それでは、ご覧ください。
七耀暦1201年 リベール王国 ルーアン地方 5月31日
昼が過ぎ、太陽が灰色の雲にわずかに隠れおり、辺りが少し暗くなっている時間。
学園祭を翌日に控えたルーアンの街には、早帰りの学生達の姿が普段よりも多く見かけられた。
悪天候にも関わらず、学生達の顔には曇りがなく、明日を待ちきれんとばかりの様子だった。
そんな人混みが多い中、白髪の少女がルーアンの街を一人でさ迷っていた。
(……エドさん、どこにいるのかな……)
白髪の少女、オランピアはルーアンを訪れて、エドのことを探していた。
エドは現在、遊撃士達に監視される名目で嘱託として遊撃士の手伝いをしており、朝から夕方まではルーアンの街を中心に行動していた。
ルーアンに着いたオランピアが真っ先に向かったのは、遊撃士協会のルーアン支部。
支部内にいるだろうと思い訪れたが、エドの姿がないことにため息をついた。その様子を窓口から覗いていた受付のジャンはオランピアにエドの事を伝えた。
『エドワード君なら、巡回に行っているよ。今はアガット君とアネラス君と一緒に行動しているよ』
そして、今に至る。オランピアはルーアンの街を端から端までと歩き続いた。だが、エドの姿は一向に見当たらず、ただ時間だけが無駄に過ぎていった。
探し続けて、すでに一時間。息が荒れ、足がおぼつかなくなったオランピアは近くの施設にはいり、休憩をとることにした。
「ここは……」
オランピアがまず最初に眼に写ったのは、奥まで続く青を基調にした長い絨毯。
左右に視線を向けると三、四人位は座れそうな長椅子が列となって並んでいた。
奥には壇があり、その背後には豪華なステンドグラスが張られていた。
一番印象的だったのは、長い絨毯の途中に描かれていた絵だった。
黄金の杯と周囲に太陽、月、星の絵が描かれ、なにかのシンボルのようだった。
オランピアはそのシンボルに見覚えがあった。
(……七耀教会)
ゼムリア大陸で最も信仰を集める伝統的宗教。オランピアが足を踏み入れた場所は、七耀教会のルーアン礼拝堂だった。
エドは七耀教会の関係者を殺した容疑がかかっているため、オランピアは教会関係の施設には一度も訪れたことはなかった。
静寂に包まれた広い空間はどこか心を落ち着かせてくれる。オランピアは自然と壇の前まで進んで行き、そのまま目を瞑って両手を前に組んだ。
(女神様……)
どうしてか今は女神に祈りたくなってしまった。
エドと共に事情聴取を受けた時から、オランピアの心はどこか落ち着きがなかった。
『俺には付き合っていた彼女がいたんだよ』
事情聴取の際に聞いた彼の言葉になぜか胸に針が刺されたように痛みが走った。
その時の痛みは、今も消えずにいる。
彼が傍にいない時、その痛みが鮮明に伝わってくる。
なんで痛いのか、どうしたら収まるのかわからない。
孤児院の子供達と楽しく遊んでいても、十分な満足感が得られなかった。
時々、訪れて来るクローゼ達の学園生活の話を興味津々に聞いていたが、どこか物足りなさを感じてしまった。
エドがいない。どうしてかわからないが、それが理由なのだとなんとなくわかっていた。
どのくらい時間が経ったか、祈り続けていたオランピアはゆっくりと目を開けて組んだ両手を解いた。少し顔色が良くなっているように見えるが、その雰囲気はまだ暗いままだった。
「お祈りはすみましたでしょうか?」
すると、オランピアの横から声が届いた。振り向くとそこにいたのは、礼拝堂に勤めているであろう教会のシスターだった。
