英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 お待たせしました。
 それでは、ご覧ください。

 ……やりすぎちゃったかな?


第三十七話 《光の剣匠》

「でっか……」

 

 それを見上げてエドは呆れたように感想を述べていた。

 隣で同じく見上げているオランピアも口を開けて、目の前にそびえ立つ建物に言葉を失う。

 エド達はアルゼイド子爵家の執事クラウスの案内で、領主が住むアルゼイド邸へと足を運んでいた。

 道中、レグラムの街を見物し、クロスベルやリベールとは違う、少し古風な雰囲気を感じさせる街並みに二人は興味津々だった。

 特に、オランピアが目を引いたのは湖の近くで建てられていた石像だった。

 クラウスの許可をもらって、石像に近づいたオランピアはそれを食いつくようにその石像を見上げていた。

 石像は甲冑を着た騎士のような人物が三人おり、二人の騎士が一人の騎士に忠誠を誓っているかのように膝をついて頭を下げていた。そして、真ん中で堂々と立つ騎士は、リベールでクルツが使っていたような細い槍ではなく、馬上で使われる大きめの槍、馬上槍(ランス)を持った長髪の女性の騎士だった。

 エドの話に出てきた《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットの石像なのだろう。

 外見や佇まいだけでも伝わる聖女の高潔さにオランピアはただ黙って見つめることしかできなかった。

 石像の見物を終えた一行は、その場を離れて高台に続く階段を登っていた。

 途中、けたたましい覇気が募った大声が中から聞こえてくる大きな建物や、反対側に静かに建っている教会を通り過ぎて、エド達は高台の頂上にあるアルゼイド邸へとたどり着いた。

 

 エドとオランピアはクロスベルやリベールなど、多くの国を渡り歩いて、数多くの建物をその目にしてきた。当然、目の前にあるアルゼイド邸よりも大きな建物は多くあったが、そういったものは大抵、学校やら教会といった公共の施設が主だった。

 二人は一個人の家でここまで大きな家を見るのは初めてだったのだ。

 一方で、エドと一緒についてくるガイドのクレアは特に驚いた表情は見せなかった。

 

「これ以上に大きい家を見たことがありますので」

 

 というのが彼女の言い分だった。

 いったい、こんなに大きく建てて何の意味があるのだ、とエドはわりとどうでもいいことを考えていた。

 

 先頭で案内するクラウスについて行き、アルゼイド邸に入るエド達。

 中は公共の施設にも負けない、豪華な装飾品や見かけられ、目が眩しくなりそうだった。

 そのまま、クラウスは邸内を移動し、ある一室の前に止まる。

 クラウスはエド達に待つように声をかけた後、ドアの前に立ってノックする。

 

 ……コン、コン

 

「旦那様、エドワード様達をお連れしました」

「入るがよい」

 

 ドアの先から聞こえる落ち着いた男性の声に従い、エド達はクラウスに続いて部屋に入る。

 

「待っていたぞ」

 

 そこにいたのは、クラウスと同じく、上品な服を着た中年の男性だった。

 薄緑の長めのスカーフのようなものを首にたらし、青いコートを着こなした男性。

 顎にひげを生やしており、リベールで出会ったカシウスと似た渋さを感じさせる。

 

「レグラムの領主、ヴィクター・S・アルゼイドという。ようこそ、湖畔の街レグラムへ」

 

 目の前に立ってこちらを見てくる、アルゼイド子爵家の現当主。彼から伝わってくる目力にオランピアとクレアは、少し緊張してしまう。

 

「オーバ・スヴェルトの孫にして、八葉一刀流が奥伝、エドワード・スヴェルトです。かの《光の剣匠》とこうして相見えたことをうれしく思います」

 

 《光の剣匠》とはヴィクターが持つ二つ名。

 エレボニア帝国で最も有名な二大剣術の一つ、アルゼイド流。

 その筆頭伝承者である彼の実力は帝国の五本指に入るほどのものであり、まさに帝国最強の剣士の一人であったのだ。

 

