英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第二十三話 学園祭

 七耀暦1201年 リベール王国 ジェニス王立学園 6月1日

 

 

 学園祭を当日に迎えた朝、ヴィスタ林道を抜けた先にあるジェニス王立学園では、学園祭を楽しむために数多くの参加者が訪れていた。

 小さな子供や、年をとった老人、珍しい黒髪の人や、リベールでは見かけない民族衣装を着ている人など、国内だけでなく、国外からの参加者もちらほら見かける。

 

「ここが学園、ですか……」

 

 オランピアは現在、学園の正門をくぐり抜けて、目の前に堂々とたたずんでいる校舎を見上げていた。白いレンガで建てられた校舎は長く建てられていたからか、目を凝らせば多少の汚れがあちこちにあった。だが、それでも衰えを知らないその美しさにオランピアの開いた口が塞がらなかった。

 

「ジェニス王立学園。リベールでもっとも有名な名門校だ。リベール王家は代々ここに通っていたっていう噂があるくらいだ」

 

 隣で同じく見上げているエドの話に耳を傾けながら、辺りを見渡す。所々に小さな店が建っており、学生達が食べ物やアクセサリーなどを売っていた。

 

「いろいろとなにかを売っていますね」

「屋台か……。祭りでは王道中の王道だな」

 

 エドは穏やかな光景に目を細めるが、気を取り直して真剣な表情を浮かべる。

 

「さて、祭りを楽しむのもそうだが、俺達の目的も果たさないとな」

「本当にカシウスさんはここに来るのでしょうか?」

 

 オランピアは話を聞いた時から、疑問に抱いていたことをエドに問いかける。

 S級遊撃士として世界中を飛び回っているカシウスが、なぜ、リベールの学園祭に来ると思ったのか。参加していない可能性だってあるのに、エドは絶対にカシウスは参加すると、どこか確信を持っていた。

 

「来る。あの人は俺が会いたがっていることを知っているし、何よりも今年の学園祭に来る理由があの人にはあるからな」

 

 エドはオランピアが聞くたびにそう答え、来る理由を教えてくれなかった。

 

「まずはどこから探そうか……」

 

 エドはめぼしいところを学園の入り口でもらったパンフレットを見ながら探し始めた。

 その様子にオランピアは昨日の教会でのやり取りを思い出していた。

 

『学園祭の時は一緒にいるよう頼んでみたらどうでしょうか?』

 

「……あの、エドさん!」

「ん? どうした?」

 

 突然の大声に、少し目を丸くするエドはオランピアに振り向く。

 オランピアは人差し指同士を突っつきながら、顔を少し赤らめて言葉を絞り出した。

 

「あの、良かったら、私と一緒に……」

「あ、兄ちゃん達だ!」

 

 遠くからこちらに向かってくる声にオランピアの言葉が遮られる。

 声がした方を振り向くと、そこにはマーシア孤児院の子供達と院長のテレサがエド達に近づいてきた。

 

「おう。来ていたのか」

「はい。今日はクローゼお姉ちゃんもいるから、すごく楽しみにしていたの!」

 

 普段はしっかり者のマリィもワクワクと身体を揺らして、年相応にはしゃいでいた。

 

「フフフ……、皆、楽しむのはいいけど、周りに迷惑をかけないようにね」

「は~い!」

「ポーリィ、迷惑かけないようにする~」

「エドさん、オランピアさんも、折角の学園祭です。ルールを守って、しっかり楽しんできてね」

「「はい」」

 

 エド達の返事に笑顔で受け取ったテレサは、そのまま子供達を引き連れて校舎の中へと姿を消した。

 

「ふぅ、やっぱりテレサ院長には頭が上がらないな」

「そうですね……。あの、エドさん」

「あぁ、そういえば、なんか言おうとしていたな」

「はい。良かったら、私と……」

「見つかったか!」

 

 オランピアは再びエドを誘おうとするが、今度は大きな焦り声に遮られた。

 

「全然ダメ。どこにも見当たらない」

「クソッ! 候補の場所には全部行ったけど、影も形もねぇ」

「全く、どこにいるのかしら……」

 

 一人は遊撃士と邂逅した時に、クローゼと共にいた女子生徒、ジル。

 もう一人は、走り回っていたのか、額に若干の汗を流している紫髪の男子生徒。

 二人は焦った表情で話し合い、頭を悩ませているようだった。

 

「よお。朝から忙しそうだな」

「あ、エドさん、オランピアちゃんも、ようこそ学園祭へ!」

 

 エド達は二人に近づき、それに気づいたジルは先程までの焦り顔が一瞬で消え、笑みを浮かべて二人を歓迎した。

 

