辺りの景色が暗く沈んでいく中、湖畔の街レグラムは多くの明かりに照らされていた。
祭りは夜まで続いており、その活気は今も続いていた。
そんな街中では、湖港周辺に観光客が集まっており、そのあまりの人数の多さに入り口方面まで列が続いていた。
そこに集まっている人達は昼時のような団欒とした雰囲気はなく、物静かに全員がその時を待っていた。
これから行われるイベントはレグラム恒例のものであると同時に、とても重要な行事であった。
「慰霊祭……ですか?」
「左様。《獅子戦役》で勇敢に戦い、死んでいった《鉄騎隊》達の魂を鎮め、清めるための行事だ。《鉄騎隊》の隊員達の数は多く、二百五十年経った今でも、現世でさまよっている魂がいると言われている。この行事は我らが作った灯火を乗せた舟を湖に流して、流した灯火の光で道を作るのだ。さまよっている魂はその道に導かれ、水平線の向こうにいる女神の下へと向かわれる。そういった意味が込められたレグラムならではの大切な行事なのだ」
「そうなのですか……」
「そして、この舟にはもう一つ、大切な役目があるのだ」
ラウラの手には蝋燭がついた小さな木舟が置かれており、ラウラはそれを大事そうに優しく抱えていた。
「渡されたこの小さな舟には、亡くなった自分の最愛な人の魂を乗せて女神の下へと送る意味も込められているのだ。その魂は共に行く《鉄騎隊》の魂達に守られており、安心して女神の下へと向かわれると言われている」
最前列に立っているオランピアはラウラにこれからやる行事についての詳細を聞いていた。
周りを見ると、最前列にいる観光客に門弟の人達が一人一人に丁寧にラウラが持っている、同じ木舟が手渡されていた。
オランピアの手にも木舟が置かれており、彼女もこのイベントに参加していた。
「ラウラさんも参加するのですか?」
「うむ。恥ずかしい話、剣の道を進んでから、こういった行事にはあまり参加してこなかったのだ。最後に参加したのは、母上が存命の時でな。今回は母上の魂をこの舟に乗せて、女神の下へと送って上げたいのだ。オランピアはどうなのだ?」
「私は……」
オランピアの頭に思い浮かんだのは、今は亡き最愛の両親。
イシュタンティの担い手となり、感情を奪われた当時の彼女は両親を弔うことをしていなかったのだ。
「私はお父さんとお母さんを乗せます。私もある事情で二人を弔うことができませんでした。だから、これを機に二人を女神様の下へ送りたいと思います」
オランピア達が静かに自分達の親についての話をしている中、後ろでその様子を見守っていたエドとクレアは二人の話に黙って耳を傾けていた。
「死者を送るための祭事、ですか……」
「教会でも死者を送るためのミサはするようだけど、ここまで大々的な行事は珍しいな」
クレアは悲しげな様子でオランピア達を見守っていた。その瞳の奥には、自分と同じ髪の色を持った小さな少年が映っていた。エドは特に何も言わずに彼女と共にオランピア達を静かに見守っていた。
「それでは皆さま、舟を湖へと流してください。愛する人達の魂を女神の下へと送って上げてください」
司会者の合図で、参加者の人達は湖に小舟をそっと流し始める。参加者の中には涙を流す人や、バイバイと腕を大きく振って舟を送る人が何人か見られた。
オランピアは舟を送った後、その場で両手を組んで目を瞑っていた。両親の魂が女神の下へ無事に行くことを祈っているのだろう。
隣にいるラウラも同様に目を瞑り、手を胸に置いて祈っていた。
「それでは次の方、どうぞ」
司会者の呼び声に最前列にいた人達は後ろに下がり、後ろで並んでいた人達にその場所を譲る。
オランピアとラウラもまた、後ろにいる人達に場所を譲り、エド達と共に湖港を離れていった。
「案外、あっさりしたものだな」
