それでは、ご覧ください。
旧校舎内で鳴り響く爆発音。
両者共に一切休むことなく、攻防を繰り返していた。
接近して足止めしようとすれば、入り口前で起こった謎の力に捕まってしまうから、それはできない。
シェラザード達は主にアーツを駆使して迎撃を行う。
焼き付くす火の玉が、噴出する高圧の水が、凝縮して吹き荒れる風の刃が、一斉に《皇帝》に向かってくる。
しかし、放たれたアーツは《皇帝》に当たる直前、まるで上から何かに押し潰されるかのように、崩れて霧散していった。
《皇帝》は顔色一つ変えずに、足を前へと進める。
一歩、近づく度に押し寄せてくるプレッシャー。
杖を上げると、先端から黒い球体のようなものが生み出され、それをシェラザード達に向かって放つ。
危険と直感したレクターは受け止めようとはしないで、回避するよう呼び掛ける。
迫る球体は地面を抉り、シェラザードの後ろを通り過ぎる。
他にも通った道には焦げた跡やクレーターがちらほらできており、壮絶なチェイスバトルの苛烈さを見事に表していた。
そして、ついに――、
「もうすぐで最奥部に着くぞ!」
レクターの一言に全員の緊張感が一気に走る。
もうすぐ、鬼ごっこが終わる。奥にたどり着けば、逃げ道もなければ、隠れる場所もない。
ここから先は真っ正面から渡り合うしかない。
しかし、相手は《庭園》の幹部の一人。
先のチェイスバトルで《皇帝》の実力の一端を見た。
《古代遺物》だと思われる、謎の力。
自分達の動きの先を読み取れる頭のキレ。
数が多いとはいえ、油断はできない。
しかも、自分達には戦いに不慣れな者や非戦闘員が多く、正直、数の差によるアドバンテージはないといってもいい。
だが、やらなければ、こちらが殺られる。
「全員、腹をくくりなさい! 倒そうとは考えないで、生き残る事を考えなさい!」
自分達が倒す必要はない。すでに学園には仲間が入っている。彼らがたどり着けば、勝機はこちらにある。
シェラザードの激昂に全員が覚悟を決める。
そして、最奥部へとたどり着いた。
シェラザードは視線を周りへと移して、地形を把握する。
学園の講堂よりも二回り程、広くとられているフロア。
これならば、一ヶ所に集まる必要はない。何人かに別れて散開して、フォローしあえば、いくらでも時間を稼げる。
勝利条件には、かなり有利な地形だ。
全員はフロアの中央まで移動して、振り返って最奥部の入り口に視線を向ける。
武器を構え、いつでも動けるように意識を集中する。
……コツ ……コツ
静まった空間で、入り口の向こうから響いてくる足音が、普段より大きく聞こえる。
……コツ、コツ、コツ、コツ
徐々に近づいてくる音に、シェラザード達は無意識に武器を強く握りしめる。だが、レクターだけは近づいてくる足音に違和感を覚える。
(……足音との間がさっきよりも短い。それに音も全然違う。……まさか!)
