英雄伝説外伝 金の軌跡   作:魔ギア

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ゴールデンウイーク中に少し筆を進めた。

それではご覧ください。


第四十二話 夏至祭

 春。

 それは新たな門出を祝う季節であり、始まりを迎える季節でもある。

 色とりどりの花が満開に咲き誇り、街並みが鮮やかに染まっていた。

 そんな中、アルテリア法国のとある教会堂前。

 そこには十代前半くらいの黒髪の男性と赤髪の女性が並んで立っていた。

 男性の方は片手に大きな袋をしょい込んで、動きやすい旅服の格好をしていた。

 対して女性の方はこの国ではよく見られる、教会の修道服を身に纏ったシスターの姿をしていた。

 二人は目の前で堂々と建っている教会堂を一緒に見上げて、思いふけっていた。

 

「すっげ~。これが騎士団の本部か」

 

 清楚で物静かなシスターの格好とは裏腹に赤髪のシスター――セリス・オルテシアはこれから自分が勤める聖堂を見上げながら感銘の声を上げていた。

 一方で、隣にいる黒髪の男性――エドワード・スヴェルトは聖堂を見るなり、苦い顔を浮かべながら頭を抱える。

 

「どうした、エド? 急に頭なんか抱え込んで……」

「俺は何回も来たことがある」

「それが、なんでそんな顔になるんだよ」

「いい思い出がないからだよ」

 

 頭を抱えながらエドの脳裏によぎるのは、ここで働いている自分の師匠――アイン・セルナートのサディスティックな笑みだった。

 七歳の時から彼女の修行を始めて一年。長く厳しい修行をやり遂げたエドは体も心もたくましく成長していたが、そうなった元凶ともいうべき師匠に対して、かなり強い苦手意識を持ってしまったようだ。

 

「騎士団の総長だったか? かなりのスパルタみたいだったな」

「あれはスパルタじゃなくて、鬼畜の所業だ。あんな修行、もう二度と受けたくねぇ」

 

 相当のトラウマだったのか、最後の方を特に強く言い切るエド。

 疲れ切った表情で呟くエドの様子にセリスは首を傾げるが、再び教会堂を見上げる。

 その時の彼女はかなり真剣な表情をしており、その顔から強い決意のようなものをエドは肌で感じる。

 

「……エド、アタシの一歩はここから始まるんだ」

「セリス?」

「バルクホルン先生や、オーバさん、アルマさんに憧れて、あの人達みたいな強くて立派な騎士になる。そんでもって、あの人達みたいにたくさんの人を助けたい。それがアタシの初めて持った夢だ」

「…………」

「ここで見習いから始まって、いつかはあの人達みたいな一人前の騎士になってみせる」

 

 セリスは真剣な表情のままエドに顔を向ける。

 

「いいか、エド! 先生達のような立派な騎士になるために、困っている奴がいたらめんどくさがらずに絶対に助けるんだぞ!!」

 

 セリスがエドに振り向いて言い張る。拒否権なんて許さないと言外からそう言っている感じがした。胸を張って言ってきた彼女に対してエドは、

 

「セリス。騎士になるのは別にいいけどよ、まずはその口調を何とかしろよ。それじゃあ、逆に怖がらせて助けようにも助けられないぞ」

 

 第一、俺は騎士にならないしと心の中で呟きながら、呆れながらセリスに突っ込みを入れるエド。その台詞にセリスは顔を真っ赤にして反発する。

 

「う、うるせぇ! とにかく、絶対に助けるんだ! 約束だからな!!」

 

 どうやら、本人も自覚があったようだ。一方的に約束をさせようと必死になる彼女の様子にため息を吐いてしまったエドは教会堂をぼんやりと見上げる。

 

「……セリス。俺はしばらくの間、ユン老師と一緒に世界中を旅する」

「あぁ。聞いてるよ」

「ずっと、会えないわけじゃない。一、二週間おきにここに帰ってくる。その時には土産物を持ってきて、外の世界のことや、……俺がその間に助けた人達のこともたくさん話してやる」

「っ! エド……」

 