「えぇ。あまりに長すぎると、折角のお祭りが悲しみに落ちてしまうので。なによりもこういった行事は一瞬の時だからこそ大事なのだと思います」
「そうですね……」
辺りはすっかり暗くなり、夜空には満天の星空が浮かんでいた。
観光客の人達は今日一日を楽しみ、夜更かししようと宿屋に戻っていく人や満足した表情でレグラムを立ち去ろうとする人達がちらほら見られる。
このまま何事もなく一日が終わり、いつもと変わらない平穏な明日を迎えようとしていた。
だが――、
「? 何だ?」
エドは突然の変化に気づき、眉を顰める。
さっきまで影も形も見当たらなかった、うっすらと浮かび上がる"霧"。
霧は徐々にその存在感を露わにしていき、辺りの景色を深く包み込んでいく。
「何なのだ?! この霧は!」
「皆さん! 離れないように近くの人に掴んでください!」
霧が深くなっていき、お互いの顔が視認しづらくなっていく。
クレアの指示でエド達は咄嗟に近くの人を掴んではぐれないようにする。
エドはオランピアと、クレアはラウラと手をつなぎ、お互いに背中を預けて周辺を警戒していた。
「この霧はいったい……」
「ラウラ嬢。これまでにこういった突然の霧の発生はレグラムにあったか?」
「い、いいえ。少なくとも、私が知る限り、そのようなことは一度もありません」
深くなった霧ですでに姿が見えないが、ラウラの混乱している声から彼女が嘘を言っている様子は見られない。
つまり、今レグラムを覆っている霧は自然に出てきたものではない。
何者かが人為的に引き起こした可能性が出てきた。
「オランピア。いつでも、イシュタンティを呼べるように用意しとけ」
「エドさん?」
「この騒動……、おそらく"奴ら"だ」
「っ! はい」
エドの発言に驚くも納得するオランピアは空いた手を服の中に入れ、イシュタンティ専用のオーブメントを手に触れる。
一方でエドも空いた手で剣を握り、いつでも抜けるように体勢を構える。
「っ! 誰か来ます!」
クレアがある方向に視線を向けると、一つの人影がゆっくりとエド達に近づいてきた。
全員がその場で身を構えて、迫ってくる影に警戒する。
「止まってください! その場を動かずに、まずは名前を言ってください」
この深い霧の中で敵味方が判別するのは非常に困難な状況だ。そんな中で無闇に人に近づくのはあまりに危険な行為だ。
クレアは銃を構えて、迫ってくる影に向かって警告する。
しかし、影は止まる様子を見せずにそのままエド達に近づいてくる。
「っ! 止まりなさい! でなければ、発砲します!」
最終警告と言わんばかりに、口調を強くして張り上げるクレア。
だが、影の進行は止まらず、近づいてくる影はエド達にその姿をさらしだす。
霧の中から現れたのは青い髪を腰まで伸ばした妙齢の麗人だった。
物腰が柔らかそうな雰囲気を持っており、その佇まいも優雅。
服装は市民が着ているものよりも上品なもので身を包んでいた。
突然の貴族婦人の登場に誰もがその女性に警戒する。
「そ、そんな……」
ただ一人、ラウラを除いて。
「ラウラさん?」
「どうした?」
「そんな、そんな、はずが……」
よろよろとラウラは女性に近づきながら、クレアとつないでいない空いた手を女性に向かって伸ばす。
「は、母上……」
「え?!」
「なに?!」
ラウラの発言に誰もが驚愕する。特にオランピアはついさっきまで湖港で話していた内容を覚えていたので、他の二人よりも驚きを隠せないでいた。
「ラウラさんのお母さん! でも、ラウラさんのお母さんは……」
先程の慰霊祭でラウラは母の魂を舟に乗せたと言っていた。つまり、ラウラの母親はすでに亡くなっていることを意味している。
「まさか、最近、噂になっている幽霊か?」
ここ最近、レグラムで発生している幽霊騒動。その時の目撃証言の内容と一致していることから、エドはそう推測する。
……ラウラ。……私の愛しい娘。