レクターはそこから導き出される結論に表情を曇らせる。
そして、その最悪の予想は見事に的中してしまった。
「え?」
「うそでしょ……、あの人達は?!」
入り口から現れたのは、《皇帝》ではなかった。オランピアとシェラザードは代わりに出てきた人物に目を丸くする。だが、それ以上にその人物を見て狼狽する者がいた。
「テレサ先生! みんな!」
入り口から出てきたのは、マーシア孤児院のテレサと子供達だった。
テレサ達は外の参加者達同様、目を虚ろにして、入り口から数歩離れた地点で立ち止まった。
「我が何の策もなく来ると思ったのか?」
テレサ達に続けて、入り口から遅れてやって来た《皇帝》は悪びれた様子もなく、淡々と口にした。
「人質か。一本、取られたぜ……」
「奥の手というものは最後までとっておくものだ」
そう言って、《皇帝》は手首に付けている《古代遺物》のベルを鳴らす。すると、ピクッとテレサが動きだし、懐を漁り始める。
取り出したのは、食事の際によく見かける料理をカットするためのナイフだった。
「っ! なにする気?!」
「こうするのだよ」
アネラスが突っかかる中、テレサはゆっくりとした足取りで子供達の後ろに移動する。
そして、その中の一人、クラムの首にナイフを添える。
「おかしなことはしないことだ。すればどうなるのか、言わなくてもわかるだろう?」
「っ! この外道っ!」
アネラスは我を忘れて突っ込みそうになるが、唇を強く噛み締めて、必死に耐えようとしていた。
その姿を滑稽に思ったのか、《皇帝》の顔には獰猛な笑みがこぼれていた。
「素晴らしい力だ。扱いは難しいが、上手く使いこなせれば、これからの暗殺も容易いというものだ」
「それは……どういう……?」
《皇帝》の発言に疑問を持つクローゼ。《皇帝》はベルを前に出して、見せつけながら解説する。
「この力に支配させた者は、自分が今まで何をしていたのか、覚えてもいなければ、思い出すこともできない。これを使えば、その場にいる者共を支配した後、堂々と暗殺をすることができる。いや、今のように誰かを操って殺すこともできるだろう」
《皇帝》のご高説に誰もが絶句する。
彼の言った内容は、自分達が持つ暗殺の常識を根本からひっくり返すものだった。
暗殺とは本来、誰にも気づかれることなくひそかに殺すことだ。
だが、《皇帝》の言う通り、あの《古代遺物》を使えば、誰かに見られないように暗殺をするようなことをする必要もなくなる。
いつ、どこで、だれが、どのような手段で殺すのか、自由に選ぶことができるのだ。
暗殺の常識を覆した、正に大胆不敵な暗殺である。
「もう、やめてください、《皇帝》!」
誰もが固まっている中、オランピアは《皇帝》の前に出る。
《皇帝》は顔色を変えずに、冷めた目付きでオランピアに視線を向ける。
「あなたの狙いは私のはずです! これ以上、テレサ先生やみんなを巻き込まないでください!」
たった一週間という短い時間。
泊まっている間、自分達を快く受け入れてくれた、とても暖かな家族。
自分のことを隠していて、罪悪感はあったものの、あの時の過ごした日々はとても穏やかで楽しい時間だった。
それが壊れてしまうことが嫌で、つい、前に出てしまった。
「ふん、何を言い出すのかと思えば、自分のせいでこうなっているんだとわかっていないのか?」
「え……?」
「貴様がこの者達と出会わなければ、こんなことにはならなかった。貴様が祭りなどに参加しなければ、他の者達が操られることなどなかった。……オランピア。まさか貴様、"自分は陽の当たる場所で生きてもいい"と本気で思っているのか?」
《皇帝》の言葉にチクッと胸に何かが刺さる感覚が走る。
「そ、それは……」
「《庭園》の刺客として、多くの者をその手にかけた。管理人として、無垢な子供達をなんの躊躇もなく、暗殺者へと仕立て上げた。そんな貴様が今さら表の世界に戻ったところで、居場所など、どこにもなかろう」
「よくもそんなぬけぬけと! 感情がないことをいいことにオランピアちゃんを《庭園》を引きずり込んで!」
「貴様は一つ勘違いしているぞ、遊撃士よ」
《皇帝》の言い分にアネラスは食ってかかるが、彼はアネラスの発言に嘲笑う。
「確かに感情は奪われ、喜怒哀楽は感じなかったのだろう。だが、奪われていたのは感情だけであって、思考やそれまでの知識までは奪われていない。つまり、その娘は人を殺すことは悪であるという事を理解していながら、どうでもいいと思考を放棄して人を殺していたのだよ」
