英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

32 / 122
 それではご覧ください。

 一万字。初めてだ……


第三十二話 友達

 スタッ、とエドは地面に着地する。

 視線を前方へと向けて《皇帝》の様子をうかがう。

 しかし、《皇帝》を地面に強く叩きつけたことで辺りに砂塵が舞っており、その姿を捉えることができなかった。

 だが、打った感触から無事ではすんでいないと、エドは確信していた。

 

「エドさん!」

 

 エドが砂塵を睨んでいる中、背中からドンッ、と何かがぶつかる。

 後ろに振り向いて、その正体を確認すると、目に涙を溜め込んでこちらを見上げるオランピアの姿があった。

 

「……オランピア」

「エドさん、私……、わたし……」

 

 エドの服を震えた手でしがみついて、何かを伝えようとするオランピア。

 ずっと会いたかったこと、自決しようとしたこと、クローゼ達が助けてくれたこと。

 いろいろと伝えたいことがあったが、頭の中を整理することができず、言葉を発せずにいた。

 その姿を黙って見ていたエドは、そっとオランピアの背中に手を回す。

 

「あ……」

「わるい……、怖い思いをさせちまったな」

 

 ポンポン、と優しく背中をたたいて落ち着かせるエド。

 自分を包み込んでくれる大きな身体と、ずっと聞きたかった彼の声が耳に入り、オランピアはその場で静まりかえる。

 彼から伝わってくる暖かさと、自分の胸に響いてくる激しい鼓動に一歩も動けずにいた。

 

「オランピアさん……、よかった」

「あれが、うわさのエドって奴か……、ま、ルックスじゃあ俺の方が上だな」

「何に張り合っているのよ、あなたは……」

 

 そんな二人の様子を生徒三人は、先程までの緊張感が一気に抜け落ちたからか、穏やかな視線で眺めていた。

 

「う~、オランピアちゃん、よかったよ~」

「なに、泣いてんのよアンタは……」

「フフ……、だが、守った甲斐はあったというものだ」

 

 二人の様子に涙を流しているアネラスを呆れた視線を向けるシェラザードに、オランピアの様子にどこか満足した表情を浮かべるユリア。

 

「……あれ、ここどこ?」

「オイラ達、なんでこんなところにいるんだ?」

 

 全員が二人の様子を見守る中、人形となって意識を奪われていた孤児院の子供達が言葉を発した。

 エドが《古代遺物》のベルを破壊したことで、力の支配から解かれたのだ。

 

「……みんな!」

 

 クローゼはその様子にいても立ってもいられず、すぐに子供達の方へと駆け込む。

 そして、そのまま子供達四人を両手でまとめて抱きつき、自分へと引き寄せた。

 

「よかった……、みんな無事で……」

「クローゼ、お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん、泣いてるの?」

 

 感極まって、涙を垂らすクローゼの様子に子供達は頭に疑問を浮かべていた。

 どうやら、《皇帝》が言っていた通り、操られた時の記憶はないらしい。

 だが、クローゼ達の様子から今回の出来事がやっと終わったのだと、誰も疑うことはなかった。

 

「お前達、気を抜くな」

 

 だが、カシウスだけは警戒を緩めずに、砂塵の方を睨んでいた。

 そして、エドもオランピアを後ろに下がらせて、再び砂塵の方に視線を向ける。

 

「まだ、終わっていない。すぐにでも起き上がるぞ」

「え、でも、あいつはエドさんが……」

 

 遠くから見ていたアネラスはエドの一撃が《皇帝》に直撃したところをしっかりと目にしていた。

 《剣聖》の称号に相応しい、無駄のない見事な一閃。

 あれで無事にすんでいるなど、にわかには信じがたい。

 だが――、

 

「ハァ……、ハァ……」

 

 砂塵の中から息を切らしている声が響く。

 全員が各々の武器を構えて、砂塵の中へと意識を向ける。

 

「まさか、ここまで、とはな……」

 

 砂塵の中から、人影が現れる。

 影はエド達の方へと歩いて行き、その姿を見せる。

 

「この鎧がなければ、先程の一撃でやられていただろう」

 