ラウラの母と思われる幽霊はエド達に、正確にはラウラに向かって、手をこちらへと招き寄せる。
すると、霧が徐々に濃くなり、ラウラの母を飲み込もうとする。
「あ……、待ってください! 母上!」
「はっ! ダメです! ラウラさん!」
母を追おうとクレアの手を振り切るラウラだったが、咄嗟にオランピアが彼女の腕を掴んで、追わないよう彼女を止めた。
「オランピア! 離してくれ! 母上が!」
「ダメです! あれはお母さんじゃありません! あなたのお母さんは死んでいるのでしょう!」
「だが、あれは間違いなく母上だ! 娘の私が見間違えるわけがなかろう!」
掴んだ手を必死に振り解こうと暴れるラウラに対して、オランピアもまた必死になって彼女を抑える。
だが、取り乱す彼女の心情を理解できないわけではない。
もう二度と会えなくなった人にもう一度、出会えた。
それが身内といった大切な人ならば、彼女のように必死になるのもわかる。
もう離れたくない。ずっと一緒にいたい。
自分だって、もしも両親に会えるのなら……
……オランピア
「……え?」
その"もしも"が現実になってしまった。
オランピアの視線の先。そこにはラウラの母の姿はどこにもなく、代わりにいたのは二人の若い男女。
オランピアと同じ赤い目をした男性と、オランピアと同じ白い髪をした女性。
ラウラの言うとおりだ。見間違えるはずがない。
目の前に立つ、あの二人は……
「……お父さん、……お母さん」
あの日、自分の為に命をかけて守ってくれた大きな背中。
もう二度と会うことがかなわない最愛の存在を前にオランピアの頭の中は真っ白になってしまった。
……オランピア。さぁ……こっちへ。
今度こそ、一緒にいよう。家族三人で……。
娘に向かって手を広げて、こちらへと招き寄せる両親。
最愛の家族からの誘惑に敵うことができず、オランピアはゆったりとした足取りで両親の下へと向かう。
彼女はもはや最愛の両親のことで頭がいっぱいになっていた。
自分が今まで何をやっていたのか。誰と一緒にいたのか。
そんなことは何もかも忘れて、もう一度、両親とこれからもずっと一緒にいたい。
今の彼女はそれだけしか考えていなかった。
だが、その時、彼女の肩に大きな手が乗っかった。
手は後ろへと思いっきり引っ張り、彼女を後ろへと引き寄せる。
後ろに引き寄せられたオランピアは、自分の代わりに前に出る男を見つめる。
コートを着た黒髪の青年――エドは腰についた剣に手をかけて、自分の両親に向かって……
「――斬っ!」
刃を振るった。
周りの時間が遅くなる感覚がした。
斬られた両親は後ろへとゆっくりと倒れる。倒れて二度と動かない両親を前にオランピアは声を上げてしまいそうになったが、彼女は倒れている両親の姿に違和感を持つ。
倒れた両親はエドに斬られたにもかかわらず、その身体には血が飛び散っていなかったのだ。
代わりに二人の身体には、まるでノイズのようなものが走っており、その身体が大きくブレる。
ノイズは徐々に大きくなっていき、やがて両親だったものは異形の魔物へと変貌していった。
「やっぱりか……」
エドは黄金の眼で魔物を睨みつけたまま、そう呟く。斬られて身体が保てなくなったのか、両親だった魔物は霧のように霧散していき消滅していった。
「エド……さん……?」
突然のことにオランピアの頭はついていけなくなっていた。
死んだはずの両親が現れ、その両親を彼が斬り、斬られた両親は異形の魔物に変わって消えた。
その場で固まるオランピアとラウラを引き連れて、クレアはエドに近づく。
「エドさん、今のは?」
「悪魔の眷属。夢魔の一種だ」
敵の正体についてエドは周囲を警戒しながら、話を続ける。
「相手の心や魂に刻まれた思いや記憶を読み取って、その者の最愛の人に化ける夢魔だ。その能力を使って、引き寄せられた人達を食らって自身の力へと変える。厄介かつ最悪の魔物だ」