 エドはセリスに向かってゆっくりと首を縦に振る。それは彼女との約束を守るという彼なりのサインだった。

 それを理解したセリスは笑う。満足そうにニッと笑うその姿は教会堂の周りで咲き誇っている満開の花のように、見惚れてしまうほど綺麗な笑顔だった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 七耀暦1201年 エレボニア帝国 レグラム 6月18日

 

 夏至祭当日。

 祭りの準備を終え当日を迎えたレグラムは様々な装飾品に施されており、実に華やかだった。

 通りの途中には軽食屋台がちらほらと並んでおり、観光客が列を作っているところも見かける。

 警備の方は鉄道憲兵隊のみならず、アルゼイド流の門弟達も参加しており、警備は万全の体制で整えられていた。

 そして、アルゼイド邸で働いているエドとオランピアはというと、

 

「あれが《ローエングリン城》! きれい……」

「うむ。何度見ても、見事なものだ」

 

 領主ヴィクターの娘であるラウラ・S・アルゼイドを引き連れて、夏至祭に参加していた。

 天気は晴れ。年中、霧に包まれていたレグラムであったが、今は霧が晴れていた。

 湖の先で高々と立っている《ローエングリン城》を見物するために、多くの観光客が湖港に集まっていた。

 そんな人混みの中に紛れ込んでいるオランピアも初めて見る城の雰囲気と美しさに圧倒されていた。

 

「《獅子戦役》の際にドライケルス大帝と共に戦った《鉄騎隊》が拠点としていた場所。学院の教科書で何度も見ましたが、実物は段違いですね」

「あぁ。とても廃墟になっているとは思えないな」

 

 一方で、二人の後ろで様子を見守っているエドとクレアは城の存在を知識としては知っていたが、想像以上の存在感を放つ城を前にして上手く言葉で表現ができずにいた。

 

「ラウラさんはあの城に何度か行ったことがあるのですか?」

「うむ。あの城は我々、アルゼイド家が管理している。点検の際に父上に頼んで同席してもらっているのだ」

「頼み込んでまであの城に行きたかったのか?」

「えぇ。私の目標にして憧れ。《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットが居城にしていた場所。この目にしかと焼き付けたかったので」

「……なるほど」

 

 アルゼイド家の嫡女として生まれた彼女もまた、アルゼイド流を学んでおり、その実力はいまだ十五歳にして中伝間近。同じ女性で年齢も近いからか、時々、オランピアと手合わせをすることがあり、今のところ彼女の全戦全勝である。

 

「ラウラさんは本当に剣がお好きなのですね」

「母上が亡くなって、ずっと父上の背中を見て育ったのでな。今の私にとって、剣は私の人生そのものといってもいい」

「じゃあ、将来は士官学院に行くのか? 確か、帝都には貴族子女が通う女学院があるって聞いたことがあるが……」

「はい。《聖アストライア女学園》ですね。父上にもそこを薦められましたが、やはり、剣の道を進むと決めた身。《トールズ士官学院》に行けば、今よりも強くなれると思いますので」

 

 真剣に将来を語るラウラの姿にエドはわずかに親近感を抱く。彼女と同じ剣の道を進んでいるエドにとって、彼女の考えには少し共感するところがあったのだ。

 

「しかし、父上のおっしゃっていたとおりだった」

「? なにがだ?」

「父上が言っていたのだ。『そなたが剣の道を志すならば、いずれ八葉の者と出会うだろう』と。そして、今こうして、八葉の剣聖たるあなたに出会えた。八葉一刀流は剣の世界において、もっとも有名な剣術だと言えるものでしょう」

「まぁ、老師もそうだが、《剣聖》に至った人達もあれだからな」

 

 代表として上げられるのなら、《百日戦役》で勝利に導いたリベールの英雄、カシウス・ブライト。

 レミフェリア公国のテロを見事に阻止して、その後も遊撃士として多くの実績を作ったクロスベルの英雄、アリオス・マクレイン。

 《剣聖》に至った者は、いい意味でも悪い意味でも有名になっていた。八葉一刀流が武の世界で注目されるのもおかしくはない。

 

「父上との一戦。正直、感服いたしました。叶うのならエドワード殿と一度手合わせをしたいものです」

「いや、屋根の修理に忙しいから、それはまた今度な」

 

