英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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 それでは、ご覧ください。


第四十話 通りすがりの旅人?

 レグラムの街は夏至祭の準備に明け暮れており、普段よりも活気が溢れ、多くの人達が外に出ていた。

 祭りを成功させようと老若男女問わずに協力するその姿は、リベールの学園祭前の学生達を連想させる。

 そんな笑顔が溢れている街の中で、メイド服を着た一人の少女が、顔を俯かせていた。

 前を見ないで、地面を見続けて歩く少女――オランピアは突然、歩みを止めて、その場でため息をつく。

 

「……何やってるんだろう、私」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、一人の青年。

 自分と一緒にアルゼイド邸で働いているエドのことだ。

 数時間前、エドに昼食を届けに行ったオランピアは、そこで彼とちょっとしたいざこざを起こし、最終的には彼を殴り倒すという暴挙に出てしまった。

 その後、練武場に行く前に侍女に頼まれた買い出しをするために、そのまま街の方へと赴いたのだった。

 街に入ってから時間がだいぶ経ち、気分が落ち着いたオランピアは練武場での事を思い出し、今は別の意味で頭を抱え込んでいた。

 

「私……、何であんなことを……」

 

『私のスカートの中より、あのシスターさんの方がいいんですか?』

 

 自分で言っておいてあれだか、とんでもないことを口にしてしまった。

 スカートの中に興味はないのかなんて、まるで彼に中を見せたがっているようじゃないか。

 自らの爆弾発言に顔を赤くしながらも、何でそんなことを言ってしまったのか、とオランピアは頭を悩ませる。

 いや、原因はわかっている。法国から来たシスターのセリスのことだ。

 エドの彼女に対する反応が面白くなく、ついカッとなってしまったのだ。

 しかし、同時に思う。

 どうして面白くないなんて思った。

 これまでエドと共に行動して、彼が女性と交流する所はよく見かけた。

 クロスベルでは、イリアにリンとエオリア。

 リベールでは、クローゼといった学園の人達やアネラスといった遊撃士達。

 その時には今のようなモヤモヤした感じは一切しなかった。

 なのにどうして、あのシスターに対してだけはこんなに違うのだろうか。

 あの人に盗られる。

 彼が彼女のことを気にするたびにそんな不安が襲いかかる。 

 

「……盗られる?」

 

 ふと、オランピアの思考が停止した。

 自分はなぜ盗られるなんて思った。

 知らない間に思った自分の心情に驚いてしまった。

 自分と彼の関係は《庭園》に狙われている被害者同士で共に戦う仲間。

 《庭園》がなくなり、彼の無実が証明されて、自分が自由を手に取った時、この関係は終わる。

 その時、彼は元の居場所に戻るだろうが、そこには自分が居座る場所はない。

 自分は彼の下を離れて、今のように宛てもない旅路をするのだろう。

 

「…………いや」

 

 無意識に呟くオランピア。

 彼と離れるのが、彼が自分のことを忘れてしまうのが、とても怖ろしいと感じてしまった。

 彼ともっと一緒にいたい。自由を手にした後も彼といろんなものを見ていきたい。

 だがその時には自分と彼は今までのとは違う関係になる。

 その時が来た時、自分は彼とどんな関係になっているのだろう。

 

 

 ――私は彼とどんな関係になりたいの。

 

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 気持ちの整理に没頭している中、前から聞こえてきた焦り声にオランピアは我に返る。

 武具や雑貨品が売られている《ワトー商店》のレジの前で服や鞄を漁っている少女が慌てふためいていたのだ。

 

「ありえませんわ。行く前にちゃんと確認したはずなのに。どこにあるんですの!」

「あの~、お客様?」

「す、少し待ちやがれですわ!」

 

 店員に怒鳴った少女はその後も服のポケットやスカートの中などを漁り、人目を気にせずに何かを必死に探していた。

 探し始めてから一分。

 探しものを見つけることができなかった少女は絶望に打ちひしがれて、その場で両手両膝をついてうずくまった。

 