聞き終えた後、ラウラとオランピアは身震いしてしまった。
あのままいけば、自分達は食われていたのだと知り、恐怖してしまったのだ。
「とにかく、まずは市民を一カ所に集めて避難させる。クレア少尉、あなたはラウラ嬢をつれて……」
「ラウラ!」
エドがクレアにラウラを避難させるよう頼もうとしたその時、霧の中からラウラを呼ぶ声が反響する。
声がした方にエド達は身を構えるが、そこから現れたのは手に大剣を持った中年の男性。
「父上!」
「ラウラ! 無事だったか!」
涙ぐんで父に抱きつく娘の無事にヴィクターは安堵する。
すると、今度は反対方向から別の男が現れた。
「スヴェルト! リーヴェルト少尉!」
「! アーヴィング中尉!」
導力銃を構えて、警戒を緩めずにこちらへと近づいてくるミハイルはすぐに状況の説明を要求する。
「これはどういう状況だ! この霧はいったい何なんだ!」
「敵の攻撃だ! おそらく奴ら、《庭園》の仕業だ」
「《庭園》。エド達を狙っている暗殺組織か」
敵の正体にヴィクターは眼を鋭くし、ミハイルは目を大きく見開いた。
エドは幽霊の正体、夢魔の特性などを説明した後、ある一つの結論を述べる。
「たぶんだが、この街で発生している幽霊騒動は、今回の襲撃のために奴らが《古代遺物》を上手く使いこなせるためにやっていた下準備だったんだろう」
「えぇい! 面倒なものを!」
「ここで話しても埒があかない。ひとまず、安全な場所に避難しよう。すでに市民と観光客達は門下生の者が我が屋敷へと避難誘導をしている。そなた達も……」
「いや、俺達は元凶を叩きに行く」
ヴィクターが全員を避難させようと呼びかけるが、エドは口を挟む。
「このまま屋敷にうずくまっても意味がない。元凶を叩いて、こんな事すぐに終わらせてやる!」
「だが、敵がどこにいるのかわからないのだぞ!」
「心配ない。奴らの居場所は掴んでいる」
エドの《魔眼》は視界を遮る霧を超え、その先にある敵の住処を捉える。
「《ローエングリン城》。奴らはそこを居城にしている」
「そうか……。湖港の方にボートが用意されている。それに乗って向かうがいい。我々も避難が完了したら、すぐにそなた達と合流する。アーヴィング殿もそれでよろしいかな?」
「いざ、仕方ないか……。我々、鉄道憲兵隊も避難誘導に協力する。避難完了次第、我々も現地に向かう。スヴェルト。先行は任せるが、決して無茶はするな。我々が来るまで時間を稼いでくれるだけでいい」
「了解。行くぞ! オランピア!」
「! はい!」
エドはオランピアをつれて、霧の中へと飛び込んで行った。
その様子を確認したヴィクターとミハイルは次の行動に移そうと指示を出す。
「リーヴェルト少尉。君はアルゼイド嬢をつれて屋敷に避難。その後、憲兵隊員の指揮の下、避難誘導に協力するんだ」
「イエス・サー!」
「ラウラ。リーヴェルト殿と共に屋敷に避難するんだ。後のことは我々に任せるがよい」
「ち、父上!」
ラウラは霧の方に指を指して、ヴィクターに強くしがみつく。
視線の先には、二つの影がこちらへと向かってくる。
「スヴェルトの報告にあった夢魔という奴か」
「いや、まだ避難していない民間人の可能性もある。この霧ではどちらか判断できぬ」
正体が夢魔ならば、化ける前に倒せば問題ないのだが、まだ避難誘導が終わっていない、今、民間人である可能性もある。
ヴィクターとミハイルは化けられることを覚悟して、武器を向けながら、こちらに来る影の正体を確かめる。
そこから出てきたのは――、
「なっ!」
「は、母上……」
一人は先程、現れたラウラの母親。
そして、もう一人は、
「なにっ!」
「そ、そんな!」
その姿にミハイルとクレアは動揺を隠せないでいた。
見た目は十歳にもいっていない幼い少年。