 下手に騒げば、セリスに自分の存在を知られることになる。

 だから、エドはヴィクターの一騎打ち以降、オランピアの稽古以外で剣を握ることはなかった。

 

「そうですか。それはとても残念です」

「わるいな。だが、その心配もないだろう」

「え?」

「老師が言っていたんだ。この帝国の地で最後の弟子を作ったってな」

 

 それはエドがユンから奥伝を授かり、《剣聖》の称号をもらった日に教えてもらった。

 自分やカシウス、アリオス以上の有望株で、八葉を真の意味で継承する最後の直弟子を作ったのだと。そして、その者がエレボニア帝国のとある地にいることを。

 

「たしか、年齢も君と同じくらいだから、もしかしたら、トールズで会えるかもしれないな」

「そ、それは真ですか!」

「あぁ。その弟弟子がトールズに通うならばの話だけどな」

 

 まだ見ぬ好敵手に出会えることに期待を膨らませて、目を輝かせるラウラにエドは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「皆さん、そろそろ別の所に移りましょう。観光客が賑わってきましたので」

「そうだな。今度は街並みを覗いていくか」

「はい!」

「それでは、私が案内しましょう」

 

 クレアの提案に三人は賛同し、湖港を出て街の方へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 一方、街道の森林内で、複数の人影がその場で立ち往生していた。

 ここ最近、レグラムで度々目撃される幽霊の正体を調べるために、法国から来たシスター――セリス・オルテシアと、レグラム支部の遊撃士――トヴァル・ランドナーがアルゼイド流の門弟達を引き連れて調査をしていた。

 

「よし、これで大丈夫だ」

 

 突然の魔獣の襲撃に負傷した一人の門弟を、セリスは木の陰に座らせて手当てをしていた。その動きには、無駄がなく、とても丁寧に包帯を巻いていた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 その手際の良さに驚きながら、門弟はセリスに感謝を述べていた。その様子を横で見ていたトヴァルもセリスに強く感心していた。

 

「随分、手際がいいな。こう言っちゃ何だが、こういったのは苦手な方だと思っていたんだが……」

「まぁ、最初の方はとんでもなく下手くそで、何回もやり直しを食らってたよ。……ただ、毎日のように怪我をして戻ってくるあいつに、アタシがずっと手当てをしていたからな。自然と上手くなったんだよ」

 

 どこか懐かしむように目を細めて語るセリスの姿に、近くで様子を見ていた門弟達は思わず息を飲んでしまう。

 幽霊調査に毎回同行していた彼らは、セリスの気性の荒さを何度も見ていたが、その時の様子とは真逆とも言うべき、儚げな姿に見とれてしまっていたのだ。

 

「それよりも全然、姿が見えねぇな。件の幽霊さんはよ……」

 

 調査をして今日に至るまで、対象となる幽霊に一度も接触出来ていないことに苛立ちを隠せないセリス。その姿にトヴァルも頭を悩ませていた。

 

「あぁ。目撃した時間以外に、朝、昼、晩と探してみたけど、一向に見つからねぇ。どうなってやがるんだ」

 

 念のために目撃者に再度、事情聴取をして真偽の確認もしたが、嘘を言っているような様子は見当たらなかった。

 つまり、セリスが到着したその日に幽霊達が、一斉に行方を眩ませたということになる。

 だが、それではなぜ、セリスが来たその日をタイミングに消えたのか。

 その理由がまったくわからない。

「なぁ、あんたは今回の件以外にも幽霊調査に参加したことがあるのか?」

 

 消えた原因にセリスが絡んでいるのではないかと推測するトヴァルは、少しでも情報を手に入れようとセリスに質問する。

 

「単独で行うのは今回が初めてだ。アタシはそもそも霊視といったもんが苦手でな。こういったものはいつも相方の方に任せていたんだ」

「その相方は?」

「今は共和国の方で、別の仕事を受け持ってる。その前にはあいつがやってくれてたけど、今は行方不明でどこにいるかわかんねぇ」

(エドのことだな……)

 

 セリスがエドの元恋人であることをエド本人から聞いたトヴァルはセリスの様子からそう察する。

 彼が持っている《魔眼》の力ならば、確かに幽霊の正体など一発で看破することができるだろう。

 だが、彼はセリスとの接触を避けており、幽霊調査には参加していない。

 

(……そういえば、あいつらが来たのも、同じ日だったな)

 

 その時、トヴァルはふとそんなことを思い出す。

 幽霊といった霊的な存在のことから教会所属のセリスとの関連に集中していたトヴァルは一つの見落としていた点に気づいた。

 

 今回の幽霊騒動はセリスではなくエドが原因でなくなっていたら?