「そ、そんな…………」

「お、お客様? 代金のほうは……」

「あぁ~、申し訳ございません、マスター。無銭飲食して、これから捕まる(わたくし)をどうかお許しください~」

 

 その場で両手を組んで、何かに祈って嘆く少女。

 店員もどう対応すればいいのかわからず、ただ戸惑うだけだった。

 その様子を見ていたオランピアは、うずくまる彼女の方へと足を前に出した。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 街が夕日に染まり、太陽が湖の水平線へと沈む中、

 

「先程は感謝いたしますわ。おかげで捕まらずにすみました」

「い、いえ……」

 

 街の湖岸にある港で夕日に照らされた《ローエングリン城》を眺めながら二人の少女がベンチに座っていた。

 

「私はデュバリィといいます。あなたは?」

「あ、オランピアといいます」

 

 商店で騒いでいた少女――デュバリィはオランピアに名前を聞き、深々と頭を下げた。

 

「改めて、本当に感謝いたしますわ。あの場で捕まれば、マスターの名に傷がつくことになってしまいましたわ」

「あ、あの! 頭を上げてください!」

 

 大したことはしていないと、慌てて手を前に振るオランピア。

 あの後、オランピアがデュバリィの代わりに代金を払ったことで、デュバリィは逮捕されずにすんだのだ。

 デュバリィは頭を上げて、オランピアを観察し始める。

 

「あなた、どこかの侍女ですの? まだ働けるような年ではなさそうですが……」

「は、はい。今はアルゼイド邸でお手伝いとして働かせてもらっています」

「ア、アルゼイドですって?!」

 

 アルゼイドの名に過剰に反応してベンチから跳び上がるデュバリィ。

 突然のことにオランピアは目を見開いた。

 

「ど、どうしたのですか?」

「あ……、い、いえ、何でもありませんわ!」

 

 自身の行動に気づいて、しまったと言わんばかりの顔を出す。おそるおそるベンチの席に戻って、デュバリィは無理矢理、話を戻す。

 

「コホン! それで? なぜ、アルゼイドの所で働いているのですの?」

「えっと……、それは……」

 

 オランピアはどう説明しようかと言いよどむ。

 説明するにはエドの事情を説明しなければならない。だが、エドは指名手配されているため、説明することができないのだ。

 

「……まぁ、いいですわ。あなたにも事情があるのでしょう。詮索はしませんわ」

 

 オランピアの様子に何かを察したのか、追及をやめるデュバリィ。そのことにオランピアはほっと胸をなでおろす。

 

「デュバリィさんはどうしてレグラムに来たんですか? 夏至祭はまだ一週間後のはずですが……」

「私達は帝国中を旅している者ですわ。レグラムには少し用があって立ち寄ったのですが……」

 

 デュバリィはそこで言葉を止める。頬を少し赤らめて、オランピアから目を逸らしていた。

 

「あ……すみません」

 

 商店での出来事を思い出してしまい、謝罪するオランピア。

 

「あ、謝らないでください! なんか私がとても惨めに見えてしまいますわ!」

 

 十分な醜態を街の人達にさらしていたが、本人はどうやら頑なにそれを認めたくないようだ。

 

「財布を落としたのは、私が至らない身。このような醜態、マスターに知られるようなことがあれば……」

 

 顔を青くして震え始めるデュバリィ。その姿をオランピアは心配そうに見つめていた。

 

「その"マスター"という人は、そんなに恐ろしい人なのですか?」

「とんでもありませんわ!」

「きゃっ!」

 

 先程の青ざめた顔とは打って変わって、顔を赤くしたデュバリィはオランピアに食って掛かる。いきなり怒鳴られたことにオランピアは、声を上げてしまう。

 

「あの方が恐ろしいなどと、絶っ対にありませんわ。あの方はとても、とても偉大なる御方ですわ!」

 

 特に何も聞いてもいないのに、デュバリィは勝手に"マスター"の事をどこか誇らしげに、堂々と語りだす。

 

「それは荒野に咲く一輪の花のように麗しく、極限にまで磨き上げられた剣のように凛々しい……」

 

