 遊撃士達はその時のエドの行動を見て、彼の人となりを確かめようとしていたのだ。

 

「まぁ、そういうことになるね。カシウスさんもやっていいって言ってくれたしね」

「カシウスさんが?」

「五日前にカシウスさんから手紙が届いてね。君が自分に会うためにリベールに来ること。我々が君のことを信じることができていないことなど、全部見透かされていたよ。文面の最後にこう書かれていたんだ……」

 

『彼のことを信じるかどうか、それは君達の心で判断すればいい。何なら彼のことを試してみるのもいいだろう……』

 

「なるほど、それで結果の方は?」

 

 遊撃士がなぜあんな芝居まがいなことをしたのかを理解したエドは、そのままジャンの方に顔を向けて結果を聞く。

 

「そうだね。ひとまず保留という感じかな。君はまだ犯人ではないという証拠がないから、まだ全面的に信じることはできない。だが、無関係な民間人を迷いなく助けに行こうとするその姿勢は評価に値するものだ」

 

 そう言って一息ついたジャンは真剣な表情でエドに告げる。

 

「君には学園祭が終わるまで、遊撃士協会ルーアン支部の監視下にはいってもらう。君は嘱託という形で遊撃士二名と共に、遊撃士活動をしてもらう。もしも、怪しげな行動、良からぬことをした瞬間、我々は君を即座に逮捕する。これが我々が出した結論だ」

「ま、妥当などころか」

 

 そのまま放置するのはさすがに無理だとわかっていたエドは、ジャンが出した結論に異議を唱えることはなかった。

 エドがまだ完全な白とは言い難いから、遊撃士協会は手元に置いて監視する事にしたのだ。

 

「それで? 俺達に頼みたいことは何だ?」

 

 エドの雰囲気が変わり、押し付けてくる緊張感に遊撃士達も身を引き締める。

 

「俺だけじゃなく、わざわざオランピアもこの場に呼んだのは、こいつにも用があるからだろう?」

「あぁ。クロスベルでの事件の事は我々も把握している。《庭園》と呼ばれる暗殺組織のこと。……そして、彼女がかつてそこに所属していたということもね」

「っ!」

 

 オランピアは顔を少し青くして、エドの後ろに隠れる。エドの服の裾を強く握りしめ、その手は微かに震えていた。

 

「今回、君達に頼みたいのは、簡単に言うと事情聴取だ。《庭園》のこともそうだけど、二年前の殺人事件について、君の供述を聞きたい」

「……そういうことか」

 

 《庭園》に所属していたオランピア。

 殺人事件の指名手配犯のエド。

 それぞれの当事者である二人から話を聞き、詳細な内容を把握したいのだろう。

 

「言っておくが、嘘ついても無駄だからな。裏取りだって当然する。嘘だとわかった瞬間、すぐにお前を拘束するからな」

「ちょっと、アガット先輩……」

「負けたからって、八つ当たりしないの」

「カシウスさんも後で見るんだろう? あの人に嘘なんて通じないから、つくわけないだろう」

 

 後ろからエドを睨みつけながら警告するアガットにアネラスとシェラザードは注意する。一方、エドはアガットの態度に対して、特に咎めようとはしなかった。

 事件の容疑がまだ晴れていない以上、警戒されてしまうのは仕方のないことだと割り切っていたからだ。

 

「わかった、聴取を受けよう。だが、やるならこいつとは別れずにやってほしい」

 

 エドはいまだに震えているオランピアを見る。

 不安で今にも崩れそうなその眼差しは、縋るようにエドを見つめていた。

 

『事情を説明すれば拒絶される。助けてもらえないかもしれない。捨てられるかもしれない。そう考えると怖くて、私は誰も信じることができないのです』

 

 エルム湖の上でのやり取りを思い出す。

 あれから、二ヶ月。オランピアは精神的にかなり成長していたが、まだ心の中に残っている不安は消せなかったようだ。

 エドは自身の手でオランピアの手を包み込んだ。

 オランピアはエドがとった行動に少し驚いていたが、手から伝わってくる温かさに震えが少しずつ収まっていった。

 

「……わかった。こちらはそれでかまわないよ」

 

 その様子を見ていたジャンはエドの頼みを聞き入れた。

 

