武器を持って襲ってくる参加者達の猛攻をかい潜りながら、シェラザード達は旧校舎の入り口前までなんとかたどり着いた。
「着いたわね」
「それじゃあ、このまま中に……」
そう言ってアネラスは先頭に出て、入り口へと足を運ぶ。
しかし、その時、全員がその場で一斉に膝を着いてしまった。
「な、なにが……」
「身体が……重い……」
まるで上から重いものを乗せられた感覚にオランピア達は立ち上がることができず、その場でうずくまってしまった。
「捕まえたぞ」
すると、上から聞き覚えのある声がした。
アネラスは重くなった身体を必死に持ち上げて視線を上に向ける。
そこには空からこちらを見下ろしてくる《皇帝》の姿があった。
「うそ……先回り?!」
「見事に誘導されたな。おかげで苦労せずにすんだがな」
《皇帝》はゆっくりと地上へと降りていきながら、そう呟く。
《皇帝》の発言に何か気づいたのか、レクターは顔を歪めて舌打ちする。
「そういうことか。さっきまで襲ってきた奴らは祭りの参加者じゃねぇんだな」
「ほう、気づいたのか。なかなか勘がいいようだな」
二人のやり取りに付いていくことができず、クローゼはレクターに問いかける。
「レクター先輩、それはどういうことですか?」
「あぁ、さっきの奴らは……」
~~~~~~~~~~~~~~
「《庭園》の構成員だって?!」
「あぁ。どうやら参加者の中に紛れ込んでいたみたいだな」
クルツ達が驚いているのをよそに、エドは先程倒した参加者に扮していた《庭園》の暗殺者達を縛り付けていた。
「よく気づいたわね。あたしらには全然、見分けがつかなかったよ」
「前に対峙した事があったからな」
思い出すのは二ヶ月前のアルモニカ村。
神隠しが起きた直後に、アリオッチが送り込んだ《庭園》の暗殺者。
その時に感じた気配と雰囲気が参加者達から漂っていたことで、エドは一目で変装していることに気づき、見破ることができた。
「奴らはプロだ。《古代遺物》のような不確定要素が多い代物で暗殺なんてしない。ターゲットを確実に仕留めるために、自分達の手で必ず始末するはずだ」
そして、何かしらのイレギュラーが発生した際には、これを足止めする役割も持っているのだろう。
そう、今のエド達がそうであるように……
「……囲まれちまったな」
周辺を見渡していたグラッツは思わず舌打ちをする。
現在、エド達は参加者に変装していた何十人の暗殺者達に取り囲まれており、その場から動けずにいた。
「こいつは……、急いだほうが良さそうやな」
予想以上の数にケビンは冷や汗をかいてそう言う。
敵の数が多ければ、その分オランピア達も危機にさらされる。
あまり、時間は残されていないようだ。
(……オランピア、無事でいてくれよっ!)
エドは妨害する敵を見据えながらも、オランピア達の無事を祈るのであった。
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「そういうこと」
「全然、気づかなかった」
シェラザードとアネラスはレクターから語られる事実にギリッと奥歯を噛み締める。中で警備をしていたにもかかわらず、いつの間にか侵入を許してしまっていた。
エドならばおそらく気づくことができたかもしれないが、それを考慮していた《皇帝》はエドが外に出たタイミングを見計らって侵入したのだった。
「ハッ! しっかし、そんだけたくさん部下を連れて来るなんて、見た目と違って、ずいぶんと小心者だな!」
一歩間違えれば殺されてもおかしくない状況にもかかわらず、レクターは怖れ知らずにも《皇帝》を挑発していた。
対して、《皇帝》はレクターの様子を鼻で笑って、受け流す。
「これは教育だよ。有能な
「駒ですって!」
「子供達を攫っておいて、よくもそんなっ!」
《皇帝》の物言いに怒りを覚える遊撃士二人。彼の発言は正しく、人を人とは思わず、道具として見ている発言だったからだ。
しかし、いまだに押さえつけてくる重みに二人はその場で睨むことしかできなかった。
「さて、おしゃべりはここまでだ。そろそろ片付けるとしよう」
《皇帝》は右手に持つ杖を掲げて、六人を、正確にはオランピアを捉える。
だが、元生徒会長の反撃はまだ終わっていなかった。
「アンタ自ら手を出すなんてな。今は有能な駒を教育する時間じゃなかったのか?」