 拳をギュッと握りしめながら、彼女は沈んでいく太陽を眺めながら話を続ける。

 

「古今東西のどの英雄よりも誇り高く、女神さえも跪くほどに慈悲深い……」

 

 その陶酔しきった顔は、とても人前には見せられないほど緩みきっていた。

 

「"武"の頂点を極めしその姿はまさしく、世界最強! それほどまでに超~絶、素晴らしい御方ですわっ!」

 

 振り向いて、目をこれでもかと見開いて語るその姿は、一種の狂信者そのものだった。

 

「そ、そうですか……」

 

 その顔に若干、恐怖を感じてしまい、オランピアは後ろに引いてしまう。

 

「マスターは行くべき道を見失った私に居場所をくださった御方です。あの方の為ならば、この命を差し出す覚悟があります」

「デュバリィさん……」

 

 揺るぎない忠誠心ともいうべき彼女の姿に胸を打たれるオランピア。

 彼女はそのマスターのことを本当に信頼しているのだ。

 自分を救ってくれた恩人に。自分に居場所をくれたその人に。

 それは自分が彼に抱いているものと同じだった。

 

「……もしも」

「? 何ですの?」

 

 彼女ならばわかるかもしれない。

 自分の中でうごめいている、この気持ちを……。

 

「もしも、その人が自分以外の人を見ていて、その人に興味を持ってしまったら? その結果、自分の下を離れてしまうのではないかって、あなたは怖くないのですか?」

 

 その問いに、デュバリィは、

 

「怖くありませんわ」

 

 迷いなく即答した。

 

「あの方が別の人に興味を持とうと、それはマスターの意思。そこに私の私情で異議を申し立てることなどあってはなりませんわ。……まぁ、多少は落ち込みますが、それでもマスターの交友にケチつけるなどできませんわ。それに……」

 

 デュバリィはオランピアの目を真剣な表情で見つめる。

 自分の答えを、自分の想いを正面から彼女にぶつける。

 

「たとえ、そうなったとしても、私のマスターに対する想いが消えることはありませんわ。マスターが私を助けてくれたこと、剣を教えてくれたこと、外の世界を教えてくれたこと、マスターと共に過ごした日々が私達の中にずっと残っています。その想いがある限り、私達はどんなに離れていようと繋がっていますわ。あなたはどうなのですか?」

「え?」

「見たところ、あなたにもいるのでしょう? そんな人が。その人が別の人に興味を持って、自分をないがしろにして、そのまま自分を捨てると本気で思っているのですの?」

「っ! そんなことありません!」

「ならば、もっと堂々としなさい! 自分の中にあるその人との想いを最後まで信じなさい。想いが消えてしまうことを恐れて、そこから一歩、前に踏み出さなければ何も変わりませんわ! 聞きたいことがあるのなら、伝えたいことがあるのなら、ちゃんと口に出してその人に言いなさい。その程度であなた達の絆が切れることはないのでしょう?」

「デュバリィさん……」

 

 デュバリィの言葉にオランピアは己を見つめ直す。

 クロスベルから始まった彼との縁。

 クロスベルの時も、リベールの時も、彼はいつも自分を助けてくれた。

 そんな彼が、今更自分を見捨てるなんてありえない。

 あのシスターがいようが、いまいが、それは変わらない。

 自分と彼の絆はそんなもので切れてしまうほど弱くはないのだ。

 

「……ありがとうございます、デュバリィさん」

 

 大切なことを気づかせてくれた彼女にオランピアは深々と頭を下げた。

 

「べ、別に気にする必要はありませんわ。商店での恩を返しただけです」

 

 デュバリィはそっぽ向いて、顔を逸らす。若干、耳が赤くなっているのは見間違いではないだろう。

 

「デュバリィ」

 

 すると、湖港入り口の階段の方から声が届いた。

 二人が振り向くと、そこには二人組の女性がこちらに近づいていた。

 

「ア、アイネス! エンネアも!」

「やっと見つけたわよ。デュバリィ」

「まったく、世話が焼ける」

 

