英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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第四話 《棘》のメルキオル

 崖の上から二人を見ていたミント髪の男――メルキオルは、崖から砂浜へと降り立った。

 

「《皇帝(エンペラー)》から大体の話は聞いていたけど、実際に見るとこんなに違うんだ」

 

 メルキオルは下から上へと視線を動かし、舐めまわすようにオランピアを観察していた。

 

「メルキオル……」

 

 オランピアは自分に向けられている視線に悪寒を感じ、後ろに下がった。

 

「やぁ、()()()()()というべきかな、オランピア」

 

 メルキオルはこの状況を楽しんでいるかのように満面の笑みを浮かべていた。

 

「それにしても、あの《古代遺物》を壊しちゃうんなんてねえ……」

 

 メルキオルは視線をエドの方に移した。

 

「君がやったのかな?」

「……何者だ」

 

 エドは突如、現れた謎の男を睨み、警戒を露わにしていた。

 

「僕? 別に名乗るほどじゃないよ」

 

 それに、とメルキオルは言葉を続け、

 

「これから消えちゃう奴に名乗ったって仕方がないでしょ」

 

 目を細めながらエドを見つめた。薄い赤色に染まっている目から伝わってくる殺気は、エドの肌にチクッと刺激する。本気なのだと感じたエドは、いつでも剣を抜けるように手に力を込める。

 

「ククク……そう焦らないでよ。ちゃんと後で、相手してあげるから」

 

 エドの反応に面白がったメルキオルは再びオランピアの方に視線を移す。

 

「今は、こっちの方が優先だから」

 

 そう言ったメルキオルは懐から異様な形をした大型のナイフを取り出した。

 そのナイフは刀身から持ち手まで、まるで血でも塗ったかのように真っ赤に染まっていた。

 

「オランピア、今の君を見ても分かるけど、依頼に失敗しちゃったみたいだね」

「あ、あああ……」

 

 オランピアはメルキオルがこの場に来た理由を察し、顔を青ざめ膝から崩れ落ちた。

 

「僕達の方針は幹部だったんだから当然知っているよね」

 

 メルキオルはゆっくりと足を進め、

 

「失敗したものは死あるのみ」

 

 最後には狂気に満ちた自身の瞳をオランピアを向けて、ニッコリと笑った。

 

「バイバイ♪ オランピア♪」

 

 次の瞬間、砂塵をまき散らしてオランピアに飛びこんだ。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 オランピアは目の前から来る圧倒的な『死』のプレッシャーをくらい悲鳴を上げた。

 膝から崩れ落ちたせいで、その場から動くことができない。

 ただ目をつむり、その時を待つことしかできなかった。

 そして――、

 

 ドンッ!!

 

「…………」

 

 いつまで経ってもこない痛みにオランピアは不思議に思いながら、おそるおそる瞼を上げた。

 オランピアが最初に目に入ったのは、足を前に上げた状態で立っているエドだった。

 なぜ、彼が前にいる? メルキオルはどこに?

 オランピアは何が起きたか分からず、周囲に視線を移す。すると、エドの前で仰向けに倒れているメルキオルをすぐに発見した。

 一方で、メルキオルも一瞬、何が起きたか分からず、倒れたまま思考が止まっていた。

 

「……何のつもり?」

 

 やがて、思考を取り戻したメルキオルは、自分は蹴られたのだと把握する。上体をゆっくりと起き上げて自分を蹴った目の前の男を睨んだ。その声からは若干の苛立ちが伝わってくる。

 

「後で相手するって言ったんだけど、邪魔しないでくれるかな?」

 

 最初にぶつけられたのよりも強い殺気に、エドは特に顔色を変えることはなかった。

 

「あいにくと、この子を死なせるわけにはいかないんでな」

「おかしなことを言うね。イシュタンティは君が壊したんでしょ。それって君はその子と殺し合ったんじゃないの? 自分を殺そうとした奴を助けるのかい?」

 

 その通りだ、とオランピアは涙を浮かべながらもメルキオルと同じ意見だった。

 感情がなかったとはいえ命を奪おうとしたのは、間違いなく自分の意思。にもかかわらず、自分を守ってくれるエドの行動にオランピアは理解できずにいた。

 