短い水色の髪をした、優しそうな笑みをこぼす少年だった。
「エ、エミル……」
クレアはその少年の名を呼ぶ。
エミル・リーヴェルト。
今は亡きクレアの弟だった。
……クレア姉さん、……ミハイル義兄さん。
「ぐっ!」
「エミルっ!」
(義)弟の呼び声に二人の心は激しく揺れる。
銃を構えていたミハイルの銃口もまた、激しく揺れており狙いが定まらない。
……あなた。……ラウラ。
「母上!」
「っ……」
ヴィクターは顔を俯かせて、その場から一歩も動かない。
ラウラも偽物だと理解できても、母親を求める本能に抗えずにいる。
完全に夢魔のペースに飲み込まれていた。
……姉さん、義兄さん、一緒にいこう。みんなが待ってるよ……
「エミル!」
……大丈夫だよ。イサラ義姉さんも一緒に、女神の下で、昔のように一緒にいよう。
「あ、あぁああ……」
弟の誘惑に引っ張られるクレア。二度と会えないと思っていた、最愛の家族。
そんな人とこれからずっと一緒にいられるなど、これほど素晴らしいことはない。
クレアは抗うことをやめて、そのまま弟の手に向かって、自身の手を差し伸べる。
バンッ!!
――――
しかし、姉の手は弟の手を握ることはなかった。
手が触れる直前に後ろから響いた銃声。
その銃声と共に、目の前の弟は後ろへと倒れた。
「エ、エミル……?」
物言わぬ弟の身体は形を崩して、夢魔に変わり消滅していった。
クレアはおそるおそる後ろに振り向くと、そこには銃をこちらに向けるミハイルの姿があった。
「ミハイル……義兄さん?」
呆然とするクレアを無視するミハイル。
いや、今のミハイルには彼女の声が届いていなかった。
「ふざけるなっ!」
今まで聞いたことのない義兄の怒りが積もった声にクレアは口を閉じてしまう。
どんなことにも怯まない。後に「不撓」と呼ばれる男は、激しい怒りに心を燃やしていたのだ。
「エミルは、姉や俺達に甘えることが多くて、兄離れ、姉離れができなさそうな子だったが、同時に、誰よりも俺達の幸せを願っていた」
ミハイルが思い浮かべるのは、幼い頃のかつての日々。
自身の父によって壊されてしまい、もう二度と取り戻すことが出来なくなった暖かな日常。
あの暖かで幸せな日常は、自分にとっては決して色褪せることのない大切な宝物だ。
「だから、エミルが俺達の死を求めるようなことなど、絶対に口にはしない!」
ミハイルはクレアの前に立ち、銃口を前に向ける。
ミハイルの視線の先には、霧の中からエミルの姿をした夢魔が一人、また一人と数を増やしてこちらに近づいてきた。
「これ以上、エミルを…………、
俺達の弟を侮辱するなぁああああああ!!」
次々と弟に化ける夢魔に向かって撃ち続けるミハイル。
だが、その目には一切の迷いはなく、後ろにいる義妹を必死に守ろうとしている。
そして――、
「……ふんっ!」
顔を俯かせてその場を動かなかったヴィクターは、一瞬にしてラウラの母に近づき、彼女を一刀両断する。
断末魔を上げることなく、母に化けた夢魔は消え去った。
「……許さんっ!」
ヴィクターもまた、激しい怒りに燃えていた。
自分がこの世で最も愛した女性。
生まれてきた娘を宝物のように抱え微笑む彼女の顔。
そんな彼女の姿を利用する、目の前の存在に怒りをぶつけずにはいられなかった。
普段、怒っているところなど一切見せない父の姿にラウラは息を呑んでしまう。
「死者を弔うこの日に死者を利用し、それを想う我々の気持ちを弄ぶその冒涜! 断じて、許さぬっ!!」
溢れ出る黄金の剣気は大気を震わせ、頭上へと昇る。
相対する光の柱を前に夢魔達は萎縮する。
義憤に燃えた《光の剣匠》の刃は怯む夢魔達に向かって、容赦なく襲いかかるのであった。
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