「あぁ。だが、それも終わりだ。なにより、オランピアは我が組織の幹部だった者。ならば、同じ幹部である我自らの手でやるのが筋というものだ」
「物は言いようだな。実際は違うんじゃねぇのか? それなら、わざわざこんな回りくどいことなんかしないで、最初からてめぇがやれば良かったっていうだけの話だ。大方、想定外のことが起き続けて、焦ってんじゃねぇのか? 例えば、そうだな……、外にいた連中がもう中に侵入しちまっているとか?」
この時、初めて《皇帝》は沈黙した。すぐに即答して返していた《皇帝》はローブ越しで見えづらいが、その顔をしかめる。その様子をかすかに見えたレクターは口角を上げる。
「どうやら、当たりみたいだな」
「シェラ先輩!」
「えぇ、どうやら勝機が見えてきたわね」
「エドさん……」
絶体絶命の状況の中でついに実った一筋の希望。それがわかったシェラザード達は活力を上げる。
「……だから、どうした? 連中は今は足止めを食らい、仮にたどり着いた所で、貴様らはその時には骸と化している。どのみち、貴様らに希望などない!」
《皇帝》は再び動き始め、今度こそ六人を始末しようと狙いを定める。
だが――、
「そうはさせん!」
「っ!」
突如、《皇帝》の背後から影が現れ、こちらへと迫る。
《皇帝》は咄嗟に横に跳んで影の接近を躱す。すると同時にオランピア達を襲っていた重みが消えてなくなった。
「……軽くなった?」
「あなたは……」
オランピアは突如現れた人物に目を向ける。その者は《皇帝》と向かい合い、六人を守るように細剣を構えながら立っていた。
オランピアはその人物に見覚えがあった。
「シスター……エレンさん?」
それは昨日、オランピアが教会で出会ったシスター・エレンだった。
「……何者だ? あの鐘を聞いて、なぜ正気を保っている?」
《皇帝》は事を始める前にエドが戻って来ないように、入り口前を監視していた。
そして、事が起きた後、外から来た者の中にシスターの姿はいなかった。つまり、目の前のシスターは学園内に最初からいたという事だ。
だが、シスターは《古代遺物》の支配を受けておらず、正気のある状態で《皇帝》と相対している。
「教会の法衣には、《古代遺物》の力を抑制する術が組み込まれている。全く効かないというわけでもなかったが、弱まった力に常日頃から鍛え続けた我々には、そのようなものは通用しない!」
エレンは法衣を脱ぎ捨て、その正体を現す。
青を基調にし、ベレー帽を被った軍服。その姿を見て誰もが目を見開く。
「貴様は、王都の……」
《皇帝》はその姿を見て当たりを付ける。そして、軍服を着ているエレンは堂々とした佇いで名乗り上げる。
「王室親衛隊のユリア・シュバルツだ。報告は聞いている。暗殺組織《庭園》の者だな」
エレン、否、ユリアは剣の切っ先を向けたまま《皇帝》を睨みつける。
「ユリアさん! 来ていたのですね」
「はい。クローゼ、あなたもご無事でなによりです」
クローゼはユリアの姿を見て歓喜するのに対して、二人のやり取りに周りの者達は疑問を浮かべる。
「クローゼ? ……! 貴様はまさか!」
《皇帝》はクローゼの顔をじっと見つめ、何かに気づいたのか、驚嘆の表情を浮かべる。
「なるほど。親衛隊が来ているのも納得だ。まさか学園に在籍していたとはな。クローゼ嬢……、いや、クローディア姫よ!」
《皇帝》の発言に誰もがクローゼに視線を向けてしまった。
「うそ、クローゼちゃんが……」
「リベールの……姫様?」
(やっぱりね……)
(ま、年齢的にもそうだわな……)
(カシウス先生が来るのも納得だわ……)
アネラスとオランピアは《皇帝》からもたらされた真実に言葉を失う。残った三人も沈黙していたが、どこか納得している様子だった。
「……はい。クローディア・フォン・アウスレーゼ。リベール女王、アリシアの孫にあたります」
隠し通そうと今まで黙っていたが、バレた以上は仕方がない。
クローゼは観念するかのように、自身の本当の名を皆に告げた。
クローディア・フォン・アウスレーゼ。
本人の言うとおり、リベール王国の現女王、アリシア二世の孫であり、王位継承順第一位に位置する、リベール王国次期女王候補の一人として挙げられている人物だ。
