英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第二十五話 外法

 ケビン・グラハム

 七耀教会の中で《古代遺物》の回収、管理を担当する組織、封聖省。その直轄にあたり、普段はその身分を隠している戦闘部隊、《星杯騎士団》。

 それを十六歳という若さで従騎士に拝命された若き秀才。

 エドの祖父も聖杯騎士団に所属しているが、エドは八葉一刀流の修練で騎士団には所属していなかった。

 そんな彼がケビンと面識を持ったのは、彼がまだ従騎士になるための訓練を受けていた頃だった。

 

「お師匠さんが弟子をとったって聞いた時は本気で驚いたよ。あの人のスパルタ指導を好き好んでやる奴がいるなんて、とんだ命知らずな奴がいたもんだなって。しかも、そいつはあのルフィナさんが懇意にしているお前ときた」

「こっちもお前のことを総長から聞いた時は度肝を抜いたで。一年間だけだったとはいえ、まだ八歳の子供が総長の地獄の指導に耐え抜いたんやからな。尊敬と同時に畏怖を感じさせたわ」

 

 エドとケビンは同じ人物を思い浮かべながら笑いあっていた。だが、二人の顔はとてもげっそりとやつれており、浮かべた笑みには喜びといった感情は一切なかった。

 

 星杯騎士団総長、アイン・セルナート。

 七耀教会の最高戦力と謳われ、《紅耀石(カーネリア)》の異名を持ったシスターだ。

 高い実力に合わせて、威厳を感じさせる風格と不敵な笑みを浮かべるその姿は、シスターというより女傑と言った方が当っている人物だ。

 エドは八歳の時、アインの下で《魔眼》の力を制御するための修行を一年間してきた。当時、《魔眼》の力を制御できなかったエドは、自分の意思に関係なく《魔眼》を発動してしまい、苦悩していた時期があった。それを知ったアインは、親友のルフィナと協力して、エドの指導に取り組んだのだ。

 ちなみにアインがエドに修行をつけるきっかけになったのは、簡単に言うとエドがやらかしたのだ。

 とある理由で教会に療法していた母を探すために本部に来ていた当時八歳のエドは、そこでアインと副長を含めた騎士団のメンバーと出会った。その時に《魔眼》の力が発動してしまい、その能力でアインの服の下を透視して見てしまった。そして、幼かったエドはそれをつい口に出してしまった()()()

 エドはその時の出来事を覚えていなかった。修行を始める際にアインの口からそう聞かされたのだ。それを思い出そうとするが、その度に頭がかち割れるような痛みが走り、ヤバいと判断したエドは思い出すことを諦めた。

 余談だが、現場に居合わせていた騎士団のメンバーは、事件翌日から一ヶ月の間、誰もその姿を見ていない。ただ、事件現場には、副長がかけていたと思われる眼鏡が原型をとどめていない状態で発見されたとのことだ。

 

「最後に会ったのは、ルフィナさんの葬式だったな」

「あぁ……、そうやな」

「あの人にはいろいろと助けてもらったな。特にお師匠さんのしごきの時には……」

「姉さんは優しかったからな。総長のスパルタでボコボコになっているお前をほっとけなかったんやろ」

 

 アインの親友であるルフィナは穏やかで面倒見の良い性格をしており、エドとケビンは深く尊敬していた。特にケビンは恩人でもあるルフィナを追い騎士団へとはいった。だが、三年前に起きたとある事件で彼女は亡くなってしまった。

 

「あの人が亡くなった後のお前は、酷い顔だったからな。元気そうで安心したよ。……それで、星杯騎士のお前がなんでここにいるんだ? 俺がここにいることを誰かから聞いたのか?」

「リベールにはある調査のために来たんや。着いたのは昨日でな。お前がリベールに滞在していることは当然、自分も知らんかったわ。ただ、法国からお前が今日の学園祭に参加するっていう情報をもらってな。念のために確認しに来たんや」

「法国からだと?」

 

 エドは法国が自分の行方を追っていること知っていたから、居所を掴まれないように注意を払って行動していた。

 にもかかわらず、自分の所在を知られてしまったことに、エドは深い疑問を浮かべてしまう。

 

「……それで、わざわざ足を運んでまで俺に会いに来た理由はなんだ?」

「ハハハ……、そんなもん一つだけやろ」

 

 ケビンは腰にかけていたボウガンを手に持ち、それをエドに向けた。ケビンの顔には先程までの穏やかな笑みが消えていた。彼の顔は能面のように表情がなく、向けてくる眼差しはとても冷たかった。

 

「ケビン……」

「シモン枢機卿を殺し、二年間、逃走し続けた"外法"エドワード・スヴェルト。お前をここで始末するためや」

 