「関係ないな」

 

 エドは愚問だと言わんばかりに二人が考えていることを否定する。

 

「さっき、この子に助けてやるって言ったばかりでな。言ってそうそう見捨てるほど落ちぶれちゃいねえ」

 

 エドは一度言葉を切り、後ろにいる少女を見据える。

 涙ながらに不安そうな目で自分を見つめてくるオランピア。

 エドはオランピアに軽く笑って、再びメルキオルと向き合った。

 

「それに、これから始まるんだ。この子が歩む道はな!」

 

 感情を取り戻し、一人の人間として戻った彼女の道はこれから始まるんだ。辛いことがあるかもしれない。苦しいと思う時がくるかもしれない。

 だが、それだけが全てじゃない。

 これから生きる世界でたくさんのものに触れて、感じて一つずつ大切だと思えるものを増やせばいい。そうすれば生きることが楽しいと、うれしいと思う日がきっと来る。

 エドは鋭い眼光でメルキオルを射抜き、剣を抜いた。オランピアはエドの背中をじっと見つめていた。

 

「ふ~ん、そう」

 

 対するメルキオルは白けた面でエドを見ていた。その後、軽くため息を吐き、

 

「しょうがないなあ。まずは君から()ろうか」

 

 突然、ナイフを持っていない方の手を上げた。

 

「っ! 下です!」

 

 オランピアはメルキオルの行動の意図を瞬時に理解して、声を上げた。

 エドはすぐに視線を下に向けた。

 そこには、手のひらサイズの鉄球が砂浜に散らばっていた。

 

「ちっ!」

「バイバ~イ♪」

 

 エドが行動を起こす前にメルキオルは指を鳴らした。すると――、

 

 ドオォォォォォォォォン!!

 

 鉄球は連鎖して爆発し、周辺に砂塵を巻き上げた。

 

「アッハッハッハッハッハッハ!」

 

 メルキオルは目の前の光景に笑いあげていた。

 

「いや~、かっこいいセリフを言った後、即・退場! あっけない最後だったねえ」

 

 メルキオルは始末したエドを嘲笑った。

 

「残念だったね~オランピア。頼りにしていたナイト様が弱くて」

「あ、ああ……」

 

 オランピアは先程までエドがいた場所を見ていた。

 砂塵が視界を覆って、エドを見つけることができない。

 あれだけ至近距離から爆発に巻き込まれたら彼はもう……。

 

「それじゃあ、とっとと終わらせ……」

 

 ようか、と言い切ろうとしたその時、砂塵の中から緋色の炎がメルキオルに向かって飛んできた。

 メルキオルは目を見開きながらも、咄嗟に横に転がりこんで、炎を躱した。

 起き上がり、炎が飛んできた砂塵の中へとメルキオルは目を向けようとした。

 

「がっ!」

 

 すると、メルキオルの頭に強い衝撃が走った。

 砂塵の中から飛び出して、メルキオルの顔を殴ったエドはそのまま腰を捻り、メルキオルを吹っ飛ばした。

 メルキオルはごろごろと砂浜を転がっていった。

 オランピアはエドが無事だったことにほっと息を吐いた。

 エドは服や皮膚に軽いやけどをおいながらも警戒を緩めず、数リジュ先にいるメルキオルを凝視していた。

 

「っつつ……、やってくれるじゃないか……!」

 

 メルキオルはエドを睨んでいたが、言葉とは裏腹にその顔は笑っていた。

 

「お前……、今の爆弾」

「へえ、気づいちゃったんだ。そう今の爆弾は《古代遺物》だよ。そして……」

 

 メルキオルはナイフを持った腕を上げ、

 

「このナイフもねっ!」

 

 振り払った瞬間、ナイフから真紅の斬撃が放たれた。

 エドは横に跳んで躱すが、メルキオルはナイフから次々と斬撃を放ち続ける。

 休むことなく続く刃の嵐にエドは近づくことができないでいた。

 砂浜には抉れた跡や、強く蹴った跡が徐々に増えていく。

 エドは躱し続け、再び前から迫りくる斬撃を躱そうと動こうとするが、

 