「ふん、残念だ。まさか、ここでリベール王国の未来も潰してしまうことになるとはな……」
驚きの連続ではあったが、すでに平静さを取り戻していた《皇帝》は杖を前に向ける。
それを見た、シェラザードとアネラスはすぐにユリアの隣に立ち、武器を構える。
その姿に《皇帝》は嘲笑う。
「たかが三人。しかも後ろにいるお荷物を抱えたままで、我に勝てると思っているのか?」
「舐めないでよね!」
「倒せなくても、時間さえ稼げば、こっちの勝ちよ!」
「殿下達には指一本も触れさせんぞ!」
対して、《皇帝》と対峙する三人は怯むことはなく言い返す。
遊撃士として、親衛隊員として、
自分達には守るべき者がある。
三人の目には、ゆるぎない信念と覚悟が籠っていた。
それを感じたのか、《皇帝》はオランピアの始末を一旦、後回しにして目の前の三人を先に排除しようと取り掛かる。
杖を天に上げて、力を開放しようとする。
「オイ! どこ見てるんだよ!」
すると、いつの間にか《皇帝》の横に移動していたレクターが《皇帝》に目掛けて何かを投げる。
《皇帝》は上げていた杖をそのまま振り下ろして、それを叩き落とす。
強い衝撃を食らったそれは形を崩すと、同時に大量の煙を辺りに撒き散らした。
「っ! またか!」
「中に入るぞ! 急げ!」
煙の中で複数の足音が一斉に鳴り響く。
逃がすまいと《皇帝》はすぐさま攻撃に転じようとするが、
「ダイヤモンドダスト!」
「なにっ!」
レクターの指示であらかじめ準備をしていたクローゼが、《皇帝》の足元にアーツを放った。
動きを封じられた《皇帝》は反撃することができず、腕を顔の前に組んで、吹き荒れる強烈な冷気に耐えていた。
やがて、アーツが解かれ、煙が霧散していったその時には、すでに《皇帝》以外の者はその場から消えていた。
「おのれ! 猪口才な小細工をっ!」
何度目の妨害に苛つく《皇帝》であったが、すぐに心を落ち着かせる。そして、その視線を先程まで閉まっていたはずの旧校舎の入り口へと向ける。
「まぁいい。こうなれば、最後の手段を使うまでのこと」
そう呟く《皇帝》の笑みは凶悪かつ邪悪に満ちていた。
「逃げるのはここまでだ。現実と向き合う時だぞ、オランピア」
~~~~~~~~~~~~~~
旧校舎内はかなり入り組んでおり、知らない者が入れば、迷ってしまうほどのものだった。
だが、元生徒会のレクターとルーシー、遊撃士活動で魔獣退治で訪れたことがあるシェラザードとアネラスは淀みない足取りで、旧校舎の奥へと進んでいった。
「それじゃあ、カシウス先生に頼まれて、来たっていうことなのね」
「その通りだ」
そんな中、シェラザードはユリア達、親衛隊がルーアンに訪れた理由を尋ねていた。
「カシウス大佐は予定では昨日にはルーアンに到着するはずだったそうだ。だが、予想外の事態に足止めをくらい、いつ戻れるかわからないとのことだ」
カシウスはこの事態を《庭園》の者が、自分をルーアンに向かわせないように仕向けたものだと理解した。
そこで名を偽って学園に入学したクローディア姫の護衛をアリシア女王から依頼されたカシウスは、弟弟子のアリオスからもらった《庭園》の情報と、《庭園》が学園祭を狙っていることを女王に伝えた。
事態を理解したアリシア女王は、クローゼと学園の人達を守護するため、ユリアを筆頭とした王室親衛隊を派遣したのであった。
「ルーアンには総勢三十名の隊員が目立たないように密かに派遣されているが、外の結界によって外部との連絡がとれず、今、中にいるのは私を含めて、十二名しかいない状態だ」
「他の人達は今、どうしているの?」
「スリーマンセルを組んで辺りを散策している。私と行動していた二名の隊員達は、殿下の発見を他の者達に伝えるよう別行動をとらせた。我々がここにいることは、遠からずとも遊撃士達の耳にもはいるだろう」
いまだ《皇帝》の計略に引っ掛かってはいるものも、ユリアの采配によって、状況が良い方向へと傾きつつあった。
「それじゃあ、このままあいつをやり過ごせば、こちらの勝ちですね!」
「そう上手くいけばいいんだがな……」
アネラスが喜んでいるのに対して、レクターは後ろを向いて先程まで走っていた道を睨みながら呟く。
全員がレクターの態度に不審を抱くが、答えはすぐに来た。
ドォオオオオオオオン!!