 胸を押さえ、杖に身体を預けながら、震えた足でなんとか立っている《皇帝》の姿が現した。

 叩きつけられた勢いで、彼が被っていたローブは剥ぎ取られ、その姿をさらす。

 

「お前、その鎧は……」

 

 エドが最初に目に入ったのは、《皇帝》が身に纏っている黄金の鎧と兜だった。

 彼が持っている杖と宝珠と似たような装飾をつけた二つを見て、エドはどこか確信を得た顔をする。

 

「なるほど。姿を隠していたのは、それが理由か」

「どういうこと?」

「あいつが着けている鎧と兜。そして、手に持っている杖と宝珠。全部《古代遺物》だ」

「ハァ!」

 

 エドから出た発言にシェラザード達は驚きのあまり声を上げた。

 《古代遺物》はとても希少な存在なため、一人の人間が複数個持っていることはまずない。

 それが、一人に四つも持っているとなれば、もはや異常としかいえない。

 

「おそらく、あれは四つで一種の《古代遺物》なのだろう。あの四つが揃っていることで、その力を最大限に発揮しているのだ」

 

 カシウスは、先程のエドと《皇帝》の戦いを観察して、そう結論づける。

 《古代遺物》はその強力な力ゆえに、一種類の力しか内包していない。

 戦いの中、《皇帝》が見せたのは能力は大まかに挙げて、四つ。

 

 力の要となる、重力場を作り出す能力。

 自身を軽くしたり、相手を重くしたりするなど重力の強弱を操作する能力。

 自分だけの重力を軽くするといった、重力場の効果対象を操作する能力。

 そして、自身が食らった攻撃の衝撃を吸収する能力。

 

 八葉特有の″観の眼″を持って、エドとカシウスは《皇帝》が所有している四つの《古代遺物》の正体を見破ったのだ。

 

「ローブで身を隠していたのも、正体を晒すことを避けるためだけじゃなく、《古代遺物》を隠すためでもあったというわけだ。違うか?」

「……見事だ」

 

 エドの推察に《皇帝》は反論することなく、肯定を示す。

 

「我が所有する《照臨のレガリア》の正体をこんなにも容易く見破られるとは、どうやら貴様らをどこか過小評価していたようだ」

 

 全身から伝わっていた痛みが静まったのか、《皇帝》は杖に預けていた身体を持ち上げて、堂々と立ち上がる。

 

「認めよう。このたびのゲームは我の敗北だ。この場で引かせてもらおう」

「そんなことをさせると思っているのか?」

 

 この場から逃がさない、とエドが腰を低くして突進を仕掛けようとするが、その様子に《皇帝》は口角を上げる。

 

「だろうな。だが、貴様らにそれができるか?」

「なに?」

「エドさん!」

 

 《皇帝》の発言に眉を顰ませるエドだったが、オランピアの声に意識をそちらに向ける。

 

「ベルが!」

 

 エドはすぐさま破壊したベルの方に視線を向けると、ベルが独りでに淡い光を発して、その光を徐々に強くしていった。

 

「な、なにあれ?!」

「アンタ、いったい何をしたの?!」

 

 アネラスとシェラザードは目の前の現象に若干慌てるも、その現象を引き起こしたであろう《皇帝》に睨みつける。

 

「我は何もしていない。その男が破壊したから、今このような事態が起きているのだ。まあ、こちらとしては()()()()から送られた最低限の命令(オーダー)を果たせたから好都合だがな」

「なんだと?」

「我を捕らえるより、この状況を打開することを優先した方がいいぞ」

 

 そう言って、《皇帝》は能力を使って身体を浮かせ、入り口の方へと向かう。

 

「それでは、さらばだ! 生き残れたら、また会おう!」

「なっ! 待ちなさい!」

 

 《皇帝》が高速でその場から離脱するのを見て、アネラスはいち早く《皇帝》を追いかけようとする。

 

「アネラス! 今は捨て置け!」

「でも、カシウスさん!」

「気持ちはわかるが、今は目の前のこれに対処する。総員! 警戒を怠るな!」

 

 全員が強く光放つベルに意識を集中する。いまだ強く光り続けるベルは、その輝きをさらに強くしていき部屋全体を包み込む。

 あまりの強さに目を開けることができず、全員が目を閉じて光が収まるのを待った。

 数秒の時間が経ち、光が徐々に収まっていき、全員がおもむろに目を開ける。

 しかし、そこには光を収めたベルだけが残っており、特に何も変化はなかった。

 