 なぜ、エドが来たタイミングで幽霊は姿を消した?

 そして、エドの関係者で今回のような摩訶不思議な現象を人為的に引き起こせる者がいるとしたら?

 

(……まさか)

 

 遊撃士協会の情報網でエドの周辺で起きた不可思議な事件については把握していた。

 そして、それを引き起こしていた存在についても。

 聞いた話ではリベールでの事件前日に、ちょっとした魔獣騒動が起きたという報告があった。

 もしも、今回の幽霊騒動がその時みたいに何か騒動を起こすための下準備だとしたら?

 

「まさか、来ているのか?! このレグラムに!」

 

 もしもそうならば事は一刻を争う。もしも騒動を起こすのなら外からの客が押し寄せて普段よりも人混みが多い、夏至祭当日が最適だ。すぐに、ヴィクターやミハイルに報告する必要がある。

 

「お前ら、調査は中止だ! 一旦、街の方に……」

「な、何だあれは?!」

 

 トヴァルが全員に声をかけようとしたその時、一人の門弟が森の奥へと指を指す。

 全員が指した方に視線を向けると、そこには一人の金髪の女性がこちらを見つめていた。

 

「誰だ? あの人」

「まさか、あれが噂の幽霊か?」

 

 誰もが突如、現れた女性に混乱する中、一人だけ動揺を隠せない者がいた。

 

「うっそだろ! なんであんたが?!」

「トヴァル殿?」

 

 トヴァルは金髪の女性の姿に目を見開く。その様子を心配そうに見ていた門弟達は金髪の女性とトヴァルを交互に見つめて、あることに気づき始める。

 女性の金髪の髪はトヴァルの髪と同じ色をしており、目元も彼のものと非常に酷似していた。

 門弟達は今回の幽霊騒動の特徴を思い出し、ある一つの結論へと至る。

 そして、その結論の成否を確認するかのように、トヴァルはゆっくりと口を開く。

 

「お袋……」

 

 トヴァルの発言に誰もが目を見開いて息を飲んだ。

 お袋。つまり、目の前に現れた金髪の女性は、トヴァルの母親だということだ。

 

「とうとう出やがったか。そんじゃあ、いっちょ押っ始めるか!」

 

 セリスは前に出て、自身の武器を構える。

 彼女の髪と同じく真紅の刀身が光る身の丈程の大剣だった。

 

「シャキッとしろランドナー! あれが噂の幽霊なんだろう!」

「っ! あぁ、そうだな!」

 

 トヴァルは我に返って、愛用のスタンロッドを持つ。その目にはわずかに怒りがにじみ出ていた。

 

「《庭園》の奴ら、今度はここで騒動を起こすってのか?! お前ら! とっとと片付けて街に戻るぞ!」

 

 トヴァルのかけ声に門弟達もそれぞれの武器を構えて、幽霊に向き合う。

 トヴァルの母親と思わしき幽霊の後ろから、ゆっくりと新たな人影が現れる。

 十歳未満の少女。細身の中年の男性。腰を曲げた老婆。

 その姿は多種多様だったが、門弟達はその姿にひどく動揺していた。

 

「幽霊は目撃者の死んだ身内って話だったが、どうやら本当みてぇだな」

 

 セリスは門弟達の様子と目の前の幽霊達を睨みつけて、確信を得る。

 なぜなら、今、彼女の目の前には、彼女と同じ真紅の髪をした男性が立っていたのだ。

 その姿を見たセリスは顔をしかめて、睨みつける。

 

「上等だ。全員、まとめてここで成仏させてやる!」

 

 怒りの籠もった目を幽霊達に向けたセリスは果敢に前へと踏み出し、大剣を放つのだった。




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