「後ろ! 躱していいのかな?」

 

 突如、メルキオルから声がかかった。

 エドの後ろにはオランピアが立っていた。

 エドはオランピアを視認し、後ろへ跳びだ。

 

「わるいなっ!」

「きゃっ!」

 

 すると、オランピアの隣に立ち、彼女の腰に腕をまわして、そのまま持ち上げた。

 オランピアを抱えたまま、上へと高く跳んだ。

 放たれた斬撃は空を切った。

 

「空中だと逃げられないよ!」

 

 メルキオルは跳んだエドとオランピアに向けて再び斬撃を放った。

 エドは斬撃の先にいるメルキオルを見据え、剣を振るう。

 

 

――八葉一刀流 (ろく)の型

 

 

緋空斬(ひくうざん)!」

 

 エドから放たれた緋色の炎を纏った斬撃は、真紅の斬撃を飲み込んだ。

 

「おっと」

 

 メルキオルは迫ってくる斬撃をギリギリ躱した。

 その間に、エドは砂浜に着地して、オランピアを下ろした。

 

「あ、ありがとうございます」

「岩陰に隠れていろ」

 

 オランピアはエドに従い、岩の後ろへと避難する。

 

「やるねえ。オランピアを退けただけはあるよ」

 

 メルキオルはそうつぶやきながら、その笑みを崩さなかった。どうやらこの状況を楽しんでいるようだった。

 

「次はこっちからいくぞ!」

 

 エドはそう言った瞬間、地面を蹴り上げ、メルキオルに接近する。

 メルキオルは迎え撃つべくナイフを前に構える。

 剣とナイフが衝突し、火花を散らした。

 メルキオルは即座にナイフを横に逸らして、素早く懐に入る。

 突き出してきたナイフをエドは後退して躱す。

 

「逃がさないよ」

 

 すぐに間合いを詰め、追撃をくらわす。

 エドはそれを剣で弾き、近づいてきたメルキオルに刃を放つ。

 

「おっと!」

 

 メルキオルは上半身を後ろに曲げ、刃はメルキオルの頭上を通り抜く。

 メルキオルはそのままバク転して間合いを取り、再びエドの懐に。

 ぶつかり合う剣戟。空を切る鋭い音。砂浜を蹴り上げる鈍い音。

 メルキオルは、軽快な動きで躱し続け、隙あらばナイフを突く。

 対するエドは、ナイフを剣で受け止めては弾いて、隙を作って刃を振るう。

 二人の戦いは苛烈さを増していき、そこからけたたましい音が強く鳴り響く。

 そして、戦況が徐々に傾いていった。

 

「はっ!」

「ぐっ!」

 

 エドの剣をメルキオルはナイフを両手で持ち、受け止めた。

 エドがメルキオルを押していた。

 単純な速度での勝負ならメルキオルに分があった。

 だが、エドの剣術はメルキオルの攻撃をすべて防いでいた。

 エドはメルキオルの動きに目が慣れていき、そこから徐々にメルキオルを追い詰めていった。 

 メルキオルはエドの実力に内心驚きながら、徐々に焦り出した。

 

「ぐふっ!」

 

 すると、メルキオルの腹に強い衝撃がきた。ガラ空きだったメルキオルの胴体にエドが膝蹴りをしたのだ。

 メルキオルはまたもや吹き飛ばされ、砂浜を転んだ。

 エドはその様子を見て、眉をひそめた。

 

(……少し吹っ飛びすぎじゃねえか?)

 

 衝撃を和らげるために後ろに跳んだのならわかる。だが、自身の攻撃に手ごたえを感じていたエドは、回避に失敗していることを確信していた。

 

「クロックアップ!」

 

 すると、メルキオルの頭上に黄金の時計盤が現れ、時計の針と時計盤の周囲にある四つの円盤が徐々に加速して回り続ける。

 

導力魔法(オーバル・アーツ)か!」

 

 エドはメルキオルが跳んだ理由を理解し、警戒を強めた。

 導力魔法。通称、アーツ。

 ゼムリア大陸で主に使われるエネルギー源、導力を使う機械。通称、導力器の中でも、戦闘に特化した、戦術オーブメントと呼ばれるものは、導力を使い魔法を発動することができる。