「なにも……ない?」

 

 アネラスが全員の気持ちを代表して、そうつぶやく。

 その場で、じっと待ち続けるが、特に何も起こらなかった。

 

「ったく、なんだよ。驚かすんじゃねぇっての」

 

 そう愚痴をこぼしたレクターはベルの方へと近づき、首を左右に動かして周りを確認した後、ベルを回収する。

 

「人騒がせなもんだぜ。こんなもん、とっとと処分しちまおうぜ」

 

 壊れたベルをぶら下げて、エド達の元へと戻ってくるレクター。

 その時――、

 

「っ! 離れろ!」

「あ? ……っ!」

 

 エドのかけ声に一瞬、疑問を持つレクターであったが、すぐにその顔を険しくし、咄嗟にベルをその場で投げ捨てて前へと跳び上がる。

 

 キンッ!

 

 すると、投げ捨てられたベルが上から降りてきた白い針のようなものに突き刺された。

 針はベルを貫通し、そのまま地面にひびを作らせる。

 

「え?! なに?!」

「上だ!」

 

 その様子にアネラスは混乱するが、エドは顔を上げて、全員に呼びかける。

 全員が目の前の白い針を目でつたわりながら顔を天井へと見上げる。

 そこにいたのは……

 

「なっ! なんだあれは!」

 

 ユリアはそこにいた存在に目を大きくして、声を上げてしまった。

 他の者達もその存在に固まってしまった。

 そこにいたのは、一言で述べると蜘蛛だった。

 だが、街の隅とかでよく見かけるような小さな蜘蛛ではなかった。

 人間が三人分合わせたくらいの大きさを持った巨大な蜘蛛だった。

 白銀ともいうべき、その身体は白い針だと思われた、蜘蛛の糸に身を預けて地面へと降りてきた。

 

「なんなの、こいつ!」

「魔獣……っていう感じがしません」

 

 初めて見る怪物にシェラザードとアネラスは戸惑いを見せる。

 

「エドさん……、もしかして、あれは……」

「あぁ。お前の想像通りだ」

 

 対して、オランピアは目の前でこちらを睨む巨大蜘蛛の正体に心当たりがあった。

 今、正面から向き合っているからわかる。

 クロスベルの太陽の砦で出会った″あの怪物″と纏っている雰囲気が似ている。

 

「全員、周りを警戒しろ!」

「え?!」

「まだ()()、どこかに身を潜めている! 気を抜くんじゃねぇ!」

 

 突然の宣言に固まってしまうが、発言者のエドと同時にカシウスとレクターの三人は身を潜ませる気配に気づき、戦術オーブメントに導力を送る。

 

「そこだ!」

「ふん!」

「あらよっと!」

 

 三者それぞれがアーツを三方向へと解き放ち、アーツはそのまま柱や壁に着弾する。

 アーツの威力にフロア全体が、かすかな振動で揺れ動き、それと同時に上から三つの影が落ちてきた。

 現れた三体は最初の蜘蛛よりも一回り小さかったが、同じ白銀の身体をもった巨大蜘蛛だった。

 

「エドさんよ。こいつらになんか心当たりでもあんのか?」

 

 四体いることを瞬時に見破ったことから、エドが敵の正体を知っていると判断したレクターは彼に問いかける。

 エドは蜘蛛達から目を離さずにその場で頷く。

 

「ああ。まさか、クロスベルに続いて、リベールでもお目にかかるとは思わなかった」

 

 手に持った剣を強く握りしめて相対する蜘蛛を睨んで、その正体を告げる。

 

「……教会の聖典に記されし、″七十七の悪魔″の一柱。悪夢の紡ぎ手にして、迷宮に迷い込んだ魂を喰らいしもの。《暴食》のグラトニーだ!」

「あれが……悪魔……」

 

 幼い頃から聞かされた煉獄の住人。それが目の前にいる蜘蛛の正体だと知ったクローゼは言葉を失う。

 悪魔達はそれぞれの配下――夢魔を引き連れて、エド達との距離を縮めてくる。

 