「申し訳ありません。あまりにも熱心に祈っておりましたもので……」
「いえ」
邪魔をしてしまったのかと謝罪するシスターに対して、オランピアはゆっくり首を横に振った。
声をかけてきたシスターに改めて振り向く。
二十代後半と思われる高身長の女性。
凛として整った顔にくせ毛のない薄緑のショートヘア。
その堂々とした華麗な立ち振る舞いに同じ女性として少し憧れを抱いてしまった。
「……心は晴れませんか?」
「え?」
オランピアはかすかに目を見開いて、顔を伺ってくるシスターに視線を集中力する。
「顔がまだお暗いです。なにかお悩みでもありますか?」
「それは……」
シスターからの指摘に俯いてしまうオランピア。シスターはその様子をただ静かに見守っていた。
「……私には恩人がいます」
「恩人、ですか……」
独り言のように呟くオランピアの言葉にシスターは優しく聞き返す。オランピアは頷いて言葉を続ける。
「はい。独りぼっちだった私に手を差し伸べてくれた人です。その人がいなければ、私は今ここにはいなかったと思います。二ヶ月間、ずっと一緒にいてくれて、楽しかったことや苦しかったことを一緒に分かち合ってくれる、そんな優しい人です」
頭に思い浮かぶのは、クロスベルからリベールまでの二ヶ月の旅路。
朝は彼と一緒にココアを飲んで、一日を始める。
昼には《ナインヴァリ》の手伝いを一緒にし、時々来るジンゴの襲撃に二人で一緒に逃げ回った。
夜になれば車内で、過ごした一日を彼の隣で振り返って、明日を迎える。
彼と過ごした毎日は心が温まり、会話がない時間でさえすごく心地が良かった。
でも――、
「ここに来て、あの人と一緒にいる時間が少なくなったんです。一人になったというわけではありません。孤児院の皆や、時々訪れて来るクローゼさん達といっぱいおしゃべりしてすごく楽しいです。でも、エドさんが隣にいないことと、どうしてか胸にぽっかり穴が開いた感じがずっと続いているんです。私はそれがすごく嫌……」
彼が遊撃士の手伝いをするようになり、共に過ごす時間が減ってしまった。彼以外の人と共に時間を過ごしても穴がふさがった感じがしなかった。
「寂しい、ですか?」
「え?」
「今までずっと一緒にいた人が急にいなくなって、寂しいと思ったのではないのですか?」
シスターの言葉にどこか胸に落ちる感覚があった。
だが、同時に新たな疑問が思い浮かんだ。
「どうして……、寂しいと思ったのでしょうか?」
「それは……私の口から言えることではないと思います。あなた自身が自分で気づかなければ意味がないと思いますので……」
シスターに言われてオランピアはステンドグラスを見上げて考え込むが、何も思い浮かばず、時間だけが過ぎていった。
それを見かねたシスターはさ迷える子羊にもう一つの助言を送る。
「その人に会って、今の想いを告げたらどうでしょうか? 胸の奥にため込むのは体に良くありません。幸い、明日は学園祭があります。今まで一緒にいなかった分を学園祭の時は一緒にいるよう頼んでみたらどうでしょうか?」
「……受け入れてくれるのでしょうか?」
最近すれ違うことが多かったからか、エドがお願いを聞いてくれるかと顔を沈めて唸る。
「その人があなたが言ったとおりの方なら、聞き入れてくれますよ」
シスターの言葉に、オランピアは両手を胸に当てる。
(エドさんはカシウスさんに会うために学園祭に出る。……その時に一緒に回ってもいいよね?)