強烈な爆音が突如、校舎内に鳴り響いた。
ドォオオオオオオオン!!
再び、爆音が響く。
ドォオオオオオオオン!!
ドォオオオオオオオン!!
ドォオオオオオオオン!!
次々と続く音は徐々に大きくなっていき、レクター達に近づいてくる。
全員がそれに対して、驚きのあまりに足を止めようとするが、
「止まるんじゃねぇ!」
レクターが叫んで、全員に呼びかける。普段、飄々としていた男が見せる必死な顔を始めて見るクローゼとルーシーは息を飲んだ。
「ぜってぇ、止まるんじゃねぇぞ。止まったら、すぐに捕まるからな!」
「どういうこと?!」
「あの野郎、もはやお構いなしだ。最短距離で俺達に追いつくために壁をぶち壊して向かって来てやがる!」
「な?!」
無茶苦茶ともいうべき方法に誰もが言葉を失うが、鳴り響いてくる爆音がレクターの言葉は真実であると語りかける。
「かくれんぼの次は鬼ごっこか! ったく、たまんねぇな!」
そういうレクターは、切羽詰まった表情を浮かべていながら、口角を上げてそう呟く。
「こうなったら、こっちも出し惜しみはなしよ! 道具やアーツを使いまくって、とにかく時間を稼ぐわよ!」
「はい!」
「了解です!」
「心得た!」
シェラザードの号令にクローゼ・アネラス・ユリアは応じる。
「オランピアさん」
「あ……ル、ルーシー……さん」
ルーシーはオランピアに近づいて、声をかける。オランピアは怯えた表情でこちらを見下ろすルーシーを見上げていた。
「怖がらせて、ごめんなさいね。お願いがあるのよ」
「お願い……?」
「えぇ。あなたの戦術オーブメント、私に貸してくれる?」
ルーシーの突然の発言にオランピアは頭に疑問を抱く。
「ど、どうして……」
「このまま、何もしないわけにはいかないわ。私もできることをしたいの。でも、そのためには力が必要だわ。だから、貸してくれないかしら?」
怖がらせないように優しくオランピアに頼み込むルーシー。オランピアは優しく微笑んでくるルーシーに戸惑いを覚えながらも、おずおずと懐から戦術オーブメントを取り出し、ルーシーに渡す。
「ありがとね」
「おい、お前、そいつ使えるのかよ?」
ルーシーがオランピアにお礼を告げる中、横からレクターが割って入る。
戦術オーブメントが主に使われるのは、魔獣といった敵との戦闘だ。戦いにほとんど縁のないルーシーがその使い方を知っているとは思えない。
ルーシーはレクターに顔を向ける。その顔には不敵な笑みを浮かばせる。
「心配ないわ。クローゼが使っている所を何度も見ているから、使い方はだいたいわかるわ。それに、いつかあなたで試し打ちしようと思っていたこともあったから問題ないわ」
「お前……、俺をサンドバッグかなにかと勘違いしてねぇか?」
冗談とも本気とも捉えてしまうルーシーの発言に、レクターは別の意味で命の危険を感じてしまう。
「おしゃべりはそこまでよ! 音が近づいてくる……、来るわ!」
ドォオオオオオオオン!!
すぐ後ろにある壁がぶち抜かれた。そして、そこから出てきたのは、ローブを被った暗殺者。
「おいでなすったわね。ここからが正念場よ!」
一度でも捕まれば、ゲームオーバー。
命を懸けたチェイスバトルの幕が切って落とされた。
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