「えっと、あの一番大きいのが、グラトニーなんですか?!」

「グラトニーは他の悪魔とは違って、四体で一柱の悪魔だ。長女グライア、次女エプロス、末女タレイアの三姉妹と、母親のジグマで構成されている!」

「そういうこと!」

 

 四体いることを見破った理由に納得する一同だったが、状況はかなり危険なものだった。

 普段、対峙している魔獣とは一線を越えた怪物。それが四体同時、しかも多くの手下とも相手にしなくてはならない。下手をすれば、手配魔獣以上の脅威となりうるだろう。

 さらには――、

 

「ひっ! クローゼお姉ちゃん!」

「な、なんだよ、あれ~」

「ぼ、ぼくたち、たべられちゃうの?」

「ポーリィ、こわいよ~」

 

 孤児院の子供達と気を失ったテレサがいるため、彼女達を守りながら戦わなくてはならない。

 

「エ、エドさん……」

「大丈夫だ」

 

 だが、そんな状況に陥っているにも関わらず、エドは取り乱した様子を見せなかった。

 

「あぁ。その心配はない」

 

 そして、カシウスもまた、同様だった。

 

「先生?」

「もうそろそろ、来るはずだ」

 

 なにが、と聞き返そうとした次の瞬間、

 

 ダァアアアアン!

 

 突如、ジグマの後ろが火を噴き出した。母親の異変に気づいた三姉妹はすぐに駆けつけようとするが、

 

「させないよ!」

「オラァアアアア!」

「ハァ!」

 

 その前に新たな三つの影が三姉妹を押しのけた。

 

「あれは……」

「先輩!」

 

 三姉妹を退けたのは、学園内で《庭園》の刺客達の制圧に取りかかっていた、クルツ、カルナ、グラッツの三人の遊撃士だった。

 

「待たせたようだね」

「こっからは俺達も加勢するぜ!」

「え?! 外の方は大丈夫なのですか?」

「それについては問題ない。参加者の人達が全員倒れるのと同時に、奴らが一斉に身を引いたんだ」

 

 おそらく、エドが《古代遺物》のベルを破壊したことで参加者の人達は支配から解放されて、作戦失敗と判断した《庭園》は即座に撤退をしたのだ。

 

「外の人達はアガットとキリカ殿達にまかせて、我々はここに来ることができたのだ」

「隊長!」

 

 クルツが説明している中、ぞろぞろと入り口から同じ服装を纏った人達が押し寄せてきた。 全員、ユリアと同じ青の基調した軍服とベレー帽を被っていた。

 

「お前達!」

「隊長! 王室親衛隊、十二名を連れて、馳せ参じました」

 

 女王の命で、学園祭の警護に来ていた王室親衛隊がユリアの下へと駆け込んできた。

 

「残りの十七名は外で警護に回しています」

「そうか……、助力に感謝する」

 

 味方の人数が一気に増えて、状況がこちら側に傾いた。

 

「オランピア」

「は、はい?」

 

 突然、声をかけられたオランピアはエドの方に視線を向ける。

 エドはオランピアの方をじっと見つめて、言葉を続ける。

 

「相手は悪魔だ。お前の()()なら奴らをなんとかできる。やってくれるか?」

「あ……、はい!」

 

 エドの言いたいことを察したオランピアは強く答える。

 エドはそれに頷きオランピアから離れると、彼女は腰に付けた小太刀を抜く。

 

「すぅ~~、はぁ~~」

 

 目を閉じ、その場で深く深呼吸。

 自分の気持ちを落ち着かせ、コンディションを整える。

 最高のパフォーマンスを行うためには必要なことである、とクロスベルのトップスターから教わった。

 

 身体が軽い。さっきまでは重かったはずなのに……

 彼が近くにいるから? 見守ってくれているから?