「っ!」
《皇帝》の言葉にオランピアは顔を俯かせてしまう。その顔は真っ青になっており、目も激しく揺れていた。
知りたくなかった事実に、目を背けたかった事実に、何も言うことができなかった。
「オランピア、裏の世界で生き続けてきた貴様が、今さら表の世界で生きようなどと、人間らしく生きようなどと思っているのか? この状況を見ろ。裏の世界から逃げてきたお前を始末するためだけに、このようなことが起きた。そして、貴様が生き続けている限り、今回のようなことは何度でも起きる。暗闇の底に落ち、人を捨て、凶器へと成り下がった貴様に、人間として生きることなどできないのだよ!」
《皇帝》の容赦ない言葉の刃が次々とオランピアの心を突き刺す。
息を荒くし、鼓動が激しくなるオランピアは、ふっとテレサ達の方に視線を向ける。
操られて、正気を一切感じない虚ろな目。今の彼女達は思考が停止しており、何も考えてなどいないのだろう。
だが、心が疲労しているオランピアは、自分に向けてくる虚ろな目にひどく怯えていた。
"おまえのせいだ"
虚ろな目から、そんなことを訴えているとありもしない妄想にオランピアは膝を着いてしまう。
「私は……、わた、し、は……」
これは罰なのだろう。
どうでもいいと何も考えずに、たくさんの人を殺してきた。
そんな身勝手な自分がのうのうと生きることなどしていいはずがない。
自分のせいで、自分が生きているせいで、こんなことになってしまった。
生きているだけで、たくさんの人に迷惑をかけてしまう。
感情があろうが、なかろうが、自分は結局、なにも変わってなんかいなかった。
それならば、いっそ……
オランピアは腰に掛けていた小太刀を抜き、その切っ先を自分の顔に向ける。
後ろから声が聞こえるが、内容が聞き取れない。
自分に向ける震えた切っ先に、強く目を閉じてしまう。
痛みから、恐怖から、現実から、全てから逃げるかのように。
(……エドさん、……ごめんなさい)
最後に会いたかった彼を思い浮かべる。
自分を最後まで守ってくれた彼に、感謝をして、謝罪をして、
そして、そのまま腕を自分の方に引いた。
ガシッ!
…………
腕が何かに引っ掛かった。
いや、何かに掴まれて動けなかった。
急なことに混乱するオランピアはおそるおそる目をゆっくりと開く。
そこに映っていたのは、
「ダメです。オランピアさん」
目と鼻の先で止まっていた小太刀の切っ先と、自分の腕を両手で強く掴んで、進行を止めていたクローゼがいた。
「クローゼ……さん」
困惑するオランピアを無視して、クローゼは彼女の手を自身の両手で包み込む。そして、彼女の指を一本一本、丁寧に外していった。
やがて、小太刀を抜き取り、それを鞘に収めてオランピアに笑顔を向けて返す。
その笑みは、とても優しく、とてもあたたかなものだった。
クローゼは立ち上がって、膝を着いてその場から動かないオランピアの前に立つ。
「……なんのつもりだ。クローディア姫」
苛立ちを隠しきれないのか、《皇帝》はえらく不機嫌そうな顔を浮かべて、クローゼを睨みつける。
彼が放つ殺気に一瞬、顔をしかめてしまうが、それでもその場から一歩も引かなかった。
それはまるで、《皇帝》から彼女を守るかのように。
「まさかと思うが、その娘を守るつもりか? たかが、一週間程度しか付き合いのない人殺しの小娘を。人間以下のその者に守る価値などあるのか?」
「……確かに、私はオランピアさんとは一週間くらいしか関わっていません。オランピアさんがたどってきた軌跡を私はなにも知りません。あなたの話に嘘はないのでしょう。オランピアさんが暗く、険しい道をたどっていたのでしょう。でも、私には、彼女が抱えているものを理解することは、おそらく一生理解することはできないでしょう」
《皇帝》の言い分に特に反論を述べるわけでもなく、クローゼは静かに自分の考えを告げる。
城の中で、蝶よ花よと育てられた自分には、まったく正反対の道を進んでいたオランピアの心情を理解することなどできない。
いや、そもそも人が人の全てを理解することなど不可能だ。
どんなに親しい間柄でもちょっとした行き違いや、勘違いで仲違いすることだってある。
かつて、孤児院のことでジルに対して、怒りを覚えたことがあった。
今でこそ恩を感じているが、レクターとの初対面の時はあまりいい印象は持っていなかった。
たとえ、オランピアが自分の口から自身の過去を全て告げたとしても、その時に彼女が抱いていた思いを共有することはできないだろう。