「かの《爆拳》のオーバ殿の孫に会えたことは私もうれしく思う」

 

 《爆拳》とはエドの祖父であるオーバの異名。

 彼が放つ拳は鉄をも砕き、まるで爆発するかのようにその拳で敵を粉砕する姿からそう呼ばれるようになったそうだ。

 

「それでそちらのお嬢さん方は?」

「え、は、はい! オランピア・エルピスといいます!」

 

 突然、自分に振られて慌てるオランピアは少し上擦った声で挨拶する。

 

「鉄道憲兵隊所属のクレア・リーヴェルト少尉であります。このたびは宰相閣下の命で、お二人のガイドとして同行しています」

 

 一方、クレアはヴィクターに敬礼をして身分と同行理由を明かす。

 

「ヴィクター卿。早速で申し訳ないのが、一つ質問してもよろしいですか?」

「ふむ、なにかね?」

「どうして、俺達が来ることを知っていたんですか?」

 

 エドの質問にオランピアとクレアも同じ意見だった。

 クラウスを駅に待機させたことから、エド達が今日、レグラムに訪れることを知っていたのだろう。

 だが、当然、エド達はそのことを彼らには伝えてなどいない。

 どうやって自分達が来ることを知っていたのか、エドはヴィクターに問いかけるのであった。

 

「それに関してはそなたの師であるユン殿からの手紙で知ったのだ」

「ユン老師から?」

 

 意外な人物の名前が出てきて、エドは思わずヴィクターに聞き返してしまう。

 

「うむ。ユン殿とは剣を交えたこともある仲でな。時々、手紙のやりとりをしている。三日前に来た手紙には、そなたがリベールにいることやレグラムに訪れることなど、まるでその場を見ていたかのようにそなたの事情についてかなり詳しく書かれていたのだ」

 

 ヴィクターの口から語られる衝撃の真実に、エドは頭を抱えてしまう。

 近況報告などしていないのに、なんで自分の行動を知っているんだと疑問を持つのと同時に、あの人ならわかっていそうだな、とどこか納得してしまう気持ちもあった。

 

「事情については大体のことは伺っている。ユン殿の弟子であるそなたを心から歓迎する……と言いたいところだが、そういうわけにもいかない」

 

 ヴィクターの目は鋭くなり、見定めるようにエドを視界にとらえる。

 

「指名手配として追われているそなたが我が領民に危害を加える可能性が少しでもある以上、レグラムの領主としてこのまま、そなたを野放しにすることはできない」

「……では、なにをすればあなたは認めてくれますか?」

 

 ヴィクターの言い分にエドは特に反論するつもりはなかった。

 彼の言っていることは正しく、一個人の判断で犯罪者を匿うような行動ができるほど、彼が居座っている立場は決して軽くはない。

 だから、彼は自分の目で信用に値するのか、否か、見極めようとしているのだ。

 エドの問いにヴィクターは口角を上げて、その問いに答える。

 

「幸いにも、我々は同じ剣士。剣士ならば、言葉以外にも心を通じ合わせる術はある」

 

 すると、その答えにエドは腰についた剣が収まった鞘に手を付けて、黙って見せつける。

 

 

 

 

 剣士ならば、剣で語り合え。

 

 

 

 答えは、至ってシンプルなものだった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 アルゼイド流の本家でもあるアルゼイド邸には、当然アルゼイド流の練武場はある。

 教会のとなりでけたたましい声が聞こえた大きい施設がまさにそれだ。

 今、その練武場はエド達が通った時に聞こえた張り上げるような大声はなく、静まり返っていた。

 アルゼイド流の門弟達は練武場の隅で正座し、中央に立つ人物達に視線を集中する。

 一人は、《爆拳》の孫にして八葉一刀流の剣聖、《黒金の剣聖》エドワード・スヴェルト

 もう一人は、レグラムの領主にしてアルゼイド流の筆頭伝承者、《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイド。

 双方が練武場の中央で向かい合い、静かに、だけど激しく互いに剣気をぶつけ合っていた。

 

「え、エドさん……」

 