「ジル、知り合いか?」

「ほら、クローゼが言っていた孤児院に泊まっている人達よ」

「あぁ、例の……、一年生のハンスだ。ジルと一緒に生徒会に所属している。ようこそ、学園祭へ。目一杯、楽しんでくれ」

 

 男子生徒――ハンスもジルと同じように二人を歓迎し、ニッと笑った。

 

「そうさせてもらうよ。それで、誰かを探していたみたいだがどうした?」

「あぁ! そうだった。あのここら辺でチャラそうな雰囲気をした赤髪の生徒を見ませんでした?」

「赤髪の生徒?」

 

 聞き返したエドに生徒会の二人は頷いた後、肩を落として、その場でおもいっきり息をはいた。

 

「この学園一の問題児でな。この学園祭でなにをしでかすか、わかったもんじゃないからな。見張るために探しているんだが、どこにも見当たらないんだよ」

「学園を休んでいるとかは?」

「絶対ないわね。あの先輩がこんなイベントを見逃すわけがないわ」

 

 件の先輩に何度も翻弄されていたのだろうか、どこか諦念な眼差しで遠くを見ていた。

 

「ハァ、わかった。見つかったら連絡するよ」

「えっ、いいんですか?」

「最近、赤毛とは縁があるからな。もしかしたら見つけることができるかもしれないからな」

 

 クロスベルでは、胸糞悪い遊撃士とデンジャラス幼女。

 リベールでは、元不良のモミアゲ遊撃士。

 なんだかんだで、エドは赤毛の人物に何かしらの因縁を付けられている。

 

(……そういえば、あいつも髪は赤だったな)

 

『なにかつけないかって? いいよ。そういうの、あたしには似合わねぇと思うし……』

『そうか、綺麗な赤だからもったいないと思うぞ。ヘアピンとかリボンをつけたらかわいいと思うが……』

『そ、そうか?』

『あぁ。伸ばしたままもいいけど、結んだ姿も見てみてぇな』

 

 エドは遠い目で過去を振り返っていた。

 

(……結局、そんな姿は一度も見られなかったな)

 

「いや~助かるぜ。是非とも協力をお願いするぜ!」

「でも、学園祭を楽しむことを第一にしてね」

 

 それじゃあ、と二人は手を挙げてエド達の元を去った。

 

「探し人が増えちまったな……」

「そうですね……。エドさん! わた……」

「あ、見つけた!」

 

 今度こそとオランピアは勢いをつけてエドに話すが、またもや遮られた。

 オランピアは声がした方を恨めしそうに睨みつける。そこから走ってこちらに向かってくるのは、黄色いリボンを頭に付けた少女だった。

 

「……アネラスさん」

「お疲れ。警備の最中か?」

 

 遊撃士は学園祭を安全に終わらせる為、警備に参加していた。

 学園内には、エド、アネラス、シェラザードが。

 学園外には、クルツ、カルナ、グラッツが警備についていた。

 アガットは、もしもの為にルーアンで待機することになった。

 

「はい、そうです。ついでにオランピアちゃんと一緒に学園を回ろうかなと思いまして」

「えっ」

 

 突然、自分の名を呼ばれて目を見開くオランピア。

 

「そういうことか……。オランピア、アネラスと一緒に学園を回っていたらどうだ。カシウスさんのことは俺一人で探すからよ。お前は学園祭を楽しんでいけ」

「えっ、えっ」

 

 話に付いていくことができず、若干焦りながらエドとアネラス二人を交互に見やる。

 

「ありがとうございます! 責任を持って、オランピアちゃんをお守りします! さっ、行こう、オランピアちゃん!」

「えっ、えぇ~~~~!」

 

 アネラスに腕を掴まれ、引きずられるようにオランピアは連れて行かれてしまった。

 

「さて、こっちもこっちでカシウスさんを探しに……」

 

 オランピアを遠くまで見送ったエドは、カシウスを探すために動こうとするが、正門の入り口の方を見て、動きが止まった。

 

「……なんであいつがここにいるんだ?」

 

 エドは訝しげな目で正門の方を見つめる。

 彼は誰かを見かけて、その人がこの場にいるのが信じられないようだった。

 立ち止まっても仕方がないと思ったのか、エドは正門の方へと足を運び、学園の外に出るのだった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 学園とメーヴェ海道の道を繋ぐヴィスタ林道。エドは外で警備をしている遊撃士達に見つからないようにこっそりと抜け出し、林道を歩いていた。

 歩いて数分。黙々と歩き続けるエドは道の真ん中で立ち止まり、首を動かして周りを見通していた。

 

「……見失った? 気のせいだったのか?」

 