 発動するのに時間はかかるが、発動時間が長いほどより強力なアーツを放つことができる。

 そして、メルキオルが発動したアーツは加速魔法。

 

「それじゃあ、今度はこっちからいくよ!」

 

 そういった瞬間、メルキオルは数リジュ離れていたエドの正面まで一足で詰め寄り、ナイフを顔面めがけてに突き刺す。

 エドは後ろに下がりながら首を動かす。だが、反応が少し遅れたのか、エドの頬に赤い線ができた。

 

「ほら、ほら! どんどんいくよ!」

 

 音を置き去りにした高速の突きに、エドは防ぎながら後退していく。

 メルキオルの猛攻に対処していたエドだが、加速したメルキオルの動きに付いていけず、徐々に傷を増やしていく。

 そして――、

 

「ぐっ!」

 

 エドの足が止まった。

 後ろには岩壁があり、後退することができなくなったのだ。

 

「アハッ! これで終わりッ!」

 

 メルキオルは追い詰められたエドに止めを刺す。

 狙うは頭。それで確実に息の根は止まる。

 メルキオルのナイフはエドの頭へと一直線に進む。

 だが――、

 

 ガシッ!

 

「なっ!」

 

 エドはメルキオルの腕を掴み、ナイフの進行を止めた。

 先程まで対応できていなかった速度を突然、見切られたことにメルキオルは驚きを隠せずにいた。

 

「君……っ!」

 

 メルキオルはエドを見て、さらに目を開かせる。

 

 

 

 

 

 先程まで蒼く輝いていたエドの瞳が()()に変色していたのだ。

 

「うぉおおおおおおおお!!」

 

 エドは逃がさないとメルキオルの腕を強く掴み、反対の手に持っていた剣をメルキオル目掛けて振るう。

 

 ――斬!!――

 

 肉を切り裂く音を置き去りにエドとメルキオルの距離が離れていった。

 ドサッとメルキオルは強く砂浜に叩きつけられた。

 メルキオルは動くことなく、そのまま横たわっていた。

 オランピアはおそるおそる岩陰から覗き込み、その様子をうかがった。

 やったのか、と期待していていたが、

 

(つう)っ! いや~今のは危なかったなあ~」

 

 メルキオルが突如起き上がった。

 メルキオルの服は切り裂かれ、そこから血がにじみ出ていた。

 

「……あれも防いじゃうんだ」

 

 メルキオルは顔を上げて呆れた表情を浮かべた。

 メルキオルの視線の先には、エドが腕を上げながら立っていた。その腕にはメルキオルのナイフが深く刺さっていた。

 斬られる直前、メルキオルは掴まれた腕の手首のみを器用に動かして、持っていたナイフをそのままエドの顔面に投げつけたのだ。

 エドは咄嗟に掴んだ腕を離し、顔の前に腕を構えて盾にしたのだ。

 普通なら直撃してもおかしくない至近距離にもかかわらず、それを見事に防いだエドの反射神経と動体視力にメルキオルは驚きを通り越してしまい、その場で肩を落とす。

 

「エドさん!」

 

 ナイフが腕に刺されている様子にいても立ってもいられず、エドのもとへと駆けるオランピア。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 悲痛な顔で覗き込むオランピアに対し、エドは刺されたナイフを引き抜き、湖の方に投げ捨てた。

 

「大丈夫だ。問題ないから戻っていろ」

 

 抜かれたところから血が止まることなく流れ続けるその様は、とても大丈夫とはいえない状態だった。

 

「ダメです! すぐに治します! そのままじっとしていてください!」

 

 オランピアはエドの言葉を無視して、自身が持つ戦術オーブメントを起動し、アーツを解き放った。

 

「ティアラ!」

 

 エドの腕に一滴の雫がこぼれ落ち、傷が徐々にふさいでいった。

 

「エド……? それって……」

 

 オランピアがエドを治療している様子を見ていたメルキオルは、オランピアが発したエドの名前に反応していた。

 

「これで大丈夫です」

 

 治療が終わり、エドの腕にあった傷口はきれいにふさがった。

 