 目の前にいる男が、先程まで軽い談笑をしていた者と同じ人物には見えなかった。ケビンの余りの激変ぶりに驚くエドだったが、あることを思い出し納得する。それはルフィナが亡くなって、しばらく経った時に聞いた噂。

 

「……《外法狩り》。噂で聞いたことはあったが、お前のことだったとはな」

 

 外法とは、七耀教会で定められた称号。《古代遺物》の悪用などで女神の教えに背いた大罪人のことを指している。

 教会は枢機卿を殺したエドを"外法"と認定していたのだ。

 そして、騎士団は《古代遺物》の回収の他に、外法と認定された者を抹殺する任務も引き受ける。

 《外法狩り》はそれを一手に引き受ける者の異名であり、それが誰なのかわからなかったため、噂レベルで留まっていたのだ。

 

「そういうことや。大人しく煉獄に落ちて、悔い改めろや。それが友人としてオレがお前にやれる最後の手向けや」

「そうか。だか、残念だけど、それを聞き入れるわけにはいかないな」

 

 エドは剣を構えてケビンと向き合う。友人である彼と戦いたくない気持ちはあるが、同時に戦いに引けない理由ができてしまった。

 

「友人のお前に無実の人間を殺させるわけにはいかない」

「苦しまずに逝かせてやりたかったんやけど……、残念や」

 

 双方は武器を強く握りしめ、一斉に動き出した。

 エドは剣を水平に構えて、ケビンの懐にはいる。

 対する、ケビンはボウガンに仕込んだ刃を構える。

 

――ガキンッ!

 

 火花と共に響いた音を合図に二人の戦いが始まった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 ジェニス王立学園のとある一室。

 その入り口の前には、元生徒会副会長のルーシーが腕を組んで立っていた。

 

「ルーシー先輩、お待たせしました」

 

 一室の中から出てきたのは、クローゼだった。彼女の制服は先程まで水浸しになっていたが、新しい制服に着直していた。

 

「アハハハ、ちょっと照れ臭いかな……」

 

 すると、クローゼに続いて出てきたのは、王立学園の制服を着たアネラスだった。少し恥ずかしそうに出てくるアネラスに続けて、今度はオランピアが周りを見ながらゆっくりと出てきた。

 

「あの……似合っているでしょうか?」

 

 オランピアもアネラス同様、王立学園の制服に着替えていた。

 青と白を基調にした学生服。清楚なイメージを連想されるその服装は、穏やかな性格をしているオランピアには正にピッタリなものだった。

 

「とっても可愛いよ、オランピアちゃん!」

「はい。オランピアさんもアネラスさんもすごくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 正面からストレートに褒められたオランピアは気恥ずかしくなり、顔を少し赤らめた。

 

「一年生のSサイズの制服に着られて良かったわ。それ以上の小さいものがなかったからね」

「先輩、改めてありがとうございます」

 

 三人を案内し、制服の手配をしてくれた先輩に頭を下げるクローゼ。ルーシーは気にしないとばかりに手を振って微笑んだ。

 

「いいのよ。参加者もそうだけと、新入生のあなたにも学園祭を楽しんでほしいから」

 

 そう言って、踵を返したルーシーは三人の方に振り返る。

 

「さて、私はこの辺で失礼するわ。今もどこかでサボっている彼を捕まえなくちゃいけないから」

 

 セリフとは裏腹に極上の笑みを浮かべて、三人の下から去っていった。

 ルーシーの笑みから放たれた悪寒に沈黙してしまった三人は、必死に忘れようと話を戻す。

 

「さ、さてと! 気を取り直して、エドさんを探し始めましょうか!」

「はい」

「よろしくお願いします」

 

 トラブルで中断させられた三人は本格的にエドの捜索にはいるのであった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 オランピア達が動き始めたその時、当の探し人であるエドは砂塵の嵐で身動きがとれずにいた。

 ケビンは事前に用意していた、風のアーツ《エアリアル》でエドを嵐の中に閉じ込めたのだ。

 吹き荒れる突風は林道な砂塵を巻き込み、エドの視界は遮られていた。

 

(これじゃあ、《魔眼》は使えねぇな……)

 

 《魔眼》を使えばケビンの姿を捉えることはできるが、物理的に目がふさがれ、それを使うことができない。付き合いのあるケビンはエドの《魔眼》のことは当然、知っており、その実力も身をもって知っていた。真正面からの対決で《魔眼》を使われば敗北するのはこっちだと理解しているケビンはエドを確実に始末できる策をいくつも用意していた。

 《魔眼》に対する入念な対策に、ケビンの本気度が伝わってくる。

 

(……そこや!)