特に理由もなくエドの事を探していたが、目的ができた彼女の目に明るさが戻ってきた。
「ありがとうございます。え~と……」
「ん? あぁ、申し遅れました。私はエレンと申します」
「はい。私はオランピアです。ありがとうございます、エレンさん」
「えぇ、オランピアさん。どうか、あなたに女神のご加護を……」
シスター・エレンに頭を下げ、教会の外へと出る。
その足取りは、先程より軽かった。
~~~~~~~~~~~~~~
灰色だった雲は黒く分厚い雲へと変わり、太陽の光を遮っていた。辺りがより一層暗くなっていく中、オランピアは再びエドを探し始める。
《グラナート工房》。《ジョアン武器商会》。《ルーアン発着場》。
彼がいそうだと思うところを手当たり次第に訪れて、その姿を探す。
「……ここにもいない」
そして、オランピアは船員酒場《アクアロッサ》を後にし、近くにあった倉庫街に足を踏み入れた。
倉庫街にはエドの姿はおろか、人の姿も見当たらなかった。
ここまで探しても見つからないことにオランピアは顔を落とした。
すると、上から冷たい感触が次々と頭に襲い掛かった。
「……雨」
空から降ってくる冷たい雨を見上げるオランピア。
雨で服が濡れ、冷えていく身体を抱いて、倉庫入り口にある屋根に避難した。
濡れてない地面に、両足を閉じて抱えるように座るオランピアは、身体をさすりながら空を見上げた。
「……寒い」
こういう時、いつも近くにいた彼がなんとかしてくれた。
ココアを作ってくれたり、自身のコートを羽織らせて温めてくれた。
だが、今、隣にはいつも一緒にいてくれた彼の姿はいない。
「エドさん……会いたいよ……」
無意識に彼の名を呟きながら、うずくまる。
雨で濡れたことによるものなのか、それとも別のなにかなのか、少女の頬に雫が落ちた。
心を蝕んでくる孤独と寂しさにまだ十二歳の少女は耐えられなかったのだ。
その時――、
「うわぁあああ!!」
「っ!」
突如、耳に入った悲鳴にオランピアは顔を上げた。
倉庫街の奥から複数の声となにか重い音が響いていた。
オランピアは顔を引き締めて、奥の方へと向かって行った。
~~~~~~~~~~~~~~
ルーアンには倉庫街をアジトにしている不良グループ「レイヴン」が住み着いていた。
今日もいつものメンバーが集まり、世の中の不満などを適当に話してその日を過ごしていた。
だが、彼らにとっての平穏な時間は、海から這い上がってきた魔獣によってぶち壊されていた。
「おい、これってすんげぇ、やべぇじゃん!」
チャラそうな口調で悲鳴を上げる赤髪の不良――レイスは、怯え腰になりながらも目の前の魔獣を見据えていた。
目の前には、全長二アージュのスライム型魔獣、ドローメが小型のドローメを引き連れていた。
ドローメの周りにはレイヴンのメンバーが倒れており、残っているのは幹部の三人だけだった。
「ロッコ! ここは逃げたほうがいいんじゃないか!」
鼻に絆創膏をつけた緑髪の不良――ディンは、先頭に立っている仲間に切羽詰まった勢いで撤退を求める。
「うるせぇ! 俺達の場所をこんな魔獣に無茶苦茶されてたまるかよっ!」
ロッコと呼ばれた紫髪の不良は、普段から眉間に皺を寄せていたが、今はそれ以上に皺を寄せて、ドローメの群れを睨みつけて突っこんだ。
「オラァッ!」
ロッコはスタンロッドを振りかぶり、近くのドローメに殴りつける。
殴られた衝撃にドローメの身体は後ろに伸びるが、すぐに元に戻ってしまった。
「ッ! クッソォォ!」
全く効いていないことに苛立ち、何度も殴りつけるが状況は変わらなかった。
すると、巨大ドローメの触手が伸び、ロッコを巻き付ける。
「ぐわぁ!」
「ロッコ!」
「チィッ! どきやがれ!」
巨大ドローメに持ち上げられ、宙吊りになるロッコ。
助けに向かおうとするレイスとディンだが、小型ドローメが進路をふさぎ妨害する。
「クソッ! 離しやがれ!」
巻き付かれながらも、触手にスタンロッドを何度もぶつけるロッコだったが、巨大ドローメは触手の締まりをさらに強くする。あまりの締り強さにスタンロッドを落としてしまい、ロッコはただ悲鳴を上げることしかできなかった。
「イシュタンティ!」
すると、黄金の閃光が触手を貫いた。ロッコは空に投げ飛ばされ、そのまま地面に叩き付けらる。
「ゴホッ! な、なんだ?」
急なことに困惑するロッコ。遠くで見ていたレイスとディンも呆然としていた。
「大丈夫ですか!」
「へ?」
「こ、子供?」
レイスとディンは後ろから来る声に振り向き、突如現れた少女と後ろに付いて来ている天使型の人形に戸惑う。
「今のうちに皆さんを連れて避難してください!」
「お、おい!」
ディンの静止を振り切り、オランピアはドローメの群れに向かっていく。
ドローメ達もオランピアに気づいて向かってくる。
「イシュタンティ!」
オランピアの声に答え、イシュタンティは前に出る。
腕を薙ぎ払い、近づいてくるドローメを切り裂いていく。
イシュタンティの後ろに付いていき、巨大ドローメに一直線へと向かっていく。
すると、横から一体のドローメが接近してくる。
オランピアはイシュタンティに声をかけようとするが、周りには大量のドローメが群がっていた。
今、戻せば魔獣達に隙を与えることになる。
ならば――、
(私一人でやらなくちゃ!)