 門弟達と共にエド達の試合を見物するオランピアは両手を組んで、心配そうにエドを見つめていた。

 その後ろにいるクレアは息を飲みながらも、これから始まる戦いに目が離せずにいた。

 

「父上、頑張ってください!」

 

 そして、彼女の隣には青い髪を後ろで結んだヴィクターの娘、ラウラ・S・アルゼイドが父を応援する。

 

「クラウス」

「はっ」

 

 ヴィクターに呼ばれたクラウスは大きなトランクを両手に持って、器用にトランクを開ける。

 トランクの中には、かなり精巧に作られた大剣が収まっており、ヴィクターはそれに手をかける。

 

 ブンッ!

 

 大剣を振るう際、鈍く大きな音が練武場内に響く。

 本来なら両手で持たなければ振るえない大剣をヴィクターは片手で持っていた。

 

「あれはまさか……!」

「《鉄騎隊》の副長であった祖先が使われたとされる宝剣《ガランシャール》!」

「まさか、この目で見る機会が来るとは……!」

 

 辺りで静観を貫いていた門弟達は、ヴィクターが持つ大剣を見てどよめく。

 話を聞いた感じ、おそらくアルゼイド子爵家が先祖から代々受け継いだ大剣なのだろう。

 

「それでは始めるとしよう。八葉の剣聖……、その実力を見せてもらうぞ」

「えぇ……、こちらも一切、手加減はしません。……本気で取りにいきます」

 

 戦う前から《魔眼》を解放するエド。言葉通り、最初から全力で挑むつもりだ。

 

「意気や良し。クラウス、頼む」

「は。それでは双方、構え」

 

 クラウスの合図に二人は一斉に構える。

 

 エドは剣を抜かず、その場で腰を低くして剣に手を添える。通常の剣速よりも速く放つことができる、抜刀の構えだ。

 

 対する、ヴィクターは剣を両手で持って剣気を込める。すると、剣から光の刀身が現れ、その身を徐々に大きくする。

 

「八葉一刀流、肆の型奥伝、エドワード・スヴェルト、参ります」

「アルゼイド流筆頭伝承者、ヴィクター・S・アルゼイド、参る」

 

 名乗りを上げた瞬間、二人から炎のように燃え上がる剣気があふれる。

 練武場が軽く揺れ、遠くで見物していた門弟達は冷や汗が止まらなかった。

 

「……始め!」

 

 クラウスの合図にあふれていた剣気が一気に跳ね上がった。

 あまりにも突然の衝撃に周りの者は身体を揺らし、中には気を失う者もいた。

 しかし、エドとヴィクターはその場から一歩も動かず、お互いに目を合わせていた。

 開始からすでに一分。

 双方はまだ動かない。

 

「え、えっと、どうして動かないんでしょうか?」

「う、うむ。どうしたのだ、父上」

「動かないのではなく、動けないのです」

 

 オランピアとラウラは心配そうに呟く。すると、後ろから先程、立ち合いをしていたクラウスがいつの間にか移動していた。

 

「今、お二人は先の読みあいをしているのです。どのように動けば良いのか、どのように振ればよいのかと相手を確実に倒すための行動をイメージしているのです。そして、それが剣気となって相手に伝わり、その行動に対して反撃するイメージが剣気となって返ってくる。それを何度も繰り返して、相手よりも早く先手を取ろうと頭の中で戦っておるのです」

 

 向き合う二人は無言のまま、ただ互いの目を見合う。

 その目から伝わってくる相手のイメージに反応し、お互いに譲れないせめぎ合いを繰り返す。

 まだ、動いてもいないにもかかわらず、二人の額からはうっすらと汗が流れていた。

 

「決して、目を逸らさぬように。おそらく、この勝負は一撃で終わります」

 

 互いの剣気が激しくぶつかり合い、辺り一帯の揺れが徐々に大きくなっていく。

 門弟達は手を地面につけたり、互いに肩を組んだりと、その揺れに耐えながらも二人の姿を視界にいれようとする。

 