「助かったが、岩陰から出るなよ。お前も狙われているんだぞ」

 

 エドは治療してくれたことに感謝したが、同時に戻ろうとしなかったオランピアに軽く注意をした。すると――、

 

「アッハハハハハハハ!」

 

 先程まで黙り込んでいたメルキオルが急に大声で笑い出した。

 

「そうか、そうだったんだ。どっかで見たことあると思ってたけど、これも女神の巡り合わせってやつかな!」

 

 メルキオルはそのまま止まることなく笑い続ける。二人はその様子を見て呆然と立ち尽くした。

 やがて、笑いが収まっていき、腹を抑えたままメルキオルは立ち上がった。

 エドは即座にオランピアの前に立ち構えた。その様子を見たメルキオルはにっこりと笑い、抑えてない方の手を上げた。

 

「ああ、そう警戒しなくていいよ。今日のところはここまでにしておくよ」

 

 突如、戦いをやめると言い出したメルキオル。その様子にエドは怪訝な顔を浮かべる。

 

「……どういうつもりだ」

「気が変わったよ。オランピアのことはしばらく君に預けることにしたよ」

「何?」

 

 意味不明な発言をするメルキオルにエドは疑問を抱き、オランピアは戸惑いを隠せずにいた。

 

「メルキオル、あなたは……」

「まあ、まあ、そんな顔しないでよ、オランピア。今回のゲームは君達の勝ちということにしてあげるから」

「ゲームだと?」

 

 メルキオルの口から出た言葉に、エドは思わず聞き返した。

 

「そう♪ ルールは簡単。僕達がいくつか君たちに試練を与えるよ。その試練を全部クリアしたら、ゲームは君達の勝ち。僕達《庭園(ガーデン)》はオランピアから手を引くよ」

 

 手を引く。それはつまり、試練に打ち勝てば、オランピアはメルキオルたちに狙われることなく自由の身になるということだ。オランピアからすればあまりにも破格の条件といってもいい話だった。

 だが、組織の実態を知っているオランピアはそれが本当なのか確証を得られなかった。ましてや発言者はメルキオルだ。彼の性格のことを考えると信じることができなかった。

 

「それじゃあ、ここらで退散させてもらうよ」

 

 メルキオルは何かを念じるように目をつむると湖に捨てられたナイフがひとりでに戻ってきた。上げていた手に納まったナイフをしまい、そのまま後ろを振り向き帰っていく。

 追撃しようとエドは考えたが、これ以上は危険と判断したのか追うことはなかった。

 

「あっ、そうだ忘れてた」

 

 メルキオルは何かを思い出したのか、足を止めてもう一度、二人に振り向いた。

 

「そういえば、君にはちゃんとした自己紹介をしていなかったねえ」

 

 そう言いながら、紳士のように抑えていない手を胸に当てて名乗りだした。

 

「《庭園》の幹部が一人。《(ソーン)》の管理人をしている美青年、メルキオルだよ。よろしくね♥」

 

 そして、二人に背を向けて、メルキオルは帰っていく。

 

「それじゃあね、オランピア。そして、エドくん

 

 

 

 

 

 

 ……いや、《 ()()()()() 》君♪」

「っ! 待て!」

 

 エドは突如、顔色を変えてメルキオルの後を追う。

 しかし、それを予期していたのか、メルキオルは後ろを向いたまま、エドに何かを放り投げた。

 それは、砂浜に転がっていたのと同じ《古代遺物》の爆弾だった。

 

 パチンっ!

 

 メルキオルが指を鳴らした瞬間、爆弾は一気に爆発しエドの道をふさいだ。

 エドは腕を顔の前に出して、爆風と砂塵を防いだ。

 やがて、爆風が弱まり、視界が晴れていくと、その先にはメルキオルの姿はすでにいなかった。

 

「逃げられたか……」

 

 エドは悔しそうに言葉を吐き、メルキオルが立っていた場所を睨んでいた。

 辺りの音は急激に静まり、先程までの戦いが嘘であるかのように静寂が広がっていった。

 




 次回、第5話「《黒金(くろがね)》と《黄金》」
 次で序章ラストです。
 お楽しみください!
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