 いや、それだけじゃない。

 

 ゆっくりと目を開けて、小太刀を持った手を前に持ち上げて手首を振る。

 リンッ、と手首についた鈴が部屋の中に響く。

 そこからゆっくりと足を滑らせる。

 身体全体を波のように緩やかに、されど大きく激しく動かす。

 クロスベルでイリアとマンツーマンで踊りの基礎を教えてもらったオランピアの動きは、太陽の砦の時よりもはるかに進化していた。

 突然、踊り出すオランピアにエドを除いた一同は唖然とするが、その鮮麗された美しき舞に誰もが目を離すことができなかった。

 そして、変化は徐々に起き始める。

 オランピア達を囲っていた四体の悪魔が後ろに引く。

 時々、うめき声のようなものを出すだけで攻める動作をしなかった。

 そして、手下として呼ばれた夢魔は身体を保つことができず、消滅する者もいた。

 

「これは……」

「どうやら、彼女の舞が奴らを弱体化させているようだ」

 

 状況を冷静に分析し、最大の好機を見過ごさないカシウス。

 その時、クローゼは子供達から離れて、皆に近づく。

 

「みなさん」

 

 クローゼは声をかけて、皆が一斉に彼女に顔を向ける。

 

「お願いします。学園の人達を……、そして、大切な人達を守るために……、どうか、みなさんの力を私に貸してください!」

 

 クローゼはオランピアの舞を間近で見て、確かに感じた。

 彼女が何のために、誰のために踊っているのか。

 言葉で伝えなくても、彼女の舞から確かに伝わってきた。

 ならば、自分は自分達を守ろうと立ち上がってくれた彼女を守るために戦おう。

 リベールの王女、クローディアとしてではなく、

 オランピアの友達であるクローゼ・リンツとして。

 大切な友達を、これからも笑い合いたい人達を守るために。

 

『……仰せのままに(イエス)! 殿下(マイロード)!』

 

 クローゼの呼び声に沈黙が走ったが、遊撃士と親衛隊が一斉に声を張り上げる。

 カシウスは即座に全員へと指示を出す。

 

「デカブツは俺とエドがやる。各自、三人一組となって残りの悪魔を撃退。親衛隊は少女と子供達の護衛にまわれ! 彼女が踊りきる前に決着をつけるぞ!」

『応!』

 

 親衛隊はオランピアと子供達を円になって囲い、守りの体勢に入る。

 残ったメンバーは三体の悪魔に方へと向かった。

 

「速攻で終わらせるぞ!」

「あぁ!」

「援護はまかせな!」

 

 長女グライアには、クルツ、グラッツ、カルナが。

 

「ユリアさん! 先輩! お願いします!」

「心得た!」

「さぁ、始めるわよ!」

 

 次女エプロスには、アネラス、ユリア、シェラザードが。

 

「ったく、今日はとんだ厄日だな」

「うだうだ言わないでやるのよ。かわいい後輩のためにね」

「先輩方。よろしくお願いします」

 

 末女タレイアには、レクター、ルーシー、クローゼが。

 

「初の共闘ですが、お願いします。カシウス師兄」

「あぁ、では、始めるとするか」

 

 そして、母親ジグマには、エドとカシウスがついた。

 

「……いくぞっ!」

 

 エドのかけ声に全員が一斉に動いた。

 

 長女の相手をしていた遊撃士三名は、持ち前の連携力で敵を翻弄していた。

 グラッツが先行して悪魔と打ち合い、カルナは周辺の夢魔を蹴散らしながらグラッツの援護をする。

 クルツは自身が持つ方術を用いて、二人のサポートにまわり、何かの準備をしている。

 

 次女の相手をしていたシェラザード達は、即興のチームとは思えないほどのチームワークを披露していた。

 アネラスとユリアは接近してくる夢魔を斬り捨てていき、悪魔と相対する。

 お互いに隙をカバーしつつ、攻めと受けの役目を交互に持ちながら、白銀の身体に傷をつけていく。

 後方にいるシェラザードは二人が戦いやすくするよう、鞭で周辺の夢魔を打っていき、補助アーツを二人にかけるなど援護に徹していた。

 

 三女の相手をしていた生徒会一同もまた、目覚ましい活躍をしていた。

 クローゼとレクターはヒットアンドアウェイを繰り返して、悪魔を少しずつ消耗させる。

 ルーシーは二人にアーツをかけながら、周辺を警戒して近づいてくる夢魔に目を配らせていた。

 

 そして、母親の相手をしていたエドとカシウスは一方的で、圧倒的だった。

 

「緋空斬!」

 

 悪魔が吐き出した糸の槍をエドは炎の斬撃で焼き払う。

 エドはそのまま前進し、壁となって立ちふさがる夢魔を排除しつつ悪魔へと向かう。

 悪魔は再び糸を吐こうと口を開けようとするが、

 