 二人の汗がつー、と頬をつたっていく。

 顎にたどり着いた汗は、そのまま地面へと落ちていった。

 

 

 

 

 そして、水滴が地面ではじいた。

 

「「っ!」」

 

 両者は同時に足を蹴り、剣を相手へと振るう。

 相手との最短距離を通った高速の斬撃。

 両者の剣が徐々に近づいていく。

 

 そして――、

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 レグラム駅でエド達と邂逅をはたした、ミハイルは自分のデスクに席を着いて、本日の自分の仕事に没頭していた。

 責任者という立場ゆえに、他の憲兵隊員よりも仕事が多いミハイルだが、持ち前の性格で仕事のペース配分を管理していたから、特に苦もなく順調に仕事をこなしていた。

 現在も黙々と資料とにらめっこをしており、いつも通りに他の者よりも早いペースで仕事に取り組んでいた。

 

「……いかんな」

 

 と思っていたのだが、どこか上の空になっていた彼は資料をデスクに置いて席を離れた。

 休憩室へと向かったミハイルはコーヒーを手に取り、軽く一服する。

 だが、彼の顔はいまだ険しく、気分は落ち着かなかった。

 

「まさか、こんなにも早く会うとはな……」

 

 一人しかいない休憩室の中でミハイルはぼそっと呟く。

 ミハイルは待合室でエド達と行動していた後輩、クレア・リーヴェルトの姿を思い浮かんだ。

 

 そう、何を隠そうとこの二人は互いの父が兄弟という、いわば従兄妹(いとこ)関係だったのだ。

 小さい頃は、互いの年下の妹と弟と一緒に遊んで暮らし、毎日笑顔が絶えない日々が続いていた。

 大人になっても自分達の仲は決して変わらないと、あの時は本気で強く思っていた。

 だが、それは彼女の弟と両親の死で全てが壊れた。

 彼女から家族を奪った者。そして、奪われた彼女の行動に自分が送った言葉。

 それが原因で二人の関係は、もはや修復できないほどの溝ができてしまっていた。

 

「そんなもの、いまさらか……」

 

 本当なら今すぐにでも謝罪をしたい。だが、今の自分達は軍人。任務遂行中に一個人の私情をはさむことなど許されない。

 

「とりあえず、今はやれることしよう」

 

 宰相からエド達のサポートを命じられたミハイルは、気持ちを切り替えてコーヒーを飲み干して仕事に戻る。

 指名手配犯を庇うなど、下手すれば国際問題になりかねないが、上の命令は絶対だ。

 それに、この命令は彼のガイドをしている従妹のサポートにもつながる。

 直接謝罪することができなくても、せめて、こんな形だけでも支えてあげたい。

 それがミハイルの本心だった。

 

「……ん?」

 

 物思いにふけていたミハイルは、自身のデスクを見て、違和感に気づく。

 ずれなく綺麗に重なっていた資料の束が、横にずれており、今にも倒れそうになっていた。

 席を離れる時には整えられていたはずなのに、と疑問を持ったその時、

 

「なんだ? この揺れは?」

 

 駅全体を広がる小さな揺れにミハイルは眉を顰める。

 その揺れは徐々に大きくなっていき、辺りの物品がガタガタと音を鳴らす。

 そして――、

 

 

 

 

 ドォォオオオオオオオオオオオンンンンッッ!!

 

 

「ぬぅわぁあああああああ!!」

 

 突然、襲ってきた激震にミハイルは体勢を崩し、上半身がデスクの上に倒れこむ。

 倒れこんだ衝撃で、重なっていた紙の束が崩れ去り、ミハイルの頭に降り注ぐ。

 やがて、揺れが収まっていき、辺りは一気に静まり返った。

 

「ミハイル中尉!」

 

 すると、ミハイルのもとに彼と同じ憲兵隊の軍服を来た男性が入ってきた。

 

「だ、大丈夫ですか! 中尉!」

 

 紙の山に埋もれたミハイルの姿に啞然とするが、すぐに駆け寄って紙をどける。

 デスクの上に身体を預けていたミハイルはゆっくりと上半身を持ち上げる。

 だが、頭は下を向いており、その顔色を窺うことができない。

 

「ちゅ、中尉?」

 

 返事がまったくこないミハイルに男性はおそるおそる彼を呼び続ける。

 

「……おのれっ、忠告早々、なにをやらかしたのだ! あの男はっ!!」

 

 顔を上げた彼の顔は、東方でいうところの般若のような恐ろしい顔つきになっていた。

 ここに勤務してから、今回のような事態はいままでなかった。

 なら、なぜ今回は起こった? 今までと今回でなにが違う?