オランピアは小太刀を抜き、ドローメと相対する。
その距離、約五アージュ。
(肩の力を抜いて……)
四アージュ
(足から腰に……)
三アージュ
(腰から腕に……)
二アージュ
("螺旋"の動きを意識して……)
一アージュ
(技を放つ!)
「螺旋撃!」
オランピアが放った渾身の一撃は、小さな竜巻を生み出し、ドローメを飲み込んだ。
飲み込まれたドローメは切り裂かれ消滅した。
(エドさんの指導通り、上手くできたっ!)
オランピアが放ったのは、八葉一刀流の壱の型。
オランピアは二ヶ月の間、エドの指導の下、八葉一刀流を学んでいた。
クロスベルで準遊撃士のリンとエオリアとの模擬戦で、オランピアは自分の弱点を指摘された。
オランピアはイシュタンティを離れた場所から指示を出して、戦闘を行う。イシュタンティは《古代遺物》だったことから、それなりに戦うことはできるが、オランピア自身には戦う力がなかった。だから、イシュタンティが離れている間、オランピアの戦闘力はゼロに等しかった。
そこでエドは自身が修めている八葉一刀流を教えることにしたのだ。
奥伝をもらった際、剣聖の称号と同時に弟子を持つことを許されたエドはオランピアを弟子にして、オランピアの戦力強化に努めた。
オランピアはイシュタンティに指示を出しながら、魔獣達との戦闘を続ける。八葉一刀流を学んでそれなりに強くなったとはいえ、まだ一人で戦える実力は身に付けていない。
イシュタンティとの距離を保ちながら巨大ドローメに近づこうと試みるが、ドローメの群れが壁となってなかなか進まない。
「っ! しまった」
後ろを見ると、ドローメが退路を遮っていた。
左右にもドローメが集まり、オランピアを囲んでいた。
前だけに集中しすぎて、周囲を疎かにしてしまった。
イシュタンティと背中を合わせて、周囲を見る。
(出口が見当たらないっ!)
離脱しようと見渡すも、ドローメ同士がくっつき合って隙がなかった。
万事休す。
活路を開こうと思考を巡らせる。
その時――、
「スパイラルフレア!」
ドローメの後ろから強烈な爆発音が響いた。
「走りなさい!」
「っ! イシュタンティ!」
先程の爆発で隙が生まれた。
オランピアはすぐにイシュタンティを爆発の方向に向かわせて、後に続く。
横から来るドローメを無視して、イシュタンティが作った道を突き進む。
そして、イシュタンティは包囲を抜き、出口を作った。
ドローメはすぐに出口を閉じようと動き出す。
(最初は
オランピアは重心を落とし、
(それに向かって
剣を水平に構え、
(そのまま駆け抜ける!)