「オリャァアアアアア!」

 

 悪魔の上を跳んでいたカシウスが、脳天に強烈な一撃を与える。

 上から口をふさがれ、糸を吐くことができず、初動が遅れた悪魔にエドは斬りかかる。

 

「螺旋撃!」

 

 回転をいれて威力を高めた一撃は、悪魔の巨体を吹き飛ばす。

 だが、これで終わりではなかった。

 

「とりゃぁ!」

 

 正しく雷光の如く、目にも止まらぬ速度で吹き飛ばされた悪魔に追いつき、速度を乗せた突きを腹に突き刺す。

 

 ドカンッ!!

 

 およそ棒が直撃したとは思えない爆音をならして、悪魔は壁に激突する。

 激突した勢いで壁にひびが割れ、瓦礫となって地面に倒れた悪魔の上へと降り注ぐ。

 エドとカシウスは武器を下ろさずに、瓦礫の山を睨む。

 すると、瓦礫の山が吹きとび、悪魔は再び姿を現した。

 姿が現れた途端、エドとカシウスは再び、悪魔へと向かう。

 

 本来なら、悪魔は二、三人程度で太刀打ちできる相手ではなかった。

 だが、今は手下の夢魔を多く出しているにもかかわらず、エド達が優勢に立っていた。

 

 その原因はフロア中央で舞を踊り続ける一人の少女。

 

 ……リンッ

 

 手首の鈴を時々鳴らしながら、彼女は舞い続ける。

 夢魔は彼女の舞を止めようと襲おうとするが、王室親衛隊の従士が盾となって彼女を守る。

 円陣となって構えるその布陣に夢魔達は攻め込めずにいた。

 

「オランピアさん……、きれい……」

 

 一方で、オランピアと共に円陣の中にいた孤児院の子供達は、間近で披露している彼女の舞に目が釘付けだった。特に、マリィやポーリィといった女の子達は、その神秘的な舞に心を奪われていた。

 

 私が今、こうして踊れるのは彼が来てくれたからだけではない。

 私の過去を知っても受け入れて、支えると言ってくれた初めての()()

 彼女が、そして、みんなが私のことを受け入れてくれた。

 それがうれしくて、胸がこんなにも暖かくなっていく。

 ならば私も、みんなのために、私ができることを精一杯やる。

 それが、今の私がやるべきこと……、私がやりたいことだから!

 

 止まることのない舞に悪魔達の動きが最初の頃よりもはるかに落ちていった。

 手下である夢魔達はすでに全滅し、彼女らを守る者がいなくなった。

 

「いまだ!」

「カルナ! 左は任せた!」

「あいよ!」

 

 クルツの合図にグラッツとカルナが長女グライアの左右を取る。

 右に行くグラッツは大剣を振り続け、左に行ったカルナは銃を乱射して、グライアの足を狙う。

 自分を支える八本の足が一気にやられ、立つことができずにその場から動けないグライア。

 

「覚悟!」

 

 好機と見たクルツは高く跳び上がり、悪魔の真上に向かう。

 そのまま落下すると同時に、槍を悪魔に深く突き刺す。

 すると、槍を刺したままクルツは後ろへと跳んで悪魔と距離を取る。

 そして、着地したクルツは手を結び、準備した方術を解き放つ。

 

「来たれ、雷神! 空と海の狭間より!」

 

 手を前にかざすと悪魔の頭上から極大の雷が落ちてきた。

 逃げることができない悪魔は雷を食らい、悲鳴を上げることなく消滅した。

 

 

 

 

「ハァアアアアアアア!!」

 

 一方で、ユリアは高速の突きを放ち、次女エプロスの身体に穴を作り続ける。

 最後に渾身の一撃を放ち、エプロスを吹き飛ばす。

 

「逃がさないわよ!」

 

 吹き飛ばされたエプロスの足に鞭を絡ませるシェラザード。

 補助アーツで力を強化したシェラザードはエプロスを空へと投げ飛ばす。

 

「アネラス!」

「はい!」

 

 シェラザードの合図にアネラスは跳び、エプロスの前にたどり着く。

 