 

 被害のない嵐の外で法術を用いて、エドの姿を確認したケビンは、息を殺して死角から矢を放った。

 法術で風の影響を受けない矢は、エドの脳天目掛けて、真っ直ぐに飛んでいった。

 だが――、

 

「甘い」

 

 エドは目を瞑ったまま振り返り、矢に向かって剣を振るった。

 剣から放たれた斬撃は迫りくる矢と同時に、閉じ込めていた嵐をも断ち切った。

 障害が消えたエドは足を蹴り、ケビンに向かう。

 

「ハァッ!」

「チィッ!」

 

 ケビンは咄嗟にボウガンで剣を受け止めるが、押し付けてくるエドの力に耐えきれず、後ろへと飛ばされた。

 受け身をとって、すぐに体勢を立て直したケビンは再びエドと向かい合う。

 

「くっ! なんで場所がわかったんや?!」

「八葉を舐めるな。目が使えなくてもお前の場所など探し出すのはそんなに難しくない」

 

 八葉一刀流が持つ観の眼は物事の本質を見るだけでなく、応用すれば高い察知能力も身に付くことができる。剣聖に至っているエドにとっては《魔眼》が使えないことなど、ハンデにはならないのだ。

 

「もうやめとけ、ケビン。お前じゃ今の俺には勝てない」

「……確かに、オレの実力じゃあ、あんたに勝つことはできへんな……()()()()()()()

 

 ケビンの言動に一瞬、眉を潜ませるが、その意味はすぐにわかった。

 ケビンの背後から赤黒い紋様が浮かび上がる。

 エドは紋様の正体に気づき、目を大きく開いた。

 

「《聖痕》! ケビン、お前はっ!」

「こっから先は、本気でいかせてもらうで」

 

 星杯騎士団の中には特殊な異能を持った騎士が存在する。

 その身に《聖痕》を宿した十二人の特別な騎士、守護騎士(ドミニオン)である。

 《聖痕》の恐ろしさを身をもって知っているエドは《魔眼》を解き放ち、腰を低くして構える。

 

「そんじゃあ、第二ラウンドといくで!」

「来い!」

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方、エドの行方を学園内の隅から隅まで探し続けていたオランピア一行は、クラブハウスに足を踏み入れていた。

 

「……見つかりませんね」

「はい……」

「エドさん、どこに行っちゃったのかな?」

 

 探し始めて、はや数十分。エドの姿がどこにも見当たらないことにオランピア達は頭を悩ませていた。

 

「アネラス?」

 

 すると、アネラスに向かって声をかけた人物が近づいてきた。視線を移すとそこにいたのは――、

 

「あ、シェラ先輩」

 

 アネラスの先輩にして、学園内の警備を任せられている遊撃士、シェラザードだった。

 

「あんた、なんで制服なんて着てるのよ?」

 

 学園に入る前とは服装が違うことに気づいたシェラザードはアネラスに理由を尋ねる。

 ましてや、アネラスが今、着ているのは学園の制服だ。気にならないわけがない。

 

「えっと、それは……」

 

 気まずそうに、されどはっきりした口調で先輩に報告をするアネラス。

 話の一通りを聞き終えたシェラザードは、頭に手を当てて、深いため息をついた。

 

「気が緩みすぎよ。肩の力をいれすぎるのは良くないけど、抜きすぎちゃったら意味がないでしょ」

「……はい」

 

 軽く説教をもらい意気消沈するアネラスを見て、オランピアは二人の間にはいった。

 

「あの、シェラザードさん。エドさんを見かけませんでしたか?」

「エド君? いいえ、私も見かけなかったわ。彼がサボっているとは思えないけどね」

 

 オランピアはこれまでの経緯について順序をもって説明する。何十分も探しているのに、いまだに見つからないことにシェラザードの顔は徐々に険しくなる。

 

「そういうこと。いいわ。私も一緒に探すわ」

「?! いいのですか?」

「えぇ、一度、合流して状況を確認した方がいいと思ったから、こっちとしては構わないわ。それにそんなに探しても見つからないどころか、誰も見ていないのはおかしいからね」

 

 エドの捜索にシェラザードが加わり、これなら見つけられると期待するオランピア。

 

「それじゃあ、一度、正門の方に戻って……?」

 

 シェラザードが三人の指揮を取って行動しようとするが、スピーカーから突如、チャイムが鳴り響いた。

 

「なにかしら?」

「チャイムですね。でも、そんな予定はなかったような……」

 

 学園の生徒であるクローゼは心当たりが思い当たらず、戸惑っているようだった。

 

――チャリン♪

 

 スピーカー越しから甲高いベルの音が響いた。

 ずっと聞きたいと思えるほど美しい、その音にオランピア達は心奪われ、そのまま意識を落としてしまった。




 次回、第26話「開幕」
 お楽しみください!
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