 決まっている。ここには、今までにはいなかった人物が一人いる。

 問題を起こすな、と遠回しに言ったつもりがこのザマだ。

 

「外に出る! お前達は指示があるまで待機しろ!」

「ちゅ、中尉?!」

 

 急発進の如く動き出すミハイルに男性軍人は、ただその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 ところ変わって、練武場では――、

 

『…………………………』

 

 激震が収まり、全員が中央に視線を集めて愕然としていた。

 それは目の前に映っている光景があまりに信じられず、簡単に受け入れられるものではなかったからだ。

 中央にはエドとヴィクターは背中を合わせるような形で移動しており、お互いに前かがみの状態で止まっていた。

 

「……見事だ。そなたの八葉、どうやら私が思っていた以上のものだったようだ」

「……よく言いますよ。俺の一撃をあんな風に逸らすなんて」

 

 両者は向き合って称賛し合っていた。

 一方で、その様子を見ていた者達は彼らを見た後、ゆっくりと顔を上に上げて、その頬を引きつらせていた。

 

「……なんと、いう……」

 

 ラウラも二人を見た後、上に広がっている()()を見上げたまま上手く言葉を出せずにいた。

 隣にいるオランピアも口を大きく開いたまま固まり、()を眺めていた。

 

 エドとヴィクターの刃はぶつかり合った瞬間、衝撃による余波が周囲へと拡散した。

 拡散された斬撃は練武場の壁を一周するように斬り裂いて、練武場の天井部分が横へと傾いた。

 拮抗状態で鍔迫り合いをしていたエドとヴィクターの軍配はエドの方に傾いた。

 ヴィクターの剣を覆っていた剣気を少しずつ切り込んでいき、そのまま剣を斬ろうとしていた。

 だが、ヴィクターは咄嗟に手首を器用に動かすことで、剣を上へと弾く。

 上へと弾かれた二人の剣気は練武場に乗っかっていた天井を湖の方へと吹き飛ばしたのだ。

 

 周辺は死屍累々のように倒れた門弟達がちらほら見られ、ほんの数秒前まで綺麗だった練武場は壁にひびがついておりボロボロの状態だった。

 

「……やっちまったな」

「……うむ」

 

 さすがにやりすぎたと思ったのか、気まずそうに辺りを見渡す二人。

 どうしたものかと考えようとしたその時――、

 

 バンッ!

 

「いったい、なにがあった?!」

 

 突如、入り口から一人の男が慌てて入ってきた。

 白いコートを纏った金髪の若い男性。

 その正体に真っ先に反応したのはヴィクターだった。

 

「トヴァル殿。少し騒がせてしまったな」

「少しって……、これが少しっすか?」

 

 顔を引きつらせて周りを見ながらヴィクターに問いかける、トヴァルと呼ばれた男性。

 これを少しというには無理がありすぎると、おそらくここにいる全員が思っていることだろう。

 

「あなたが、トヴァル・ランドナーさんか?」

 

 すると、エドはトヴァルに近づいて、彼の()()()()()を呼んだ。

  

「あ、あぁ。そうだが、おたく、どっかで知り合ったか?」

「いいえ。これが初対面です。ですが、あなたに会うためにここに来ました」

 

 エドは懐からある一冊の本をトヴァルに見せる。

 それはエドの探し人の手がかりとして、リベールの遊撃士達に見せた小説「カーネリア」だった。

 

「トビーさん。カーネリアのアイン師匠に言伝をお願いしたくて来ました」




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