「疾風!」
加速したオランピアはドローメの間をくぐり抜け、包囲から出た。
「わわっ!」
しかし、最後にバランスを崩し、前に倒れそうになる。
「おっと」
すると誰かがオランピアを支えた。オランピアは顔を上げてその人物を見る。
「シェラザードさん」
「待たせたわね」
《銀閃》のシェラザード。エドの頼みでオランピアの護衛をしていた遊撃士。
追いかける途中にドローメの群れと接触し、救援に遅れてしまった。
「ナイスガッツよ。後は任せなさい」
「えっ、無茶です! 一人で全部相手にするのは……」
「倒すのが目的ならね」
シェラザードは前に出て、武器である鞭を構える。
「時間を稼ぐだけなら、一人でやれるわ。……ハァ!」
シェラザードは鞭を振るい、ドローメの進行を妨害する。
一撃当たるごとに、ドローメが後ろへと跳んでいく。
波のように続く鞭の連撃にドローメ達は進むことができず、攻めあぐねていた。
それを見かねた巨大ドローメは触手を伸ばして、シェラザードへと襲いかかる。
シェラザードは咄嗟にバックステップをして、攻撃を躱す。
「……やっぱり、妙ね」
シェラザードはドローメ達の行動に眉を潜める。
魔獣は本来、本能のまま獲物に襲いかかる。
ヒツジンといった高い知性を持った魔獣ならともかく、ドローメには連携をとれる程の知性はない。
だが――、
(あの大きいのを身を挺して守る行動、
相手を取り囲んで、逃げ場をふさぐ連携、
そして、遠くからの援護攻撃。いままでのドローメにはない行動ばかりだわ)
「シェラザードさん!」
オランピアの呼び声にシェラザードは前を見る。
ドローメの群れが一斉に巨大ドローメに集まっていた。
一体一体が巨大ドローメの中にはいっていく。それに比例して、巨大ドローメが徐々に大きくなっていった。
「ウソ、だろう……」
「合体、しやがった!」
後ろで様子を見ていたロッコとディンは目の前の光景に声を失う。
そこには五アージュを軽く越えた、さらに巨大化したドローメが立っていた。
「くっ! なんて大きさなの!」
いままで見たことがない超巨大ドローメにシェラザードは冷や汗をかく。
少しずつ後退していき距離をとるシェラザード達。
攻める手立てが思いつかず、膠着状態が続く。
その時――、
「伏せろ!」
オランピアの耳に忘れらない、聞き覚えのある声が聞こえた。
咄嗟にオランピア達はその場で伏せると、後ろから巨大な炎が飛んできた。
三日月型の炎はドローメに直撃し、大きく後退させた。
「オランピアちゃん! 大丈夫?!」
オランピアの元に一人の女性が慌てて疾走してきた。
「アネラスさん……」
《剣仙》の孫、アネラス・エルフィード。
「あ、兄貴!」
「アガット……」
「よぉ。まさかこんな形で会うとはなぁ……」
《重剣》、アガット・クロスナー。
そして――、
「……エドさん」
《黒金の剣聖》、エドワード・スヴェルト。
「待たせたな。すぐに終わらせる」
エドは鞘に納めた剣に手をかけ、ドローメに突っこむ。
ドローメは脅威を感じとり、エドを見据える。
巨大化したことにより、二つから八つに増えた触手を一斉に放った。
エドは鞭のように不規則に迫る触手を躱し続ける。
構えを一切崩さず、跳び、潜り、逸らしながら前へと進む。
そして、巨大化したドローメの真下までたどり着き、
「断ち切れ!!」
下から上へと振り上げた一閃。
その一閃はドローメの巨体を真っ二つに裂いた。
ドローメは身体を保つことができずにそのまま消滅していった。
「い、一撃……」
「マジかよ……」
夢でも見ているのではないかと、レイヴンのメンバーは目の前で起こったことを信じられずにいた。
「お見事です」
「さすが、先生の弟弟子ね」
対して、遊撃士のメンバーはエドの実力を改めて実感し、称賛を与える。
エドは剣を納めて、オランピアに近づいた。
「オランピア、ケガはないか?」
「は、はい。大丈夫です。でもどうしてここが?」