でも……
「でも、私は今のオランピアさんを知っています」
彼女と出会ってから今日までの約一週間。言葉を交わして、多くの時間を共有しあった。その時の思い出は今も鮮明に覚えている。
「オランピアさんが何かを探し求めていることを。一日一日を大切にしていることを。そして、楽しく生きようとしていることを、私は知っています」
最初に出会った時に思ったのは、少し引っ込み思案な所はあるが、困っている人を助けようとする、心優しい少女。
甘いものが大好きで、何にでも興味を持ち、他愛のない話でも真剣に耳を傾ける子。
そして――、
『エドさんも一緒だったらなぁと思いまして』
本人はまだ気づいていないが、そんな淡い気持ちをひそかに抱く、どこにでもいる普通の女の子だ。
裏の人間だとか、元暗殺者だとか、そんなものは些末なことだ。
「オランピアさんが過去に何をしていたのか、そんなことは私には関係ありません。むしろ知った今、私は彼女を支えてあげたい。たとえ、その痛みを分かち合うことができなくても、彼女が暗い道でつまづき、くじけそうなことがあったら、私は何度だって隣に立って支えていきます。だから……」
クローゼは手に持った細剣を顔の正面へとかざす。
剣は守るために振るうもの。
かつて自分にそう教えてくれた師の言葉を刀身に映った自分に問いかける。
自分は何のために守る。何のために剣を振るう。
王女として、リベールの未来を守るため?
生徒会の一人として、学園の生徒達と学園祭に参加してくれている人達を守るため?
それもあるかもしれないけど、今は少し違う。
戦うことを、争うことを好まない自分が今、剣を持つ理由はひとつだけだ。
「オランピアさんを……、
私の大切な
友達を守るため。
理由なんて、それだけで十分だ。
細剣を《皇帝》に向ける。その目には怯えはなく、ただまっすぐに《皇帝》を見据えていた。
「ったく、とんだお転婆なお姫様だ」
すると、クローゼの横から赤髪の元生徒会長がだるそうに隣へと立つ。
「レクター先輩……」
「ま、俺は別に後ろのお嬢ちゃんとは、そこまで親しいわけでもないけどよ。後輩が体張ってるのに、ここで出なきゃ先輩としての示しがつかなくなっちまうからな」
「あら、あなたにしては意外な答えね。ちょっと感心したわ」
今度は、反対側から金髪の元副会長が並び立つ。
「ルーシー先輩……」
「おい、まさかお前も戦うのか? 危ねぇから下がってろ」
「そういわけにもいかないわ。私もせっかくできた友達がいなくなる所なんて見たくないわ。それに安心して。誰かさんのおかげで拳に磨きがかかっているから、私も戦えるわ」
「やっぱり、お前! 俺をサンドバッグと勘違いしてるだろ!」
先輩二人の緊張感のないやり取りに、クローゼは力んでいた肩の荷が落ちていく。
「あ~、もう! 勝手に前に出ていくんじゃないの!」
生徒三人の前に、今度は勇ましい女性三人が立ち、守りの体勢に構える。
「オランピアちゃんだけじゃない。アンタ達も私達にとっては守るべき民間人なの! 遊撃士として見過ごすわけにはいかないわ!」
「私もクローゼちゃんと同じ! オランピアちゃんを苦しめるあなたを絶対に許さないんだから! なんたって、可愛いは正義、だからね!」
「殿下の意志は、私の意志だ。殿下とその友人を手にかけるのなら、一切の容赦はせん!」
シェラザード、アネラス、ユリア、レクター、ルーシー、そしてクローゼ。
全員がそれぞれの武器を構えて、オランピアの前に立っていた。
目の前に広がっている光景を見ていたオランピアの視界がぼやける。
目から止まることなく流れてくる涙が視界を遮っていたのだ。
今、起きている現実に、胸の奥からこみ上げてくる衝動にオランピアは抑えることができなくなっていた。
「……不愉快だ」
一方で、その光景を正面から見据える《皇帝》は、ここ一番の低い声で呟く。
「何度も何度も邪魔をしおって……、そこまで邪魔をするというのなら、まずは貴様らから消すまでだ」
《皇帝》は迎え撃つことなく、視線を横へと振り返る。
「まずは、あいつらからだ!」
「っ! ダメ!」
視線の先には、テレサがナイフを持っている手を大きく振り上げていた。
そして、彼女の正面には背中を見せてその場から動かないクラムの姿。
全員が一斉に動き出す。だが、距離が遠くて間に合わない。
やがて、上げていた手をクラムに向かって振り下ろした。
そして――、
パンっ!