「おい、ジャン」

「互いの事情は詳しくないから、二人とも口裏を合わせるようなことはできないさ。こちらとしては特に問題はないよ」

 

 ジャンの判断にアガットは反論しようとするが、ジャンの言い分を聞き、しぶしぶ納得する。

 

「それじゃあ、まずは《庭園》のことを聞こうか。立ち話もなんだし、二階の席で話そう」

 

 ジャンの案内で二階へと向かったエド達はテーブルを囲って、事情聴取を始めた。

 エド達の正面には、ジャンとクルツが座って二人の相手をする。

 向かい合っている四人を挟み、シェラザードが聴取の内容を紙に書いて記録していた。

 そして、エドとオランピアの後ろにはアネラスとアガットがついており、聴取を見守っていた。

 オランピアはジャンとクルツから出される質問に一つ一つ丁寧にゆっくりと答えていった。テーブルの下ではオランピアの手はエドの手をずっと握りしめ、片時も離さなかった。

 そして、クロスベルでの出来事まで話し、その時から疑問に思っていたことが話題に上がった。

 

()()。クロスベルで会った幹部、アリオッチという男は確かにそう言ったんだね」

「はい」

 

 ジャンの言葉にオランピアは頷いて肯定した。

 ジャンは腕を組み何かを考え込む中、今度はクルツがオランピアに質問をする。

 

「話の内容を考えるに《庭園》のリーダーで間違いないんだろうけど、幹部だった君には心当たりないんだね」

「はい。《庭園》は幹部のメルキオルと《皇帝(エンペラー)》の二人が主に《庭園》全体を指揮していました。私とアリオッチは託された庭の管理をしていただけで運営には(たずさ)わっていません。だから、あの二人よりも上の存在がいるというのは今まで聞いたことがありません」

 

 幹部であったオランピアでさえ知らない謎の存在。それが突然表れたことで多くの謎が生まれてきた。

 なぜ、幹部であるオランピアにその存在を教えなかったのか。

 仮に創設時からいたとするなら、なぜ、このタイミングで表に出てきたのか。

 そして、《庭園》を束ねるその存在は、いったい何者なのか。

 七人全員が頭を抱えて、考えを巡らせていた。

 

「オランピアちゃんにだけ、教えなかったということでしょうか? この子は《古代遺物》で感情を失っていたみたいだし、教えても意味がないと思ったんじゃないんですか?」

「もしくは、このガキが抜けた後にそのボスがはいって、幹部全員をぶっ飛ばしてボスになったのかもな」

 

 アネラスとアガットは自身が考えた推論を述べるが、当然、正解かどうかもわからないので、誰も否定的な意見を言うことができなかった。

 

「……最後にオランピア君。《庭園》がどのように誕生したのかその経緯は知っているかい?」

 

 ジャンの口から出てきた質問にオランピア首を横に振った。

 

「詳しくは知りません。ただ、メルキオルは壊滅した二つの組織が統合したものだと言いふらしているのを、耳にしました」

「壊滅した二つの組織、か……」

 

 かなり重要な手掛かりを掴んだ事にジャンはしばらく静かに目を瞑り、思考を巡らせる。

 

「……一つは暗殺組織の可能性があるな。おそらく、そのメルキオルという男はその組織の生き残りだったのだろう」

「そして、もう一つの組織と合流して《庭園》を立ち上げたということか……」

 

 《庭園》の前任である二つの組織の事を知っているメルキオルが、《庭園》の誕生に深く関わっていると思ったジャンはそう結論づけ、後にクルツがその内容を補足した。

 

「とりあえず、君の聴取はここまでかな。オランピア君、色々教えてくれてありがとう」

「い、いえ」

 

 お礼を言われるとは思わなかったのか、正面から言われたオランピアは少し恥ずかしながらも頭を下げた。

 

「さて、次は君だ。エドワード君」

「……あぁ」

 

 ジャンの目付きが先程よりも鋭くなった。同時に部屋の空気が殺伐な雰囲気に変貌した。

 エドも鋭い目付きでジャンを見つめる。

 自分の現状を大きく変えた、二年前の殺人事件。

 その真相究明が始まろうとしていた。




 独自設定④ アガット、シェラザードのランク
 空の軌跡FC時はC級だったので、一年前のこの時は一つ下のD級にしました。

 次回、第20話「事件究明①」
 お楽しみください!
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