護衛としていたシェラザードはともかく、巡回でその場にいなかったエド達がどうして駆け付けることができたのかオランピアの頭に疑問が残った。
「街の外から戻ってきたら、慌てて倉庫街から出て来る奴を見かけてな。アガットさんの知り合いっぽかったから、止めて事情を聞いたんだよ」
支部の帰り道に、慌てて走っていたレイスを見かけたアガットは、声をかけて事情を聞いた。
アガットはかつて、レイヴンのリーダーだった時期があり、カシウスにしごかれ遊撃士になった過去を持っていた。
リーダーだったアガットと幹部のレイスが顔見知りなのも不思議ではなかった。
「おいっ! レイス! よりによってなんであいつを連れてきた!」
エド達が話しているさなか、後ろではロッコがレイスに詰め寄っていた。
アガットがレイヴンを勝手に脱退したことが気に入らなかったのか、ロッコはアガットのことを目の敵にしていた。
「だ、だってよ、あのままだとやばかったし、アガットの兄貴ならなんとかしてくれるって思ったからよ……」
「だからといってなぁ……、あぁ~もういい!」
乱暴にレイスを離し、睨みながらエド達に振り向いた。
「おい、そこの白ガキ!」
「は、はい!」
突然、呼ばれたことにオランピアはギョッとして、ロッコの言葉を待つ。
「今回は助かった。この借りは必ず返すからな」
用が済んだか、ロッコは後ろに振り向いてその場から離れて行った。
「おい、ロッコ!」
「ま、待ってくれよ~」
残ったメンバーは慌ててロッコを追いかけていき、姿が見えなくなった。
「……俺にはあいさつなしかよ」
「ア、アハハ……」
アガットの呟きにアネラスは苦笑いをするのだった。
「ん? 止んだか……」
エドは打たれた感触がなくなり、空を見上げながらそう呟いた。
「そのようですね……、はっくしゅっ!」
オランピアも空を見上げるが、くしゃみをしてしまった。
雨に打たれ続け、急に冷えてきたことで体が震え出した。
「……これを羽織れ」
「あ……」
エドはオランピアの様子を見かねて、自身のコートをオランピアに羽織らせた。
エドがさっきまで着ていたコートは、冷えていた体を温めてさせてくれる。
「そんじゃ、支部に戻るぞ。さっきのドローメのことも報告しなきゃならんしな」
「そうね。明日は学園祭が控えているし、警戒して損はないわね」
「了解です。それじゃあ、オランピアちゃん、一緒に行こうか」
「あ、え……」
アネラスに引っ張られて、オランピアはエドを見つめながら、そのまま連れて行かれた。
アガットとシェラザードは二人を追い、エドもその後ろに付いて行った。
「ん?」
すると、エドは急に足を止めて、倉庫の上に目を向ける。
しかし、そこには何もなかった。
「エド君! 置いていくわよ!」
「……あぁ! 今行く!」
エドは再度、倉庫の上を見た後、シェラザード達の下へと走っていった。
~~~~~~~~~~~~~~
エド達の姿がなくなり、倉庫街が無人になったその時、
「……行ったか」
エドが見上げていた倉庫の上から一人の男が現れた。
「《黒金の剣聖》……、我の気配を察知するか。それに先程の戦闘……、一番警戒した方がいいかもしれんな」
男は先程の魔獣の戦闘を目の当たりにして、エドが一番の実力を持っていると見抜き、脅威とみなした。
「だが、
男の手にはベルのようなものが紐に括りつけられ、ぶら下がっていた。
「それにしても……」
男はエド達が立ち去った方へと視線を向けた。
「しばらく会わぬうちに、随分と変わったものだ。生き始めて、いい出会いがあったのだろう」
だが、
「殺すことしか知らなかった君は、はたしてその場所にいる資格が本当にあると思っているのか?」
男は嘲笑うかのように声を漏らした。その男が浮かべた笑みは、冷たく、とても悪辣なものだった。
「明日が楽しみだな。精々、楽しませてもらうぞ。オランピア……」
次回、第23話「学園祭」
お楽しみください!
表現描写……。めちゃくちゃ難しいぃぃ!