テレサの手が空を切った。
テレサが持っていたナイフは宙を舞い、そのまま地面へと落ちていった。
一瞬の出来事に、その場にいる者達は唖然とした。
だが、同時に原因もわかっていた。
ナイフがクラムに当たる直前、入り口の方から駆けてきた白い影が、テレサの手にぶつかりナイフを弾いたのだ。
そして、そのまま白い影は速度を落とさないまま上へと昇った。
ピュイィィィィーーーーーーーー!
全員が白い影の姿を追って、顔を上げる。
そこにいたのは、翼を大きく広げ、どこまでも高く飛んでいく白き隼。
「あ……、ジーク!」
いち早く、その正体に気づいたクローゼは声を上げる。
対して、予想外の登場に《皇帝》は動揺する。
「白隼だとっ! なぜ、そんなものがここにっ!」
「どうやら、間に合ったようだな」
この場で初めて聞く、男性の声に全員が視線を向ける。
そこにいたのは、赤いスカーフのようなものを首に巻いたちょび髭の男性。
年はおそらく四十代だと思うが、服越しでもわかるほど屈強な身体をしていた。
男性はテレサを軽く当て身で気絶させ、そっと地面に寝かせた。
その男性の姿にクローゼ達は驚愕するのと同時に歓喜していた。
「先生! 来ていたのですか!」
「カシウスさん! お待ちしてました!」
「シェラザード、アネラス、よくぞ耐え続けた。ユリア、お前の助力も感謝する」
「いえ、カシウス大佐もご無事でなによりです」
リベール王国の英雄にして、S級遊撃士。
そして、エドとアリオスの兄弟子。
八葉一刀流の元《剣聖》、カシウス・ブライトの姿がそこにあった。
カシウスはその場で笑みをシェラザード達に向けながら頷き、次はクローゼの方に視線を向ける。
「……カシウスさん」
「お久しぶりです。クローディア殿下。あなたの覚悟と想い、遠くからでも届きました。大きく成長なられましたな」
「ふふ……、ありがとうございます」
カシウスの称賛を素直に受け取り、少し照れくさそうになるクローゼ。
「カシウス・ブライトっ! バカな! 貴様はアリオッチが足止めしていたはずっ!」
一方、《皇帝》は目を大きく見開きながら、カシウスを見る。
《皇帝》の言うとおり、カシウスは《庭園》によって外国で足止めをされていた。
《皇帝》の予定では、早くてもリベールに到着するのは、明日のはずだった。
カシウスは《皇帝》に視線を向け、静かに口を開く。
「ここに来ているのが、俺だけだと誰が言った?」
「なにっ? ……っ!」
カシウスの言動に疑問を抱いたが、反射的に横へと跳ぶ。
すると、入り口から燃え上がる炎の斬撃が飛び込んできた。
一歩速く動いていた《皇帝》は迫ってきた斬撃をなんとか躱す。
「くっ! 今度はなん……、なっ!」
《皇帝》は入り口に視線を向け、固まった。
黄金の目をこちらへと睨みつける黒髪の青年が、目と鼻の先にいつの間にか近づいていたのだ。
「貴様はっ!」
「遅い!」
黒髪の青年――、エドは剣を下から振り上げた。
躱すことも抵抗することもできなかった《皇帝》は正面からエドの斬撃を受けて、その身体は空へと上げられた。