 青髪のお淑やかの女性――エンネアはデュバリィの姿に微笑みかけ、赤髪のキリッとした目つきの女性――アイネスはため息を吐くのだった。

 

「な、なぜ、あなた達がここに?! 調査は私だけで十分と……」

「忘れ物だ」

 

 デュバリィが何かを言う前に、アイネスは彼女に何かを突き出した。

 

「これは……財布?」

「持っていくのを忘れていたぞ」

「アイネスが気づいてね。マスターに許可をもらって、届けに来たのよ」

 

 女性二人からの言葉にデュバリィは固まってしまう。どうやら、どこかに落としたのではなく、持って行くのを忘れていたようだ。

 

「まったく、マスターからの指示だから張り切るのはわかるが、少しは落ち着きを持て」

「無銭飲食なんかにあったら、大変なことよ。まぁ、その前に合流できてよかったわ」

「あぁ……、いえ……、その……」

 

 二人の言葉に冷や汗が止まらないデュバリィ。

 そして、その様子を二人は見過ごさなかった。

 

「まさか、貴様……」

「デュバリィ?」

「ち、ち、ち、違いますわよ! 盗み食いなんてしていませんわ! たまたま居合わせた彼女が奢ってくれたのですわ! 決して、人前で醜態をさらすようなことはしていませんわよ!」

 

 テンパって言い訳を続けるデュバリィに二人は一斉にため息をつく。そして、アイネス達は奢ってくれたオランピアに近づいて頭を下げる。

 

「うちの者が大変迷惑をかえた。申し訳ない」

「ごめんさいね。この子ったら、結構ドジることが多いから」

「ちょっと、お二人とも聞いていますの?!」

 

 外から何やら文句を言ってくるデュバリィを無視する二人に、オランピアは思わず苦笑いをする。

 

「いえ。こちらもありがとうございます。デュバリィさんのおかげで少し心に整理がつきましたから」

「……そうか」

「フフフ……、そういってもらえてうれしいわ」

「な、なんですの?! その生暖かい目は?!」

 

 二人から向けてくる視線にたじろぐデュバリィを見て、オランピアも口元を押さえて微笑む。

 

「オランピア!」

 

 すると、湖港の入り口から新たな声が届く。

 四人が振り向くと、そこにいたのは黒のコートを纏い、眼鏡をかけた青年。

 

「……エドさん」

 

 その姿に真っ先に反応したのはオランピアだった。 

 オランピアの姿を確認できたエドは、彼女の下へと駆け込んでいく。

 

「探したぞ、オランピア」

「エドさん、あの……」

 

 エドの登場に驚くオランピアだったが、彼の頬に貼ってある湿布を見て、気まずそうに俯く。

 その様子を見たエドは優しそうに微笑み、そっと彼女の頭に手を置く。

 

「あ……」

「心配すんな。怒ってないからよ」

 

 髪型が崩れないように優しく撫でるエド。頭からくる心地よさにオランピアは目を細めて、顔を緩ませる。

 

「彼女が世話になったようだな。ありがとう」

「いや、こちらこそ、うちの者が世話になった。感謝する」

 

 まるで子供を持った親の会話のようにエドとアイネスは互いに礼を言い合う。

 

「それでは我々はここで失礼する。行くぞ、二人とも」

「……えぇ」

「ちょっ! 待ってくださいまし!」

 

 アイネスを先頭にエンネアは二人をじっと観察した後、彼女の後ろについて行った。

 一方で、デュバリィは慌てて二人について行き、その場から立ち去るのであった。

 

「おもしろそうな連中だったな」

「……そうですね」

 

 年齢も性格もバラバラ。だが、お互いのことをよく知り、連帯感を感じさせる仲の良さ。長い間、いろんなことを共に経験していたのだろう。

 

「それじゃあ、こっちも帰るか」

 

 エドはオランピアにそう言って、先に湖港を出ようとする。

 すると、エドの手に何かが引っ掛かった。視線を手に移すと、そこには自分の手を握るオランピアがいた。

 