 正門で見かけた目当ての人物が見当たらなかったからか、首を傾げて眉を潜める。

 

「……仕方ない。さっさと学園に戻るか。抜け出したのがバレたら洒落にならないし……」

 

 エドはため息を付きながら、踵を返して学園に戻ろうとする。

 

「っ!」

 

 その時、エドは首下がゾワッと震えるのを感じ、すぐさま横に飛び込んだ。

 すると、エドが立っていた場所になにかが通り過ぎた。

 

「今のは……」

 

 地面に転がったエドは起き上がり、自分が先程まで立っていた場所に視線を送る。

 そこには赤色の刀身をワイヤーで繋いだ鞭のようになっている特殊な剣、法剣が通っていた。

 じっくり見ていたエドだが、伸びていた法剣が動き出し、エドに向かって襲いかかってきた。

 エドは上半身を後ろに倒して法剣をかわす。法剣はすぐさま方向転換して、地面すれすれに横から襲ってくる。

 エドは地面に着けた手に力を入れ、腕の力で跳ぶ。法剣はまたもやかわされ、伸びていた法剣は徐々に刀身を戻していった。

 そのままバク転して着地したエドは法剣が放たれた方を睨み付ける。そこにいたのは――、

 

「チッ! 後、少しだったのに!」

 

 悔しげな表情で、今にも襲いかかろうと睨み付ける男が立っていた。エドはその男に見覚えがあった。

 

「やっぱり、お前だったか」

「ようやく会えたな、エドワード・スヴェルト!」

 

 クロスベルで会った赤毛の遊撃士、グランが法剣をエドに向けて立っていた。エドが学園の正門で見かけたのは、目の前にいるこの男だった。

 

「なんで、リベールにいやがる?」

 

 エドは咄嗟に疑問に思ったことをグランにぶつける。

 遊撃士が他の国で活動を行うには、支部へ行って、いくつかの手続きをしなくてはならない。

 だが、受付のジャンからはここ最近、ルーアンに新手の遊撃士が来たという話は聞いたことはない。

 

「そんな事はどうでもいい! てめえをずっと探していたんだからな! 覚悟しやがれ!」

 

 グランは声を荒げて、エドに斬りかかる。エドは剣を抜いて法剣を受け止める。鍔迫り合いの状態になりながらお互いに睨みあっていた。

 

(こいつ、実力差を理解していねぇのか?)

 

 手を抜いていたとはいえ、グランは自分より実力が上のアリオスがエドに敗れたところを見ていたはずだった。普通に考えれば、一人でエドに勝つことなどできないはずなのに、グランは単独でエドを追いかけて挑みにきた。

 一体なにが、この男をここまで掻き立てるのか。

 殺してやらんといわんばかりに今も鋭く睨み付けてくるグランにエドは頭を悩ませる。

 

()()()のためにも、てめえをここで捕まえる!」

「…………あぁ?」

 

 グランの言葉にエドは静かに声を上げた。頭の中で回り続けていた歯車が一瞬のうちに止まった。

 

「今、なんて言った?」

 

 エドは俯きながら聞き返した。その声色は嵐の前の静けさという程、不気味に感じた。

 だか、グランはそんな事に気づかずにさらに声を荒らげる。

 

「セリスのためだって言ってんだよ! てめぇに騙されているあいつのために、俺はてめぇを……」

()()

 

 静かに発せられた、その場にいる者全てを跪かせるようなドスの効いた声がエドの口から出た。

 俯いていたエドの顔がゆっくりと上がる。

 エドの眼光は目の前の男よりも鋭く、強烈なものだった。

 声を荒げていたグランは、押し寄せて来るプレッシャーに押し黙ってしまった。

 

「てめぇがあいつといったい、どういう関係なのか、そんな事は知らないし、心底どうでもいい。……けどな」

 

 

『エド! あ、あたしはお前のことが……』

 

 

「俺の前で、あいつのことを知ったように語ってんじゃねぇぞ!!」

 

 いまだかつて見たことがない、怒りに満ちた顔をしたエドはグランを押し返して、そのまま襲いかかる。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ふむ。見事に引っかかったな」

 

 林道の林の中で、エドとグランの戦闘を遠くから見ていたのは、昨日の倉庫街でエド達の戦いを見ていた男だった。

 

「だが、あの男では三分も持つことはできないだろう。……一応、()()はかけてはいるが、こちらもすぐにとりかかるか」

 

男はその場から立ち去る前にもう一度、エド達の方に視線を向けて、フッと口角を上げる。

 

「私からのプレゼントだ。旧友との再会、ゆっくりと楽しみたまえ。《黒金の剣聖》殿」




 次回、第24話「再会」
 お楽しみください!
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