「落葉!」

 

 エプロスを地面に叩き落としたアネラスは、そのままエプロスに向かって落ちていく。

 

「八葉の一刀! 見せてあげる!」

 

 空中でアネラスは意識を集中して、己の気を高める。

 アネラスを纏うかのように白き闘気が生まれ、それを刃に乗せて、立ち上がろうとするエプロスへと放つ。

 

「光破斬!」

 

 光の刃を二回放ち、十字となった斬撃はエプロスに直撃した。

 白銀の巨体は斬撃に耐えようとしたが、抵抗虚しく斬り裂かれ、その巨体を四つにされた。

 

 

 

 

「先輩!」

 

 クローゼはレクターに自身の細剣を投げる。

 末女タレイアと打ち合っていたレクターは距離を取って、細剣を受け取る。

 

「二刀流は初めてなんだが……やってやるか!」

 

 レクターは再び、前に飛び込む。

 手数が二倍になったレクターの斬撃にタレイアは傷を増やす。

 隙を作ったレクターは足を切り落とし、後ろへ跳ぶと同時に細剣の一本をタレイアに投げる。

 力を強化されたことでタレイアは細剣に刺されて、地面に縫い付けられる。

 

「やれ!」

「クローゼ、いくわよ!」

「はい!」

 

 少し離れた場所にいたクローゼとルーシーは同時にアーツを解き放つ。

 

「ダイヤモンドダスト!」

「エアロストーム!」

 

 同時に放たれたことで生じた氷嵐がタレイアを飲み込む。

 

「先輩!」

「決めなさい、レクター!」

 

 氷嵐によって、氷漬けなっていくタレイアに最後の一撃を放つ。

 

「さてと、お遊びはここまでだ」

 

 細剣が赤く染まり、そのまま氷の嵐の中に飛び込む。

 

「ナイツ・オブ・ルフルム!」

 

 タレイアを斬り裂くと同時に、タレイアは赤と青の結晶に覆われる。

 赤い小さな陣を手に付け、それを結晶に向ける。

 すると、結晶はタレイアと一緒に爆散した。

 

 

 

 

 三姉妹の悪魔が消えたことを感じた母親ジグマは危機を感じるが、目の前に迫る自分以上の二人の怪物に逃げることができずにいた。

 

「これで決めるぞ!」

「あぁ!」

 

 カシウスがエドより前に飛び出す。

 

「オォオオオオオオ!」

 

 カシウスはその身に炎を纏い始める。下手をすれば、自分を燃やしつくしてしまうほどの激しい炎だ。

 

「トォリャァ!」

 

 カシウスは身体を激しく回転しながら高く跳び上がる。

 カシウスが修めた、八葉一刀流は一の型。「螺旋」

 全ての武術の基本となり、応用になる技。

 それを極め、「理」に至った、元《剣聖》が放つ技。

 その名は――、

 

「奥義・鳳凰烈波!!」

 

 纏った炎が伝説の炎の鳥へと姿を変え、ジグマを喰らう。

 

「こいつで決める」

 

――八葉一刀流 肆の型

 

 

 

「二の太刀」

 

 炎に包まれて姿が見ることができなかったが、《魔眼》はもだえ苦しむジグマの姿を捉える。

 居合の構えをとって一切の防御を捨てたエドは、ただ一直線に突っ込む。

 

 一閃。

 

 ジグマをすれ違い様に斬る。

 速度を殺さず、空中で身体を捻る。

 壁に足をつけ、再び突っ込む。

 

 二閃。

 

 反対側の壁に足をつける。

 

 三閃。

 

 地面に。

 

 四、五、六、……

 

 一閃打つたびに速度が上がり、その姿を捉えることができない。

 ジグマは斬られるたびに、身体がもっていかれて体勢を崩す。

 やがて、ジグマの真上にある天井に姿を現す。

 速度を殺しきれず、天井が陥没する。

 エドは腰を低くし、足をばねにして最後の一撃を放つ。

 

「雷切!!」

 

 雷さえも斬り裂いてしまいそうな神速の抜刀が、ジグマの身体を二つに斬り裂いたのだった。




 誤字・脱字の報告いつもありがとうございます!
 感想・評価の方もお待ちしております!
 次回もお楽しみください!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。