「オランピア?」

「あ……、いや、その……」

 

 無意識のうちに手をつないでしまい、戸惑ってしまうオランピア。その様子をじっと眺めていたエドは握られた手を強く握り返して、彼女を引っ張る。

 

「エ、エドさん!」

「このまま行くぞ。しっかり握っとけよ」

 

 突然、歩き出して体勢を崩すオランピアであったが、エドが彼女に合わせて動いたおかげで転ばずにすんだ。

 二人はそのまま手をつないでアルゼイド邸へと帰って行く。その間、二人の間にこれと言った会話はなく、静かな時間が二人を包んでいく。

 オランピアは手から伝わってくる彼の温もりを感じながらも、何かを必死に口に出そうとしていた。

 

「? どうした、オランピア」

 

 その様子に気づいたエドはオランピアの方に視線を向ける。話を急かされ押し黙ってしまうオランピアであったが、湖港でのデュバリィとの会話を思い出す。

 

『聞きたいことがあるのなら、伝えたいことがあるのなら、ちゃんと口に出してその人に言いなさい。その程度であなた達の絆が切れることはないのでしょう?』

 

「……エドさんはあのシスターさんとはどんな関係なのですか?」

「え?」

「あなたの態度を見ればわかります。ただの知り合いではないんですよね?」

 

 オランピアの問いに口をつぐんでしまうエドだったが、そのまま歩きながら、ゆっくりと口を開き話し出す。

 

「あいつとは孤児院時代からの付き合いだ。教団にいた俺は母親以外には誰も心を開かずにいたんだ。子供だろうが大人だろうが、誰も信じることができなかった」

 

 エドの独白にオランピアは黙って耳を傾ける。

 

「でも、あいつはそんな俺に何度も声をかけてくれた。最初の方はしつこいから仕方なくっていうのが強かったけど、知らないうちにあいつのことを信じるようになった」

 

 懐かしむように目を細めて、遠い日の思い出を浮かばせるエド。

 

「互いに成長して、俺は剣の道を、あいつは教会の騎士を目指すことになった。目標は違っていたけど、それでもお互いに支え合って進んでいった。そうして、俺達は惹かれ合って、ついには付き合うことになった」

「っ……」

 

 エドがリベールでいった元彼女、それがセリスのことであるのだとオランピアは気づく。

 

「だけど、俺が指名手配になったあの日、俺はあいつにひどいことをしちまった。あいつの思いを踏みにじって、あいつを傷つけた。……そのことがあってな、俺はあいつにあわせる顔がねぇんだ」

「そう、ですか……」

 

 エドの話を聞いて、オランピアはようやく彼の態度に腑に落ちる。だが、同時に胸からチクッと痛みが走ってくるのを感じる。

 

「オランピア」

 

 エドは立ち止まり、オランピアの前に膝をつく。

 

「セリスが突然、現れていろいろと俺の方も混乱していた。お前のことを少し蔑ろにしていたと思う。それに関してはすまない」

「い、いえ。エドさんが謝ることじゃ……」

「だけど、これだけは言っておく。セリスのことも大事だが、同時にお前のことも大切に思っている」

「っ!」

 

 正面から告げられた彼の言葉にオランピアは頬を真っ赤にする。

 だが、夕日のせいでエドにはその様子がわからなかった。

 

「《庭園》がまだ、お前を狙っている中でお前を放置することは絶対にしない。約束する。何があったとしても、お前のことは俺が絶対に守ってやる。……だから、安心しろ」

「は、はい……」

 

 先程までの胸の痛みはどこにいったか。その代わりに心臓の鼓動が激しく鳴り響き、身体全体が急激に熱くなっていく。

 

 この先、自分たちに何が待ち受けているのかはわからない。

 彼が全てに決着をつけた時、自分がどうなっているのかはわからない。

 彼が大切な人とどうなっていくのかもわからない。

 でも、そんな遠い未来のことを考えるのは、ひとまず置いておこう。

 今はただ、彼から伝わってくる温もりに少女は黙って、身を委ねたくなったのだ。




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